怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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 日々じわじわりと伸びているお気に入り率に一喜一憂している毎日です。しかし自分ではよく書けているつもりなのに、なかなか伸び悩んでいるのは何故なのかとも悩む毎日であります。(ひどいウヌボレ)やはりオリ主は人気が無いのか、それともジャンルがニッチすぎるせいなのか、はたまた主人公の名前や境遇がまんま新世紀なオバンゲリダンな彼と被っているせいなのか(スパロボFの動画見てて今気づいた)。はたまた作者の書く文章が面白くないのか、それとも作者自身が『あんたの存在そのものが鬱陶しいんだよ!』と思われているのか。それとも自分でも気づいていないようなポカがあるのか。いずれにしろ、感想をください。(切実)




 ジャラジャラと鎖を鳴らして歩く音が廊下に響く。しかしこれはファッションではなく、拘束具としての重々しい物だった。

 

 (ここは・・・?)

 

 気が付けばシンジは、ほの暗い廊下を手錠や足枷を身に付けながら歩いていた。両脇にはロボットのように無機質なマスクのガードマンが並んで歩いでいる。

 

 「どこここ・・・なんで!?」

 

 見知らぬ場所に、自分一人。これがサバンナの大平原とかなら夢も広がるだろうけど、ここは閉塞的な・・・どこかの施設の中だ。声も壁に反射して返ってくる。

 

 困惑しつつも、足は前に進んでいく。まるでシンジの意志に沿わないように、勝手に進んでいく。そして、その眼前には荘厳な扉が現れる。

 

 「この部屋は・・・ぬっ・・・。」

 

 ギギギ・・・と重苦しい音を立てながらゆっくりと開いていき、シンジの足はまたも歩み始めた。

 

 「それでは、被告人濱堀シンジ氏へのリンチ、否稟議を行う。」

 「っていうか裁判じゃないのこれ?」

 

 扉を潜り抜けた先は、裁判所のようであった。『ようであった』というのは、シンジの知る裁判所の法廷とは違い、シンジのいる証言台の周りが、自分を見下すように高く据えられており、シンジはその『底』にいる。

 

 「それでは、被告人の罪状を読み上げる。」

 

 「ひとつ、大怪獣ファイトが行われているのは、アリーナではなくジョンスン島に設けられたバトルフィールドである。また、撮影・中継もドローンによって行われており、周囲に人は配置されていない。」

 「知らんがな」

 

 おい検事、なにを読んでる。それは3月30日に発売された怪獣娘のノベルじゃないか。さっくりと読めながら、中々読み応えのある作品じゃないか。

 

 「ふたつ、天城ミオこと、ベムラーさんはもっと寡黙な人である。」

 

 「みっつ、多岐沢マコト氏は現在教授ではなく、博士である。」

 「誰だよ、いや知ってるわ。」

 

 「あとその他諸々。以上の罪状から被告人は極☆刑でGE☆SUなwww」

 「ふざくんな!!!」

 

 こんな横暴な話があっていいものか!

 

 「『待った!』日本の法律では、故意のない罪は罰せられない!」

 「『意義あり!』『知らないという罪』もある!」

 

 そこに続くのは知りすぎる罠だ。知らなくてもいいことだってある。

 

 「判決を言い渡す。被告は有罪!禁固2万年と脳矯正を命ずる!以上閉廷!」

 

 「な、なにをするきさまらー!?」

 

 ドヤドヤとやってきた白衣の人間に取り押さえられ、ストレッチャーに乗せられる。

 

 「おい!こんなのないぞ!横暴だ!反モラルだ!」

 

 ストレッチャーに手足をベルトで固定され、身動きは取れなくなった。動かせるのは首から上だけだ。

 

 そのまま、さっき来た廊下を通って連れていかれる。シンジの目の前を、心許ない明かりがいくつも通過していく。

 

 「離せー!自由にしろー!」

 

 もがいても叫んでも、周りの人間は眉一つ動かさない。それどころか呼吸をしているようにすら見えない。ひたすら不気味だ。

 

 やがていくつかの扉をくぐり、エレベーターで地下へと潜って行きついた先は、

 

 「えっ・・・?!」

 

 見れば壁は赤黒く染まっており、揺れる照明にちらちらと照らされている。その天井裏からは、なにか黒い影がこっちを覗いている。耳をすませば、足音や車輪の音に混じって、不穏で形容しがたい悲鳴や金属音がする。血や腐敗臭とも違う生臭さが鼻をくすぐる。

 

 「・・・。」

 

 そこまで来ると、シンジも言葉を失った。異常だ、この状況自体が異常だが、それ以上にこの空間を信じられないでいた。まるで現実感が無い、異世界にでも落ちたような不条理さ。

 

 廊下はまだまだ続く。シンジはもはや達観したように落ち着きを取り戻した。

 

 しかしその冷静さも、次の扉をくぐった先で早々に打ち砕かれることとなる。

 

 「あれは・・・アイラ!?」

 

 アイラの、服だ。白いワンピースが黒焦げて落ちている。その周りには、ビルの破片や壊れた車の残骸がぷすぷすと煙を上げて燻っている。そんな惨劇の一場面を切り取った、ジオラマのような光景が眼に入った。

 

 「アイラ・・・アイラはどこに・・・。」

 

 そういえば、今は自分しかいないが、仲間たちはどこへ?というか、なんで今はここにいるんだ?そんな考えも及ばなくなるほど、目の前のものに衝撃を受ける。

 

 「タワーが・・・街が!」

 

 黒く禍々しく変貌した東京タワーがそびえ立ち、街は瓦礫となっている。まるで、あのシャドウマンの時のような・・・。

 

 「あっ・・・あぁ!?」

 

 次に見えたのは、道端に落ちた子供の靴の片方。けどシンジには、とても見覚えのあるものだった。

 

 「ミカ・・・ミカぁあああああああ!!」

 

 ミカの靴。あの時落っことしていったミカの靴だ。シンジのトラウマ。

 

 「いやぁあああああああ!!ミカぁああああああ!!!」

 

 トラウマを呼び起こされ、我を忘れて叫ぶ。そして運び込まれたの手術室。すでに術式の準備は整っているようだ。ぶっとい注射針がシンジの額に迫る。

 

 「あぁああああああああ!!」

 

 ぶすっと、額に孔が開くのを感じるが、不思議と痛みはなかった。その代わり、ジリリリリリと脳内に警告音のようなものが響き、そこで意識はぷっつりと途絶えた。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 ジリリリリリリ!!

 

 「ん・・・んっ・・・んんぅ・・・。」

 

 布団の中から手探りで目覚ましを止める。目を開ければ見知らぬ天井で、窓の外には青空が広がっている。

 

 「あ・・・そうか。もう引っ越してきたんだっけ。」

 

 1LDKの部屋の中には自分一人。ベッドやイスなどの最小限の家具と、未開封のダンボールがいくつも積まれている。

 

 そうだ、この春から東京の大学に通うため、一人暮らしを始めたんだった。家具家電は備え付け、駅まで数分の好立地。これから始まる新年度に不安半分、好奇心半分に心を弾ませる。

 

 「いってきまーす。」

 

 いそいそと支度を済ませ、家を出る。お出かけは、一声かけて、鍵かけて。家に誰もいなくても、声は出そう。

 

 ともあれ、今は大学の講義に集中しよう。高校の時と違って、講義室は広く、席も自由だ。皆それぞれもう友達を見つけたのか、それとも元から友達だったのか固まって席についている。

 

 シンジはどうか?何も言うまい。

 

 「あー、一人で食べる昼飯はおいしいなー。」

 

 食堂は学生以外に一般の人も利用できるのでかなり混んでいる。友達連れだと席を複数確保しなければならないので、1人でいるのは気軽だ。

 

 さて、今日の講義はもう終わった。東京の街をめぐってみるのもいいだろう。

 

 「渋谷に着いたぞ。」

 

 勿論、一人で。一人で渋谷って相当難易度高いと思うけど。

 

 名所めぐり。まずはハチ公像から始まり、スクランブル交差点や109を眺めていく。平日でも人は多い。

 

 街ゆく人は、列を作って目を伏せて歩く。人はたくさんいても、都会とは孤独な世界だ。おのぼりさんのシンジには少し抵抗感がある。それもじきに染まっていって気にならなくなるだろうが。

 

 しかしこんな若者っぽい街はシンジには少し合わなかった。今度は巣鴨にでも行こう。

 

 「あれ・・・あれ・・・おかしいな?早起きしたせいかな?」

 

 そんなことを考えていると、なんだか泣けてきた。理由はよくわかんないけど目頭が熱くなってきた。

 

 故郷の友達に会いたいなぁ・・・早くもホームシックだ。

 

 「あの・・・大丈夫ですか?」

 「え?」

 

 気が付けば、知らない女の子に声を掛けられていた。目つきが悪い、というか眠そうな眼の大人しい子だ。

 

 「いや・・・大丈夫です。なんか、ホームシックみたいで。」

 「春から東京で通うようになったとか、ですか?」

 「そう、そしたらなんか、この都会の空気感に押されちゃって・・・。」

 「そうなんですか、ボクもたまにはこう言うところに来てみようかと思ったんだけど、なんだか馴染めなくって。」

 「ちょっと似てますね、僕たち。」

 「そうですね・・・。」

 

 波長が合ったのか、少し気が和らいだ。癒しのオーラでも出てるんだろうか、彼女は。

 

 「じゃあ、一緒にお茶でもしませんか?」

 「ナンパされた・・・生まれて初めて・・・。」

 「あー、そうじゃなくって・・・せっかくだから、友達が欲しいなって思って・・・ダメでしたか?」

 「ダメ・・・じゃあないけど、名前も知らない人にはついてっちゃダメだってお爺ちゃんが言ってたから。」

 「そうか、自己紹介もしてなかったね。僕は濱堀シンジ。あなたは?」

 「ボクは・・・。」

 

 と、その時。ハチ公像のところに置かれていた空き缶が地面に落ちた。風が吹いたわけではなく、すぐにその異変に誰もが気づいた。

 

 「地震?!」

 「結構強い!」

 

 ただの地震とは違う。突然強烈な縦揺れが襲ってきた。すぐさまハトが一斉に逃げるように飛び立つ。

 

 そして、道路を盛り上げ、砕きながら元凶が姿を見せた。

 

 「怪獣だ!」

 

 鼻先から歪んだツノを生やした、山のような大きさの怪獣が出現する。その口に地下鉄を咥え、それを乱棒に放り投げて捨てると、自分の存在を誇示するように大きく吠えた。

 

 『ヴァオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

 それは現実にいるどの動物と似ても似つかない異音、なにかの爆発音のようだった。ともかく、その合図を皮切りに一斉に人々は逃げだした。

 

 「はやく逃げましょう!」

 「うん・・・あっ!」

 

 「うぇえええええん!おかぁさぁああああん!!」

 

 逃げ遅れている子供がいるのを見つけてしまった。脳は今すぐにでもこの場から逃げ出したがっていたが、足は勝手に動いていた。

 

 「大丈夫?お母さんいっしょ?」

 「濱堀さん、あぶないよ!」

 「うぉおお!!」

 

 シンジと子供の上に瓦礫が降ってきて彼女は警告する。シンジは思わず子供を彼女の方へと突き飛ばして避難させるが、その間を瓦礫に隔てられる。

 

 「濱堀さん大丈夫ですか!」

 「・・・大丈夫!なんとか・・・子供は?」

 「大丈夫です!今そっちに行きます!」

 「ダメだ!その子を連れて早く逃げて!僕の事はいいから!」

 「けど・・・!」

 「いいから行け!僕も後から行く!」

 

 「再会出来たら、今度こそお茶しに行こう。名前も教えて、な?」

 「・・・わかった。絶対だからね!」

 

 残念なことに、その約束は果たせそうにない。瓦礫に足を潰されて、動くことすらできない。遠目に見えるあの怪獣は、だんだんとこちらへ向かってきているようだった。ここからの生還はもはや絶望的。

 

 けれど、不思議と恐怖は感じなかった。むしろ温かいものを心には感じていた。今までもずっとそうしてきていたような、しっかり役目を果たせた充足感と安心感が。

 

 「あぁ・・・彼女欲しかったなぁ・・・。」

 

 故郷にいる幼馴染もいいけど、どっちかっていうと大人しい子の方が好みだから。そう考えるシンジの上に、怪獣の足が降ってきた。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「ぶふっ!」

 

 顔にクッションが降ってきて、シンジは目が覚めた。たしか・・・ソファーで仮眠していたんだっけか。

 

 「やっと起きたかシンジ?さっそくだが書類の整理を頼みたいんだが?」

 「了解です、ミオさん。」

 「ここでは所長と呼びたまえ?いつも言っているだろう。」

 「所長。」

 「うむ。」

 

 そうそう昨日は徹夜で作業していたから、休憩がてら昼寝していたんだった。

 

 「仕事に入る前にコーヒーを頼んでもいいかな?2人分。」

 「はい。砂糖3つでしたっけ?」

 「ミルクもな。」

 

 自分のとミオさんの愛用のマグに注いで、砂糖とミルクを加えて。それから軽いお菓子も。

 

 「おまたせー。」

 「うん、ありがとう。」

 

 入れ替わりに、今度はシンジが仕事を始めて、ミオさんは休憩に入る。せっせと仕事を片付けるシンジの背中を見つめながら、ミオさんはコーヒーを啜っている。

 

 「な、なんすか?なんか変ですかい?」

 「いや、なんでもないよ。」

 

 あんまり見られてちゃ頬っぺた赤くなりますよ。無視して作業を黙々と続けることとする。

 

 数時間後、辺りも暗くなり始めた頃。

 

 「ふぅ~、終わり。」

 「お疲れ様。もう夕飯の時間だし、なにか奢ろう。」

 「いいんですか?」

 「ああ、なんでも食べたいものを言ってみな。」

 「じゃあ・・・牛丼。」

 「ははは、随分私の財布も安くみられたものだな・・・。」

 「牛丼が好きなんです。」

 

 そうはいいつつ、ミオさんもいそいそと出かける準備をしている。大体シンジが外食をするときは牛丼と決まっているからだ。

 

 「所長がいっつもすももづけ食べてるのと要は一緒。」

 「すももづけのどこがいけない?駄菓子屋さんではお高くてお上品な駄菓子だぞ?」

 「別にいけないとは言ってませんよ。」

 

 今も事務所の1スペースを占領しているのがすももづけの山だ。たしかにおいしいが、あんまりたくさん食べていると舌が麻痺しそうだ。

 

 「その点牛丼は、様々なサイドメニューと合わせて様々な味や食感も楽しめるんですよ?しかも早くて安くてうまい。」

 「卵とみそ汁もつけてな。」

 

 牛丼一筋300年~♪そんな間抜けな歌が聞こえてくる店内でもぐもぐと食べる。牛丼屋の店内は、U字テーブル越しの客同士でいつ喧嘩がぼ発してもおかしくない雰囲気だとか聞いたことがあったけれど、別にそんなことは一切ない。

 

 「ごっそさん。」

 「ごちそうさまー。」

 

 パッと食ってパッと出る。ファーストフード店に長居は無用だ。

 

 「さぁて、もう少し付き合ってくれるかな?今日終わらせられるものは今日で終わらせておきたい。」

 「いいですよ、残業代出るなら。」

 「さっきのが残業代の代わりだ。」

 「ならもっと高いところにすればよかったかな・・・。。」

 「選んだのは君だろう?」

 

 今日できることを今日することには賛成だ。僕とミオさんは何かと波長が合う。僕が今のこの仕事についてから、常々思っていることだ。

 

 今のこの、天城ミオの助手としての生活にも、とても満足している。

 

 けど最近は、何か胸に引っかかるものがある。

 

 「なにをそんなに悩んでいるんだ?」

 「え?」

 「なにをそんなに悩んでいるんだ、と言ったんだ。」

 「なにを、って?」

 「仕事内容に何か不満があるとか、給料の支払いに不服があるとか?」

 「そんなことは全然。」

 「じゃあ、他にはあるのか?」

 「ん・・・。」

 

 そのことはミオさんにはお見通しだったようだ。今日片づけておきたい仕事って、このことかな?

 

 「すごく、バカげた話なんですよ?」

 「賢い君が考えていることは、バカじゃないことってことだ。聞かせてくれ。」

 「そうですか?」

 

 「最近、夢を見るんです。」

 「夢?将来の事か?」

 「そっちじゃなくて、目を閉じてみる夢です。」

 「ああ、予知夢というやつかい?」

 「予知夢、とも違うんです。別の人生を体験する、ような夢なんです。」

 「別の人生?」

 

 「僕が、ここ(ブルーコメット)じゃなくてGIRLSで働いてる夢です。色んな怪獣娘さんと出会ったり、仲良くなったりするような、今とは違う人生・・・あ、別に今が楽しくないとか、そういうわけじゃないですよ?」

 「そうだと嬉しいよ。それで?」

 「それで思ったんです。平行世界(マルチバース)の観点から言えば、その夢の中で見た人生も、平行世界の自分としてありえると思うんです。けどひょっとしたら、『今の僕は夢の中にいる』んじゃないかとも思ったりして・・・。」

 「『胡蝶の夢』というやつか。」

 「そう、それに、もしも違う人生だったら、出会えたりした人や経験もあるのかな、とも思ったら、世界の広さを感じてしまったり・・・あ、再三ですが、別に今の人生が楽しくないとかそういうわけでは。」

 「わかってる、それはわかってるさ。けれど、『そっちの世界』についての未練や興味あるっていうことだろう?」

 「そう・・・ですね。」

 「成程なぁ・・・。」

 

 普通の人なら『何言ってんだお前』と流されそうな与太話にも、ミオさんは真摯に向き合ってくれる。そういう人だから、この人についていきたいと思えたんだが。

 

 「では逆に考えてみよう。そっちの人生でも、君は私と会えただろうか?」

 「会えは・・・したと思いますよ。所属はGIRLSですから。」

 「では、こういうのは・・・どうかな?」

 「えっ・・・ちょっ・・・。」

 

 突然、ミオさんは腕をシンジの首筋に伸ばして、抱き寄せてきた。

 

 「この感触が、暖かさが、泡沫(うたかた)の夢幻だと思えるかな?」

 「いえ・・・そんな・・・。」

 「私もそうであって欲しいと思う。君の心と体を通して出ているこの力が、本物であってほしいと願っている。」

 「えっと、所長・・・。」

 「ミオと、今は呼んでくれ。」

 「ミオ・・・さん・・・。」

 「こんなタイミングで、こんな形でしか表現できないが、言わせてくれ。」

 

 

 

 

 「私は、君が好きだ。賢くて、可愛くて、何事にも懸命な君が好きだ。」

 

 「ミオさん・・・。」

 

 シンジは、ギュッと抱き返すことしか出来なかったが、それだけで十分であった。

 

 「嬉しいよ・・・シンジ君・・・私が君の元を訪れた時、君が私の元に来た時、こうすることを望んでいた・・・愛しいよ・・・。」

 「僕も・・・ミオさんのこと・・・。」

 「うん・・・ありがとう。」

 

 

 

 

 「さっきの続きですけど。」

 「うん?」

 「たとえ別の選択や、人生があったとしても、僕はそれを羨んだりはしてませんよ。」

 「それは?」

 「今こうしていられることが、とっても幸せですから。」

 「そうか・・・私も幸せだ・・・。」

 

 指と指を絡め合い、ここにある確かな絆を確かめ合う。

 

 「でもやっぱり夢なんじゃないかと思うなぁ。」

 「なんで?」

 「今まさに夢みたいな状況ですから。目覚めたらキツネやタヌキに化かされてるんじゃないかと。」

 「むっ、ひどいじゃないか。」

 「あいたっ!」

 

 戯れにミオはシンジをベッドから突き落とす。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「あいたっ!」

 

 シンジは床とキスをした。

 

 「いってて・・・。」

 『お目覚めですか、シンジ様?」

 「あっ・・・うん・・・あまりいい目覚めではないけど。」

 

 この感触は自室の天井とも、GIRLS付属の病院の天井とも違う。もう少し狭い部屋だ。

 

 『あと1時間ほどで日本に到着となります。迎えの手配も整っております。』

 「ああ・・・、ありがとう。しかし、まさか自家用ジェットまで保有してたなんてな。」

 

 アメリカでの留学を終え、ソウジの所属するグループが所有する超音速ジェットに乗って、単身日本へと戻っている最中だ。巡航速度は驚きのマッハ3、かの超音速旅客機コンコルドの1.5倍のスピードで、東京~ワシントン間をおよそ3時間で移動できる。ジェット気流の影響で、その数字通りというわけにはいかないが。

 

 「あつ~いお茶でも飲むか。」

 

 勿論、機内は至れり尽くせりの家具家電完備。高級ホテルのワンルームのような装いだ。その内装には似つかわしくない渋い湯呑にアッツゥ~イ昆布茶を淹れて、窓際の椅子に座って雲を見下ろす。外に広がる雲海は、まるでクッションのように受け止めてくれそうだ。もちろんそんなことをすれば、今度は地面と熱烈なキッスをするはめになるが。

 

 「・・・さて、荷物の用意しておくか。」

 

 本機はただ移動の足として使われて、さっきまでは仮眠をとっていたので、広げるような荷物もない。ただ、手荷物の中に忘れ物が無いかだけは確認しておく。

 

 「えー・・・っと、これはある、これもある・・・あと手帳は・・・あったあった。」

 

 ベッド脇のチェストの上に、手帳がひとつ置いてあった。留学に旅立つ前、ベムラーさんから貰ったものだ。自分の目で見た物、感じた物をひとつひとつ記していく、日記のようなものだ。手に取って、それまでのことを思い出すようにパラパラとめくっていくと、あるひとつのページに目が留まった。

 

 「こんなの書いたっけ?」

 

 つけられた題は『マルチバースとガリバーについて』。相当疲れていたか、それとも酔っていたのか、線がふにゃふにゃで読みにくい。到着までの時間、清書がてら読み直してみることにした。

 

 「ガリバー旅行記において、ガリバーは様々な国を旅した。本来それは風刺として書かれたものであるが、ひょっとするとガリバーは様々な平行世界(マルチバース)を旅していたのかもしれない。」

 

 ここまで読んで思い出した。そう、アメリカのGIRLS支部で出会った、大学教授もしている高山博士と話をする機会があった。その時、僕はよく見る不思議な夢について話したんだった。ミカと別れた過去を思い出させる夢や、シャドウマンの出現の予知夢、アイラへの不安から見た悪夢、大事な出来事の前には決まって必ず夢に見ていた。

 

 そのことを高山博士に相談したとき、博士が引き合いに出したのがガリバー旅行記の話だった。ガリバーが様々な国を歩いたように、僕も夢の中で様々な平行世界を体験していたんじゃないか?そういうことらしい。

 

 「それは、平行世界からの『警告』なのかもしれない。今この平和を壊しちゃいけないという危険予知だ。」

 

 「それともう一つ。平行世界の自分自身について。」

 

 僕だけじゃない、他のみんなも含めて、平行世界にもそれらは存在しているはずだ。ある一点の違いだけで、それぞれの人生は違う道をたどっていたことだろう。とすれば疑問が沸く。それらは僕たちと同一の存在であると言えるのだろうか?極めて非常に極端な言い方をすれば、名前が同じで、プロフィールも同じ人間は、果たして同一人物だと言っていいのだろうか?

 

 平行世界の内の僕には、いいやつもいればきっと悪いやつもいる。いつか()の僕も、そんな悪い僕に侵食されるんじゃないだろうか?という疑問が沸いた。

 

 「端的に言えば、答えはノーだった。」

 

 高山博士は、グラスを手に持って言った。『このまま手を離せば、このグラスは割れる。』、床は固い、プラスチック製でもない限り間違いなく割れるだろうと思った。

 

 『でも、それに意志が働けば?』、床にグラスが落ちるまでに、空いた手でキャッチしてみせる。大切なのは、『変えようとする意志』だ。変わる点(ターニングポイント)を待つんではなくて、チャンスを自分から作っていくんだ。

 

 では、そうするためにはどうすればいいのか?と問うと、その答えをもう君は出している、と言ってくれた。

 

 「この世界は絶対に滅んだりしない、未来を信じている限り。」

 

 予言はあくまで予言でしかない。それを基に、未来をどういう形にするかは僕たち次第だ。高山博士は、曇りの無い瞳でそう言い切ってくれた。このページはその言葉で締めくくられている。

 

 「いい人、だったな・・・。」

 

 まだ若いのに、量子力学や物理学の分野において天才的な頭脳を発揮しているそうだ。シンジは知る由もなかったが、今乗っているジェット機や、シンジの家の空飛ぶ車の基礎を作ったのも高山博士だった。それでいて、お高く留まってはおらず、常に子供のように好奇心を募らせている、夢のある人だった。もう一度会いたいな。

 

 「さて・・・そろそろ時間か。」

 

 機体の高度も大分下がってきているようだった。雲を抜け、眼下には緑が広がって見える。

 

 『本日は、星川航空をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。まもなく着陸いたしますので、ご着席のうえシートベルトをご着用ください。』

 

 アナウンスが流れてきた。いよいよ故郷の地だ。手荷物や備え付けの湯呑などを棚に仕舞って、席に着く。この瞬間が一番緊張するが、パイロットの腕は信用している。この道20年以上のベテランパイロットで、そのお父上も同じ仕事をしていたそうだ。もっとも、お父上の乗機はセスナ機で今はパイロットは引退して、そのころ体験した不思議な出来事を小説にしたためているそうだとか。

 

 「ん・・・ついたか・・・。」

 

 タイヤが滑走路を擦る感覚を感じてから、徐々にスピードが落ちていき、最後には景色も動かなくなった。どうやら周囲を緑に囲まれた個人用の滑走路らしい。

 

 「長旅お疲れさまです。足元お気をつけてどうぞ。」

 「ありがとうございます、素敵なフライトでした。」

 

 素敵なパイロットさんと握手を交わし、タラップを降りる。ちょっと湿っぽい空気が顔にぶつかって鼻をくすぐる。

 

 「シンジ様、お迎えに参りました。」

 「おかえり、シンジ君。」

 「ただいま、チョーさんにベムラーさんも。」

 

 懐かしい顔がみえた。しょっちゅう連絡は取り合っていたが、こうして直に会えるのとは違う。

 

 「シンジ君、すこし逞しくなったんじゃないか?体格がこう、がっしりしている。」

 「そうですか?結構向こうでも鍛えてたのでそのせいかも。本場のルチャ・リブレも学んできましたよ。」

 「ルチャ・リブレはメキシコじゃないかな?」

 

 中南米で盛んに行われているプロレスの形態のひとつ、それがルチャ・リブレだ。軽快に跳びまわるアクロバティックな動きが特徴的だ。すばしっこいシャドウに対しては有効な戦術となりうるし、何より見た目も派手でカッコイイ。

 

 「それに色んなガジェットも作ったし、色んな人と話もしました。」

 「肝心のお父さんとは会えなかったみたいだけど?」

 「そうなんですよ!どうやら入れ替わりでフィリピンに行ってたみたいで、一体なんの為にアメリカに行ったのか・・・。」

 「でも、おかげで安心したんじゃないのか?会わなくて済んだって。」

 「それは、まあ・・・。」

 

 荷物を車のトランクに詰め終わり、後部座席に座ると、間もなく車はチョーさんの運転で発進した。

 

 「ふわ・・・あぁ。」

 「シンジ君、眠そうだな。時差ボケがまだ抜けてないんだろう?」

 「仮眠はとったんですけど・・・途中で目覚めちゃいまして。」

 「また夢でも見たのかい?」

 「いや、ベッドから落ちたみたいです。」

 「ああ、その顔の痣はそれだったのか?」

 「あざ?」

 「鏡見ろ鏡。」

 「え?うわっ、なんだこれ。」

 

 ミラーで確認すると、シンジの右目の周りには痣が出来ていた。かっこ悪い。

 

 「まあ、その内消えるかな・・・ふわぁ・・・。」

 「少し眠ったらどうだい?都心まで少し時間がかかるぞ。」

 「そうさせてもらいます・・・。」

 「どれ・・・。」

 

 ベムラーさんは、ポンポンを膝を叩いてアピールしてきた。

 

 「いいんですか?」

 「どうぞどうぞ、減るものでもないし安いものだ。」

 「じゃあ、遠慮なく・・・。」

 

 バイク乗りらしく、引き締まった太腿だ。しかしそこから香るほのかな汗の匂いが、フェロモンとなってトリップさせるのか、シンジはすぐに眠りに落ちた。

 

 「・・・かわいいな、君は。」

 

 自らの脚に横たわる少年の頬をそっと撫で、腰に据えたバックパックにへと手を伸ばす。

 

 「人の日記を盗み見るようで申し訳がないが、そういうものを探るのが探偵という職業だし、それにこれは元々私があげたものだから構わないね?」

 

 答えは聞いてないけど。と心の中で呟いて、そのページを開く。チョーさんは運転に集中しているし、誰も咎めはしない。

 

 もっとも、これは『仕事』としてではなく『個人的』な調査であるが。

 

 「気に入った相手のことは、なんでも知りたくなる。そうだろう?」

 

 何を言ったところで、当の本人はスゥスゥと寝息を立てているだけで、聞こえてはいないようだが。

 

 安全運転で2時間はかかる道を、1台の車がゆっくりと進んでいく。『星川航空』の看板を背にして・・・。

 

 




 アニメ2期も終わっちゃったし、そろそろこの作品にもガッツ星人さんとかが出したいと思う一方、キャラを増やしたところで見せ方がなってないと反省している最中です。もっと多角的に、色んなキャラの視点で物語を進めるべきだよなぁ・・・と考えています。

 感想、評価などお待ちしております。

 

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