そこに今まであったことを示すように、ぽっかりとあいた胸の穴がズキズキと痛む。けどその痛みは、『たしかにあの思い出はあった』という証明にもなる。
GDも終わっちゃうし、もうこれで最終回でいいんじゃないかな。(一応続くよ)
「最近、やっと落ち着いてきたねー。」
「うん、終わってから最初の数日はインタビューだなんだで忙しかったし。」
タッグトーナメント終了から半月ほどのこと、ようやく落ち着きを取り戻したGIRLSでは、その中心人物であるシンジとミクラスがくつろいでいた。
談話室の端には、新しく大きな優勝杯が飾られており、その内側には優勝者たる二人の名前が刻まれている。結局大きすぎたトロフィーは二人の家には置き場所がなかったので、誰でも見れるここに置かれたのだった。
「二人とも、すごいだらけっぷりだね。」
「いやいやー、縁側のアギちゃんよりはマシだと思うよー。」
「むぅ、ボクだってそこまでじゃないよ?」
「アギネコに癒されたいであります。」
「ボクはネコじゃないっての!むぐぅ。」
反論してくるアギラの口に饅頭を突っ込んで黙らせる。本人が否定しようがネコはネコ。見てるだけで癒されるし、なでるともっともっと癒される。
「あ~、やっぱ一家に一匹アギネコだわ~。」
「んんっ、にゃー!」
「ほれほれ~、お茶を飲め~、そういえば今日ウィンちゃんは?」
「んにゃ~、ウィンちゃんは今日エレキングさんと外回り。」
「あぁ~エレキングさんとか~、外回りといいつつショップめぐりしてるんじゃないかなぁ~?」
「いやいや、エレキングさんそれぐらいの分別はあるよ?仕事終わりに巡ってそうだけど。」
「そろそろなでるのやめてほしいんだけど?」
ゴメンゴメンと身を正して向き直ると、そこには大層ご立腹なむくれっ面。けど寝ぼけ眼で全然怖くない。
「エレキングさんといえば、シンジさんこないだ災難だったね。」
「災難?ああああああああ!、あったなーそんなの。」
「あったねー、なんて他人事みたいな・・・。」
実際半分他人事みたいなもんだし、とその顛末を思い出す。それは3週間前のこと。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「あきません。」
「ええ、いけないわね。この状況。」
その時、シンジとエレキングは危機的状況にあった。その場所はGIRLS本部。身内なら安全じゃない?と思えるだろうがそうではない。危険というのは常に身近にあるものだから。
「あきません。」
「ええ、開かないようね。」
そして事件現場は密室、玄関正面エレベーター。日中利用者が最も多いと思われるそのひとつを、2人は現在独占している。
「くっそー、ツイてない。」
「ええ、真っ暗ね。」
ただし『停電中』という注釈が末尾に付く。
「空調も止まったみたいですね。」
「なんだか暑くなってきたわね・・・。」
それもショッピングモールなんかにあるような外側がガラス張りの明るいやつではない、屋内の完全に密封された個室である。しかもどういうわけか非常灯すらついておらず、緊急時外部に通報できる非常ボタンも反応しないという有様である。
「それで、どうして携帯まで動かないのかしら?」
「本当になんでなんでしょう?ついさっきまで通話してたのに。」
「電話しながら歩くのはあまりマナーがなってないと思うわ。」
「ご、ごめんなさい。」
「っていうかさっきぶつかってきたわね?アレは故意だったのかしら?」
「違います、ちょっと肩が触れ合って言葉なくして刻が遺した熱い命をこの手のひらで明日に残そうとしただけです。本当です、信じてください。」
「触ったのね?」
「アッハイ。」
真っ暗でエレキングさんの表情は見えなかったが、呆れているのはわかった。いつものことである。本当に申し訳ないと思う。
「どうします?天井を外してシャフトに出てみましょうか?」
「そんな危険なことしなくていいわ。どうせしばらく待てば復旧すっるでしょう。・・・実は一回出てみたかったとか、思っていないでしょうね?」
「はい。」
「その『はい』はどっちの・・・まあ、いいわ。」
だんだん暗闇に目が慣れてきて、お互いに『そこにいる』ということが掴めてきたころ。外界の音が一切ないことに気が付く。まるで
「エレキングさん、これに座ってどうぞ。」
手探りで渡された物の感触を確かめる。ポリエステルとナイロンのよく知った手触り。
「これ、あなたの上着じゃないの?シワになるわよ。」
「女性を地べたに座らせられませんから。」
隅っこで三角座りする・・・その姿は見えていないが、ともかく控えめに座るシンジに逡巡するエレキングだったが、シンジがそういう人間だともう理解しているので断るだけ無駄だと悟る。
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
「どうぞどうぞ。」
心なしか声が笑顔なのは気のせいかしら。深くは追及しないけれど。
そうしてしばらくじっとしているが、相変わらず音沙汰ない。不気味すぎるほど静かだった。
「・・・ねぇ、そこにいる、わよね?」
「いますよ?何かありました?」
「なんで・・・黙ってるのよ?」
「なにを?」
「なにを?じゃなくて、なんでも何も喋らなくなったのよ?」
「喋ることがなにもないので。」
「なにか喋っていなさい。不安になるから。」
「アッハイ。」
「怖いんですか?」
「は?」
「その・・・お化けとか?」
「どうしてそうなるのよ!」
「だって、さっき不安になるとか言ってましたし。」
「違うわよ!単に暗いのが苦手なだけよ。」
「・・・怖がり?」
「違うわ!」
「ホラー映画だとこういう時、天井からモンスターが降ってきたり、ドアが開いたらゾンビがなだれこんできたり・・・。」
「や・め・な・さ・い!」
「あだぁ!暴力反対!」
エレキングの平手打ちが数回空ぶった後、立ち上がって改めて放たれた下段キックがぺしぺしとシンジの脛を打つ。
「だいたい、怪獣娘である私に怖いものなんてあるわけないじゃないの!」
「推しの中の人が結婚しましたの報告をしたりとか。」
「それは怖さのベクトルが違うわ。」
「なんで素直に祝福できずに荒れるんでしょうかね。」
「誰が相手であろうと自分よりも幸せになるのが許せないんでしょう。」
「幸せなぁ・・・。」
何も喋らないでいるとそれはそれで間が持たない。それは焦りでもある。外界から音が聞こえない以上、自分たちで音を出していないと気が逸る。
「エレキングさんの幸せって?」
「どういう意味よ?
「そのままの意味です。」
「趣味に情熱を注いでいるとき。」
「ほ、他には何か?」
「甘いものを食べるとき。」
「エレキングさんも、割と普通な女の子なところあるんですね。」
「それはどういう意味かしら?あぁん?」
「アバーッ!」
ちょっと元気になってきたエレキングさん。暗闇の中でシンジの目に星が飛ぶが。
「じゃああなたの幸せって何かしら?女の子を侍らせてハーレムを作ることかしら?」
「そんなことは!ない・・・です・・・。」
「どうして元気がなくなっていくのかしら?」
「その、否定はできないので。」
「正直者ね。そういうところはゴモラそっくりね。」
「じゃあやっぱり一番はゴモラなのかしら?」
「そう・・・ですね。ミカは一番好きだと思います。けど、みんな違うから順序つけたりとかなんてそんな。」
「いかにも軟派なセリフね。『みんな特別』なんて。そんな甘い言葉で何人かどわかすしてきたのかしら?」
「僕、そんな風に思われてたのか・・・。」
「冗談よ。あなたがいい人間だということは、誰もが知ってるもの。」
「じゃあエレキングさんは僕のことどう思ってるんですか?」
「前にも言ったけど、私は好きでもない人とお茶したりしないわよ?」
「エレキングさんこそ、軟派な物言いじゃないです?」
「あら、言うじゃない。でも、私はいつでも本気よ?あなたさえその気になればそう・・・。」
お互いに顔が見えないこともあって、普段言わないようなことを言い合う。お互いを阻む『壁』もまた見えなくなっているようだった。
「ふふっ、なんだか・・・楽しいわ。」
「僕をからかって楽しいですか?」
「あなたが面白い反応をするからいけないのよ。今ならゴモラの気持ちがわかるわ。」
「ミカ相手なら負けるつもりもないけど、エレキングさんが相手じゃなあ。」
「そうね、じゃあ例えば・・・。」
すっと相手が立ち上がるような音がシンジには聞こえた。次に感じたのは肩への重み。
「へっ?!」
「例えばこーんなことをしたら、あなたは耐えられる?」
「エレキングさん、ひょっとして酔ってます?」
「そんなことはないわ、私未成年よ?」
「毎度毎度思うけどエレキングさんは未成年には見えない!」
「大人っぽい、ってことかしら?」
違う、あまりに違いすぎた。シンジの頭の中にいるエレキングさんの像と、目の前にいるであろう人物とではかけ離れすぎている。
「ふふふっ、楽しいわ♪」
「ちょっ、エレキングさん、それ以上は・・・。」
「なぁに?それ以上はどうなっちゃうのかしら?」
互いの息がかかる距離まで密着している。エレキングが上、シンジが下。
「た、食べないでくださーい。」
「食べないわよ。けど、マーキングぐらいはしちゃおうかしら?」
その時、ガコンッという重い音と共に重力が降ってくる。突然のことで上になっていたエレキングの体がシンジに覆いかぶさる。
「ひゃっ?!」
「お、重っ・・・。」
「ととっ、ごめんなさい、今どくわ・・・。」
エレキングが立ち上がろうとしたその時、目の前に光が広がってくる。徐々に明るさに目が慣れてくると、そこにいたのは見慣れた赤い髪。
「あれぇ?エレエレにシンシン、なにやってるんですかぁ?」
そしてどこか気の抜けるような甘ったるい声。ピグモンである。慌ててエレキングは身を正す。
「ななな、なにって、、エレベーターが止まってずっと中に閉じ込められていたのよ。きっと停電したせいね。」
「停電?停電なんかしてませんでしたよ?ただこのエレベーターがずっと止まってたから、様子を見に来たんですよぉ。」
「えっ、じゃあなんで止まってたの?」
「さぁ~?けど何か強い電流のせいでショートしたのかもしれないってペガペガは言ってましたよ?」
「電流?」
ペガペガというのは、GIRLS技術主任のペガッサ星人さんのこと。それはともかく、強い電流のせい、ということは・・・。
「エレキングさん?」
「な、なにかしら?」
「ひょっとしてエレキングさんが原因?」
「そ、そういえばあなたにぶつかられた時に何かが弾けたような感触が・・・って、それならやっぱりあなたのせいじゃない!私は悪くない!」
「でもなんで携帯まで通じなくなってたんでしょう?」
「多分、エレエレが無意識のうちに妨害電波を出してたんだと思いますよぉ。外から声だけは聞こえてました?」
「声って?」
「えーっとぉ、エレエレが実は怖がりなこととか、話し声ですぅ!」
「全部じゃないの!」
「それよりぃ、声だけじゃわからなかったですけど、他に二人でなにやってたんですかぁ?ピグモン気になりますぅ!」
「な、なにもしてないわ!そうでしょう??」
「えっ、えーっと、どうしよう。」
「あっ、ピグモンも食べないでほしいですぅ☆」
「あああああああああああああ!!!」
エレキングはにげだした!
「ありゃりゃ、エレエレの珍しい一面ですねぇ。」
「ピグモンさんってたまにエゲつない。」
それからしばらくのうちは、エレキングさんと廊下ですれ違う度に鋭い目で睨みつけられる日々が続いた。
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と、言うことがあったのだった。
「エレキングさん、ちょっと意外かも。」
「でも、本人の前で話すのはナイショね。」
「あはは、でも今の話聞いたらミクちゃんももう少し仲良くなろうと思ったんじゃない?」
「いやー、やっぱアタシはエレキングさんのこと苦手かなー・・・。」
「まあ、そのうちでいいんじゃないそのうちで。」
相変わらずミクラスはエレキングが苦手らしい。せっかくエレキの力に目覚めたんだから、もうちょっと仲良くしてもいいと思うのだが。
「エレキングさんといえば、お金持ちなんだったっけ?」
「うん、家が案外近くだって最近知ったよ。」
(遠回しに自慢してる?)
「それで、バリケーンさんとも会ったことがあるんだっけ?」
「らしいね、そこまで親密だったわけではないらしいけど。」
そのバリケーンさんとも、ここ最近でグッと距離が縮まった。むしろ縮めてこられたというのが正しいが・・・。
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「シンジ様~♡」
「誰?様?」
2週間前のある日。お昼前の城南大学のキャンパス内で、一人歩いていたシンジに声がかけられる。今日はもう講義もないし、のんびりしようとしていたところだった。そんな時に声をかけられるというのは運がいいのか悪いのか。
「バリケーンさん。」
「そうですわ!奇遇ですわねシンジ様♡」
「様とかやめて。」
周囲の観衆がにわかに色めきだつ。見るからにお嬢様といった格好な、フリル付きのドレスのようなワンピースを着たバリケーンさんに様付けで呼ばれるなんて、アニメでもなかなか見ないようなシチュエーションだから。
「ご機嫌用、今日もいいお天気ですわね。今日はどちらへ?よろしければ一緒にお食事などいかがですか?」
「お昼?そうですね、僕も外に食べに行こうかなって思ってたところだし。」
「まあ!なんと奇遇なんでしょう!では私の家においでください!両親にも紹介したいと思っていましたの!さあさあ!さあさあ!」
「うん、ちょっと待とうか。」
いくらなんでも喰いかかりすぎなバリケーンさんの勢いに押される。このまま押し倒されては大事なものを喪いそうなのでなんとか気を確かに保つ。
「いきなり押しかけちゃ迷惑になるし、お家にはまた今度招待に預かりますよ、ね?」
「そう・・・残念ですの。」
「でも今日のランチは一緒にしません?いきつけのイタリアンがあるんですけど。」
「イタリアンですの!私チーズたっぷりのピッツァ大好きですのよ!」
途中珍しいものを見つけてはフラフラと逸れるバリケーンさんを先導しながら、すっかり怪獣娘たちが集うお店となったJJ氏の営業するイタリア料理屋に行く。
「いらっしゃいましー、おやシンジさんご無沙汰ですねぇ?そちらはたしか・・・バリケーンさん!」
「ええ、今日は2人です。」
「では窓際のお席へどうぞ。」
一番いい席に通されると、メニューを眺めて今日の気分と腹の調子を窺い、適当に注文する。
「ここのお店には、他の怪獣娘さんたちの写真もたくさんありますのね。」
「隠れ家的な雰囲気がいいって評判ですよ。」
「隠れ家、ですの?」
「普段の生活とはちょっと離れた、避難所みたいな場所さ。そういうのが一つはあると安心できるでしょう?」
ここには煮え滾るフライパンのような暑さも無ければ、指が千切れる寒さもない。
あるのは厨房から漂う食欲をかき立てる匂いと、精神が程よく安らぐクラシック。
「おっ、シンジ君もいたのか。それにバリケーンさんも。」
「ベムラーさんこんにちは。」
「ど、どうも、ですの・・・。」
料理が運ばれてきてからしばらくすると、2人に近い席へベムラーさんがやってきた。
「なにやら珍しい組み合わせだね?キャンパスで偶然会って、シンジ君がここに連れてきたってところかな?」
「そうですよ。さすがベムラーさん名推理。ベムラーさんはどうして?」
「ここのエスプレッソがおいしいから。」
「なる。」
その後も、続々と見知った顔が入店してくる。
「あっ、レッドキングさんだ。」
「べ、別にここのプディングを食べに来たわけじゃないんだからな!!」
「まだ何も言ってないですよ?」
「おっ、キングジョーさんだ。」
「ハローシンジー、奇遇デスネー。」
「キングジョーさんもすっかりここの常連ですね。」
「シンちゃーん!奢れー!」
「言うに事欠いてそれかい!」
「なーんてうそうそ、今日はバリケーンちゃんと一緒なんだ?」
「本当に、色んな怪獣娘さんたちとお友達なのですね。シンジ様は。」
「友達というか、仕事仲間って面も大きいですけど。まあ、それが信条なんで。」
「・・・なんだか、羨ましいですの。」
「バリケーンさんにも、友達いるでしょ?ゴルザさんもそうだし、ミカたちだって。」
「ええ、私もそう思っていますわ。けど、シンジ様がそうであるように、私はお友達に対してなにをしてあげればいいのか、わからないんですの。」
「距離感がわからないんだね。」
バリケーンはコクリと無言で頷く。元々バリケーンは何でもできる人間だったので、頼るということに慣れていないんだろう。
「僕も昔は、一人で何でもできるように、他人に迷惑かけないように振舞ってたかな・・・。」
「シンジ様もですの?」
「うん、けど僕一人じゃどうしようもない事態もあって、その時に助けてくれたのが怪獣娘だった。」
「それがきっかけでしたのね。」
「うん、けど逆に言うと、『頼られる』ってことも関係のひとつなんじゃないかな。あの時のアギやミカの側からすれば、僕に頼られたってことになるし。」
「だから、焦らなくても直に時間が解決してくれると思うよ。」
「最後の最後ですごい投げやりなアドバイスだね。」
「うるさーい、ミカこそなんかないの?」
「そーだなー・・・じゃあバリケーンちゃんにひとつお願い!」
「な、なんですの?」
「一発ギャグ!やってほしいな!」
「い、一発ギャグ?」
それ誰も得しないだろ、とツッコミたいのは山々なのだが、なんだかバリケーンさんもやる気になってしまっているので止めるに止められない。
「や、やりますわ!」
「マジかー!ガンバってバリケーンちゃん!」
なんて他人事なのだ。
「まずは、ソウルライド『バリケーン』!ですの!」
期待を受けたバリケーンは、怪獣娘へと変身した。エレキングさんとも並んで目のやり場に困る。
「やーいシンちゃんスケベー。」
「黙ってろい。」
変身完了すると、中身が空になったコップを手に取って放り投げる。
「いつもより・・・多めに回しておりますの!」
染之助・染太郎の傘芸のように、頭の笠でコップを落とさないように回してみせる!
「あれ、ミカの太陽の塔より面白いぞ!」
「ほほーう?シンちゃんもあとで一発芸ね。それより、バリケーンちゃんすっごいじゃん!!」
「ふ、ふふん!私ならばこれぐらいのこと、出来て当然ですの!オーッホッホッホッ!」
にわかに店内に拍手が起こる。どうやら、バリケーンも一皮剥けたようだ、これなら何の心配もない。
「ありがとうございます、シンジ様。」
「別に僕はなんもやってないよ、バリケーンさんがすごいんだ。」
「ええ、私すごいんですのよ!シンジ様ぁ!」
「あー!バリケーンちゃん抜け駆けは禁止だよー!シンちゃんもデレデレしないのー!」
感極まってバリケーンが抱き着いてくる。ゼリーのようにプルプルで、豊満な感触に思わず顔がにやけるシンジを、ゴモラの強烈なツッコミが制裁する。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「っていうことがあった。」
「うぇー、シンジさんサイテーッ。」
「僕は悪くない。」
「でもシンジさんいっつもデレデレしてない?」
「そりゃするでしょ、こんなかわいい子たちに囲まれて仏頂面なんて無理よ。」
緊張しすぎて無表情で固まることはあるが、それ以上に心が正直に生きている。
「バリケーンさんもそうだし、この前の大会では本当にいろんな人たちと戦ったよね。」
「ザンドリアスやマガジャッパちゃんまで参戦するとはちょっと考えてなかったけどね。」
「意外な能力が見えたり、楽しかったね。」
「ベムラーさんも意外だったね。」
「そういえばシンちゃん、ベムラーさんとも一緒に出掛けてなかったっけ?どんなことしてたのー?」
「ナチュラルに入ってくるなよミカ。ああ、あれも大変だったよ。」
1週間ほど前のこと。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「こんちゃーベムラーさーん。って、なんで電気つけてないんです?」
「節電。」
「僕濱堀シンジが点灯しようというのだ。」
「エコだよそれは。」
昼間だというのに薄暗い部屋の壁にあるスイッチを押すと、窓から入る光を頼りに事務仕事をしていたベムラーさんが顔を向けた。いつものキリッとした顔からは想像もできないほど大きな隈ができている。
「お茶も出せなくてすまないな。」
「いえ。今日はちょっと相談が。」
「ふっ、私への依頼料は高いぞ?」
「前金100万円で。」
「ちょっと待ちたまえ。」
クールに気取ろうと座りなおした腰がすべって頭からずっこけた。
「ああ、このお金はいたってクリーンな現ナマですよ。この前の大会の賞金の半分です。」
「いや、それはわかるが、私に一体何をさせる気なのかね?いや。何をさせられるのかな?」
「受けてくれるんですね。正直、ただ受け取ってくれるだけでいいんですけど・・・。」
「あっ、お茶淹れようか、それともコーヒーがいいかい?」
「ああお構いなく。」
急にへこへこ、というかよそよそしくなった大人の姿に情けなさを感じたが細かいことは置いておこう。
「ベムラーさんの愛車、あれの修理代を立て替えたいと思って。」
「なんだ、そういうことか。あれを壊したのは結局私の責任なのだから、君が気にすることは何もないのだけれど。」
「そうじゃなくても、ベムラーさんがローン持ちなんてなんか嫌ですし。」
「それはエゴだよ。君の好意は嬉しいが、悪いけど受け取れないな。」
「その割には貧乏ゆすりが。」
「ああ、今日はなんだか寒いね。」
「寒い、ですか。」
「抱きしめて。」
無言で肩を抱き寄せてしばらくそうしている。
「もう大丈夫だ。」
「えっと、話し戻しますね。それで、今度一緒にお出かけしませんか?って誘いに来たんですが。」
お茶請けに出されたすもも漬けを食べながら、すっと取り出した一枚のチラシを見せる。
「おお、モーターショーか。気になっていたんだよ。」
「やっぱり。ベムラーさんならノッてくれると思ってました。」
そこでは日本のみならず、世界各国から様々なマシンが展示される。機械いじりが好きなベムラーさんなら必ず行きたがると思っていた。
「最新鋭機の試乗まで出来るのか!いいなー!行きたいなー!」
「でしょ?よかったら一緒に行きませんか?」
「うん!行く!」
無垢な子供のように目を輝かせ、元気に頷くベムラーさんを見て、快く受け入れてくれたことに胸をなでおろす反面、もう一つの重大な発表に緊張感が増す。
「それで、そこへの行き方なんですが・・・。」
「うん、電車になるかな?」
「その、実は僕運転免許を取得したので・・・。」
「ほう?」
「僕が運転していく・・・ってのは、どうですか?」
「いいね!」
今回の話のミソはそこ。いつも頼りにさせてもらっているベムラーさんに、頼ってもらう形になりたかったのだった。
「自動車の路上教習だな!まかせたまえ!」
「えっ。」
違う、そうじゃない。と言いたいところだったが、すでにベムラーさんはウッキウキな気分で準備を始めていた。どうやら道中のコーチですら楽しもうとしているらしい。
「まあ、楽しんでくれるならいいかな。」
ホテルの予約もして、ガッツリイベントに張り付く予定も付けた。
そして当日、現地。
「さすが優等生、エンストを起こさず、マナーも完璧に守っていた。どこかのハンドル握ると豹変する人にも見習ってほしいぐらいだ。」
「誰のこと?」
「君も知ってる人だよ。」
誰のことなのかはさておき。
「見なよシンジ君!あれがパリの日だ!」
「そんなに急がなくてもどこにも行きませんよ。」
無邪気にはしゃぐベムラーさんを見れただけでもう労力に対するおつりが返ってきそうだが、まだまだ旅行は始まったばかり。
「あっ、これなんか見たことありますよ。」
「サイドマシーンだな、いい趣味をしているよシンジ君。」
「この車、コスモスポーツ!」
「よく知ってるじゃないか!」
「ウチのガレージで埃被ってますよコレ。」
「何?!初耳だぞ!」
「なんだこれ、すっごいかっこい!!」
「ファルコだな!試乗できるらしいぞ!乗ってみるかい?」
「これ操縦するのは無理ですよ!」
「ありがとう、今回は誘ってくれて。」
「いいえ、僕も楽しいですし。」
ひとしきり展示物を眺めて回って、今度は外へ。サーキットでは様々なマシンの試乗体験が行われている。最新鋭機だけでなく、今ではお目にかかることもできないような幻の機体も揃っているとあって大賑わいだ。
「ファルコの整理券ゲットできてよかったですね。」
「キミのおかげだよ。私のほうは外れていたし。」
「僕は・・・乗りたくなかったので、それ。」
「そうかい?面白いじゃないか。」
「正気の沙汰と思えませんよそのサス。」
ファルコ・ラスティコ、1985年のモーターショーでお披露目された白隼は近未来的なデザインだけでなく、様々な技術が試験的に導入された
詳しい説明は省く、というか作者が知ったかぶりなので説明できないが、そのあまりに先進的すぎる設計に、ライダーたちがこぞって乗りたがらなかったという。これを乗りこなせるのは、よほどの大莫迦者、あるいは
「だがこのスリル、慣れる楽しいぞ!」
「そりゃあベムラーさんほどの反射神経と度胸があれば。」
「だがキミだって私を半分乗りこなしているじゃあないか?」
「うっ・・・あ、青信号ですよ!」
「はいはい。」
非常に慣れた手つきでアクセルを回し、何の苦も無く白隼を乗りこなす。さすがとベムラーさんに賛辞の言葉を贈る。
「でも、こうしてキミと並んで走れるなんて、以前は思いもしなかったな。」
「僕ずっと運転してもらう側でしたからね。」
「君を後ろに乗せたこともあったな。」
「ありましたねー、もう懐かしいってぐらいですけど。」
本島にベムラーさんとは長い付き合いだと思う。その大人としての在り方は、シンジにとって間違いなく憧れの姿だった。
「でも今日は、君が私を乗せてくれたね。」
「ちょっと緊張してました。」
「助手席に座るなんて、すごく久しぶりだったよ。」
「ベムラーさんなら普段自分で運転しますもんね、当たり前だけど。」
「ああ、私が運転を辞めるのは死ぬときか・・・、恋をしたとき、かな?」
カウントダウン式の停止帯で並ぶシンジのハートに、ベムラーのシールドごしの悪戯っぽいウインクが突き刺さる。
「そ、そんな・・・ほらあと5秒で変わりますよ!」
「ふふっ、キミは本当にカワイイな。」
5秒後、鉄の獣、吠える。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「いやあのね、ニュートラル入れてたのね。そしてそれ知らないでセカンド発進だと思ってそれなりにスロットル回したら動かないから、あれっと思ってギアいじったっけ、ロー入っちゃって、もうウィリーさ」
「いいなー、おいしいなーシンちゃん。」
「バカ野郎死ぬかと思ったわ。」
「ごめん、聞いても何の話かわかんないんだけど。」
辛いところでガードレールにぶつかって止まったからよかったものを、これがサーキットではなく公道だったら間違いなく死んでいた。
「本当シャレならんかったらから、ベムラーさんには滅茶苦茶怒られたし。」
「だろうなー、やっぱシンちゃん持ってるわー。」
「むしろツイてないからああなったんだと思うんだけど。」
「まあ、ケガしてなくてよかったじゃん。そのあとももお楽しみしたんでしょ?」
「ベムラーさんにめっちゃ心配されたけどね。」
「ならやっぱよかったじゃん。」
「よくないよ、せっかくとったばっかりの免許証も
提示されたカードには大きく『免停』のシールが貼られている。貼ったのはベムラー教習官なので法的な拘束力はないが。
「ところでシンちゃん、『あの話』はどうなったの?」
「どうなったもこうなったも、ミカに出鼻をくじかれて終わったよ。」
「何の話?」
つい先日の話。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
シンジは普段雑用もとい何でも屋として様々な部署に配属される。そのうちの一つ、技術部でこそ銀色の脳髄が輝ける。
「シンジさん、何の設計をしているんですか?」
「あっ、主任お疲れ様です。」
白と黒のツートンカラーに、黄色のアクセントの入った怪獣娘。ペガッサ星人さん、本名沢中イズミさんである。技術部に顔を出すシンジもよく気をかけてもらったりしている間柄だ。
「ちょっとやれることが増えてきた分、仕事が複雑化してきたから、補助してくれるAIを組んでみようかなって。」
「サポートロイド、ですか?」
「そうです。でもプログラミングは門外漢なもので、キングジョーさんに聞いてみようかと思ったんですが、キングジョーさんも忙しいみたいで。」
「あはは、最近は妹さんに構いっきりみたいですからね。」
妹、キングジョーⅡさんは、あの大会以来ずいぶんとアクティブになったらしい。妹のためにいろいろしたいというのは姉として当然のことだろう。
ともあれ、助力を請えないとあれば自分で何とかするしかないのが道理。だからこうしてマニュアルとにらめっこしている。
「そういえば以前にキングジョーさんが試験的に組んでいたプログラムがあったので、それを使わせてもらってはどうでしょうか?キングジョーさんには私から報告しておきますから。」
「本当ですか!さすがキングジョーさんだ。」
見せてもらえば、まさに欲しかったものがそこにはあった。一言聞いてみるものである。
「ふんふん、あとはこれをバディライザーに合うように調整して・・・。」
「大丈夫ですか?何か手伝えることは。」
「いや・・・これなら一人でもなんとかなりそうです!ありがとうございます主任!」
主任主任と呼んでい入るが、本当にこの人が主任なのかは知らない。どっちかというとこの人は、育成部の博士の助手的なポジションだったと思うのだが、細けえことはいいんだよ。
「じゃあ何か困ったことがあったらいつでも呼んでくださいね!」
「はい、ありがとうございます!」
「って、言っても。シンジさん、何でも一人でやろうとしちゃいますよね?」
「あはは、バレてたか。本当に困ったときは助けを求めますから、安心してください。」
「本当にぃ?と言うかどっちが安心する側なのか・・・。」
そうは言うものの、本当に困るようなことが起きないのだから仕方がない。今回に限っては、キングジョーさんのプログラムがあまりにも完璧すぎて、素人シンジが手を出すと逆に改悪させかねないほどだった。
「よっしゃ、出来た出来た出来た。あとはインターフェイスだけかな。」
ただあとで聞いたところによると、更新の余地をあえて残してあり、伸展性を柔軟性を付け加えてあったということなので、そこに気づけないシンジは結局はまだまだというところか。
「音声案内とかしてもらいたいから・・・どうせなら萌え萌えなアンドロイドとかを?」
ごくごく身近に、超有能な執事ロボットならいるということを、決して忘れてはいないのだが。ただあの人は何というか、シンジ個人ではなくその父と、バディライザーの繰り手に仕えているという面があるのでちょっと常日頃一緒には居づらいのだ。
(さてどんな子がいいかな・・・包容力のあるお姉さん系、ちょっとドジっ子なメイドさん系・・・。)
アシスタントがドジっ子だとそれはそれで困るが。そういえば、大会MCでもお世話になったSSPもサポートAIを作ったことがあったとか。あの人たちは相変わらず仕事が無くて困ってるらしいけど。
「よし、やっぱりツンデレなお姉様キャラがいいな!」
「シ、シンジさん、どうしました?」
「あ、なんでもネッす。」
胸の高鳴りに合わせてツイ声まで大きくなってしまったが、かろうじて変な目で見られるだけで済んだらしい。
「さーって、そうと決まれば早速ボイスサンプルをもらってくるか。主任、芸能部のレコーディング室借りますね!」
「えっ、あっ、わかりました。お気をつけて?」
「いってきまーす!」
できればおっぱいの大きい声がいい!そう、例えば普段はクールだけど、その実オタクで好きなものを集めることに余念がないおっぱいの大きい先輩とか。コーヒー割引券あたりで引き受けてくれるだろうか。
「エレキングさんどこかなー?あわよくばボイス以外のデータも参考に欲しい。3サイズとか。」
「ほーう?」
残念ながらそこにいたのは心の声まで丸っとお見通しなひんそーでちんちくりんな幼馴染だった。結果は推して知るべし。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「だからお兄ちゃん大好きな妹か、ロリコンキラーなアンニュイ系ガールなら許したって言ったじゃん?」
「戦場に妹は連れてきたくないから!」
「うそつけー!どうせおっぱいがいいんでしょこのスケベー!」
「ソンナコトナイワー!」
「目を見て話せー!」
と、今に至る。たシンジとミカが不毛な言い争いをしているが、アギラとミクラスの冷ややかな視線にペンペン草も生えない。
「そういえばミクちゃん、デートするって話どうなったの?」
「えっ、今聞くのそれ?まあ、まだだけど。」
「えー、シンちゃん約束守らないのはいけないと思うなー?」
「たった今ゴモたんが
まったくすぐ暴力に頼るなんて大人げない。物言わぬ干物になり果てたシンジに鉄槌が降りかかるが、それはそれとして。意味もなくいじめるのってなかなか楽しいな。
「けどそれってボクの愛なの♡」
「ぐひゃあ!」
「やめたげてよぉ!」
面白いのでもう一発。
「ミクちゃんどこか行きたいとこあるの?」
「ん?んー・・・特にない、かな?シンジさんが連れてってくれるなら。」
「いやいや、シンちゃんをあんまり信用しちゃダメだよ?お昼何も言わなかったら牛丼屋連れてっちゃうようなシンちゃんだよ?」
「アタシ牛丼好きだし問題ない!」
「そういう意味じゃなくって。」
ああ、優勝杯が泣いている。
「僕はミクさんとやりたいことあるんだけど?」
「お?シンちゃん何かアイデアがあるの?」
「なんというか、ちょっと消化不良気味なところがあったから。」
「消化不良?バトルロワイヤル形式になったこと?」
「それもあるけど、もうひとつ。」
指差したのは件の優勝杯。カップは何も語らずキラキラと電灯の光を反射させている。
「あれはタッグ戦の景品だったでしょ?でも景品はひとつだけなわけで。」
「それにあんなにおっきいし。家に置けないし。」
「まあ確かに、あとは記念品といえば写真ぐらいだね。」
「あっ、わかっちゃったわかっちゃった。何が言いたいかわかっちゃったかも。」
ミカにはわかったようだが、アギラにはピンとこないらしい。ミクラスも何かを察してやんわりと口角が上がる。
「つまり、僕とミクさんどっちがつえーのか、そこを決めたくって。」
「エクストララウンドだー!」
タッグに文句があったわけではない。むしろいつもと違う戦い方があって、楽しかったとも言えよう。だがその分、個々の活躍は少なくならざるを得なかったと感じていた。
「一度でいい、心行くまで戦ってみたい!」
「すっかりシンジもバトルマニアになっちゃった?」
「おっとぉ?シンちゃんミクちゃんに勝つつもりなのかな?」
「勝てると踏んだから今回申し込むのだ!受けるミクさん?」
「もっちろん!アタシも今のシンジさんと全力で戦いたかったんだー!」
こうして、タッグトーナメントの後夜祭が始まった。観客はごく少なく、景品も出ない。それでも戦うだけの理由と価値があった。
「「本当の闘いは、ここからだ!!」」
ついこの間、Gのレコンギスタを全話一気見したわけなんですが、超おもしろかったです。確かに少々説明不足なまま急降下していくけれど、専門的用語とかは話半分程度に留めて、描写される映像を噛み砕いて、あとから「あれはどういう意味だった」かを考えれば十二分に楽しめる作品じゃないかと。
それで中の人的な着想で浮かんだのが、Gレコ×ゼルダの伝説BotWとかどうよ?