鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使   作:魔女っ子アルト姫

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足跡のゆくえ






第13話

ドルトコロニーの手前、廃棄され無人となった資源採掘衛星。そこに集まっているのは鉄華団団長のオルガ・イツカ、タービンズ代表であり鉄華団の兄貴分の名瀬・タービン。オルガの付き添いと護衛という名目でエクセレン・ブロウニング、そしてテーブルの目の前にはドルト2の労働者組合の代表のナボナ・ミンゴともう一人、ドルトカンパニーの役員であるサヴァラン・カヌーレが席に着いている。ドルトコロニー到達しようかという数日前に名瀬がドルトコロニーにあるテイワズ系列の会社を通じてナボナに連絡し積荷に関する話をしたいという事で此処へ来て欲しいという連絡を送ったのである。

 

「希望という言いますと矢張り荷物ですか?!」

「ええ。ですがハッキリ言いますがナボナさん、アンタらクーデターでも起こす気なんですか。戦闘用のMWにアサルトライフルとその他弾薬……明らかに引き渡し先である労働者関連の施設には不必要だと思うんですがね」

「はい間違いありませんが……あのもしやご存知ではないのですか?」

「何をだいナボナさん」

「い、いえクーデリアさんを地球へと送り届けようとしている若き騎士団である鉄華団の方々ならご存知の事かと思ったのですが……」

 

視線を向けられるオルガだがそれに関する回答など持ち合わせていない、それはエクセレンも同様であり後ろで立ちつつ肩を竦める。イサリビ内で処理しなければいけない書類などはエクセレンとメリビットが手分けをして行う事になっているのでそれらに関することがあったのであれば確実に分かる筈だが心当たりがない。

 

「我々ドルトの労働者は不当な賃金と過重な労働を強いられております。身体が駄目になれば即捨てられる、それは我々にとって我慢出来ません。その不当な扱いの撤回を求める為のデモや会社を交渉の場に引きずり出す為に必要なのです。そんな時、クーデリアさんの代理を名乗る方からお言葉を頂いたのです」

「言葉ぁ?どんなの言葉だい」

「ドルトでも反乱の狼煙を上げるのに必要な武器などの援助を行うと……」

 

その言葉の後、エクセレンの胸ポケットに入っている端末が静かに二回震動する。この端末はイサリビのブリッジと現在も繋がっておりそこでクーデリアは話を聞いておりそれが正しいのかを判定して貰っているが震動は二回、即ちNO。自分はそんな事は一切知らないということになり誰かがクーデリアの名を借りての犯行という事になる。

 

「悪いが俺達は火星から此処までの道中でそんな話は一度も聞いた事がねえ。それに渡す予定だったMWなんかを調べさせて貰ったが細工がしてあったぞ、遠隔操作出来るようにな」

「な、何ですと!!?」

「ある周波数を発せられるとコントロールが奪われるって代物だったぜ、このまま使ってたら確実にやばい事になってたな」

「そ、そんな……それじゃあ私達が来ていなかったらナボナさん達は……」

「恐らく、ギャラルホルンの平和維持って名目の元で虐殺だろうな」

 

それを聞いた顔色の悪い痩せているサヴァランはドカりと椅子に腰掛け顔を手で覆っていた。この連絡を忙しいからと蹴ろうとした自分が愚かしくやばい所だった、知り合いであり頼れる人であるナボナの頼みなのだからと必死に仕事を片付けてきて良かったと心からの安堵と絶望が同時に押し寄せてきた。矢張り労働者達が行おうとしているデモはギャラルホルンによって鎮圧という名目の虐殺の的になると。

 

「だけどまだまだ挽回のチャンスはあるぜ?」

「「えっ……!?」」

 

名瀬のそんな言葉に二人の瞳に生気が戻った、自分達の目論みは明らかに打破され終わりに近づこうとしたのにまだ会社に何か出来るのだろうかと。

 

「確かサヴァランさんっつったか?アンタ会社の役員だって言ってたな」

「は、はい」

「ならよ、その会社のネットワークに渡りを付ける事は出来るか?」

「わ、渡りですか?えっと、私の持っているPASSコードでネットワークに入る事は出来ますが……」

「十分だ。オルガ、確かお前の所に電子戦が得意奴いたろ?」

 

思い出すは鉄華団がタービンズの艦内に侵入して来た時の事、あの時鉄華団は艦内で可燃性のガスをばら撒きつつも団員の一人であるダンテが艦のコンピューターに潜り込みブリッジからのコマンドを弾き続けたという事があった。その技術は確かな物で現在ダンテは鉄華団において電子戦に最も強く有能な男となっている。

 

「ああダンテ君の事ね」

「そうそうそいつ。そのダンテ君にドルトカンパニーの中から不祥事のデータを集めて貰ってくれ」

「分かった、伝えとく」

「んでナボナさんよ、デモだが後一日か二日引き伸ばせるかい?それならなんとか行けるかもしれねえ」

「……分かりました何とかしてみましょう、後数日ならなんとかなるでしょうしギャラルホルンが此方を弾圧しようとしていると言えば皆警戒し少しは大人しくなるでしょう」

 

そして次々と語られていく名瀬の作戦にサヴァランとナボナの表情に希望が訪れていく、希望は生気と未来を見せていく。そしてその希望は二人にやるべき事を与えると同時にやる気と使命感を与える。それと同時に作戦の概要書を持ってきたビスケットだったが

 

「あら有難うビスケット君」

「ビ、ビビビスケット君!!?ビスケット・グリフォン君かい!?」

「はっはいっても、もしかしてナボナおじさん!?そ、それに……サ、サヴァラン兄さん!?」

「ビスケット、ビスケットなのか!!?は、はははっ今日はなんて凄い日なんだ!?」

 

やってきたサヴァランはビスケットの実の兄であり、ナボナはビスケットが子供の時からの顔見知りということが発覚し更に名瀬とオルガは気合を入れて事態に当たる事を確約し更に作戦を煮詰めていく。そして全ての作戦の確認が終了するとビスケットとナボナ、そしてサヴァランは話を暫くした後笑顔で分かれ二人は乗ってきたシャトルでコロニーへと戻っていく。

 

「兄さん……良かった、会えるなんて思っても無かった……」

 

イサリビの展望ブロックの向こうでは遠ざかっていくシャトルを見送りながらやや涙ぐんでいるビスケットがいた、事故で両親を喪い、歳の離れた双子の妹であるクッキー、クラッカと共に火星の桜農場に身を寄せてから一度も会えていなかった頭が良く立派な兄。そんな兄を尊敬していたし今も本当に頑張っている凄い人だとビスケットは再認識していた。そんな中後ろからエクセレンがビスケットを抱きしめた。

 

「良かったわねビスケット君」

「はい……本当に……これもエクセレンさんがコンテナを調べようって言ってくれたお陰ですよ」

「いやねぇあれは三日月が言ってくれたからやろうと思ったのよ、言われなかったらそのまま直行便よ。それよりも上手くいくと良いわね」

「ええ、本当に……」

 

そして遂に作戦の決行日、イサリビは予定通りの作業を終了するとドルトコロニー2へと入港をした。それをヤマギとビスケットが共に受け取りの来た労働組合の人間と手続きを交わしている時だった。突然ギャラルホルンの車両と人間数名が銃を構えたまま突入して来た。

 

「動くな!そのまま両手を上げて大人しくしろ!!」

「な、なんなんですか貴方達は!?いきなり大人しくしろだなんて乱暴ですよ!?」

「僕達が何をしたって言うですか!?」

「ここで武器の取引があるという通報があった。荷を改めさせて貰うぞ、言う通りにしろ!」

 

銃を向けてくるギャラルホルンにヤマギとビスケットは組合の組員と顔を見合わせて何を言っているんだこの人はという表情を作る。

 

「はぁ?じゃあ聞きますけど令状はあるんでしょうね、幾らギャラルホルンと言えどこれはうちの会社が正式な依頼を受けて運んだ荷物です。それをいきなり銃を突きつけて見せろですか、筋が通りませんよ」

 

ビスケットは心の中で深呼吸をすると若干声を荒げながらそう言い返す、その言葉は正しい物だがギャラルホルンの人間はややうろたえていた。その様子から今まで絶対的な権力に物を言わせて好き勝手やっていたのが良く分かる。それに銃を突きつけられているのに全く動じていない事も合さり更に相手の動揺は大きくなっていく、こんな銃よりも以前経験したグシオンの400ミリの方が遥かに怖い。

 

「う、うるさい早く見せろ!!抵抗する気か貴様!!!」

「駄目だこりゃ話が通じません、すいませんがサインがまだですが開けても宜しいですか?」

「はい大丈夫です、私もまさかこんなギャラルホルンが失礼な集団だとは思いませんでしたよ。これは正式に抗議させて貰いますからね」

「では開けますね」

 

組合の冷たい視線を受けながら銃を向け続けるそれに応えるようにヤマギはコンテナを開けるがそこにあったのは工業資源や工場で使う機械などの交換用のパーツで武器などではなかった。まあ確かにこれを持って人を殴れば武器にはなるだろうが。

 

「な、何だこれは!?」

「何だって注文を受けた工業資源と機械の交換パーツですか」

「ぶ、武器がないだと!?ふ、船の中だろ!?見せろ!!」

「そりゃ武器ぐらいありますよ、鉄華団は基本的に民兵組織ですから。あくまで自衛用とかのMSとか阿頼耶識搭載型のMWぐらいはありますけどそれを無許可で見せろって言うんですか!?幾らなんでも横暴です!!!すいません今すぐギャラルホルンの管理局に連絡してください!!」

「おう任せろ!!」

「えっま、待て!?な、何故こうなるんだ!?」

 

この後市民通報でギャラルホルンの管理局が出動し事情を説明した所、その隊員達は無許可で令状も無しで他組織の船を強制捜査しようとしたとして連行され何も知らず真面目に仕事をしていたギャラルホルン職員は必死に鉄華団と組合員に頭を下げるのであった。ヤマギとビスケットは頭を下げる職員には見えない後ろで手を叩いた。

 

その最中、ドルト2のコロニー内では抗議活動の為に工場を停止させた労働者達が抗議の為のデモを行っていた。但し武器などは一切持たず大きな旗に改善要求!などを書き街の中を歩きつつ本社の建物とは一定の距離を取り続けていた。

そしてサヴァランは会社のネットワーク内にダンテを上手く入れる事に成功していた。ダンテは片っ端から会社の役員の不祥事や横領などの資料を手に入れる事に成功、サヴァランはそれを元に労働者達が改善交渉の場に出なければこれらを公開すると言ってきたと会社の重役達と交渉。重役達はそれに怒りを覚えようと舌がその前にサヴァランがいきなり公開もせずに和平のチャンスと工場停止による被害拡大を防げるという話術でなんとか重役達を交渉の場に引きずり出す事に成功した。

 

「それにしてもフミタン、貴方クラッキングまで出来るなんて知りませんでした……ダンテさんのお手伝いが出来るなんて」

「メイドの嗜みです。それとお嬢様、まもなくノブリス・ゴルドンと通信が繋がります」

「分かりました。さあ、私の出来る事を、やります」




アトラ「何だから凄い事になってる……。

やっぱりエクセレンさんがいるからかなぁ…。

そういえば前に三日月を抱きしめててなんか気持ちよさそうだった……。

…………。

エクセレンさんに相談しなくちゃ!!

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

クーデリアの決意

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