怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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 まさか1か月以上もかかってしまうとは思わなかった。お待たせしまして本当に申し訳ない。1話当たりの字数が長すぎるのは、書く方も読む方も苦痛ではないのかと今更思い始めた。1話当たり5000字程度で何パートに分けた方が健康的かもしれない・・・。


空を裂く牙

 「おジョォオオオオオオオオオオオオオオさぁああああああああああああああああああん!!!!!!」

 

 「うるせぇ!」

 

 なんか聞き覚えのある声がスタンドの一角から聞こえてくるが、シンジは無視して通信機から聞こえてくる声に耳を傾ける。

 

 「じゃあ、まだちょっとかかりそうですか?」

 『うん、けど試合には絶対に間に合わせるから。信じて。』

 「いえ、ありがとうございます。おかげでこちらは、対策を練るのに最大限時間を割けていますから。」

 

 ニ、三言葉を交わして、シンジは通信を切ると考え込むように顎を撫でた。

 

 「どしたのシンちゃん?秘密兵器間に合わないの?」

 「いや、彼等はきっと間に合わせてくれるだろうけど、最終調整まで手が回るかどうか・・・そこだけは僕がやるから。」

 「パパパッとやって、終わりでいいんじゃない?」

 「いや、これは僕の不安みたいなところだよ。なにせ未知数だから・・・。」

 「たしかに、あの相手はねー・・・。」

 「いや、それだけじゃなくて、ミクさんの潜在パワーが未知数なんだよ。」

 「えっ、アタシ?」

 

 Aブロック一回戦最後の試合、キングジョー&キングジョーⅡの『ペダニウムシスターズ』対クレージーゴン&ビルガモの『スクラップ&ビルド』のカードだ。怪獣の中でも強豪ぞろいだというロボット怪獣同士の対決となる。

 

 「それにしても、さっきまでと全然会場の熱気が違うね。」

 「キングジョーさん人気だからねー。もっぱらモデルとしての活躍が多いけど、こうしてファイトの場に出てくるのも珍しいんじゃない?」

 「あんなに強いのにねー。」

 

 会場はわかりやすく色めきだっている。『大怪獣ファイト』目当てではなく、『出場者』目当てな観客も多い事だろう。作品そのものが好きでお渡し会とかのイベント行ったら、出演者目当てのファンが予想より多くてビックリしたことがある。というか、他のアニメのキャラが描かれた法被(ハッピ)はやめとけよと思った。

 

 「目当てと言えば、この後の幕間(インターバル)にローランさんが歌うんだっけ?」

 「それ目当ての人も多いかもな。」

 「そういえば、チケットがやたら高額でオークションに出されていたわね・・・。」

 「転売か・・・。」

 

 基本的に中古で買っても大元には得は行かないので、みんな転売からは買わないようにしようね。転売屋滅ぶべし、ナムアミダブツ!

 

 「ライブか・・・よーし!」

 「なにがよーしなの?」

 「シンちゃん時間がいるんでしょ?私が稼いであげる!」

 「どうやって?」

 「私も歌うの!モチロン飛び入りで。」

 「いいの、それ?」

 「いいのいいの!ローランちゃんだって一人でこんな大舞台で委縮しちゃうだろうし!」

 「アイツはタマ(・・)じゃねえと思うけどな・・・。」

 「おっ、レッドちゃんも歌う?」

 「お、オレェ?!オレは別にえーっと・・・。」

 「じょーだんじょーだん!レッドちゃんはまだ試合あるもんね。私はもう終わったし。」

 

 と、負けたことをもう自虐ネタにしているあたり、ミカは本当逞しい。

 

 「じゃっ、早速準備してくるね!」

 「えっ、本気でやる気なの?」

 「当たり前じゃん!有言実行!私はいつも明るいゴモたんだよー!」

 「そう・・・が、頑張って?」

 「うん、そいじゃ後でねー!」

 

 軽い口調で本当にミカは行ってしまった。こんな大勢の前で歌ってみせろなんて、多分シンジなら頼まれたってやらない。

 

 「おっ、始まるみたいだな。」

 「キングジョーさーん、がんばれー!」

 「やけに気合入ってるわね。」

 

 片や揃いも揃った金色の、よく似たシルエットのキングジョーの姉妹、片や同じ金色でも全体的に『角』な印象のクレイジーゴンと全体的に『丸』な印象のビルガモのコンビ。

 

 皆元は無機質かつ頑強なボディを持ちながら、あらゆるダメージを負っても痛む心を持たない『機械』の怪獣であったが、今の彼女らはれっきとした『ヒト』である。

 

 それにしても、カイジューソウルを持って生まれた彼女たちが怪獣娘なわけだが、ということはロボットにもソウルがあったということになる。

 

 前世がロボットであったという『記憶』が、彼女たちにはあるのだろうか?そう前にキングジョーさんに聞いたことがあった。

 

 『イエース、もちろんアリますヨ!』

 

 キングジョーさんのお仕事の手伝いで付いていった神戸での出来事だった。仕事終わりに神戸の街の案内をしてもらって、その最後に神戸港で佇んでいた時に、疑問に思ったそのことを問いてみた。

 

 『それってどんな記憶なんですか?ロボットだから・・・工場で量産されてた記憶とか?』

 『ンー・・・ソウデスねぇ・・・。ワタシの場合ハ『宇宙ロボット』ナノデ、宇宙の夢をよく見マス。』

 『宇宙の夢?』

 『宇宙には多くの星がありマス。その中にハ、地球と同じようニ生物のいる星もあって、「ワタシ」はその間を縫うヨウに飛んでいくのデス。』

 

 『ケド、その時の「ワタシ」はその光景に何も感じていないようデシタ。満天の星空モ、銀河を隔てる天の川モ、ワタシにとっては何の興味も惹かない物デシタ。』

 

 『戦って、戦って、戦って、そして壊レル・・・それだけの生涯デシタ。』

 

 『だからワタシは、戦う以外のことを知りたいんデス。ワタシの中のモウ一人のワタシに、戦う以外の生き方を知ってモラウ為ニ・・・。』

 

 ああ、この人もミカと同じなんだ。もう一人の自分と共に生きるため、素敵な物を見つけるための生き方をしたいんだ。

 

 夕陽を反射してキラキラと光る波間をバックに微笑むキングジョーさんが、強く脳裏には焼き付いていた。

 

 「おいシンジ、なにニヤニヤしてんだよ?」

 「いや、こないだのキングジョーさんとの神戸でのお仕事楽しかったなーって。」

 「へー、どんなとこ行ったの?」

 「六甲山の牧場で馬に乗ったりとか、南京町でおいしいもの食べたりとか。」

 「いいじゃん!楽しそうじゃん!」

 「うん、でも一番よかったのは、キングジョーさんのカウガール姿やチャイナドレス姿を撮影できたことかな?眼福眼福。」

 「へぇー、そりゃよかったねぇ?」

 「あれ、ミカもう帰ってきたの?飛び入り参加はどうなったの?」

 「うん、快諾してくれたよ。それよりももっと聞きたいなー?」

 「おいおい、なんで首に手をかけてるのかなー?」

 「ううん、ここはシンちゃんの悲鳴が聞きたいところだから、ちょうどいいんじゃないかな?」

 「喉を絞られたら聞かせられるものも聞かせられないと思うんだけどなぁ?」

 「いいの、ボクには聞こえてるから。」

 

 コキッと小さい音がして、それからシンジは動かなくなった。

 

 「バカじゃないの?」

 「オレもそう思う。」

 

 ボロクズのようにうち捨てられたシンジはさておき、試合は始まった。

 

 「撃ちぃ方ぁはじめぇ!」

 「ンマッシ!」

 

 いきなりビルガモとクレイジーゴンの光線の照射が始まり、負けじとキングジョーも怪光線(デスト・レイ)で応戦する。

 

 「Ⅱ!今デス!」

 「ハイッ!」

 「はやいっ?!」

 

 目にもとまらぬ速さでキングジョーⅡは相手の背後をとり、クレイジーゴンを突き飛ばして、ビルガモの腕をとる。

 

 「あいだだだだだ!!!」

 「見様見真似の、『パロスペシャル』!」

 

 『おぉーっと!キングジョーⅡ選手、先ほどナックル選手の使っていたパロ(PALO)スペシャルを真似(paro)しているぅ!』

 

 「Ⅱさんはセンスがいいのかな?」

 「いえ、あれは戦闘(コンバット)パターンの再現ね。ナックル星人とポーズが全く同じだわ。」

 「スゲー、『ステレオチャンプ』みたい。」

 

 ギリギリと肩関節を逆向きに押されて、涙目になりながらビルガモは呻く。一方、押し出されたクレイジーゴンは、ショウグンギザミのような大きいハサミでキングジョーを攻撃する。

 

 「ンマッシィ!」

 「パワー勝負なら・・・負けマセンよぉ!」

 

 ギギギ・・・と硬い金属の軋む音を立てながら、ロボット怪獣が克ちあう。

 

 「シュゥウウウ・・・。」

 「コレは・・・蒸気?」

 

 突然クレイジーゴンの体から、白いミストがまき散らされだした。

 

 「メカの故障かな?」

 「そんなまさか。」

 

 もくもくと白い(とばり)が立ち込め、アリーナが見えなくなっていく。

 

 『完全に見えなくなってしまいましたねぇ・・・。』

 『これじゃあ何が起こってるのか全然わからないぞぉ!』

 

 「塩試合かな?」

 「これは・・・ただの霧ではないようね。レーダー撹乱幕のようなジャミング効果を持っているようだわ。」

 

 シンジのS.G.Mゴーグルにも何も映らず、ガタンッガタンッという重苦しい音だけが聞こえる。

 

 次にその目に飛び込んできたのは、閃光だった。

 

 「うぉっ!?まぶしっ!」

 「今度はなんだ?!」

 

 一瞬リングの中央が光ったかと思うと、霧の壁の向こうから大きな塊が飛んでくる。

 

 「くぅうう・・・ッ!危ないデスねっ!!」

 

 『おぁーっと!キングジョー選手、バリアのギリギリ手前で持ちなおしたぁ!』

 『今のはセーフですね。』

 

 空中で急ブレーキをかけたように制止すると、リングの方へ向き直る。

 

 「やってくれマシたね・・・。」

 

 見れば、キングジョーの腕が少し焦げて、痙攣を起こしている。どうやら電流を流されたらしい。

 

 「そうか、霧を媒介にして電流の威力を倍増させたのか。」

 「頭悪そうな見た目なのに、結構やるじゃん。」

 

 クレイジーとは名ばかりの、とってもクレバーな戦い方だ。

 

 「ふーん、オレだって頭の良さなら引けをとらんぞ?」

 「戦いの中だけ、ね。」

 

 キングジョーはしばらくリングの様子を静観すると、デスト・レイを放つ。爆風によって霧が晴れる。

 

 「ワタシはⅡほど器用じゃありまセンから・・・自分の戦い方を貫くだけデス!」

 

 ブースターを噴かせて再びクレイジーゴンと組み合う。

 

 「ンマ゛ッシ!」

 「同じ手ハ・・・喰らいませんヨ!」

 

 戦いの場においてキングジョーさんは不器用かもしれないが、それを補って余るばかりにキングジョーさんはお利口さんだ。

 

 「感電防止にハ『アース』が有効デース!」

 

 躰に流れる電気は、地面に逃がしてしまうのが一番効率がいい。

 

 「なんという的確で冷静な行動力なんだ。」

 

 電流さえ来なければもう恐くはない。力には力を、腕力には腕力で押し返すキングジョーのパワーファイトが蹂躙する。

 

 「必殺、『大雪山おろし』ィイイ!」

 

 クレイジーゴンのハサミを掴んだままぐるぐると大回転を始め、その勢いのままに投げ飛ばす。

 

 「ンマッ゛!!って、やられたー!」

 

 これにはクレイジーゴンもキャラを解いて恐れおののく。

 

 一方、ビルガモはキングジョーⅡにいつの間にか叩きのめされていた。

 

 「どうしよう、肩が変な方に向いてる。」

 「ご、ごめんなさい・・・ヤリすぎてシマいマシた・・・。」

 

 ちょっと慌ただしい雰囲気の中、こうしてAブロックの一回戦は終了した。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 『ありえないから、絶対しないからねそんなこと。』

 『んもー、マコ!』

 

 次はBブロック一回戦の最後の試合。その出場者であるガッツ星人姉妹との通信機越しの一幕。

 

 『誰がアンタたちの都合なんかで「時間稼ぎ」なんかするのよ?』

 「いや、別に頼んでるわけじゃ・・・というか、なんでそのこと知ってるの?」

 『なんかもう噂になってるよ?秘密兵器を用意してるとかなんとか。』

 「もうそんなに広がってるのか・・・。」

 『あたしが聞いた情報の出どころはゴモラなんだけどね。』

 「うん、予想はしてたかな。」

 

 『でもアタシはアンタに協力なんかしないから。』

 「だから別に頼んでるわけじゃ・・・ただちょっと応援しておこうかなと思って。」

 『なに?アタシたちが負けるとでも思ってんの?』

 『マコ!ちょっと言いすぎよあんた!』

 

 悪いタイミングで話しかけてしまったか、マコさんの機嫌はすこぶる悪かった。

 

 『ゴメンねー、この子ちょっちピリピリしてるみたいなんだ、本番前だから。』

 「その気持ちはわかります、僕も結構緊張してたので。」

 『でもでも、応援はしてくれても「心配」は余計かな?だって私たち、無敵のガッツ星人ですもの!』

 「そうですね、さくっと勝っちゃってくださいね!」

 『言われなくたってそうしてやるんだから。』

 『あ、そうそう。この大会に出ようって提案したのはマコの方だから。またキミと戦いたいからって言ってたよ~。』

 『ちょっとぉ!!』

 『おっと、もう時間かな。じゃね。」

 

 背後がなにやら騒がしいまま、ミコさんは通信を切った。

 

 「この後のライブの時間を考えても・・・なんとかなるかな?」

 「もうちょっと休んだら?目の下クマ出来てるよ。」

 「アギちゃん。・・・アギに眠そうって言われるのって、相当?」

 「ひどい。」

 「冗談だよ。もうちょっとで終わるから。」

 

 次の次の試合に備えて、控室でカタカタとキーボードを叩く音を響かせ、頭の中で考えを巡らせている。

 

 「やっぱり多すぎだと思ったんだよなぁ。」

 「なにが?」

 「出場者。16組もあると次の出番まで暇だ。時間が無いように感じてたけど、やっぱり暇なんだよ、矛盾してるけど。」

 「緊張する時間が伸びてるせいじゃない?」

 「きっとそれだね。相対性理論ってヤツだよ。」

 

 光の速さに近づくほど、動くものにかかる時間は遅くなる。辛い状況に苛まれている時間が、やけに長く感じるのと同じだ。

 

 「怖いの?」

 「・・・正直なところ。生死がかかってる戦いじゃないのに、こんなに緊張するなんて思ってなかった。」

 「それって、ボクが隣にいるよりも緊張してる?」

 「アギは癒しだから。初めて会った時から一度も緊張したことないと思う。」

 「ひどくない?」

 「むしろ褒めてると思うけどな。」

 

 いかに長く感じていようと、時間は刻一刻と迫っていた。

 

 『さて、いよいよ一回戦最後の試合です!ガッツ星人姉妹の『ジェミニィ』と、ヒッポリト星人&テンペラー星人の『ジ・ゴクアク』の対戦です!』

 

 『ちょーっと待ったぁ!!『地獄・悪』のイントネーションが正しい!』

 『何言ってるだわさ!この私、テンペラー星人あってのコンビでしょうに!だから『ジ・極悪』が正しいだわよ!』

 『なにをー!!』

 

 ガッツさんたちの対戦相手はさっそく喧嘩している。本当に予選を勝ち残ったのかと疑いたくなるが、喧嘩するほど仲がいい、という言葉もある。

 

 『試合開始ー!』

 

 『『ガッツダブルフラッシャー!』』

 『『ぎゃー!!』』

 

 

 

 「ミカもそうだけど、みんなそれぞれ自分の持ち場で、自分にやれることをやってるんだ。僕が参ってる場合はないよ。」

 「そんなに背負いこんで、大丈夫?」

 「平気だよ。負けるのは怖いけど、逃げるのはもっと嫌だから。せっかくミクさんに誘ってもらったのに。」

 「・・・ひとつ、聞いていいかな?」

 「なに?」

 

 アギラがなにか言おうとしたタイミングで闖入者がやってきた。

 

 「シンジさーん!調整終わったー?終わったんならライブ観に行こうよー!」

 「うん、あとちょっとだから、先に行ってて。」

 「ん、わかったー!」

 

 風のように一瞬で去っていった。

 

 「で、なに?」

 「いや・・・やっぱりなんでもないや。」

 「? そう。ボクも行ってくるね、シンジさんも来なよ?」

 「うん、すぐ追い付く。」

 

 お待ちかねのスターの登場に、アリーナは湧き上がっているが、シンジはひとり黙々と作業を続けている。まるで世界と自分が無関係であると主張するかのように。

 

 「ここにいましたのね!」

 「ふぁあ?」

 

 と、そこへまたも闖入者がやってきた。

 

 「あら?この美しくも雄々しき気品あふれるバリケーンさまが、はるばる次の対戦相手の部屋へと足を運んで差し上げたというのに、お茶のひとつの用意もありませんの?」

 「・・・そこのコーヒーでよければ。」

 「いただきますわ!」

 

 あまりの展開に、シンジの脳も処理が追い付いてないが、目の前の相手がコーヒーを飲みはじめたところで我に返った。

 

 「なかなか美味ですわね。気に入りましたわ。」

 「な、ななんです??なにか御用ですか?」

 「そう、そうでしたわ!次のわたくしの対戦相手は、あなた方でしたわね?挨拶に参りましたの。」

 「挨拶?」

 「こほん、わたくし台風怪獣バリケーン、本名は『野分 マミ』。以後お見知りおきを・・・。」

 「あ、ドーモ、濱堀シンジです。」

 

 さすがに社交界の出身というだけあって、礼儀作法はわきまえているらしい。尊大な態度こそ変わらないが。

 

 「濱堀さんのお噂はかねがね耳にしていますわ。なんでも、怪獣と交信する力をお持ちだとか?」

 「まあ、そんなところです。チョットチガウケド」

 「ふふふ、ですがそんな力もわたくしの前には無力であることを、今日証明して差し上げますわ!」

 

 なんか引っかかる言い方だ。

 

 「野分さんは、」

 「バリケーン、とお呼びください。ここではそれがマナーではなくって?」

 「そうなの?じゃあバリケーンさんは、いつ怪獣ソウルが目覚めたの?」

 「・・・つい1年ほど前のことですわ。それが何か?」

 「いや、その・・・。」

 「なんですの?殿方ならはっきりおっしゃってみてはいかがです?」

 「そう、なら、こんな言い方したら失礼かもしれないんですが・・・。」

 

 少々言葉を選びながら、ストレートに物を言う。

 

 「バリケーンさんは、怪獣のことをどう考えてますか?」

 「・・・意味がわかりませんわ。」

 「えっと、バリケーンさんは自分の能力をはっきりと把握してるみたいだけど、それってどうやったんですか?資料を調べたとか、自主トレしたとか。」

 「それは、全部ですわ。」

 「全部、全部やったの?」

 「勿論、なんせわたくしは全てにおいて頂点に立つものですから!」

 

 おーっほっほっほ!と高笑いが部屋に響く。聞く人によっては神経を逆なでられるような高慢ちきな笑い声であるが、これも怪獣ソウルに目覚めた影響なのだろうか。

 

 「では、わたくしはそろそろお暇しますわ。」

 「はい、また会いましょう。」

 「ええ、その時はお覚悟を・・・。」

 

 そういってバリケーンさんは出ていった。宣戦布告のつもりだったのかな?ただまあ、思っていたほど嫌な人ではなさそうだった。

 

 「ひょっとして、『アレ』なのかな?あの人って。」

 

 話してみてなんとなくわかったことがある。キーボードを叩くのを再開しながら、ある人へ通信を開く。

 

 

 

 

 

 『さーってここで、みんな大好きゴモたんの出番だよー!!』

 

 「お、間に合ったかな。」

 「シンジさんおそーい!もうローランさんの出番終わっちゃったよ?」

 「ごめんごめん、その分下準備はバッチリ終わったよ。」

 「じゃあ、完成したんだ?」

 「おおー!見せて見せて!」

 「後でね、後で。今はミカの歌を聞こう。」

 

 さっきはあんなに泣いていたミカも、今はそれをおくびも出さずにとびっきりの笑顔を振りまいている。本当に立派なアイドルをやっている幼馴染が誇らしかった。

 

 「ミクさん・・・。」

 「なに?シンジさん。」

 「次の試合、絶対勝とうね。」

 「もっちろん!」

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 『さぁ、長い一回戦を終えて、猛者がふるい分けられました。ここからは2回戦です!』

 『2回戦にステージが上がったことで、フィールドにも変化があるようですね。』

 

 ハーフタイムのライブの間に、大急ぎで工事が行われた。リング中央付近には、遮蔽物となる岩や壁が増え、外周には水が張られている。

 

 「戦略の幅が増えたとみるべきか・・・。」

 「水は大事よね。」

 

 単純に遮蔽物が増えれば、相手の目をやり過ごすことも出来るし、いざという時には身を守ることも出来る。怪獣のパワーにはコンクリートの壁など紙細工同然かもしれないが。

 

 『それでは、選手入場です!Aブロック2回戦第一試合は、奇跡の逆転勝利を収めた『ミラクルナンバーズ』と、圧倒的パワーを見せつけた『風林火山コンビ』です!』

 

 一回戦よりも熱の籠った声援を受けて、両チームとも歩みを進める。

 

 「がんばってー!シンちゃーん!ミクちゃーん!」

 「ミクさん!シンジさーん!!」

 「よっ・・・と。」

 「おっ、アギちゃん旗なんか持って気合入ってるね!」

 「前に応援団した時の旗ですね。」

 「うん、持ってきてもらったの。」

 

 バサァッと広げられた黄色い旗が、スタンドに一際目立つ。それはフィールドにいる者たちにも見えた。

 

 「おっ、アギちゃんだ!やっほー!!」

 「アギがんばってるね、普段大人しいだけに余計に。」

 「シンジさんのいない間に、アギちゃんも成長してるんだよ。勿論アタシも。」

 「じゃあ、その成果を見せてもらおうか。なんか今更だけど。」

 「おう!」

 

 ここに立つ前にはあった緊張も今はどこ吹く風、不思議と落ち着いていられた。予選を突破できたのはマグレだったかもしれない。一回戦を勝てたのは奇跡だったかもしれない。ならここから先は『実力』に物を言わせる。

 

 『間もなく試合開始のゴングです!ファイターとしてはまだまだ未知数な面のある両者ですが、一体どのような戦いを見せてくれるのでしょうか!』

 『カウント5秒前!4・・・3・・・2・・・1・・・』

 

 『大怪獣ファイトォ!』

 『レディイイイイイイ・・・』

 『『ゴォオオオオオオオオオオオ!!』

 

 

 

 「速攻で行く!」

 「オッケー!」

 

 その場で優に2mは跳んだシンジが、ミクラスの両手に着地し、そのままバネのように舞い上がる。目指すは、宙へ飛び立つ前のバリケーン。

 

 「させませんわ!」

 「『超音波光線』!」

 

 バリケーンが声を張り上げるのとどちらが早かったか、ゴルザが超音波光線で迎撃すると、シンジは空中でひねりを加えて急制動をかけ、フィールドの真ん中に着地する。

 

 「奇襲は失敗・・・いえ、まだあるのね。」

 「そうさ、あいつらがこれで終わりってことはねえよ。」

 

 「ミクさん!今ぁ!」

 「りょーかいっ!」

 

 リングに着地したシンジが地面に手と背中を付けて仰向けに構えると、そこへ加速したミクラスがすっ跳んでくる。

 

 「ホップ・・・」

 「ステップ!」

 「「ジャンプ!!」」

 

 掛け声を合わせて、上を向いたシンジの足裏にミクラスは着地し、2人同時に脚を延ばしてより高く跳びあがる!

 

 『おぉーっと!ミクラス選手、シンジ選手をジャンプ台にしたー!』

 『これはサッカーにおいて夢のタッグ技とうたわれた『スカイラブハリケーン』のようですねぇ!』

 

 風には風を、嵐には嵐を、ちょっと見なよとミクラスがバリケーンに向かって行く。

 

 「こんなこと・・・アリですの?!」

 「これがタッグの強みさ!!」

 

 心通わせたパートナーと一緒でなら1+1=2以上のパワーを発揮できる。バリケーンを捉えたミクラスは、そのままの軌道で着陸し、マウントをとる。

 

 「余所見厳禁!」

 「無論だ。」

 

 ミクラスの攻勢に続いて、シンジもゴルザに向かってキックを放つが、その程度で揺らぐ『山』ではない。

 

 「軽いな、全然。」

 「なんの、そっちがパワーなら・・・。」

 

 ぴょいと大きく一歩退くと、周囲の岩を蹴りながら目まぐるしく跳びまわる。

 

 「こっちはスピードで勝負だ!そらそらそらそらっ!!!!」

 

 纏うスーツが青い残像を描きながら、シンジは走る風になる。

 

 「トラァッ!」

 

 跳び蹴りがゴルザの死角を突くと、また跳ね返って岩を蹴る。そのスピードには、もはや常人の目では着いて行けない。

 

 『シンジ選手、高速で動いて撹乱している!まるで分身の術だぁ!』

 『分身の術は、残像を利用した目くらましという単純なようで、その実高い身体能力と耐久力が求められる高度な技です!』

 

 「ハンッ、あんなのアタシたちの分身と比べちゃ屁の河童よ。」

 「無茶言わないの、そりゃあたしたち『分身宇宙人』ですし、専売特許を奪われたくないのはわかるけど?」

 「うっさい!」

 

 怪獣の中には自前の能力で本物の分身を生み出す者もいるし、それらと比べれば大きく見劣りする。所詮小手先の技術の域を出ない。

 

 「そこだな!」

 「くっ!!」

 

 『おっとぉ!ゴルザ選手、シンジ選手の動きを読んで足を捕まえたぁ!』

 『これは経験の差が出たんでしょうねぇ。』

 

 「なんのぉ!」

 「うぉっ!?」

 

 掴まれたその瞬間、フリーなもう片方の足を振るって、シザーズ・ホイップの要領でゴルザを転ばせ、腕がから抜け出す。

 

 「そしてすかさず、『麺類は人類』!!」

 

 うつ伏せになったゴルザに馬乗りになり、顎を掴んで背中側へと反らせる。その姿がラクダの手綱を引くように見えることから、キャメルクラッチと呼ばれている。

 

 「ふっ・・・舐められたものだな・・・。」

 「なにぃ?!」

 「この程度のクラッチ、大怪獣ファイターにはほんの戯れのようなものだ!」

 

 グググッ・・・とゴルザが腹筋に力を込めると、シンジの額から汗がこぼれる。

 

 『おぉーっとゴルザ選手、力尽くでキャメルクラッチから脱出したー!』

 

 「そらぁっ!」

 「グワー!」

 

 今度は逆にシンジの首がゴルザに掴まれ、引っこ抜くように投げ飛ばされた。血の匂いが混ざった息を吐きながら、シンジは立ち直る。

 

 「なんの・・・そのこれしき!」

 

 再び高速移動を始める。勿論このままでは倒せる算段が承知の上だ。相方が上手くやることを願いながら精一杯時間を稼ぐ。

 

 「この、離しなさい!不埒なッ!」

 「喰らいついたら・・・離さないぜ!」

 

 空中で揺らり揺られて、ミクラスは耐える。それを必死に引きはがそうバリケーンは呻くが、本来の腕力には差がありすぎてそう上手くは行かない。

 

 「ええい、なら・・・『スカイクラーケン・ショック』ですわ!」

 

 『おぉっと!シーボーズ選手を撃墜した放電攻撃がミクラス選手を襲うぅ!』

 

 伸びた触手がミクラスの胴を締め付け、さらに電流がやってくる。

 

 「このまま真っ黒に焼けてしまいなさいな!」

 「それは・・・どうかな!」

 「なんですと!?」

 

 目にも眩しいほどの放電を浴びながら、ミクラスはニヤリと笑う。そこにダメージを受けた色は一切ない。

 

 「コレ(・・)をさっそく試させてもらうよ!いけっ『モンスピナー』!!」

 

 ミクラスがその名を呼ぶと、ブレスレットから二枚の円盤が出てくる。それらは火花を散らしてひっつき、ミクラスの掌におさまる。

 

 「あれは・・・ヨーヨーかな?前にシンちゃんが使ってたのに似てるけど。」

 「アタシの羽根結んだやつー!」

 

 はじめは使うに使えず持て余していたガジェットだったが、今回に限っては役に立った。ミクラスに足りないものとして、リーチの長い攻撃手段があったが、その枠にすっぽりとハマる上に、『相性』もいいのだ。

 

 『ヨーヨーの歴史は意外と古く、その起源は中国にあるとされていますが、古代ギリシアには既にヨーヨーに似た玩具があったと言われています。』

 

 「わたくしの電気を利用していますの?!」

 「そのとーりさ!」

 

 シンジのサイコエネルギー研究のおかげで、しかも脳波コントロールできる。電気を帯びることで使用者の考えた通りに動いてくれる、第3の手として働く。

 

 『おぉーっと!ミクラス選手のヨーヨーが、バリケーン選手の頭の傘に巻き付いていく―!』

 『まるで投げ独楽(コマ)のように・・・。』

 

 「な、なにをなさいますの?!」

 「こうするのっ!!モンスピナー、逆回転!!」

 

 ミクラスの掛け声に合わせて、ヨーヨーは高速で糸を巻き取る。そうするとどうなるか?

 

 『あぁーっと!バリケーン選手の傘が、巻き取られる糸によって逆向きに回転していくー!』

 『今まで上昇するために回転していたものが、逆回転をはじめたということは・・・!』

 

 当然、落ちるッ!あらゆるものを吸い上げていく竜巻は逆巻き、失速した竹とんぼのようにバリケーンは落ちていく。

 

 「やったぁ!『風』に移る前に無力化できた!」

 「風車は、風が無ければ回らない・・・か。」

 

 生憎ここはダンスの腕を見せ合う舞踏会ではなく、技を競う武道会だ。哀れ汚れを知らなかった空色のドレスは土埃にまみれた。

 

 「・・・やるな。」

 「やってやるのさ!」

 「ン?」

 

 一方シンジはゴルザの正面から姿勢を低くとりながら突っ込んできていた。

 

 「下か・・・?『超音波光線』!!」

 「上ェ!」

 「しまった?!」

 

 股を潜り抜けてくると予測して足元を狙った超音波光線は外れ、シンジは軽く宙を舞う。

 

 「引っこ抜くように!うぉおおおおお!!」

 

 ゴルザの脇を掴みながら、一回転して脚を先に地面につける。そのままカナディアンデストロイヤーのようにパイルドライバーを決め込む。

 

 「ぐっはぁ・・・!?」

 「まだまだぁ!」

 

 仰向け倒れたゴルザの脚に攻撃を集中させる。ゴルザの左足をの右わきで挟み、右足を左足の下に通して自身の両腕でクラッチ、そして両足を抱えたまま体を翻せば完成する。

 

 「『テキサスクローバーホールド』ォ!!」

 「がぁあああ・・・!!!」

 

 『決まったー!シンジ選手の関節技がゴルザ選手の脚をとらえて離さない!』

 『関節技はテコの原理を使うので少ない力でも威力を発揮できます。最小限の力で最大限の働きを生みます。また投げ技は体重が重いほど地面に叩きつけられたときの衝撃は大きくなります。いわば防御を無視して攻撃できると言えるでしょう。』

 

 いくら最先端のテクノロジーで武装しているとはいえ、怪獣娘との力の差は歴然だ。だがその差を埋めるためにこうして技を磨いてきていた。今がその時だと言える。

 

 「あれ前に喰らったことあるけど、脱出難しいんだよねぇ。」

 「そうなのゴモたん?」

 「うん、前は尻尾がフリーだったから脱出できたんだけど、今回はきっちり尻尾もロックしてあるからより難しいと思うよ。」

 

 イカ焼きを頬張りながらミカが解説を挟む。その目には信頼と期待の色が見える。

 

 「どりゃどりゃどりゃー!今度はこっちの番だー!」

 「くっ・・・この程度、わたくしの柔術の敵ではありませんわ!」

 

 護身術はお嬢様の基本なのか、ミクラスの剛拳をいなし続ける。

 

 「隙ありー!!」

 「ぐふっ・・・!」

 

 『ミクラス選手のスピアータックルがバリケーン選手に刺さったー!』

 『一見鈍重なようですが、瞬発力は高いようですね。』

 

 これもミクラスの特訓の成果だ。ただ単に攻めるだけでなく、チャンスを待ったり技を組み立てたり。

 

 「それらをすぐさま実戦に移せるのが、アイツの強みだとオレは思うな。」

 「頭突き以外の頭の使い方が出来ているようね。」

 

 勿論頭突きにも使うけど。ともあれマウントをとったミクラスは、一切の反撃許さないほどに畳みかける。

 

 「オラオラオラオラオラアラオラ!!」

 「ゴルザァ!助けろぉ!」

 

 「かしこまっ。『超音波光線』!」

 

 『なんとゴルザ選手!クローバーホールドにとらえられたまま光線を撃ったぁ!』

 

 口を使わずに撃てるというのはいいことだらけだ。下方向への目線を遮られなくていいし、口を開けないような状態でも対応できる。クローバーホールドの痛みを意に介さず放たれた超音波光線は、ミクラスを撃ち抜いてバリケーンを解放させる。

 

 「しまっ・・・たぁ!?」

 「今度はこっちがお返しする番ですわ!!」

 

 苛立ちと共に放った光弾がシンジの背中を焼くと、ゴルザもホールドから解放される。

 

 「やれやれ、今度はこっちの番だな。」

 「まだターンエンドじゃないよ!」

 「ならばこれがラストターンだな。」

 

 『先ほどまでとは打って変わってシンジ選手、防戦一方!これぞまさしくゴルザの逆襲だぁー!』

 『既にゴルザ選手はシンジ選手の動きを見切っているようですねぇ。』

 

 「ミクさん、タッチ!」

 「オッケー!」

 

 となればプランBの出番だ。戦う相手を入れ替えさせて、対応を遅らせる作戦である。車がかりの陣とはちょっと違う。

 

 「またお会いしましたわね、シンジさん。やられる準備はよろしくって?」

 「そっちこそ、地を舐める覚悟はある?」

 「ありませんわね。わたくし、いらない物は買わないようにしていますの。」

 (喧嘩は売りまくってるくせに。)

 

 バリケ-ンは自分のペースを乱さない。周囲からの冷たい目線もどこ吹く風、マイペースで掴みどころが少ない。まさに天上の人。

 

 「アタシはゴモたんほどじゃないけど、パワーなら絶対負けないよ!」

 「ならこちらも、全力で相手しよう。はぁあああああ・・・ハッ!!」

 

 一方ゴルザも先ほどの戦いで見せた新たな力を顕現させようとしている。この道長いベテランファイターであるゴルザだが、今なおその進化は留まるところを知らない。これから先、戦い続ける限り進化し続けるというのは誰にでも当てはまるだろうが。

 

 『ゴルザ選手、再びファイヤーゴルザになったぁ!』

 『もう出してきたということは、一気に決めるつもりなんでしょうか?!』

 

 「いや、ゴルザちゃんのアレはEX化とはちょっと違うんだよねぇ。」

 「そうなの?」

 「うん、省エネっていうの?最大出力には劣るけど、持続性や耐久性に秀でてるみたい。」

 「ということは、このまま試合が終わるまで持たせられる自信があるということね。」

 「アイツ、基礎がしっかりしてるからなぁ。」

 「さすが『山』だね・・・。」

 

 ひたすら基礎を重点的に置くことで、いかなる状態でも安定性をキープする。バイクに例えるならカブのようなスペックだ。

 

 つまり、シンジと同じタイプなのである。タイプだけで見ればの話だが。

 

 「ほぁっ!!!」

 「どりゃー!!」

 

 かちあった拳と拳、魂と魂が火花を散らす。その衝撃に漂っていた土煙が全て吹き飛び、パワーファイター2人をクリアに映し出す。

 

 決して背中を見せない、本物の『激闘(ケンカ)』が始まる。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「なかなか・・・やりますわね。」

 「鍛えてるんで。」

 

 さて一方シンジはバリケーンと対峙している。バリケーンは空へと昇れば無敵の強さを誇るが、逆に空さえ飛ばさせなければなんとかなる。事実、今のところミクラスの時と変わらず柔術による牽制しか行っていない。

 

 「あの距離なら風のバリアも張れないしな。」

 「彼も飛び道具を持ってるから、この距離で空を飛べば良い的にしかならないわね。」

 「ほーんっと、武器使用可でよかったね。」

 「そうじゃなきゃシンジさんも乗らなかったんじゃないかな。」

 「言えてる。」

 

 元から異種格闘技の面もあったので、武器を使用する参加者がいてもとくにおかしいところはなかった。そもそも一番おかしいのはシンジが参加しているということだが。

 

 「ところで、あなたは一体何のためにこの大会に参加していますの?」

 「僕?怪獣娘ともっと仲良くなるためさ!」

 「前にも仰っていましたわ、ねっ!」

 「おっと!まあね!」

 

 こっちはこっちで武道の大会で見られるような激しい演武が繰り広げられている。その完璧なまでの様式には振れば珠散り、飛べば桜舞う美しさすら秘めている。

 

 「じゃあ次はこっちね。バリケーンさんは、怪獣のことどう思ってるの?」

 「それはさっき答えましたわ?」

 「そうじゃない、バリケーンさんいやマミさんは『怪獣と向き合えてる』?」

 「・・・ッ!」

 

 円舞の中で、突然短剣を振りぬいたかのようなシンジの問いに、バリケーンも同じくナイフのような突きで応えた。

 

 「うりゃさっ!『小手捻り』だあっ!」

 「くっ・・・こんな猫騙しにっ!」

 「で、どうなの?そこんところ?」

 「・・・卑怯ですわッ!」

 「おっと!」

 

 その口を真っ先に塞ぐようにバリケーンは貫手を放つが、その瞬間を待っていた。

 

 「ここだっ!『コブラツイスト』ォ!!」

 「ぎぃいいっ!!」

 

 「出たー!シンちゃんのセクハラギリギリ技!」

 「有用性とか抜きにして好みでかけているでしょう彼。」

 「シンジさん・・・。」

 「まあ、あいつも男だしな。」

 『そこ聞こえてるぞー!!』

 「えー違うのー?」

 『違うわー!』

 

 真偽のほどはさておき、シンジの技はギリギリとバリケーンのわき腹を締めあげる。

 

 「こっちとしては、素直になってくれるまで何時間でも固めてていいんだけど?」

 「ぐぐっ・・・認めませんわっ!」

 「そうかよっ?!」

 「んぐっ!認めたく・・・ありませんわ!」

 

 「わたくしは・・・野分財閥の嫡子として、それに値する人間として精進をしてきましたの・・・それなのに・・・っ!」

 

 グッと力を振り絞ったバリケーンは頭の傘を電動ノコギリのように回転させて、シンジの顎先を削り取ろうする。それに驚いてあわててロックを解除しようとする動きを見逃さなかった。

 

 「あぶぶ・・・ギャッ!」

 「それなのに・・・その努力全てを『怪獣ソウル』に奪われただなんて、認めたくありませんわ!!!」

 

 隙を見せたシンジに、触手が絡みついて電流が襲う。それにはバリケーンの、否、野分マミという一人の少女の怒りや悔しみが乗っていた。

 

 「だから・・・全部踏みつぶしてさしあげますの!怪獣娘も、GIRLSも!!」

 「げっほ・・・ちょっと・・・やりすぎじゃない?」

 「やってみせますわ!!」

 

 触手で捕えられたシンジはふわりとした浮遊感を感じて、地面から足が離れていくのを見た。

 

 「あー、僕高所恐怖症なんだ、高いところダメなんだけど?」

 「ならすぐに叩き落してペシャンコにしてさしあげますわ!」

 「あー今の嘘、高いところ好きだから離さないで。」

 

 ずるずると引きずられるように宙ぶらりになっていき、足元が竦んできていた。強い風が吹き始め、再びバリケーンの独壇場が始まろうとしていた。

 

 「あなたの減らず口も、これでジ・エンドですわっ!」

 「一つ言わせてもらうけど、落ちたくなければ腕の力を抜かずに、下を見ないことだよ。」

 「なんですって?」

 「僕ねぇ、高いところは嫌いだけど、上に昇るのは好きなんだ!」

 

 自分より上にいるバリケーンをシンジは見据え、その手から赤と銀の矢を放つ。まるで新しいおもちゃを見せびらかす子供のような、茶目っ気を含んだ瞳を輝かせながら。

 

 「飛べッ!『アロー』!!」

 

 『なんとぉっ!宙吊りにされたシンジ選手の手から、小さな戦闘機飛び出してきたぁ!』

 

 これがこの試合に持ち込んだ秘密兵器の第2。

 

 「おっ、やーっとウチの飛行機の出番か。長かったな。」

 「ままチブちゃん、おたのしみは後って言うやろ?」

 「そやな、今回は許したろ。」

 

 その大きさこそ手で抱えられるほどだが、雨にも負けず風にも負けないポテンシャルが秘められている。宙に浮く2人の周りをグルグルと旋回してから、バリケーンをロケット弾で砲撃する。

 

 「ぐぅう!!地味に痛いですわね!」

 「流れ弾がこっちにまで!けど、これで抜け出せる!!」

 「しまった!」

 

 怪獣娘のパワーと比べれば僅かな物だが、その僅かな砲火が触手を焼き切る。

 

 「あとは・・・ストリングス!で、引っ張られる!」

 「!?まさか空を?!」

 「飛ぶのさ!ちょっとだけね!」 

 

 アローに手首から伸ばしたロープをつなぎ、風に乗ってさらに飛び上がる。

 

 「そして、再びクラッチ!」

 

 『シンジ選手!空中で体勢を立て直して、バリケーン選手を逆に捕らえたぁ!』

 

 「おっ、あの体勢は確か。」

 「うん、前に練習試合の時に使ってたね。」

 

 「一撃必殺のぉ、『カンパーナ・エアレイド(釣鐘爆撃落とし)』!!」

 

 触手や傘も強くホールドし、逃げられないようにしたジャベ+自由落下によるダメージの重ね技。

 

 「うわー!?動けない!?」

 「自由落下というのは、言葉で言うほど自由じゃないんだ!」

 

 『シンジ選手の大技!これは決まったかー?!』

 

 「前はマガジジャッパちゃんに防がれたけど、今度はどうかな?!」

 「こんなもの・・・わたくしひとり力で・・・!」

 

 自由の効かない空中で、手足や尻尾を完全にロックするこの技から脱出する方法はごくごく限られてくる。とれる対策があるとすれば・・・、

 

 「シンジを『外』から攻撃するか、着地を阻止させることだが。」

 「少なくとも、彼女一人では出来ないことね。」

 「一人なら、ね。」

 

 「いるさっ!ここに一人なっ!」

 「なっ!?」

 

 シンジたちの直下には、少し傷つきながらも大の字で構えるゴルザがいた。

 

 「させるかぁ!うぉおお!!」

 「ふぐっ・・・!!負けるかぁあ!!」

 

 その背後からキャッチさせまいとミクラスがタックルを仕掛け、捕球地点から引き離すが、力尽くでそれを押し戻しにかかる。

 

 「ぐぐぐぐ・・・っ!!」

 「どいっ・・・てろっ!!」

 

 冷静に大外刈りでミクラスをこかす。もはや一刻の猶予もない事を見たゴルザであったが、走り出したその目に一切の迷いはなかった。

 

 「おぉおおおおおおおッ!!!」

 

 『ゴルザ選手、ダイビングキャッチだぁ!』

 

 試合はまだ中盤だが失点は辛い。メジャーリーグでも見ないような思い切ったディフェンスを魅せる。

 

 『さぁ捕れるか?!ゴルザ選手・・・!』

 

 「ぐっはぁ!」

 「あいたぁっ!」

 

 『ゴルザ選手、背中でキャッチだー!』

 

 「しまった!」

 

 ワァアアアアアッ!と会場は盛り上がる。バリケーンへ冷たい視線を向けていた観客たちも、ゴルザの身を挺したフォローには喝采を贈った。

 

 「あなた・・・。」

 「・・・お前が、どんな気持ちで生きていたのか、どんな理由でこの大会に参加したのか、私は知らん。クライアントの内情まではな。」

 

 技が失敗してスタコラサッサと身を引いたシンジを尻目に、ゴルザは立ち上がってバリケーンをカバーする。

 

 「だが、私はこの大会、否この一戦に命を懸けて挑んでいる。」

 

 熱い心に燃える炎が、瞳に映って輝いた。

 

 「だからお前も、他でもないお前自身を見ている者のために立て。私のパートナーとして。」

 

 世界中が、君を見つめてる。

 

 「・・・しかたありませんわね!下々の方々へ手を差し伸べるのも上流階級のお仕事ですわ!オーッホッホッホ!

 

 差し出された手を取って立ち上がると、いつもの調子で高笑いをあげた。

 

 「どうやら、一皮むけたみたいだな。」

 「私の最後の頑張りが響いたのかな?」

 「多分そんなに関係ないと思うわ。」

 「ふーんだ、シンちゃんはわかってくれたからいいんだもーんだ。」

 

 一度は道を断たれても、別の道で輝く星もある。随分遠回りになったようだが、それを伝えられて安心したのは何人かいる。

 

 「めでたしめでたし、かな?」

 「いやいやまだ勝ってないから!」

 「僕はもう満足だけどなー。」

 「いやいやいや!ぜったい決勝までいくんだからさ!」

 「はいはい、こっからもがんばろうね。」

 

 勝負は仕切り直し。しかしこちらは()を2つ見せてしまっているし、向こうは調子が出始めている。

 

 「ミクさんは平気?」

 「へーきへーき!まだまだ戦えるよ!」

 「そのフィジカルが頼もしいよ。」

 

 しかしミクラスもシンジも心持余裕だ。まだまだ手はある。グータッチで互いを鼓舞し合うと、改めて相手と向き直る。

 

 「仕切り直しと行こうか。」

 「第2ラウンドだ!」

 「ですがラウンド3はありませんことよ?これでファイナルラウンドですわ!」

 

 さぁ戦いだ!攻め方は変わらず、速攻でバリケーンには空を飛ばせない。

 

 「今まで試したことも、試すような機会もありませんでしたが・・・わたくしの奥の手をお披露目いたしますわ!」

 「させるかぁ!」

 「させるッ!」

 

 果敢に攻め込もうとする2人の前に、不動の山となったゴルザが立ちはだかる。

 

 「ぐっ、こうなったら、先にゴルザだけでも!ミクさん!」

 「おぅ!」

 

 せーのっ!の掛け声で同時にタックルをぶちかますと、それぞれがゴルザの片足を抱えて跳び上がる。

 

 「「『ダブルドライバー』!!」」

 

 『ミクラス・シンジ選手、パイルドライバーの同時掛け!威力も2倍だー!』

 

 たしかに技は決まったが、2人の表情は暗い。いやに軽く技が決まった。いや、決めさせられた(・・・・・・・)というべきだったか。

 

 「準備完了!ですわ!」

 「はやっ、やっぱりか。」

 

 ゴルザからダウンは奪えたが、それも一時的なもの。

 

 「さぁ刮目なさい!このバリケーン最大の奥義を!」

 

 ブォオオオオン・・・と低いうなり声をあげて、強い風が逆巻く。

 

 「また竜巻?」

 「いや、回転が『逆』だぜ。」

 「上方向ではなく、下へと吹き抜ける風・・・まさか。」

 

 

 

 「なにか知らんが、わざわざかけられた技を受ける義理もないっ!やーっておしまいミクさんー!」

 「アラホラサッサー!健康優良怪獣娘、子供は風の子さー!」

 

 風が強かろうと、それは大した問題ではない。それがただの風であったなら。

 

 「うっ・・・なんだ・・・。」

 「体がなんか重い・・・!?」

 

 中心へ近づくにつれ、その脚はどんどん重くなっていく。ここに来て疲れがたまってきたのか?いや、そうではない。

 

 「こ、これは・・・雪?!」

 「違う、これは『霜』だ!僕たちの体に霜が降りてるんだ!」

 

 既に2人の脚には白い氷の細かい柱が立っている。試合中にかいた汗や空気中の水分が冷えて2人を襲っているのだ。

 

 『なんとぉ!これもバリケーン選手のなせる業なのかぁ?!たちまちミクラス選手とシンジ選手が凍り付いていくぅ!』

 『どうやら強烈なダウンバーストが発生しているようですねぇ!アリーナ内の温度計はマイナス10度を下回り、なおも下がり続けています!』

 

 アリーナ外周の水は波打ったまま凍り、雪が初夏の地表を白く染める。

 

 「これが!これこそが!空に君臨する『深淵(エアポケット)』、『入道ノ御落胤(ザ・フォールン・オブ・ネフィリム)』!!」

 

 「ぐぉおお・・・!」

 「がっ・・・あっ・・・。」

 

 バリケーンが声たからかにその名を呼ぶが、その様は2人には届かない。特にシンジにはもはや目を開けることも耳を澄ますこともできない。

 

 「シンジさん?!平気!?」

 「・・・はっ・・・あがっ・・・。」

 

 零下80度。吐く息どころか内臓さえも凍る。ヒトが生物が棲める世界ではない、極寒の地獄。

 

 「オーッホッホッホッ!これでシンジさんも完全にノック・アウトですわね!」

 「くっそー!あぶぶ・・・。」

 

 辛うじてミクラスは寒さに耐性がある。しかし敵もまた一人ではない。

 

 「・・・ンォオオオオオオ!」

 

 『おーっと!ダウンしていたゴルザ選手も復活だー!一気にバリケーン・ゴルザッチーム優勢になったー!』

 

 「まだまだ・・・たとえ一人だって!ドロップキーック!」

 

 膝ほどの高さに積もった雪を蹴って、ミクラスが驀進する。

 

 「こんなものか?そいっ!」

 「ぐっ・・・こんのぉ!」

 「オーッホッホッホッ!こんな芸当もできましてよ!『黄昏時の欠片(トワイライト・チップス)!!」

 

 バリケ-ンが手をかざすと風向きが変わる。風向きが変われば性質も変わる。

 

 「ぎゃっ!なんだこれ?!氷の塊?」

 

 『あれは雹ですね!上空で上昇気流の中で大きさを増して、直径5㎜以上の氷の塊を雹といいます。記録ではカボチャほどの大きさの雹がふったこともあるそうです!』

 

 「でもゴルザまで喰らってるじゃん!」

 「・・・こんなんぜんぜん効いてねーし。平気だし。」

 「ならもっと勢いを強めて差し上げますわ!」

 「やめて。」

 

 さらに夕立と共に猛威を振るうのは雹だけではない。

 

 「うわっ!雷!?」

 「もはや何でもありだなアイツ。」

 「こ、こんなにスゴイ能力の持ち主がいたなんて・・・。」

 「恐ろしく汎用性のいい能力、そこにさらに知性が加わっているようね・・・。」

 

 「だからやめろっつの!」 

 「オーッホッホッホッ!一度崩れたバランスは、もはや何者にも止めることは敵いませんのよ!わたくし自身にさえも!」 

 「カッコつけてるけどそれダメじゃん!!」

 

 戦局は泥仕合を迎えていた。バリケーンは奥義の為に渦の中央を動けず、ゴルザも驚異的な冷気に足元を掬われている。唯一動けるのミクラスだけだが、どうにもこうにも攻めあぐねている。

 

 「ええい、これでは埒が明かん・・・やむを得ん、ファイヤァアアア!」

 「ああっ!勝手に動かれては困りますわ!せっかく冷えてきたというのに!」

 「やかましい!これでは観客席まで冷え上がる、わっ!」

 「ぐぅう・・・熱い!」

 「なんですって?!私に逆らうとはいい度胸ですわ!これでもくらいなさい!」

 「「ぎゃんっ!!」」

 

 バリケーンのやけっぱちの雷の一撃が、ゴルザもろともミクラスを射抜く。が、それはこの試合中最大の誤りの一つだった。

 

 「今のでビビッと来たね・・・!」

 「なに?」

 「こうなったら・・・アタシも見せてやるじゃん!奥の手!サンダァアアアアアア!!」

 

 両手を空に掲げてミクラスが吠える!

 

 「これは・・・。」

 「ミクさんに、雷が集中して?!」

 「ビンビン来てるわね。」

 

 雷光に身を輝かせ、雷轟に声を張り上げる。放電現象が氷の礫を伝って、フィールド全体を焼き焦がす。

 

 「ふぅうう・・・おっしゃー!!」

 

 焦げ付いたフィラメントが『生まれ変わった』ミクラスに気おされてはじけ飛ぶ。

 

 

 

 

 「これが・・・『エレキミクラス』だッ!!」

 

 

 

 体の表面やツノをスパークし、祝福のクラッカーを鳴らす。

 

 「面白い、何が来ようが・・・叩きのめすのみだ!!」

 「おっしゃ来いやぁ!!」

 

 空を焦がす雷と、地を焼く炎の戦いが始まる。

 

 

 

 一方終末の迫る中、完全に凍てつく寸前の脳髄が生存を求めて脈動する。

 

 (こ、このままではやられてしまう・・・なんとかしなくては・・・。)

 

 飛んできた雷に打たれたショックと、炎の熱によって辛うじて息を吹き返したシンジだったが、まともに動くことすら叶わない絶体絶命の環境に、攻撃を寄せ付けない風の障壁がついている。

 

 (やはり風か・・・風を越えなければ・・・。でもどうする?)

 

 今のバリケーンは完全に守りに入っている。正面から抜くことは不可能に近い。

 

 (死角!どこかに死角は・・・そうだ。)

 

 ぐぐぐっ・・・と腕をゆっくりと動かし、悟られぬように一手を打つ。

 

 「『サンダーホーン』!!」

 「『強化超音波光線』ンン!!」

 

 近距離、遠距離でもミクラスとゴルザの力は拮抗していたが、スタミナの桁でややゴルザが有利だ。

 

 「戦いを制するは長期型の安定志向!この戦い、貰ったぞ!」

 「なにをー・・・こっちだってまだまだ・・・。」

 

 ミクラスは肩で息をして抵抗の意を示したが、ゴルザもまた涼しい顔をしながら瞳孔を開きまくっていた。

 

 「この勝負も、わたくしたちの勝ちのようですわね・・・オーッホッホはぶっ!」

 

 高笑いを決め込むバリケ-ンの顔にビターンとなにかが張り付く。

 

 「わーっ!前が見えませんわー!」

 「何やってんだバカー!」

 「誰がバカですのー!バカっていう方がバカなんですよー!ってこれは、リボン?」

 

 あわてて顔に張り付いたなにかを剥がすが、時既に遅し。

 

 「かかった・・・。」

 「! いつの間に糸が?!」

 「ミクさん!スピナーを!」

 「むっ?オケー!」

 

 シンジの声に反応して、ミクラスはモンスピナーを再度取り出す。そこに目がけて左腕のストリングを伸ばす。

 

 「こっち(左腕)の糸をこっち(右腕)とつないで・・・引いてミクさん!」

 「なんかよくわからんけど、モンスピナーフルスロットル!」

 

 自身に帯びた電気を操って、繋がった糸を釣り竿のように手繰り寄せる。

 

 「か、絡まれるっ!」

 「そうか!なら・・・怪獣一本釣りだぁ!!」

 

 ふんぬっと腰を入れて力いっぱい引き抜くと、バリケーンは三度地面に叩きつけられる。

 

 「今のどうやったんだ?」 

 「ハチマキに糸を括り付けて離したようね。回転する風に乗っていれば、糸は必ず中央に引っかかるから。」

 

 「うー冷えるっ。でも復活。」

 「シンジさん!やったね!」

 「うん、ミクさんはバリケーンさんにトドメさして。ゴルザは僕がやる!」

 「えっ、大丈夫?」

 「大丈夫、奥の手全部出すことになるとも思わなかったけど。」

 

 じゃっ、と目を交わせてそれぞれの相手へ向かう。

 

 「おのれぇ、またしても私に土を付けましたわね!」

 「もう一回浴びてもらうけどね!」

 

 これが最後の戦いだ!熱を帯びた拳を振るい、ミクラスは打って出る。

 

 「その動きは・・・。」

 「もう見切ったぁ!」

 「そんなっ!」

 

 先ほどと同じく柔術で対応しようとしたバリケーンだったが、いともたやすく攻略され、驚嘆する。

 

 「な、何故・・・わたくしの技を・・・?」

 「もう見切ったもんね!アタシだって戦いの中で成長してるんだから!」

 「何故・・・あなたは戦うの?」

 「ん?んー・・・カッコいいから!かな?」

 「カッコいい?」

 「そう!心も体もゼ円ぶつかって、全力を表せたらカッコいいんだ!」

 「全力で・・・。」

 

 そこには一切の下心も混じりっ気もない、純粋な想いだけがある。

 

 「だから見せるよ、アタシの全力!!うぉおおおおおおりゃああああああ!!!」

 

 この日の為に鍛えた技とありったけの力を、この腕に、この一撃に込めて!

 

 「これが・・・怪獣娘の生き方・・・?」

 

 

 

 

 「『サンダートマホーク』ゥウウウウウウウウ!!」

 

 最大限研ぎ澄まされた手刀、地を裂く雷撃が如き、裁きの一撃!!

 

 

 

 「・・・見えました・・・わ・・・。」

 

 十数年間負け知らずだった人生の内の初めて経験した敗北。倒れ伏すその表情は、とても満足気であった。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 『決まったー!!ミクラス選手のトマホークチョップが、とうとうバリケーン選手をノックアウトしたー!!!』

 『トマホークというよりも、かの北欧神話の雷神トールの戦槌ミョルニルを彷彿とさせるド派手な威力でしたねぇ!』

 

 戦槌が嵐を砕いたその時、ヒトの手で火山の猛りを切り崩そうとしている。

 

 「さすがだよ、まさかこんなに追い込まれるなんてな。」

 「そりゃどーも、最初っから降りる気もさらさらなかったんでね。」

 「それはこちらも同じだ。燃え尽きるまで私は戦う!」

 「こっちだって!」

 

 ゴルザの勢いはなおも衰えない。むしろ爆発必至の巨大戦艦が最後の特攻を仕掛けようと最全速度で向かってきている。

 

 「ほんっとスゴイ。ここまで二重三重に策を巡らせてきたつもりだったけど、それを全部受けきっちゃうんだから。プロレスラー明利につくっての?」

 「これが受けの美学だ。ただ相手を叩きのめすだけではつまらん。」

 「その懐の大きさ、まさに山より高く海より深いね。」

 

 左手のデバイスを叩き、光の剣を再び取り出す。

 

 「『エクスビームブレード』!!」

 「その程度・・・敵ではない!」

 

 『シンジ選手、先の試合で見せた光の剣で切りかかるー!だがゴルザ選手には全く効いていない!』

 

 ニ、三太刀筋を見極めると、赤く燃える手で刀身を掴む。

 

 「こういうのには、応用が利く『怪獣角折り刑』!」

 「折れたぁ!?」

 

 『ゴルザ選手!真剣白羽どりだー!』

 

 哀れ圧し折られた光の刃は、ゴルザが投げ捨てると粒子となって消え去る。

 

 「これで終わりか?」

 「まださ・・・まだまだ!」

 

 三角蹴りで牽制しつつ距離をとったシンジはそう吐き捨てる。とうとうシンジ自身の技は何ひとつ通用しなかったことになる。

 

 「もう限界までがんばったんだから・・・そろそろ力借りてもいいよね?」

 「誰から?お前の相棒は向こうでヘタレ込んでいるぞ?」

 「僕は・・・いつだって一人じゃないさ。」

 

 いよいよ奥の奥のさらに奥の手、必殺の懐刀を抜くときが来た。つい先ほど刃を折られたデバイスに右手をかざし、真の機能を機動させる。

 

 「・・・Xio、『モンスアーマナー』、アクティブ!」

 

 その言葉を待っていたと言わんばかりに、手甲が開いて接続口が現れる。

 

 「今度は、なんの芸だ?」

 

 「バディライザー、セット・オン!」

 

 そこへ腰に下げていたバディライザーをセットし、新たな命が吹き込まれる。

 

 

 

 「来たッス!アーマー電送、オールグリーン!」

 「成功だよ♪」

 「よしよし、データはこれで完成だな。」

 「あとは彼自身の手で、うまく扱えるかだけだね。」

 

 

 現状恐らく人類最先端の研究成果の結晶、全世界初公開。それにはこれ以上ない舞台であろう。欲を言えば、決勝までとっておきたかったが、それ以前に負けてしまっては元も子もない。

 

 

 「これが人類科学と怪獣娘のコラボ!『モンスアームズ』だ!」

 

 より一層大きくなったガントレットの中央に、バディライザーが輝く盾が現れる。

 

 「精密機械を盾にしてしまっていいのか。」

 「知らないわ。」

 

 「それで?」

 「さっそくお目見えさ。ゴモラ!」

 

 腰にぶら下がっているホルダーからカードを一枚引き抜くと、それをバディライザーにセットする。

 

 「『モンスライド・ゴモラ』!!!」

 

 選んだのは最も信頼を置く仲間の力。そのトレードマークの三日月ツノを模した爪を持つ武器(アーム)へと装甲が変わる。 斬ってよし、突いてよし、防いでよしのオールラウンダー。

 

 「『ゴモラスティンガー』!!意志を貫く力!!」

 「ゴモラの力か・・・。」

 「そうだ!あんたに倒された、ゴモラの無念を果たしてやる!」

 

 『おぉーっとシンジ選手!ゴモラ選手の敵討ちのために奮起している!』

 『この時のための秘密兵器だったんですねぇ、熱いです!』

 

 「だがどれだけ熱い想いを乗せようと、この高熱の鎧は砕けんぞ!」

 「繋ぐのは想いだけじゃない!たった一つ出来た弱点、それは・・・!」

 

 矛先が鎧を切り裂いて火花を散らすが、それすらも決定打にはならない。ただひとつ、突くべき弱点を除いて。

 

 「ここだぁあああ!!」

 「ぐっ!?そ、そこは・・・?!」

 

 ゴルザの胸の中央。そこにはただ一点だけ、つい最近できたばかりの傷痕があった。

 

 『なんと!先ほどの試合でゴモラ選手が最後に付けた傷痕!そこへシンジ選手のゴモラスティンガーがねじ込まれる!』

 

 不動の山を貫いてきていたゴルザの体が、ぐっ・・・とたじろぐ。その隙に、シンジは己の脚に残されたすべての力を込めて踏み込む。

 

 「いくぞ・・・・ひっさぁああああああつ!!」

 

 ゴモラスティンガーの中央のツノ突き刺したまま、左右のツノがペンチのようにゴルザの体を挟みこみ高々とリフトアップする。そして最後の一撃の為のエネルギーが充填される。

 

 「うぉおおおおおおおおお!!!!????これは・・・ゴモラの超振動波か???!!!」

 「『ハイ・バイブス・エンド』!!」

 

 勝ち名乗りを挙げるようにその名を呼べば、空気すらも削り取らんばかりの衝撃波が生まれた。

 

 

 

 『決まったー!!長かった戦いを制したのは、ミクラス&シンジの『ミラクルナンバーズ』だぁ!!』

 

 ワァアアアアアッ!会場が盛り上がる。逆転、逆転、また逆転の二転三転した試合運びも終わりを迎えた。 

 

 「シンジさん・・・平気・・・?」

 「さすがに・・・もう・・・ダメ・・・。」

 

 バッタリと二人ともへたりこむが、それも仕方がない。ここまでの長丁場は、今日始まってから一番だった。これ以上の戦いがこの先にも待ち構えているのかもしれないと思うと、観客たちは盛り上がるが、当事者たちからすればもうたまったものではない。

 

 「でも今はとにかく・・・お疲れ、ミクさん!」

 「うん!戻ったらオヤツにしようね!シンジさん!!」

 「ちょっと・・・お腹は空いてないかな。」

 

 ただまあ、試合の熱さも今だけは忘れよう。熱を帯び過ぎれば体に毒だ。何事もほどほどがある。

 

 「いっくし!・・・あれ、風邪ひいたかな?」

 「湯冷めしたんじゃないかな、寒かったり熱かったりで。いっくし!」

 

 

 

 「負けましたわね・・・負け知らずの野分マミ、いえ、バリケーンが・・・。」

 

 変身も解けて横たわっているのは、ただの一人の少女だ。

 

 「負けるのは・・・こんなに悔しいんですわね・・・。」

 

 嵐が去って澄み渡った空の青さが目に染みる。こうやって、空を見上げたのはいつ以来だったでしょうか。今までずっと、見下ろしてばかりだったような気がする。

 

 「悔しいってことは、まだまだ強くなれるってことさ。」

 「あなた・・・ふん、当然ですわ。わたくし、まだまだ飛べるんですもの。」

 「それはそれは、頼もしいこって。」

 

 差し伸べられた手をとって、もう一度地に足を着けて立ちあがる。

 

 「あーぁ、私たちも早いとこ引き上げよう。雨も降ってきたし。」

 「雨?雨なんて降ってませんわ・・・。」

 「雨だよ・・・とびっきり目に染みるな。」

 

 上を向いているのは、一人ではなかった。

 

 「・・・・あなた、泣いてらっしゃるの?」

 「バカ、こういう時は黙って見過ごしておくもんだ。これだから箱入り娘のお嬢様は。」

 「むー!バカって言う方がバカなんですのよ!」

 

 心と目頭になんだか温かいものを感じた。きっかけがなければ出会う事も無かったであろう、かけがえのない人が出来た。野分マミのこの日の日記には、そんな素直な気持ちが綴られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いあ いあ がたたん

 

 冒涜的、あまりに冒涜的な光景が平和を謳う海の底に木霊する。

 

 「世界中が・・・ガタタンを呼んでいます!!」

 「やめるのですガタタン!」

 

 大いなる神を讃える詩が、3000万年に渡る深き眠りを呼び覚ます。

 

 んぐるい むぐるうなふ がたたん るるいえ うがふなぐる ふたぐん

 

 不可侵にして不可視の領域、ここは地球の闇が眠る場所。

 

 時は止まり、死が死を迎える。終末は近い。




 終わり!閉廷!!でもまだ準決勝も決勝も残ってる。果たして怪獣娘黒の公開までに終われるのか。地球は最後の時を迎えるのか。また寄り道しつつ気長に書くつもりなので、お付き合いいただければ幸いです。

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