怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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謎呼ぶ名無しの仕掛け人

 「うーん・・・。」

 「どったのシンジさん?」

 「いや、こういう時どうしたもんかなって。」

 「ゴモたんのこと?」

 

 現在、Bブロック第2試合は、ブラックキングとガーディーのCoCVSドドンゴとギランボのナイト・オブ・リザレクションが行われているが、シンジと、一部の者たちにとってはそれどころではなかった。

 

 「まさか負けちゃうなんてねー・・・。」

 「そりゃミカだって負けることぐらいあるさ。事実、ゴルザさんとの戦績だって五分五分だって言ってたし。それよりもやっかいなのは、あのバリケ-ンさんだよ。」

 「そうだよ!ホンットムカツクよー!大怪獣ファイトをなんだと思ってるんだよ!」

 「ミクちゃんどうどう。」

 

 怒り心頭のミクラスをアギラがなだめ、その様子をレッドキングたちが後ろで見ているがその表情は穏やかではない。

 

 「完全にノーマークの相手だったわね。」

 「エレキングさんは、もっとバリケーンさんのこと知らないですか?」

 「前に少し話をした程度よ。その時でさえ、自分のことばかり話していてウンザリしていたわ。」

 「自己顕示欲が強い、か・・・。」

 

 それは戦いの中での会話を見れば明らかだ。常に他人を見下すことしか出来ない、浅はかな人間である、と言いきれればいいのだが、しかしその実力は確かなものだろう。

 

 「次戦うのはお前らなんだから、しっかり対策は練っとけよ?頭使うのは得意だろ?」

 「頭?そっか頭突き!」

 「違う、そうじゃない。」

 

 山積みになった問題を一つずつ解決していこう。

 

 「じゃあ、とりあえず僕らは一旦別れます。」

 「どこ行くんだ?」

 「ちょっとラボでガジェット貰いに。」

 

 Xioは必ず起死回生の一手となるだろう。

 

 「あとでお前らもゴモラの控室に来いよ?」

 「・・・はい。」

 

 生返事をして去っていくシンジの背中を見て、レッドキングはうーんと唸る。

 

 「・・・アイツも拘ってるな。」

 「なにを?」

 「いや、心配するだけ無駄なことさ。」

 

 確かに次に戦う相手は強いだろう、だけれども、レッドキングはただ信じるだけだ。己の弟子や後輩たちのことを。

 

 「こんちゃーっす。」

 「大地さーん・・・あれ?」

 

 「おっ、シンちゃんいらっしゃーい☆」

 「大地さん、今寝込んでるっす。」

 「やっぱり大地さんもショックだったんだね・・・。」

 「ショックなんてものではなかったぞ。あれほどまでに取り乱す大地を見たのは初めてだった。」

 

 出迎えたマモルとルイの他に、奥から別の人物の声が聞こえる。機械の影から姿を見せたその人、白衣を纏い、オレンジの体色をしたチョイポチャ系の少女。

 

 「ファントン博士、お久しぶりです。」

 「うむ、見ておったぞ一回戦の戦いぶりを。相変わらず元気が良さそうではないか?」

 「博士こそ、相変わらずの大食いですね。」

 

 見れば、ドーナツやらクッキーやらのお菓子の袋が散乱している。どれだけ脳を回転させてもあれほどの量の糖分を使い切るのは無理だろう、人間ならば。

 

 「じゃーん!Xioニューデバイス!今度はデザインも凝ってみたよっ♪」

 「勿論性能も段違いっす!今まで以上に、柔軟に使い分けることもできるようになったはずっす!」

 「ありがとうございます、それともう一つ、開発に協力してほしいものが・・・。」

 「うむ、キミのパートナーの分だな?」

 「えっ、アタシ?」

 

 今まで傍らで事の成り行きを見守っていたところへ、突然話題を振られて困惑を覚えるミクラス。

 

 「でも、今からガジェットを用意する暇なんてあるんすか?」

 「いくつか試作したものがあるから、それを試してもらおうと思って。自分で作っておいて、使わないのも申し訳ないし。」

 「それなら次の試合までになんとかなるなる!」

 「ってことで突然だけど、使いたいブキを選んでよミクさん。」

 「えぇーっ!いいの?」

 「ルール上は何の問題もなかろう。」

 

 「いやその、ルールとかの問題じゃなくて、ポリシーの問題っていうか・・・。」

 「ポリシー?」

 「どうせ勝つなら、正々堂々真正面から向かっていって勝ちたいっていうか・・・。」

 「んー、気持ちはわかるっす。ルールがどうあれ、スポーツマンシップに乗っ取りたいってことっすね。」

 「そうそう!レッドキング先輩だって、一番の武器は自分自身の力なんだし!」

 「しかしなぁ、現状の戦力であのコンビに勝てる可能性は限りなく低いぞ?」

 「うっ、それはそうだと思うけど・・・。」

 「気合と根性だけでなんとかなれるほど、この世はうまくは出来ておらんよ。現にGボーンがそうであったろう?」

 

 ミカたちは、自分たちなりの戦いをして、そのうえで負けてしまった。これは紛れもない事実である。それほどまでに相手は規格外(バリケーン)かつ想定外(ファイヤーゴルザ)なのだ。

 

 「ミカ・・・ゴモラの戦闘力をもってしても、あのファイヤーゴルザさんには勝てない。その上、空を飛べるバリケーンさんにはもっと手も足も出ない。だから、新しい武器が必要だって、ミクさんもわかるでしょ?」

 「だけど・・・!」

 「・・・じゃあ、もっとシンプルに考えようよ。」

 

 椅子を並べて横になっていた大地がムクりと起き上がり、こちらへと歩を進めてきた。

 

 「初めまして、大空大地です。」

 「あっ、どうもミクラスです・・・。」

 「ミクラスさんのファイトも結構見てますよ、これからのご活躍に乞うご期待って。」

 「あ、ありがとう・・・ございます?」

 「それでミクラスさんは、次の試合を『どう戦いたい』?」

 「どう・・・って?そりゃ・・・『勝ちたい』よ。」

 「ミクラスさんにとっての『勝ち』ってなに?」

 「そ、それは・・・。」

 「相手を叩きのめすこと?バリケーンがやったように、相手をただ悔しがらせるだけのファイト?」

 「そんなんじゃない!アタシは・・・。」

 「・・・バリケーンさんに、本当の大怪獣ファイトを知ってもらいたい、かな?」

 「そう、そうだよシンジさん!」

 

 「うん、ゴモラも最後のゴルザとの戦いの時は、それを伝えたかったんだと思う。観客だけじゃなく、バリケーンにも。けどその気持ちっていうのは、『相手が受け入れる』ところまで行かないと届かないし、それを力で無理矢理通そうとするのはエゴにあたるんだ。」

 「・・・よくわかんない。」

 

 「対等な対話をするには、まず自分自身が相手と同じ高さにまで登らなければいけない。その為には、今はファイトで勝つしかないんだ。勿論、それ以外の方法があるなら、そうするべきなんだろうけど・・・戦い(ファイト)を通しての相互理解も、対話の手段の一つだと思う。」

 「簡単に言うと、『少年漫画らしく、拳で語り合え』ってことだね。」

 「僕たちが出来るのは、その『対話』のテーブルを作る為の土台だけ。そこから先、その力をどう使うかは、使い手次第になる。」

 

 

 「だから、その僕たちの『夢』のチャンスを、引き受けて欲しい。お願いだ。」

 

 『勝つため』ではなく、『負けないため』の戦い。相手にだけじゃなく、何より自分の限界に負けないために。

 

 「んんー!わかった!そこまで言われちゃしょうがない!アタシもなんだってやるよ!」

 「よしきた!僕が作ったものを見て欲しいな。」

 「ほわぁ~・・・これは、おもちゃみたい?」

 「これとかこれとか、絶対ロボットアニメの影響っすよね・・・。」

 「いいじゃん、こういうの!」

 

 幸い、ミクラスのお気に召す物がちょうど手元には合った。

 

 「よぉし、それでは早速・・・。」

 「お仕事開始っすね博士!」 

 「いや、その前に腹ごしらえだ。」

 「「「「だぁ~~!!」」」」

 「う~、早く食いたい、本場日本のしょうゆラーメンを!」

 「あっ、アタシも食べたーい!」

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 さて、シンジたちが地下でなんやかんやしている内に、Bブロック第2試合は終わっていた。

 

 『ちょっとー?扱いが雑すぎない?いくら数合わせで埋めた枠だったからって、戦闘描写のひとつもないなんておかしいんじゃない作者ぁ?』

 『ギランボちゃん、何言ってるの?』

 

 「相変わらずカオスなこと言ってんなアイツ(ギランボ)。」

 「カオスというよりも、タブーの領域ね。」

 

 勝ちあがったのはブラックキング&ガーディ―のチーム。決まり手はブラックキングのヘルマグマを纏ったガーディーの突進攻撃『ウィニングラン』。

 

 ギランボの異次元殺法や、ドドンゴの疾走攻撃も見ごたえある試合でしたちゃんちゃん。

 

 『どうせ次のカードを赤王対黒王のキング対決にしたかったんだろう。ワタシらはかませ犬ですよ!犬はガーディーの方だっつーのに!!ノベルでも完璧な犬の扱いだったじゃないかい!』

 

 まあそれはさておき。開発依頼が終わったところで、シンジとミクラスのやってきたのはゴモラとシーボーズの控室。

 

 「うーん・・・。」

 「今度はどしたの?」

 「いや、なんて声かけたらいいのかなって。」

 「またぁ?」

 

 先ほどレッドキングさんたちともすれ違ったが、今は部屋には二人以外誰も来ていないらしい。

 

 「別になんて話したってイイじゃん。シンジさんが話したい事言えばそれで。」

 「そりゃまあそうなんだってわかりましたってんだけどね・・・。」

 「んもー!ほら行くよ!」

 

 思いっきり手を引かれて痛いけど、それに文句をつけるほどの暇も無かった。

 

 「あっ、シンジさん、ミクラスさんも。」

 「おっ、シンちゃんやっと来たねー。」

 

 部屋に入ってまず目についたのは、目を赤くしたシーボーズさん。元来泣き虫な彼女が泣いていることについては、とくに言うことはない。

 

 「ゴモたーん、シーさん、残念だったねー。」

 「うん、結構ハデにやられちゃったよ。」

 「あの時私が・・・もうちょっと上手くやれてたら・・・。」

 「んもー、シィちゃん、それはナシだって。それ言ったら私だってもうちょっとねぇ・・・。」

 「めっちゃ腹立つよねー!なにあいつー!」

 「はいはい、対戦相手のこと悪く言うのもナシね。」

 

 「それにしたって2人とも遅いよー?さっきレッドちゃんたちも来てたけど、その前はアギちゃんたちだって来てくれてたのにさー。」

 「ゴメンゴメン、さっき地下に行ってたんだー。」

 「地下?」

 「そうなんだよー!地下にね、研究所みたいなとこがあってさ、そこでアタシ用の武器も作ってくれるんだって!」

 「へ-、研究所?シンちゃんのお友達?」

 「ん・・・ま、そんなとこ。」

 「でさ、そこの人がゴモたんのファンでさ、すっごいショック受けてたみたいだったよ。」

 「あはー、なんか悪いことしちゃったかな?」

 

 シンジは会話の輪に入らず、ぼんやりと端から見ているようだった。

 

 「ミクさん・・・ちょっとジュース買ってきてくれない?シィさんも、おごるから隙なの選んできていいよ。」

 「えっ?いいの?たっかいの買ってきちゃうよ?」

 「いいよなんでも。」

 「でも・・・。」

 「私のことはいいっていいって、行ってきなよシィちゃん。あっ!たこ焼きあったら買ってきてね!シンちゃんのおごりで。」

 

 なににするー?とミクラスが先導してシィさんを連れて部屋を出ていく。

 

 「それで?なんか言うことあるんじゃないの?」

 「言うこと・・・っていうかなんというか・・・。」

 「んもー、シンちゃん煮え切らないなー。そういうとこキライだわー。」

 

 ぶーっと膨れて文句を言うが、シンジはそれでも何も言えないでいる。

 

 「・・・そりゃまあ悔しいけどさ、勝負の世界なんだから負けることだってあるよ。レッドちゃんにも相変わらず負けっぱなしだし。」

 「うん・・・。」

 「けど、今回はちょっと堪えたかな?虎の子のEXまで出したのにさ、シィちゃんにもなんか悪かったし・・・。」

 「うん・・・。」

 「それに・・・その・・・。」

 

 ミカは少しためらって口を開いたけど、そこから声は出てこなかった。

 

 「シン・・・ちゃん・・・?」

 「なに?」

 「なんで・・・ボク(・・)は抱かれてるのかな?」

 「僕が、そうしていたいからじゃ、ダメ?」

 

 

 

 「いやー・・・シンちゃんのそういうとこ、キライだわー。ちゃんと言葉にしてくれないとこ・・・。」

 「ごめん、けどこれが、僕だから。」

 

 「こんなことしか出来なくって・・・ごめん。」

 「シンちゃんが謝ることじゃないよ・・・けどやっぱり・・・。」

 「何も言わなくていいから。」

 「・・・そういうとこ、キライだわ・・・。」

 

 ぎゅっ、と一層強く抱きしめると。

 

 「ふっ・・・ふぇええええええんんん!!ごめんねぇ!負けちゃったよボクぅううう・・・うわぁああああああああん!!!」

 「うん・・・。」

 「シンちゃんと・・・戦いたかったのに・・・うわぁああああああああん!!!」

 「うん・・・。」

 

 こらえていたものを全て絞り出すように、ミカは大声をあげた。

 

 「落ち着いた?」

 「うん・・・ありがと・・・。」

 「あーあ、涙はともかく鼻でベタベタだ。」

 「ごめん・・・つい。」

 「鼻はちゃんとかみなさい。ほれ、ちーんして。」

 「んもー!そんな子供じゃないよ!」

 「ごめんごめん。ついね。」

 

 多少無理矢理だったかもしれないが、溜まっていたものを発散できたのならよかった。

 

 「いやー、シンちゃんにはしてやられちゃったね?」

 「もう平気?もうちょっと泣いとく?」

 「いい!ボクは笑顔が似合う怪獣娘No.1のゴモたんだよ?」

 「そうだね、ミカは笑顔でいる方がいいよ。泣き顔を見せるのは、僕だけにしてほしいな。」

 「おっ、なにそれ、新手の口説き文句?」

 「さーて。」

 

 ベタベタになった上着を脱いで、バトルスーツ(S.R.I)だけになる。

 

 「あは、それいっつも着てるよね。」

 「うん、気に入ってるし。着心地もいいし。」

 「生地はなにこれ?ゴムみたいだけど。」

 「伸縮繊維だよ。伸びる布なんだ。」

 「へー。」

 

 ミカはペタペタと腹や胸を撫でて触り心地を確かめる。

 

 「なんか、謎な素材だね。」

 「それを言ったら、ゴモラの獣殻だってスク水じゃないか。」

 「それねー、なんでスク水なんだろうね?」

 「僕が知ってるわけないよ。」

 

 試合を完全なKOで敗れ、変身も解除されていたのを、今改めてシンジの前でソウルライドしなおした。

 

 「触ってみる?」

 「いい。」

 「そんなこと言わずにー、先っちょだけでいいからさぁ、ささっ!」

 「男が言う台詞だろうに。」

 「じゃあ・・・触って・・・欲しいな?」

 

 どこを、とは言っていないが。言わんとすることはわかる。

 

 「・・・。」

 「んっ・・・頭かぁ・・・。」

 

 さらさらの髪に、つるつるのツノ。先ほどの戦いで折られてしまっていたが、もうすでに治っている。そこから頬、顎、そして首筋へとだんだんと下に向かって手を動かしていく。

 

 「・・・ちゃんと、生きてるな。」

 「生きてるよ。大怪獣ファイトで死者が出るなんてこと、ないから。」

 「生きてるなら、いいんだよ・・・。」

 「あっ・・・。」

 

 また、シンジはミカを抱きしめた。今度のそれは、自分の為にやることだった。

 

 「ミカ・・・心配したんだからな。」

 「ありがとっ、ボクは大丈夫だよ。シンちゃんこそ、平気?戦うのが怖くなったりしてない?」

 「平気だ・・・ミカが繋いでくれたんだから、今度は僕が頑張らないと。」

 「『僕たち』が、でしょ。ミクちゃんとペアなんだから。」

 

 わかっている。けど今はこんなにもこのちっちゃな躰が愛おしくてしかたがない。

 

 「シンちゃん・・・。」

 「ミカ・・・。」

 

 「おーっす!ゴモたん元気しとるー?タコ焼き買ってきたでー!」

 

 タコがタコ焼きを買ってきた。

 

 「・・・なんや、お取込み中やったんかいな。ほなさいなら。ところで、大人気アイドルの熱愛スクープって週刊誌持ってったら高く売れるんかいな?」

 「ちーがーうーかーらっ!そんなんじゃないから!」

 

 

 「じょーだん、ジョーダンやて。ウチがホンマにそんなんするぅ思たん?」

 「え?しないの?」

 「なんでやねん!むしろウチはそーゆー情報『消す』ことやってあるんやで。」

 

 先ほどはシンジと戦っていたチブル星人さん。やはりというかミカとは旧知の間柄だったらしい。

 

 「それにしてもゴモたんもツイてへんなー、あないなバケモンと当たるなんて。ウチもノーマークやったわ。」

 「ホントにねー。まさかあんな強力な能力の持ち主がいたなんて知らなかったよー。」

 「というか、正規のGIRLS職員じゃないんじゃないかな。僕も会ったことなかったし。エレキングさんが言うには、相当高貴なお方らしいし。」

 「それやったらあの喋り方も納得やな。」

 

 疲れた体にはソースの甘辛い味がよく染みこむ。アツアツなのもいいけど、チブルさんの買ってきてくれたこれはちょうどいい温度で一口で食べられてしまう。

 

 「そういえばチブちゃんのパートナーはどしたの?」

 「もう少しで来ると思うで。ちょっと調査を頼んどいたから。」

 「調査?」

 「そ、売れるモンやったらブキだけやのーて、情報だって仕入れとくもんやし。」

 

 ああ、とシンジは大体の事を察した。するとにわかに部屋の外が騒がしくなっていたのを感じた。

 

 「だーかーらー!こんなところでなにやってんだって聞いてんの!」

 「うるさい。」

 「そーやってまた何か企んでるんだろー!」

 「黙れ。」

 

 ドアを開けて覗いてみると、ミクさんがスーツ姿の女性につっかかって、その後ろでシィさんがオロオロとしていた。

 

 「ミクさん、なにやってんの?」

 「あっ、シンジさん!こいつさっきの!」

 「えーっと、ナックル星人さん?」

 「そうだ。濱堀シンジ。」

 

 その鋭い目つきには見覚えがあった。

 

 「おっ、来たんやね。売り物は集まったんかい?」

 「ああ、一応な。」

 「おっしゃ、ほな入り。」

 

 チブルさんに手招きされて、ナックルさんは部屋に入ってくる。その後をぶー垂れながらミクさんたちも入ってくると座って円になった。

 

 「お探しの物はこれだろう。」

 「OKOK、さすがやね。」

 「勿論、プロですから。」

 「なんの書類チブちゃん?」

 「あのバリケーンの身辺調査よ。細かいプロフィールとか、把握しておけば役に立つやろ?」

 「どこの生まれで、どういう性格なのかとかが主だ。」

 「そんなの何の役に立つの?」

 「ミクさん。」

 「慎重なやつか、それとも調子に乗りやすいタイプか、それを知っているか否かだけでも戦う時には役に立つ。それぐらいわかるだろう、突進系。」

 「ア゛ァ゛ッ?!」

 「ミクさん、ステイ。」

 「アンタも一言余計。」

 「ふん。」

 

 「大体さっきの試合でシンジさんが不調になったのも、この2人のせいなんでしょ?!」

 「そうなのチブちゃん?」

 「せやで。」

 「ゲートに行く前に握手したあの女の子が仕掛け人だったんでしょ?」

 「せやで、ウチの謹製アンドロイドのレイちゃんや。」

 「握手しただけ?」

 「そ、手のひらにシールみたいな電極が貼ってあって、それがスイッチで電流を流してたんだ。」

 「でも、なんで途中で動かんようなったんやろな?」

 「故障したんでしょ。」

 「そんな卑怯な相手と、なんでそんな仲良さげに話してるのさ!」

 「試合の外ならオフサイドだからだよ。」

 

 卑怯な手段ではあったかもしれないが、それ以上にファイターとして実直な面も見れていたのでシンジは納得していた。ちょっと割り切りすぎな気もするが。

 

 「じゃあ、早速その情報を見せて。」

 「なんぼで?」

 「は?」

 「いくらで買う?って聞いてんの。」

 「金とるの?!」

 「当たり前やろ?商売やねんから。」

 「集めてきたのは私だがな。」

 「シャラップ!あんた肉体労働、私頭脳労働。」

 「情報収集はどう見ても頭脳労働でしょ。」

 

 「で、なんぼなん?」

 「100円。」

 「やっす!でも交渉成立や。」

 「おめでとう、眼兎龍茶一本は買えるね。」

 「ジュース一本分の働きだったのか私は・・・。」

 

 さて、肝心の中身はというと・・・。

 

 「えーっと、台風怪獣バリケーン。本名『野分(のわき) マミ』、10月15日生まれ。日本でも有名な財閥のひとつ、『野分コンツェルン』の令嬢で、城南大学に在籍中。」

 「シンちゃんも城南大学じゃなかったっけ?」

 「そだね。でも会ったことないなこの人。続きね。高校時代には文武両道において非常に高い成績を収めている。怪獣娘に目覚めたのは、割と最近みたいだね。」

 「なんか、典型的なお嬢様タイプって感じだね。」

 「そんな人と面識のあったエレキングさんって一体・・・。」

 

 「って、これだけ?もう無いの?」

 「この短時間ではそれが限界だった。」

 「てか、SNSから引っ張ってきただけでしょこの内容。」

 「100円の価値も無いじゃん。」

 「それゆーたら、このレイコー(アイスコーヒー)もそんなおいしないで。」

 

 ミクさんが買ってきたしゅわしゅわコーヒーを啜りながら文句を言い合う。

 

 「こうなると、やっぱり新兵器は頼りになるかな。」

 「なんなん新兵器って?ゼニのニオイがする。」

 「それは秘密秘密。」

 「まあ大体予想はつくわ。あんさん1人で作っとるわけやないんやろ?」

 「まあね。そうだ、チブルさんの作ったもの見せてくれない?何か使えるものがあるかも。」

 「ええで!と言っても、今持ってきてるのはコレくらいやけど・・・失敗やったなー、アタッシュケース一個分くらいは用意しとくんやった。」

 

 と、見せてくれたのはさっきの試合でも使っていた模型飛行機型のドローン。

 

 「飛行機か・・・台風相手にどれぐらい役に立つかな?」

 「こういうの基本使い捨ての消耗品やから、安定化装置(スタビライザー)とかそんなに上等なもん積んでへんねん。」

 「ならちょっと安くしてよ。僕の財布(ポケットマネー)で払えるぐらいの。」

 「しもた、弱みなんか言うんやなかった。商売人(あきんど)失格やで。」

 

 こうして格安で入手したのは、翼が大きめで安定性の高そうなジェット戦闘機。

 

 「ちょっと手を加えて、安定性だけでも高めておこうかな。テールスタビライザーもつけて・・・。」

 「あと色もね!」

 「色もね。そのためには時間がいるけど・・・。」

 

 見れば、もうAブロック第三試合、ブルースフィアVSDDDは終わっていた。

 

 「あれ?さっき始まったばっかりじゃなかったっけ?」

 「えっと、ゼットンさんが・・・。」

 

 ありのままに今起こったことを説明すると、異次元からありったけのミサイルとバルカン砲の弾幕を張っていたはずのバキシムとベロクロンが、いつの間にかやられていた。何を言ってるのかわからねーと思うが、やられた当人たちにもなにをされたのかわからなかった。

 

 「まあゼットンちゃんだから仕方ないね。」

 「ゼットンなら仕方ない。」

 

 そう、ゼットンなら。

 

 「せめてもうちょっと時間稼いでくれてたらなー。」

 「はなっから期待してなかったような発言!」

 「だってそうでしょ。さて、次の試合は・・・。」

 「マガちゃんたちと、『ジェーン・ドゥズ』だってさ。」

 「あの子たちか・・・マガバッサーの竜巻攻撃は、バリケーンの台風攻撃の攻略のヒントになるかも。」

 「じゃあ見に行こうか!せっかくだしもっと生で試合見たいよ!」

 

 バンッと扉を叩いてミクラスは外へ行く。その後を追ってシーボーズも出ていく。

 

 「あっ、私も行きます!」

 「私は・・・もう少し調べものをしてくる。」

 「今度は何を?」

 「次の対戦の、ジェーン・ドゥズについてだ。彼女たちの情報も少ないから、今の内に集めておこうと思ってな。」

 「ほな、ウチはその飛行機の改造やっとくで?」

 「またお金とるの?」

 「アフターサービスや。」

 「じゃ、お願いしようかな。」

 「材料費は別やけどな♪」

 「しまった。」

 

 チャリーン♪とゼニの鳴る音をさせながら、カバンを持ってチブル星人も引き上げていき、ナックル星人もそれに追随する。

 

 「ほな、また後でな。」

 「じゃーにー、チブちゃん。」

 「なにかわかったら連絡する。」

 「お願いします。」

 

 「さって、ボクたちも行こっか。」

 「そだね、ここにいても埒が明かないし。」

 

 「ところでシンちゃん。」

 「なに?」

 「すごーく自然な流れになってるけど、次の試合『勝ってくれる』の?」

 「勿論よ。ミカの仇ってのもあるけど、それ以上に誤解されたくないから。」

 「誤解?」

 「大怪獣ファイトはお遊びなんかじゃないし、怪獣娘が皆あんな傲慢な性格してないってこと。っその両方。」

 「そっか、責任重大だね。・・・けどさ。」 

 「ん?」

 「もっと肝心なこと、忘れてない?」

 「肝心なことって?」

 

 はぁ・・・とため息をついてミカは向き直る。

 

 「シンちゃん、これはタッグトーナメントなんだよ?」

 「そうだよ?だから僕も出てるんじゃないか。」

 「じゃあ、シンちゃんはタッグパートナーのこと、ちゃんと考えてる?」

 「ミクさんのこと?そりゃ勿論・・・。」

 「いや、ちゃんとミクちゃんのこと『見て』ないでしょ。今だって、先に走ってっちゃったの見送っちゃってるし。」 

 「うーん、たしかに。」

 「ボクのことを想ってくれるのは嬉しいけどさ、今はミクちゃんのことを見てあげて?」

 「わかったよ。」

 

 しかしまあ、こんなミカの忠告も空しく、そのことを真に理解するのは試合中のこととなるのだが。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 『さぁて、波乱万丈な第一回戦もそろそろ大詰めです!Bブロック第3試合、マガバッサー&マガジャッパの『マガ・ポテンシャル』対ノーバ&キリエロイドの『ジェーン・ドゥズ』が間もなく始まります!ところで、ジェーン・ドゥってなに?』

 『アメリカでの身元不明人のことを『ジョン・ドゥ』といいます、要は『名無しの権兵衛』のことです。ジェーンはその女性版ですね。』

 『正体不明の二人組か・・・どんな戦いを見せるのか注目ですね。』

 

 

 

 「アノ2人は・・・。」

 「知っているんデスか、お姉サマ?」

 「・・・昔会ったコトのある2人だと・・・思いマス。」

 

 かつてGIRLSが発足したばかりの、未だ人類を狙う脅威の姿が見えていなかったころ。人知れずシャドウと戦っていた者たちがいたことを知るものは少ない。

 

 「もし彼女たちがそうなら、一体何故この大会に?」

 『ワカリません、ケドただ腕試ししに来ただけとは考えにくいデス。』

 「わかった、ありがとうキングジョーさん。キングジョーさんも次の試合頑張って。」

 『ハイ☆Ⅱのスゴイところ一杯見せちゃいマスヨ!」

 

 次の試合に備えて控室にいるキングジョーさんと連絡を取り合う。今日のキングジョーさんはとにかく妹が好きらしい。

 

 「あの2人、今日はどういう風に戦うのかな?」

 「やっぱり2人とも能力が強いから、そこを前面に押し出した感じにするんじゃないかな?」

 「あの2人には基礎訓練を徹底させておいたわ。」

 「おっ、エレちゃん、レッドちゃんも。」

 「2人とも能力は十分把握してるから、あとは基礎をしっかりとさせておけば色んな状況にも対応できるだろうぜ。」

 「エレキングさんの指導がよかったおかげですね。」

 「別に、これくらい普通よ。」

 

 そう言ってなんでもないように振舞うエレキングさんの口角はわずかに上がっていた。

 

 「けど相手は、オレたちよりずっと前からシャドウと戦っていたベテランなんだろ?」

 「らしいですね。本人かどうかはまだわかってないですが、そうでなくとも恐らく強敵でしょう。」

 「・・・この戦い、あの2人には荷が重すぎるわね。」

 「おいおい、自分の教え子だろ?先生がそんな悲観的でいいのかよ?」

 「むしろ私は、これを好機と考えているわ。」

 「好機?」

 「小手先のテクニックや能力だよりの戦法では、どうにもならない相手がいるという挫折を、身をもって味わってもらうのもいいわ。」

 「うーわエレちゃんスパルタ。」

 「こんな指導役にはなりたくないぜ・・・。」

 (どの口が言ってんだか。)

 

 正直、ミカもなかなか先輩として厳しいところはある。主にムチャ振りするところとか。けどそんなミカの一発ギャグが吹き飛ぶほどに、このクールな女教師の指導は厳しい。

 

 「まあ、それが実戦でのことになるよりはいいか。これもある意味実戦なんだけど。」

 

 それでいて、ちゃんとタイミングは考えてくれているんだろう。きっとそうだ。実際エレキングさんに褒められたらすごくうれしくなる。3回廻ってワンと鳴いてもいいぐらい喜べる。

 

 『それでは選手入場です!』

 

 片方のゲートから、青い翼と赤い鰭が元気よく飛び出してくる!

 

 「ぃよっしゃー!がんばるぞー!」

 「はわわ・・・こんなに人がいっぱい・・・。」

 

 マガバッサーは相変わらず元気だし、マガジャッパは相変わらず落ち着きがない。あの激しい戦いを目にしてなお、2人とも自分のペースを崩していないというのは、やはり大物の素質があるということだろうか。

 

 「あっ!おーいエレキングせんぱーい!!」

 「えっ、どこどこ??」

 「あそこ!」

 

 こちらの姿を見つけた2人が元気に手を振ってきたので、振り返してあげると嬉しそうにしていた。なんだか、授業参観に来た親の気持ちがわかるような気がする。

 

 それはそうと、もう一方のゲートからは静かに2人組がやってくる。片方は骸骨のような風貌で、フ-ドを目深に被って表情が見えない、キリエロイドの怪獣娘。もう片方は赤いマントに身を包み、顔の半分は割れた仮面に覆われている、ノーバの怪獣娘。

 

 「表情が読めないな・・・。」

 「2人合わせて0.5しか見えないですし。」

 「私の裸眼よりはマシね。」

 

 変身解除しているエレキングさんはメガネをしている。すごく似合っている。

 

 「私もメガネしたらかしこそうに見えるかな?」

 「ミカはじゅうぶんかしこいよ。」

 「目を見て話せ。」

 

 さて、アリーナのマガちゃんたちはやる気十分のようだ。マガバッサーはもとより、マガジャッパも覚悟を決めたようだ。

 

 「がんばってぇー!マガちゃんたちー!!」

 「勝ったらシンちゃんが焼き肉奢ってくれるってー!!」

 「え?僕そんなこと・・・。」

 「『みんな』と行こうって言ってたじゃん?ならマガちゃんたちだってそうでしょ?」

 「えぇー・・・。」

 「イヤなの?ふーん?ほーん?」

 「あーもうわかったよ!」

 

 

 『さて、いよいよ始まりです!Bブロック第3試合、』

 『レディー・・・』

 

 『『ゴォオオオオオオオ!!』』

 

 さっそくマガバッサーは羽ばたいて、リングの中央も中央、宙に陣取る。

 

 「いくぞー!!『マガ竜巻』!!」

 

 禍しき翼が空になくと、天地をひっくり返さんとするほどの疾風が吹く。

 

 『おっとぉ!マガバッサー選手早速強力な竜巻を展開し始めたぁ!』

 『これは恐らく、藤田スケールでF3以上はある威力とみていいでしょう!』

 

 つまり、家がつぶれるレベルである。

 

 「バリケーンさんの台風と、どっちがすごいかな?」

 「エネルギーの溜め無しで、これほどの風を・・・。」

 「でもこれじゃあ、マガジャッパも危険じゃねえのか?」

 「その心配はないわ。お約束(セオリー)は教えてあるわ。」

 

 「中心は無風!安全地帯!」

 

 コンビを組むからには、お互いの特性を理解したうえでのコンビネーションが求められる。

 

 「仕掛ける。」

 「ラージャ。」

 

 ごく僅かな応答で、キリエロイドとノーバは動きだす。キリエロイドは身を屈めて、腕を斜め後ろに伸ばしながら疾走し、ノーバはその後ろをマントを靡かせながら突っ走る。既に人の体には耐えられないほどの猛風が吹き荒れているというのに、非常に安定して動けている。

 

 「あの手のひらがなんかあるんだな。」

 「・・・熱を感知したわ。炎を出しているのね。」

 「ダウンフォースと、スリップストリームってことか。」

 「なに?ダンスホール?リップクリーム?」

 「両方とも違う。」

 

 原理は極々簡単。キリエロイドは炎を操ることに優れた戦士で、手のひらから出す炎で加速し、あのポーズによって生み出される下向きの空気の流れを作って地面に這いつくばっているのだ。その空気の流れに、ノーバもマントで上手く乗っているのだ。

 

 「即興であんなコンビネーションを・・・いや、元から織り込み済みだったのか?」

 「どっちにしても、かなりやるみたいだね。」

 

 新人の2人にはちと荷が重すぎる相手だが、2人は泣き言を漏らさない。それどころか次なる手に打って出ようと、しっかり前を見ている。自分の能力にそれほどまでに自信があるということか。

 

 「『バブルランチャー』!」

 

 ぽわぽわぽわと、マガジャッパの手から沢山の泡が飛び出てくる。が、ゆっくりと浮遊するそれらは竜巻に流されていってしまう。

 

 『マガジャッパ選手のシャボン玉が、あらぬ方向へと飛んで行ってしまったぁ!これはコンビネーションのミスかぁ?!』

 『いえ、そうじゃないみたいですよ?』

 

 風はアリーナの中をぐるぐると廻っている。それに乗ったシャボン玉も同じく。

 

 「ッ!?」

 「これは・・・?」

 

 突然の横からの不可視の衝撃に、足の動きが僅かに揺らぐ。

 

 「なにが起こったんだ?」

 「風に乗った泡の攻撃・・・ですね。」

 「そうよ、竜巻の勢いをプラスして、威力が上がっているわ。」

 「でも、泡なんて全然見えないよ?」

 「光の屈折率を弄って、見えにくくしているんだろう。ステルス攻撃だ。」

 

 あの泡の見た目に反する頑丈さは、シンジも身に染みている。威力としては大したことが無くても、足止めには出来る。

 

 「くっ!」

 「作戦変更。」

 

 そして足が止まれば、たちまち竜巻の餌食となる。先行していたキリエロイドの体がふわりと浮き上がるのが見える。

 

 しかしこの正体不明の2人の勢いは完全に殺すことは出来ない。

 

 『おっと!ノーバ選手のマントの下から、触手のようなものが伸びてきたぁ!』

 『それがキリエロイド選手の体に巻き付いていますよ?』

 

 絡みついた触手がブンブンと音を立てて唸ると、風の壁を突き破る勢いで弾丸を放つ。

 

 「おおっ?!」

 「意外と力押しな解決法だね。」

 「いえ、それだけじゃ終わらないみたいよ。」

 

 飛ばされたキリエロイドが手のひらを合わせると、その中心に明々と燃える火球が姿を現す。

 

 「『炎魔の灯台《デモンズライト》』!」

 「よっと、当たらないよっ!」

 

 大した勢いもなく投げられたそれは、ちょうどマガバッサーの下で停滞する。

 

 「外した?いや、違うな。」

 「なるほど、別の光源を用意したのね。」

 「ほへー、まるでちっちゃな太陽みたい。」

 

 ミラーボールのようにギラギラと光を放つそれは、風の間に隠れた泡の姿を照らし出す。光の加減で見えないなら、別の光を当てて可視化させればいいのだ。

 

 「見える相手は、容易い。」

 

 『ノーバ選手、鎌でシャボン玉を切り裂いていく!』

 

 血のように赤い鎌で泡を排除しつつ、じわりじわりと距離を詰めていく。

 

 「あわわ・・・マガバッサーちゃん・・・。」

 「こんのー・・・おわぁっと!」

 「余所見厳禁。」

 

 本来なら放物線を描いて落ちていくはずだったキリエロイドが、自らの作った火球を踏み台にして、マガバッサーに迫る。その一瞬の気の乱れが、風の障壁にほころびを生む。

 

 「・・・見えるっ!」

 「きゃんっ!」

 

 一足飛びに踏み込み、竦むマガジャッパに斬りかかる。が、その刃は届いていない。

 

 「これは・・・。」

 「あわわっ、あれ?いたくない・・・。」

 

 それはマガジャッパ自身にも与り知らぬことで、巨大な泡がクッションとなって、鎌を弾き返していた。

 

 「あの泡強いですよね。」

 「スパーリングでもまともに破れたことが無かったぜ。」

 「ただ、もうちょっと自分でコントロールできるようにするべきね。」

 

 クッションというには、その泡は大きすぎた。運動会の大玉転がしぐらいの大きさがある。

 

 「ふんっ。」

 「わわっ!『マガ水流』!!」

 

 バーッ!と弾丸のような水が放たれたが、ノーバはそれを最小限の動きで回避して間合いを詰めると、今度は触手で絡めとって締め上げていく。

 

 「くぅううう・・・。」

 「・・・また。」

 

 締まる首や手足に、エアバックが出来上がって触手を浮かせていく。攻撃に対して無意識的に反応できているということは、意識的な反応よりも厄介かもしれない。

 

 「あなた、何者?」

 「水ノ魔王獣ですぅ・・・ふぇええ・・・。」

 

 ノーバは表情こそ変わらないが、自分の思い通りにならないことに憤りを覚えていた。

 

 

 「どぉりゃぁあああ!!」

 「力任せな・・・。」

 

 キリエロイドは炎のブースターで滑空こそしているが、一対の大翼で縦横に飛び回るマガバッサーには敵わない。竜巻を展開する『守り』から、積極的な『攻め』に転換したマガバッサーのスピードについてこれる者は少ない。

 

 「『超音速の刃(ソニック・ブーム)』!」

 「ちぃっ!」

 

 翼から発せられる風の刃が、キリエロイドの逃げ場を奪う。ただ飛び回るだけで窓ガラスが割れる衝撃だ。

 

 『それにしても、バリアが無かったら今までで一番被害が出てたんじゃないかな?』

 『そうですね、音というものは無差別に攻撃を振りまきますから。』

 

 バリアは、衝撃波を全て無害なレベルの音に変換してくれている。おかげでスタンドはものすごくうるさいが。

 

 「とぉー!『イーグルキック』!!」

 「そこぉ!」

 

 しかし直線的な動きともなればキリエロイドにも分はある。猛禽の爪をいなし、返し手で手刀を叩きこむ。

 

 「成程・・・たしかにパワーもスピードも一級品だ・・・だが・・・。」

 

 まだ、足りない(・・・・)。我々の求めているレベルには。

 

 「ノーバ、交代。」

 「ラージャ。」

 

 バッとノーバはマントを広げて空へと舞い上がり、反対にキリエロイドは地面へ降り立つ。

 

 「見ろ!スーパーヒーロー着地だ!」

 「あれ膝に悪いんだよねー。」

 

 キリエロイドはカッコイイポーズで着地すると、半歩踏み込んでマガジャッパへと一気に距離を詰める。

 

 「ふわぁっ!」

 「無駄ァ!」

 

 再びマガジャッパはエアクッションを作り出すが、キリエロイドの掌には炎が握られている。

 

 「ひゃん!!」

 

 するとどうだろう、エアクッションはあっという間に膨れ上がって甲高い音を立てて破裂した。

 

 『おぁーっと!マガジャッパ選手のエアバックが突然割れたー!』

 『どうやらキリエロイド選手は熱膨張によってエアバックを割ったようですね。』

 

 一見すれば水と火、柔と剛、キリエロイドの相性は悪いように見えたが、それを塗り替えんテクニックが活躍する。

 

 「これで決める!『コンビネーションキック』!」

 

 そこからは目にもとまらぬキックの嵐が炸裂する。

 

 「はわわ・・・。」

 「これで・・・トドメだ!『獄炎かかと落とし(セイントフレイム・ドロップ)』!」

 

 炎を纏った右脚が唸る、跳ぶ、打ち砕く。そこに一切の油断も隙も無い。

 

 「空は・・・アタシのフィールドだーっ!!」

 

 一方空中では変わらずマガバッサーのターンが続いている。羽ばたきで巻き起こる風がノーバのマントをはためかせるが、当のノーバは一切揺れ動かない。

 

 「空は時に・・・牙を剥く。」

 

 ノーバの首元につけられた丸い顔・・・本来の『ノーバ』の眼が輝くと、その口から赤いガスが噴き出てくる。

 

 「これは・・・雨?」

 「赤い・・・雨・・・。」

 

 『レッドクレイジーガス』、ノーバは技名を心の中で呟く。しとしと降る雨のように囁く。その足音がしたとき、そいつはもう終わって(・・・・)いる。

 

 「こんな・・・こんなまやかし(・・・・)ぐらいで!!」

 「けど、痛みは本物。」

 

 雨粒を切り裂いて飛ぶマガバッサーの翼が、だんだんと赤い雨に濡れて重くなる。マガバッサーの額に大粒が流れているが、それは汗か、雨粒か。

 

 「・・・そこっ。」

 「がっ・・・!?」

 

 マガバッサーが気づいたときには、その首には赤い触手が絡みついていた。赤い雨を切る軌道を、虚ろな瞳で見極めていたのだった。

 

 そしてノーバは、絡みついた触手でマガバッサーを後ろへと強く引っ張り、

 

 「・・・終わり。」

 

 鎌で翼を切り裂いた。

 

 「そん・・・な・・・。」

 

 翼を捥がれた獣は、真っ逆さまに重力に引かれて落ちていった。

 

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 

 

 

 『決まったー!2人同時に!一瞬のうちに勝敗が決したー!!』

 『何が起こったのか・・・僕には全然見えませんでした!』

 

 その戦いの全貌を見届けられたのは、スタジアムでもごく一部だけであった。

 

 「行こう、ノーバ。」

 「ラージャ。」

 

 獲物を仕留めたハンターたちは、そのまま踵を返して去っていった。

 

 「うぅ・・・。」

 「負け・・・た・・・。」

 

 残されたのは、心も体も強く打ち据えられた2人だけ。

 

 完敗だった。自分達の能力には自信があった。けどその自信は脆くも砕かれた。恐らく彼女らは全く本気を出していない、経験の浅い2人にもそれが感じられた。それえぐらい圧倒的だった。

 

 「2人とも。」

 「あっ、エレキング先輩・・・。」

 「エレキングせんぱぁい・・・。」

 

 何より、自分たちを指導してくれたエレキング先輩に申し訳がなかった。

 

 「・・・よく、がんばったわね。」

 「先輩・・・。」

 「はぅうう・・・。」

 

 しかしエレキングはそんな2人をひしっと抱きよせると、優しくその労をねぎらった。

 

 

 「アイツ、本当は小言のひとつでも言うつもりだったんじゃねぇの?」

 「あはは、エレちゃんならあり得たかも?」

 「マガちゃんたち・・・。」

 「次は、レッドちゃんたちが背負って戦わないとね!」

 「ああ、誰が来ようと負ける気はないぜ!」

 

 レッドキングは燃えている。そしてエレキングも、心の中で静かに闘志を燃やす。勝ち残った者は、負けた者を背負って生きていく。勝負の世界(トーナメント)とは、厳しくも優しい世界である。

 

 

 

 

 

 

 「うらやましいなー。」

 「あぁん?シンちゃんなんだってぇ?」

 「いや、なにも?」

 「なーんか、ボコボコにされるのが羨ましいって聞こえたけどなー?」

 「いや、そんなんじゃなくてエレキングさんにハグされるのが羨ましいなーって、あっ。」

 「うん、そういうシンちゃんの正直なところ、とっても好きだよ!」

 「どうしたミカ、目が笑ってないぞ。」

 「さーてなんでだろーねー?」

 

 それからギャーッと悲鳴が上がって、スタンドの一部が吹き飛んだ。

 

 「やれやれね。」

 

 ちゃんちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なかなか見つからないね。基準を満たせるメンバーというものは。」

 「焦りは、禁物。」

 「そうだな、まだ私たちの基準からすれば、大会はまだ始まってもいない。」

 

 廊下を歩くノーバとキリエロイドが相談をしている。

 

 「ん?」

 「どうした?」

 「・・・。」

 

 ふと、キリエロイドが立ち止まって、物陰に注意を凝らす。が、しばらくしてからその警戒を解く。

 

 「・・・どうやら、予想以上に根は深そうだな。」

 

 額から冷や汗を垂らしたナックル星人が顔を出す。

 

 「もう少し、調査が必要か・・・?いや、好奇心はネコを殺すとも言うが。」

 

 ハッキリと感じた死線、修羅場をくぐってきたナックルにはそれが見えた。あちら側(・・・・)こちら側(・・・・)には、はっきりとした境界がある。

 

 「1人では無理か・・・なら、仲間を頼らせてもらうか。」

 

 ここは一旦退こう。チャンスはまだあるハズだ。ナックル星人はそう飲み込むと、一旦来た道を引き返し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ガタたん、一体どこへ向かっているのですかぁ?!」

 「こっち・・・こっちからガタたんを呼ぶ声がするのですぅ!」

 

 太平洋上のある場所ではまた別の波乱が起こっているが、それはまた別の話。




 2週間ぐらいかかったのかな?週1ペースで書ければと思っていたけど、案外難しい。でもエタるつもりはないので

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