えっ早過ぎる?早い方が良いと思って……。
地球での鉄華団とギャラルホルンの戦闘、いやアーブラウの代表選挙から約2年。蒔苗 東護ノ介の代表再選とギャラルホルンが用いたMSに搭載されていた人道に反した人間を生体ユニットにするという腐敗の発覚による世界の縮図と情勢は大きく変化していた。
クーデリアを地球へと送り届けただけではなく蒔苗をアーブラウへと送り届けた鉄華団の名前は一気に知れ渡る事となった。加えて鉄華団がテイワズの傘下に入りタービンズの兄弟分となる際にクーデリアとマクマードの交渉によってテイワズに齎されたハーフメタル利権、それによってテイワズに大きく貢献した鉄華団は改めてテイワズとの盃を交わし直系団体としてテイワズ内でも大きな成長を見せた。
アーブラウは弱体化し信頼度が落ちたギャラルホルンに頼るのをやめ防衛力を強化、それに当たり軍事顧問として鉄華団を指名する。これにより地球に鉄華団支部が誕生、鉄華団整備チーフであったクランク・ゼント、整備班班長であったアイン・ダルトンが地球支部の支部長と副支部長に就任し奮闘している。
弱体化の背景には地球外縁軌道統制統合艦隊指揮官カルタ・イシュー、地球本部監査局付武官である特務三佐ガエリオ・ボードウィンの死亡による物が大きかった。
クーデリアは火星での独立と経済の発達の為にハーフメタルの採掘一次加工輸送業務を行うアドモス商会を設立、更に鉄華団と提携し桜農場内に孤児院を設立し社会的弱者への能動的支援と火星全土の経済的独立の為、その社長として副社長のフミタンと共に奔走する毎日を送っている。
2年前まで名も知られず、人知れずに起業された鉄華団は今や地球圏及び圏外圏において知らぬものはいない企業となった。その企業は嘗てヒューマンデブリと呼ばれた子供達が立ち上げた物、そこに希望を見出した子供達は鉄華団に憧れ入団者は増え続けている。そんな新入団員を鍛える教官職に就きながら笑顔と陽気を振りまく女性の姿は変わらずあった。
「ほらほら足が止まりそうになってるわよ~。頑張れ頑張れ~」
鉄華団は今や唯の民兵組織では無くなっている、ギャラルホルンという組織の力の弱体化により火星の治安は悪化して来ている。それをカバーするように鉄華団に護衛や治安維持のための出動依頼が増えて来ている。武器こそ握るが目的はパトロール、今や火星では鉄華団に逆らおうという物好きはいない。ただそこに居るだけで威圧感を与え抑止力となっている。だがギャラルホルンの弱体化により出動依頼は増えており人手が不足がちになっている。
「ぁぁぁっっ~なんか川と新しい地平が見えるぅ~……」
「ほっほっほっ」
「ザック君ほらほら頑張る~あと半周よ~♪デイン君はペースを崩さないようにね~」
「うっす」
「うおおおおおっっお姉様からのエールだぁぁぁぁっっ!!!!!」
一時は教官職を退き自分が鉄華団に齎した技術、テスラ・ドライブの技術者としてテイワズに出向し開発などに協力していたが鉄華団からの要請を受け教官職に復帰。エクセレンは今日も笑顔を作りながら新入団員に訓練を施していた。その美貌と明るい性格故か矢張り大人気となり彼女の前だと何時もは訓練にやる気を示さない者も真剣になる為、それまで教官をしていたシノはその気持ちを理解しつつも複雑な気持ちを抱いていた。今日の外周が終了し皆が休んでいると遠くの荒野で土煙を上げながら二機のMSが模擬戦を行っていた。
「ダンテ反応遅い!!」
『んなこと言ったって!!?』
『ほらほら余所見しない!!』
そこで模擬戦を行っているのはテイワズが開発した新型MS、イオ・フレームが使用された獅電。それを操るのはタービンズから鉄華団のMS操縦技術向上の為に出向して来たラフタとアジー、そしてそれらのメカニック指導を行うエーコであった。テイワズ内での地位が向上し莫大な利益を齎した事で鉄華団は獅電を低価格で購入しそれらを主として運用している。
「すっげぇっ……あれがMSか……」
「かっけっ~あれ初めて動かしてるんだよなデイン」
「ああ確かそう」
「あれが、阿頼耶識の力か……」
最近入団したハッシュが思わずそう呟いた、確かにダンテは今日初めて獅電に搭乗し操縦している。それゆえかアジーに駄目出しをされまくっているが初めての操縦にしては良い方だと思われる。だがハッシュの言葉に納得するザックを見たエクセレンは声を上げた。
「獅電ちゃんに阿頼耶識は乗ってないわよ、確かに私が監修した学習型のコンピューターを載っけてるけどあれは純粋なダンテの腕前よ。まだまだ甘っちょろいけどね」
「えっあんだけ動けてるのに阿頼耶識じゃないんすか」
「そうよ。あれは300年も昔の古いローテクな技術でハイテクな最近のには載せられないんだってさ。まあうちだとどこぞのスケベ君は無理矢理搭載してるけどね」
それは勿論シノの事である。彼は先代流星号、即ちグレイズから阿頼耶識を取り外しそれを自分の機体に搭載し直した。本来は出来ない筈だが整備班班長代行のヤマギの努力と培われた戦闘データの移植によってそれは叶っている。
「皆には阿頼耶識なんて必要ないの、学習型のコンピューターだって使い続ければ乗り手の動かし方を学習してどんどん自分で回避パターンとか攻撃の動作を覚えて行くからね」
「へぇっ~……」
目の前でラフタの獅電にぶっ飛ばされているダンテを皆が見つめながらも自分もあんな風に操縦できるようになるのかと想像を捗らせる。矢張り憧れがあるのだろうかMSを見つめる皆の視線は何処かキラキラとしている、兵器を見て嬉しそうにして興奮を覚える。エクセレンとしては少々複雑な気分であった。そして獅電からグロッキーなダンテが降りた時、そこへ新たな機体が登場した。
「お、おい何だあのMS!?」
「すげえ俺初めてみた!!」
「白い、カッコいいなおい!!」
「あれってヴァイスじゃねえか!!やっぱりカッコいいなぁ!!」
リフトアップされたのはエクセレンの愛機でもあるヴァイスリッターであった、白銀の堕天使の異名は圏外圏にまで轟いており宇宙海賊達はその姿を見ただけで恐怖で撤退して行く。狙われたら最後の最強の狙撃手とまで言われているがそれは機体の性能ではなくエクセレンの腕前がおかしいのである。
「さてと皆の訓練はこれで終わりだけど如何する?このままMSの訓練に入りたいっていう人居る?」
『ハイハイハイハイ!!』
殆ど全員が手を上げていた、是非ともMSに乗りたいというので溢れていた。本来新入団員にはまださせるべき事ではないがそれぞれの適性は早めに判断しておくに越した事は無いとエクセレンが判断した。そしてヴァイスを見つめなおすとその周囲に3機のMSが運び込まれた。
「あ、あのエクセ姉様あれも新型っすか!?」
「ええそうよ。先日届いたばっかりの新型、試作型MSのゲシュペンストよ」
エクセレン「次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使 2nd Season
新人の子達はからかい甲斐があっていいわよね~。
今度は何で行こうかしら?
やっぱりバニーちゃんで決まりよね!」