鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使   作:魔女っ子アルト姫

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進み続ける歩み





第18話

鉄華団とタービンズ、そして蒔苗。彼らはクーデリアが手配した船に乗り込みアーブラウへと向かう為に海上を進んでいく。クーデリアが手配したのはモンターク商会の船、その船長はギャラルホルンが使用している監視衛星の情報を得ているのかそれらを回避するように船を動かしギャラルホルンからの追撃を逃れていた。船は一旦アラスカに向かいそこでテイワズの定期便の列車に乗り込みそこからエドモントンへ向かう。クーデリア発案のこのコースはギャラルホルンに発覚しにくい事や周囲に都市部がなくエイハブリアクターによる電波障害を気にする必要が無いので堂々とMSを運べるという利点を狙っての物だった。

 

「良く考えられてるわ、凄いわね」

「勉強しましたから。私も今は鉄華団の一員のようなものですから」

 

船の一室、身体に包帯を巻きつつベットに大人しく横になっているエクセレンとクーデリアが話をしていた。先の戦闘でオルガとビスケットを庇って事で受けた傷、ヴァイスの胸部を貫通した事でダメージがコクピットの計器にも発生し小規模の爆発が起きた。それにより脇腹と額に傷を作ってしまった、出血は多かったが命に別状はなく皆は酷く安堵していた。

 

「それにしても……傷もそんなに深くないしもう動けるのに皆大袈裟なんだから……」

「皆さん本当に心配してたんですよ。あの時、エクセレンさんが死んでしまったんじゃないかって思って、私も含めて皆絶望の一歩手前でした……だから今は皆さんの安心の為にも安静してください」

「ふ~まあしょうがないわね。でも列車に乗り換えたら動くからその気でいてって皆に言って貰えるかしら?何時も忙しかったから何もしないっていうのはなんか嫌なのよね」

 

昔から常に忙しかった故の習慣、身体に残っているのは銃の反動を抑えこむ方法と目を瞑っていても正確に書類にサインをする方法にMSの整備方法と仕事をする為の事ばかりだった。ある意味仕事中毒に近い何かかもしれない。怪我もしないし病気にならなかったからこその仕事中毒、そんな事を言う彼女にクーデリアは笑った。

 

「やっぱりエクセレンさんって鉄華団のお姉さんですね。皆さんの事を本当に大切に思ってる、少し羨ましいです」

「あらっ私は貴方の事も妹って思ってるのよ?ねっクーちゃん」

「ク、クーちゃん?ふふっ悪くないかもしれませんねエクセ姉様」

 

そんな言葉の駆け合いで生まれた笑みからは自然と笑いが零れた、そしてクーデリアは蒔苗との話があると言って去って行った。手を振って見送るとエクセレンはベットに背中を預けながら持ってきて貰ったヴァイスの状態報告書を読み始めた。致命的な損傷という訳でもない為現在修理中、定期便に乗り換えるまでには完了するとの事。それに安心すると暇になってしまい何かしようかなと考えると扉が開いた。

 

「姉さん、今良い?」

「あら三日月、勿論良いわよ」

 

入ってきた三日月の手にはお菓子やエネルギーバーなどが入った小皿が持たれていた。どうやら幼年組からのお見舞いの品という物らしい。素直に嬉しく思いながらそれを受け取り机の上に置くと三日月は先程までクーデリアが座っていたイスに座った。

 

「ごめん。俺が止められてれば姉さんが怪我しなくてすんだのに」

「気にしちゃってるの?いいのよ今更起きた事を後悔しても何も変わらないのよ?」

 

何処かテンションが低く凹んでいるような三日月に物珍しそうな視線を送る。実際三日月はやや落ち込んでいた、エクセレンは三日月にとってとても大切な人でもある。そんな人が怪我をしてしまったのは自分があの機体を逃し足止めを受けてしまった事が原因、だから落ち込んでいた。そんな弟の頭を軽く撫でながら姉は言葉を紡ぐ。

 

「優先すべきなのはその後悔を次に活かすか活かさないかよ、私は生きてるそれが事実よ。だから三日月、もう元気を出して何時もの姿を見せて」

「姉さん……分かった、次あいつが出てきたら絶対に潰す。確実に潰す、徹底的に潰す」

「うむそれでこそ三日月♪ほらおいでっ」

「?」

 

分からなそうに首を傾げた弟の手を引っ張って胸へと引き寄せるとそのままぎゅ~と抱きしめた。二度目の抱擁はいきなりだったが三日月は何処か嬉しそうにしながらそれを甘んじて受けていた、そして離れると普段通りの表情に戻りそのまま部屋から出て行った。

 

「やっぱりキレてたわね。まっ折角だから私の分の仕返しをやって貰おうかな」

 

その言葉がまもなく実現する事を、エクセレンは思いもしなかった事だろう。

 

いよいよテイワズの列車に乗り換えたエクセレンは漸く動く事を許された事で喜々として働いていた。今まで働けなかった分を取り戻すかのように整備に作戦会議、食事作りなどなど様々な仕事に参加してその能力に見合うだけの働きをしてはキラキラとした笑みを零して達成感に浸っていた。

 

「ふぃ~お仕事最高!やっぱりじっとしてるなんて私の性にはあわないわね!」

「全く姉さんときたら……俺としてはもっとゆっくり休んでて欲しいんだがな。仮にも俺とビスケットを庇って出来た傷だ、そうしてくれた方が安心するというか。つかもっと怪我人らしくしやがれ」

「無☆理」

「だよな……ハァッ……」

 

廊下で出会ったオルガに深い深い溜息を吐かれたエクセレンは彼の心配などお構い無しに今度は見張りの交代でもしに行こうと直ったばかりヴァイスへと足を向けた。だがそんな時列車全体に危険を知らせるアラートが鳴り響いた。同時にエクセレンはパイロットスーツへと着替えると急いでヴァイスへと向かっていった。

 

線路上に立ち塞がった3機のグレイズリッター、地球外縁軌道統制統合艦隊司令官カルタ・イシュー率いる親衛隊が先回りして待ちうけていた。透かさず列車は停止するとそれに合わせるようにカルタがマイク越しに声お張り上げた。

 

『私はギャラルホルン地球本部所属地球外縁軌道統制統合艦隊司令官、カルタ・イシュー!鉄華団に対し、MS3機同士による決闘を申し込む。我々が勝利した場合、クーデリア・藍那・バーンスタイン及び蒔苗東護ノ介の身柄を引き渡してもらう、そして鉄華団の諸君には投降してもらう』

「おいおいこれって確かクランクのおっさんがやった決闘の合図じゃ……」

「ああその通り。私がやったのと同じだが……まさかあのセブンスターズの第一席のイシュー家の人間がここまでやるとは……」

「如何しますクランクさん、この決闘を我々(鉄華団)は受けるべきなのでしょうか?」

「そんな必要は無いよ」

「私も同意だ。受ける価値がないな」

 

意見を述べるクランクはそう断言した。自分が鉄華団に対して持ちかけた決闘の時とは状況が違う、此方からしたら決闘を受けるメリットが無い。あちらはクーデリアと蒔苗の身柄を押さえればだがこちらは押し通れば良いだけなのだから、それに受ける道理も無い。向こうも素直に此方が応じると思っているのだろうか。

 

『そうそう!クランクのおじ様の言う通りよ。こっちの方が数も上なんだからボコ殴りにしちゃえばいいのよ!』

「まあそう言う事だな。しかしおじ様……呼ばれ慣れんな」

「皆直ぐにMSへ、押し通るわよ!」

「おう姉さんにやった事を倍返しにしてやるぜ!!」

「あらシノ君嬉しい事……あっ」

 

そんな時、エクセレンはある事を思い出した。それは先日行った三日月との会話だった。

 

「……ねえ今の見張りって三日月よね?」

『えっ?ええそうだけど如何したの?』

「…あの子、私が怪我した事でマジギレしてたから多分もう……飛び出してるんじゃない?」

『あっ』

 

その場の気持ちが重なった瞬間だった。

 

『30分、セッティングに掛かる時間を考慮し我らは待つ。準備が整い次第正々堂々と戦おうではないか』

 

言いたい事を言いきったカルタはコクピットに戻ろうとした時、目を見開いた。メイスを持ったバルバトスが列車から飛び出し猛スピードで此方に向かってきていたのだから。自分が待つといってたのにそれを完全に無視しての行動に驚きつつも親衛隊の一人が声を荒げて何故カルタの言葉を無視したと咎めるがバルバトスはそのまま止まらずグレイズリッターの胸部へとメイスを叩きつけた。軽々と浮いた機体はそのまま装甲とフレームを歪ませながら吹き飛んだ。

 

『カルタ様一度体勢を整えて……ぐあっ!!!』

 

一人がカルタにそう進言するがそれよりも早く投げられたメイスによって倒れこむ。バルバトスはそのまま立ち上がる隙すら与えずにテスラ・ドライブより高々と跳躍するとそのまま一気に降下しコクピットを踏み潰した。バルバトスは地上戦仕様の為に足をヒールのようにし反応速度を高めているがそれは踏み潰す際にも有効な武器となり機体のコクピットを貫き潰した。

 

『な、なんと卑劣な!!誇り高き私の親衛隊をっ……!!!』

「……後は、お前だ……俺は姉さんと約束したんだ」

 

メイスを持ち直したバルバトスは一気に迫りながらメイスを振りかぶるがカルタはそれを素早く回避する。だがそれ以上にバルバトスから発せられている覇気と殺意が異常である事が自分を圧倒しているかのように感じられた。

 

「今度、あんたが出てきたら…潰す。確実に潰す、徹底的に潰すって」

 

姉との約束とカルタへの怒りが今まで以上にバルバトスの動きを機敏に鋭くしていた、剣の一撃を身体を沈めて回避するとそのままメイスを叩きこみ吹き飛ばし追撃にメイスの口を開けさせグレイズリッターの肩へと喰らい付かせた。内部に仕込まれていた刃が作動し肩の装甲を切断し破壊していく。再びメイスを振り切ると今度はグレイズの脚部が潰れた。

 

『私は、私は恐れない!!』

「あっそ、だったら―――さっさと死ね」

 

コクピットを思いっきり殴りつけられた機体は雪原を転げ回るように回転しボロボロになった装甲の切れ目から機体から発せられる熱で溶け出した雪がコクピットの内部にまで入ってきていた。傷だらけになったカルタは気丈に振舞いながら目の前の悪魔を睨みつけながらまだ戦おうとするが残っていた最後の四肢である右腕を叩き潰されてしまった。完全な達磨になったグレイズリッターを三日月は静かに見下ろした、そして止めをさすためにメイスで喰らい潰した剣を折るとその刃を握りコクピットへと差し向けた。

 

「これで終わりだ」

 

自分の誇りである筈の剣が折られ自分へと向けられている、そんな現実をカルタは受け入れられなかった。そして一筋の涙を流した時、その場に新たな悪魔が姿を現した。新たなエイハブウェーブの反応と共に高速で迫ってきた機体は銃弾をバルバトスに浴びせかけながら雪上を滑るように登場した悪魔、新たな姿となったキマリスであった。バルバトスは身構えるがキマリスは銃弾で雪を巻き上げるとそれを煙幕のようにしながらボロボロとなったグレイズリッターを抱えるとそのまま撤退して行った。追おうとするがさすがに速度が違い過ぎると思った三日月は身体から力を抜いた。

 

「……姉さん、約束守ったよ」

 

今、彼の胸の中にあったのは姉との約束を守れたという達成感。それで溢れていた。




次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

未来の報酬

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