鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使   作:魔女っ子アルト姫

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願いの重力






第15話

ギャラルホルンからの追撃を振り払った鉄華団、キマリスのスピードと攻撃には驚かされたがそのキマリス以上の速度で戦場を移動するヴァイスの影響からか三日月もそこまで驚かずに対応出来ていたらしい。奪取した大型の槍、グングニールは一応バルバトスの予備兵装とされる事になったが本人曰く使い難いということでそのままタービンズの方で売却する事になったらしい。そもそもが加速による運動エネルギーと機体の質量を上乗せした突撃が本来の使用法らしく鉄華団ではそれを発揮出来る機体がいないというのが理由だった。

 

「まあお小遣い稼ぎになったから良いかしらね」

 

という奪った張本人の言葉でこの件は終了となった。

 

 

そしていよいよ鉄華団は地球へと降りる段階にまでやってきた。このまま地球軌道上にある共同宇宙港にて降下船を借りてそれで地球へと降りる手筈になっていたのだがギャラルホルンに手を打たれてしまったのか借りるのを断れてしまったと名瀬が困ったように呟いた。恐らく先程の船が手を打ったのだろうが厄介な事をしてくれた物だ。

 

「何とかならないのでしょうか……?」

「俺達も案内役として、兄弟分として手を尽くしてるんだがな……圏外圏じゃ天下なテイワズも地球圏では一企業に過ぎないからな……現在交渉中としか言えねぇな」

 

名瀬も手を尽くしてくれているようだが状況は芳しくはないようだ、自分達も何か手筈を考えた方が良いかもしれないと皆が考え込んでいる時にオペレーターのフミタンが声を上げた。此方に接近してくれるエイハブウェーブを感知したとの頃、再びギャラルホルンかと身体を硬くするが接近してくる反応は一つだけとの事。あのギャラルホルンが一隻で来る事は考えにくいがそれなら何だと警戒を抱いているとその船から通信が来ていた。

 

「どうします団長さん。受けますか?」

「兄貴」

「ああ、受けてみろ」

「正面に出してくれ」

 

正面に投影されるモニターに全員が釘付けになる、この状況で一体何が来るのかと身構えていると驚きの声が漏れてしまった。映し出された先にあったのはくすんだ灰色の長髪と顔の上半分を金属の仮面のようなもので覆っている恐らく声からして男であった。

 

『いきなりの事で驚かせてしまって申し訳ありません。私はモンターク商会と申します、代表者とお話をしたいのですが』

「鉄華団団長のオルガ・イツカだ、話ってのは何だ」

『ええ。実は一つ、商談がございまして』

 

「モンターク商会?」

「ええ。クランクさんとアイン君知ってる?」

「幾らか聞いた事があるな、100年続く地球の老舗という事ぐらいしか知らないが」

 

格納ドックにてヴァイスの整備を手伝いながら元ギャラルホルンの二人にモンターク商会について尋ねてみる。だが得られる情報は大した事は無く老舗で貿易を主とした商会だという事ぐらいしか分からなかった。それは名瀬も同様で怪しむところがない所が余計に怪しく思えている。

 

「それでモンターク商会はなんて言ってきたんですか?」

「地球への降下船を使わせて上げるから、クーデリアの目的が達成された時にハーフメタルの利権に混ぜろだって」

「成程……確かにあそこの利権を得たいと思っている連中は大量にいる。そこへ今の話で上手く滑り込もうという訳か」

「しかしこれで地球に下りる算段は付いた、という訳ですね」

「ま~そう何だけどね……」

 

ヴァイスを見上げるエクセレンの表情は何処か硬い、あの男、モンタークという仮面の男からは何やら不愉快な物を感じた。故に自分が交渉の場には出なかった。顔をみたくもないし接触したいと思わなかったからだ、あれとは係わり合いには合いたくない。

 

「ブロウニング如何した?」

「う、ううん何でもないの」

 

―――ぁぁっ……何故こんなにも苛々するのだろうか……。あの男の声、それに含まれる感情、読み取ってしまった心の内部の情報が自分を苛立たせている。今はそれを抑え付けると地球降下の為の作戦の準備取り掛かる。

 

 

見えてきた青の星地球、火星とは比べ者にならないほど美しく青い星。豊富な命と自然に溢れている星を目指す鉄華団、それらを待ちうけるかのようにギャラルホルンは動いていた。進路を阻むかのように展開している艦隊、地球外縁軌道統制統合艦隊がその剣を掲げながら鉄華団へと瞳を向けていた。その艦隊司令官、カルタ・イシューは声を張り上げながら親衛隊に檄を飛ばす。

 

「我ら地球外縁軌道統制統合艦隊!」

『面壁九年!堅牢堅固!』

 

長ったらしい上に超が付くほどの硬い言葉の連続だが言葉と共に発せられる親衛隊の覇気と士気は非常に高い、何度も何度も訓練を積み重ね美しいとまでいえるほどの完璧な同一タイミングでの宣言にカルタは気分がよさそうに言葉を漏らしながら席に着く。

 

「確認しました、奴らです!」

「停船信号、発信!」

 

鉄華団の存在を確認するとまずマニュアル通りに停戦信号を投げ掛ける、これで止まってくれれば一番楽な事だがどうせ止まる事などのないとカルタは確信してる。だからさっさと来い、撃沈してやるとやる気が十分だった。その思いに答えるかのように返答は無くカルタは改めて大声で命じた。

 

「鉄槌を下してやりなさい!!砲撃開始!!」

 

合計七隻の同時砲撃が開始される。たった一隻も十分な火力があるというのにそれが七隻も揃っての砲撃、最早虐めや嬲り殺しにも等しい攻撃だが下賎な火星の人間が地球に下りようとしているのだから当たり前の報いだと内心で思いながら降り注いでいく砲撃の雨に撃たれていく船を見つめるカルタの瞳に爆散するような爆炎が見えた。

 

「手応えのない事」

「エイハブの反応増大!こ、これは反応が増えたっ!?」

「なにっ!?まさか……あいつらっ!!」

 

爆炎を突っ切るように飛び出したのは確かにイサリビであった、だがただのイサリビではない。その前方にブルワーズの船を盾にするように設置し猛進し続けていた。砲撃の殆どはブルワーズの船で受け続けイサリビには殆ど損傷は無かった。余りにも無茶苦茶で常識はずれな戦法に大声を張り上げて野蛮な事だとカルタは叫ぶがそれでも鉄華団は止まらない。

 

「くっそなんつう砲撃の雨だ!」

「ブルワーズの船の装甲補強しといて正解だったなユージン!!」

「あたぼうよ!この鉄華団副団長のユージン様の考えだぜ!!さあチャドにダンテ、もっと深く突っ込むぞぉぉお!!!」

「「おおおおおおっっっ!!!!!」」

 

阿頼耶識によってイサリビとブルワーズの船を制御するユージンは常に多量の情報量の圧迫による苦痛を受けているのにも拘らずそれに耐えながら必死に操舵をしながら艦隊との距離をどんどん詰めていく。そしてもう艦隊が目と鼻の先という直前にまで来た時イサリビはブルワーズの船との連結を解除し進路を変更し、ブルワーズの船はそのまま真っ直ぐ艦隊へと真正面から突撃して行く。

 

「ど、どちらに砲撃を!?」

「撃沈撃沈撃沈!!真正面から迫ってくる船から先に沈めなさい!」

 

進路を変えた船も気になるが真っ直ぐと迫ってくる船の方が問題だと判断したカルタはそちらを優先するように指示した。こちらとの距離がかなり迫った時に爆弾で自爆でもして道連にれされたらたまらないという判断から、砲撃が集中していく船の装甲はどんどん抉れ穴が開けられていく。そして遂に最早スクラップと変わらなくなった時船が爆発炎上を起こしながら細かな金属片と共にナノラミネートアーマーにも使われる塗料が周囲一帯にばら撒かれた。それが一帯を包んだ時地球外縁軌道統制統合艦隊の光学モニター、僚艦とのリンクが消失した。

 

「何事!!」

「これは……ナノミラーチャフです!!これでは目も耳も塞がれたも同然です!」

「そんなあれは実戦では通用しない物だろ!?」

「今使われているでしょうが!この程度で我らがうろたえるな!全艦に光信号で伝達、周囲にミサイルを自動信管で発射。古臭いチャフを焼き払いなさい!」

 

一時はうろたえていたクルーもカルタの言葉を受け落ち着きを取り戻し的確な指示の元命令を実行して行く。信号にて艦との連携を取りつつ周囲にミサイルをばら撒きチャフを焼いていく。それによってセンサー類が回復し再びイサリビの位置の特定を急ごうとするが……

 

「行くぞお前らぁぁぁっっ!!!総員対ショック防御!!!」

 

カルタがチャフの対処に追われている間にイサリビは衛星軌道にあるグラズヘイムⅠへと特攻まがいの突撃を敢行した。最大速度で突っ込んでいくイサリビはグラズヘイムⅠの外壁をガリガリと奥深く削りながらそのまま宇宙の彼方に逃げ出すかのように移動していくが特攻を受けたグラズヘイムⅠは炎を吹き出しながら地球へと落下しようとしていた。

 

「総員MS隊の発進!!その後グラズヘイムⅠの救助へと向かうのよ!!急ぎなさい!!なんて手を使うの……!!」

 

作戦は成功、ユージン達がイサリビとブルワーズの船を囮にしその隙にモンターク商会が準備した降下船へと乗り込み一気に降下するという物。極めて順調な物だった、だがそれでもMS隊が此方を狙って向かってきた。それを周囲で待機していたヴァイス達はその対応に向かっていく。

 

「良い、低軌道だと地球からの引力を受けるから気を付けるのよ!」

『うん、なんか機体が重いな』

『だけど問題ねえ、やってやるぜ!!』

『おっさん達、オルガ達の事任せるぜ!!』

『ああ任せてくれ』

『搬入完了、次のランチを急いでくれ!』

 

船の守りをクランクとアインに任せて迫ってくるMSへと向かっていく各機、多数のグレイズに紛れるように一機全く違う機体がいた。それはキマリスであった、それはヴァイスとバルバトスを確認すると一気に加速して迫ってくる。

 

『見つけたぞ宇宙ネズミに羽付き!!』

「今度は私も?浮気性はいけません事よ~!!」

 

此方も急加速しながらオクスタンランチャーで射撃するが以前戦った時よりもキマリスの速度は増加しているのかヴァイスの最大出力でもどんどん迫ってきている。

 

「足の速い男の子がモテるのは小学生までです事よ!」

『姉さん、こいつは俺も任せて』

 

反転したヴァイスを庇うように躍り出たバルバトスは予備と思われる同系の大型の槍を突き刺そう迫ってくるキマリスへと向かっていく。圧倒的な加速による突きをメイスと太刀の二刀流で受け流しつつ頭部を殴りつけた。

 

『ぐっ!この宇宙ネズミが!!今日こそ引導を渡してくれる!!』

『何それ、そんなのいらないよ』

 

再度距離を取ったキマリスは加速してバルバトスへと向かっていくが今度は真正面から向かっていく三日月。キマリスも血迷ったか思いつつもグングニールを構えてその胸部へと突き動かすが当たる寸前にバルバトスは急激な反転をしキマリスの背中の大型ブースターに組みつきそのままそこへ太刀を突き刺した。

 

『な、なにっ!?』

『確かに速いけど姉さんに比べたら単調な突進ばっかり、パターンを見切るのは簡単』

『くそ離れろ宇宙ネズミが!!』

『分かった』

 

バルバトスはブースターを破壊するとそのままキマリスのスラスターを壊してそのまま地球へと向けて蹴った。地球の引力に引かれてキマリスは落ちていくが残ったスラスターを全開にしてなんとか持ち堪えている、まああのままだったら何れガスが切れて落下するだろうが。三日月はそのままキマリスを放置して降下船へと向かっていく。

 

「うわぁエグい事するわねぇ。おっとっ!!」

 

三日月の所業に少し引きつつも接近戦を仕掛けてきたグレイズを足蹴りにして距離を取るとエクセレンは笑った。そしてヴァイスは拳法のような構えを取るとそのまま後方へと飛びながら回転した。

 

「受け取って私の思い、などと申しまして!さぁ~てちょい懐ネタいってみましょう!稲妻一段蹴り!ワンダーボルトスクリュゥゥゥゥゥウ!!!!」

 

回転の勢いのまま加速したヴァイスは最高速度でグレイズへと迫っていくとそのまま胸部へと強烈な蹴りを食わせた。それを受けたグレイズは吹き飛んでしまいそのまま勢いを殺す事も出来ずに地球へと落下していってしまった。それを見届けたエクセレンは何処か艶々とした表情をしつつ降下船の護衛に付こうとしたらそこには見慣れぬMSが降下船を守っていた。

 

「ねえオルガ、あのMSは?」

『ああアジーさんとラフタさんだ!兄貴が心配だからって付けてくれたんだ!さっきもグレイズをあっという間に片付けてくれたぜ!!』

「そりゃ凄い!」

『姉さんも早く降下船に!もう降りるぜ!!』

「了解!」

 

そのままエクセレン達は敵の増援が来ぬうちに地球への降下を開始した。無事に地球へと降下して行く彼らを待つのは一体何なのだろうか……。




次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

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