怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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 今回はちょっと番外編。書きたいエピソードだったけど、入れるタイミングを見失ってしまった。


風来坊は温泉がお好き

 「つ、疲れた・・・。」

 「おかえりなさいませシンジ様。」

 

 ミクさんとのタッグ結成から数週間後、毎日が特訓と調整の連続だ。今まで何度か手合わせをしたことはあっても、こうして本格的に共闘することも、シンジとしては大怪獣ファイトに参加することも初めての事だ。

 

 「疲れすぎて食欲もわかないや・・・ミクさんはすごいけど。」

 「温かいスープなどはいかがでしょうか?」

 「・・・軽く流し込めるやつをお願い。」

 「かしこまりました。」

 

 本当ならガッツリスタミナのつく肉と、体を動かすガソリンになる米が食べたいところ。その点については牛丼が優秀だが、生憎胃が受け付けていない。かと言って、人間食わなきゃ死ぬ。食事することを煩わしいと思ったことはないが、こんなに辛いと思った事も無い。

 

 「ごちそうさまー。」

 

 その考えも、ホクホクのジャガイモやニンジンと歯ごたえのいいソーセージが入ったポトフを口にしたとたん消し飛ぶ。体の疲れをお風呂で洗い流し、冷たいアイスを持って自室に戻ると、パソコンの電源を入れる。

 

 「メッセージが一件・・・ネバダか。」

 

 メールの発信されたサーバーアドレスから察する。とすると、アメリカ留学の頃に一緒に研究していたラボチームからのメッセージだろう。わざわざ暗号化されて秘匿通信で送ってきたということは、進めていたプロジェクトに進展があったということか。

 

 『えっと・・・こんにちは、シンジさん。あっ、それともおはようかな?いつ開くかわかんないし・・・。』

 

 「こんばんは、ですよ。大地さん。」

 

 ビデオメールなのでシンジの言葉が届くことはないが、その相手の変わらない生真面目さに思わず頬を緩ませる。

 

 大空(おおぞら)大地(だいち)さん、アメリカ留学の時に知り合った若手のサバネティックス研究者だ。彼の所属するネバダの研究所でシンジはもっぱら研究活動と勉強に勤しんでいた。

 

 『はろはろー!シンちゃんげんきー?ルイルイだよー!』

 『アハハ、ごめんなさいシンジさん。お元気ですか?マモルです。』

 

 その大地さんの後ろから声をかけてきた2人の研究仲間。やたらハイテンションな少女は高田ルイさん、通称ルイルイ。もう一人おっとりとした男性は三ケ月マモルさん。日々大地さんと共に研究に勤しむラボメンバーだ。本当はあともう一人、ファントン星人の怪獣娘さんもいるのだが、どうやら今はシエスタの時間のようだ。こうなるとテコでも起きないから。

 

 『聞いた話によると、シンジさんも大怪獣ファイトに参加するそうですね。』

 『ゴモたんちょーかわいいよねー!』

 『僕たちの方でも、新しいバリアシステムの発送が終わりました。3日以内には日本に到着するはずです。』

 

 ファイトの舞台を囲う電磁バリアー。その最新型でいっちゃん強力なやつが今回の為に用意されたが、それを作ったのが彼等なのだ。

 

 『それともう一つ、以前から温めていたプロジェクト・・・僕達とシンジさんの共同開発の一つも完成(ロールアウト)しました。』

 『詳しくは、いつも通りの暗号を解いてね☆』

 『まあ、軽い頭の体操だと思ってチャレンジしてみてください。シンジさんなら解けるはずですから。』

 

 シンジはメールに添付されたファイルをクリックして、中身を確認した。

 

 「クロスワード・・・。」

 

 雑誌の懸賞のように、出来上がった単語をパスワードに入力すれば開く仕掛けだ。

 

 「よっし、やってやるか・・・。」

 

 『シンジさんが帰ってから、ラボも少しだけ広くなった気がします。』

 『けど、デスクはそのまま残してあるので、いつでも使ってくれていいっすよ!』

 『また来てねー!今度はエレキングちゃんのこと教えてねー☆』

 

 サクサクと問題を解きながら、メッセージを聞き流す。思い出されるのは、アメリカ留学の日々。

 

 彼等に会ったのは、白神博士の紹介だった。ネバダ州はエリア51にほど近い怪獣娘に関する研究所に案内され、そこに所属するラボチームが大地さんたちだった。

 

 その主な研究内容は、怪獣娘の力をデータ化し、それをサイバーの力で再現するというものだ。その研究に、バディライザーと怪獣カードが大いに役立った。シンジとしても、その力をもっと発展させることが出来たので万々歳だった。

 

 なにより、こんなに楽しい仲間が増えたことは僥倖だった。同じ科学オタクの仲間には高山博士もいるが、ラボチームとは歳が近くて、怪獣娘に近ずくための研究をしていたのでより意気投合できた。

 

 特に大地さんは、ゴモラのファンだというから余計に仲良くなって、サインをねだられてしまった。僕のじゃなくてミカのね。

 

 『僕たちも大会を観に行きますか!ネット中継邪なくて現地で!』

 『お土産たっくさん持ってくからねー!』

 『それじゃあ、日本でお会いしましょう。さようなら!」

 

 元は大地さん一人のメッセージだったのだろうが、途中からルイさんが乱入してきて結局全員でやったというのがよくわかる。大地さん一人だとやや業務的なメッセージになっていたことだろう。本当にいいチームだ。

 

 「『卑怯も〇〇〇〇〇もあるものか』・・・ラッキョウっと。」

 

 黙々とクロスワードを解いていき、全てが終わる頃には朝陽が顔を出していた。今日も練習も仕事もあるというの。

 

 ともかく、自分は本当に多くの人に支えられているし、そんな人たちと出会ってきたということだ。その人たちのためにもがんばらねば。

 

 その一人ひとり顔を思い出していく・・・。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「こんにちはー、お久しぶりです。」

 「おぉー!シンジさん久しぶり!」

 「アメリカに留学していたと聞きましたが、どうでしたか本場のUFOは?」

 「UFOはみてないかな・・・これお土産です。」

 

 シンジが大怪獣ファイトに参加することが決まって数日後。旅立つ前お世話になったSSPの事務所へと足を運んだ。

 

 「キャップにはカップのセット、ジェッタさんには帽子、シンさんには隕石のカケラを。」

 「へぇー、お洒落ね。ありがとう!」

 「かっこいいじゃん!気に入ったよ!」

 「これはひょっとして、アリゾナはバリンジャークレーターの・・・!」

 

 「具体的にはどこに行ってたんですか?」

 「主にエリア51近くのラボで研究漬けでした。結構忙しくあちこち動き回ってましたが・・・。」

 「エリア51って、宇宙人の研究所があるっていう、あの?」

 「そうですね、中に入ったわけじゃないんですけど。」

 「でも、怪獣娘がいるのに、宇宙人ってのもなぁ・・・。」

 

 出されたおいしいケーキに舌鼓を打ちながら、旅の思い出を語る。研究、特訓、研究、特訓、あと観光な毎日だったが、それらすべてが充実していた。

 

 「宇宙と言えばそういえば・・・。」

 「どしたのシンさん?」

 「いえ、この前譲っていただいた電波受信器のことなのですが。」

 「なにか問題でも?」

 「いえ、問題というよりもここは進展と言った方が適切かもしれません。あの後、詳しく機械そのものについて調べてみた結果、あの装置はどうやら宇宙からの電波をキャッチしていたようなんです。」

 「宇宙からの電波?」

 「宇宙からは常に莫大な量の電波が降り注いでいます。その中には、地球外の知的生命体、つまり異星人が発した人工的な電波も含まれている可能性があります。」

 「あの装置は、その宇宙人の電波もキャッチしてたってこと?SETIみたいに。」

 「そうです、かくいう僕もSETIには参加していたのですが・・・ちょっと失礼。」

 「ところで、SETIってなに?」

 「地球外知的生命体探査(Search for extraterrestrial intelligence)の略です。莫大な情報量に組織が対応しきれないから、民間のボランティアにも手伝ってもらうっていうプロジェクトもあるんです。」

 「へー。」

 

 

 「あの装置が収集していた電波の情報をちょっと纏めてみたんです、がっ!」

 「あーあー、またこんなに散らかして!いい加減にデジタルで保存したら?」

 「紙媒体が一番信頼のおけるデータベースになるんです!えーっと・・・これです、これ。」

 「1420MHz・・・?」

 「水素の発する電波の波長です。水素は宇宙で最も存在する元素のひとつですから。」

 

 原子番号1、電子殻1の、もっともシンプルな原子。それが水素だ。 ビッグバンでこの宇宙が誕生したとき、電子がそれぞれ寄り集まって様々な原子を作り出したが、水素はそのなかでもあぶれた(・・・・)、いわばボッチなのだ。

 

 「そんなにありふれてるものなら、別に珍しい物でもないんじゃないの?」

 「超新星爆発・・・とか?」

 「確かに、世界初のSETIとなったオズマ計画の発端は、30日間にわたる1420MHzの電波の観測でした。しかしそこからは結局、知的文明の痕跡は見つからなかったのですが・・・このデータを見てください。」

 「・・・明らかに定期的に、周期的に観測されてるな。それもこの数か月の間で。」

 「ひょっとしたら、今までもこの先もずっとこのパターンで来ていたのかもしれません。」

 「ってことは、外宇宙からの信号をキャッチしてるってこと?!」

 「すごいスクープじゃない!なんで早く言わなかったのさシンさん!」

 「まだ決定的な証拠があるわけではないので・・・それに、まずはシンジさんに報告するのが先決だと思いまして。」

 「そ、それもそうか・・・ちょっと早合点だったか・・・また炎上するところだったかな。」

 「急いては事を仕損じる、ってね。まずもっと調べてみてからでいいんじゃないですか?ひょっとしたら、人工衛星かなにかの電波をキャッチしてるだけなのかもしれないし。」

 

 パラパラとデータをめくり、一通り目を通してみるが、他には何もめぼしいものは見つからなかった。強いて言うなら、明らかに大きい反応が、突発的に起こっているところだが、これについては心当たりがあるので省略しておく。

 

 「それにしても、宇宙からの電波か。アメリカで知り合った人もそんなことを言っていたな。」

 「ネバタの研究員さんですか?」

 「そう、大空大地さんっていう人なんですけど、大地さんも『宇宙の声』を聞くのが好きなんだって。」

 「宇宙の声?」

 「さっき言った、宇宙から降り注ぐ電波を音声パターンに解析して聞くんです。電波は様々な配合で降り注いでくるから、音にも二つと同じものが無いんです。まるで万華鏡みたいな・・・。」

 「ロマンティックねぇ・・・。」

 (キャップには似合わなさそうだけど・・・。)

 「なんか言った?」

 「いやなにも。」

 「ぜひ一度お会いしてみたいですね、研究の事とかも話し合ってみたいです。」

 

 「そういえば、SSPの方はどうですか?」

 「あれから好調よ。ときたま調査の依頼が舞い込んできたりするわ。」

 「ほとんど根も葉もない噂ばかりだったりするけどね。」

 「そう・・・悪い事とかはないんですか?」

 「んー、まあブログやら掲示板やらに荒らしが来たりすることもあるけど、気にするようなものもないわ。シンジさんに気を使ってもらうようなことは特にないわ。」

 「そうですか。」

 

 「そうそう!今度大きな仕事が入ったんだよ!」

 「ジェッタ君、あの話ならまだ決定事項ではないはずですよ?」

 「いいじゃん、絶対今度も成功するって!シンジさんもいることだしさぁ!」

 「なんの話ですか?」

 「えっとね、まだ声がかかっただけなんだけど、大怪獣ファイトのタッグトーナメントの実況をやることになったんだ、オレたち!」

 「へー、すごいですね!」

 「以前の、アイラさんの事件の効果があったみたいです。怪獣娘への関心を惹く為に、私たちが適任だって。」

 「なるほどなぁ・・・。」

 

 そういうことなら合点がいく。あの一件以来、単純にSSPのフォロワーになった人もいるだろうし、幅広い層から大怪獣ファイトへの、ひいては怪獣娘への関心を惹けるとなるならいい判断だろう。

 

 「というわけで、シンジさんもがんばってね試合!」

 「あれ、その話ももう行ってるの?」

 「大会開催の情報も出ましたし、それと同時にシンジさんのことも出回ってますよ。」

 「うぇっ、本当だ!知らなかった・・・。」

 「シンジさんのファンもいるってことだよ。」

 

 一応公用にしているSNSアカウントにも、既に激励の言葉が寄せられてきていたのに今気が付いた。嬉しいような、恥ずかしいような、ともかく、決意も一層思いを新たにしてがんばろう!

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「おつかれさまです!飲み物どうぞ!」

 「ありがとうございマース!」

 「今日のお仕事はこれで終わりですね。」

 「そうデース!」

 

 タッグトーナメントの企画が成立するより、数日前のお昼前の時間。今日はお嬢ことキングジョーさんのラジオ収録の日だ。そこにシンジはキングジョーさんの一日マネージャーとして付き添っている。アイドル活動をするミカのお世話なら何度もしたことがあったが、キングジョーさんと一緒に仕事をするのは今回が初めての事だ。つい、ミカの時と同じような対応をしてしまわないよう、細心の注意を払っているためか、シンジの口調や仕草もどこか硬いものがある。

 

 「そんなにかしこまらないでくだサイ!ワタシとシンジの仲じゃないですカー!」

 「いえ・・・そういうわけには・・・キングジョーさんはVIPなわけで・・・。」

 「そんなことありまセーン!ワタシだって一人の怪獣娘で、女の子デース!」

 「いやその・・・エレキングさんのもそうなんですが、キングジョーさんもその・・・。」

 「ムー?」

 

 その、すごく・・・肌色です。

 

 「Oh、ゴモラの言っていた通り、シンジはムッツリさんですネー。」

 「否定はしませんが・・・というかキングジョーさん、ラジオ収録なら変身する必要なかったんじゃないですか?どうせ見えないのに。」

 「甘いデスよシンジー、ゴーフルよりも甘いデース。」

 「ゴーフル?」

 

 神戸・元町にある風月堂の名物お菓子。ワッフルのような薄焼き生地にクリームがサンドしてあって、見た目も上品でおいしいよ。

 

 「ファンの皆サンが求めているのは『キングジョー』なのデース、だからワタシもキングジョーになる必要があったのデース。」

 「キングジョーになりきる・・・。」

 「まあ、元から私がキングジョーなんですけどネー。けどそういう考えって大事だと思いマース。」

 

 演じている自分、というわけでもない、キングジョーさん自身の素なんだろう。けど、そこには血の通った信念がある

 

 「だからシンジも、普段皆といる時のようにしてくだサーイ。違う自分を演じる必要なんかないんですヨー。」

 「違う自分か・・・。」

 

 人は心に仮面を被っているという。『本当の自分』とは素顔のことなのか、それとも『誰もが知っている』仮面の方のことなのか。ともあれ、目の前にいる彼女は変身を解除し、元の人間の女の子に戻った。

 

 「サテ・・・・ワタシも今は『クララ・ソーン』ただの女の子デース、エスコートしてくださいネ、シンジ?」

 「エスコート、って?」

 「今日はワタシももうフリーですから、シンジと一緒にどこかへ行きたいデース!それでもっと仲良くなりまショウ!」

 

 レッツゴー!と先陣切って歩き出すキングジョーさん、もといクララさんを追ってシンジも慌てて駆け出す。

 

 「とは言ったものの、行くアテとかあるですか?」

 「ないデース☆行き当たりばったりデスねー。シンジは普段どこを歩いているんデスか?」

 「んー・・・みんなと一緒ですね。アキバ行ったり、原宿行ったり、巣鴨行ったり。」

 「シンジ自身はどこヘ?」

 「・・・あんまり出歩かないかな、いっつも研究所かジムで。」

 「そこがアナタの場所なんですネ。なら今から行きまショウ!ワタシとアナタだけの場所へ!」

 

 このフレンドリーさは間違いなくクララさんの美徳だけど、並の男なら間違いなく勘違いさせられる。

 

 「とりあえずランドマークを目指して歩いてみまショウ!」

 「おー。」

 

 それから数十分後。

 

 「結構いろんなものがありましたネー!カワイイお土産屋さんやお洒落な家具屋さんトカ!」

 「そうですね、あんまりああいうお店は覗かないんですけど。」

 「シンジはラボで研究している方がお好きデスか?」

 「他にやることがないからやっているだけ、というのもあるかもしれませんが。まあそうです。」

 「ワタシも機械いじり得意デスよ!」

 「開発のペガッサさんもそうですけど、クララさんはどっちかって言うとソフトの人ですよね。僕はハードの人。」

 「けど、乙女のガードはとってもハードですヨ?」

 「はいはい、わかっております。」

 

 軽いようでその実非常にしたたかだ。シンジはどちらかというと、こういう人の方が好みなのだが・・・。言葉通りそのガードは異常に固すぎる。

 

 (それだけ場数を踏んできたということか・・・戦闘でも人間関係でも。)

 

 そうでもなきゃモデルなんかやってらんないだろうけど。

 

 「もうすぐお昼デスねー。」

 「そうですね、あと20分ぐらいで正午ですね。」

 

 太陽がもうすぐお空の真ん中に着く。

 

 腹が、減った。

 

 「お昼ゴハン、どこかで食べまショウか。」

 「そうですね、キングジョーさんは何かリクエストは?」

 「ソウですね・・・ココはシンジのチョイスに任せマース♪」

 「それなら・・・」

 

 牛丼、と喉が求めようとしたのを間一髪湧き出た唾液と一緒に飲み込み、慌てて言いなおる。

 

 自分一人ならいざ知らず、相手は女の子。デートに牛丼を選ぶなんてデリカシーのない男だと思われる!かといってファミレスというのはちょっと味気ない。決して悪いとは言わないけど、せっかくお洒落な街に来たのだから、

 

 「小さくても、お洒落なお店がいいですね。ナイフとフォークを使うような。」

 「Oh,フレンチやイタリアンですネ♪」

 「そのどっちかなら、イタリアンがいいかな・・・。」

 「いいデスね!」

 

 フランス料理なら、ガレット、フォアグラ、エスカルゴといったところか。しかしそんなお上品なのは、貧乏舌なシンジの口には合わない。米と肉で腹を膨らませるのが、シンジの一番好きな『料理』なのだ。そういう意味でも牛丼が好物なのだが。

 

 シンジの好みはさておき、一方のイタリア料理ならピザ、スパゲッティ、リゾットなんか、日本でも親しみのある料理が多い。これならシンジも安心して食べられる。

 

 「それではさっそく探しマショウか!スイッチ・オンっと・・・。」

 「地図アプリですか?」

 「色んなレビューサイトの情報を纏めたアプリですよ♪グルメ以外にも、ショッピングやサービスにも対応してマス♪」

 

 クララは歩きながらソウルライザーを起動させ、スラスラと指でなぞってお店を探す。でも歩きスマホはやめようね!

 

 「フーン・・・もう少し歩いたところに、よさそうなお店がありますネー。ソコにしますカ?」

 「そうですね、ちょっと歩くぐらいなら・・・ん?」

 

 同意しようとしたところを一瞬辞めて、クンクンと鼻を動かす。

 

 「このニオイは・・・チーズかな?」

 「ソノようです・・・ネ。」

 「あっ、あのお店かな?」

 

 キョロキョロと辺りを見回すと、一軒の小さなお店が目に入った。

 

 『Un giocoliere』多分イタリア語で書かれた緑の看板があった。英語ではないことは確かだとして、ひょっとするとフランス語かもしれないが、フランス料理店なら看板の色は『青と白と赤(トリコロール)』だと思う。あのお店の外観は、看板が緑、壁が白、窓枠やドアが赤だ。

 

 「アプリにはあのお店のこと、書いてありました?」

 「ウーン・・・いいえ、無いデスね。デモちょっと覗いてみませんカ?」

 

 そう言うや否や、クララさんは入口に近づいていく。

 

 「どうやら、まだ開店準備中みたいですね。開店は12時からって書いてありますし。」

 「イクスキューズミー?どなたかイラッシャイますカー?」

 「入っちゃったぁ!?」

 

 さすがアメリカン、文化が違うぜ!

 

 「入って大丈夫なんですか?」

 「大丈夫デース!こっちにはテレビの力がありマース!」

 「アッハイ。」

 

おお、ナムアミダブツ!なんという職権乱用であるか!

 

 「すぃ~まっせん、まだ開店準備中でしてぇ~。もうしばらくお待ちいただけますでしょうかぁ?」

 「あぁ、ごめんなさい、もう少し外で待っていますから。ほらクララさん。」

 「ハーイ♪」

 「んん??!!その声は?!」

 

 奥から店主と思わしき声が聞こえてきたので、シンジは一言謝って一旦外へ出ようとしたが、突如クララの声に反応したその主が厨房から顔を出してきた。

 

 「アラ、アナタは・・・。」

 「!!!やっぱり!おジョぉおおさんでしたか!!なぜここに?」

 

 やたらテンションの起伏の激しい、黒一色の恰好をした男性が現れた。

 

 「クララさん、この人は?」

 「ワタシのファンの人ですヨ!」

 「おやぁ?あなたは・・・まさか!?」

 「いや、ファンの方が予想するような人間ではありませんよ?」

 「たしか、濱堀シンジさん・・・でしたよね?GIRLS特務課の。」

 「特務課というか、雑用課というか・・・。」

 「今日はワタシのマネージャーなんデスよ。」

 

 そのファンの、JJさんの本業がここのお店だったというわけだ。

 

 「ささ、立ち話もなんですのでどうぞお席へ。」

 「開店前なのにいいんですか?」

 「いいんですよ!今日はツイてますから!」

 

 窓際の見晴らしのいい一番いい席に案内され、お冷と共にメニューを渡される。

 

 「そうデスねぇ・・・ワタシは『今日の日替わりランチ』をお願いしマス♪」

 「かしこまりました!」

 「えっと・・・僕はそうだな・・・。」

 

 クララさんと同じ日替わりランチでもいいと思ったが、今日はメインがアクアパッツァだという。魚の気分でもないし、どうせならピザやパスタが食べたかった。

 

 と、ここまで考えたのはよかった。しかしこの先を余計な知識が邪魔をした。

 

 (でも、本場のイタリアでメインは肉か魚の料理で、スパゲッティはそのひとつ前なんだよなぁ。)

 

 そもそも、貧乏舌のシンジにはフォークやナイフを正しく扱える技能もない。知識はあるにはあるが。

 

 「いや、でも一番食べたいのピザだしなぁ・・・。」

 「シンジさんシンジさん?」

 「はい?」

 「マナーやコースがどうとかヨリも、まずはおいしく好きな物を食べることが大事デスよ?」

 「え・・・。」

 「うんうん、おジョーさんの言う通りです。お店はお客様の注文通りに作って、提供するのが役割ですから。」

 「! じゃあ・・・スパゲッティはボロネーゼを、それから・・・ピザはシンプルなマルガリータを。あと・・・食後にイタリアンコーヒーを。」

 「かしこまりました、ピザは焼き上がるまで少々お待ちいただきますが、よろしいでしょうか?」

 「はい、お願いします。」

 

 一礼し、JJさんはメニューを回収して厨房へと入っていった。その後ろ姿を見送くり、お冷を口にして店内を眺めてみる。よく見ると、キングジョーさんのグッズがちらほら見受けられる。

 

 「こんなに並べられると、チョッピり恥ずかしいデスね・・・。」

 「でも、本当にJJさんは熱心なファンなんですね。」

 「エエ、とてもマナーがよくて評判なんデスよ。」

 

 その中に何故かシーサーのぬいぐるみがあったが、沖縄土産か何かなんだろうか。

 

 「お待たせいたしました。こちら、前菜(アンティパスト)のカプレーゼになります。」

 「トマトとモッツァレラチーズのサラダですネ♪」

 

 一品目、インサラータ・カプレーゼ。イタリア語で『カプリ島のサラダ』の意。スライスされたトマトの上にモッツァレラチーズを乗せ、バジルで彩り、塩コショウとオリーブオイルで味付けしたサラダだ。この赤、白、緑の3色はイタリア国旗にもある。

 

 「トマトのジューシーさと、チーズのまろやかさのハーモニーに、バジルがほどよいアクセントになっていマスね!」

 

 例えるなら、ナックル星人とブラックキングのコンビ!グドンに対するツインテール!

 

 「こちらのプロシュートはサービスになります♪」

 「兄貴ィ!」

 

 二品目、プロシュートの生ハムメロン。メロンの甘みに、イタリアの生ハム・プロシュートの塩味がいいコンビだ。シンデレラの少女にはフライドチキンもいいけど。

 

 「日本のハムよりも、結構塩分が強いんだね。」

 「気候の違いでショウね。」

 

 「お待たせしました、こちら第一主菜(プリモ・ピアット)のカルボナーラと、ボロネーゼになります。」

 「待ってました!」

 

 三品目、カルボナーラとボロネーゼ。ホワイトソースに、塩漬け豚肉のベーコンを混ぜて、黒コショウでトッピングしたカルボナーラ。その意味は、炭焼き職人。炭焼き職人が作ったら、炭の粉が落ちてこんな見た目になるんじゃないか?というお洒落な発想で作られた。ボロネーゼは、日本ではミートソースとして親しまれているが、このお皿にはなんと肉団子が入っている。これには泥棒一味も満足だろう。

 

 「ンー♡最高デスね!」

 「こんな贅沢なスパゲッティが、一生のうちに一度は食べてみたかった!」

 

 そうこうしている内に、メインディッシュがやってきた。

 

 「お待たせいたしました、こちら第二主菜(セコンド・ピアット)のアクアパッツァになります。」

 「Oh,これはスゴイデスね!」

 

 四品目、スズキとアサリのアクアパッツァ。副菜のミニサラダが添えられているが、あくまでメインは魚。東京湾で獲れたメインの魚介類をトマト、白ワイン、それからなんと海水で煮込んでいる。なかなか豪快な料理だ。

 

 「これこそマサに、『海の味』デスね!」

 「へー、おいしそうだな。」

 「シンジも一口、どうデスか?」

 「えっ?!」

 

 そう言ってフォークに差した魚肉をさっと出してきた。勿論元々使っていたのとは別のフォークだが。「えぇっ?!」って声と皿が割れる音が厨房の方から聞こえて来たが、それはさておき。

 

 「さぁ、ドウゾ?」

 「じゃあ・・・せっかくだから・・・。」

 

 これが相手がミカだったら、一切の躊躇なく頬張っていたところだったが。少しだけ、ほんの少しだけためらうと、なされるがままに頂く。

 

 「うん、おいしい!」

 「デショウ?このお店を選らんで正解でシタね!」

 「はい、他のみんなにも教えてあげたいですね。」

 「他のミンナ・・・デスか。」

 

 今度はミカと・・・いやそれよりもエレキングさんと一緒に来たいかな。どういうタイミングがいいか、色々と想像を膨らませると、やっとお目当てのお皿がやってきた。

 

 「お、お待たせいたしましグフゥ・・・。」

 「だ、大丈夫ですか?」

 「なんでだよ・・・なんなんだよ・・・ハッ。お待たせいたしました、こちらマルガリータです。」

 

 五品目、シンプルなマルガリータ。バジルの緑、モッツァレラの白、トマトの赤、まるでイタリア国旗だとはイタリア王妃・マルゲリータ談。シンプルが故に揺ぎ無く、奥深い。ちょっと端が焦げているが、ここがなかなか香ばしい。

 

 「んっ・・・最高!大満足!とろけるチーズと、口の中で潰れるトマトの酸味がジューシィ!」

 「おいしそうデスね。一切れ、いいデスか?」

 「どうぞ、さっきのお返し!」

 

 「ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛!!!」と声にならないような声が厨房から響いてくるが、それはさておき。

 

 「お、おま・・・ガクッ・・・。」

 「大丈夫ですか本当に?」

 「やっぱ・・・キッツイわ・・・お待たせいたしました、こちらエスプレッソになります。」

 

 食後のドリンク、エスプレッソコーヒー。イタリアやフランスで飲まれるコーヒーといえばエスプレッソだそうだ。普通のコーヒーカップよりも小さいカップに抽出されたこいつは闇よりも暗く、炎よりも熱い。それはまぎれもなくヤツさ。

 

 「苦ッ!夜明けのコーヒーとはこういうものか・・・。」

 「ワタシはカプチーノをお願いシマース。」

 

 シンジの飲む、JJのコーヒーは、苦い。曰く、イタリアで料理修行を終えた餞別に貰ったエスプレッソマシンを愛用しているとのこと。

 

 クララが頼んだのはふわふわのミルクの泡が乗ったカプチーノ。まろやかな口当たりに、もれなく鼻の下に白いおヒゲができる。あざとい。

 

 「けどこの酸味クセになりそうです。口の中がリフレッシュされる感じ。」

 「十分堪能出来マシたネ~。」

 

 ということで、

 

 「「ごちそうさまでした!」」

 

 大満足だ。おいしい料理に、いい雰囲気のお店、そして可愛い女の子が相席と来れば何も文句はない。

 

 「お会計は御一緒で?」

 「イエ、別々でお願いしマス、あと領収書もお願いしマス。経費で落としマスから。」

 「ちゃっかりしてらぁ。」

 

 値段もなかなかリーズナブルでいいね。

 

 「あと・・・よろしければ、サインを・・・。」

 「あ、『上様』でお願いします。」

 「そうじゃなくて、おジョーさんに・・・あと良ければ写真も。」

 「いいデスよ!」

 

 有名人がお店にサインを飾るというのはよくある話だ。クララも慣れているのか快諾した。有名人の隠れ家的お店としては、このお店の印象にはピッタリだ。

 

 「あっ、サインならこの色紙どうぞ。」

 「準備がいいデスねシンジ。」

 「よくミカと一緒にいるので。色紙とペンはいくつか常備してあるんです。」

 

 四次元バックパックからサインのセットを取り出すと、サラサラとクララは筆を走らせた。

 

 「はい、バター。」

 「それを言うならチーズでショウ?」

 「面白くない?」

 「ゼンゼン。」

 

 はっきり言っちゃってくれる。

 

 「ありがとうございまぁああす!また来てくださいね!」

 「エエ、また食べに来マスね!」

 「GIRLSの皆にも宣伝しておきますね。」

 

 じゃぁねぇ~と店の外まで見送ってくれたJJさんに手を振り再び歩き始めた。

 

 「いいお店でしたね。」

 「アソコにして正解デシたね。」

 「なんというか・・・すごく充実した『食事』だったと思います。」

 「それはちょっと大袈裟デスよぉ。」

 

 家で食べるにはいいものを食べている。というか食べさせてもらっている。しかし自分の手で料理するということはごくごく稀だし、他人に作ってもらうのはもっと稀だ。チョーさんはヒトじゃないし。

 

 「いい食事には何を食べるかも大事デスが、誰と食べるかも重要だと思いマスよ?」

 「誰と食べるか、か・・・。」

 

 そういえば、誰かと食事をするのもずっと久しぶりだった気がする。アメリカでもラボや特訓の仲間たちと社交辞令として食べることはあったが、日本では少なかった。デート以外での話だが・・・。

 

 「実のところ、ワタシも牛丼スキですよ?ビーフボウルはニホンのファーストフードの代表格デスから!」

 「えっ、そうだったんですか?」

 「だからマタ一緒に食べに行きまショウね!」

 「はい、よろしくお願いします。」

 

 クララ・ソーンさん、すごくいい人だ。面倒見が良くって、なんだか包容力もある。また一緒に、どこかへ出かけたいな・・・。

 

 そういえばこれってデートだったんだろうか。

 

 「今頃デスかぁ?」

 「クララさんは・・・そのつもり・・・だったとか?」

 「乙女のヒミツデース♪」

 

 手玉に取られているような感覚だが、それも悪くない。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「へぇ~、いいところだな。」

 

 マガちゃんたちと模擬戦をやって直後のこと。マガジャッパちゃんのリクエストで温泉にやってきたシンジは、一人男湯にいた。

 

 「さーて、まずは泡風呂に・・・。」

 「待ちな兄ちゃん、かけ湯してから入んな。」

 「え?」

 

 よく見ると、大浴場に先客がいた。

 

 「あ、あなたは!」

 「よう、また会ったな。」

 「・・・誰だっけ?」

 

 ズコーッ!と派手に飛沫を上げてその男性は湯船に突っ込んだ。

 

 「いやいやいや!会ったことあるだろ!俺そういう顔してるだろ!」

 「おぉ・・・おん?」

 「ただの風来坊だよ!」

 「風来坊?ああ、ああ!風来坊のお兄さんね!」

 

 ようやく記憶の中の人物とが一致した。

 

 「あのコートとハーモニカの音で覚えてたので、一瞬誰だか分らなかった。」

 「忘れてくれるなよ、人の顔を。嫌なことや恥ずかしいことは忘れてもな。」

 

 都合の悪いことをすぐ忘れるのは悪魔の生き方だって聞いたけど。

 

 「まあともかく、まずは体を先に洗えよ。温泉でのマナーだ。」

 「はーい。」

 

 言われるがまま、蛇口の前に腰かけてタオルを泡立てる。

 

 「そう、言っておかなきゃならないことがある。」

 「えーっと、湯船にタオルは漬けない、髪も湯船に浸けない。」

 「それから静かに入ることもな。ただそうじゃなくて、もっと大事なことだ。」

 「風来坊さんって、あれですよね・・・もしかしたら・・・。」

 「・・・皆まで言うな。もしかしなくてもそうだ。」

 

 雲った鏡を擦って、その姿を目に留める。肩まで湯船に浸かっているあの人は、実は・・・。

 

 「まず、お前が失ったと思っているウルトラマンさんのカードは、今もちゃんとある。」

 「それは、どこに?」

 「お前の中だ。お前自身の、体と心の中両方だ。」

 「・・・融合状態ってことですか?」

 「あんまり驚かないのな?」

 「アメリカで、ちょっとだけ自分の体について研究してたので。」

 「そうか・・・それ誰かに言ったか?」

 「・・・信頼できる人達とだけです。」

 「ならいいが。」

 

 アメリカに旅立ってしばらくしてから、、自分の体の変調に気が付いた。腕力がついたのは以前からだったが、妙に平熱が上がっていたり、いや(・・)に筋肉の付き方がよくなったり。逆に寒さに弱くなったりもしたが。研究した、と言ってもそれらの変調を具体的に数字化してみただけだが。

 

 「カードはあくまでウルトラマンさんの『力を形にした』だけであって、本人と融合していたわけじゃない。いわば、ウルトラマンの因子ってやつだ。」

 「因子?」

 「ウルトラマンは、元は皆地球人と同じ姿をしていたんだ。彼らが光の巨人となったのは、その因子によるものだ。」

 「じゃああなたも、元は人間?というか、今が本来の姿?」

 「そうだな、俺もウルトラマンになってから結構な年月が経っている。」

 「それって、どれぐらいですか?」

 「・・・地球で言えば、人類史の誕生前だな。ここの(・・・)地球とは違うが。」

 「そんなに?!」

 「ウルトラマンの年齢ならそれぐらい普通だ。」

 

 西暦の場合は大体2000年というところだが、それより前の石器時代の終わり(簡単に言うと農業のはじまり)は9000年前、現人類の登場が4万年前頃だと言われている。その現人類が、地球の原住種族なのかはさておき、ウルトラマンの種としての紀元は26万年前の太陽の消滅と人工太陽の完成と同時である。(ウルトラの星の文明そのものは、それ以前からあった模様。)

 

 「気が遠くなりそうです・・・。」

 「話が逸れたな。そのウルトラマンの因子が、今もお前の中には残っている、というか融合している。このままだと、お前もウルトラマンになってしまう(・・・・・・)。」

 「本当に?」

 「正確に言うと、ウルトラマンへと進化していく。体の変化もその前兆だ。」

 「具体的には他には?」

 「まずウルトラマンには、特別な能力が備わる。光線とか飛行能力とかな。」

 「けど人間の姿ままじゃあ、光線の反動には耐えられないし、マッハで飛べば体が千切れるんじゃないですか?」

 「そうだ、そのために銀色の肌に変化するんだとも言っていい。」

 

 つまり、体が変化したから能力を得るのではなく、能力を使うために体が変化する、ということだ。

 

 「その変化が既にもう現れ始めている。例えば額にビームランプが灯ったりな。」

 「え?おデコのこれ傷じゃなかったんですか?」

 「気づかなかったのか?」

 「カサブタだと思ってました。」

 

 大人になりたい僕らのわがままをひとつ聞いてくれ、とは言わないが。アイラとの決戦の時、最後に喰らった額の傷を鏡を見ながら擦った。たしかに×印型の痕が消えずにずっと残っている。

 

 「本来なら、一時的にウルトラマンさんの力を借りるために、カードという形で別に保管させる予定だったんだが、お前の場合ウルトラマンの因子と親和性が良すぎた(・・・・)。だからこうして警告しに来た。」

 「警告?」

 「お前が間違った力の使い方をしないようにな。」

 「僕そんなに信用無いですか?」

 「悪い意味じゃない、いい意味でだ。ある意味悪いんだが。」

 「どっち?」

 

 髪をシャンプーで梳かしながら受け答えを続ける。目を閉じていても声はちゃんと返ってくる。

 

 「お前の場合、深く考え込みすぎる。それこそ、ウルトラマンの重圧(プレッシャー)に潰されそうなぐらいにな。」

 「まあ、自覚はあります・・・。」

 「大いなる力には、大いなる責任が伴う、と前には言ったが。その力をなんのために、いつ使えばいいかは説明していなかった。」

 

 泡を洗い流して鏡を見たが、そこに彼は映っていなかった。代わりにドアが開く音が聞こえると、そこへ風来坊は入っていった。あわててシンジはその後を追いかける。

 

 「望まぬ力を持って困惑するということはわかる。だが、力を持った時周りの人間にも影響を及ぼすこともある。そしてそれは、大抵悪い結果を招く。」

 「・・・僕がウルトラマンのカードを手にした時、すごく浮かれていました。それこそ、自分にはなんでも出来るんだって、思いあがるくらい・・・その結果、アイラの苦しみに気づけなかった・・・。」

 「ウルトラマンだって、完璧じゃない。時に間違いもするし、救えない命も、届かぬ想いもある。」

 「・・・暑い。」

 

 風来坊はとても暗い声でそう言ったが、シンジは話半分にしか聞こえていない。オレンジ色の明かりが灯り、熱気の立ち込めるここは密室。

 

 「だが、どんな時も決して諦めず、不可能を可能にしてみせる、それがウルトラマンだ。」

 「あちぃ・・・。」

 「ウルトラマンさんが一番伝えたかったのはそれだ・・・おい聞いてるのか?」

 「あついです・・・もう無理。」

 「やれやれ、ムリはするなよ?」

 

 フラフラと出口へと足を動かし、サウナを後にすると、今度はすぐ傍の冷たい場所へとやってくる。

 

 「その為には、自分の力の限界を把握しておくことが必要だ。つまり自分の能力をコントロールできるようにしておくこと。」

 「冷たい!冷たいぃ!」

 「大前提として、無理はしても無茶はするな。過ぎた無茶は自分の身を滅ぼす。」

 「無理無理無理!」

 「ちゃんと汗流してから湯船に入れよ?」

 

 つくづく水風呂は人類が入っていいものじゃないと思う。シャワーをさっと浴びて汗を流している間、風来坊は眉一つ動かさずに水風呂に肩まで浸かっている。これも超人の精神力のなせる業か?

 

 「肉体と精神のバランスの上に、発揮できる力というのは成り立っている。どちらかが多すぎても、少なすぎてもいけない。お前の場合、精神の不安を肉体の強化で紛らわそうとする癖がある。最後に勝敗を決めるのは技ではない、精神力、心だ。」

 「あばばばばばばばばば。」

 「強くなりたければ、心を磨け。」

 

 滝に打たれながら、肩の凝りをほぐす。打たせ湯は一挙両得だ。

 

 「時に休養を摂るのも大事だ。張りすぎた弦はすぐ切れる。時には力を緩めて、心と体を休ませるんだ。」

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。」

 「湯船に髪をつけるなよ?」

 

 泡風呂で体を浮かせてリラックス。留学中に肩まで髪が伸びた。しばらくは伸ばしておこうと思う。

 

 「表面だけで物を見るとしっぺ返しを喰らうぞ。一つの視点からは見えない問題や気付きが、内面や死角には潜んでいる。広い視野と照らす光を持て。」

 「ごくごく・・・ぷはぁ!」

 「成人男性はカップ一杯が適量だ。」

 

 飲泉、お湯を飲んでミネラル補給だ。ただし用量は守る事。

 

 「そんなところだな、俺が教えられる基礎の部分は。基礎を鍛えるのは得意だろう?」

 「普通に温泉を楽しんでいただけでは?」

 「楽しむ心を忘れたら、心が渇くぞ。」

 

 最後に、大浴場に戻ってきて並んで浸かる。やっぱりここが一番落ち着く。

 

 「最後に一つだけ、俺自身からのアドバイスだ。失敗に悩んだり、自分を見失って迷うことは誰にだってある。」

 「ふんふん。」

 「だが、どんな結果や、そこに至る過程があっても、それが今の自分だ。そんな自分のことを信じてくれる仲間がいるなら、自分で自分を信じろ。それが『本当の自分』だ。」

 「はぁ・・・?」

 「いずれわかるさ、今はわからなくても。どれだけ遠回りすることになるかもわからねえけど、辿り着いたらそれが一番の近道だったと思える。」

 

 

 「長ったらしく話すのは俺のガラじゃねえや。じゃあ俺はもう行くぜ。」

 「はい・・・ありがとうございました。」

 「その言葉は、信じて待ってくれてる仲間に言いな。」

 

 

 ざばぁっと立ち上がり、タオルを取って彼は出ていく。

 

 

 「あ!そういえば。」

 「なんだ?」

 「名前、『次に会った時』でしたよね?」

 「ああ、そういえばそうだったな。」

 

 「俺の名は・・・『クレナイ・ガイ』だ。」

 「クレナイ・ガイさん・・・また会いましょうね。」

 「その時には、旨い菓子でも用意していてくれよ。あばよ!」

 

 その人、ガイさんは・・・普通に出口から出ていった。本当にウルトラマンなんだろうか?と思いたくもなるが、きっとヒーローの多くは、こんな『どこにでもいそうな人』なんだろう。ちょっと変わってるけど。

 

 「自分を信じる・・・か。」

 

 僕は、僕を信じているだろうか?ミカたちは僕を信じてくれている。それに応えられるだろうか?以前ガイさんに言われた『闇を抱ける強さ』を、本当に僕は持っているんだろうか?そもそも、その強さってなんなんだろう。

 

 「・・・考えすぎるのもよくないか。」

 

 少しのぼせているのかも。こういう時は気分を変えよう。まだ外の露天風呂には行っていなかった。景色でもじっくりと眺めるとしよう。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「・・・はっ。」

 「起きた?」

 「アギちゃん・・・今何時?」

 「8時半かな。」

 

 目が覚めると飛び込んできたのは、こっちが眠くなりそうな寝ぼけ眼。ちょっとだけ休むつもりだったけど、もう用意しないと。体を起こすとすごく重い。

 

 「もうちょっと休んだら?どうせまた寝てないんでしょ。」

 「でも、みんなを待たせちゃうし。というか、てっきりミカが来たのかと思ってた。」

 「ゴモたんは今日仕事。みんなにはボクが連絡しておくから、もうちょっと寝てていいよ。」

 「いやでも・・・。」

 「もう、シンジさんがんばりすぎ!」

 「アバー!」

 

 むんずっと腕を掴まれてベッドに放り投げられる。だんだんアギちゃんも乱暴というか雑になってきた。

 

 「シンジさんが頑張ってるのはみんな知ってるから、少し休んでも誰も文句言わないって。」

 「体動かしてないと不安なんだけど・・・。」

 「じゃあ、ボクがここにいてあげるから。」

 「・・・積極的になったよね、アギちゃんも。」

 「誰のおかげかな?」

 「わかった、ちょっとだけ休ませてもらうよ。」

 

 ナチュラルにアギラが膝を差し出してきたので、シンジも一切躊躇いなく頭を乗せる。

 

 「ぬひぃ~寝心地最高~。」

 「なに変な声だしてるのさ・・・。」

 「こうなったらとことん休んでやるからな~覚悟しておけよ~?」

 「いいよ、シンジさんのためなら。」

 「・・・普通に返されたらなんか面白くない。」

 「なにそれ意味わかんない。」

 

 「それにしたって、シンジさん頑張り屋さんだよね。」

 「ただ自分に出来うる事を最大限努力してこそだよ。」

 「だからって、ちょっと気負いすぎじゃないかな?見てる方が心配になるぐらい。」

 「そうかな?」

 「そうだよ。・・・今ならゴモたんが前に言ってたこともわかるな。」

 「前に言ってたって?」

 「シンジさんに危険な目に遭ってほしくないっていう心配。シンジさんのことを、もっと大切な人だって思うようになってからね。」

 「でも、がんばるのやめちゃったら、僕じゃなくなっちゃうから。」

 「そういうところも含めて好きなったんだってわかってるけど・・・それでもなんか、ほっとけないよ・・・。」

 

 アギラの指がやさしくシンジの頬を撫でる。慈しむように、悔やむように、温かい感触が線を描いては止まる。

 

 「本当はどこにもいかないで欲しいって思ってる・・・そんなんじゃダメだよね、シンジさんの自由なんだから。」

 「僕は・・・どこにも行かないよ。行ったとしても、必ず帰ってくる。次もまた、アギちゃんに膝枕してもらううために。」

 「んもー、ボクは結構に本気にしてるんだよ・・・。」

 「本気で思ってくれてるなら、嬉しいよ。アギちゃんのいる場所が僕の帰る場所なんだって思えるから。」

 「あっ・・・。」

 

 シンジの手のひらが、アギラの頬に当たる。じんわりとお互いを温め合うように熱さが伝わってくる。

 

 「だから信じて欲しい。僕の事を、僕がもっと高く跳べることを。」

 

 初めてかもしれない。『僕を信じて』なんて言葉を誰かに使ったのは。

 

 「・・・そんなの言われたら、なにも言い返せないじゃん・・・。」

 「この前の仕返しだよ。」

 「むぅ~。」

 「ふわぁ・・・ちょっと眠くなってきたので寝る。おやすみ。ぐぅ。」 

 「あっ・・・この・・・。」

 

 わざとらしく寝息を立てていたが、やがてそのうち本当に眠り始めたので怒るに怒れなかった。

 

 「しょうがないんだから・・・。」

 

 攻めたり攻められたりの、シーソーのような関係。だからずっと対等でいられる。同じ地に足を着けて立っていられる。

 

 「シンジさんがそんなこと言うんだったら、ボクだって・・・。」

 

 今なら、誰も見ていない。だったら、これぐらいしたっていいよね?

 

 「シンジさん・・・ダイスキ・・・。」

 

 他の誰も知らないけれど、誰かさんの唇と、誰かさんの唇が触れ合った。




 怪獣娘黒の情報が解禁されるまでに、次回シリーズを完結させたい。そうでなくとも少なくとも今回シリーズだけは最低限行ってないと、また設定の矛盾が生じることになる。だというのに、体は他の事を書きたがっている。

 毎度毎度気にしているけど、本家に登場するキャラクターの口調や性格がこれでいいのかとつくづく疑問です。あまりにもキャラのイメージから離れていたら申し訳ない。

 

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