怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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 「あれ?シンちゃんどしたの?FXで有り金全部溶かしたみたいな顔して。」
 「昨日からずっとこうなんですよ。」
 「ぬとねの区別がつかなそうな顔だね・・・。」
 「なんでも、好きだった声優さんが引退したんだってさ。」
 「なるほどなぁ・・・。」


50キロを突っ走れ!

 とうとうこの日がやって来た。あの血の滲むような訓練も、汗を流した技の開発も、涙を飲んだ減量も、全ては今日という日の為。減量が必要だったかは知らないが。

 

 「でもなんで江ノ島集合なんだろうね?」

 「予選はここでやるんじゃないかな?」

 

 島全体が龍の巣で、九月九日には例祭が行われるという、ここは江ノ島神社。日本三大弁財天のひとつで、縁結びの御利益もあるという。

 

 「龍と怪獣をかけてるんだろうね、それに縁結びってのがタッグって形にもなって。」

 「ふーん、シンジさん来たことあるの?」

 「ないよ。今日が初めて。」

 

 もっとも、今日に限ってはデートしているカップルの姿は見当たらないが。その代わりに大勢の女の子たちが集まっているし、皆怪獣娘だ。

 

 「50組ぐらいいるのかな?」

 「これだけ集まるとすっごいね、みんなとここで戦うのかな?乱闘?」

 「さすがに神様祀ってる境内で乱闘はまずいでしょ・・・。」

 

 その中でシンジが会ったことのある怪獣娘は半分ぐらい。ミクラスはもっと少ないかもしれない。日本中から怪獣娘が集まってきたのだ。

 

 「おーいシンちゃん!ミクちゃん!」

 「おっ、ゴモたんだ!おーい!」

 「おはよ、シィさんも。」

 「おはようございます!」

 

 その中で見知った顔にも会えた。

 

 「オッスお前ら!」

 「レッドキング先輩!げっ、エレキングさん・・・。」

 「げっ、とは大層なお言葉ね。」

 「レッドキングさんのパートナーはエレキングさんだったんですね。」

 「エレちゃん出ないかとも思ってた。いっつも戦闘タイプじゃないって言ってるし。」

 「レッドキングに泣きつかれたから、仕方なくよしかたなく。」

 「おいエレ!それ言うなよ!」

 「レッドさんも大変なんですね・・・。」

 

 「それに、あの子たちの事がちょっと気になったから。」

 「あの子たちって・・・マガちゃんたち?」

 「そう、あなた達に勝ってすっかり調子づいちゃって、失敗しないか心配だわ。」

 「でもそのためにここに来たんでしょ?エレちゃんやっぱり面倒見いいねぇ~。」

 

 エレキングさんの指さす先に、件の少女たちはいた。明るく活発な性格のバッサーは既に見ず知らずな怪獣娘に声をかけて仲良くなっている。一方ジャッパの方も、そのフローラルな香りに誘われて、人だかりができ始めていた。

 

 「すぐ人気者になれそうですね。」

 「声かけに行かないの?」

 「その必要は無いわ。」

 

 その内に向こうの方から声をかけに来たのだから。

 

 「オハヨーございます!エレキングさん!レッドキングさん!」

 「おはようございます、ゴモたんさんにシーボーズさんにミクラスさんにシンジさん。」

 「ええ、おはよう。」

 

 「あっ、ベムラーさんとゼットンさん。」

 「おはよう、シンジ君。」

 「おはよう。」

 

 一方シンジは遠巻きにポツンと佇んでいたベムラーさんたちを見つけて駆け寄った。

 

 「なんでこんな端っこに?」

 「みんなゼットンを見て萎縮してるんだよ。」

 「慣れてる。」

 「がんばってくださいね。」

 「ああ、だが戦うからには手加減しないぞ?」

 「はい、真剣勝負で行きましょう。」

 

 シンジとベムラーはグッと握手を交わし、それを見ていたゼットンさんも手を差し出す。

 

 「・・・がんばって。」

 「はい、ありがとうございます!」

 

 ああゼットンさんが万に一つも負ける要素は無いか。

 

 「ハローシンジ!ゼットンも!」

 「えっ、キングジョーさん?キングジョーさんも出場するんですか?」

 「ハイ!今日はワタシのシスターと一緒デス!」

 「シスター?」

 

 キングジョーさんの後ろに、誰かが隠れている。

 

 「ホラ、挨拶してクダサイ!(トゥー)!」

 「は、はじめマシて・・・。」

 

 金髪縦長ツインの、キングジョーさんによく似た女の子。ナイスバディなキングジョーさんに比べると一回りほど小さいが。色々と。

 

 「妹のキングジョーⅡデース!」

 「キングジョーさん妹いたんだ。」

 「アノ・・・あの、初めマシて・・・。」

 「妹は引っ込ミ思案なんデース。だから今日はソレをコクフクしてもらおうと思ったのデース。」

 「結構スパルタだねキングジョーさん。」

 

 可愛い子には旅をさせよとは言うが。

 

 「こう見えてⅡはトッテモ強いンデスよ!ワタシに負けないぐらい!」

 「そりゃ強敵だ。よろしくね、Ⅱ。」

 「は、はい・・・。」

 

 ベムラーさんが差し出した手に、おずおずとⅡも応える。先輩らしく振舞うベムラーさんの姿になんだか微笑ましくなる。

 

 「シンジさーん、そろそろ予選が始まるんだって!」

 「そっか、じゃあ向こうに行きましょうか。」

 「ハーイ!予選ってナニをするんデスかね?」

 「ここが江ノ島で、本会場が国立競技場だから、やることはある程度絞られてくるが。」

 

 特設モニターの前には既に人だかりが出来上がり、今か今かとその放送を待っている。

 

 「くぅ・・・緊張するなぁ・・・。」

 「ミクラス大丈夫か?まだ始まってもいないのに倒れたりするんじゃねえぞ?」

 「大丈夫ッスよ!武者振るいです!」

 

 

 

 『皆さん!おはようございます!こちらは国立競技場特設実況席、実況はオレたちSSPのジェッタと!」

 『松戸シンです!今日はよろしくお願いします!』

 

 ようやくしてついに放送が開始された。中継の一部がテレビ放送されるほか、ドローンによる映像が逐次ネット放送にもあげられるそうだ。

 

 『そしてなにより今回の大会は、普段の大怪獣ファイトと違う大きな点があります!』

 『普段はジョンスン島からの中継放送ですが、今大会の本戦トーナメントは、ここ国立競技場で行われるんです!日本列島本土の、それも東京のド真ん中で行われるのは今回が初の試みとなっておりますねぇ!!』

 

 そう、今回はなんと大怪獣ファイトが生で見られるのだ。既に観客席には大勢のオーディエンスが詰め寄せ、超満員となっている。

 

 『皆さんこの初めての、ひょっとしたら一度きりかもしれないチャンスに大いに期待の声をあげております!聞いてくださいこの歓声!』

 『チケットも僅か1時間経たない間に完売したとも聞いていますが、それほどの熱狂ですよぉこれは!まるでこの国立競技場建造の元となった、1964年の東京オリンピックを思い出させられます!』

 

 『さて、会場の状況はひとまず置いておいて、まずは予選の内容の発表から始めましょうか!現場のピグモンさーん!』

 

 「はーい!こちら江ノ島のピグモンでーす!みなさーん、お元気ですかー?!」

 

 「はーい!」

 

 「あれー?おかしいですねー、こんなに怪獣娘さんがいっぱいいるのに、全然聞こえないですよー?お元気ですかー!」

 

 「「「「「「「「はーい!!!」」」」」」」」

 

 「あれれー?まだまだ足りてないですよー!お元気、ですかー!!」

 

 「「「「「「「「「「はーい!!!!!」」」」」」」」」」

 

 『ピグモンさん、そろそろ進めてください!』

 

 「じゃああともう一回だけ、お元気ですかー?!!」

 

 「「「「「「「「「「「「「「はーい!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 もういい、もう十分だ。

 

 「さて皆さん!これから皆さんに参加していただく予選のルールをお伝えします!皆さん、受付で貰った包みをご覧ください!」

 

 「これか・・・。」

 

 コンビひとつにつき一包み、紙の封筒を渡されていた。その中身をそれぞれ開く。

 

 「これは・・・テープ?」

 

 一本のマジックテープ付きの帯。周りを見れば、全てのコンビに一本ずつ支給されている。

 

 「はい!みなさんにはこの江ノ島から国立競技場まで『二人三脚』で競争してもらいます!』

 

 「に、『二人三脚』だってぇ?!」

 「やはり、こういうで来たか・・・。」

 

 「そうでーす。ルールは簡単!二人三脚で本会場の国立競技場を目指してもらいます!そこまでは地面を走っても空を飛んでもOK!先にゴールした上位16組までが本戦トーナメントに出場できまーす!」

 

 「16位か・・・。」

 

 ざっと見ただけでここには50組はいる。とすれば、30組以上に勝たなければならなくなる。

 

 「しかも空を飛んでもいいのか。」

 「海を泳いでもいいのかな?」

 「でも、二人三脚でゴールしなきゃいけねえだろ?どっちかだけが空を飛べても、相方を抱えて飛ばなきゃいけないぜ。」

 「よほど飛行能力に優れていなければ、あまり推奨できないわね。」

 

 江ノ島から国立競技場まで、直線距離なら47kmほど、交通に沿えば60㎞ほどになる。フルマラソンよりちょっと長い程度だが、怪獣娘の脚ならあっという間だろう。

 

 「それではみなさん、封筒の数字の通りの順番でスタート地点に並んでくださーい!以上、予選ルール説明でしたぁ!カメラお返ししまーす!」

 

 モニターは再び国立競技場の様子に戻り、SSPによる大会開催のいきさつや、会場の安全性についての説明が行われている。こういう時、進行役のジェッタさん、解説役のシンさん、このバランスがいい。

 

 あと一人忘れているような気がするが。

 

 さて、その説明はここでは割愛するとして、続々とスタート地点となる青銅の鳥居に出場者たちは集まっていく。

 

 「シンジさん、あたしたちは何番だったっけ?」

 「7番、結構前の方だよ。」

 「ラッキー!」

 

 ラッキーセブン、幸運の証だ。前の方にいれば当然早くスタートできるし、前の人に進行を阻害されることも少なくなる。ここで幸運を使い果たしていなければいいけど。

 

 「みんな結構後ろの方に行っちゃったみたいだね。」

 「そうだね、レッドキング先輩大丈夫かな?」

 「レッドさんたちなら大丈夫だよ、他人の心配するぐらいなら、まず自分のことを心配したらどう?ってエレキングさんなら言いそう。」

 「わかるなー、なんかそれ。」

 

 スタートの合図まであと数分だが、余計な緊張感は無い。最初はリラックスして、飛ばしすぎないことを心掛ける。

 

 「それでは皆さん、いよいよスタートですよぉ!がんばってくださいね!いちについてー・・・。」

 

 「シィちゃん、準備OK?」

 「はい!いつでもいけます!」

 

 「おっしゃ!一気に飛ばすぜ!」

 「ハリキリすぎるとコケるわよ?足並みを揃えなさい。」

 

 「あわわ・・・き、緊張してきちゃった・・・。」

 「ダイジョーブ!わたしが運んであげるから!」

 

 「よーい・・・ひゃん!」

 

 パァン!とピストルの音に一番ピグモンさんが驚いているが、その音を合図に一気に人の波が動き始めた・・・

 

 「んがぁっ!?」

 「なにぃ!?」

 

 突然、先頭付近がつんのめって将棋倒しが起こった。そこに一番最初に巻き込まれたのは、

 

 「まさか・・・くじ引きの時点で運を使い果たしていたとは・・・。」

 

 ラッキーセブンだったはずのシンジ・ミクラスコンビであった。

 

 「なんだこの・・・岩?」

 「貝殻じゃないかな?おーいたい。」

 

 突然、目の前にあったバカでかい巻貝のような物体が、スタートの合図とともにシンジたちの目の前に転がってきた。それに巻き込まれた2人が倒れている間に、続々と後続に抜かれていく。

 

 「だいじょーぶシンちゃん?」

 「大丈夫ですか?!」

 「平気!先に行ってて!」

 

 「先に行ってるぞお前らぁ!」

 「怪我しないようにね。」

 「はーい!いてて・・・。」

 

 気が付けば、はるか後ろにいたはずのミカやレッドさんに抜かれ、空を見上げればジャッパちゃんを抱えたバッサーちゃんや、キングジョー姉妹が飛んで行っていた。

 

 「んにゃー!起き上がれないのですぅ!」

 「ちょっとぉ!なにしてんのさこんな時にぃ!」

 「ガタたんは一度転ぶとなかなか起き上がれないのですぅ!」

 

 さて、この巨大な巻貝も当然怪獣娘だ。どうやら頭が大きすぎて、すぐバランスを崩して転んでしまう子らしい。

 

 「「せーのっ、よいしょぉ!」」

 「うわぁ!」

 「あーキツかった・・・キミ大丈夫?」 

 「大丈夫なのですぅ!ありがとうなのですぅ!」

 

 全身を見てみると、頭には巨大なアンモナイトがついていて、その両端には巨大な蛇のような頭がある。本体の方は、一見するとミカと同じスク水のような恰好の小さな女の子だ。

 

 「ガタたんはすぐこれなんだから。でもこれじゃあ二人三脚なんて出来ないよ。」

 「それでキミがこの子のパートナーか。」

 「そう、レイキュバスだよ!」

 

 もう一人のほうは、赤い体に左右非対称な大きさのハサミを持った怪獣娘。2人とも共通して体が小さいが、保護者とか大丈夫なんだろうか。

 

 「おーい、なにやってのさこんなところで?」

 「みんなもう行っちゃった。」

 「あっ、ベムラーさん。そりゃ僕たちも好きでこんなところで立ち止まってるわけじゃどわぁ?!」

 「成程、大体わかった。」

 「また転んだのですぅ!」

 

 よっこらしょっと、今度はベムラーさんたちにも支えられて立ち上がる。

 

 「これじゃあいつまでたってもゴールできないのですぅ!」

 「困ったなぁ、まさかこんな予選だったなんてぇ・・・。」

 「・・・2人とも、水棲系の怪獣娘じゃないの?」

 「そうですぅ、泳ぐのなら得意なんですぅ!」

 「なら、海を泳いで川を登っていけばいいんじゃないかな?水中なら浮力も働くだろうし。」

 「そっかぁ!そうするですぅ!ありがとうですぅ!行こうレイキュバちゃん!」

 

 じゃっぱーん!と海に元気よく飛び込んで、2人の姿は見えなくなった。とんだトラブルに見舞われたが、これで安心してスタートできる。

 

 「それにしても、こんな時にまでおせっかい焼かなくったってよかったんじゃないのかい?」

 「はっ!そうだ、急がないと!」

 「ベムラーさんたちこそ、立ち話なんかしてていいんですか?」

 「いいのさ、すぐ着くからな。じゃあ、あとはがんばれ。」

 

 ピシュン、っと一瞬にしてベムラーさんたちの姿は消え、代わりに本会場の方で歓声があがった。

 

 『おおっと!はやくも最初のコンビが到着だぁ!1位通過はベムラーさん&ゼットンさんのコンビ!』

 『さすがゼットンさんですねぇ、テレポートで一瞬で到着なんて。でもこれってアリなんでしょうか?』

 『アリアリだって、色んな怪獣娘がいるんだもん。』

 

 どうやら他人の心配をするだけ無駄だったようだ。

 

 「こうしちゃいられない!行こうシンジさん!」

 「うん、僕らも急ごう!」

 

 どう考えても僕らが一番のビリだ!ここから巻き返すのはちょっと厳しいかもしれないけど、諦めるわけにはいかない!

 

 「?」

 「どうしたの?」

 「いや・・・なんか・・・なんでもない、急ご!」

 

 実は、シンジたちはこの時点ではビリではなかった。

 

 「・・・。」

 「・・・ふん。」

 

 その様子を後ろから窺う2つの影があったことを、誰一人として知る者はいない。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 さて一方、シンジとミクラスを置いて走っている先頭集団は、ある種の膠着状態となっていた。その先頭をのんびりと談笑しながら行くのは、レッドキング&エレキングペアと、ゴモラ&シーボーズコンビ。

 

 「どうすっかな・・・この状態。」

 「あら、平和でいいじゃない。」

 

 そろそろ道も半ばとなる頃間が、ここまで一切のアクシデントがない。普通こういうイベントでは参加者たちがこぞって足を引っ張り合い、血で血を拭うサバイバルになりそうなものだが、そんなことは一切なく、いたって平和だった。

 

 「みんな『妨害したら、やり返される』って思ってるからだね。」

 「これを一般的には『抑止』というわ。」

 

 『道中妨害禁止』とも言われていないが、みな暗黙の了解でお互いに手を出さないでいる。

 

 「でもこれじゃあ『ドキッ☆怪獣娘二人三脚フルマラソン~ポロリもあるよ~』と変わらないよ。」

 「ポロリはねーよ。」

 「エレちゃんはしそうだし、レッドちゃんも当てはまりそうだけど。」

 「しないわよ?」

 

 なんというか、首がね。

 

 「それにしたって、このままじゃつまんなくない?なにかパーンっ!なるようなイベント起こらないかなー?」

 「そんなこと言ったって・・・。」カチッ

 「カチッ?」

 

 相方が何かを踏んだようなのを感じたミカだったが、何事もなかったのでそのまま足は止めずに走る。が、次の瞬間事態は一変した。

 

 ズガァアアアアアン!!

 

 「なに!?」

 「爆発?!」

 

 ゴモラたちの少し後ろ・・・先ほどシーボーズが『何か』を踏んだ地点で、突如として火柱が上がった。

 

 「地雷か?!」

 「一体誰が?いつ?!」

 「いえ、問題はそこじゃないわ・・・。」

 

 抑止というのは、お互いが『やったらやられる』という考えを持つことによって成り立つ。その均衡がひとたび破られれば、たちまち『やられたらやりかえせ』の地獄絵図へと変貌する。抑止力の下の平和とは、砂糖菓子のように甘く脆い。

 

 「どわぁ!撃ってきたよ!」

 「この状況じゃ、見境いもねぇな!」

 

 激闘は、一発の銃声から始まった。誰が仕組んだ地獄やら、友達・仲間が笑わせる。お前もっ!お前もっ!お前もっ!!

 

 「だからこそっ!」

 「オレのために『堕ちろ(死ね)』!」

 

 食うものと食われるもの、そのおこぼれをもらうもの。牙を持たぬものは生きていかれない暴力の渦。勝ち残るのは誰か、出し抜くのは誰か。その戦端は切って落とされる。

 

 「これは逆に言えばチャンスだ、後ろが揉めている隙に一気に進める。」

 「けどそれは、無防備な背中を晒すことになるわ。地雷だってまだ残っているかもしれないし。」

 「けど、お前なら平気なんだろ?」

 「ええ、既に解析中よ。」

 

 絶えず余裕なエレキングさんのツノがグルグルと回り、進むべき道を照らす。

 

 「やはり点在しているようね。それも、さっきまでと同じように『二度踏むと爆発する』タイプかもわからないわ。」

 「ならやっぱり避けて進むしかねえみたいだな。」

 「よーっし!レッドちゃんエレちゃん任せた!」

 「お前らも走れよ!」

 

 要は上位に入ればいいのだ。だからこうして協力するものも自然と現れてくる。そんな彼女たちを抜き去って、大きな一つの影が走る。

 

 「一気に突っ切りますよーナミさん!」

 「ええ、お先に失礼するわよ、『レッド』キングさん?」

 

 片や、胸に青い光の宿る犬のような姿の怪獣娘『ガーディ』。片や、漆黒の鎧をまとう騎士のような怪獣娘『ブラックキング』。レッドキングたちが慎重にまごついているのを尻目に抜き去る!

 

 「あっ!あんにゃろー!負けてられっかよ!行くぞエレ!」

 「別にアナタまで突撃する必要ないんじゃない?」

 「これはプライドの問題なんだよ!」

 「はわわ・・・行っちゃいました。」

 「私たちもそろそろ行こうか?」

 「はい!」

 

 戦いはなおも続く!

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 『おおっとぉ!ここで一気にトップに躍り出たのはブラックキング&ガーディペア!それに負けじとレッドキング&エレキングペアも走り出すぅ!』

 (何かアクシデントがあったようですね?)

 (こっちからはよくわからないけど、なんとも言えないね。)

 

 さて一方本会場では実況中継が行われていた。ドローンが映像を集めてくれてはいるが、その範囲が広域であるために細かいところまでは拾えていない。

 

 「ミクちゃんとシンジさんは今どこかな?」

 「大分後ろの方だとは思いますが・・・。」

 

 会場の警備にあたっているアギラとウインダムも、巨大スクリーンの映像に目をやり、友達の活躍を収めようとする。

 

 「ゼットンさんはやっぱり1位だったね。」

 「さすがというかなんというか・・・。」

 「2位争いも結構白熱してるけど。」

 

 よくわからないけど、トーナメント進出を賭けた争いはヒートアップしてるようだ。やはり怪獣同士の戦いとはこうでなくては。元来争うことがそんなに好きじゃないアギラにはあまり関係ない話だが。

 

 「あっ、ゴモたんたち抜けたみたいだね。」

 「そうですね、キングジョーさんやマガバッサーさんたちは空を飛んでいるから無事みたいですが。」

 「ガッツは大丈夫かな?」

 「ガッツさんは強いですし大丈夫でしょう?」

 「こういう時ガッツとマコさんとで反りが合わなさそうで。」

 「たしかに・・・。」

 

 ミコの方はかかってくる相手に最低限の対応で済まそうとするけど、マコの方はキッチリ片をつけそうで、足踏みが揃わないかもしれない。

 

 「2位にはゴモたん来るかな?ブラックキングさんたちも速いけど。」

 「アギさん。」

 「なに?」

 「本当は、アギさんも出たかったんじゃないですか?」

 「え?なんで?」

 「いえ。なんとなく、そう思えただけです。」

 「そんな顔してる?」

 「はい、『シンジさんと一緒に出ればよかったかなー?』って顔ですよ。」

 「うぅ・・・そんなハズないんだけど・・・。」

 「アギさん、正直ですよね・・・。」

 

 アギラは嘘が付けなかった。

 

 「そういうウインちゃんこそ・・・。」

 

 「ドリンクいかがですかー?オススメはしゅわしゅわコーヒーですよー!」

 

 「あれ?なんか聞いたことある声だっと思ったら。」 

 「夢野ナオミさん?」

 「あっ、アギラさんにウインダムさん!ドリンクいかがですかー?」

 「いや、なにやってるんですかこんなところで?」

 「SSPは実況なんじゃ?」

 「そうなのよー!そのはずだったのに当日来てみれば私はいらないって!仕方ないから今日は売り子のアルバイトしてるってわけなの。」

 「そうなんだ・・・あ、なんか買います・・・。」

 「ありがとうございまーす☆」

 

 

 「しゅわしゅわコーヒーって、炭酸入りコーヒーなのか・・・。」

 「どう?おいしい?」

 「ちょ、ちょっと味わったことのない味です・・・ね・・・。」

 「正直、微妙。」

 

 嘘の吐けないアギラであった。

 

 『おっと、今度は空の上新しい戦いが始まったようです!』

 

 パッとモニターが上空の様子に切り替わると、そこには大きな青い翼が一つと、金色の二つの鋼が映し出された。

 

 「おジョォオオオオオオオさぁああああああん!!」

 

 「誰あれ?」

 「たしかキングジョーさんのファンの方・・・でしたよね?」

 「イタリア料理店やってるって聞いたけど。どうかしました?」

 「いや、なんか他人な気がしなくて・・・。」

 「知り合いですか?」

 「いや、あんな変態知ってるわけがないんだけど・・・。」

 

 人、それを運命という。

 

 さて、モニターの中の戦いにも目をやろう。ビルをも見下ろす高さで戦いは起こっている。片や新たに怪獣娘の仲間に加わったばかりのマガ姉妹。片や硬い装甲に身を包んだキングジョー姉妹。その2つのチームが上位を巡って争っている。

 

 「おりゃー!」

 「負けマセンよー!」

 「「ふぇえええええ!!」」

 

 主に戦っているのはキングジョーさんとマガバッサーだけで、その相方同士は振り回されているが。

 

 時に妨害、時に牽制しながら、抜きつ抜かれつのデッドヒートだ!

 

 「うりゃっ!マガ衝撃波!」

 「デスト・レイ!」

 

 最高速度ではマガバッサーに分があるが、マガジャッパをぶら下げている分だけ少し落ちる。対してキングジョーとⅡは二人とも飛べるために軽快さがあるが、Ⅱが少し及び腰の為になかなか攻めあぐねている。

 

 「っていうか、ここで私たちが争う理由ないんじゃ・・・?」

 「なに言ってんのさジャッパ!気持ちの問題だって!」

 「戦うコトに迷いはアリマセン!行きますヨⅡ!」

 「ひぇええ・・・。」

 

 巻き込まれているほうとしてはたまったものではないが、2人とも闘争心に火がついてしまった。

 

 「空を飛ぶことなら、私は負けないよ!」

 「ワタシだって、海であろうガ空であろうガ戦う場所を選びマセン!」

 

 地上にも空にも、もはや安全な場所などない。死にたくなければ前に進め。

 

 『再び決戦のようです!果たして大空の王者となるのはどちらの・・・』

 

 『あっ、あれはなんでしょうか?!』

 

 カメラの奥に、また新たな影が横切った。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「方向は?!」

 「オッケー!進路クリア!」

 「よし!じゃあとぶ(・・)ぞぉ!」

 

 ギリリと引き絞られた弦が音を立て、解放される時を待っている。その端は、シンジの両手首へと繋がっている。

 

 「よーし、引けぇ!」

 「ちょいさぁー!!」

 

 そのシンジを背中あわせの形で、ミクラスは脚を踏み込んでより一層強く弓がしなる。

 

 「今だ!放て!」

 「ほいやぁあああ!!」

 

 バイーンッと解き放たれた運動エネルギーが、パチンコの要領で二人を空中へと打ち出す。

 

 「ねぇ見た?」

 「何が?」

 「今カメラあったよカメラ!ピースしちゃった!」

 「ジェットコースターの記念写真みたいだな。」

 

 正直、ミクラスのその気楽さがシンジには羨ましかった。ただでさえ高所恐怖症だというのに、それを高速で落ちているんだから。

 

 「うわっと!」

 「Oh!」

 

 「今キングジョーさんたちとすれ違った?」

 「そうだよ!やっぱり空の方が下より安全だった!」

 

 渋滞の最後尾に追いついたところまではよかったけれど、そこから先を無傷で進むのは不可能な状態だった。そこで、比較的安全な空のルートを思いついたといわけだ。

 

 「シンさんなら『まるで古代兵器のバリスタのようです』って言いそうだけど。」

 「バリスタ?コーヒー?」

 「それとは違うバリスタだ。」

 

 と、放物線運動が頂点を迎えたあたりで、体勢を立て直す。離陸したときと同じように、ミクラスの足でランディングする。安全のために空中でブレーキをかける。

 

 「それがこのパラシュートだ!」

 

 手首から伸びる紐が、一旦繊維にまで分離し、それらが再び合わさって1枚の大きな布になる。シンジのS.R.Iを始め、リストビュートやその他の装備を構成する特殊繊維のなせる業だ。

 

 「ちゃくちー!」

 「よっし、もう一回だ!」

 

 「おろ?シンちゃん?」

 「もう追い付いてきたのか?」

 

 っと、ここで先を行っていたミカたちと遭遇した。予想以上の距離を稼いでいたようだ。

 

 「・・・お先に失礼!」

 「あっ、ずりぃ!」

 

 暫定トップ(ゼットンさんを除く)のレッドさんたちを抜ければ、それすなわち僕らがトップということ!これを逃すつもりは無い!

 

 「いっくぞー!」

 

 レッドキングさんたちを追い抜いてさらに空を進むと、眼下には最後のペアが見えてくる。ブラックキングさんとガーディさんのペアだ。

 

 「後ろ後ろ!後ろからも来てるよ!」

 「ここが正念場だ!ラストスパートだ!」

 「おう!」

 

 ミクラスもリストビュートを掴んで、思いっきり引っ張る。ブラックキングさんたちもこちらの存在に気付いたようで、そちらもペースを上げる。

 

 「負けるもんかぁ!ナミさんフルパワーだ!」

 「レディ!」

 

 「そっちが足の速さで勝負するなら、こっちは腕の力で勝負するのさ!」

 

 二人三脚では、いくら個人の足が速くとも、息を合わせるからには出せる速さに限界がくる。だが今シンジたちの行っている跳躍なら、ミクラスの500万パワーで思いっきりワイヤーを引けばいいだけなのだから、そんなことはお構いなしに行けるのだ。

 

 「「「「いっけぇえええ!!!」」」」

 

 最後のコーナーで2チームは並ぶ。いや、わずかながらも後ろにいたキングジョーペアとマガ姉妹も追い上げてきている。勝つのは誰か?!

 

 音速の壁を破り、通過するだけで道や窓ガラスが破損する。ここに来て飛行ペアが追い付き、抜きにかかる。

 

 「いただきだぁ!!」

 「マダマダぁ!」

 

 ここまで来て負けるのは悔しい。一切の出し惜しみを捨てる覚悟で!

 

 「最後の・・・ファイトぉおおおおお!!」

 「いっ・・・ぱぁあああああああっつ!!!」

 

 限界まで振り絞ったワイヤーが千切れそうになるが、これが今日最大の加速度だ。それと同時に、ミクラスは火炎を放ち、ジェット噴射の要領でさらに倍率ドン!放たれた矢が競技場のゲートを飛び越え、会場へとダイブインする。

 

 「なに?!」

 「シマった!」

 

 加速と撹乱を同時にこなす、この時点では最高の一手!

 

 「「どうだ!!」」

 

 勝った!シンジとミクラスの2人は確信した。

 

 『おおっと、ここで2位の走者がゴールインだ!栄えある2位を獲得したのは・・・』

 

 

 

 「やた?!やったぁああああ!!ししょーに勝ったー!」

 「ギリギリだった、けどね。」

 

 

 『ザンドリアス&ノイズラーペアだぁああ!』

 

 「「え??」」

 

 なんで?いつの間にこの2人が割って入ってきたんだ?

 

 「スリップストリーム・・・デスね。」

 「なに!?」

 

 一足遅れて飛んできたキングジョーさんが冷静に分析する。

 

 「ワタシたちの超スピードによって出来た空気の渦に乗ッテ、ザンドリアスさんタチも急加速してきたんデスね。」

 「いきなりブォオオって来るんだもん!私たちも驚いて止まっちゃったよ!」

 

 どうやら、ザンドリアスたちの手助けをしてしまったらしい。

 

 「わーいわーい!!やったやったー!!」

 「まだ優勝したってわけでもないのに、単純なやつ・・・。」

 

 そういうノイズラーさんも表情は嬉しそうだった。

 

 「まあ、あの笑顔が見れたならいいかな・・・って、そんなわけないじゃん!くやしいよぉ~!!」

 「まあまあ、まだ本戦があるんだから。」

 

 それから続々と他の参加者たちもゴールしてきた。上位16位までが決まるのもすぐだった。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 『・・・さて!以上を持ちまして、大怪獣ファイトタッグトーナメント、予選を終了いたします!』

 

 競技場に設けられたリングの中心に集まったのが、今回本戦入りしたメンバーだ。レッドキングさんやミカはもちろん、キングジョーさんやマガちゃんたち、ガッツさんもいる。他にも大怪獣ファイトで見たことのある人や、全く見たことのない怪獣娘も多数いる。彼女たちがどんな戦いを見せるのか、今から楽しみだ。

 

 「シンちゃん!すごいね!3位だって?」

 「すごいです、シンジさんミクラスさん!」

 「いや、ミクラスさんのパワーがあってこそだよ。」

 「いやー、それほどでもー?なっはっはっはぁ!」

 「けど、本戦ではこうはいかねえぞ?ぶつかったら徹底的にヤりあおうぜ!」

 「レッドキング先輩!よろしくおねがいします!」

 「精々、それまでに負けないようにね。」

 「エレキングさんこそ、気を付けてくださいね。戦闘タイプじゃないんだから。」

 「ええ、そのつもりよ。」

 

 途中、スタンドに友達の姿が見えたので手を振り返す。アギちゃんたち、しっかり見ててくれてたかな?

 

 『みなさーん!おつかれさまでーすぅ!江ノ島から戻ってきたピグモンでーす!』

 

 ピグモンさんの口から予選終了のアナウンスと、本戦トーナメント表の告知が行われる。しかし、その前にひとつ・・・

 

 『いよいよみなさんお待ちかねぇ!優勝賞品の黄金のトロフィーの開示ですぅ!みなさんご注目くださーい!』

 

 会場を見下ろすスタンドの中央に、赤い幕に隠された秘宝が現れる。その幕をピグモンさんが引きはがすと、おおおっ!というどよめきの声が会場中からあがる。

 

 「あれが・・・黄金のトロフィー!」

 「黄金だけじゃなくて、赤いのと青いのもある!」

 

 かつて3億5千年の眠りから蘇り、この国立競技場で争ったという2匹の怪獣。それを模した2つのメタルの像に支えられた、黄金の杯。そこに注がれるのは勝利の美酒か、それとも争いの果てに絞られた赤色の鉄か。

 

 「っていうか、あの怪獣コンビじゃむしろ喧嘩するんじゃないのかな?」

 

 素朴な疑問はともかく、いよいよ本戦がスタートする!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここどこですかぁ?!」

 「海なのは間違いないのですぅ!」




 どうしよう、終わりが見えないし、文章の形が見えない。一応各対戦の形は見えてるけど、それを文章にするのにすごく苦労している。こんなんじゃいつまでたっても終わらないよ!毎日2時間残業で書く時間も取れないし、もうこれわかんねえな。

 でも終わりのないディフェンスでもいいよ、君が僕を見つめ続けてくれるなら。

 そうそう、ビッグオーがdアニメストアで配信されたから、みんな見てね。各所に特撮オマージュのシーンや必殺技があったり

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