鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使   作:魔女っ子アルト姫

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未来の報酬



第19話

夜明け前の早朝、オルガは団員全員を集めた。自身は適当に作った台に立ちながら皆を見つめていた。

 

「皆、今日までよく働いて来てくれた。もう直ぐ鉄華団初の大仕事も正念場だ、だけど俺は此処まで皆と此処までこれた事を誇りに思ってる!今までの場面でもあぶねえ局面はあったがそれを俺達は乗り越えた来た!だからそれはこれからも変わらねぇ、俺達は皆この仕事をやり遂げて火星に帰るんだ!!」

 

一字一句に気持ちと力の込められた演説に皆身構えてそれを聞いている、思えば火星から宇宙に上がる時もタービンズに自分達の力を証明する時も、ブルワーズとの戦いも、地球に降下する時も、蒔苗を島から連れ出す時もどの場面も本当に危なかった。島に至っては団長であるオルガやビスケットをエクセレンが庇わなければマジで死んでいたところだった。

 

「これから俺達は蒔苗の爺さんを議会に連れていく。そこにはギャラルホルンが待ち受けてやがるだろうが俺達は止まらない、俺達は怯まない。その上で仕事を完遂する、だがお前達に団長として絶対的な命令を出す。絶対に生き残れ!!絶対に死ぬんじゃねえぞ!!!勝手に死んだら団長権限でもう一辺殺すからな!!」

 

その演説に鉄華団全員は奮起し大歓声を上げた。自分達だってこんな所で死ぬつもりはない、仕事終わりのボーナスを貰って皆で騒いでこれからもそれを何度も何度も続けるつもりなのだから。そんな思いを語りながら叫ぶ子供達をクランクやアインは見守りながら自分達も何時の間にかそんな思いに感化されていて、その中に混ざろうと思っていた事に驚いていたが自然を絶対に生き残ろうと誓っていた。

ラフタ、アジー、エーコ。タービンズから出向して来た鉄華団を見守る為の三人は団長のオルガが思っていた以上に家族の事を考えていてそのための選択をした事に笑いつつ、兄貴分である名瀬に良い報告が出来ると笑っていた。

そしてエクセレンは……これからも弟達と共に進み続け笑顔でい続ける事を誓った。CGSの三番組の教官職が決まった時と同じように。

 

 

―――そしてその演説は、鉄華団全員の力となってエドモントンへの侵入を拒むギャラルホルンへと牙を向いた。エドモントンへと配置されたギャラルホルンの防衛線、通常では撤退するか降伏するのかベターな戦力だが彼らそれなのに猛然と立ち向かって行った。

 

「オラオラオラオラッッ!!!!」

「オオオオオオッッ!!!!!」

 

一機、また一機とグレイズが落とされていく、挟み打ちにしようと背後から迫って来るギャラルホルンのMS隊を撃退いや撃破し続けている。流星号が斧で相手のコクピットを抉るとリベイクが負けてられるかとハルバードでグレイズの上半身を吹き飛ばすという昭弘の怪力を体現するかのような鬼のような戦いを見せる。互いが互いの刺激となり気付けば戦果を競うように戦っていた。

 

「これで8」

 

そんな対抗意識を燃やしている理由としては三日月の存在が大きかった。誰よりも巨大で凶悪な得物を手にしながら誰よりも多くの敵に囲まれながらも悪魔のような、鬼神のような戦いをするバルバトス。メイスを振るえばグレイズごと地面を割り、太刀を握らせれば装甲の内部に滑りこませて抉り壊す。常に前線に立ち続けて多くの敵を引き付け続けている彼にギャラルホルンはバルバトスの姿を見るだけで恐怖し士気が下がる。まさか悪魔としての面目躍如という所だろう。

 

「さあさあ誰かしらね~こんな美人で聡明で素晴らしい私を白銀の堕天使なんて二つ名をつけたギャラルホルンの隊員さんはっ♪もうちょい他にも付けようあるじゃない」

 

エクセレンはエクセレンで凄まじい活躍をしていた。上空から地上のMSの関節を狙い撃ちながらもエドモントンの都市部侵入を図ろうとするMW隊の援護を行うという事をしている。どちらにしてもヴァイスの天使のような外見からは想像も付かない程の戦果を発揮する、それゆえにギャラルホルンがヴァイスに付けた名が白銀の堕天使(ルシファー)。その姿を見れば抵抗出来ずに殺される、悪魔に手を貸す堕天使だと称されていた。それを否定する気もないし寧ろ肯定するエクセレンはそのままヴァイスを駆り続ける。

 

鉄華団を磨り潰そうとするギャラルホルンだが逆に大きな損害を受け続ける事になっている、既に撃墜されているMSの数は30を超えて更に拡大しているというのに此方は相手に全く有効なダメージを与えられていないのだから。MWですらまともに撃墜出来ていない、それもある意味当然と言える。ギャラルホルンが経験している戦闘はその皮を被った虐殺のみ、その殆どがゲリラ戦を未経験のマニュアル戦闘が大半。それに加えて上空から援護を加えるヴァイスの超遠距離射撃により防戦一方で相手にまともな打撃を与えれていない。

 

二日間の戦いの末にいよいよギャラルホルンが展開した防衛線の限界が見えてきた、MSの数もMWも以前と比べれば少ないと言わざるを得ない状況と化している。オルガは間もなくと迫ったアーブラウ議会代表選挙の投票日、いよいよ本格的なエドモントンと支部への突入作戦に打って出る事とした。

 

「皆、今日で終わりにするぞ……三日月や昭弘、シノ、姉さんの奮闘のお陰であいつらの戦力は大幅に削いでやった!!そしてラフタさんやアジーさん、クランクのとっつぁんとアインさんのお陰であいつらの補給も十分じゃねえ、今日で終わりにするぞ……俺達は仕事をやり遂げるぞ!!!」

『オオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!!』

 

そして鉄華団最後の大攻勢が始まった。

 

補給物資はそこまで届かず、臨時に草原に作られたギャラルホルンの駐屯基地。そこでは整備班とパイロットの確執が出来ていた。自分の機体を直せという言葉を物資がないからこれ以上無理だという罵詈雑言、輸送部門を担当するタービンズだからこそ補給ラインの重要性を理解しそれを攻撃していた。既に機体は満身創痍、パイロットも悪魔や堕天使に恐れを抱き一部はノイローゼを発症している。これから如何すればいいのかと迷う部隊長、カルタ・イシューの部下として、仇を打つために此処にいるのにそれが出来ずにいる事苛立っている。そんな時だった、待機中のグレイズに次々と銃弾が叩きこまれ爆発して行く。

 

「な、何だ!?」

 

悲鳴にも似た声が上がると正面から煙を上げて迫ってくるものがあった。鉄華団のMSだ、バルバトスやグシオンリベイク、流星号にホークにイーグル、そしてタービンズの漏影、上空からはこちらの物資を集中的に狙ってくるヴァイスと恐れていた奴らが遂に最大限の力を持って強襲して来た。

 

「EモードのEはEE気持ちの事よ。だってこれで仕事が終われると思ったら良い気持ちだからね!!!」

 

MW突破の為にオクスタンランチャーのEモードで橋を占拠していたギャラルホルンのMW隊を薙ぎ払う、てんからの光の一撃で開けられた希望への道にオルガは感謝の言葉を漏らすとそこへ一気にオルガの乗るMWとアトラが運転する蒔苗、そしてクーデリアの乗せた車、護衛のMWが突入して行く。いよいよ終わる、これで本当に。いやまだ終わらない、自分達がMS隊を引き付けておく必要があるのだから。

 

『姉さん。この前の奴が来た増援連れて』

「熱烈大歓迎、して上げましょう!」

 

キマリスが大部隊を率いて参上する、だがそれらに怯む者は一人としていない。これで終わりにするのだから。だがそんな時、空から降った無数の弾丸がヴァイスの装甲を掠めた。

 

「うわわわっ何事ぉ!!?」

 

咄嗟の機体操作と今まで蓄積されたデータによる機体の自動慣性制御によって難を逃れたが本気で驚いた。だが今の何だ?空を見上げるとそこには巨大なMSが2機、空に浮かんでいた。ガンダム・フレームよりも一回り巨大なそれは1機は地上におりつつももう1機はヴァイスのように空を浮遊し続けながら此方へと睨みを利かせていた。

 

『おいおい何だこいつ!?でかすぎるだろ!?』

『俺達の機体の一回りでけぇ……』

『あ、あれってグレイズ!?でもデータにはなにも無い!』

『こんなタイミングで新型を投入するとは……』

『何だ……このプレッシャーは……!?』

 

驚きが周囲を支配する中、そのMSは声を上げた。

 

『我ら……地球外縁軌道統制統合艦隊!!カルタ様、どうか見届けてください!!我らが果たすカルタ様のご意志を!!!』

『私はあの堕天使を!!!』

『私はカルタ様に仇名したこの逆賊を!!』

『『撃つ!!』

 

決意を固めように動き出した機体は猛スピードでヴァイスに接近し剣を振りかざしてくるがそれらを回避しつつBモードで狙い撃つがまるで人間のような柔らかな動きでそれらを回避していく。

 

「まさかこの動き……阿頼耶識!?」

『その通り!!我らはカルタ様の為に、人間をやめ悪魔になる決心をしたのだ!!』

『我らは決して負けぬ!!カルタ様の為に!!』

 

人体改造は悪であるという思想を持つギャラルホルンがそんな事をするなんて思えないが現実がこれだ、本当に阿頼耶識があるとしか思えない動きにエクセレンは苦しげな声を上げる。あの巨体で三日月以上の動きに自分と同じく飛行が可能、厄介にも程がある。

 

「カルタ……見ていてくれ、お前達の、部下の戦いぉぉぉ!!!!」

 

そして槍を構えて突撃するキマリス、戦場は、一気に混沌とした物へと変じて行った。




次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

鉄華団

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