プリンセス・プリンシパル Blood Loyalty   作:悪役

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先に言っておく、この話をエロいと思った人の心がエロいと思います!!


case13:弱さの話

 

 

アドルフは目の前で共犯者が赤く染まっていく光景をただ見ているだけであった。

 

 

物体がぶつかる度にぐしゃり、と柔らかいナニカがひしゃげる音と共に、上半身が衝撃で滑稽なダンスを踊る。

踊る度に体は赤く染まり、最早元の色が見える場所を探す方が難しい。

だから、アドルフは沈痛そうな顔で、十字を切り

 

 

 

 

「─────安らかに眠れ、ドロシー」

 

「まだ死んでないわがぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

何やら死体からツッコミが飛んできたが、即座に今度はキュウリが口に突っ込まれたので無視する。

ドロシーとて運動神経は悪くないのだが、如何せん、上半身が固定されていたら流石に難しいだろう。

せめて腕さえ使えれば防げるのだろうが、状態が不安定なのだろう。腕は攻撃を受けても床で体を押さえるようにしている。

つまり、万事休すという奴だろう。

 

 

 

「まぁ、別にドロシーがダメージを負っても構わないのだが」

 

「アドルフ。建て前はもう使わないのかしら」

 

「ドロシーですし」

 

 

テメェ! と叫ぼうとしたドロシーの顔面にレモンが叩きつけられ、とんでもない悲鳴が上がるが、どうやら攻撃手段は野菜だけでは無かったようだ。

しかし、何とかしようにもベアトリス様は恐ろしい程の手際で弾幕の感覚に間がほとんど開かないのだ。

何だかんだで、ベアトリス様もスパイの技能が無くてもスパイになっているお方だ。

決して無能でも無ければ、不器用でも無い、

 

 

 

 

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいーーーー!!」

 

 

涙を溢しながら、弾丸と投石器…………のようなものを操る姿にはそうは見えないが。

 

 

「しかし、現実的にどうしましょうか。見捨てて三階に行くにもここの階段は3階行きが崩れてますし」

 

「一応、腐れ縁だから流石にドロシーを見捨てるのは悪いわ」

 

という事はやはりベアトリス様を何とかしなければいけないという事だ。

しかし、言葉で落ち着かせようにもベアトリス様は今は半狂乱っという感じで動いている為、まともに会話が出来るとは思えない。

となると物理的に止めるしかないが、この野菜やら何やらの弾幕の中、突っ切ると

 

 

 

「服の洗濯が面倒ですね」

 

 

何か言おうとしたドロシーの顔面にじゃがいもが激突するのを尻目に、ベアトリス様自体を止めるのは諦めておく。

そうなるとやはり狙いはあの小型投石器を止めるのがいいだろう。

銃があれば楽なのだが、今日は姫様のレクリエーションの為に持っては来ていないし、何よりこの距離で外すような訓練はしていないとはいえ、流石にベアトリス様がいる場所に向かって撃つのはしたくない。

さて、どうしたものか、と考えようとして、目に付いたのはそこらに落ちている壁の一部だったと思われる木材やら石である。

その中には中々、大きくて硬いモノがあるのを見ると、一つ思いついて─────舌打ちした。

途轍もなくやりたくなくなるが、しかし、現状、これが一番楽で且つローリスクである事を考えるとやらないのは合理的ではない。

そう考えながらも二度目の舌打ちをしつつ、石を拾い、アンジェ様に頼んでベアトリス様の方を手鏡で見せてもらう。

流石に専門では無いので、成功するかどうかは賭けではあるが、失敗してもドロシーが延々とダメージを負うだけなので無問題である。

というか手品のようなものだから、上手くいくかなぁ、と思いつつ、アンジェ様にも一応、目配せをして────石を放った。

 

 

放った先は勿論、ベアトリス様でも無ければ、カタパルトでもない。

 

 

こんな小さい石ころ一つで壊れるような代物でも無いし、上手い事潰せるように投げれる程器用でも無いのでやった事は本当に単純だ。

壁に投げたのだ。

これで壁を破壊するとか夢みたいな行いでは無い。

さっきも言ったように手品のようなもの。

 

 

 

つまり、上手い事、回転と角度を合わせて壁で反射してベアトリス様の方に向かうようにしたのだ。

 

 

 

「え!?」

 

 

小さな石とはいえ何かが飛んでくるのにびっくりしたベアトリス様はやはりと言うべきか、体を硬直して、直ぐに顔をかばう。

が、実は反射はさせてもそんな勢いよく投げていないので石自体はそんなに飛ばない。

だから、それに気付く前に、投げて姿勢が崩れている自分の代わりにアンジェ様が即座に飛び出し、ベアトリス様が復帰するよりも早く投石器のようなものをひっくり返したのだ。

その行動を見届けつつ

 

 

 

「ちっ…………」

 

 

とつい口ぎたなくまた舌打ちをしてしまう。

たかが石を投げただけなのに、あの馬鹿を思い出しただけで苛立ちで再びぶち殺したくなる。

余計な事ばかり残しやがる、と思いつつ、とりあえずベアトリス様を止めれたので良しとする。

 

 

 

「ベアト。別に貴女を責める気は欠片も無いから、せめて落ち着いて」

 

 

実際は責める立場にいないから落ち着いてなのだが、とアドルフは目を逸らして思う。

実際、自分だったら間違いなく単にベアトリス様の立ち位置が変わるだけだ。

なので、俺にはベアトリス様を責めるつもりは一欠けらも存在していない。

そして、それは案外、アンジェ様も同じ気持ちだと思う。

でなければ、こんな茶番に付き合う筈が無いだろう、と思うので。

 

 

 

 

そんな風に思っていたから、アドルフは完全に油断した。

 

 

 

 

 

 

アンジェは目の前の少女の瞳から何やら光が消えたのを見た。

 

 

ベアトは何やら両肩から力を抜いた完全な脱力態勢で、見た目はもう降伏寸前の兵士にしか見えないのだが……………何やら異様なプレッシャーを放っている。

 

 

 

 

何というか、その…………ヤケクソという感じの。

 

 

 

「う、うぅぅぅぅぅぅぅ…………で、でも………わ、私も姫様の侍女としてぇぇぇぇぇ………!!」

 

 

瞬間────ベアトが一歩こちらに踏み出した時、緑の光に包まれるのをアンジェは見た。

ケイバーライトと気付いた時にはベアトの足は地面から離れていた。

Cボール、と普段、使用している道具の名を脳内に浮かべるが、Cボールはプリンセスが持っていた、という固定観念が体を鈍くし、結果としてベアトに捕まり、自分も無重力の光に包まれた。

そして

 

 

 

「─────え?」

 

 

踏み込み進んだ状況で無重力になった影響で、私とベアトの体は自然とベアトからしたら前へ。私にとっては背後に進んでいく。

それはすなわち、背後に廊下に刺さっているドロシーの方に向かっていくという事で。

しかも慣れていないベアトが使っているから、超低空飛行で跳んでいるわけで

 

 

 

─────結果として完全な事故の形で諸に踵がドロシーの顎を跳ね上げた。

 

 

こう、完璧に入ったような足応えがするが、アンジェはそれに反応している余裕は無い。

何故ならベアトの勢いが止まらないからだ。

 

 

 

「ベ、ベアト!?」

 

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」

 

 

駄目だ。

内側に理性が引き籠っているから、即座に理性を取り戻させるのは流石にスパイでも不可能だ。

故、そのままの向きと速度で浮き、しかも運が悪い事にそこには窓ガラス自体が存在しない窓があり

 

 

 

 

「─────あ」

 

 

 

アンジェとベアトはCボールの限界まで無重力で遊泳する運命が決定した。

不幸中の幸いと言うべきか。

ベアトがCボールの扱いを知らないから、高空に行く事は無く、真っすぐ地面と平行に飛ぶことになるのは。

 

 

 

 

 

 

 

「………………………えーーー?」

 

流石のアドルフもこの急展開には付いて行けず、完全な素の声が口から漏れる。

まさかベアトリス様がCボールを使って玉砕覚悟をしてくるのはアドルフにとっても予定外の攻撃だった為、完全に出遅れた。

お陰でアンジェ様も強制離脱。

その上、ドロシーは

 

 

 

「………………………」

 

 

完全に気絶していた。

しかし不安定な状況を胸で支えているのは、流石なのか、馬鹿らしいと言うべきなのか。

顔もちょいと乙女としてどうかというような顔になっているが、指摘する気も無ければどうでも良い事である。

とは言ってもアンジェ様も、途中で上手い事Cボールを略奪すれば何とかなるとは思われるが、それでも直ぐにとはいかない事を考えれば

 

 

 

「一人で進むしかないか」

 

 

 

やれやれ、という感じでドロシーは置いていきながら、ベアトリス様がいた場所の奥に無事な階段があったので、そこから登る。

3階は比較的壊れていない感じで、しかし、一つ逆側に何だろう? 寝室か何かっぽい、他の部屋よりは大きい扉があるから、多分、あそこかな? と検討を付ける。

普通に王道は外さないタイプの人なのだから、と思って前に踏み出すと

 

 

 

────何かが足首辺りに引っかかったと思った瞬間、顔の前を何かが通り過ぎた

 

 

具体的に言えば吹き矢で出された小さい矢のようなものであった。

鏃は当然、先が潰れておらず、やる気満々の形をしているのを見てとり、ふぅ、とアドルフは笑みを浮かべた。

大体、姫様の思考が読み取れる。

入口辺りでは遊び的な感じでちょっとした罠を作り、地下は知らないが、二階ではマンパワーも駆使したギミックを持って挑戦者を虐め────最後の最後にちょっと本気で作ろうかしら? と思ったのだ。

 

 

 

 

流石は姫様。何事も王道だから、罠も王道的且つ本気なのですね…………

 

 

 

瞳からハイライトが消えるのを感じながら、ポケットから手袋を取りだす。

ここから先は全力で行かないと、別の場所に逝きかねない。

ああ、でも大丈夫だ、アドルフ・アンダーソン。

 

 

 

お前の実力の半分は姫様の悪戯で培ったものだろう………!! 

 

 

一応、冗談なのだが、アドルフの脳内ではそうなっている今、アドルフの脳の残念具合は止まる事がない。

正気と格好良さを失くした少年には今や失うモノなんてないのだから──!!

 

 

 

 

「さぁ! 姫様! 全力でお相手します!!」

 

 

そうして叫んで踏み込み────何か、また余計な感触がしたと思った瞬間、目から星が生まれた。

理由は頭に落ちて来た金色の物体。

 

 

 

金だらいであった。

 

 

究極の王道を受けたアドルフは、その歴史の圧力に勝てる程、器が大きくなかったので、衝撃に縦揺れした脳は普通にそのまま落ちた。

 

 

 

 

惜しい。実に惜しい。

ここでドロシー辺りがいれば、"この出オチ野郎がーーー!!"と熱く叫んでいたのに。

 

 

 

 

 

そして完全沈黙した幽霊屋敷で、一人、3階のアドルフが倒れている場所に今回の勝者となった少女が現れた。

少女は、少年が完全に気絶しているか、どうかを確認した後──────少し赤い顔でクスリ、と嬉しそうに微笑んだ。

そして、少女はそのまま少年に向かって手を伸ばし─────

 

 

 

 

 

 

「ん……………」

 

とアドルフは目に当たる光で目を覚ました。

最初に視界に入る天井が自分の部屋とは違う物なので、一瞬、拉致監禁を考えたが、直ぐに気絶する前の記憶を思い出したので、なぁんだ、と思う。

目覚めたのはどうやら月明かりが上手い事窓から差して、目に届いたからか、と思い、欠伸をする。

そして気付く。

 

 

 

 

何か、体が…………というか上半身に温かくて柔らかいモノが…………?

 

 

布団にしては柔らかすぎると思って、下を見ると姫様だった。

 

 

姫様だった。

 

 

姫様だった。

 

 

 

 

姫様だった。

 

 

 

 

「─────────$#%&*!!?」

 

 

言語化出来ない言葉が口から漏れて、思わず、腕を動かそうとして

 

 

 

「…………ガシャン?」

 

 

という擬音が腕から聞こえ、嫌な予感と共に視線を上に向けると手錠でベッドに繋がれていた。

ベッドシーン手前にしか見えない状況に、思わず真顔になっている間に

 

 

 

「あ? あるふぅーーー?」

 

 

と、やたら甘い声と共に、先程は頭頂部しか見えなかった姫様が顔を上げる。

先程と衣装は変わらず、青い瞳を潤ませ、顔を赤く染め上げている姫様に流石に唾を三回ほど飲む結果になる。

見た目は間違いなく年相応の少女なのに、ここまで妖艶な雰囲気を出せるのかと思うと女の神秘を見た気分である。

同じ事をちせやドロシーがやっても全く興奮しないと思うが。

いや、そうではなく!

 

 

 

「な、な、な、何をやっているんですか姫様ぁ!!」

 

 

つい反射で両腕を動かそうとするが勿論動かずガチャガチャ鳴るだけ。

だけど、姫様はこちらの抗議を全く聞いていない感じでうーーーーん? と一度首を傾げ

 

 

 

「あーーーーるふーーーー♪」

 

 

 

と頬と頬をくっ付けに来た。

 

 

 

「───────」

 

 

一瞬、間違いなく加熱で脳が落ちたが、再び立ち上がっても姫様がまるで超懐いた犬のようにこちらに頬でスリスリとしてくるので、つまり理性が一秒ごとに巨大ハンマーで叩きのめされている。

理性が木端微塵になるまで数分と診断するが、そういう意味では両腕が塞いでいて万歳! ─────でも男性としての本能まで防げるかまでは間違いなく保証できない。

この状態で起動シークエンスになったら軽く見ても処刑確定である。

罪状は不敬罪だろう。

だけど、それにしても

 

 

 

幾ら何でもこれはおかしい……………!!

 

 

確かに動物に例えれば姫様は実に犬っぽいけど、その在り方は正しく王女の振る舞いであり、その自制心は己など太刀打ちが出来ない程の強さだ。

そんな少女が、こんな風に甘え剥き出しで甘えて来るなんて事は無い。絶対ない。間違いなく無い。ああ、胸に乗っかる様に潰れる柔らかさは実にあーーる──────じゃない。

だから、何か原因があると思って、現実逃避も合わせて視界を振り回すと、月明かりのお陰で照明もない部屋で一つだけ小さなテーブルの上に古さを感じさせない代物があった。

 

 

 

それはワインボトルであった。

 

 

危険自体に遭遇した脳は即座にトップスピードで真実を見つける。

あれは恐らくドロシーが奪われたというワインボトル。

一本と言っていたはずが、何故か3本くらいあるが、別にドロシーのなのだから幾ら奪っていても構わない。

問題は、だ。

 

 

 

問題はそのワインボトルの内、約2本半程が空いているという事実がいけないーーーー!!

 

 

 

「あ、あ、あーーーーーーーー!!?」

 

 

先に言っておくが、姫様は別にお酒が途轍もなく弱いというわけではない。

社交界に出る以上、アルコールは切って離せない道具の為、お酒は苦手であっても飲めないというわけにはいかないので、飲んでいる。

だから、決して姫様は下戸では無い。

下戸では無いが……………当たり前の常識として、当然、量を飲めば酔うのだ。一部の例外を除けば。

つまり、今、この少女は、単純に酔うレベルまで飲んで、理性やら野性やらを解き放っているという事だ。

 

 

 

通りでずっとハイテンションなわけだ……………!!

 

 

流石に幽霊屋敷に行くまでは飲んでいなかっただろうが、もしかしたらこちらに俺達が到着する前にちょっとずつ飲んでいた可能性はある。

それで俺達が3階までたどり着くまでに暇だから、飲んだっという感じかもしれない。

 

 

 

「は、はは………」

 

 

つまり、今、無敵ビーストモードを止める理性の鎖は無いという事実に直面しなければいけないのだ。

SI・NE・RUと脳内で言葉を浮かべ

 

 

 

「ひっ!?」

 

 

耳たぶを優しく噛まれ、現実に帰還する。

これは不味い。

流石に不味い。

普通に不味い。

激しく不味い・

これに比べれば藤堂いずななどそこらの一般ピープルである。

とりあえず、どうにか姫様を押し止めるしかない、と考え、しかし腕が動かない状態でどうやって押し止めるべきか、と思う。

 

 

 

足で止めるのは流石に不敬………!!

 

 

現状も十分に不敬だが、足で王族を止めるなど累積罪にしかなるまい。

体勢を変える事も考えたが、姫様は諸に上半身に乗っかっているから、ここから姿勢を変えるのは難し過ぎる。

となると、もう口しか扱える物はないのである。

 

 

 

「ひ、姫様! ストップ! ストップです! 流石にこれは、その、色々と法に触れています!!」

 

 

この場合、どっちが法に触れているか、という考えは空の彼方に放り捨て、とりあえずそんな事を叫ぶ。

聞いてくれ、という願いが届いたのか。んーーーー? と焦点の合っていない瞳でこちらを見たと思ったら、ふにゃりと笑みを浮かべ

 

 

 

「法律みてないわーーーーー」

 

 

と言って、頭をぐりぐりとこちらの胸板に押し付けるのであった。

多少のくすぐったさとふわりと女の子特有の甘さが嗅覚を諸に打撃するので、理性崩壊のカウントダウンが加速する。

法律見ていない、ならいいんじゃないか、という本能の囁きを、崩れかけている理性で必死に振り払ないながら、どうにかせねば、と考える。

 

 

 

そう、以前、こんな風に酔っぱらわれた時、どうした?

 

 

確か、そう社交界の場だったし……………何よりも己の正体がばれたら死ぬというストレスから少し多めにお酒に頼ろうとしたのだろう。

それ故に、唐突に何時もの姫様とは違う、無邪気な赤ら顔で甘えようとするから、これは不味いと思って、即座に気分が悪くなったとでっち上げて、その場からぐずる姫様が何故かボトルから手を離さないからそのまま肩を貸して何とか連れ去り、とりあえず個室にまで連れていって──────その後、ベッドに押し倒されたのだっけ?

 

 

 

進歩ねえーーーーーー!!!

 

 

己の成長の無さを嘆くが、今は仕方がない。

そして、その後、どうなったか、を脳からひねり出す。

確か、そう、出来るだけ穏便に離れようとしても、ゴロゴロ、と猫のように、あれ? 犬のように? くそ、耳と尻尾が現実と過去の姫様に見て、どっちが適切かどうかを議論しそうになる。

いや、とりあえず、それでどうすれば、と悩んでいたら…………そう、そのまま未だ手に持っていたボトルにあった中身を更に飲んで───それで眠ったのだ。

 

 

 

─────それだ!!

 

 

酒で起きた原因は酒で解決。

余り褒められた解決法では無いが、このまま理性を引き千切るよりかは遥かにマシな選択なので、とりあえず、さっきからこっちの首元を舐めようとして、色々な意味でぞくぞくしながら、打開策を口に出す。

 

 

「ひ、姫様? ど、どうせですからもう少しお酒を飲みませんか? ほ、ほら。中途半端に残っているのでどうせならもう全部飲み切ってしまいましょう!!」

 

「えーーー? うーーーん、でも喉もかわいたからいいわねーー」

 

 

驚くほど、あっさりとこちらの言葉に頷いてくれて、内心でガッツポーズを取る。

うーーーん、と何故か自分の体から降りずに頑張ってテーブルの手を伸ばす姿はこんな状況でも無ければ可愛らしい、と考えれるのに、とは思うが、とりあえず無事にワインボトルを取ってくれたからいい。

そしてえへへーー、と笑いつつ─────一気飲みを始めた。

 

 

 

「まっ……!?」

 

 

飲んで欲しいとは思っていたが、何もそんな一気飲みをして欲しいとは思っていない。

そんな一気に飲んだら健康に影響が出るのではないか、と思い、制止しようと持ったが、既に遅く、あっという間にワインボトルは空になり─────そこで何故か幾らかは頬を膨らませて少女の口内に残っていると気付く。

それを指摘する前に急に少女の手がこちらの頬を挟み

 

 

 

そのまま少女の唇がこちらに無遠慮に重なった。

 

 

 

 

「────────────」

 

完全完璧に脳が停止した今、少女から渡されるワインを拒める余裕は当然0である。

オートで口内に満たされるワインを飲んでいくが、味何て一切感じれない。

むしろ、ワインなんてついでと言わんばかりにこちらの口内に入って来る舌の方が非常に存在感があって─────

 

 

 

「───────────あ?」

 

 

何時の間にか少女がこちらの顔から離れて、ペロリと口から零れたワインを舌で舐めとっている光景だった。

間違いなく、記憶が寸断されているので、一瞬、意識が落ちたと思われるが、余りの現実感の無さに感情も言葉も思いつかない。

 

 

 

ただ、少女の青い瞳がこちらを見ている。

 

 

 

思考は完全停止するが─────────その代り酷く醜い欲望だけが身を掻き立てる。

理性によって無い物として扱っていた欲望が、目の前に欲したモノがある、と大いに喜ぶ。

獣のような情動だけが、空っぽの頭を埋め尽くし──────止めるはずの理性が消えようとした時に、視界に映る少女の唇が動いた。

 

 

 

「──────────」

 

 

言葉ではなく唇だけが動いた故に、当然音は無い。

だけど、多少の読唇が出来る自分は無意識的にそれを読み取ってしまい、思考所か欲望も一瞬、沈黙する。

 

 

 

 

そして、その言葉がスイッチであったという感じで、少女はそのままふらりとこちらに倒れこんだ。

 

 

 

「─────────あ、ちょ、姫様?」

 

 

少女が倒れる、という事態でようやくアドルフという人間性(りせい)を取り戻す。

直ぐに少女の口から寝息が漏れるのを聞いて、寝ただけかと安堵する。

安堵はしても、逆に理性が取り戻された事でさっきの行いを何度も頭に再生しそうになる羽目になるが、とりあえず、あれは酒、酒、酒と振り払いつつも少女が最後に漏らした言葉について考えてしまう。

少女が漏らした言葉はある意味簡単で、そしてどうしようもない言葉だった。

 

 

 

─────どうすればいいの?

 

 

まるで迷子の幼子のような言葉。

素面では間違いなく言わない弱音を、空からたった一つ落ちた雨粒のように自身に降り、そして溶けていった。

何についてをどうすればいいのか、と問うたのだろうか。

壁を取り払う事か、王女になる事か。

幾らでも思いつく事が出来る。

が、思わず思い浮かぶのは言ってくれればいいのに、という浅ましい恨み言だった。

少女が望むのならば自分は何でもするし、何を代償にしても構わない。

だから、言葉にしてくれれば……………とは思うが、それと同時に自分は余りにも無能であるという事実がある。

 

 

 

自分に出来る事は暴力だけだ。

 

 

それ以外は何も価値を持っていないし、姫様に合う力なんて持っていない。

だから、少女を苦しめる要因を取り除くことが自分には出来ないから溜め込んでしまっていたのではないか、と思う。

そう、前にこんな風にお酒を飲んだのもストレスが溜め込まれていたからだった、という事を考えれば今回も同じだったのかもしれない。

 

 

 

「くそ…………」

 

 

今は無邪気な寝顔で寝ている少女の姿を見ながら、アドルフは神であり、世界であり、そして自分を憎んだ。

 

 

 

こんな小さくて、儚い少女に責を負わせてるのが余りにも憎い、と。

 

 

 

「……………さて」

 

自己嫌悪をしながら、アドルフは現実に思考を帰還する。

何故なら、姫様無敵ビーストタイムは何とか解除できたが──────未だ少女が自分の体の上で眠り、その上、自分の両手は拘束されているという現実(げんじょう)があるのだ。

 

 

 

「……………………」

 

 

当然だが、拘束は自力では解けないのだから、第三者の手を借りるしかない。

だが、そこで更に現状が俺の首を絞める。

 

 

 

 

個室で、拘束された傍付が、寝ている姫様に押し倒されている光景─────

 

 

最悪、己の名誉が穢されるのはいいが、この状況だと姫様にも降りかかりかねない。

ちせがどうなっているかは謎だから計算には入れられないが、最悪、この現場をドロシーが見るかもしれない、という危険性があるのだ。

 

 

 

 

とりあえず、アドルフは後で撃ち殺されるのを覚悟でアンジェ様が最初にこの部屋に来てくれることを祈るしかない。

 

 

 

こんな所でも他人任せか、と思いながら、とりあえず少女の眠りが安らかである事だけが救いであった。

 

 

 

 

 

 

 




いえーーーーい!! 悪役+姫様ご乱心ーーー!!!

ゴホン、失礼しました。


まぁ、こうなったのは一つはまず病院の時に自身の感情を抑えられなかった事ですね。
恋心暴走気味の姫様は当然、ストレスが重なり、且つ自分の願いも並行してみなければいけない。
そして駄目押しの酒。


つまり、これ程のデレデレ且つ自制心の無い姫様は悪役の設定+ストレス+今までの反動+酒があってようやく鋼の自制心に綻びが見えたという感じです。


ともあれ、余り長々しい挨拶もあれなのでこの辺で。
次回は姫様のこういった部分の意識改革話で、つまりまたオリジナルですーー。


感想・評価などよろしくお願いいたします。


いやぁ、ここまで冒険したのは初めてですよ…………………

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