鉄血のオルフェンズ 悪魔と堕天使   作:魔女っ子アルト姫

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第1話

これは異常な出来事だ、異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ異常だ……。

 

辿ってきた軌跡を振り返ると、発狂したように壊れたスピーカーがかき鳴らすノイズのように残された言葉が変わらずそこに羅列し続けている。今見ると如何にも醜悪に見える、見る度に溜息が漏れるのにどうしても一週間に一度はこれを見つめている。あの時、自分が自分でなくなった時の事を思い出しながら、今を生き抜くために過去を踏み台にして今という街道を走り続ける。そうするしかないから、そうしたいから今自分がいるのだから。

 

「さてと、お仕事開始しますかね。しっかり働かないとね」

 

放置していた為にやや皺くちゃになったパーカーを乱暴に引っ手繰ると肩に掛けるように羽織って歩き出していく。今日もちゃんと生きるために、後悔をしない為に生きていく為の行動を一つ一つこなしていくとしよう。

 

 

火星の荒野のような不毛な大地。野生動物による激しい生存競争など行える程の自然もない荒れている大地の上で、激しく土煙をかき鳴らしながら、走りぬけながら打ち合いをしているものがある。戦車と作業機械を掛け合わせたかのような車両、モビルワーカー(MW)と呼ばれる兵器である。三本足のローラーを駆使しながら地形に合わせるような激しい動きをしながら砲等を動かし、目の前の敵目掛けてペイント弾を発射する。その一発がローラー部分に命中し、地面に擦り付けるように車体を落とすMWの中の少年が毒づく。直後にそれらを見守るようにしている一人が、通信機を使いながらまだ残っているMW全機に呼びかけた。

 

「は~いシノアウト♪もっと頑張らないと何時までも勝てないぞ~」

『んなこと言ったって、あいつめちゃくちゃ反応いいんすよ!?』

「その位考慮して撃ちなさいって事よ。さて本日のランチ争奪MWマッチ、本日の最優秀には特盛りお代わり付きが付くわよ~」

 

MWの操縦技術向上の為の模擬戦を見守る一人の女性は、通信機越しに陽気で快活な声を響かせる。底抜けに明るく綺麗な声は操縦している少年達の耳に心地よく響いてくるだけではなく、それによって知らされたこの模擬戦での成績優秀者に送られる食事の特典という素晴らしい商品の事が、より彼らの意欲を刺激して行く。

 

『うおおおおっっ今日こそあの料理は俺のもんだぁぁぁっっ!!!それに特盛りだぜ!?俺が貰ったぁぁぁっっ!!』

『いいや今度こそ俺が貰うぜ!!三日月今日こそ特盛りは俺が貰う!!』

『今日も俺が貰う、姉さんの料理は美味いからね』

「全く貪欲というか分かりやすいというか……まっその辺りが可愛いんだけどね♪」

 

本日の景品が分かった途端に動きが良くなり、どんどん積極性が増していき機敏になっていくMWの動きに笑いがこみ上げてくる。やっぱり少年達のやる気を出させるには何か勝ち取れる物を用意するのが一番、そしてそれを用意してやるのも自分の仕事でもある。そしてどんどん過激になっていく模擬戦は、最終的には昭弘と三日月の二人が残ったが、最後には三日月が勝者となり本日のランチ争奪戦が終了した。

 

「(ハグハグハグハグッ)」

「どう三日月、美味しい?」

「姉さんの料理は何時も美味しいよ、もっと食いたいな」

「お代わりする?」

「うん」

 

勝者の特権を活用して本日の食事を食い尽くしていく三日月。大きなどんぶりに盛られた特盛りの食事を周囲の少年達は羨ましそうに見つめつつも、次こそはと執念を燃やしたりしている。お代わりがやってくると三日月は再び食事に集中し始める。それを微笑ましげに見守るのは、このクリュセ・ガード・セキュリティ(CGS)唯一の女性社員であり、彼ら少年達が所属する参番組の教官をしているエクセレン・ブロウニング。

 

こんな会社に居る事自体が間違っているかのような美人でスタイルも抜群、加えて本人の能力も極めて高い。射撃に至っては誰も敵わず、ライフルを持たせれば百発百中、走りながらの射撃でも異常なまでの命中率を叩き出している。このCGSにいる大人の男全員が狙っているかのような女だが誰一人として物に出来ていない。唯射撃の腕がいいだけではなく白兵戦においても強いからである。彼女の部屋に夜這いをした男性社員が数人いるが、その末路は腕と足の骨を折られた上でパンツ一丁にされて外に縛られて放置されるという物だった。

 

「なあ姉貴、如何したら三日月に勝てんだよ。ずっと俺達負けっぱなしだぜ」

「うーん三日月ってば基本的に一人だから、他の子達と話して集団で襲いかかるとかじゃない?それが一番かしらね」

「やっぱりか~……俺一人で勝ちてぇんだけどなぁ」

「あらあら悩んじゃって、お膝貸しましょうか?」

「い、いらねえよ!!」

 

恐れられつつも諦めきれないという感情を他の社員から向けられるエクセレンは、未成年の非正規部隊の参番組の少年達にも大人気である。綺麗なお姉さんというだけではなく、子供(自分)達をガス抜きで虐待するような屑野郎達(壱軍)と違って筋を通した事をする大人だからである。訓練は虐めの要素が一切ない確りとした物、体罰などはせずに口頭で注意しつつ慰めてくれる。これだけでも子供達にとっては壱軍の奴らとは随分違うという印象を受けるだろう。

 

「あっじゃあ俺が!」

「あら残念シノ君、もうライド君が乗っちゃってました♪」

「へへんやっぱり教官の膝の上は最高!」

「ライドお前ずるいぞ!!」

「今日も出し抜かれちゃったわねシノ君、残念無念また来週!」

 

思わず沸く笑い声。ほのぼのとした笑みをするエクセレンに釣られて周囲も笑みを浮かべていく。彼女が慕われている理由は、その陽気な性格もあり自分達のために自腹などを切って食事を用意してくれる所もある。包容力もあって一緒にいると楽しいお姉さん。参番組の少年達にとってエクセレンは太陽のような存在といえる。

 

 

 

日も落ちた夜、エクセレンは一仕事終えたように扉を開けて廊下に出ると身体を伸ばした。教官という役職は何かと仕事が多いだけではなく、何かと此方を敵視というかゴミのように見てくる壱軍から来る嫌がらせのような物まで処理させられている。ハッキリ言って今の壱軍の方がよっぽど邪魔だ。サボりは当たり前で少年達をガス抜きと言いつつ暴行する腐った人間達だ。エクセレンはそれを発見すると直ぐに止めに入ったり逆に殴り飛ばしたり経理のデータにこっそりと侵入して殴った一軍の給与から治療費をせしめたりしている。相手だって汚いんだから同じような事をしてやるという理由を持ちながらの行動だった。

 

「んぅぅ~……」

「何艶っぽい声出してんすか教官」

「あらオルガ」

 

身体を伸ばしていると、此方を見ながら何処か呆れたような視線を投げてくる浅黒い肌をした少年がいた。参番組のリーダーであるオルガ・イツカ、どうやら彼ら参番組に入ってきた地球へ行く仕事で使うMWの点検作業の手伝いの終わりのようだ。

 

「そっちも終わり?明日には例のお嬢さん来るんでしょ?」

「ああ、だから今日中に終わらせたんだよ。教官は来れねぇんだろ」

「本当は行きたいんだけどね、どうにも社長に止められてねぇ……教官だけど一応は壱軍の所属って事になってるからね」

 

明日参番組は大きな仕事を持ち込んだ令嬢と対面する。この火星では今独立への機運が高まっている。その中心に立っているとも言える人物が、明日此処へ来る令嬢、クーデリア・藍那・バーンスタイン。彼女を護衛しながら地球へと向かうのだ。是非とも同行したかったが社長のマルバに止められてしまっている。

 

「まっ取り合えず出来る事をやるさ、アンタに教えて貰った事を存分に活かしてな」

「そうしてくれちゃうと私としても嬉しいわね。あーあ是非とも行きたかったなぁ……あのくそ親父ってば一緒に行きたきゃ俺と一晩でも過ごしてもらうかなんて言うのよ?思わず骨の一本でも折ろうかと思ったわよ」

「ははっ、そうしてやりゃいいのに」

 

来てくれるとしたら有難いがその為に態々自分達を良くしてくれる教官が身体を売るというのは如何にも嫌だ。それならここで自分達の帰りを待っていて欲しいものだ。

 

「にしても何時も疑問に思うぜ、エクセレンの姉さんだけが通れるこの扉。この先に何があんだ?」

「フフッ知りたい?そうね私の宝物かしらね。無事に帰ってきたら教えて上げてもよろしくってよ?」

「その話忘れんなよ?」

「ええ」

 

腕をぶつけ合う、絶対に帰ってくるという約束を立てて、二人は別れてそれぞれの寝床へと向かう。あの扉の先にある宝物を見せれる時が来る事を願っていた……がそれは唐突に訪れた。

 

 

翌日の夜遅く、業務を終えて夜の散歩でもしようかという時に鳴り響いたサイレンと警報。敵襲を知らせるそれを聞き、急いでパーカーを引っ手繰るように纏うと外へと飛び出した。空から落ちてくる光は次々と落ちては爆発と土煙を上げている、こちらが出来ないような贅沢な絨毯爆撃をしてくる。余程羽振りが良いらしい、その2割で良いから此方に欲しいと思いつつ通信機を取ると、既に出動しているMW全機に繋いだ。

 

「皆聞こえるかしら!?良く聞いて、遠距離射撃で牽制しつつ相手を確認。確認が出来次第逐次戦力を入れ替えながら補給、三日月と昭弘はタイミングを見計らって飛び込んで引っ掻き回して頂戴!4班と5班、サポートに入って!!直ぐにオルガも来るわ、皆踏ん張って!!」

『了解!!』

 

ややうろたえていた参番組の少年達は、エクセレンの指示が入ると一斉に顔が引き締まっていく。信頼を置けている人の指示を受けて少年達の顔に生気が吹き込まれていき、すぐさま対処と攻撃が開始されていく。そして確認された敵戦力がこの火星を支配していると言ってもいいギャラルホルンだと分かるとエクセレンは顔を顰めた。それなら納得がいく、地球で絶対的な武力を以て武力を制す世界平和維持の為の暴力装置であるあの組織ならこんな豪勢な攻撃が出来る筈だ。

 

「教官遅れてすまねぇ!こっからは俺が指示に入る!!」

「ええお願い!にしてもギャラルホルンだなんて……面倒ね」

「ああ。それと教官、実は……」

「……豪勢な事ね、うちみたいな小さな会社に何でそこまで……分かったわ、此処は任せる」

 

この場の指揮をオルガに一任すると駆け出していく、オルガは参番組のリーダーとして参番組の戦力や強みを完璧に把握している。そして団員達とも信頼が厚い、彼になら此処は任せられる。施設内に戻り、昨日オルガと出くわした扉へと来るとパスワードを入力し中に飛び込んだ。ライトが無い為に暗闇ではあるが、内部の構造は完全に把握しているからかすいすいと歩いていき、目的地でスイッチを押すと内部の照明が付けられた。

 

―――そして照明に照らし出されるように白い騎士が映し出された。滑らかな装甲は白く美しい光を放ちながら確固たる力を保持し続けている、凛々しく構えたその顔は誇り高い騎士を連想させた。そんな騎士へとリフトを使って乗り込むと電源を入れる。リアクターが稼動し各部にエネルギーが供給されていく。静かな駆動音を掻き均しながらもそれは徐々に高まっていく。そしてその騎士の両目に光が灯った。

 

「さてと、久しぶりの出動ね」

 

スイッチを押すと機体の各部に繋がっていたケーブルが排除されていくと同時に機体頭上の隔壁が開いていく。まるで騎士の出動を喜んで応援するかのように。

 

「さあ行くわよ、エクセレン・ブロウニング。ヴァイスリッター、出撃するわ!!」

 

スロットルを押し込みながらペダルを踏み込むと軽く膝を曲げながらジャンプするようにしながら一気に加速し通路を付き進んでいく。直線の通路だが途中道が閉ざされていた。爆撃によって歪んでしまった為に開かなかった隔壁のようだが、そんな事で自分は止まらない、大切な弟達(参番組)を救うために自分は行くのだから。所持していた銃が光を放つと隔壁は吹き飛び、鈍く光を放っている空が見えると一気に加速し外に躍り出た。

 

「な、何だあれ!?」

「なんか飛んだ!?」

 

MWの中や補給を行っている少年達から声が漏れた。驚きに満ちた声だ。空に躍り出たそれは翼のようなものを背負いながら手にしたライフルをぐるぐると回し、それが止まると同時に先程登場し此方へと攻撃を仕掛けてきたギャラルホルンのMS、グレイズに向かって発砲した。グレイズは銃弾を頭部に食らってよろめいて膝を突くが、こちらを確認すると銃を此方に向けて撃って来た。

 

「そんなお粗末なモノじゃ私は落せません事よ~!」

 

向かってくる銃弾を回避しながら通信回線をオルガに向かって開く。

 

『きょ、教官なのか!?それってなんなんだ!?MS!?』

「あの時言った宝物よ!」

『それがかよ!?』

「ええ。MSは私が引き受けちゃうから皆を下げて頂戴!」

『分かった!それともう直ぐミカがこっから出てくる!』

 

驚いているのにも拘らず直ぐに事態を受け入れて必要な情報を渡してくるオルガにを内心で褒めつつ、そのデータを受け取り何気なく一機を其方へと誘導して行く。手にライフルから長い砲身の銃(オクスタンランチャー)へと持ち替えるとそれを回転させるようにしながらどんどん射撃を行っていく。

 

「ヴァイスちゃんのスナイピングいかがかしらん?んでもこんなものあったりして~!」

 

ばら撒くようなライフルとは違った精密射撃、グレイズの関節部を撃ち抜くとオルガの指定したポイント通りにその動きを封じる。そして時が来た。グレイズの目の前が爆発すると、その土砂と土煙の中から巨大な得物を担いだ悪魔が大地へと参上し手にしたメイスでグレイズを叩き潰した。突然現れた存在がギャラルホルンのMSを倒したという事実に誰もが驚いた。

 

「わぁお!!なんとも立派なモノをお持ちで!!」

 

唯一人、ヴァイスのコクピットで興奮しているエクセレンを除いて。


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