鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使   作:魔女っ子アルト姫

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還るべき場所へ



第17話

オルガが覚悟を決め、鉄華団の団員の一人であり此処まで旅を共にしてきたクーデリアの目的の実現を手伝う為に蒔苗の話を聞く決心をした直後島にギャラルホルンの部隊が接近している事が発覚した。蒔苗がオセアニア連邦に働きかけギャラルホルンを止めるという算段だったはずだがギャラルホルン内でも独自の指揮系統を持ったセブンスターズの第一席カルタ・イシューが直接出向いてきたとの事。オセアニア連邦でも抑えきれないとの事、そしてギャラルホルンからの通達があり中身は最早パターン化してきたクーデリアを引き渡せ、応じなければ武力を持って制圧する。最早テンプレだ。当然応じる鉄華団とクーデリアではない。

 

直ちに迎撃と脱出の為の準備が行われていく。MSの立ち上げやトラップの設置、CGS時代からの積み重ねもある為かそれらは非常にスムーズに進行していた。一重にエクセレンの指導のお陰でもあるのだが全ての準備が済んだ時には日が昇り間もなくギャラルホルンから勧告された制限時間が終わろうとしていた。沖に展開されたギャラルホルンの水上戦艦は島への飽和攻撃を始めた。次々と発射されていく砲やミサイル。だが島の中央部を狙うミサイルは次々と撃墜されていくのであった。

 

「何だ!?何故ミサイルが空中で一斉に迎撃されている!?」

「わ、分かりません!」

「エイハブリアクターの反応を確認!空中に展開しているMSが居ます!!」

「な、何だと!!?」

「モニターにて最大望遠映像を出します!!」

 

艦のモニターにて出力されたのは島の上空にて居座りつつ長い砲身の銃を自在に扱いながら次々とミサイルを撃ち落としていく白い堕天使の姿であった。歯噛みをしながら睨み付ける指揮官だが意味は成さずに迎撃は続けられていく。

 

「はいは~いミサイルなんてお姉さんに掛かっちゃえば無意味です事よ~!MSの関節狙うよりも簡単だからね~」

 

空中にて静止したまま次々とミサイルを迎撃して行くエクセレンのヴァイスを各機は見上げながらその腕前に感心しながら弾薬を節約できる事に軽く笑みを浮かべていた。本当にあの人が味方で良かったと。そして片手間に艦を狙ってのEモード射撃を行う。

 

「昭弘~代わりに船を狙って貰えるかしら?敵さんってば躍起になってバンバンミサイルを撃ってるのよ」

『そりゃエクセレン姉さんミサイル落としまくってるからね、躍起になるのも分かるわよ』

『うっし、やってみる!』

 

大型のライフルを構えた昭弘は艦を狙って射撃を行った。初めての遠距離射撃、本人としては確り狙ったつもりだったのだがそれは僅かに艦をかする程度にしか命中せずに大きな水柱を上げた。

 

『ちっ外した!』

『何やってんのよへたくそ!姐さんにどやされるわよ!』

『い、いやだって……』

『大気圏だと大気の影響を受けるからデータを修正して撃つんだよ』

『落ち着いて射撃するんだ』

『まだ来るか!ミサイル追加来ます!』

『んなこと言ってったよ……!!』

『昭弘、さっきの感覚身体に残ってるだろ、それに合わせて撃てば良いんだよ』

 

初めての大気圏内射撃は宇宙とは全く勝手が違う、流れる風や重力など様々な環境が織り成す事象が影響し射撃にぶれを生じさせる。それによるブレのデータを素早く入力し修正を加えて射撃するのが一般的だが阿頼耶識を持った人間はそんな事をせずとも良いと三日月がアドバイスを行った。ライフルを放った際の感覚、ライフルの反動によって動いた腕、それらが全て身体に記憶として残っている。それらに従って放つと弾が艦艇に見事に直撃し浸水を発生させた。艦は大急ぎでMSの発進を行い次々と乗員は脱出して行く。

 

「う~ん案外昭弘も狙撃手(スナイパー)として資質があるのかしら?」

『いやあんなガチムチな奴には似合わないって。それよりも海上から来る敵の迎撃手伝ってくださいよ!』

「はいはいっと」

 

次々と艦から発進してくるフライトユニットのような物を背負い海上を滑るように迫ってくるグレイズ、それらのユニットなどを狙って射撃するヴァイスと漏影、ホークとイーグル。ただただ迫ってくるのを撃つだけなので楽な作業。だと思っていたが突如アラートが頭上からの敵機を知らせた。機体を翻して空を見てみると何かが盾の様な鉄の塊が次々と降ってくるのが見えてきた。

 

『おいおいなんか降ってきたぞ、地球の異常気象か?』

「んな訳ないでしょうに。どんな恐ろしい気象よ。真島の兄さんが降ってくる並に怖いわよ」

『誰だよ真島の兄さんって……』

 

そんな事を言っている間に鉄の塊から次々とグレイズの系統のものだと思われる機体が降下して来た。それらは牽制射撃を繰り返しながら着地してバルバトス達へと向かって行くと思いきや敵機であるグレイズリッターは一列に並び始め中央の赤いラインが引かれている機体を中心にしながら剣を地面に刺しながら構えると外部スピーカーをONにして叫び始めた。

 

 

「我らっ地球外縁軌道統制統合艦隊!!!」

『面壁九年!堅牢堅固!』

 

と何やら名乗りを上げているところだったが飛来した銃弾二発が左から1番目と2番目の機体の頭部パーツを吹き飛び倒れ込んだ。正々堂々と戦いを申し込むという前の名乗りでの攻撃に思わず敵は固まった、そして謎の沈黙が訪れ黙っていられなくなった昭弘が口を開いた。

 

『撃って、良いんだよな……?』

『当たり前じゃん』

『つうかなんで名乗り上げてんだ?別に決闘する訳でも無いのにな』

『馬鹿だからじゃない?』

「ちょっと三日月失礼でしょ、本当の事でも言っちゃ駄目よ!本当に馬鹿な事だけど!プクククッ……」

『そうだね姉さん、ごめんね馬鹿な人』

 

同じく外部スピーカーで外に聞こえるようにして会話をしていた三日月の会話は当然降下して来たMSのリーダーであるカルタに確りと聞こえていた。そして三日月の遠慮無しの罵倒に青筋を立てていた。

 

「無作法な野蛮人がぁっ!圏外圏の鉄の野蛮人に制裁を加える!!

『鉄拳制裁!』

「エルドラソウル!!」

『姉さんマジで何言ってんだよ!?』

「鋒矢の陣!吶喊!!」

『一点突破!!』

 

剣を構えたまま一気に加速して突撃してくるグレイズリッターに流星号が射撃を行うがそれすら物ともせず突進してくる。がそれに怯まずバルバトスは今まで手にしたメイスよりもさらに巨大で恐竜の頭部のような形状をしたメイスを手に引きずるように前進していく。そして先程ヴァイスとリベイクによって損傷をした二機に狙いを定めた。軽くジャンプするとそのままバルバトスは飛行を開始し巨大なメイスを一気に振り下ろすとグレイズリッターを二機纏めてコクピットを潰しながら吹き飛ばしてしまった。

 

『カ、カルタ様!!我らの陣が!!』

『お、おのれぇ!!!落ち着きなさい、各機散開。冷静に各機敵を各個撃破!我ら地球外縁軌道統制統合艦隊が負けるはずなどない!!』

『面壁九年!堅牢堅固!』

 

策が破られたカルタだがそこまでうろたえる事もなく冷静に指示を飛ばし一機を複数で攻撃するように命令する。幸いな事に先ほど此方を狙い撃って来た機体は上陸したMSと戦闘し上空の機体は沿岸部に到達したMSの対処をしている。ならば今こそ好機!と攻め始めるが相手は阿頼耶識を搭載したMS、二機一組で襲い掛かっても攻め切れずに寧ろ押し返されている。

 

『こんな戦いイシュー家の戦歴に必要ない……!!早く、撃滅なさい!!』

『カ、カルタ様!!上陸部隊との通信途絶!状況不明!!』

 

次々と飛び込んでくる此方にとって都合の悪い事ばかりにカルタは強く歯軋りをすると一機の部下が流星号が引いた所を追い討ちしようとした時、足場の崩落というトラップに掛かってしまった。助けに入ろうとするがバルバトスのメイスが襲い掛かり助けられずコクピットを斧で抉られた際の断末魔が聞こえてきてしまった。

 

『おのれぇぇっっっ!!!っあれはっ!!?』

 

バルバトスの一撃から逃れた時、遠くからにMWが見えた。それだけなら気にも止めないがそこから顔を出している男は指示を出しているように見えた。恐らくあれが前線指揮官、あいつさえ撃ちとれば指揮系統は崩壊すると睨んだカルタはバルバトスの足止めを部下に指示すると一直線にオルガとビスケットの乗ったMWへと向かっていった。

 

『良くも私の可愛い部下達をぉぉぉ!!!!』

「ビスケットォォ!!」

「分かってる!!!」

 

反転して森の中へと向かおうとするMWだがMSとは速度の違いがありすぎる、その為に容易に接近され今にも剣が振るわれ自分達ごと機体が抉られようとした。オルガは迫ってくるカルタのMSが剣を振りかぶりこちらを斬りつけようとするのが視界一杯に広がり此処までなのかと思ってしまった。三日月も必死に向かおうとしているが阻まれて間に合わない、もう終わりなのか。そして剣が振るわれ……

 

 

―――装甲を抉る音が島に木霊した。周囲に飛び散ったオイルはまるで血のように地面を塗装している、装甲の破片は肉片のような無様な姿を晒している。

 

 

 

 

 

「あ、あれ……俺生きてるのか……!?お、おいビスケット無事か!?」

「う、うんなんとか生きてるみたい……で、でもなんで……?」

 

自分もビスケットも確かに無事だった、MWは森の木々に突っ込んでやや傾いているが確りと無事であった。だが何故自分達は生きているのか、先程の攻撃はどうなったのか。思わず目を後ろに向けてみた、だがその時、目が映し出したのは見たくない物だった。そこにあったのは胸部にグレイズリッターの剣が貫通し装甲が抉られながらも攻撃を防いでいたヴァイスリッターの姿だった。

 

「お、おい嘘だろ……?ね、姉さんっ!!!!」

「エクセレンさん!!!!」

 

あの時、MWに攻撃が当たろうとした時その間にヴァイスが割って入ったのだ。最大出力でグレイズリッターに肉薄したヴァイスは身体を張って二人を守った。通信に悲鳴じみた二人の声が響いてくる。無事なのかそれを知りたいと言う一心で通信機に声をぶつける。

 

「姉さん、おい返事しろぉ!!!おいいつもの冗談とおふざけは何処行ったんだよ!!!」

「お願いですエクセレンさん返事をしてください!!!」

『………どう…ら無事、な感じで安心、した……わ……』

「!!!姉さんおい大丈夫なのか!!?」

 

通信から漏れてきた声は小さく薄れていて掠れていた。苦しげな息遣いと痛みに耐えるような声が聞こえる、ヴァイスのコクピットは胸部。コクピットを貫通しているのかもしれない、そんな心配が過ぎりながらもヴァイスは必死にグレイズリッターを抑えつけている。

 

『わた、しの……弟、たちには……指一本、ふれさせは……』

『ええいまだ生きているのか!!ならばこんどこそ引導を……!!な、何!?』

『おい……お前、姉さんに何をやってるっ……!!!』

 

自らを抑え付けていた機体を振り払ったバルバトスは怒りのままに巨大なメイスを振りかざした。それは展開し獰猛な肉食恐竜のようにカルタへと食らい付きそのまま易々と持ち上げるとグレイズリッターを地面へと叩きつけた。それでも三日月の怒りは収まらない、メイスを頭部へと叩き付けて粉砕しても収まらない。

 

『お前がっ……!!!』

 

今度はコクピットを重点的に潰そうとした時残った機体がカルタの機体を庇うように躍り出てると自分を蹴り体勢を崩した。その隙にと言わんばかりに最大出力で撤退して行く。

 

『待て……!!!』

「ミカもうそいつらは良い!!それよりもヴァイスを寝かせるんだ!!」

『オルガ……分かったっ……!』

 

メイスを手放すとヴァイスを抱えてその場にそっと横にする、そこへ飛び乗ったオルガはコクピットを開ける。どうか無事であってくれと願いながらハッチが開くとそこにはモニターに飛び散った血と眠っているかようにしているエクセレンの姿があった。

 

「お、おい嘘だろ……!?おい嘘だよな……!?」

「オルガ早く、早くエクセレンさんを治療しないと!!手遅れになる前に!!!」

「あ、ああっ分かってる!!」

 

カルタが撤退した事で戦闘は終了しギャラルホルンも引いて行った、皆が基地に戻ると皆はそこでエクセレンに教わって通りに応急処置をしているオルガとそれを受けているエクセレンの姿に言葉を失った。必死に応急処置をするオルガの鬼気迫る表情と眠るようにしているエクセレンに誰もが最悪の事を連想してしまった。

 

「これで、良い筈だ……良い筈、だよな……!?」

 

応急処置を終わらせたオルガは同意を求めるように問いかけた、だが誰もそれに応えられない。身体が震え喉が枯れていく、そんな感覚に襲われ押し潰されそうになった時そっと自分の頬に暖かい感触があった。

 

「……ええっとっても上手く、出来てるわよ……」

 

意識を取りも出した彼女の言葉とややぎこちない笑顔が浮かんだ時、島全体が震えるような大歓声が巻き起こった。




次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

進み続ける歩み

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