鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使   作:魔女っ子アルト姫

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相棒





第16話

待ち受けた地球外縁軌道統制統合艦隊を突破し地球へと降り立つ事が出来た鉄華団、降りた先は地球四大経済圏が一つ【オセアニア連邦】の領内のとある島の近くであった。降りた時には既に夜中で薄暗かったが鉄華団全員は無事に地球に降りられた事に感動し大声を上げて喜んだ。此処まで色んな事があったが無事に来れたと感動の涙を流していた。鉄華団として初めて請け負った巨大な仕事を、地球へクーデリアを送り届けるという仕事を見事に達成する事が出来たと皆喜んだ。

 

「うおおおおおっっ俺が地球かぁぁっ!!!いやっほぉぉおおおう!!!」

「シノさんずりぃ!!俺もっ!!」

「シノなんか遅れて堪るかよ!」

 

海上に着水した降下船から海へと飛び込んでその喜びに浸りながら大声で騒ぎ回る子供達を見つめるエクセレンやクランクは暖かな表情であった。

 

「ここが地球……美しい所、だなやっぱり……」

 

イーグルのコクピットから周囲を警戒しているアインだが初めて目の当たりにする地球の海という大きな存在に目を奪われていた。夜だというのに月明かりに照らされてキラキラと光っている水面は遥々火星からやってきた自分達を祝福し出迎えてくれているかのように思えた。同時に自分が来る事なんてないと思っていた地球へと来れた事に感動しつつ一人でこっそりと涙を流していた。

 

だがしかし何時までも感動に浸っている訳でもなく早速作業を開始するとオルガが号令を掛ける、自分たちの降下地点などギャラルホルンは恐らく把握済みだろう。ならば速やかに降下船に積み込まれている荷物を下ろして体勢を整える事が先決となる。それらを作業を行っている島の奥から一人の老人が姿を現わした。

 

「えっと御爺ちゃんは一体何方?」

「いやなんでもお話をしたいとかで……」

「お前さん達だな?鉄華団というのは、地球へようこそ歓迎するぞい」

「誰だアンタは」

 

和服に身を包みつつも蓄えられたひげと歳が積み重ねられた皺、ただの老人というには威圧感というものがあり只者では無いというのが一目で分かる。

 

「わしはこの島の持ち主である蒔苗 東護ノ介じゃ。お主らの事は良く知っておるぞ」

「持ち主……その悪いな、勝手に荷物を下ろしちまって」

「いやいや構わんよ。それより荷物を運ぶ場所としてこの島にある廃棄された中継基地を提供したいんじゃが如何かな?」

「何が狙いかしら、サンタさんが似合いそうなお爺ちゃん?」

 

ニコやかな笑みを浮かべながら誘導をしたそうにしている蒔苗に怪訝そうな瞳を投げ掛けるエクセレン、蒔苗 東護ノ介という名前には覚えがあった。地球のアーブラウの代表を努めているやり手の政治家、見た目こそ老人だがその中に秘められている鋭い刃のような部分はエクセレンには見えていた。そしてこの男こそクーデリアが火星ハーフメタル資源の規制解放に関して交渉を進めていた相手でもある、視線を向けると首を縦に振った。

 

「美人さんには嘘は言えんの、だがこの老骨にはもう夜更かしはちと辛くてな。明日の夕刻、この島にあるわしの屋敷に来て欲しい。そこで詳しい話をしようではないか、基地は自由に使ってくれて構わんぞ」

 

そういうと蒔苗は去っていくがオルガはエクセレンやクランクに視線を投げてどうするかと聞いてみる。クランクも蒔苗が代表である事を承知しているしやり手の政治家には下手に逆らえば絡め捉える事は知っているので素直に使わせてもらおうと進言しオルガもそれを受け入れる事にした。結果、鉄華団は蒔苗の言葉に甘える形になり中継基地に物資やMSを運び込んでいく、すると次第に空は明るくなっていき初の地球での朝を迎えた。

 

「朝か……夜更かしはお肌に悪いけどそうも言ってられないわよね」

 

空からサンサン降り注ぐ太陽の輝きを受けながら油断をしてはいけないと鋭い言葉を発するエクセレン、何時ギャラルホルンが来ても可笑しくはない。早くMSの地上に対応させる為の調整を急がなくてはならない。

 

「うわっエクセレン姉さんスタイル良いなぁ!!羨ましいぃ!」

「ホントッホントッ!!しかもお肌プルプルで憧れるぅ!」

「うーん本当にいい肌……聞いた限り火星の環境って良くないのに凄い」

「いやんもうそんなに見ないでよぉ♪」

「「そう言いながらセクシーポーズを取る姉さんに憧れるぅ!」」

 

なのに浜辺ではドキツいスリングショットの水着姿で立っている姿があった。周囲には普段着でいるラフタにエーコ、アジーといった名瀬の頼みで鉄華団に同行してくれたタービンズのメンバーがエクセレンのスタイルの良さに声を漏らしながらガールズトークを始めていた。

 

「ってこんな事してる場合じゃないだろうに……さあ行くよ」

「あ~ん折角ドルトコロニーでこっそり買った水着を試しかったのにぃ~!!」

「今の所『TD』に一番詳しいのは貴方なんだからしっかりと働いてもらうよ」

「アジーのいけずぅぅぅ~!!!」

 

そんなこんなで強制的に着替えさせられたエクセレンはきびきびと『TD』の調整作業とヴァイスの地上対応調整に終われるのであった。リベイクも完成した事で『TD』搭載型のMSは3体になっているので兎に角エクセレンが働いてくれないと中々終わらないのである。だから泳がせている暇などないのである。

 

「やれやれ大変ね~出来る女って。まあ弟達だけに仕事させるなんて駄目なお姉ちゃんになる気はないんだけどね」

 

ヴァイスのコクピット内でキーボードを叩きながらプログラムの値の変更などを行っていくエクセレン、無駄口を叩きながら指などは一切無駄が無くただただ作業を進めていく。それを見つめるエーコは簡単の溜息を漏らしながらある事を質問。

 

「あの聞いてもいいですか?ヴァイスって阿頼耶識対応していないのになんであんなに人間みたいな動きが出来るんですか?」

「んっ?ああそれはヴァイスちゃんの操縦系が他とは異なってるのよ」

 

MSの操縦はプログラムパターンを念頭に入れてスティックやペダル等で操作入力し、それをMSが現時点で最適なプログラムパターンを選定し機動するという流れがある。しかし動きが大ざっぱになったり、対応がコンマ数秒遅れてしまうなど、柔軟性に欠けてしまう。阿頼耶識の場合はパイロットが思考で操作入力し機動実行という早く高い柔軟性を発揮するがヴァイスはそのどちらにも当てはまらない。

 

「違うってどんな感じに?」

「この子には学習型のコンピュータが組み込まれててね、私が動かしたデータを学習して機体のプログラムとかを最適化して私に合わせてくれてるのよ。私はもう長い事この子に乗ってるから阿頼耶識並に動けるようになったの」

「へぇ~!それ凄いじゃないですか!!阿頼耶識なんか必要ないぐらいに」

「それはそうでもないのよ」

 

凄いと褒めるエーコとは逆に苦笑するエクセレン、確かに操縦者に合わせてくれるのは有難いがそれには操縦者による膨大な稼動データが必要になってしまい兎に角時間が掛かる。そしてこれを採用してしまうとそのパイロットに機体が合わせてしまうので他のパイロットが使えなくなるという欠陥がある。専用機なら良いかもしれないがこれは数を揃える場合には全く向かない。

 

「さてとこれで調整終了!次はリベイクだったわよね」

「はいお願いします!」

「はいは~い。それにしても空を飛べるのってヴァイスちゃんの専売特許だったのに……気付けばバルバトスにリベイクまで飛べるのよね。なんか嬉しいような悲しいような……」

 

リベイク、バルバトスの『TD』のチェックと調整。そして飛行テストを行った結果テスラ・ドライブは正常に作動している事を確認した時には既に時間は夕刻となっておりオルガ達は蒔苗と会談をするべく向かっていった。エクセレンは残った皆と蒔苗の手配で届けられた魚を食べてオルガ達の帰りを待った。そして帰ってきたオルガ、ビスケット、クーデリア、メリビットの表情は良くなかった。

 

「つまり蒔苗のお爺ちゃんはこう言いたい訳。自分は鉄華団を庇ってやっているんだから此方の要求を呑め、飲まないなら直ぐにギャラルホルンに引き渡すぞって」

「ああそう言う事だ……くそやってくれるぜの爺」

 

それを聞いて表情を硬くするエクセレン。戻ってきたオルガ達の口から話されたのは衝撃的な内容だった。現在蒔苗には何の権力も無くクーデリアとの間にハーフメタル関連の交渉も意味は無さない。だが再び代表に返咲ければそれは実現可能だから連れて行け、連れていけないのならば今すぐ庇うのを止めてお前達をギャラルホルンに引き渡すと。何とも一方的でふざけた条件だがそうするしかないというところまで来ている気もする。だがそれを実行する為には真っ向からギャラルホルンと対決するのを覚悟しなければいけない。

 

「んで団長はどういう考えなんだ?」

「……考え、中だ……流石に、まだ考えてぇ……」

 

流石のオルガも迷いを見せていた。顔に影を作り困っていた。

 

「受ける必要などありません、鉄華団の皆さんは私からのお仕事を確りと果たしてくださいました。ならば後は私の仕事です。大丈夫、なんとかなります!」

 

そう後押しするようなクーデリアの言葉にオルガは更に詰った。そして基地の通信設備に来たという連絡を受けるとオルガは一人、砂浜に座りこんで空を見上げた。満天の星空、少し前まで自分達はあの中に居たというが信じられない。真っ暗な宇宙、それが真実なのに地球からは青い空に浮かぶ星々となっている。不思議なものだと言葉を漏らすと背後から物音がした。振り返るとそこにはビスケットが居た。

 

「なんだビスケット、まだ寝ないのか?」

「オルガこそ、如何したの」

「全然考えが纏らなくてな」

 

二人揃って座りこんだ砂浜は静かに打ち寄せる波の音だけが木霊していた。そんな静寂を破るようにビスケットが言った。

 

「オルガ、オルガは蒔苗さんの話を受けようとしてるんじゃない?」

「……分かるか」

「うんまあ長い付き合いだしね。でもハッキリ言うと僕は反対かな、危険だしクーデリアさんを送り届けるっていうオルガの言う所の最低限の筋は通してる訳だし」

「ああ、筋は通してる。確かにな……」

 

筋、自分が重視しているもの。それはしっかりと通され果たされている、地球に留まる理由もない筈……。そうない筈なのに火星に帰るという選択肢を選びたくない自分がいた。

 

「このまま火星に帰っても俺達はきっと上手くやっていけると思うよ、エクセレンさんのお陰で本部の経営もやっていけてるし仕事もテイワズから来る。もう確りとやっていけてるよ」

「だな……帰るっているのも確りとした道の一つだな」

「じゃあ何で……」

「俺はよビスケット、今の鉄華団が好きなんだよ」

 

何の飾りもない言葉、心に従った結果の言葉に偽りはなくただただ心の中で思い形作られた物。それをビスケットは少し驚いたように受け止めた。

 

「CGSを鉄華団にしてよ。皆で馬鹿騒ぎしながらも必死に前に進もうとする鉄華団が好きだ、ライドがチビ達の為に大人ぶって笑われて怒ってる所が好きだ。シノがユージンと女がらみのことで話しててヤマギがそれ見て呆れてるのが好きだ。昭弘と昌弘が一緒にトレーニングしてるのが好きだ、姉さんがふざけてそれに釣られて皆が笑ってるのが好きだ。ミカとアトラ、そしてクーデリアが一緒に皆に飯配ってるのが好きだ。今、皆が居る鉄華団が好きだ。そうだ、今の鉄華団が好きなんだよ」

「オルガ?」

「俺にとっちゃ……クーデリアも、鉄華団の一人なんだよ」

 

その言葉を聞いてビスケットは悟った、何故蒔苗の提案を呑もうとしているのかを。鉄華団の一人、クーデリアを残して自分達は火星に戻っていいのか。団員のやりたい事に手を貸して一緒にやり遂げるのが鉄華団じゃないのかと。

 

「だけど蒔苗の依頼を受ければ当然危険が付き纏っちまう……今の鉄華団が壊れちまうかもしれねえって心のどこかで思っちまったんだ……でも俺はクーデリアを、あいつが見た目的の手伝いをしてえ。そう思ってるんだ」

「オルガ……ごめん。てっきりオルガは危険な道ばっかりを選ぼうとしてるって思ってた。三日月に見られてるからって無理してるって、でも違った。オルガは誰よりも鉄華団を大切に思ってたんだ」

 

立ち上がって笑ったビスケットはそのまま歩き出して行く、それを止めるように名前を呼ぶと振り返ってこう言った。

 

「好きにすればいいんじゃない?団長が決めた事ならそれに従うし全力でサポートするよ!!」

 

そう言い残して去っていくビスケットにオルガは大きく笑った。やっぱり自分はビスケットという存在が必要だ、あいつは自分の相棒だと改めて実感させられる。三日月とは違った頼れる仲間、その言葉が何処までも有難かった。心の楔が消えたようながした。そんな事を思っていると木々の隙間からエクセレンが顔を覗かせた。

 

「オルガ、決めたの?」

「ああ。決めたぜ姉さん、なんか心配かけちまったか?」

「お姉さんは何時も弟のことを信じてるから心配なんかしてないよ」

「それはそれで寂しいかもな」

 

互いに笑みを零すと共に空を見上げた。あの空の向こう側に帰るべき火星があるがその前に後一仕事をこなそう。

 

「やっぱりビスケット君はオルガの足りない物を補ってくれるね」

「なあ姉さん、俺に足りないものって何だよ」

「明確なビジョン、どんな未来を掴みたいのか。それを考える事かな?」

 

そう言われると確かにそうかもと思いつつももう少し言い方を変えてくれてもいいんじゃないかと思ってしまった。だがだからこそこの姉らしい。

 

「んじゃお姉さんに足りない物は?」

「自制心羞恥心自重」

「わお容赦ない!でもそんなもの捨ててしまえ!それを得たら私ではあらず!!」

「はははっ確かにな!やっぱすげえよ姉さんは」

 

気付けばオルガの心に掛かっていた靄は消えてこの星空のように晴れやかになっていた。やるべき事は決まった、やりたい事も見つけた。なら後は走りぬけるだけだ。

 

「姉さん」

「何かしら?」

「これからも面白可笑しく頼むぜ」

「了解♪では早速私の普段着をもっと刺激的に」

「それは面白可笑しくじゃねえ、狂ってるって言うんだよ」




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