鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使   作:魔女っ子アルト姫

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暗礁





第10話

こちら側に喧嘩を売ってきた武闘派として知られている海賊ブルワーズ。大組織の傘下のタービンズにも喧嘩を売ってきているのも関らず名瀬曰く向こうは妙に強気だったらしい。この圏外圏でそれだけ強気で居るためにはそれだけ強い後ろ盾が必要となってくるのだがテイワズ以外でそんな組織となるとギャラルホルンしかない。それを決定付けるようにクーデリアを渡したら命は助けると言ってきたらしい。

 

「さてと……」

「んじゃ三日月、宜しくね」

「うん、行って来る」

 

ブリッジから出て行く三日月の背中を追い終わるとエクセレンはモニターに目を移す。タービンズが予測したブルワーズが奇襲を仕掛けてくると思われているのは近道として、隠密性の高い物が求められる仕事に使われるデブリ帯内の抜け道とされた。だが正面から行くのではなく宇宙ネズミの強みを活かして戦艦二隻はデブリの中を突破し敵艦の背後を取って奇襲を仕掛ける作戦になった。その為に航続距離の長いラフタの百里とブースターを付けたバルバトスでこちらの艦との距離感覚を狂わせる二重の作戦を行う事になった。

 

「んじゃ船の操舵はユージン頼むぜ」

「おう任せとけよ」

 

着々と進んでいくブルワーズへの攻撃作戦と昭弘の弟、昌弘の救出作戦だがエクセレンは考えていた。昭弘から話を聞いたが本当にただ話をするだけで分かってくるのだろうかと。何年も会えずじまいでいた兄と弟、必ず迎えに行くといっていた昭弘ももう死んでいると思っていたらしい。それは弟も同じで絶望してしまっているのではないかと考える。

 

「ねえオルガ。ハッキリ言って昭弘が弟君に迎えに来たぞ!言って素直にはいこっちに来ます!って言ってくれると思う?」

「んっ?ああっ~……難しい、かもしれねえな」

 

一瞬何を言ってるんだ必ず鉄華団に迎え入れようと皆で決めたのにと思ったが瞬時に頭が冷えて考えてみると確かに難しいと思う。確かに昭弘は迎えに行くと言った、だが結果として今まで来なかった、それがヒューマン・デブリにとってどれだけ絶望と希望を与えていたのかは分からないがどうせ来ない、来たとしても何でもっと早く来てくれないとか遅いんだとかでもめる可能性も考えられた。

 

「ぶっちゃけ話とかしないで鹵獲するのが一番楽だと思うのよお姉さん」

「いやまあそうだろうけどよ……」

「姉貴っていつも楽天的なのに偶に物騒だよな……」

 

操舵の準備に掛かったユージンの言葉に思わずブリッジクルー全員が同意した。

 

「これでも私は大人よ、そう感じにくいだろうけど」

「自覚あったんだな姉さん」

「あたぼうよ!んっ~……昭弘の弟君の説得、私も参加しようかしら。それが一番な気がしてきたわ」

「もうそれで良いんじゃね?これで無理矢理機体をぶっ壊して連れてきたら俺どんな顔したらいいのかわからねえから」

「笑えばいいと思うわよ♪」

「それ絶対死んだ笑いだろ……」

 

そんな話を済ませるといよいよイサリビとハンマーヘッドはデブリ帯の中へと突入していく、そんな中格納ドックへと到達したエクセレンはヴァイスに乗り込むと昭弘のグレイズに通信を繋げる。そこには精神統一でもしているのか静かに目を閉じている昭弘がいた。

 

「昭弘」

『……っ姉さんか、何だ』

「私も弟君の説得に協力する事になったよ」

『否でもこれは俺達ヒューマン・デブリ同士で……』

「何水臭い事言ってるのよ、私は鉄華団の子達全員を弟って思ってるわ。ならその昌弘って子も私にとっては弟なの」

 

強引な理屈と考えを展開しつつ話を進めていく姉に昭弘は戸惑いつつも心の何処かで安心感を覚えていた。タカキを連れて撤退している時に繋がった通信、そして組みあったMS同士が軋む音。それから感じられたのは昌弘の喜びではなく驚きと呆れに近かった気がした。以前自分はもう人間ではなくデブリ(ゴミ)だと思っていた、きっと今の昌弘もそれに近い状態なのだろうと思う。

 

『姉さん、俺昌弘になって言えばいいのか少し分からないんだ……。こんな遅くなって今更約束を守りに来たって言っていいのか解らねぇ……。俺なんかよりずっと酷い事をされて来たに決まってる……』

 

鉄華団、いやCGS時代から続くヒューマン・デブリの扱いはそれらを扱う組織の中ではトップクラスに良い待遇だったと言えるだろう。壱軍の大人に虐めは受ける物のしっかりとした寝床や食事は必ずある、そして何よりもエクセレンの存在が大きいだろう。そんな環境にいた自分と弟では雲泥の差、弟の辛さは理解出来ない。だからどんな言葉を言っていいのか分からないと昭弘が漏らした。それを聞くとエクセレンは笑って言った。

 

「ならこう言ってあげたら。お前はデブリなんかじゃない、屑やゴミ扱いするのは本当にゴミな上の奴らだって」

『姉さん……?』

「私は一度も貴方達をゴミだのって言った覚えはないわよ。人間はね、一度たりともゴミにはならないの。喩え身体が機械だとしても、腕や足が無かろうと、自分が人間だって言う限りそれは人間よ」

『そうか、そうだよ、な……ありがとな姉さん。なんか俺まで嬉しくなって来た、だから俺一人であいつを連れてくる!』

「フフフッそれじゃあちゃんと弟君を連れて帰ってきなさい、そうしたら二人纏めて抱きしめて上げるから」

 

そう言って通信をきると思わず感慨深くなった。矢張り弟達は大きく成長している、人として鉄華団の一員として大きく一歩一歩確実に前へと進んでいる。それが嬉しくなってきてしまった。そう思っていると新たに通信が二つ入ってきた、それを応えるとそこにはパイロットスーツを着ているアインとクランクの姿があった。

 

『ブロウニング、昭弘の話は聞いた。私達も鉄華団の一員として協力するつもりだ』

『自分もです。それに先程三日月君が倒したロディ・フレームの内部を見たのですがヒューマン・デブリなのですが酷く痩せ細っていました……しかもメリビットさんの話では医務室で検査をした所では胃の内容物は殆ど無かったと』

 

それを聞いてエクセレンはレバーを握る力を強くした。ブルワーズのヒューマン・デブリの環境は最悪と言っても過言ではない事が確定した、出来る限り助けて上げたいと思う。

 

「そう……出来る事なら全員助けたいわね」

『そのつもりだ。そして君が歳星で購入したこのヘキサ・フレームのユーゴーで我々も出撃する』

 

歳星にてエクセレンは名瀬にいくつかのお願いをしていた。ヴァイスの特殊弾の手配、そしてもう一つがクランクとアインの機体となるMSの調達であった。元ギャラルホルンのパイロットとして経験のあるクランクは非常に戦力になる上、アインは予備のパイロットとしても期待できる。その考えから自腹と契約金としてその場で渡された金の一部を使って購入したのが買い手が丁度居なかったユーゴーであった。

 

『自分は…出来る限り救いたい、子供達をこの手の届く範囲で!!』

『私も同じ考えだ。出撃許可を取って貰えるか、ブロウニング』

「ええ勿論!」

 

そしてエクセレンが許可を取った直ぐ後に出撃要請のブザーが鳴り響きその場4人は気を引き締めた。

 

「エクセレン・ブロウニング、ヴァイスちゃん行くわよ!!」

「クランク・ゼント、ユーゴーホーク出撃する!!」

「アイン・ダルトン、ユーゴーイーグル出撃します!!」




三日月「決闘の人と班長も出るんだ。

俺達の中で一番強いのって誰なんだろ?

まあ如何でもいいかな。皆強いから。

鉄華団は強いよ。

アトラもそう思うだろ?

次回、鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使

家族のあり方

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