ノブリス・ゴルドンはかつてないほどの冷や汗をかいていた。モニターには顔すら映っていないがそこにはあの少女の表情が浮かんでいるように感じられる、サウナの中にいるのに寒くて寒くて致し方ない。心の奥から、身体の奥から冷えていくような感覚がある。何故このような事になっているのだろうか、自分の配下であるフミタン・アドモスからの通信が来たと思いきや聞こえてきた声はクーデリア・藍那・バーンスタイン。自分が始末しろと命令した人物であった。
『今回の出来事、貴方が引き金を引いていたのですね。ノブリス・ゴルドン、フミタンから全て聞きました』
「はて、何を聞いたのですかね」
『ドルトコロニーへと鉄華団が運ぶ荷物、それを手配したのは貴方の傘下の会社であるGNトレーディング。そしてそのGNトレーディングはギャラルホルンと癒着している証拠を私は掴んでおります』
ダンテとフミタンが共にドルトカンパニーのネットワークに侵入し不祥事などのデータを漁っている際に偶然発見したそれにはギャラルホルンと密接な関係を持っている会社のリストと今回のデモの鎮圧の連携計画書を入手した。そこにはGNトレーディングが武器などを用意しギャラルホルンの意志一つで使用不可に出来るように細工するというところまで確りと書かれていた。
『そして貴方がどれだけ下賎で愚かな事をしていたかの証拠も大量に……フミタンから全て話は聞きました。貴方の部下であった、だがもうそれも辞めると』
「……」
『私はあの男に魂まで売った気はありません、お嬢様に尽くすメイドですからっと言葉を預かっておりますわ』
ギリリっという音を立てて歯軋りが起きる、普段考えられないような力に口から一筋の赤い線が垂れる。
「……私に如何しろと?」
『フミタンの事を諦めてくださるなら公表はしませんわ、そして貴方はこれからも私に資金援助を続けてくださるならこの証拠は見なかった事にします。そうすれば貴方はハーフメタルの利権で儲けられるのでは?』
「いやはや言いなさるな……良いでしょう、それで手を打ちましょう」
同時に通信が途絶する音がサウナ内に響くと思わず身体から力が抜け同時に汗が噴出していく、あんな小娘に自分が此処まで手玉に取られるなんて思いもしなったことだろう。火星支部のギャラルホルンさえ操り戦争の戦火拡大による利益を増すフィクサーである自分が……兎も角今は何も考えずにサウナから出て思い存分アイスを食う事に決めたノブリスはノロノロとサウナから出ようとして自分の汗で転び、頭を打って気絶し、その後秘書に発見され脱水症状を起こして僅かな間、入院したという。
「よし出航すんぞ!!」
鉄華団としての仕事を終えたイサリビはハンマーヘッドとの合流ポイントに向かいつついざ意気揚々と地球への進路を取ろうとしていた。念のためとしてハンマーヘッドは既にドルトから離れた場所で待機しているのでそこへ向かう、これからは漸く地球を目指す事になる。ドルトでの大仕事も無事に終わった事で最初の仕事を片付ける事が出来ると思っていた矢先の事だった。ブリッジにアラートが鳴り響いた。
「なんだっ!?」
「エイハブウェーブの反応を確認!戦艦クラスの物だよ、数は3!!」
「映像出します」
フミタンが操作して出したモニターの映像にはイサリビの後方から迫ってくるギャラルホルンの船ともう一隻が迫ってきているのが見えている。だがその内一隻はウェーブの波長が記憶されていた、火星を出発する際に此方を攻撃して来たギャラルホルンの船であった。
「おいおいまさか追って来たのかよご苦労なこった!!」
「フミタンさん、姉さん達に出撃準備をさせてくれ!」
「了解しました。総員第一戦闘配置、繰り返します総員第一戦闘配置。各パイロットは搭乗機へ」
格納ドックにてヴァイスとバルバトスの『TD』の調整の手伝いをしていたエクセレンはすぐさまパイロットスーツを着に行くとヴァイスのコクピットに入った。
『すまないブロウニング。私とアインのユーゴーはブルワーズとの戦闘の修理が済んでいない、だからそちらだけで頼む。私達は整備班の手伝いをする』
「分かったわ、なんとかなるでしょ。ニューフェイスもいる事だしね!」
『すまん!』
クランクのカラの通信内容を頭に入れつつも着々と出撃準備を済ませていく、今回の戦力は少ないかもしれないがそれでもきっとやってみせる。今自分はかなり気分が良い、調子も万端なエクセレンは喜々としてヴァイスの立ち上げを終了させ颯爽と出撃した。続いてバルバトスが出撃するとその後に続くように少々キツいピンクに塗装されたグレイズが飛び出した。
『おう待たせたな!今回からこの俺も参加させてもらうぜ!!』
『シノ?グレイズで出るの?』
『違うぜ三日月!こいつは流星号だ!!』
「流星ってロマンがあって素敵ねぇ。でも流星っていうカラーリングではないわよねピンクって」
グレイズに乗り込んでいるのはシノ、今まで昭弘が乗っていた筈の機体は完全にシノの専用機だと言わんばかりに塗装され頭部には鮫のような鋭い目までペイントされている。では昭弘はどうなったのかというと最後に飛び出した機体が答えとなっている。クリーム色の装甲に特徴的なバックパックとシールドを保持している機体、それこそタービンズの手を借りて改修され昭弘の機体となった『ガンダム・グシオンリベイク』であった。
ブルワーズに使用されていたような重装甲は影も形も無く機体を軽量化、稼働時間が大幅に延長されているのが見た目からでも伝わってくる。高い汎用性とタービンズが製作した『TD』一号も搭載されており高い機動性も獲得する事に成功していた。
『昭弘、それ完成したんだね』
『ああさっきタービンズから受け取った所だ。だけど俺はまだ阿頼耶識に慣れてねえ、援護頼むぜ』
「お姉さんに任せておきなさいって!」
『おう俺もこの流星号で活躍してやるぜ!!』
全員の士気が高い中、此方に迫ってくるリアクターの反応を検地する。向かってくるのはグレイズが約6機、此方の機影を見た瞬間にライフルを構えて早速発砲をしてくる。この距離では撃っても装甲で弾かれるだけ、つまり脅しや牽制の類であるが鉄華団にそんな手は意味を無さない。
「それじゃあ三日月は好きにやって良いわ、昭弘とシノ君はタッグを組んで互いをフォローしあうのよ」
『分かった』
『分かったぜ姉さん!!』
『おう、昌弘の前で情けねえ姿は見せねえぜ!!』
それぞれが了承の言葉を返してくると真っ先にバルバトスが飛び出して行きその後を追うかのように流星号とリベイクが追いかけるように速度を上げてグレイズへと向かっていく。それを援護する為にオクスタンランチャーを構えるが今回必要かどうかという事を考えた。それは通信から聞こえてくる声が原因であった。
『バルバトス、凄い上機嫌だなお前。俺もだ』
テスラ・ドライブが搭載された事でバルバトスを動かす三日月の顔は以前より良くなっていた。期待の反応が良くなっただけではなく機体そのものが軽くなっているかのように動きに更なるキレが出るようになっていた。超至近距離にて振るわれるグレイズの斧ですら紙一重、産毛だけを切らせるような回避で華麗な回避をしながらメイスを叩きつけ頭部を潰すとそのまま胸部を膝蹴りするとそのまま0距離での滑空砲をお見舞いする。コクピット部には穿った穴がでかでかと空きそのままスパークを起こして爆発を起こした。
『うん、やっぱり機嫌良いんだなお前も』
「やれやれ凄いわね、更にパワーアップしてるってのが分かるわ。そりゃ」
三日月とバルバトスは明らかに強くなっているのを実感しつつランチャーの引き金を引いた。それは流星号とリベイクが2機がかりで仕留めようとしているグレイズの頭部を捉えた。
『姉さんの援護か!助かったぜ行くぜ昭弘!!』
『おう!!』
頭部に受けた銃弾によって動きが鈍ったグレイズ、その隙にリベイクは一気に距離を詰めると背後に回りこむと両腕ごと拘束するように腰に腕を回して動きを封じると流星号が斧を奪い取ると頭部に突き刺し止めに胸部へ深々と斧を突き刺した。流星号はブルワーズのマン・ロディから阿頼耶識を移植しているらしくかなり動きをしており同じく阿頼耶識を搭載しているリベイクとの連携が様になっているようにも見える。
「うんうん良い連携が取れているようでお姉さんは嬉しいぞっ!!」
弟達の戦いに見惚れているようで確りと此方に向かってくるグレイズに気付くと機体を翻し距離を詰めながらBモードで連射する。グレイズも回避行動を取るがそれさえも計算に入れた銃撃に成す術も無く捕まって行く。そして近距離にまで接近したヴァイスはシシオウブレードを抜刀すると斧を叩き落としながらライフルを切り捨てる。武器が無くなって逃げようとする敵を逃がさぬように特殊貫通弾を装填し引き金を引く。スラスターに命中しつつ弾丸は機体を貫通しコクピットを破壊しグレイズを動かぬ屑鉄へと変えた。
「わぁお!この貫通弾もいいわねぇ♪気に入ったわ!んっ?」
テイワズに発注した弾丸に満足しているとアラートが鳴り響いた、前方から何かがかなりのスピードで迫ってきていた。軽く機体を動かしてそれの進行上から動くがそれは弾丸のように宇宙を駆けて行くMSであった。それは真っ直ぐとバルバトスへと向かっていく。
「三日月何か行ったわよ!昭弘にシノ君、私は三日月の援護に行くわ!」
『分かった!残りは任せてくれ!』
グレイズを任せるとヴァイスの出力を上げ先程のMSを追いかける。追いかけながら先程のが何なのか解析させるが先程僅かに拾えたリアクターの反応を調べて見るとそれはガンダム・フレーム特有のツインリアクターであった事が明らかになった。
「っという事はあれも悪魔ちゃんなのかしら!?」
バルバトスの元へと向かうが流石に時間さの為かあれは既に三日月と交戦状態へと入っていた。凄まじいスピードでバルバトスへと突進してはリアクターの慣性制御と複数のバーニアによる方向転換によって縦横無尽に飛び回りながらバルバトスへと槍を構えた突撃を繰り返していた。
「三日月無事!?」
『姉さん大丈夫だよ、でもこいつ速い……!!』
なんとか滑空砲で狙ってみようとして見るものの余りにも早すぎるためにそれが出来ずにいる。それどころか狙おうと足を止めればそこを狙われ巨大な槍を構えて突撃してくる、初めての相手に三日月も手間取っていた。
「私の弟にちょっかいなんて1光年早いわよぉ!!」
ならば速度には速度で対抗しよう、ヴァイスのリアクターとテスラ・ドライブを最大限に発揮しヴァイスのフルスピードを発動するエクセレン。久しく感じる身体に掛かる感覚に少し顔がニヤ付きながらガンダム・フレーム、キマリスを追いかける。圧倒的な速度だがヴァイスは同等の速度に達するとキマリスの背後を取った。
『このキマリスの背後を取っただと!?なんて速度だ!!』
「ヴァイスちゃんは速度が自慢でもあるのよぉ!!さてと、これよりサービスタイム始めちゃうわよ!」
ランチャーを握りなおすとキマリスの頭部、腕部、胸部に連続して弾丸を打ち込んでいく。それによってスピードが落ちてしまうキマリスは槍の矛先をヴァイスに向けようとしたがそこへバルバトスの滑空砲の弾丸が飛来し胸部を捉える。
『ぐぅ!!くそ汚らしい宇宙ネズミが!!』
「あららネズミさんにそんなこと言うと夢の国から刺客が来るわよ?」
『何だ夢の国とは!?』
「うーん、千葉県にあるところかしら?」
相変わらずフリーダムな言動をぶっ放しながらキマリスの各部へと銃弾を打ち込んで行く。Bモードの弾丸を受け続けた事でナノラミネートアーマーが弱まってきているのを感じたのか離脱しようとするキマリスだが
「その武器、おいてけっ~♪」
手元を狙った弾丸に槍を落としてしまった。だがそれには目もくれずキマリスは一気に加速して後退して行くと同時に信号弾を放ち残った一機のグレイズと共に撤退して行く。如何やらそれ以外のグレイズは昭弘とシノが仕留めたようだ。
「武器ゲット♪三日月これって使う?」
『姉さんが使えっていうなら使うよ、でもなんか使いにくそうだね』
ビスケット「いよいよ地球も迫ってきたけど緊張してきたなぁ……。
なんだかんだあったけど道中も楽しかったなぁ。
でもまだまだ問題が山済み、僕も頑張らないと。
エクセレンさんばっかりに仕事を押し付ける訳には行かないからね。
次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使