鉄華団本部の団長室、そこへと繋げられた専用回線。誰かと思いながら繋げた結果相手はモンタークことマクギリスであった。そんな彼からは改めて夜明けの地平線団討伐の礼やアリアンロッドのイオクの恥をかかせたくれた事に関する事であった。酷く愉快そうにしながらも艦隊の一部の艦艇にダメージが入っているとマクギリスからしたら喜ばしい事が続いている。そんな声を聞きながらオルガは何処か興味がなさそうに耳を傾けている。だがオルガのさっさと本題に入れという言葉にマクギリスは言葉を切った。
『例の採掘場からの情報だが……これは、事実なのか?』
「ああ事実だが……一応周辺はアンタの言う通りに立ち入り禁止にしてる」
『兎も角私も火星に向かっている最中だ、警戒は厳にしてくれ』
フラウロスと共に発見されたMSよりも巨大な何か、それを詳しく調べる事も余り出来ずにテイワズのデータベースにも何もなく結局地球で最も情報があるギャラルホルンのマクギリスに問い合わせてみた所その正体が明らかになった。地球で行われた忌まわしき記憶、厄祭戦の発端となった「人間を殺すこと」を基本プロトコルとして開発された大型機動兵器でありた対人殺戮兵器、モビルアーマー。人類の総人口の4分の1を殺し尽くし、地球の衛星である月を無残な姿にした戦の原因たる存在。
「俺もアンタから送った本を読んでみたがあれマジなのか……?」
『事実だよ。それが地球と火星間で行われたのもね』
「ぞっとしねぇぜ……」
機械の自動化が人類にとって豊かさの象徴となっていた、だが機械技術の発達の結果、やがて各勢力は戦争の自動化すら積極的に推進していった過程で効率化を突き進めていく中で開発されたMAは過剰な殺戮兵器として進化を遂げ人類の手には余る存在として人類を脅かす存在となった。その対抗策として開発されたのがMSと阿頼耶識システムだと。
『それもいいがオルガ・イツカ、私と手を組むという話は考えてくれたかな?』
「その話か」
突然切り替わった話に良いのかと思いながらも話を合わせる。夜明けの地平線団討伐では一時的とはいえギャラルホルンと手を組んだ事となった、そして2年前クーデリアを送り届けるという仕事の際には協力を仰いだ相手がマクギリス。彼はその後もギャラルホルンの改革の為にと鉄華団への接触と勧誘じみた事を続けていた。オルガの性格上組んだならば通す筋、それを利用しようとするかのように。そして今回マクギリスが撒こうとした餌は、ギャラルホルン火星支部の権限を鉄華団へと委譲するという物だった。実質それによってえられるのは火星の支配権、火星の王の椅子であった。
「火星の王、響きは悪くねえ。鉄華団の目指す場所、ある意味そこかもしれないな」
『ならば―――』
「だが断る」
『っ!』
キッパリと強く言葉を口にしたオルガにマクギリスは一瞬声を吐息を震わせた。
「確かに最短で駆け上がって成り上がる道だ、昔の俺ならそれを飲んだ。だが今の俺は違う」
『………』
「今の俺は多くの家族を背負ってる、その家族を守る為に養う為に鉄華団をやってる。その為に火星の王になる必要なんてねえし最短だとしてもその先が崖だったら如何する、意味がないんだよ」
『そうか……分かった、だが気が変わったら何時でも言ってくれ。では』
そう言いつつ何処か落胆したような雰囲気のマクギリスの回線は切れた。通信を終えるとジャケットを脱ぎ捨てるとベットに横たわった、最近如何にも忙しかったからかまともに眠れていない。今日ぐらいは確りと眠ろうと思いながら火星の王という事に考える。僅かに惜しかったかもと思ったが直ぐに振り払う、自分が大好きな鉄華団をそんな物の為に危険に晒すなんて有り得ない。そう思うと心が決まった、これでいいのだと。そう思うと睡魔が襲いオルガは久方ぶりの睡眠を楽しむのであった。
「やれやれ漸く帰って来れた~!!」
歳星から帰還したエクセレンは本部へと脚を踏み入れると同時に身体を伸ばした、採掘場で発見したガンダム・フラウロスの改修とそのテスラ・ドライブの調整の為に赴いたが満足出来る仕事が出来た。しかも『TD』のお陰でもあって実質上オミットされていたフラウロスの機能の修復まで出来たので万々歳なのである。
「おうエクセ姉さん!俺のガンダム戻ってきたって本当か!?」
「ええ本当よ。早速テストでもする?」
「おう勿論だぜ!!」
「了解」
早速トレーラーを使って搬入したコンテナを開けて見る、そこには雄雄しくも眩しい姿をした新たな悪魔の姿があった。両肩から伸びている砲身が特徴的なガンダム・フラウロス、シノ流に言えば新たな流星号となるのだろうか。発見された時は銀に近い白でカラーリングされていたらしいがゲシュペンストと同じく目立つピンク色にリペイントされている、しかもシノの自腹で。
『うおおおおおっっ!!こいつがガンダム・フレームかぁぁぁっ!!!!!』
「うわぁ~すっごいはしゃいでる……」
一旦パイロットスーツへと着替えてヴァイスに搭乗し地上へと出てみるとそこには模擬戦場という名目の荒野で縦横無尽に駆け回っているフラウロスの姿があった。ハイキックに裏拳、挙句の果てには背中に砲撃戦を行う為の砲身があるのにも拘らずバク転まで決めている。凄いというべきか余りにも無邪気すぎるというのか。
「あ~シノ君、乗り心地は如何?」
『おう最高だぜ!!』
「そりゃ良かったわね、それじゃあ特殊機能の確認と行こうかしら」
『特殊機能?』
そう、テイワズにて改修されガンダム用に開発された『TD』を搭載した事によって生まれたある意味フラウロスの真の姿とも言うべき物。
「そこら辺になんかスイッチ無い?なんかわんちゃんっぽいの」
『何だよそれ?え~っと……こいつか?』
ふわふわっとした説明に思わず呆れつつもコクピット内を見回すシノはそれと思わしきスイッチを見つけて押してみる。するとフラウロスは瞳を輝かせ始める、自動的に前傾姿勢を取り始めるとそのままガントレットを展開し始めた。各部の装甲が動き始めていく、シノの驚きの声が通信越しに聞こえる中フラウロスは四足獣型への変形を行った。
『うおおおおおっっ何だこりゃああああ!!?』
「それがフラウロスの機能の一つよ。そのガンダムは変形機構を持っているんだけどその形態は砲撃モードを持ってるの、そしてもう一つ」
『まだあんの?!』
「高機動形態ってなってるわね。でもそれはオミットに近い状態だったのをテイワズの整備長が復活させたのよ」
ガンダム・フラウロスは砲撃戦仕様の重火力MS、しかしナノラミネートアーマーの性質故に射撃が決定打となりにくく近接武器による接近戦が推奨されるがそれでもツインリアクターの仕様上砲撃でも圧倒的な破壊力を発揮する事が可能となっている。この変形機能もリアクターの出力を余さず砲撃に注ぎ込む為の物なのだが、整備長はフラウロス内に残されている高機動形態のデータを発見した。しかしそれは実質的にオミットされているに近い状態で放置されていたので折角なので『TD』を搭載すると共に復活させたとの事。
フラウロスは人型の汎用形態で様々な状況に対応しつつ、高機動形態で素早く動きそこから砲撃形態へとなるというのが本来の運用方法らしい。
「さてと今度は『TD』の飛行テストよ、さあ行くわよ!」
『おう!!』
ヴァイスと共に飛び上がるフラウロス、ヴァイスの速度ほどではないが矢張り凄い出力で飛び上がった。流石はツインリアクターのガンダム・フレームだけの事はある。それを褒めようとした時、エクセレンは凄まじい吐き気と背筋が凍りつくような気持ち悪さに襲われた。
「っっっっ!!!!???な、何これ………!!?」
『ね、姉さん!?お、おい如何したんだよ!!?』
気分が悪い、眩暈がする、動悸が止まらない……今まで感じた事も無いような物が一斉に押し寄せてきた。自分を脅かすような何かが目覚めたようが気がした。自然をヴァイスの向きを変えるとそこには……火星の空を切り裂く光が走っていた。
『お、オイオイ何だよあの光!?』
「そん、な……目覚め、た……?!」
―――スリープモード解除、状況把握。状況イエロー、プルーマ作動。戦闘開始、殺戮開始、欠陥品抹消工程再始動。モビルアーマー『ハシュマル・ゲミュート』行動、再開―――。
穢れた翼が、目覚めてしまった。
ヤマギ「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season
姉さんに相談したら貰ったこの食事券、シノ喜んでくれるかな
そうだと、いいな。」