鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使   作:魔女っ子アルト姫

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第2話

グレイズを叩き潰した悪魔、バルバトスは倒れた機体から興味を失った視線を上げつつまだ残っている二機の敵機(グレイズ)に目を向けた。バルバトスの力で振るったメイスによってグレイズのコクピットがある胸部は拉げて歪み、フレームさえ見えている。あれではパイロットは確実に生きてはいない。それを行った三日月は息を吐きつつも空を飛行している白い騎士にも目をやったが、直ぐに入った通信に目をやった。

 

『三日月聞こえる?凄いわねいきなりグレイズをあんな風にしちゃうなんて……もうお姉さん興奮しちゃう!』

「姉さんだったんだ、それに乗ってるの」

『フフフッそう、CGS参番組の教官とは仮の姿。その正体とは正義の女戦士エクセ姉様なのだっ♪』

「へぇ……良く分かんないけど姉さんカッコいいね」

『ムフフフッミカちゃんってば分かってる~♪後で甘い物作って上げるわ♪』

 

自分達の教官兼姉の言っている事は良く分からないが兎に角凄いのは分かる。あんなMSまで動かせるなんて何処まで凄いんだろうか、何時か同じようになりたいなとさえ三日月は思った。そんな最中に出てきた甘い物というワードにややテンションが上がる三日月は、スラスターを吹かして此方を狙っているのか接近してくるグレイズから距離を取りつつある物へと接近して行く。その手に持つライフルでバルバトスを狙おうとした時、バルバトスはある者達を踏み潰すようにしながら着地した。

 

『撤退中の我が軍のMW隊を!?』

「これなら撃ちにくいだろ」

 

仲間を半場人質に取ったかのような行為に、グレイズのパイロットのアインは怒りがこみ上げてきた。もう戦おうとしていない仲間を背後にする事で此方の攻撃を封じるなんて卑怯な事をするかと。それを声に上げて絶叫しようとした時、所持していたライフルが爆発した。頭上にいたエクセレンが、アインが行動を起こそうとした瞬間にトリガーを引き、グレイズのライフルを破壊したからである。

 

『今よ三日月!』

「うん」

 

姉の言葉を聞いて一気に距離を詰めながらジャンプし、思いっきりメイスを振り下ろす。初めてのMSの稼動という事もあってかやや距離を見誤り、左腕を肩から持っていく程度しか出来ない事に舌打ちをする。が、直ぐに鳴ったアラートに意識を持っていくと目の前から斧を振りかぶったグレイズが一気に迫ってくる。それをメイスで受け止め、鍔迫り合いのような状態になる。

 

『何処からもって来たのかは知らんが、そんな旧世代の機体でこのギャラルホルンのグレイズに勝てるとでも……!』

「もう一人死んだみたいだけど……?」

『なっ!?き、貴様……まさか子供か?』

「そうだよ。さっきあんたらが殺しまくったのも……これから、あんたらを殺すのも……!」

『ぬぅっ!?押し負けるっ!?』

 

鍔迫り合いの状態から一気に押し返していくバルバトス。CGSの施設の電力を賄う為の発電機という扱いを受けていただけあって出力はグレイズを上回っている。一気に押し切りメイスを振り切ると、目の前のグレイズはライフルを連射しながら無事なアインのグレイズを担ぎ上げるとそのままフルスロットルで撤退して行った。其れを追おうとする三日月だったが、エクセレンがそれを止めた。

 

『もういいわよ三日月、これ以上追いかけなくても。その機体も整備とか必要だろうし此処までで良いわ』

「本当に良いの?」

『ええっ兎に角大活躍だったわね。お姉さん嬉しい!』

 

そんな姉の笑顔を受けていると自分も少し嬉しくなってくる。そんな嬉しさとは真逆にMSから受ける情報量の多さに三日月はいい加減に限界を迎えようとしていた。そして姉から休んで良いわよという言葉を受けると同時に意識を手放した。

 

「よっとっな」

 

戦闘が終了し皆が思わず身体から抜いてしまった時、皆の前にヴァイスリッターが降り立った。オルガからあれにはエクセレンが乗っているという通達があったが、本当なのか半信半疑だった、見た事もない未知の機体に思うのは命を助けてくれた恩義と未知という響きから来る恐怖心だったが、コクピットからワイヤーのような物を掴んで降りてくるエクセレンの姿を見ると皆は心から安心し、幼い子達は思わず駆け寄っていった。

 

「教官っ、本当に教官だッ!!」

「オルガさんの言うとおりだったんだ!!」

「すっげえ!これに乗ってたの姉さんだったんだ!」

「そう教官とは世を忍ぶ仮の姿、私の正体とは……正義を愛し子供達を守る女騎士、エクセ姉様なのだっ♪」

「「「「おおおおっっカッコいいッッ!!!」」」」

「ムフフのフ~♪愛い子達よのぉ~」

 

寄って来る子達の頭を撫でたり苦労を労う美しくて更に強い姉。そんなエクセレンの人気は更に強烈な物となった。皆々ヴァイスの事やそんな物を持っていたエクセレンの事がきになるようだが、一旦それは切り上げて負傷者の収容と治療、MWの回収を始めるように指示を飛ばす。それに従って皆は仕事へと入っていくが、自分は三日月が大量に確保してくれたギャラルホルンのMWの回収にでも行こうかと思った時、オルガが此方へと向かってきた。

 

「姉さん!!そっちは大丈夫そうだな」

「まあね。この位全然平気よ、そっちは」

「兎に角怪我人が多いから人手がいる、大体はけが人の回収とかに回す。姉さんは……そうだそのMSでギャラルホルンのMWの回収して貰って良いか?」

「モチのロンよ、任せといて」

 

笑顔を見せて再びヴァイスに乗り込んでMWの回収へと向かっていく。此処からどんどん忙しくなっていくのだから自分も気合を入れなければならない。一旦跳躍しながら辺りを見回すと多くの少年達がこちらを見上げて手を振っていたりしていた。後で聞いた話だが、自分の教育のお陰か死傷者は少なかった。それでも12人という死亡者数を出してしまった事をエクセレンは教官として恥じながら、心の中で彼らの冥福を祈りつつ仕事をした。

 

「んぅっ~……ぁぁっ~……」

 

すっかり日も変わった頃、漸くMWの回収も終わり此方側のMWの修理に回す分と売却に回す分の分別が終了したエクセレンは、Tシャツとジーンズに着替えて食堂へと姿を現しながら身体を伸ばした。伸ばした際にTシャツ越しに揺れる彼女の胸に一部少年(主にシノ)がゴクりと喉を鳴らした。食事を受け取りつつ食べ進めて行くと壱軍の他の男達がいない事に気付いたが、それを聞くよりも社長室に行って欲しいという話が来たので兎に角向かってみる事にした。

 

「やっほ~♪エクセレン・ブロウニングただいま到着!」

「おっ来たか姉さん」

 

が、そこにいたのはオルガにビスケット、シノとユージンにまともな大人の一人である会計役のデクスターとトドであった。そう言えば社長だったマルバはギャラルホルンが攻めて来た時に宝石やら財産を持って逃げた事を思い出した。

 

「あららっ、なんだかちょっとピリピリムードって感じぃ?」

「いや大丈夫だ。姉さん単刀直入に言うぜ、このCGSは俺達が乗っ取った」

「へぇっ~……えっちょっと待ってちゃんと聞かせて貰える?」

 

今までMWの方に掛かりっきりだったエクセレンにとって完全に寝耳に水な話で全く付いていけない。食事している暇があったら手を動かしたいと携帯用のエネルギーバーで簡単に済ませてしまったので食堂にも顔を出していなかった。如何やら自分が作業を行っている内に壱軍の大人達に薬入りの食事を出して眠らせ、そこからある意味一方的な交渉で此処を出て行くか働き続けるか死ぬかという選択肢を与えたとの事。デクスターは会計役という事もあって強制的に残って貰ったが、その他はトドを除いて全員やめていったとの事。

 

「ふーんデクさん残るんだ」

「ええまあ、再就職出来るかも分かりませんし、もういっそのこと一蓮托生ですよ」

「それでエクセ姉さんにも聞きたい、アンタは此処を辞めたいかって事だ」

 

真っ直ぐと見つめてくるオルガにエクセレンは真剣な表情になりながら思案するようなポーズになる。その際に腕が胸の下にもぐり動いた時にはシノが声を上げたが、ユージンがうるさいと一蹴した。

 

「姉さんには世話になったし辞めるっていうなら退職金も結構出す。姉さんのお陰で生き残れた奴も大勢いる。だけど俺としては是非残って欲しいってのが本音だ、如何だ姉さん……?」

「う~ん此処にいるのはパパとマルバが知り合いでパパが作ってた借りを返す為だったのよね。だからもう此処にいる意味はなかったりしちゃうんだけど」

 

そう言うと思わずオルガ達は落胆した。自分達の周りで唯一しっかりと筋を通してくれる大人で好きとも言える人だったのに……だが去るというのならば止められない。早速退職金の計算に入ろうと口にしようとした時エクセレンは笑ってこう言った。

 

「でも此処に居る内に皆が弟みたいに可愛く思えてきちゃってね、何時しか好きで皆の相手してたわ。だから私は残るつもりよ、これからも教官として皆の頼れるお姉さんとしてリードしてあげるわ」

「本当ですかエクセレンさん!有難う御座います!!」

「おっしゃあ姉さんが残留してくれるとか俺嬉しいぜ!!何たってスタイルいいしな!!」

「へっ俺は最初っから分かってたぜ、姉貴が残ってくれるのは」

「物好きなこった……」

「なんか言ったかトド」

「い、いえ何も言ってねぇぜ大将!?」

 

エクセレンが残ってくれるという嬉しい知らせに身を躍らせつつも、デクスターは計算の終わった予算について皆に報告する。現金などはマルバが持って行ってしまい残った物とMWの売却で得られた資金から退職金と修理費、施設維持費などを計算するとなんとか三ヶ月持たせるのがやっとという事が分かった。

 

「お金ならある場所分かるわよ?ちょっと待ってね」

 

エクセレンは社長室の一角にある本棚を弄ると、その本棚が移動しそこに大きな金庫があった。

 

「やっぱり手が付けられてないわ、相当焦ってたみたいね」

「ま、まだあったのかよ!?」

「すっげえ!姉さんなんで知ってるんだ!?」

「ふふん。私を口説き落とそうとして一緒にお酒を飲んでた時にね、酔ってるのを利用して色々聞きだしておいたのよん♪こっちのはダイヤル式で時間が掛かるから、諦めたみたいね」

 

早速金庫に手を付けダイヤルを回していく。約10分後金庫の扉が開くと、そこには宝石や札束やらがある程度置かれていた。

 

「おおっ!!」

「現金だけで計算しても……これなら半年位は持たせられそうですね。宝石のほうは鑑定してみないと分かりませんが」

「兎に角助かったぜ姉さん、色んな意味で残ってもらって嬉しいぜ」

「ぬふふっお姉様に任せておきなさいって♪」

 

この後マルバが口説くために自分に渡してきた宝石なども持ってこようと言った時、サイレンが鳴り響いた。


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