無数に浮遊し漂い続けるデブリ、厄祭戦時代の遺物やガラクタがただ無造作に漂い続けているデブリの奥にて鎮座するように居座る二隻の船。その船は地球火星間にて名が知られている武闘派の海賊ブルワーズの船、その船の前方ではラフタの百里と三日月のバルバトスが斥侯として出撃偵察を行っているところだったが待ち伏せを仕掛けてきたブルワーズのマン・ロディと戦闘を繰り広げていた。
「おいまだ奴らの船は見えてこねぇのか!!」
「はいまだ反応は……」
ブルワーズのキャプテン、まるでファンタジー系に出てくるオークのような顔立ちをしているが辛うじて人間だと分かるような男、ブルック・カバヤン。今回の仕事はあの地球を支配していると言っても過言ではないあの強大な組織であるギャラルホルンからの依頼、これさえ成功させれば自分達にも凄まじく大きい後ろ盾を作る事が可能になる。その為にもタービンズ達からクーデリアを必ず奪い取るとほくそ笑んでいると突然のアラートが鳴り響いた。
「何だ!?」
「左舷よりエイハブウェーブの反応!デ、デブリ帯の中から!?」
「ま、まさかぁ!!?」
自分達の船が居る場所ですらデブリの薄い道を選び慎重に操艦してきたというのにまさかデブリがありまくる上に周囲の状況さえ把握出来ないデブリ帯を艦艇で突破してくるなんて正気の沙汰ではない。だがそんな正気ではない事ですら簡単にやってのけるのが鉄華団である。イサリビの後に続いてきたハンマーヘッドは敵艦を確認すると一気に加速して敵艦へ突撃して行く。
「よし全員準備はいいな!?うちの船が何でハンマーヘッドって言うのか教えてやれ!!!」
「アイサー!総員、対ショック用意!!」
「リアクター出力最大、加速最大!艦内慣性制御いっぱい!」
「吶喊!!!」
動力炉の出力を限界にまで高めたハンマーヘッド、まさか来る訳がないと思い込んでいたデブリ帯から来た事で右往左往している敵へと船が出せる最大限のスピードを発揮しながら一気に突撃した。まるで金槌のような形状をしているハンマーヘッドの衝角、それを最大限のスピードで殴りつけるかのようにブルワーズの船に押し付けながら巨大なデブリの山へと突撃した。なんという出鱈目なやり方だがあれではやられた側の船はたまったものではない。
「こっちも負けてられねえぞぉ!!!」
「うおおおぉぉぉぉっっっ!!!!」
ハンマーヘッドの勇姿を見たオルガが叫びを上げると操舵を担当するユージンも同意するかのように気迫を上げながら艦首からアンカーを射出しもう一隻の敵艦へと取り付いた。そしてそこからシノ率いるMW隊が突入し敵艦の内部制圧を目指す。ブルワーズも焦っているのかまだ残していたMSを出撃させて掃討を狙おうとしているがそこへイサリビやハンマーヘッドから出撃したMS隊が対処する。
「わおデブリ帯って本当にゴミだらけぇ~、それじゃあ本当のゴミを片付けちゃいましょう!」
次々と迫ってくるマン・ロディにエクセレンはオクスタンランチャーを持ちかえながら声を上げる。あの機体にもヒューマン・デブリが乗っている、だが昭弘の弟がいるという機体とはリアクターの反応が合わない。だがそれでも出来るだけ助けようと決意しながら握るレバーに力が入った。
「クランクさんとアイン君大丈夫?慣れない機体だけど」
『大丈夫だ、操縦系はグレイズとそこまでの相違はない!』
『はいそれに……』
アインは背後から迫ってくるマン・ロディに気付いていないのか動きを見せようとしない、援護しようとエクセレンは構えるが間に合わず鉈が振るわれようとした時アインのユーゴーイーグルは反転し通常のMSとは脚部が逆に着けられているというヘキサ・フレームの特徴を活用し足でがっしりとマン・ロディの肩を捕縛しつつ鉈を弾いて完全に動きを封じてしまった。
『この機体は如何やら俺好みです!』
「あらまあっさりと……」
『アインもあれで結構やる男だからな!俺はイサリビの援護に当たる!アイン、そっちは任せるぞ!』
『任せてくださいっ!!』
相手の肩をギリギリと締め上げていくイーグルは更に出力を上げていき遂にはそのままマン・ロディの重装甲を突破してフレームにまで到達しフレームを軋ませ破壊するという事までやってのける。両肩を切断されてしまったマン・ロディはそのままアンカーで捕縛されアインに拿捕されてしまった。
「わおやるじゃない!さてと私もやりますか!!」
だがそんな時マン・ロディよりも巨大な一機のMSが躍り出てきた。背中には巨大なハンマーを背負ったMS、そのエイハブウェーブの波形は何処かバルバトスに似通っていた。
「ゲッ何あれ!?デカッ!!?ってやばっ!」
そのMSの見た目に一瞬驚いていると周囲のマン・ロディ4機がヴァイス目掛けて向かってきた、どうやら前回の戦闘で見せたヴァイスの戦闘能力をかなり警戒しているようで此処までの戦力を傾けたようだ。先程のMSを追いかけるようにバルバトスが接近してくるが
「三日月はイサリビに!でかいのが行ったわよ!」
『分かった』
先程の奴が行ったイサリビの方が心配になり其方に行かせる、そして自分は迫ってくる4機のマン・ロディの相手をする事にする。
「さあお姉さんの胸に飛び込んでらっしゃい!!」
連携を取り二機が射撃で此方の動きを封じるように射線を取り残りが接近戦を仕掛けてくる。かなり実戦で行ってきたコンビネーションなのか手馴れたように迫ってきては鉈を振り下ろし回避すればすぐさまこちらに向けられて銃弾が迫ってくる。
「くぅぅ~モテる女って参っちゃうわよね。でもお姉さんはそんな簡単に射止められないわよ!!」
デブリ帯でありながら縦横無尽に高機動しながら攻撃を回避していく最中、その内の一機が昭弘が探していた波形をしたリアクターを持っている事に気付いた。つまりあの機体に昭弘の弟が載っている事になる、それをすぐさま昭弘に連絡するとイサリビからグレイズが発進して来た。
「ちょいな!!」
ナパーム弾を放ち相手の塗料を剥がしながらも軽々と回避行動を取りながらの精密射撃で一機のマン・ロディを行動不能にしているとグレイズが迫ってきた。
『姉さん、有難う!』
「気にしないで、さあ行きなさい昭弘!」
『おう!!行くぜ昌弘ぉ!!!』
そう言いつつ一機にマン・ロディへと迫っていくグレイズに驚いているのか他のもそちらへと目が向いている。だがこの作戦は昭弘が弟と落ち着いて話をする必要があるため此方に意識を向ける為に銃弾をぶつけて挑発してこちらに誘導して行く。
「さあさあこっちよ!!」
「待たせたな、昌弘。迎えに来たぞ!!」
『兄貴……?迎えに来た、って…今更、何言ってんだよ…なんで今更……折角諦めてたのにもう、期待して辛くならなくて済むと思ってたのに……』
「昌弘……」
『何で今来るんだよぉ!!!』
モニターに映り込んでいる弟、幼い頃よりも成長してはいるがあの時と変わっていないように兄の眼には見えた。そして変わっているものもあった、瞳の中にある感情。出来るだけ何も考えずどうせヒユーマン・デブリとして死ぬんだ、そうだと思い込んで終わろうとしていた過去の自分と同じ目をしていた。
『俺達はヒューマン・デブリなんだ!!どうせゴミみたいに、屑みたいに終わるんだよ!!!ゴミみたいに死んで行くだけだ!!!』
「煩いんだよさっきからゴミゴミゴミゴミ!!!ならお前は何だ!!昌弘っていう名前は、何の為にあるんだ!!!」
昭弘が叫ぶ、それに思わず言葉を失った昌弘は何を言っているんだと呟いた。
「昌弘っていうのは俺達の親父と母さんがくれた大切な人間の証だ!!物の名前なんかじゃねえ、人として生きて行く為にくれた名前なんだよ!!!」
『お、俺達はヒューマン・デブリで……』
「ああもう何がヒューマン・デブリだ!!いいか昌弘、本当にゴミなのはお前達をそんな風に扱う奴らのことだ!!俺達はゴミなんかじゃねえ!!!」
同時に蘇ってくるのはCGS時代、教官として働いていたエクセレンに無茶をしすぎだと怒られたがその時に自分はヒューマン・デブリなんだからどうせ使い捨ての道具だと行った時に本気で怒られた記憶だった。
―――何が使い捨ての道具よ!!いいよく聞きなさい、私は貴方達を一度もゴミだなんて思った事はない!!貴方の昭弘って言う名前は何なの!!?お父さんとお母さんから貰ったんじゃないの!!!?
「それにお前は俺の弟だ!!ゴミだデブリとか関係あるか!!今度は俺が守ってやる!!命懸けでどんな奴からも、だから俺と来い、昌弘ぉぉぉ!!!」
叫ぶ昭弘にそれを聞いた昌弘は静かに呆然としていた、そして思い出すはヒューマン・デブリとなる前の兄や家族と過ごしていた楽しい記憶。そして昭弘はどんな約束も絶対に守ってくれた事を思い出した、ヒューマン・デブリとして離れ離れになった時も必ず迎えに行くと言って、今来てくれた。そして今度は守ってくれると……そんな魂の叫びを聞いた昌弘はただただ静かに涙を流し続けていた。
『兄貴……俺、行っていいのかそっちに……兄貴のいる、所に……!!』
「ああ来い!俺達、鉄華団は歓迎する!!!」
『あ、ああああぁぁっっっ……』
コクピット内に光る無数の涙、それを隠すように顔を覆う手。そして木霊する泣き声、昌弘はそのまま子供の時のように昌弘に手を引かれて新しい道を歩んでいく。そしてそれと時を同じくしてブルワーズの船はシノ達によって占拠され残った隊長格のMSも三日月によってコクピットを破壊され戦闘は終了した。
タービンズと鉄華団に勝負を挑んだブルワーズ、だが最後は情けなく敗北しその賠償として全財産を奪われブルワーズのクルーもタービンズの資源採掘衛星に放り込まれる事が決定された。そしてヒューマン・デブリの子供達は……。
イサリビのドッグの片隅にて集められたヒューマン・デブリ達、クランクやアインも奮闘した結果マン・ロディの大半を鹵獲する事に成功し殆どの子供達を引きずり出す事に成功した。出来る事ならば三日月が自分を殺そうと迫ってきたからと二人殺ってしまったがそれは仕方がないという物だ。そのヒューマン・デブリ達の元へオルガとエクセレンがやってくる。
「ダンテ、これで全部か?」
「ああ。団長と姉さん、こいつら……」
「大丈夫よ悪いようにはしないわ」
エクセレンが笑顔を見せるとオルガも頷き皆に視線を合わせるように膝を付いた、皆は警戒するように此方に鋭い視線を送ってくるが団長はそれを受け流しながら口を開く。
「火星は良い所でもないが悪い所でもねえぞ。姉さんのお陰で本部の経営はもう楽になったからな、飯にも肉入りのスープが出るぞ」
「はっ……?」
「名瀬の兄貴には話は付けてきた、こいつらは俺達が預かる!」
子供達は何を言っているんだと困惑したように顔を見合わせたりオルガの方を向いたりしているがオルガは更に言った。
「俺は鉄華団団長のオルガ・イツカだ。俺はお前達、ヒューマン・デブリって言われてる宇宙で生まれて宇宙で散る事を恐れない選ばれた勇者達と仕事がしたいと思ってる。どうだ、俺達の仲間になって一緒に仕事しないか?」
「でも俺達は……あんた達と戦ってて……」
「それが仕事、だったんでしょ?ならしょうがないわよ」
一人の子がそういうとエクセレンは優しく頭を撫でた、今まで暴力ばかりで優しさなど受けた事も無かった彼にとってそれは暖かくて心地が良い物だった。
「鉄華団は貴方達を歓迎するわ、今日から皆私達の家族よ」
その一言が切っ掛けとなって少年達はボロボロと無き崩れていった、優しい言葉と笑顔が今まで暴力と辛さだけで塗り固められていた彼らの心を優しく抱擁し開放した。暫し泣き続けていた皆はエクセレンによって食堂へと通された。
「あっ皆!!」
「昌弘……昌弘!!?」
「昌弘、昌弘だ!!」
「よかった無事だったんだ!!」
共に食堂に来ていた昭弘の隣にいた昌弘に少年達は嬉しそうにしながら近づき生きている事を喜び合っていた。それを見たエクセレンはやっぱり子供にはこんな笑顔が一番なんだと再認識する。
「アトラちゃ~ん準備はいい~?」
「は~い!仕込みは終わってますよ~!」
「私もお手伝いしましたのでバッチリです!」
「あらクーデリアさんまで、有難うね。さっご飯にしましょう!」
食事と聞いて皆は余りいい顔をしなかった、彼らにとって食事は娯楽などではなくただの栄養補給でエネルギーバーを食べるだけの作業でしかなかった。またそんな時間が来るのかと顔を暗くしていたら昭弘が声を上げた。
「今日は姉さん達がお前達を歓迎する為の特別なメニューだ、沢山食って良いんだからな!」
「そうよさあ座って」
言われて席に着いた皆に出されたのは熱々の炒飯、ポテトサラダに甘いタレと一緒になっている焼いた肉、そして暖かなスープにミルクが出てきた。湯気とその匂いに一瞬皆呆然としてしまった、これが食事なのかと。自分達が食べてきたのと全く次元の違った物だった。本当に自分達がこれを食べていいのかと皆戸惑ってしまうが昭弘が大きな声で言った。
「いただきます」
そう言ってガツガツと食べ始めるのを見ると皆喉を鳴らし、一斉に食べ始めた。もう何時振りなのかも分からない本当の意味の食事、貪るように食べて行く皆の表情は崩れていた。大粒の涙を流しながら食事を口へと運び続けていた。
「な、涙で前が……見えないよぉ……」
「うめぇ……うめぇ……」
「ぁぁっあったかいよぉ……」
「皆お代わり一杯作ったからね、遠慮なく食べてね~!」
今日、新たに鉄華団の入った少年達は存分に腹を満たした。ただの栄養補給ではない楽しくて美味しい食事、彼らの心も同時に満たされていき本当の意味での食事はこれからも続いていくだろう。
エクセレン「また弟が増えてもうお姉さんってば大変ね。
まあ手の掛かれば掛かるほど可愛いって言うものだけどね。
でも新しい子達なんだか私に遠慮してない?
いいのよもっと来ても。
シノ君なんて私がシャワー浴びようとすると毎回覗きに来るわよ?
次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使