怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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怪獣大進撃!③

 「い・い・か・げ・ん・に、しろーっ!」

 

 どわーっ!と包囲を跳ねのけ、目をかっぴらいて威嚇する。

 

 「もういいかげんに怒ったぞ!こっから本当の地獄を見せておぅっ。」

 「スキあり。」

 「わー。」

 

 これで何回目のダウンだったか、観客はもはや数えることすら放棄している。原作のストックの問題でアニメの方が1話1話が引き伸ばされた結果、ヒロインが筋肉モリモリのゴリマッチョにボコボコにされ続けるだけで1話が終わった事態もあるが、今回のこれはそんな需要もないだろう。ないだろ?

 

 「うそつけー、エレちゃんに踏まれて実は喜んでるくせにこのー。」

 「してねーよ!」

 「そうでなくとも私は楽しいからいいの。」

 「よくねーよ!」

 「ほ?先輩にそんな口叩いていいのかしら?」

 「うぎゃー!」

 

 「もう、いい加減止めてあげた方がいいんじゃない?」

 「あー・・・そうだな。」

 

 静観、というか手出し不能で傍観していたベムラーとミカも、さすがにいいかげん可哀そうだと気づいて止めに入る。

 

 「はいはい女王様、お楽しみはプライベートでやろうね?」

 「ほらマコも、あんまし怖い顔してるとシワが増えるよ?」

 

 なんとか引きはがされ、宥められると蹴っていた人物たちは大人しくなり、いぢめているのはゴモラだけになった。

 

 「いやゴモたんもだよ。」 

 「ちぇー。」

 

 あとには干物のように()されたシンジがだけが残った。

 

 「うっがー!!今度こそ本当の本当に、怒ったぞー!!お前ら全員纏めて相手してやらー!」

 「えっ、いいの?」

 「眼を輝かすな。」

 

 「けどまあ、大きくでたもんだね?」

 「5人に勝てるわけないでしょうに。」

 「また人さまの力をお借りするの?」

 「うるさーい!そっちだって5人だろうが!別に1の力を5分割しているわけでもないだろうに!」

 

 やいのやいの言いながら、こちらは手札を一枚切る。さっき出来たばかりで、誰も知らない力だ。

 

 「『モンスライド・ナックル星人』!」

 

 右手には白の、左手には黒の拳銃が握られ、交差させて×字を作る。

 

 「『ナックルサイト』!ガッチャ!」

 

 最後に両目に赤いレンズのついたバイザーが装着され、キラリと光る。

 

 「なるほど、さっき戦ったばかりのナックル星人の力というわけね。」

 「銃使ってたもんね。どんな力かは想像つくよ。」

 「そう、なら戦う勇気ある?」

 「なら私はあっちに行こう。」

 「あれ?ベムラーさん行っちゃうの?」

 「じゃあアタシもあっち行くわ。いい加減あっちを2人っきりにしておくのもバトルロイヤルとしてどうかと思しね。」

 「ガッちゃんも?」

 

 散々場を荒らしてからのらりくらりと逃れていったようにも見えるがさておき。

 

 (さて、上手く扱えるかな?相性はいいはずなんだけど。)

 「考え事ができるなんて余裕みたいだねー?!」

 「どうやってやっつけてやろうか考えてただけー!」

 「獲物を前に舌なめずりなんて、三流のやることよ!」

 「熱い三流なら上等よ!」

 「アンタ、凍らすよ?」

 

 一番情け容赦のない攻撃が死角から飛んでくる。まだ怒ってんのかな。

 

 「ばーん。」

 「くっ?!」

 

 けど、頭が知覚するよりも先に手は動いている。昆虫の複眼の様な丸いバイザーが、周囲360度ぐるっと見張ってくれている。

 

 「おー、エレちゃんの奇襲をしのいだ?」

 「反撃開始さ!ヘイキャモーン!」

 「どんだけウェスタンかぶれしてんのよ。」

 

 指先でクルクルと巧みに操るガンプレイを魅せながら、軽く挑発を決める。コワイ先輩に一泡吹かせられたらなんだか調子が付いてきたらしい。今なら負ける気がしないしもう何も怖くない。

 

 「川の様子でも見てくりゃいいじゃん!」

 「なんか雨降りそうだよね!」

 「ご飯食べに行こうよー!」

 「もう夜だしね!」

 「この戦いが終わったらあなたに言いたいことがあるの。」

 「今すぐ言って。」

 「あなたが好きよ。」

 「えっ、マジ?」

 「冗談よ。」

 「ギャース!」

 

 ダメだった。ハニートラップにすーぐひっかかるのも、ガンマンキャラっぽいのか?一体どういうアメリ観をしているのか。

 

 『すぐ調子乗るんはナッコ(ナックル)と同じやな。』

 『私がいつ調子に乗った?』

 『だってナッコよく食事連れてってくれるやん?』

 『それとどう関係あるんだ?』

 『ほら、すぐオゴ(・・)るやん?』

 『やかましいわ。』

 『ありがとうございましたー、ちゃんちゃん。』

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 さて一方。

 

 「なんか見る度やられまくってないかあの子。」

 「大丈夫ッスよ!よそ見してていいんすかー?!」

 「ちょっとは気に掛けたらどうなの?」

 

 こちらは正しく『乱戦』という風に多色入り混じる様相を見せている。遠距離型のマコはビームによる牽制をしつつ距離を窺い、そこへ無鉄砲なほどにミクラスが突撃をかけ、そこへ続く形でレッドキングも攻勢に掛かる。さらにベムラーの横槍が入ると、お祭り騒ぎのようににぎやかになる。

 

 「ははっ!楽しくなってきやがったぜ!オレはこういう戦いも好きだぜ!」

 「レッドの場合、単に戦うのが好きなんじゃない、のっ?!」

 「それもあるけど、戦う相手も、シチュエーションも、普段の大怪獣ファイトじゃ味わえないからな!」

 「全く、賞金に目がくらんだ自分を殴ってやりたいよ。」

 「そんなこと言って、ベムラーさんも結構ノリノリじゃん?」

 「ふっ。」

 

 可能な限り荒事は避け、必要最低限の出費に抑えるのがベムラーの定石だったが、今のこの状況はまるで逆を行っている。しかし不快感などは一切ない。むしろすっきりとした、開放感すらある。

 

 (どうやら、自分が怪獣娘だということを今まで忘れていたようだな。)

 

 心は大人になったつもりでも、本能は闘争を求めていた。これが街中の、人を巻き込むような危うい状況だったならばいざ知らず、元々怪獣娘たちのフラストレーションを発散するための舞台である『試合』の中なのであれば一切関係はない。思いっきり暴れてやればいいのさ。

 

 「そう考えたら、ローン生活を強いられている事にだんだん腹が立ってきたな。」

 「だから?」

 「お前ら全員ぶっ倒して賞金をイタダキだー!」

 「ゼットン無しで?っていうかそもそも、ゼットンはどこいったんだよ?」

 「あいつも今戦ってる。自分の戦場で。」

 

 太平洋上に出現した、謎の暗黒エネルギーと、その発生源を調査・排除するためにゼットンはわずかな仲間を連れて飛んだ。

 

 「そのゼットン無しで、どこまで戦えるのかなー?」

 「見くびってくれちゃ困る、たとえこの場にはいなくとも、あいつは私の相棒(バディ)だ。その相棒が帰ってくる場所を、私は全力で守るぞ。」

 「てことは、ゼットンも用事が済んだら帰ってくるてこと?」

 「ゼットンはそう言った。だから私も信じる。仲間だから。」

 

 正直なところ、ゼットンを送った現場は壮絶な状況に置かれていると思われる。根拠は怪獣娘の勘と、探偵の勘だ。本当に相棒を名乗るのだったら、ゼットンについていくべきだった。

 

 『あなたは、試合に出て。』

 

 

 

 『私も、すぐ戻るから。』

 

 

 ゼットンは任せ、そして信じた。自分の相棒が勝って、一緒に優勝杯を掲げられることを。

 

 「随分買いかぶられたものだな!」

 「なにが?」

 「負けられないってことだ!」

 

 もしゼットンがここまで読んでいたとするならば、彼女をパートナーに選んださすが私と褒めてやりたいところだ。そんな完璧な私なら、この状況もどうということはないと鼓舞する。

 

 「それに、向こうはもっとひどいみたいだし。」

 「あらホント。また囲まれてる・・・けど、意外と善戦してない?」

 「逆境に強いからなあの子。」

 

 パンパンと軽快な花火のようにマズルフラッシュが煌めいているのが見える。一見すると踊っているようにも見えるが、周囲を囲む三人は距離を測りかねているようだった。

 

 「追い込まれた狐はジャッカルよりも凶暴と聞くわね。」

 「どっちかって言うとハンターはこっちの領分なんだけど?」

 「狩る側に回らなきゃ始まらないわよ?」

 「うっしっしー、シンちゃんをどう料理してあげようか?」

 「獲物を前にしての舌なめずりは三流の・・・いや、さっき言ったわね。」

 

 幼馴染同士考え方も似るのかしら?とエレキングは軽く思考しつつ、シンジの出方を窺う。

 

 (彼にとっての一番の『敵』は、この『状況』そのものね。)

 

 誰と相性が悪いとか、どういう攻撃に対して弱いとかではなく、今自然と出来上がっているこの3vs1の構図にこそ対処しなければならない、とまずは思い当たる。

 

 (ゴモラはそんなに深くは考えていないだろうし、ガッツ星人もこの状況を利用しようとは思っているはず・・・なにか思うところはあるみたいだけれど。)

 

 さらに言うと、ゴモラがまず突進して、その後にガッツ星人とエレキングがカバーに入る形になり、自然とコンビネーションも出来ている。なお、その状態でシンジがひたすら守りに徹していられるのは、普段の付き合いである程度手の内を把握できているおかげだ。

 

 「手がもう一本欲しい。」

 「ネコの手も借りたい?」

 「え、アギちゃんが欲しい?あげないよ?」

 「アギはネコ、わかる。」

 

 『なんでさ。』

 

 「縁側でお茶を啜る生態なんてまんまネコだし。」

 「一家に一台欲しい。」

 「わかりみ。」

 

 『んもー!』

 

 ただ、普通の3vs1の構図なら、一人が囮役として動きを封じて、残りの2人がトドメをさせば済む話なのだけれど、今回はあくまでバトルロイヤル。出来れば自分も隙を晒すような真似をしたくないし、次に自分が狙われることになるのでそんな虚をつく姿を他の人物にもあまり見せたくない。シンジにとっての抜け目(・・・)はそこにある。

 

 「何か考えがあるようね?」

 「そう思います?」

 「あなたがあまりにも楽しそうな顔をしてたから。」

 

 さて、賢いエレキングさんはこう考えた。何か仕掛けてくるのはわかるけど、なにをしてくるかまではわからない。彼の考えることだから、きっとろくでもない(おどろくような)事に違いない。ならば最適解(ベスト)よりも最善解(ベター)を選ぶのがいい。

 

 そういう時はどうするか?

 

 「シッ!捕った!」

 「おっとぉ?!」

 「エレちゃんナーイス!」

 「これで・・・おしまいッ!」

 

 エレキングがムチで片手を封じ、そこでガッツが腕を十字に組み、そこから生み出した十字架のような透明な檻がシンジを捕えに大口を開ける。

 

 「その技、いただいた!」

 「んっ?!」

 

 腕に絡まるムチを巻き取り、バッとエレキングを十字架の檻へと放り投げる。突然の坑道に呆気にとられるガッツ星人の視界の、その死角を縫って手に持った銃を組み替えながら距離を詰める。

 

 「目には目を、歯には歯を、十字架には十字架を!」

 

 ガッツ星人のそれとは少し異なる、X字型の十字架。これもナックル星人特有のものだ。

 

 「これを・・・キャプチャーシュート!!」

 「しまっ?!」

 

 ブーメランのように投げられた十字架からチェーン光線が発せられ、たちまちガッツ星人の手足を拘束する。

 

 「ぐへへ、捕まえたぜ!」

 「うわっ。」

 「うわっ。」

 「うわっ。」

 「特に他意はない!そしてすかさず畳みかける!」

 

 恥も外聞もかなぐり捨てて、クラウチングスタートの要領でガッツ星人の足を掴む。

 

 『シンジ選手、磔刑状態のガッツ選手をリフトアップして跳び上がったぁ!』

 

 そこからの組み立ては極々シンプル。

 

 「『クルシフィクション・ドライバー』!!」

 

 パイルドライバーの要領でガッツ星人を脳天から叩き落す。

 

 「ガっちゃーん、大丈夫?」

 「・・・今・・・。」

 「・・・。」

 「今アンタ、わざと(・・・)投げられた、よね?」

 

 呻きのひとつも上げないガッツだったが、その怒りの矛先はエレキングへと向く。

 

 「別にわざと受けたわけじゃないわ。」

 「じゃあ本気で一杯食わされたのかしら?あんなに調子こいておいて。」

 「まーまーまー、ガッちゃんもエレちゃんもスマイルスマイル?」

 「スマイルもなにも、バトルロイヤルでなんで和やかムードになってんのさ!ずっと言いたかったけど!」

 

 険悪ムード、一触即発な空気が流れ始めた時、視界の外から横槍が飛んでくる。

 

 「そいやっ!」

 「あら?」

 「白い方のガッちゃん!?」

 「なんなのその呼び方・・・?って、そうよそうよ、もっとバトルしなさいよ!」

 「シンジもそうだそうだと言っています。」

 

 やんわりと諫めるように、それでいて何か狙いがあるようにミコは促す。少し間があって、マコも追従するように向き直る。

 

 「さーて、ここはうちの相棒に土つけてくれたシンジ君に痛い目見てもらいたいところだけど。」

 「ファッ!?」

 「けど、どうやらマコはこっち(エレキング)のほうにお熱のようね。」

 「あら、それは困ったわね。」

 

 表情こそ眉ひとつ動かさないが、内心では小さく舌打ちして達観する。ハズレくじをガッツ星人に引かせようしたが、ババ(・・)は自分が引いてしまったらしい。

 

 「へっへー!まだまだ甘ぇぞミクラス!あでっ。」

 「あなたも、少しは試合に参加しなさいよ。」 

 「だからって味方を殴るこたぁねえだろ?1」

 「一番の敵はおバカな味方なのよ。」

 「誰がおバカだって?」

 「自覚あるのなら自制なさい。ほら、くるわよ。」

 「おっとぉ!今度はお前らが相手だな!」

 

 心の底から戦いを楽しんでいるレッドキング(パートナー)とは対照的に、自分の役割に注力する。

 

 「やっぱり、私は戦闘タイプじゃないわね。」

 「またそれかよ、お前も十分強いくせに。ドラァッ!」

 

 だからその分頭に正しい使い方をさせているの。あなたのようなただの鈍器とは違ってね。

 

 




 メリークリスマス!(激遅)

 ルーブもグリッドマンも終わってしまった・・・。

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