怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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 ちょっとだけ作品タイトル変えました。果たしてこれしか思い浮かばなかったのか。

 というか、よくよく考えたら作品説明文も大分間違っている。そうとう不可思議空間だぞこの世界。


大変!キョウダイが来た!

 やめて!わたしのために争わないで!

 

 漫画とかでよく見る台詞だ。どんな漫画にあったシーンかはよく思い出せないがさておき。しかしこの場面の中心で叫んでいるキャラクターは相当腹黒だと思われる。二人の人間が、自分を取り合って争うさまを眺めながら悦に浸っているように見える。

 

 「双方、矛を収めよ!家主の御前であるぞ!」

 「シンちゃんはちょっと黙ってて。」

 「・・・。」

 

 いつになくビリビリとした殺気を立てるミカと、もうひとり。ゴゴゴゴゴ・・・と無言の威圧感を醸し出すのは、謎の少女。

 

 「説明しよう。」

 

 今からおよそ2時間前のこと。応接室にやってきたシンジは、その来客に会った。

 

 「お待たせいたしました。」

 「・・・。」

 「どうも、こんな朝早くから・・・。あなたは、たしか。」

 「・・・。」

 

 なにを言っても黙りこんでいるが、父の写真に写っていた少女。写真と同じ、白いワンピースを今は着ている。

 

 目を引いたのは、その瞳だった。まるで生気を感じない、深い海溝の底のような暗さがあった。じっと見ていると吸い込まれそうな深淵がそこに開いていた。髪は黒と白でグラデーションかかったような色をしている。長くもなく、短くもない長さだが、とても綺麗な艶をしていた。

 

 ただ、彼女は不思議な雰囲気を醸し出している。写真で見た時よりも、ずっと引きよせられるような魅力があり、それがかえって怖かった。いかんいかんと、邪な考えを打ち切って席に着く。

 

 「それで、なんの御用?父は一緒ではない?」

 「・・・。」

 「手紙?」

 

 スッと一通の手紙を差し出してきた。封を切ると、そこに書いてある字は、以前の父からの手紙のものと同一の物であった。

 

 「えーっとなになに・・・『その子の名前はアイラ。お前の義妹になる。私は好きにした、君らも好きにしろ。』・・・どうしろっちゅうじゃい。」

 

 パーン!と手紙を投げ捨てる。と、したところですぐに拾いなおして読み直す。

 

 「えーっと、君はアイラって言うんだね。」

 「・・・。」

 「なんかリアクションが欲しい。」

 「・・・。」

 「なにか食べる?」

 「・・・。」

 「困ったなぁ・・・。」

 

 とりあえず、チョーさんに何かつまめるものを出してもらい、なんとかコミュニケーションを図る。しかしこうも無反応では、言葉が通じているのかすら怪しいぐらいだ。

 

 「『好きにしろ』って言われても、どうすりゃいいのか・・・。」

 「おまたせ致しました、ラスクとフルーツ盛りと、こちらコーヒーとなっております。」 

 「ありがとう・・・ミカンなんてあったっけ?」

 「こちらのミカンは、ソウジ様からのお土産です。」

 「ミカンねぇ、愛媛にでもいるのかな?」

 

 以前リンゴを送ってきたこともあった。その前はイチゴだったか。だったらメロンをよこせ。

 

 丁寧に皮を剥かれ、ヒゲまで取り除かれたミカンを一房ひょいと口に放り込むと、爽やかな甘みと程よい酸味が合わさったジューシーな果汁が広がる。サクサク食感のラスクも、コーヒーとあわせておいしい。ついさっき軽めの朝食をとったが、これならどんどんいける。

 

 (おや?)

 

 ふとアイラを見ると、アイラも口を動かしていた。少し不思議なのは、ミカンばっかり食べて、ラスクや他のフルーツに手を出していないということ。この差は一体なんだろう、不思議だ。

 

 「ひょっとして、父の寄越したものしか食べないの?」

 「・・・。」

 「また反応なし・・・。」

 

 ますますわからん。彼女は一体どうしたのか?父は僕に何をさせたいというのか?そして僕は何を見落としているのか・・・?

 

 「・・・そうだ。」

 

 肝心なことを忘れていた。人と人が出合って、まずしなければならないこと、それは

 

 「こほん、挨拶がまだでしたね。僕は濱堀シンジ、多分知ってる思うけど、濱堀ソウジの息子です。よろしくね。」

 「・・・! 私、アイラ、よろしく・・・。」

 

 どうやら、これが正解だったようだ。南国の海のような透き通った声で返してくれた。挨拶は大事、古事記にもそう書かれている。

 

 「アイラ、綺麗な名前だ。どうしてここに来たの?」

 「シンジに会いに行けって、パパが。」

 「パパ?!パパなんて呼ばせてるの?!いやまあそれはいい・・・僕に会って、それでどうしろって?」

 「わからない・・・。」

 「それじゃあ、僕も何をしてあげればいいかわからないな・・・。」

 

 なら、予定していたことをやればいい。まずはGIRLSに行こう。そこでアイラが何の怪獣娘なのかもわかるし、ソウルライザーだって渡せる。

 

 「よし、じゃあさっそく・・・。」

 「おなか、すいた・・・。」

 

 キュルルルッと腹の虫が鳴いて、情けない声でアイラが呟いた。

 

 「あー、じゃあ何か食べようか?チョーさん、何か適当にお願い。」

 「承知いたしました。」

 

 今度はおつまみ(・・・・)とは違うちゃんとした料理が運ばれてきた。パンにハムエッグにフルーツを添えて、そしてスープ。しかし目の前に運ばれてきた馳走に、アイラはなかなか口を付けない。

 

 「・・・。」

 「ん?どうぞ召し上がれ。」

 「・・・! いただきます!」

 

 どうやら、言ってあげないと食べないらしい。けどさっきミカンは食べていた。

 

 「ミカンだけは、自分が持ってきたもの、だからかな?」

 「ふご?」

 「ああ、食べてていいよ。ちょっと考え事してくる。」

 

 考え事をするにはトイレに籠るに限る。公衆トイレというのは、公共の場でありながらプライベートが約束される最高の場所である、と誰かが言っていたような気がする。

 

 最も古いトイレは、古代メソポタミア文明にあったと言う。しかもその当時ですら水洗式であったとされる。ろくに下水道が整備されていなかった14世紀のヨーロッパでは、ペストが大流行して大勢の死人が出た。たかがトイレと侮ってはいけない。

 

 「本当につまらない(・・・・・)話で尺なんか稼いでいるバヤイか。」

 

 いつでも綺麗な水が蛇口から出てくることは、とても幸せなことだけど、そんなこぼれ話は全て水に流して、本題に戻ろう。

 

 「ただいまー、ってまだ食べてるの?」

 「ふがっ。」

 「ところでひとつ気になってたんだけど、アイラなんか磯臭くない?」 

 「・・・。泳いできたから。」

 「泳いでって、どこで?」

 「海。」

 

 アザラシかなにかか?何年か前に東京の川で野生のアザラシが目撃されていたのを思い出した。

 

 「そのままだと不衛生だから、後でお風呂に入ってきなさい。」

 「いいの?」

 「いいもなにも、ここはアイラの家でもあるんだよ?同じ父を持つなら、キョウダイってことになるし。」

 「キョウダイ・・・。」

 「僕がキョウダイじゃ嫌だった?」

 「ううん、そんなことない。うれしい。」

 

 そういえば、一人っ子だった僕は、小さい頃弟や妹をせがんだことがあったっけ。それが今こうして叶ったわけだけど。あまり望まぬ形で。

 

 「ごちそうさま。」

 「綺麗に食べたね、よろしいおあがりで。」

 

 ご飯を食べさせて、次にお風呂に入らせて、それからGIRLSへ連れて行こうとなった。

 

 「今のうちに先に連絡だけ入れておこうか。」

 

 いきなり行っても準備も何もないだろう。ソウルライザーも用意しておいてほしいし、アイラがどんな怪獣娘なのかも調べたい。とりあえずいつもの教授と・・・それからベムラーさんにも連絡しておこう。

 

 「・・・ベムラーさん、出ないな。仕方がない。」

 

 とりあえずGIRLSの方には連絡が付いた。いつでも来てくれたらいいとのこと。

 

 「シンジ様、アイラ様のお召し物はいかがいたしましょうか?」

 「服?・・・あっ、そうか女物の服なんて置いてないぞ。」

 

 ワンピースも磯臭いので洗濯させてしまった。なんというウカツ!とりあえず仮にワイシャツを着せておくものとして、それではあんまりなので代替策を練らねばならない。

 

 「うーん・・・どうしたものか。」

 

 ていうか、なんか忘れてるような気がする。

 

 「なにか身震いのするような、恐ろしいことを忘れているような・・・。」

 「とうとうバレンタインネタを入れそこなったこと?」

 「はてさてなんのことやら・・・。」

 「ホワイトデーは3倍返しだよ!」

 「0には何掛けても0だよ。」

 

 貰っていないもののお返しなどできるものか。今話している人物は、インターホンすら鳴らさず入ってきていたが。

 

 「おはよう、ミカ。ちょうどいいところに来てくれた。」

 「おっはよーシンちゃん!なにがちょうどいいの?」

 「さっそくだけど、ミカの服が欲しい。」

 「え・・・やだ・・・ちょっとこんな朝からそんな///」

 「君は何か勘違いをしている。勘違いするような言い方をした僕が悪いんだけど。」

 「ところで、なんか磯臭くないこの部屋?」

 「それなんだけど、実は・・・。」

 

 タイミングがいいのか悪いのか。件の人物がやってきた。そう、今日は元々ミカとのデートの約束の日だったのだ。

 

 「ほ?じゃあ今新しい怪獣娘がいるんだ。ぜひとも仲良くなりたいね!紹介してよ。」

 「うん、そうなんだけどまず服をね・・・。」

 「シンジ・・・これ似合う?」

 「あー・・・すごく・・・マズイです・・・。」

 「ほ?」

 

 と、ここで冒頭のシーンに戻る。ミカは身構えている一方、アイラは動かない。

 

 「ねぇ、どうしてそんなに殺気立ってるのミカ?」

 「シンちゃん・・・そいつ(・・・)なんか危ないよ?」

 「今のミカの方が危ないと思うけど?どうどう。」

 「なんなの、そいつは?」

 「さっき言った怪獣娘の子だよ、名前はアイラ。僕の義理のキョウダイになったんだ。」

 「キョウダイ?家族ってこと?」

 「そう。」

 「私よりも先にシンちゃんの家族になったって?」

 「は?」

 「なんでもない。とにかく、危険だよその子は。『ゴモラ』がそう言ってる。」

 「危険だったら、なおさらほっとけないでしょ?」

 「・・・。」

 

 半分は納得したように、渋々構えを解いた。振り返れば、アイラは少し震えているようだった。

 

 「アイラ、驚かせてゴメンね。こいつはミカ、僕の幼馴染、悪い子じゃないんだ。自己紹介してあげて?」

 「・・・アイラ、よろしく。」

 「黒田ミカヅキ・・・さっきはごめんね、私もちょっと驚いただけだから。ゴモラ、ゴモたんって呼んでいいよ。」

 「・・・ゴモラ!よろしくね。」

 「・・・うん、よろしくね。」

 

 ミカの差し出した手にアイラも応え、ミカの表情も明るくなった。

 

 「シンちゃんが信じるなら、私も信じるよ。」

 「ありがとう、ミカ。」

 「それより、女の子にこんな格好させてちゃダメでしょ。マニアックだなぁシンちゃん。ていうかこのシャツ、シンちゃんのだよね?」

 「決してやましい気持ちはないぞ?だからミカの服を貸してほしかったんだよ。」

 「わかってるよ、適当にいいの見繕ってくるから、待ってて。」

 

 そういって出かけてから、ものの数分で帰ってきた。

 

 「おまたせ!アイラにはスカートの方が似合うかな?」

 「アイラ、着てくれる?」

 「わかった。」

 

 衣料が色々入った鞄を持って、奥の部屋へ消えていった。

 

 「あんなにいっぱい服持ってくる必要あった?」

 「だって、女の子なら色んなの着たいでしょ?シンちゃんわかってないなー。」

 「はいはい、どうせ女心は把握できてませんよ。」

 「ホントにねー・・・。」

 

 はぁ・・・とミカはため息をついた。しばらくしてアイラが戻ってきた。

 

 「どう・・・かな?」

 「いいじゃん、かわいいよアイラ。」

 「うん、似合ってるじゃん、さすが私の見立て通り!。」

 「ありがとう・・・。」

 

 先ほどまで来ていた白いワンピースとは違う、赤紫なタイトスカートとニット服の組み合わせ。落ち着いた雰囲気のお洒落な着こなしだ。

 

 「っていうか、ミカがこんな服持ってたのが意外だったかな。今まで着てたところ見たことないし。」

 「だって、私は今のこの服の方が好きなんだもん。」

 「なら、今度着て見せてよ。」

 「うん、いいよ。」

 「うーん・・・。」

 「どうしたのアイラ?何か問題でも?」

 「ちょっと、苦しい・・・胸が。」

 

 カッチーンと、何かが弾ける音がした。

 

 「やっぱ敵だわこの子・・・。」

 「ミカ、なにもそんな青筋立てなくってもいいだろ?」

 「どうせシンちゃんは巨乳の方が好きなんでしょ!エレちゃんといいレッドちゃんといい!」

 「いやぁ・・・そんなことは・・・ないよ?」

 「目を見て話せコノー!」

 

 この後、ヘソを曲げてしまったミカを宥めるのに時間がかかり、GIRLSに到着したのは昼前の事であった。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「やっと終わった・・・。」

 「これが、ソウルライザー・・・。」

 

 急遽ピグモンさんがセットアップしてくれたおかげで、難なくスムーズに話が進んでくれた。だがまだ肝心なことが残っている。

 

 「一体アイラは、なんの怪獣娘なのか・・・。」

 

 ベムラーさんの言うことには、ジラースに似てるそうだけど、それだけではないのかもしれない。もっと色々な可能性を論じてみたほうがいいだろう。

 

 「三人集まれば文殊の知恵とも言いますしね。」

 「もんじゃ?」

 「違う。」

 「もんじゃよりお好み焼きがいいと思うな!」

 「勝手にしろ!」

 

 船頭多くして舟山登るという言葉もあるがさておき。ひとまずいつものメンツに集まってもらった。集まってもらったというより、自主的に集まってくれたというのが正しいが。

 

 「新しい仲間となら、早く仲良くなりたいしな!」

 「ピグモンもそう思いまーす!」

 「調査よ。」

 

 「しかし、アイラが元はどんな怪獣だったのか、皆目見当がつかないけど。どうしたもんかな・・・?」

 「?」

 「どうすればいいかって?それはもちろん綺麗なものをたくさん見て、おいしいものをたくさん食べるんだよ!」

 「まあ、そうしたら仲良くはなれるかな?」

 

 どっちかっていうと友達(フレンズ)になるためのフレーズのようだけど、今はそれでいいだろう。日常のふとしたことに、きっかけが見つかるかもしれない。

 

 「アイラの好きな食べ物ってなに?」

 「・・・クジラ。」

 「シブいもん食ってるなぁ・・・。」

 

 専門店とか、北海道とかに行かないと食べられないんじゃないかな?

 

 「好きな歌は?」

 「・・・歌は知らない。」

 「じゃあ趣味は?」

 「・・・ない。」

 「じゃあ、これから作ろっか!」

 

 「よーし、じゃあまずは景気づけってことで・・・。」

 「ことで?」

 「一発芸いってみよー!ミクちゃんが!」

 「えっ、アタシ!?」

 「直球勝負の私だって、たまにはボール玉も振るよ!」

 「アタシ牽制球かよ・・・。」

 「一発芸って?」

 「なにかギャグを言えってこと。」

 「・・・ギャグならひとつ知ってる。」

 「おっ?アイラまじ?やってみてやってみて!」

 (助かった・・・のかな?)

 

 皆が固唾をのんで見守る中、中央に立ったアイラは、その場で飛び跳ねて、

 

 「シェー。」

 

 「古っ、いや逆に新しいか?」

 

 何度もピョンピョンとしながらやる姿は、驚いたポーズというよりも勝利の舞かなにかのように見えた。

 

 「アイアイぴょんぴょんしてますねぇ、ピグモンもぴょんぴょんするですぅ!」

 

 ぴょん、ぴょーん!とウサギのようにいっしょに跳ねまわって遊んでいる。それにしてもアイアイって、南の島のおさるさんさか。マダガスカルに生息するそのおさるさんは、童謡のような愛らしいものではなく、現地住民からは『悪魔の使い』として恐れられ、中指が異常に長いという非常に冒涜的な生物であることは割と知られていることである。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「ごめんね、本当に。」

 「なにが?」

 「今日の約束、守れなくって。」

 「ああ、なんだそんなこと。気にしてないよ、しょうがないって。」

 

 買い物したり、買い食いしたり、遊びまわって日が暮れた。ごくごく普通の子供らしい日常を満喫できた一日だった。

 

 「アイラ、いい子だね。」

 「最初はあんなに邪険に扱ってたのに?」

 「あれは・・・なんて言うんだろうね、怪獣娘の勘ってやつが働いたのかな。」

 「単純な嫉妬心とかじゃなくて?」

 「それは・・・どうかな?」

 

 そうは言ったが、ミカの言うことにも一理あるだろう。なんせアイラは、一国を滅ぼしたという謎の怪獣娘だから。結局今もアイラの正体について何も掴めていない。

 

 「けど、やっぱりはアイラも同じなんじゃないかな、私たちと同じ。」

 「ただの(・・・)怪獣娘?」

 「ただの女の子ってこと。」

 

 河原の土手に腰かける2人から離れた場所で、アイラを含めた彼女たちがバトミントンで遊んでいる。

 

 「えいっ。」

 「アイラさん、上手い。」

 「ミクさんお願いします!」

 「あいよー!」

 

 水面も大地も朱に染まる夕焼けの光の中、一分一秒でも長く共にいることを楽しんでいる。しかしそれもそろそろ終わる時間だ。

 

 「もう暗くなるから、そろそろ帰ろうぜ。」

 「帰ってアニメを見る時間だわ。」

 「よい子は『夕焼け小焼け』が聞こえてきたら帰るんですぅ。」

 

 夕焼け小焼けで日が暮れて。全然関係ない話だが、光の国と姉妹都市提携しているある市では、夕方には夕陽の似合う巨人のテーマが流れているらしい。

 

 「アイラ、帰ろうか。お家に。」

 「帰る・・・。」

 「アイラさん、また明日ね。」

 「また明日!」

 「また・・・明日・・・。」

 

 それぞれが帰路について、再びアイラと二人っきりになった。

 

 「また、会えるの・・・?」

 「また明日、一緒に遊べばいい。もう友達になったんだから。」

 「友達・・・。」

 「アイラは・・・。」

 

 他の友達はいるの?と聞こうとして止まった。アイラが何の怪獣娘なのかもそうだけど、アイラの過去もよく知らない。GSTEに酷い事されていたのかもしれない、辛いことだらけかもしれないと思うと、聞くのを躊躇ってしまう。

 

 GIRLSでは、そのことについての調査を命ぜられた。このまま正体不明のアンノウンとしているわけにも、当然いかない。GIRLSの掲げる『救助』と『指導』には、当然必要となる情報なのだから。

 

 いずれ聞くか、調べなければならないことであったが、その時はすぐに来た。

 

 「おかえりなさいませ、シンジ様、アイラ様。お客様がお見えです。」

 「ただいま。お客さん?」

 

 誰だろう?ひとまず荷物をチョーさんに任せ、応接室へと向かう。

 

 「来たね、シンジ君、そして、アイラという少女・・・。」

 「ベムラーさん、来てたんですか。」

 「君が留守電を残してくれたからな、急いで戻ってきた。」

 

 コーヒーカップを片手に、ベムラーさんは待っていた。シンジの後ろにいたアイラの姿を見やると、わずかに微笑んだ。テーブルにはミカンの皮もあった。

 

 「・・・。」

 「アイラ、この人はベムラーさん。同じ怪獣娘さんで、私立探偵をやってるんだ。」

 「ベムラーだ、よろしく。」

 「・・・アイラ、よろしく。」

 

 ベムラーさんが、目くばせをしていることに気が付いた。

 

 「アイラ、疲れたでしょ?先に休んできなよ。お風呂にでも入って。」

 「わかった。」

 「パジャマも、新しいの買ってたよね?チョーさん、あとよろしく。」

 「かしこまりました。」

 

 「これでよかったですか?」

 「察しがよくて助かるよ。これからもその調子で頼む。」

 

 「それで、君の父はなんと?」

 「この手紙の通りです。」

 「なんとも・・・大雑把な内容だな。」

 

 ベムラーさんもその内容には苦言を呈した。ベムラーさんの方も結構行き詰まっているところだったらしい。

 

 「居場所の手がかりどころか、本人が来てしまっては、これでは私立探偵の名折れだ。」

 「なら小説家にでもなりますか?」

 「考えておこう。それよりも・・・。」

 

 コーヒーを飲み干し、ソーサーに置いて本題を切り出す。

 

 「君はあの子をどうしたいと思っている?」

 「とりあえず、今日GIRLSに紹介して、彼女たちとも合わせました。それがベターだと思って。」

 「君自身の、意見としては?」

 「・・・あんまり、戦いとかとは無縁でいて欲しいと思ってます。いつも何かに怯えてるようで、とてもなにかと争ったりできるようには見えないんです。」

 「過去、一国一組織を滅ぼした実績があるけれど?」

 「それは・・・だからこそ、そうさせないためのソウルライザーで・・・。」

 「怪獣娘でいる限り、トラブルとは縁は切れない。力をコントロールさせるには、実戦を積ませることが有効じゃないか?」

 「そうはそうなんですが・・・本人がどう思ってるのか。」

 「いつ爆発するかわからない爆弾を、野放しにしておくわけにもいかないぞ?」

 「・・・。」

 

 そりゃあ、そうだけど。出来ればそうしたくないって思いが、胸の中がチクチクと刺さる。それをわかっていたのか、ベムラーさんは見かねて助け船を出してきた。

 

 「ところで、あの子は何日ぐらい滞在する予定なんだ?」

 「いえ、なにも聞いてません。ただ、明日すぐ帰るってわけでもないみたいです。明日も約束していましたから・・・。」

 「約束・・・。」

 「ただ、遊びに行くってだけですけど。」

 「なら、もう少し様子見でもいいかもしれないな。今日のところは、私も失礼するよ。」

 「・・・ごめんなさい、気を使ってもらって。」

 「いいさ、これでおあいこだろう?」

 

 ぱっ、と立ち上がり、帰り支度をしていくベムラーさん。

 

 「そうそう、それからもうひとつ。君の方は、なにか掴めたかい?」

 「ラボのパソコンのデータベースですか?少しずつなら紐解けていますが、アイラに関する情報は手付かずになってます。ロックがかかってるみたいで。」

 「ハックすることはできないのか?」

 「正規の手段以外で臨むと、破棄されるようになってるみたいで。それに、パスワードの入力も一回しか受け付けてないみたいで。」

 「一回か・・・それはキツいな・・・よほど覗かれたくないのか、それとも・・・まあいい。なにか進展があったら教えてくれ。」

 「はい、ベムラーさんも何かあったら言ってくださいね。」

 

 お土産がてらミカンをプレゼントして見送った。それにしてもミカンが多すぎる。絶対食べきれなくて底の方は腐るぞコレは。

 

 「オレたちは腐ったミカンじゃねえ!」

 「シンジ、どうしたの?」

 「なんでもない。パジャマかわいいね、似合ってるよ。」

 

 少し幼めな印象があるが、そもそもアイラの歳も知らない。けれど、ピンク色のかわいいやつだった。

 

 何度も言う、やっぱりこんなかわいい女の子が、凶暴な怪獣だとは思えなかった。

 

 「? シンジ、それ・・・?」

 「ん?ああこれ?ストラップだよ。手作りのだけど、ちょっとした優れものだよ。」

 「綺麗・・・。」

 

 透明なカプセルを金属のオリで包み、綺麗な球が埋め込まれている小さなストラップ。

 

 「そうだ、これをアイラのソウルライザーに付けておきなよ。お守り替わりだ。」

 「くれるの?」

 「うん、気に入ったんならあげるよ。」

 「ありがとう・・・。」

 

 アイラは、ストラップを愛らしそうに抱きしめた。

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 「ふわっ・・・あぁ・・・。」

 「眠そうだねシンちゃん。」

 「んー・・・昨日よく眠れなかったんで。」

 

 翌日。また今日も一緒にいる。

 

 「バディライザーの修理とか?」

 「そんなところ。もうこれでオッケーなはず。」

 「じゃあさっそく試してみないとね?」

 「そうならないことを祈ってるよ。」

 

 フレームを新しくして、ボディには新しくペイントも加えた。赤と銀でウルトラマンを意識した色合いにして、アクセントとして少々黒いラインも加えて引き締めた印象になった。

 

 「今日はどこ行くー?ていうか、アイラどこ行きたい?」

 「わからない・・・なにも私知らないから。」

 「では、アニだらけに行きましょう!アイラさんにもおまピトの魅力を・・・!」

 「ウインちゃん、さすがにそれはちょっと落ち着こうよ・・・。」

 

 一つ屋根の下にいて、少しわかったことがある。アイラには『過去』がない。忘れてしまったのか、それとも元から無かったかのように、昔の事を何一つ覚えていない。どこで生まれたのか、何が好きだったのか、何一つ思い出せない。あるのは、父と会ってからの事。

 

 だからだろうか。空っぽなアイラの心を、『ごく普通のの女の子』としてのピースを埋めるために、ここに来たんだろうか?

 

 でもそれ以上に、僕たちがアイラと築く思い出も重要となるんじゃないだろうか?

 

 「アイラのことを、絶対忘れないように・・・アイラを強く記憶に遺せるように。」

 「そうだね、じゃ、もっともっと仲良くならないとね!」

 

 相槌を打とうとした、その時であった。

 

 ズォオオオオオオオオオオオン・・・

 

 

 「なに!?」

 「爆発?敵襲?!」

 

 少し離れた場所から、爆発音が響いてきた。暴走した怪獣娘か、それともシャドウか、どっちにしろGIRLS出動の時だ!

 

 「シンジ・・・。」

 「アイラ・・・。」

 

 不安げな目で、アイラが事の成り行きを見ていた。皆は既に爆発のあった方へ向かっている。

 

 どうしよう、アイラも連れていくか?でもまだアイラは不安定かもしれない、戦いの場に連れ出すのはまずいかもしれない。

 

 じゃあ、僕だけ残る?・・・それも出来ない、というかしたくない。仲間のことより、何より自分も、戦いを見つめていたい。今後のことを考えるためにも・・・。

 

 「・・・アイラ、ここで待ってて。すぐに戻るから。」

 

 結局、どれがベストな選択かはわからない。けど悩んでいる暇もない、悩むぐらいなら走る。前からそうしてきたから、今回もそうする。

 

 「シンジ・・・!」

 

 怯えるアイラをその場に残して、シンジも走り出した。」

 

 

 

 

 

 1人に、させてしまった。

 

 

 

 

 「シンジ・・・イヤ・・・イヤだよぉ・・・。」

 

 アイラの背後に、忍び寄る影があった。

 

 

 

 

 

 

 「はやく片付いてよかったね!」

 「うん、はやくアイラのところに戻ろう!」

 

 幸いにも、現れたのは小型のシャドウが数体だけ。すぐに片がついた。

 

 「アイラ大丈夫かな?今になってやっぱり心配になってきた・・・。」

 「少し、無責任が過ぎるわよ?右も左もわからない人間を置き去りにするなんて。」

 「まーまー、さすがにアイラもこれぐらいなら平気だって、もう子供じゃないんだろうし。」

 「幼児体形のあなたが言うの?」

 「なにをー!いいもん、ハートはビッグだもん!」

 

 喋りながら走って、急いで戻ってきた。

 

 

 まずその眼に飛び込んできたのは、青い閃光。

 

 

 「ウソ・・・。」

 「アイラ・・・アイラ、どこ!?」

 「これ・・・アイラさんの・・・。」

 

 そして、原型すら留めていないアイラのソウルライザーだけが、その場に落ちていた。

 

 「これは・・・『壊れた』わけではなさそうね・・・。」

 「どうなってんの・・・アイラはどこに?まさか誘拐されたとか・・・?」

 「いや・・・いる・・・。」

 「いるって・・・?!」

 「感じるだろ、この感覚、『衝撃』・・・!」

 

 空気がビリビリと震える『不安感』や、腹の底から湧き上がるような『恐怖心』。

 

 

 

 

 

 『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 

 

 

 やがてアイラは姿を現した。

 

 「あっ・・・あぁ・・・。」

 

 そこにいたのは、全てを()くした少女でもなく。

 

 「なんて・・・プレッシャー・・・。」

 

 真っ白なキャンバスのようなキョウダイ(・・・・・)でもなく。

 

 「アイ・・・ら・・・。」

 

 

 

 

 

 一匹の、否、唯一無二なる『怪獣王』だった。




 ところで、ピグモンさんのつけるあだ名は基本皆ひらがなで表記されるのだけれど、この作品の上では皆カタカナ表記になっています。今更訂正するのも面倒くさいのでこのままで行きます。ご了承ください。

 ちょっと急ぎ足で書き上げたので、推敲が足りなかった部分があると思われます。少し落ち着いてから修正する予定です・・・。

 3/10追記:ちょっとだけ手直ししました。『しかし』とかの繰り返しには気を付けねばなりませんね・・・。

 

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