パチン、パチンと駒を進める音が病室に響く。二つ音がしてからやや間があって、一つ目の音が鳴るとすぐに二つ目の音が鳴り、また少し間が開く。
「・・・これで、どうだ?」
「はい。」
「んぐっ・・・。」
「どうする?」
「いいや、待ったはしない待ったはしない。・・・どうすっかな。」
うーんと唸るシンジに対して、余裕のあるアギラ。相変わらずの寝ぼけ眼が、次なる出方を窺う。
「・・・こうするしかないかな。」
「王手。」
「ぐわぁーん、だな。参りました。」
「と金をちょっと狙いすぎたね。」
「バレた?」
「バレバレだよ。」
「男を手玉に取るなんて悪い女ね。」
「何それ、意味わかんない。」
負けたシンジは折り畳み式の将棋盤を仕舞い、アギラは席を立って部屋の中を見まわす。
「それにしても、この部屋こんなに物が置いてあったっけ?」
「色んな人が来てくれたから、どんどん増えてったんだ。」
「そんなにいっぱい来て、迷惑じゃなかった?」
「全然、むしろ注目されて嬉しかったぐらいだよ。」
それも今日で終わりだが。およそ一週間、毎日検査が行われたが、これといって問題は見つからず、また起こらなかったため、今日で入院生活も終わりを告げることとなった。
「でもこんなに持って来られたら、返しに行くのも大変だね。」
「ほとんどは『くれた』ってことになってるけど。この漫画とか。」
「『おまピト』・・・ウィンちゃんから?」
「そう、全刊持ってこられてもなぁって。」
『少年ツブラヤ』の本誌は読んでいないが、どちらかというとおまピトと同じくツブラヤ連載の『マッスルマン』の方が好きだ。ミクラスも好きだったようで、その話でたまに盛り上がる。
「読んでみたら結構面白かったけどね。」
「そうなんだ。こっちのぬいぐるみは?」
「それはレッドキングさんとザンドリアスから。僕が特訓に来なくなった分、よけいにしごかれてるってザンドリアスが泣きついてきたんだよ。」
「はやく戻ってあげられるといいね。」
「うん、僕もそう思う。」
他にも色々来てくれた。GIRLSで出会った怪獣娘さんたちや、お偉いさんがたも。今もこうしてアギさんが来てくれた。
「荷物はこれでおっけーっと。」
「忘れ物ない?」
「大丈夫、あっても取りに来れる場所だしへーきへーき。」
病院を後にし、帰路に就くこととする。
「・・・。」
「どしたの、アギさん?忘れ物した?」
「いや・・・そんなんじゃないんだけど・・・。」
アギラの見つめる先にあったのは、赤くそびえ立つ塔。東京タワーである。
「タワーがどうかしたの?」
「なんか・・・嫌な予感がしてて。」
「嫌な予感?」
「前もこんなことがあって、その後シャドウが現れたから・・・。」
「虫の知らせか・・・。」
東京タワー、色んなことを思い出させられるのは言わずもがな。
「あそこで、アギさんに助けられたんだよね、僕は。」
「ん?」
「いやさ、色んなことあったけど、あそこでの体験が一番キツかったかもって。」
「展望台から落ちたもんね、シンジさん。」
「でもアギさんが助けてくれたし。あの時の自分の情けなさといったら・・・。」
「そんなことないよ、あの時誰よりも早く動いたのはシンジさんだったじゃない。」
「でも、それ以降がダメダメだったし。」
「ボクだって、他に何かが出来たわけじゃなかったよ。せいぜいシンジさんたちが落ちた時の衝撃を少しだけやわらげられたぐらいだろうし・・・。」
「? 無事に着地できたのって、アギさんのおかげじゃないの?」
「ボクにはそんなことできないよ。」
「じゃあ、あの時感じた暖かい感覚はいったい?」
「それは・・・ボクも感じたかな。」
ちょっと、衝撃的だ。今まで勘違いしてたの?いや、もっと不思議なことに出会っていたのか?
「だから、シンジさんも特別な人間なんじゃないかなって、思ってたんだけど。」
「そんなまさか、ただの人間だよ僕は。」
「前はそうだったかもしれなけど、少なくとも今は違うよ。」
「・・・そうだね、僕の周りにはいろんなものが溢れてる。」
腰からバディライザーを取り外して見つめる。
「まずは、これを直すところから始めないとね。明日からまた頑張るよ。」
「うん、頑張ってねシンジさん。」
じゃあね、と別れた2人。
「嫌な・・・天気だな。」
「何かが起こりそう、とてつもない何かが・・・。」
だがその2人は、違う場所から同じところを見ていた。東京タワーの上に集まる、マガマガしい黒雲を・・・。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
この宇・・・球に危機が・・・いる
かつて我・・・戦った・・・の・・・が・・・
君に先行し・・・査・・・を・・・
わかりまし・・・輩方の・・・
「今度は、何の夢だ?いや、夢だったのか?いいや、それよりも・・・。」
深夜2時を周る頃だったろうか。自室で目を覚ましたシンジは、すぐさま研究室へと向かった。バディライザーをその手に持って。
「コレが・・・原因です。」
「何かの、部品ですか?」
翌朝、シンジがピグモンに提示したのは、指先よりも小さいチップだった。
「これは、バディライザーの中核ともいえる、『シンセナイザー』という部品だそうです。」
怪獣の魂とシンクロし、それを操ったり強化したりする、バディライザーの根源。その正体が、こんなちっぽけなチップだった。
「ここから逆に流れてくる怪獣娘の激しいエネルギーの奔流が、僕の体を痛めつけていた。簡単に言うとこういうことだったんです。」
「どうして、そんなことがわかったんですか?」
「夢で見た・・・って言ったら、笑いますか?」
自分が言っていることに、自分でバカバカしくなっている。正式な部隊であれば謹慎を命じられているような『ありえない』理由だった。だがピグモンさんは真剣な面持ちで聞いてくれている。
「最近・・・よくない夢を見てるんです。怪獣娘さんたちがみんな暴走したり、その暴走した怪獣娘さんを『裁く』光が現れたり。それで昨日見た夢が・・・。」
机の上に置かれたバディライザーをつつく。
「・・・ただの夢とも思えない、何か
「だから、戦うのをやめたいと?・・・ピグモンはそれでもいいと思います。」
「以前もこんなことがあって、その時もシンシンは戻ってきてくれました。」
「でも、ちょっと違うのは、前は周りの怪獣娘への危険を考えてのことでした。」
「今回は、シンシン自身の命に関わる問題です。だから、ピグモンには何も言えませんでした。」
「また辛い役割だったな、ピグモン。それだけ、信頼されてたってことなんだろうけどよ。」
「けれど、もしシンシンが戻ってきた時、ピグモンはこれを返せるかわからないです・・・。」
ピグモンの手にはシンセナイザーが握られていた。
「それに、シンシンが言っていた夢のこと。ピグモンも思い過ごしだと思えないんです。」
「怪獣娘が皆暴走する世界と、光か・・・。」
「このことは、誰にも言わないで欲しいのです・・・とくにゴモゴモには。」
「もう聞いちゃってるんだなぁ、これが。」
「盗み聞きなんて、いつからそんな悪い子になったんだゴモラ?」
「悪い子は私だけじゃないし?」
ぞろぞろと壁の向こうから人が出てくる。
「アギアギたちに、エレエレも。」
「別に立ち聞きしていたわけではないわ。たまたま聞こえてしまっただけ。」
「自分が止めたくせに・・・。」
「ミクちゃん噛みつかないの、ボクたちが出てったら余計シンジさん混乱させちゃっただろうから。」
「ゴモゴモは、シンシンのことで平気なんですか?」
「んー、私はむしろホッとしてるかなー。シンちゃんが戦いから離れてくれるのなら。」
「本当ですかぁ?」
「ホント。」
(本当にそうかな?)
ゴモたんがもしも喫煙者だったらタバコを逆さに咥えていそうなぐらい、アギラには動揺しているように見えた。いつも素直なゴモたんが珍しく己を隠している。半分は本心だから平気でいられるのかもしれないが。
「それにしても、シンジさんの見た悪い夢って・・・。」
「アギラの言う通り、東京タワー周辺に異常がないかチェックしているところだ。けど、そんなことしなくてもいいぐらいビンビンに感じてるぜ・・・。」
窓の外を見上げてみれば、昨日よりも暗い雲が巻き起こっている。
「事態が急変するのも時間の問題になりそうですね・・・。」
「これはもう用意しておいた方がよさそうだね。」
「避難準備も進めておいた方がよさそうね。」
思い過ごしであったならそれでよし、常に最悪の事態を想定して動く。
得てして現実は最悪の更なる上を行くのだから。
(シンちゃん・・・これでいいんだよね?)
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
その数時間後、観測所は東京タワー上空に異常なエネルギーの高まりを感知し、GIRLSもそれを受けて怪獣娘を派遣した。事前の用意もあり、避難は滞りなくすすめられた。
そんな喧騒から離れた河原に、シンジはひとり佇んでいた。天を指すようなビル群に挟まれたこの場所からはその騒ぎは見えない。
『観測史上最大規模のシャドウ反応です!』
『都外に散っている怪獣娘にも応援要請を!』
『現在避難状況は全体の70%。完全に避難しきるまで1時間ほどかかると思われます!』
「・・・。」
ビデオシーバーをオープンチャンネルに合わせて聞いていたが、その内にスイッチを切った。
「・・・どうしようか。」
切ったからと言って足が動き出すわけでもない。膝を抱えたまま川の水面を見つめる。ゆく川の流れは絶えずして。こうしている間にも、タイムリミットは刻一刻と迫っている。
今の自分に何ができるのか、そんなことはわかり切っている。けど、そこまで行ける勇気がない。それ以前に、果たしてその答えが最適解かもわからない。実際僕が行かなくてもなんとかなると思う。
ではこの心に重くのしかかる不安感は何だ?あの夢の意味は?
「怪獣娘の、暴走・・・。」
暴走という言葉が使われているが、はたしてそれは『暴走』なんだろうか?怪獣は元々強く、荒ぶる生き物だった。そりゃあ、モノによっては大人しいやつや、友好的なやつもいる。けれど、『初めてあらわれたゴモラ』が古代の眠りから覚醒し、暴れまわったように、『暴れている方が本来の姿』とも考えられるのだ。
あくまで『暴走』という表現は、人間の側から見た言葉、いわば人間のエゴなのかもしれない。
こうして考え事をしている間は、目の前の問題から目を背けていられる。
じゃあそろそろ現実に帰ってこよう。行くのか、行かないのか。行けないなんてことはない。自分には足が生えてるから。
「けどこの力を使ったら、ヤバいことになる。」
さっき考えた暴走の話、それが『本来の力を引き出す』ということならバディライザーとは合点がいく。解き放つことも、従えることも出来るこの力は、闇であり、光である。一つ間違えば、あの悪夢のような光景をも作り出せる諸刃の剣。触れてはいけないパンドラの箱。プロメテウスの火。禁断の力。
「これを使うことは、本当に正しいんだろうか?」
自分が危険に置かれるという意識はさらさら無い。ここで死ぬつもりもない。ただ怖いだけ。
自らの手で世界の破滅のトリッガーを引くことでも、戦いの中で自らの命を散らすことでもない。あの、絶対的な力を持った『光』が怖い。
「やっぱ・・・ダメ・・・だよな・・・。」
ビデオシーバーに当てていた手をどける。ここで待って居よう。呼んでいないくても、明日はやってくる。
「けど、自分の明日は自分でしか掴めないぜ?」
「えっ?」
いつの間にか、背後に人が立っていた。黒いコートに、帽子を被り、首から金属のなにかをぶら下げている、若い男性だ。しかしその立ち振る舞いには、長年旅をし続けてきたような渋さも感じる。
「限界を超えた時、初めて見えてくるものがある。掴みとれる、力が。・・・昔ある人から聞いた言葉だ。」
「限界を超えた時・・・。」
「あんたにも、越えたい壁があるだろ?叶えたい夢も、掴みとりたい未来も。」
そういって、男性は・・・その風来坊はビンを渡してきた。ごく普通のラムネだ。
「ありますよ、途方もなく遠い夢が、たっくさん。」
「たとえば、どんなだ。」
「・・・世界中の怪獣娘さんと友達になる事。」
「素敵な夢じゃねえか。」
カポン、っとラムネを開けて飲む。ずっと昔、ミカとも一緒に飲んだことがあったっけ。その時と変わらない味だ。
「けど・・・僕に与えられたのは、『闇』なんです。人が手にしてはいけない、振るっちゃいけないような、禁断の力なんです。そんなの、僕みたいな軟弱物が使っていい権利も無いんです。」
「力には『権利』なんてないぜ、あるのは持つべき『責任』だ。一度生まれた力なら、いくら地の底奥深くに埋めようと、いずれ誰かが掘り返す。そいつが『責任』を負えるとも限らない。」
「だとしても・・・!」
「それにな!」
風来坊は、一層強い語気で言い放った。
「たとえ闇だって、力尽く消せばいいってわけじゃない。逆に抱きしめて、自分自身が光を放てばいい。そうすりゃ、闇は生まれなくなる。」
シンジは、いつの間にか風来坊の目を見ていた。暗黒の宇宙に浮かぶ幾千もの星の輝き、それが、見えた。
「闇を・・・抱きしめる。」
「そうだ、人間には皆、そんな力があるんだ。『愛』っていう、この宇宙で唯一永遠なものだ。」
「『愛』・・・。それって、どこにあるんですか?」
嘘、もう知ってることだ。
「さあな、自分で見つけろ。あばよ、少年。」
風来坊は、振り返らずに去っていく。
「あの!あなたの名前は!」
「誰でもない、ただの風来坊さ。」
「いつかまた会うだろう。地球は、丸いんだ。」
~♪
ハーモニカの音色が聞こえてきた。少し切ない、けれど、どこか懐かしいような不思議なメロディ・・・。
「ここにいたか、シンジ君。」
「ベムラーさん。」
土手の下にバイクが急停車し、ベムラーさんが声をかけてきたので振り返った。その間に風来坊の背中を見失ってしまった。
「・・・。」
「どうかした?」
「いえ・・・ベムラーさんこそ、一体何が?」
「シャドウが現れた。それも、今までにない大きさのだ。」
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
「どわぁ!!」
「ミクちゃん!」「ミクさん!」
東京タワー、高度経済成長期の最中誕生し、東京のシンボルとして今日まで親しまれてきた。時に怪獣に倒されたり、クリスマスツリーになったり。それが今は、未曾有の戦場となっている。
「くっ!このままじゃ埒があかねえぞ!」
「こうも攻撃が激しくては、近づくこともままならない・・・。」
無数の火球の弾幕に、陸も空も埋め尽くされている。空を飛ぶものはことごとく撃ち落され、地を行くものは足を取られる。
「こいつって、前に遊園地で暴れたやつに似てる。」
「前のとは、大きさそのものがケタ違いだけど、一体どこから湧いて出てきたんだろ?」
東京タワーの大展望台に、デカデカとそいつは巣食っている。ヘドロのような気味の悪い物質が糸を引き、巨大な玉のような形をしている。その表面にいくつか発光体をもち、そこから火の玉が飛んでくる。
「やっぱりダメです!レーザーショットが弾かれます!」
「近距離もダメ、遠距離もダメってなるとどうすりゃいいんだよ!」
「いっそ地下から進むとか?」
「超振動波の本来の使い方ー!」
誰かが口にした案を即断即決して、地下特攻隊が組まれることとなった。
「いやー、地下からなら安全に進めるね!」
「ここには攻撃が来てませんね。」
「地下のトンネルを掘ったら、直上して攻撃に移るよ。」
ようするにいつものゴモラ+
「あともうちょっとかな?アギちゃんたち、準備しといてね!」
「おっけー!」
「ん・・・?」
「どうかしましたか、アギさん?」
「今、なんか変な音が・・・。」
超振動波が掘削する音とは異なる、別の音。
「上?」
『オマエら!すぐそっから離れろ!』
「へ?わぁ!」
トンネルの床を突き破って、触手が伸びてきた。
「これもシャドウ?!」
「ゴモたん!」
「そっち行けない!アギちゃんたちは逃げて!」
「でも!」
「いいから早く!」
この密閉空間で瞬く間に分断され、ゴモラは孤立する。
「こりゃちょっとヤバいかも。」
前へも後ろへも行けない。となれば、行く道は一つしかない。
「上っきゃないよね・・・!」
ズドドドっと真上へ掘り進んで追撃を回避する。
「危機回避!っとはならないか・・・。」
外に出たということは、また弾幕に晒されるということ。しかも外に出たことでようやくわかったが、シャドウの姿は大きく変化していた。雷龍のような長い首が生え、全身が鉱物のように硬質化している。背部からは触手が生え、発光器官も大きくなっている。
「進化・・・いや、分裂しようとしてる?」
「下がれー!ゴモラー!狙われるぞ!」
言われなくてもスタコラサッサだぜー!という応える暇もなく火球と触手の波状攻撃が襲ってきて、ゴモラは走り回るだけだった。
「とっとぉ!お?」
「ゴモラ、平気?」
「ゼットンちゃん・・・ナイスアシスト!」
攻撃に飲まれる直前。ゼットンさんがテレポートで割って入って、そのまま無事に後退できた。
「ナイスだぜゼットン。」
「ゼットンも来てくれたんですねぇ!」
「けれど、これは厳しい。」
「はぁ・・・はぁ・・・時間を置くごとに、だんだん進化していってる?」
「はやくなんとかしねぇと・・・いっそ特攻するか?」
「それは危ないですよ!」
助けに入れば、そいつも危なくなる。リスクを冒してでも一心に突撃するしか、突破する方法はないと思われた。
「囮にはオレが行く。隙を見てゼットン、お前が攻撃しろ。」
「・・・。」
「なんだよ、なんか文句あるか?」
「危険が大きすぎる。リスクにリターンが見合わないわ。」
「エレ、お前まで弱気なったのか?」
「現実的に考えてそうなるってことよ。ゴリ押しと力押しは違うわ。」
「なにぃ?」
「ああ、なんか険悪なムードに・・・。」
「こんなことしてる場合じゃないのに・・・。」
「・・・あっ、あれ。」
「ん?」
「こんな時こそ冷静であってほしいわ。」
「オレは冷静だ!」
「はいストーップ!喧嘩はそこまでー!」
ベムラーさんのバイクの後部席からシンジが呼びかける。
「濱堀シンジ、ただいま到着しました!」
「私立探偵から運送会社に鞍替えした方がいいかしら?」
「シンジさん、来たの?」
「来たよ!」
「なんで来たのシンちゃん!」
「僕がやりたいから!ってことでピグモンさん、シンセナイザー返して。」
「はい☆どーぞ、ですぅ!」
「ピグモンちゃんも!」
受け取ったチップをテキパキとバディライザーに組みなおす。画面が割れたままだが、それは今はいい。再起動させて状態をチェックする。
「システムは問題ないな・・・いけるいける!」
「シンちゃん、自分が危ないってこと、わかってるんでしょ?」
「わかってるよ、自分の身は自分で守れるから、ゴモラは自分の戦いに集中して。」
「そうじゃないよ!心配なんだよボクは!」
「じゃあ、ミカは僕と立場が逆だったら、黙って見てられるの?」
「それは・・・。」
「僕も同じだよ。なんでこの力を手にしたのか、どうして僕なのか。あれからも何回か悩んだ。けど、その度に出す答えは同じだった。」
「やっぱり夢を諦めたくない。怪獣娘全員と友達になるって夢。」
一周まわって元の場所に戻ってきたけど、それでいい。これが、本当の僕なんだ。何度迷っても、時には立ち止まっても、必ず帰ってくる。多分螺旋階段をぐるぐる回ってる。
「だから、みんなの力を貸してほしい。次に進むために、明日をさがすために。」
しばし沈黙があって、意外なところから返答は来た。
『いいよ!わたしの力貸すよ!』
『私のも使って!』
『この力、ゆめゆめ粗末にしてくれるなよ?』
「えっ?誰?」
「さっきまで、ここ一帯にいる怪獣娘全員と通信が繋がってたんですよぉ。指示のために。」
「みんなに聞こえてたみたいだな、さっきのセリフ。」
「あっ・・・なんか恥ずかしい・・・。」
「いいじゃん、それがシンジさんの気持ちなんでしょ?」
「私たちだって、同じですよ!」
「みんなで掴みとろう、未来を!」
「みんな・・・。」
今この場にいるのは、アギラ、ミクラス、ウインダム、レッドキング、エレキング、ピグモン、ゼットン、ベムラー、そしてゴモラ。それぞれの顔を見まわして、皆頷いてくれる。通信の向こう側からも、たくさんの人から応援が来ている。
「ありがとう・・・!」
その時、不思議なことが起こった。
「! これは!」
腰のカードホルダーがブルブルと震えている。恐る恐る触ってみると、
「どわっ!!」
「うわっ!なんかいっぱい出てきた?!」
何十枚というカードが飛び出てきた。それぞれに違う怪獣、超獣、宇宙人の絵が描かれ、それらが宙に浮いている。
「レッドキング・・・オレのか!」
「私のもある・・・。」
「まさか、今ので全員のカードが出来たの?」
「よーし、これなら・・・。」
「シンジさん、まさかこれ全部を?!」
「無茶だけど、無理じゃない!多分。」
「止めても無駄そうだね。」
こいつは僥倖だ!絶対に勝つ!取り出したバディライザーに、スッとゴモラが手を重ねてくる。
「シンちゃん・・・。」
「ミカ、止めてくれるなよ。もう覚悟してんだから。」
「そうじゃなくて、これ終わったら、今度こそ焼き肉食べに行こう!約束!」
「・・・ああ!」
「いくぜ、みんな!」
前に掲げたバディライザーに、全てのカードが集まっていく。
「「「「「「「「「「「「「「バディライド!」」」」」」」」」」」」」」
闇を抱きしめる。今までこの力を、半分忌むべきものだとも思っていた。それは、父への思いと重なっていたのかもしれない。
さんざんほっぽり出して、今だって連絡一つ寄越さない、横柄な父への怒りだったのかもしれない。
けど今なら、父の気持ちに少しだけ触れられた気がする。
解き放つのでも、従えるのでもなく、怪獣娘とひとつになるための力。
それがバディライド、そしてその時は今なんだ!
「怪獣娘の力、お借りします!」
口から自然にこんな言葉が出た。不思議としっくり来る言葉だった。
「ぐっ・・・うっ・・・なんつーエネルギーだ・・・!」
今までのとは非じゃない衝撃が腕を振るわせ、体にまで沁み込んできた。
「これは・・・怪獣たちの記憶?いっぱい流れ込んでくる・・・。」
様々な風景、感触、感覚、すべてが脳内に流れ込んでくる。時には山で、時には海で、時には街で。火を吹く、光線を吐く、怪力を振るう。皆それぞれ違う能力を持った怪獣としての記憶。あまりの量に全てを詳細に確認することは出来なかったが、それらほぼすべてに、共通することがある。
「光の・・・巨人。」
その多くが、かつて光の巨人と対峙していたという記憶。その時の記憶が、特に鮮明に映し出された。
「夢で見たあの赤い光の玉と、同じ・・・。」
そして確信した。あの夢の意味と、今自分が何をするべきなのか。
「・・・みんな、行ける?」
「おう!パワーが溢れてくるぜ!」
「感情も、意識も高まっているのを感じるわ・・・!」
「怪獣娘全員と、もっとも~~~~っと仲良く気分です!」
『うぉおおおおおおお!バーニンンンング!』
『なんか・・・気持ちいいかも・・・!』
『昂る・・・昂るぞ!!』
パワー全開!皆120%でいける!
「パワーアップしたのはいいけどよ、なんか作戦あんのか?」
「作戦、というか、あいつのパワーの根源には心当たりがあります。」
「マジで!?」
「そこを断つことが出来れば、勝機も上がるかと。」
「確証はあるの?」
「僕の予想が当たっているなら、間違いないかと。」
「・・・。」
「あーわかった!これなら上手くいきます!命かけてもいいから!」
「また小学生みたいな文句を・・・。」
「冗談よ、試しただけ。」
「じゃあ全員聞いて、あいつは・・・。」
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
『ギギィイイイイイイイイイイイイイイイ!!』
作戦会議している間に、首長竜型シャドウビーストは、球体から分離して地上に降り立った。額と腹の部分に大きなコアのようなものも出来ている。だがこいつの対処に関しては、普段通りのシャドウビースト戦を思い浮かべいいので割愛する。
ここで相手にするべきは球体の方。大切な要素は三つある。第一、まずは火球攻撃について。
「オラオラァ!どこ狙ってやがるノーコンがぁ!」
「タネが割れれば目ぇ瞑ってても避けられるね!」
火球にも三種類の飛び方がある。一つは、標的に対して真っ直ぐ飛んでくるストレート。二つ目は、標的の動く先に飛んでくる偏差型。三つ目は、全く関係ないところに飛んでいく目くらまし。
要はこの内の二つに注意していれば避けるのは問題ない。常に動き続けて、時折降りかかる火の粉を払えばいいのだから。
「そーれ!そーれ!風船どうぞー!」
「しかもやたらめったら動くものに反応してるから、ただの風船でもデコイの役割になってくれてる。」
「ピグモンも、みんなの役に立てて嬉しいですぅ!」
「こうやってオレたちが囮になってる間に・・・。」
「アギちゃんたちが!」
第二、触手について。
「ダイノダッシュ!」
「バッファローフレイム!」
「レーザーショット!」
戦いの最中、突然触手が生えてきていた。それと同時に、地下から近づこうとしていたゴモラ達の接近にも気づいた。迎撃するために触手を伸ばしたのか?違う、逆なのだ。
「ヤツは、集まった敵の数に対応するために、大量の火球を発射している。それも、かなり正確に狙ってきている。」
「あの発光器官は『口』だ。火球を吐き出す発射口だ。では『目』はどこについているのか?それが『触手』なんだ。」
「つまり、触手で敵を感知して攻撃してきている、ということね。」
「そう。イソギンチャクと同じで、触手が触角の役割にもなっているんだ!」
エレキングさんが尻尾ムチを振るい、触手も火球もまとめて薙ぎ払う。
「エレキングさんは両方やれるのか・・・。」
「こっちだって負けないぐらい千切ってやるもんねー!」
「って、こっちに攻撃が来ましたよ!」
「させるかぁ!」
作戦はこうだ。飛び道具持ちや素早いアタッカーは触手を攻撃し、レッドキングやゴモラなどのパワー系怪獣はタンクとして火球をひきつけて援護。
「目立つのなら得意だよ!」
「ちょっと、忙しいわね。」
『イケるイケる!私にも出来ちゃう!』
『カ・イ・カ・ン♡』
『よき力だ・・・。』
ぶっつけ本番、打ち合わせ無しでも皆お互いをカバーし合いながらうまくやれている。全員同時にバディライドしているおかげで、心が近くなっているのかもしれない。
「おっと、コイツの相手もしてやらねえとな。」
「調査チームのエレちゃんに負けてらんないっしょ!こっちはまかせて!」
山を蹴散らし、ビルをなぎ倒さんとする巨大なシャドウビースト。火を吐き、首を伸ばして攻撃してくるが、こんな単調な相手に後れを取る大怪獣ファイターではない。
『あーあー、こちらベムラー、もうすぐ目的の場所に着くどーぞー。』
「こっちもOKです、いつでも始めてくださいどーぞー。」
『だってさ、行くよゼットン。』
『わかった。』
そして第三、ヤツのエネルギーはどこからやってきているのか?
ある一点を拠点として動かず、遠距離攻撃で敵を寄せ付けないというスタイルは、以前遊園地で暴れた眼球シャドウと似ている。遊園地のやつの場合は、地下から電気をよせ集めて己の物としていた。
「園内に固まって現れたやつらは、電気のケーブルを奪っていたんだ。」
さらに、観覧車下の地中で、集めた電気を使って電磁力を発生させ、操っていたというのが正体だった。
今回の東京タワーに巣食う巨大な球状シャドウも、同じくどこかからエネルギーを集めていると考えられる。
「けど違うのは、『地下』からじゃなくて『空』から得ているということ。」
そのための東京タワー、日本有数の電波塔と言う舞台だ。
『見えたよ。すごいエネルギーが渦巻いてる。』
「読み通りです。」
『すごいね、天才少年。』
「それほどでも。」
先行してタワー天辺のアンテナの確認に向かったベムラーさんが目撃したのは、空、いや宇宙から降り注ぐ膨大な宇宙エネルギーだった。そしてアンテナの下部に、シャドウの黒い糸のようなものが絡まっている。
『ここ数日の不穏な天気も、このエネルギーの仕業だったってことね。』
「果たしてシャドウが呼んだものなのか、それとも自然に降り注いできたものをシャドウが利用しているだけなのか、定かではありませんが・・・ともかく、アンテナの『解体』を。」
『了解、手早く終わらせようか。』
波動エネルギー、ダークマター、あるいは恐怖の宇宙線か、宇宙には未知なるエネルギーが存在するという。それがこのような形で人類に牙を剥くこととなった。自然は必ずしも、人間の味方とは言えないのだろう。
『修繕費用とかもろもろ、GIRLSの方が持ってね!』
「だいじょーぶです!上にはピグモンが説得しますから!」
『なら安心だな。っと、こっちにも気づいたか。』
一旦通信を打ち切り、ベムラーは目の前の事態に集中する。先ほどの間での地上の地獄絵図と比べれば、今自分に向かってきている刃は雀の涙のようなものだ。しかし今は回避に専念しておく。
「こうしてこうして・・・ヒューッ!スリル満点!じゃ・・・あとはよろしく。」
「問題ない。」
アンテナ周辺が手薄になった瞬間、テレポートで現れる一つの影。当然、ゼットンさん。
「トリリオン・バースト・・・!」
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
上空に強烈な爆裂音が響いて、誰もが一瞬視線を上にやった。それが出来るだけの暇がみんなにはあった。
「やった・・・!」
そう誰かが口にした。ひょっとしたら誰もが言ったのかもしれない。
「見て!シャドウの様子が!」
「縮んでいく・・・。」
見る見るうちに球体シャドウは収縮していった。明らかにパワーダウンの状態だ。発光器官から火球は途絶え、触手もへなへなと萎れていった。
「チャンスだ!一気にたたみかけろー!」
「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」
レッドキングさんの合図を皮切りに、怪獣娘たちの一斉攻撃が始まった!先ほどまでとは逆の、火炎放射やビームの波状攻撃だ!
「最大出力レーザーショット!!」
「放電光線!」
「風船!風船!」
「ピグモンさん、もう風船はいいから。」
わずかにしがみついている球状シャドウの糸を切り裂き、飛び道具のない怪獣娘も、ビルの上から手あたり次第に物を投げまくって追撃する。
『はいみんな下がって―!』
おまけに空から壊れたアンテナが降ってきて、展望台にくっついていたシャドウ本体もとうとう地に落ちた。発光器官は、命が尽きたように止まった。
「あとはコイツだけだな!」
「こいつはまだ元気そうだね。」
分離したことでエネルギーも独立したものとなったのか知らないが、バックアップのいなくなったタンク役などただの的だ。
「これでとどめだ!本家本元の、アースクラッシャー!!」
「超振動波ァ!!」
大地が裂けんばかりの二大怪獣の必殺技が炸裂!!!長かった戦いよ、さらば!!!
「勝った!」
首長竜シャドウビーストは、腹を地割れに破壊され、首を超振動波でもぎ取られて倒された。誰が勝者なのかは、火を見るよりも明らかだ。
「やったやったー!やったよー!!」
「勝ちましたね!!私たち!!」
「なんとかなって、よかったね!」
最後の一撃が決まった時、一斉に歓声が湧き上がった。
「パ、パワー切れ・・・。」
「シンちゃんだらしなーい!もっと誇りなよ!」
「そうだぜ!今回の功労者はお前だ!」
「あいてっ!ちょっと強く叩きすぎですよ。」
「あなた、中々やるのね。冷静で的確な判断だったわ。」
「君は本当によくやったよ、ここにいる皆が保証する。」
「エレキングさん、ベムラーさん・・・ありがとうございます。」
ただ、自分に出来ることをやっただけだ、本当にがんばったのは戦ってくれたみんなだ。
「みんな・・・本当にありがとう!」
「うんうん!帰って焼き肉行こうね!」
「ああ、今日はオレが奢ってやるやるよ!好きなだけ食いな!」
ほんの一瞬前まで戦場だったビル街に、楽しい笑い声がこだまする・・・。
しかし、暗雲はまだ晴れない。
「!?」
「なに・・・これ・・・?!」
ドクン・・・ドクン・・・と心臓の鼓動のような寒気がやってきた。
「もう・・・終わったはずでしょ・・・?」
「はぁ・・・はぁ・・・。」
それは、墜落して朽ちていくだけだったはずの球体から発せられている。
「みんな・・・構えろ、第二ラウンドだ・・・。」
「ただでさえ消耗しているっていうのに。」
やがて球体はひび割れ、中から瘴気とも言うべき禍々しき気配が漂ってくる。
「あれは・・・。」
「人型の・・・シャドウ・・・?」
二本足で立ち上がり、真っ黒で堂々たる体躯を見せつけてくる。肩からは邪悪な赤いツノが生え、その両腕には鋭利なハサミを持ち、顔には表情など微塵も感じさせることのない球体が嵌め込まれ、代わりに胸には目のような発光体がある。
『ゲッゲッゲッゲ・・・・』
「いくぞッ!」
「みんな!気を付けて!どんな能力があるかもわからないよ!」
先鋒はレッドキングが務める。岩山をも砕くその拳を顔面に叩き込むつもりだった。だが、
「クッ、かわされ、ぐあっ!」
人型シャドウ・・・『シャドウマン』か。シャドウマンは一瞬でレッドキングの背後をとって右腕を振るう。
「テレポート、そいつはさんざん見てきたぜ!」
すぐさま体勢を立て直したレッドキングはラリアットで反撃する。
「ぐっ・・・なんつーパワーだ・・・。」
『ゲッゲッゲッゲ・・・』
「何笑ってやがん、だッ!」
組み付いた状態から、レッドキングは頭突きをくりだした。が、シャドウマンは大したダメージを受けた様子もない。
『ゲッゲッゲッゲ・・・』
「ぐわっ!」
「レッドキングさん!」
「援護します!」
頭部の球体からレーザーを発射してレッドキングを撃った。そこへすかさずかぷせるがーるずが割って入った。
『ゲッゲッゲッゲ・・・』
「何!?」
「増えたぁ?!」
「分身ですか!」
なんと、戦線に新たに加わった3人に対して、シャドウマンも3人増え、それぞれがそれぞれと戦い始めた。
「ぐぇっ!強い・・・!」
「全く歯が立ちません・・・。」
「パワーもスピードも、段違いだ・・・。」
見れば、そこかしこで戦っている怪獣娘一人ひとりが、それぞれシャドウマンひとりずつと戦っている。『相手の数だけ分身出来る』とすれば、数的優位は無いに等しい。
「悪魔か・・・。」
今度ばかりは、皆で徒党を組んで集中攻撃することも出来ない。しかももうバディライド終了によりパワーダウンだってしている。回復も装備変更も無しにラスボス2連戦させられるようなものだ。
「こんな、こんなことって・・・。」
シンジの脳内に浮かんだのは『撤退』の二文字。一旦体勢を立て直して、改めて反撃に転ずる。逃げるのだって立派な戦略だ。
「うう・・・。」
「やられた・・・。」
「これは厳しいわね・・・。」
『ゲッゲッゲッゲ・・・』
「今度はなんだ?」
全員を平等に痛めつけたシャドウマンは、分身を消して自分が出てきた球体のところに戻ってきた。
「まさか、パワーを吸収しているのか!?あの球体から!」
あの球体は、シャドウマンの卵、いや繭だったのか。それとも、繭がシャドウマンの本体なのか。いずれにしろ、これは撤退する事もリスクが伴うこととなった。撤退して身支度をしている間にも、やつは優々とパワーをたくわえることが出来るのだとすれば・・・。
「もうダメだ、おしまいだぁ・・・。逃げるんだ、勝てるわけがないよ。ヤツは、伝説の超シャドウなんだぁ・・・。」
「なにを寝言言ってる!不貞腐れてる暇があったら戦え!」
ここに来てシンジがヘタれた。無理もない話であるが。
『ゲッゲッゲッゲ・・・』
シャドウマン、繭からパワーを吸収して滾る。そして胸の発光体をスパークさせて、今にも何かを発射せんと構える。
「やばい!なんかやばい!」
ザーッ!!とノイズのような音と共に、閃光が迫る。街も道路も何もかも飲み込む、破壊の光だ。
「ゼットンシャッター!」
間一髪、光の壁が皆を守った。
「ゼットンさん・・・。」
「・・・っ!」
普段無表情なゼットンさんも、今はすこし苦悶の表情を浮かべている。すでにその体にも多数の傷が見られた。
「これ以上は・・・早く、逃げて・・・。」
「みんな・・・撤退して!はやく!」
渇いた喉で声を振り絞る。破壊光線によってゼットンシャッターもミシミシと音を立てはじめた。
「もう・・・ダメ・・・。」
「「「「「「うわあああああああああああ!!」」」」」」
遂に無敵のゼットンシャッターが破られた。だが辛うじて、喰らったのは余波だけで済んだ。ゼットンさんが来てくれなかったら、全員やられていたところだったろう。
「ゼットンさん・・・。」
「平気・・・?」
「ゼットンさんこそ・・・。」
「私は大丈夫・・・あなたは、撤退して・・・。」
ゼットンさんが片膝をついている。未だかつて大怪獣ファイトで見たことのある光景だったろうか?
「私にはまだ、やることがあるから。」
「ゼットンさん・・・ぐっ・・・。」
衝撃で全身を痛めた。誰もがそうだ。こちら側は満身創痍、対して相手は健在。
圧倒的絶望、圧倒的な『壁』。
(これが・・・かつて怪獣たちが戦っていた相手・・・?)
思い出される、先ほどのフラッシュバック。その中で見た、光の巨人の圧倒的な強さ。
「・・・ぜんぜん違う。」
そんなわけがない。光の巨人からは『見た目』からも、どこか安心させられるものがあった。けどこいつにはそれがない。
「・・・あったまきた・・・。」
「なに?」
「ゼットンさんこそ、下がってて、僕が行く!」
「無理、危険すぎる。」
「あんなもんに・・・!あんなもんに僕たちの未来をとられてたまるか!!」
体の痛みはどこへやら、ふつふつと沸き起こる怒りを闘志に変えて、シンジは走って立ち向かっていく。ボロボロになった上着を破り捨て、下に着こんでいたS.R.Iを晒す。
「一対一なら、時間を稼げる。」
多人数で攻めかかっても意味がないなら、逆に一人ずつ戦っていれば時間を稼げる。これに賭けるしかない。ホルダーからカードを一枚取り出し、バディライザーに挿入して、スーツの肩に嵌める。
「モンスライド!ゴモラァ!!」
バチバチとバディライザーから火花が散る。勝率はゼロに等しいどころか、まず勝てるはずがない。それでも、この一手に全てを賭けたかった。己の命を含めたすべてを!
「おや?」
火花は散った、しかしそれ以外何も反応が無い。
「まさか?」
慌ててバディライザーを取り外して確認してみる。
「壊れたのかよ、さっきので。」
がーん、だな。出鼻をくじかれた。
かっこわる。破壊光線の第二射が来た。もうおしまいだ。
(あーあ・・・結局、なんも出来なかったな・・・。)
せめて痛みもなく葬ってくれることを祈って、目を閉じた。
己の無力さに、悔しさに、自然と涙すら流していた。
ブゥウン!という疾走音に気が付いて目を開けた。直後、シャドウマンにぶち当たって破壊光線を阻止したソレが、シンジの前に降り立つ。
『グルルルルルルルゥ・・・。』
「ゴモ・・・ラ・・・?」
「ゴモ・・・たん・・・?」
「ゴモラ・・・。」
『誰だ・・・。』
しかしそこにいたのは、シンジの知る、否皆の知るゴモラではなかった。
『誰だ・・・誰だ!シンちゃんを泣かせたのはぁあああああああ!!!!!!』
燃え上がる。ゴモラの体から、熱いオーラが迸り。
ゴモラの体を
「・・・すごい・・・。」
そう誰もが口にした。
全身をもっと深い色をした棘のような鋭い甲殻が包み、肘からも鋭いスパイクが生えている。なによりゴモラの特徴であった尻尾が、より長く、鋭く変化している。
====☆====☆====☆====☆====☆====☆====
暗闇の底で何かが叫んだ。ボクの心の中にいる、もう一人のボクだ。
わかっている、まだ終われない、まだ戦える。まだ、未来を掴んじゃいない。
大切な人と共に生きる未来を!
だから限界を越えられる!
「本当の戦いは・・・。」
その大切な人が、今まさにピンチだ。
「本当の戦いは・・・。」
ならやることは一つだ。
「本当の戦いは、ここからだ!」
自分でも驚くほどの力で大地を蹴って、シンジの前にゴモラは降り立った。
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』
燃えるような力よ、それは正義か悪の化身か。その眼に宿る怒りを、刃に変える。
「ゴモラ・・・なのか?」
シンジは、ゴモラのその変貌っぷりに困惑して、聞くまでもないことを聞いていた。
『グルルルル・・・。』
返ってきたのは、進化したゴモラの眼差しだった。冷たく、鋭くなっている。
「・・・がんばって!」
その言葉に、ゴモラはゆっくりと頷いた。そして、再び敵を見据えて立ち向かう。
「シンジさん大丈夫?それに・・・。」
「あれが・・・ゴモたんなの?」
「まるで、別人みたいに変わって・・・。」
「変わってない。」
「え?」
「変わってないよ、ゴモラはゴモラだ・・・。」
涙交じりの声でシンジは言った。
進化したゴモラは全身凶器と言える鋭さを持つ手足で攻め立てる。一撃一撃が、進化前よりも桁外れの威力となってシャドウマンの装甲を削る。
『ゲッゲッゲッゲ・・・』
『グルルルルルルルルァ!!!』
対してシャドウマンもテレポートでゴモラの背後をとるが、直後にその考えは甘いと思い知らされる。
「尻尾が・・・!」
「あんなに長く伸びるのか!」
槍のようになった尻尾がシャドウマンの体に突き刺さる。すごい威力だ!
「もはやゴモラはゴモラを超えた・・・EXゴモラ・・・。」
「EX・・・ゴモラ・・・。」
『ゲッゲッゲッゲ・・・』
『ガァアアアアアアア!!!』
突き刺さったシャドウマンを引き寄せ、爪で叩き落とす。
「やった!今度こそ!」
「なんかフラグっぽい台詞ですね。」
「まだ動くみたい・・・。」
ウインダムの懸念とアギラの読み通り、シャドウマンは苦も無く立ち上がった。見れば、貫かれた傷もみるみる再生していくではないか。EXゴモラも負けじと立ち向かい、殴り合いへと発展する。
「もはや怪獣娘の領域を超えた、怪獣同士の戦い・・・。」
「今のうちに、撤退しましょう。」
「でも、ゴモたん一人置いてくの?」
「悔しいけど、ボクたちにはあんな戦いについていけないよ・・・出て行っても足手まといになるだけだ・・・。」
ビルも道路も、飴やウエハースで作ったみたいにいとも簡単に破壊しながら戦っている。自分の背丈よりもずっと大きい建物も、今では『壁』ではなくただの『障害物』に過ぎない。
「行こうミクちゃん、ウインちゃん、シンジさんも。」
「僕は・・・ここにいる。」
「危ないよシンジさん!ただでさえ足手まといなのに!」
「ミクさん、ちょっと酷くありませんか?」
「足手まといでも、ここにいたい。いなきゃいけないんだ、ゴモラの、ミカの戦いを見届けないと・・・。」
「シンジさん・・・。」
パワーアップしたとはいえ、EXゴモラとシャドウマンの強さはほぼ互角か、それかこちら側が不利かもしれない。一進一退の攻防を繰り広げている。
「ゴモラ・・・あんなに強くなりやがって・・・でも。」
「レッドキング先輩?」
「ゴモラー!」
光線で吹き飛ばされるゴモラに、レッドキングは叫ぶ。
「いつかオレを越えるんだろ!だったらそんなヤツに負けてんじゃねえぞ!!」
「レッドキングさん・・・。」
「そうだ、がんばれゴモたん!!大怪獣ファイトの期待の星!!!」
「ミクちゃん・・・。」
「がんばれーゴモたーん!!」
「まけるなー!」
「が、がんばれ!!」
「みんな・・・。」
「みんなシンシンと同じ気持ちですよ!ピグモンも応援します!風船もいっぱいつくりますよ!」
「いや風船はもういいんじゃないかな・・・。」
がんばれ!まけるな!それゆけ!そして鳴りやまないゴモラコール。それに応えるため、ゴモラは一層激しく戦う!
「あともう一息だというのに・・・。」
「なにか・・・なにかないか?」
「がんばれ!がんばれ!まけるなゴモゴモ!」
「風船・・・そうだ!」
思いついた!それと同時にシンジは走り出す。向かうは、あの繭。
「シンジさん、何する気?!」
「わるあがき!」
勿論、それだけで終わらせるつもりもない。あの時シャドウマンは、繭から得たエネルギーを、直接破壊光線へと転化させていた。なぜ一度にエネルギーを自身の体内へ取り込まなかったのか?
「それはあいつ自身が、エネルギー全部に耐え切れないからだ!」
ならばそれを一遍に喰らわせてやれば、風船のように膨張して自壊する。その確証がある。
「よっと、ここか・・・。」
繭からは不穏なエネルギーが漏れ出している。これをすべて、ヤツにぶつける。
「最後ぐらい、役に立ってくれよ!バディライザー!」
怪獣娘のすべてのエネルギーを受け止められるコイツなら、可能なはずだ!カードをリードする要領で繭のエネルギーを吸いつくす!
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!ぐっ・・・がぁあ・・・!」
当然その反動は自分にも返ってくる。今度こそ本当にお陀仏かもしれない。
「けどやるんだ!僕にしかできないなら!!!!」
バディライザーも火花をあげている。全てを飲み込む『闇』が、シンジの体をも蝕んでいく。
「闇を・・・抱いて・・・光となる!!」
僕もコイツも、生まれた時から運命づけられていた。この瞬間の為に、命張って頑張る。一所懸命ってやつだ。だから、こんなところで倒れるのだけは御免だ。
その最後の祈りに応えるようにバディライザーも輝きを放ち始めた。
「できた・・・!」
繭にはエネルギーは残っていない。しおしおと枯れ始めている。
「あとは・・・これを・・・っ!」
間一髪、頭の上を光線が掠めていった。シャドウマンがこっちを向いている。
「これを・・・どうやってぶつけたらいいんだ?」
肝心なことを忘れていた。EXゴモラはダウンをとられて動けないでいる。
『ゲッゲッゲッゲ・・・』
シャドウマンがテレポートで距離を詰めてくる。あれを、いくら強化されているとはいえ人間の反射神経で見切ることは不可能だ。それどころか、他の怪獣娘たちにも出来なかった。
「うわっ!」
他の怪獣娘、ならば。
『ゲッゲッゲッゲ・・・ゲゲ!?』
「この技、見切れなかったようね・・・。」
ゼットンさんの一撃が、シャドウマンの不意を突いた。さすがのシャドウマンもこれにはたじろいだ。そこへ、
「オラオラァ!保険下りねえぞぉ!」
『ゲッゲッゲッゲゲェ??!!』
ベムラーさんのバイクが突っ込んできて、そのまま引き摺りはじめた。
「行けぇ!シンジ!」
「決めろー!!」
「シンジさん!!」
「勝って!!」
バイクを破壊して止めたシャドウマンに、
「エネルギーが欲しけりゃ・・・」
バディライザーを押し当てる!!
「くれてやる!!!!!」
ザァアアアアアア!!っという爆音とが響き、誰もが耳をふさいだ。眩い光に誰もが目を覆った。
シンジただ一人を除いて。
「どうだ?!」
『ゲッゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!!!!???』
みるみる内にシャドウマンは醜く膨れ上がっていく。このまま自壊するのも時間の問題だろう。
「ぐっ・・・これ以上は・・・もう動けないか・・・。」
シャドウマンの自爆に巻き込まれるか?それだと本当に悪あがきになってしまう。が、それは杞憂だった。
『ゲゲェ~~!!!』
『グルルル・・・。』
「尻尾!?ゴモラか!」
地面から尻尾が突き出して、シャドウマンを上へと吹き飛ばした。その主は勿論EXゴモラだ!
『ギャアアアアアン!!!』
「そうか、そうだな、最後の一撃!」
ゴモラの言いたいことがわかる。言葉じゃなくて、心で理解できる。ゴモラの全身に燃えるエネルギーが迸る!
「行けぇ、ゴモラぁ!!『EX超振動波』ァアア!!」
『ギャアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオン!!!!!』
今までの比じゃない、まさしく太陽のような激しい超振動波が全身から発せられる!
『ゲゲゲゲゲゲゲゲ!!!!』
それはシャドウマンを空へと押し上げ、ビルの群れを抜け、雲を突き破り、宇宙まで飛び出した!
「行ッッッッけぇええええええええ!!!」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!』
『ゲッ・・・ゲッ・・・』
地上からも、超新星爆発のようなその閃光はよく見えた。いつしか空を覆っていた暗雲をも吹き飛ばし、雲一つのない青空が帰ってきた。
「やった・・・今度こそやったぁ!!!!」
わぁっと歓声があがった。今度こそ、今度こそ完全な勝利だ!
『グルルルル・・・』
「ふう・・・終わった。」
「ゴモたん!ゴモたんすっげぇー!!」
「本当にすごかったですゴモたん!!」
「ちゃんと戻った?指何本に見える?」
「戻ってるよー!元の愛らしいゴモたんだよ!」
「一瞬本当に暴走しちまってたのかと心配したぜ。」
「私がそんなんするわけないじゃん!」
無事にゴモラも元に戻った。他の怪獣娘たちも集まってきている。
「よかった・・・本当に・・・。」
「シンジ・・・。」
「ゼットンさん・・・おつかれさまです。」
「あなたは・・・。」
「大丈夫、僕はもう、十分に生きた・・・。」
空は青く、太陽が人々を照らしていた。
その逆光の中に、フラフラとシンジの体は揺れた。
そして仰向けに倒れると、ゆっくりと瞼を閉じた。
「シンちゃん?!シンちゃんしっかりして!」
シンジにはもう何も聞こえなくなっていた。
その目の前には、泥のような闇だけが映っていた。
そして、突然赤い光が割って入ってきた。
あさつきかわいいよあさつき。あぁ^~ロリコンになるぅ^~
あ、次回エピローグで最終回です。果たして風呂敷は纏められるのか。
感想お待ちしております。