プリンセス・プリンシパル Blood Loyalty 作:悪役
あらかしめ言おう────今回はギャグだかんね!!
「た、大変です! ひ、姫様がぁ……!!」
幕開けとなった言葉は間違いなく、ベアトリス様のこの一言からだろう、とアドルフは後に思う事になるのを知らないまま、息を荒げているベアトリス様に振り返っていた。
今は白鳩と名付けられたスパイチームのメンバーで何時もの部室でぶっちゃけ、やる事が無いからティータイムと洒落込んでいる最中だったのだ。
何故かその中には先日の事件で世話になったというかかけられた、と言うべきか悩む日本の侍である少女がいるのだが、何やら色々あってこちらの支援に回るという事らしい。
何やらドロシーが何かやったらしい。
実に胡散臭いが、確かにちせ殿の能力は姫様を守るのにはうってつけと言えばうってつけなので複雑な心境だ。
それに後悔など一切していないが、それでも義兄を殺した立場の自分では、ちせが嫌がる事くらいは流石に読み取れる。
だから、正直、合流してから今までずっとちせとは余り話し合わず、喋るとしたら姫様かアンジェ様、ベアトリス様と話しているという状況である。
まぁ、それはそれとして姫様は口で言うにはちょっとあれだが、お花摘みに言ったので、とりあえず付き添いでベアトリス様が一緒に向かったのだ。
そして、帰って来るのが遅いと思っていたら、これだ。
当然、その慌てように全員が緊急事態課と思って、即座にそれぞれ武装を抜き放ち、一部は殺意を放ち、結果としてベアトリス様が怯えるので、そこを何故かドロシーが取り直すというワンクッションが入る。
それでようやく落ち着きを取り戻したベアトリス様が胸に手を当てながら
「その………姫様が唐突にとてもいい笑顔で"ベアト。唐突だけど鬼ごっこをしましょう? 捕まえられなかったら、私、連れ去られるの"とか言い出して、そのまま凄いスピードで走って………!」
全員の脳内に浮かぶのは何故か走らず、滑る様に廊下を移動する姫様がとてもいい顔で頑張って追いかけるベアトリス様にここよーーー、私はここよーーー、と応援しているのか、煽っているのか分からない光景であった。
何て想像しやすい光景だ。時々…………いや、結構見るからだが。
「そ、それで姫様が曲がり角を曲がったから直ぐに私も追ったら、姫様がいなくて! そ、その代りこれが…………!!」
と震える手で手紙を取り出すので、ふむ、とちせが一歩前に出て一足先に取った。
あ、とは思うが、多分、語学の勉強のついでになるだろう、とかいう思いもあったのだろう。
とりあえず即座に手紙を開いて、ちせが手紙を読み始める。
「なに……………"姫様の身は奪っちゃいました☆返して欲しければ、手紙の最後に書かれた住所まで皆で来るように"」
即座に全員が、ああ、
そして、俺も含めてやれやれ的な感じでベアトリス様と手紙を読んでいるちせ様以外、さぁお茶会お茶会という雰囲気になっていく。
自他共に過保護と認めている俺でも、流石にこの手のに真面目に取り組む程、冗談のセンスを持ち合わせていないのだ。
だから、誰も来ないと分かったら帰って来るだろう、と全員が楽観と共に紅茶に手を出そうとし
「"ちなみにやる気を出さないと思って皆の大事なモノも奪っていきました─────例えばドロシーさんからは大事にしているちょっと高いワインをお一つ拝借♡"」
「なにぃーーーー!!?」
即座に立ち上がり、備え付けの冷蔵庫に飛びかかる様に走り寄り、数秒後、地面に手を叩きつけ
「私の命が…………!!」
などと大袈裟な台詞と大袈裟なリアクションを取っていた。
「"次にちせさんからは日本から持ってきて大事そう且つ美味しそうに食べている"ってなんと!?」
即座に部室の棚からそれが置いてあったと思われる場所を見て、直ぐにくっ……!! と唸り
「残り少ないぬか漬けを………!!」
極悪非道許すまじ、と言わんばかりの口調で叫ぶものだから、それ、藤堂十兵衛やいずなの時よりも怒りを露わにしていないか、と思うのは流石に不味いだろうか。
ちせ殿は憤慨しながら、しかしそのまま手紙を読み進める事にしたらしい、一度咳払いし
「"ベアトは………"」
「わ、私は特に盗られて困るようなものなんて持っては─────」
「"ベアトは来てくれるよね?"」
「………………………はい」
くっ、とアドルフは目を押さえてベアトリス様から視線を逸らす。
余りにも辛い。
何が辛いかって完全完璧な信頼故に逃げる事も逆らう事も出来ないベアトリス様の姿を見るのが辛い。
イエスマンというより姫様が少しでも幸せになるのならスパイだろうが道化だろうが何でもする人なのだ。
その健気さを今、物凄く明るく利用している姫がいるのだが追及すると更に辛くなるから止めておく。
というか何やら人攫いみたいな設定だったのに、普通にこちらを名前で呼んでいるのはいいのだろうか。
「"アンジェは───"」
「…………」
名を呼ばれた少女は我関せずみたいな感じで紅茶を飲んでいた。
まぁ、内心ではどうかは知らないが、表向きは下らない遊びには付き合っていられない、というポーズは取っておかなければいけない、という事なのだろう。
勿論、本心もその可能性は十分に有りだが、案外本心は普通にちょっと遊ぶくらいなら、と考えていた利するのだろうか、と思っていると
「"アンジェからはちょっとCボールお借りしました"」
「……………」
紅茶を飲みながら硬直した少女が密かに太腿辺りを探るのを見逃さなかった。
流石にこれにはベアトリス様はおろかドロシーやちせ殿も含めてジト目で見る結果になったのだが、硬直から復活したアンジェはふぅ、と大物感を出すような吐息で
「………腕を上げてしまったわねプリンセス…………」
微妙に言葉をチョイスした上での台詞を、とりあえず全員が無視する形を取る事にした。
黒蜥蜴星人はもう少しジョークのセンスを磨いた方がいい、とドロシーが笑っているが、とりあえずノーコメントを貫かせて貰おう。
「"最後にアルフは"」
そして遂に自分の番が来た。
来たか、とは思うが、アドルフとしては今回は徹底抗戦をするつもりである。
え? 嘘? と思われそうだが、姫様は未だどうなるかは定かではないとしても、女王になろうとしている身なのだ。
余り、こんな風に愉快痛快に行動されまくるのは本当に困りものなのだ。
今までも何度も諫めたりしたのだが、ちせ殿の言葉で言えば暖簾に腕押し状態、という奴なのだ。
だが、だからと言って最初から否定する事を諦めるのはもっと良くないだろう。
現女王から信頼されて傍付として仕える事を許されているのだ。
その為ならば、例え姫様に嫌われるような事になっても、否定する事も仕事の内であり、
「"────脱がすわ"」
そういった確固たる意思とか職務とかを一切合切破壊する響きが耳朶に直撃した。
チクタク、と何やら時計の秒針の音が偉く大きく聞こえるが、この背筋をを通る冷や汗に比べれば小さい事だ。
ゴクリ、と喉を鳴らしたのは誰だったか。
そこまでしてようやく口を開けれた俺が最初に言う事は
「……………冗談でしょう?」
幾ら遊び人気質の姫様であっても、流石にそこまで見境がないわけではない……………はず?
己ですら微妙にどうだったか分かっていない質問に、手紙を持っているちせは答えるのではなく手紙をそのまま読み進めた。
「"今晩、私の部屋で、私が、アルフを、無包装で、ついでにデッサン"」
「無包装とデッサン絶対ダメ!!」
「"応相談"」
ああ…………それは駄目だ、と周りの手紙と会話するなよ、というツッコミは華麗にスルーしながら、己は絶望感に身を浸していた。
姫様相談は絶対駄目だ。
何せ勝ち目を作った経験が一切無い。
というかこの姫様は正気だろうか? 頼むからいっそ正気では無いと言って貰いたい…………その方が気が楽だ。
お陰で周りからは
「………………夜にプリンセスの部屋に行くこと自体は否定しなかったな」
「そ、そんな!! 汚らわしいです!!」
「ベアト。例え、見た目どんなに鋼の理性と美形を保っていても、所詮、男よ───手を出したらヤるわ」
などと恐ろしい勢いで俺の信用とか信頼が大暴落もしている。
一切男がいない中、女性だけの空間にいた場合に大抵起きる弊害を自分が体験する事になるとは思ってもいなかった。
別に友人が欲しいと思った事は一度もないが、せめてチーム内に男がもう一人いればそいつを生贄に出来たものを…………と思うが、実にどうでも良い事ではあった。
だが、一つだけ全員が思いを一つにする事柄があった。
つまりは
行くしかないのか…………
という、どうしようもない諦観だけである。
「これは」
「また」
「典型的」
上からアドルフ様、ドロシーさん、アンジェさんの順番で並べられる感想をベアトリスは聞きながら、件の幽霊屋敷を見上げた。
確かに感想通りにそれはまぁ、典型的な幽霊屋敷のような雰囲気であった、としか言えない。
郊外に建てられているから、まず周りに家は当然ないし、郊外だからか街灯も一つもない。
そして当然だが、幽霊屋敷という事だから屋敷に人影も無いし、見かけもボロボロ。
しかもお誂え向きに手紙には夜に、と時間指定があったので雰囲気は抜群だ。
思わず、体を守る様に抱えてしまう。
「うぅ…………」
「何だ、ベアト。こんな古ぼけた屋敷が怖いのか」
うっ、とちせさんの揶揄に思わず、呻いてそんな事は無い、と叫ぼうとするが、それこそ震えている証拠にも思える。
見れば、やはり、と言うべきか。
男性のアドルフ様はともかく、アンジェさんもドロシーさんも一切、屋敷の雰囲気に気後れしている様子はない。
普通に全員、やれやれという調子だ。
一応、この中では荒事にも慣れず、年も一つ若いが、同い年のちせさんは全く震えていないのに自分が震えているというのは余りにも情けない。
だから、思わず、ぎゅっ、と胸の前で手を握って
「そ、そんな事ありません! は、速く姫様を探しに行きましょう…………!」
と一人、先に屋敷に向かって早歩きで向かう。
あ、と全員が声を揃えて同じ発音を漏らすが、それを気にせず、出来るだけ屋敷は見ずに進む。
─────だからこそ、理解が遅れた。
性格も能力も皆、バラバラだというのに、何故、全員が同音の制止の声を漏らしたのか。
その答えは次の瞬間、ベアトリスの足首を締め付けるような感触から始まる。
「え?」
唐突に足首に何かが絡まる感触。
だけど、疑問も恐怖も抱く前に、足首の何かは勢いよく自分を跳ね上げ─────逆さ吊りにされた後にようやく発生するのであった。
「きゃあああああああああああああああああ!!!?」
唐突な世界の逆転に、しかし乙女力は対応出来たのか。
即座に重力に従おうとするスカートを両手で抑える事には成功し、次に
「あ、あ、あ、アドルフ様ーーー!! み、見ないでくださいーーーーーーーー!!!」
条件反射に近い悲鳴を涙を流しながら告げると、既に少年があーー、と言いながら、顔を逸らし、その上で腕で目をガードしているのを見て、心底ホッとした。
こういう時は本当に紳士な人で助かった。
こんな驚天動地な目に合ったからこそ、逆に冷静になれたので、直ぐに足首の部分を見るとそこに絡まっているのがロープである事が判明した。
つまり、そこから読み取れるのは─────
「と、トラップ?」
「でしょうね」
アンジェさんのこちらの呟きの返答もあって、とりあえず状況は理解した。
分かったが…………分かったけど、とりあえず自分の手でどうにかするのは不可能だというのも分かってしまった。
スカートを押さえている両手を解放すれば足首にかかっているロープも外す事が出来るだろうけど、つまりそうなるオープン・ザ・スカート! をしなければいけないという事で恥で死ぬしかない。
アドルフ様は目を逸らしてくれるだろうけど、同性メンバーがどうするかは未知の領域だ。
男性であるアドルフ様よりも信頼出来ないというのはどういう事だ。
だから、そうなるとやっぱり女性の誰かに手伝ってもらうしかない、という結論になり
「あの…………」
と天地逆転している視界で、皆に手助けを求めようとして
「レディース!! アンドジェントルメーーーーーンーーーーー!!」
何か途轍もなく愉快で楽しそうな声が空から響いたのであった。
ドロシーは空に浮かんで登場する奇天烈な姿のプリンセスを目撃してしまった。
何というか…………怪盗? いや、もしかしてマジシャンなのか?
何かそこら辺っぽいマントを着て、顔には黒いマスクをつけ、手にはそれらしい杖を持った少女がマスクを付けても分かるくらい楽しそうな笑みを浮かべて、そんな風に登場するから思わず思考が停止した。
というか全員しているが、しかしやはり長年付き合っているから耐性があるのか。
一番最初に復帰したのはアドルフであった。
「姫様!! 正気ですか!?」
「勿論。来なかったら脱がすつもりだったわ」
コンマ一秒以下の反撃に防御も回避も出来なかったのか。
鉄壁の傍付は胃を押さえてよろめきながら、速攻で倒れた。
……………………はやっ!!
訂正。耐性はあっても、対応は出来なかったみたいだ。
というかこれだと10年間どうしていたのだ。ああ、そうか。ベアト曰く、負け続けていたんだな。
じゃ、いっか。
お陰でショックからは立ち直れたからアドルフの犠牲は無駄ではなかったのだろう、多分、と思いつつ
「おーーいプリンセスーー。テンション高いのはいいんだけどさぁ…………とりあえずどういう企画?」
「プリンセスじゃありませんーー。私はプリンセスを攫った悪い魔法少女怪盗! シャロンよ!」
パーーン、と杖から咲くように花が咲いたのをおぉ、と思って見つつ、あーー、うん、そういうキャラ付けなのね、と思っておく事にした。
真面目に受け止めようとして死んだ傍付が前例にあるから、こういう時はシリアスは放り捨てて、お祭りに来ていると思う方が得だ。
「まぁ、うん、大体は理解した────要はこの幽霊屋敷で遊ぼうって事か」
「流石ドロシーさん! 話が早ぁい!」
おい、こっちの名を知っているのはいいのか。
というか普通にアドルフの姫様呼ばわりはスルーしていたよな、この娘。まるで酔っぱらっているかのようなハイテンションである。
「ルールは簡単! とりあえずこの幽霊屋敷に貴方達から盗った大事な物が隠してあるからそれを見つける事。でも宝物に向かう途中はこの魔法少女怪盗によって色々な種も仕掛けも無い魔法が掛けられているのでお気を付けて♪」
何キャラだ………と言いたくなるが、ツッコんだら負けだ、と思う。
キャラを混ぜた結果、意味が分からなくなるのはよくあるよくある、と脳内で適当に考えながら、まぁ、ようはそれこそ遊園地のお化け屋敷みたいなものか、と思う事にしといた。
一応、立派なスパイなのになぁーーにやってんだがなぁーー、とは思うが、今は任務も無いし、暇だからまぁ、別にいいかとも思う。
どうせ馬鹿やるなら楽しまないと損である。
「ちょっと待って。私はCボールを奪われているのだけど………今、貴女が使っているじゃない」
「アンジェは素直に楽しんで?」
じーーーっと暫く目線で何やら二人が話し合うが、最終的に笑みを浮かべたのがプリンセスで吐息を吐いたのがアンジェなのを見ると結果は一目瞭然だ。
相も変わらず、この黒蜥蜴星人はプリンセスには弱い。
そしてちせは無言で腕を組んでいるが、目には、私の、最後の、ぬか漬け、と書かれているので参加は決定だ。
全員がやれやれ顔な中、一人楽しそうに笑っているプリンセスがポンっと両手を合わせ
「じゃあ皆、楽しんでね? ─────あ、そこで倒れた振りして有耶無耶にしようとしているアルフはそのままだとお仕置きだから」
びくり、と体を震わす少年を尻目に、じゃあっと最後にCボールを使って派手に空を色々飛んだり、地上すれすれまでしてらしい演出をした後、プリンセスはそのまま幽霊屋敷の裏側まで飛んで行った。
「…………アルビオン王国次期女王になろうとしている姫様が遊び人気質だと国民は大変だねぇ」
「貴女もそれに付き合うのよ?」
アンジェの言葉にへいへい、と頷きながら、とりあえずしくしく、と泣き真似している傍付をちせが顔面を蹴って叩き起こしているのを見ながら
「─────れ?」
何時の間にかベアトの姿が無くなっていた事に、今更気付いた。
唐突に脈絡なく始まるギャグ回。
悪役の正気は何処。
まぁ、活動報告にも書いたように色々とごたごたしましたが、とりあえず突っ走る事にしました。
というわけで話を見たら分かる様に途中なので、また愉快はお話は次回のお待ちを。
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