かの大戦からしばらく経った。
ゆっくりとだが街は復興を始め、戦争を知らない新たな世代が生まれている。最早日常になっていた争いが、徐々に歴史として遠い認識へと変わっていく。
そんな時勢の中で、大戦末期の白黒写真や映像がテレビで流れていた。
国際チャンネルで流れるその番組に、今この時、国境を越えて多くの者が見入っている。
しばらくするとアナウンサーと解説者の対談へと場面が切り替わった。
「今ご覧いただいていた作戦。ここで彼女の足跡は途切れたんですね」
「ええ、公式記録ではデグレチャフ中佐の率いていたサラマンダー戦闘団は壊滅。彼女もそこで戦死したとされています」
「ではふたりは結ばれることはなかったと」
「そうです。
さらにその後。敗戦が決まり条約が締結された後ですが、婚約者のレルゲン少将が亡くなっています。公式では自殺とされていますね」
公式記録の中では帝国に黄金時代をもたらせなかったことに責任を感じてのことだろうとされている。ゼートゥーアが処刑された日に自殺したと記録されているため、その記述が信用されていたのだ。
「ですが面白いことに、旧帝国軍人の中ではデグレチャフ中佐の後追いだったと噂されていたそうですね?」
解説者は頷いてそれに同意する。
「一般人が歴史を振り返ると、非常に冷徹な軍人というイメージがあるのですが、どこからそんな噂が?」
現在一般に知られる人物像では女を追って後追いするような軟弱な男には見えず、どちらかと言えばゼートゥーアと共に狂気的な軍略を為した軍人という方が強い。しかしそれが実際に彼と会ったことがある者たちと共通のものとは限らない。彼らはレルゲンを人情ある人だったとも称している。
「占領に関わっていた軍人や旧帝国軍人の何人かに話を聞く機会がありました。彼らは口を合わせて、少将が軟禁されていた室から泣き声が聞こえていたと言います。ですが、あまりに人物像とかけ離れていたため、祖国を思っての慟哭であり、彼女とのことは戦後の混乱の中で生まれたデマ、あるいはイメージ操作のための美談だろうとされてきました」
「なるほど。それが今回の婚約証明書の発見で真実味を増したのですね」
解説者は同意して、さらに多くの資料を提示しながら彼らの人物像に迫っていく。
「先の大戦の敗者となった帝国は今まで悪とされてきました。確かに残虐な作戦を多く為してきたのは紛れもない事実で、それは今後も人類に対する罪として憎まれるべきことです」
ですが、と解説者の言葉に熱が宿る。
「その裏には祖国を想い戦った少女と、それを守らんとする青年将校の愛があった事もまた忘れてはならないでしょう」