怪獣娘~ウルトラ怪獣ハーレム計画~   作:バガン

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 ゴモラルート、というかメインシナリオはこれと次で最終回。この後別ヒロインに手を出しに行ってよし。このままひたすらゴモラと甘々になってよし。


うたかたの。

 ここは闇の底。すべてが暗雲に包まれた、絶望の最中。彼方には赤黒い塔が、天を指すようにそびえ立っている。

 

 

 「みんな・・・どうしちゃったんだ・・・。」

 

 

 一人息を切らせ、ゴーストタウンと化した街をシンジは走る。光差さぬ闇の中を、懸命に逃げ回っていた。

 

 

 「あぁっ!」

 

 

 突如、地面が割れ、影が瓦礫や砂をまき散らしながら飛び出してくる。それらは、人のような姿をしていた。

 

 

 「ゴメス、デマーガ、テレスドン・・・!」

 

 

 怪獣の名を呟く。目の前にいるのは、それらの魂を宿していたはずの怪獣娘

 

 

 『ギャオオオオオオオオオオオン!!』

 

 『ギュラァアアアアアアアアアア!!』

 

 『グロロロロロロロロロロロロロ!!』

 

 

 だった、怪物たち。今の彼女たち、いやヤツらは、凶暴性に支配された怪獣そのものだった。

 

 

 「・・・ハァ、いい加減、しつこい。」

 

 

 来た道を引き返し、今度は別の道を行く。またその先に怪獣があらわれ、その度にまた逃げて・・・を繰り返す。

 

 

 「どうすれば・・・どうしたらいい?」

 

 

 どうにもできない。目の前のピンチを切り抜けることすら、シンジには出来ない。

 

 

 「はっ・・・また・・・今度はなんだ?」

 

 

 聞き慣れたはずの声、一瞬だけ希望を抱かされた叫び。誰だ?と問うまでもない。

 

 

 『ガァオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 

 「ゴモラ・・・。」

 

 

 ゴモラだけじゃない。レッドキング、エレキング、ザンドリアス、ウインダムもミクラスも、アギラもいる。

 

 

 「みんな・・・なんでだよ・・・。」

 

 

 涙交じりの呼びかけも、全く意に介さず迫りくる。

 

 

 「ちくしょう!ちくしょうちくしょう!!」

 

 

 轟く叫びを背に受けて、無我夢中で走り出した。もはや逃げ場はない、どこへ行けばいいのか見当もつかない、ただひたすら延命のためだけに走り続ける。

 

 

 「ああっ・・・ああ・・・。」

 

 

 そして最後の影が現れた。明滅する黄色い光と、燃えるような青い光。

 

 

 「ゼットン・・・ベムラー・・・。」

 

 

 もうおしまいだ。すぐ後ろにはゴモラたちが、目の前にはゼットンたちがいる。

 

 

 縋るように空を見る。分厚い黒雲が覆う、闇が広がる。

 

 

 

 

 

 その闇、哀しみの空を壊すように、一筋の光が差し込む。

 

 

 

 燃えるような、照らすよな、赤く熱い光。

 

 

 

 「あれは・・・。」

 

 

 光は、シンジの前で人のような姿となった。

 

 

 『ヘェアッ!』

 

 

 その表情は、像のように動かなかったが、優しく微笑んでいるようにも、激しく怒っているようにも見えた。

 

 

 『シュワッ!』

 

 

 『光』はあっという間に怪獣たちに囲まれた。けれど『光』は、片っ端から怪獣たちを討って行った。

 

 

 またもやシンジは、見ているしか出来なかった。かつての友や仲間が倒されていく様子を、ただじっと眺めているしか出来なかった。

 

 

 あのゼットンすらも、徒手のみで下し、最後に残ったゴモラにも挑みかかっていく。

 

 

 『ヘェッ!』

 

 『グォオオオオオン・・・』

 

 

 尻尾を切られ、ツノを折られ、何度も何度も投げ飛ばされるゴモラ。

 

 

 「やめて・・・。」

 

 

 ふらふらと力なく倒れても、未だ闘志を折らないゴモラ。

 

 

 『ヘァッ!』

 

 

 「やめてぇえええええええええ!!!」

 

 

 『光』は腕を十字に組み、必殺技を放った。

 

 

 シンジの体は、ゴモラを庇うように、その前へと割り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 

 「・・・っは・・・ここは?」

 

 

 あと一瞬のところで、目が覚めた。顔から布のようなものがはらりと落ちたが、シンジは気がついていない。それよりも、見知らぬ天井と、寝心地の違うベッドに気が向いた。

 

 

 「・・・ひどい夢だった。」

 

 

 ひどいことは夢の中だけで起きるに限るが、見たくないものはやはり見たくない。夢というのは時に自身の想像すら上回るようなことが起こるが、これが何かの予兆だと思うと気分が重い。

 

 

 「ここは・・・GIRLSの施設かな?」

 

 

 少なくとも自分の家ではない、ということはわかった。服も、昨日借りたGIRLSのジャージのままだ。それにお腹が空いている。

 

 

 「顔でも洗うか。ミカも探して・・・あれ?」

 

 

 バディライザーがない。誰かに預けたんだっけ・・・と昨晩ことを思い出そうとするが、記憶にない。

 

 

 「まいっか。」

 

 

 ともかく先に洗顔だ。ベッドから降りて、履き物もない事に気が付く。別に靴下だけでもいいが、スリッパがないか部屋の中を探す。

 

 

 と、その最中、部屋に誰かが入ってきた。服装を見るにナースさんのようだけど。ちょうどいい、スリッパを借りよう。

 

 

 「おはようございます。あの、スリッパ・・・。」

 

 

 「キャアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 すごい悲鳴を上げて走って行ってしまった。サンダルも脱ぎっ散らかして。しょうがない、ひとまずはこれを借りておこう。

 

 

 「顔になんかついてるのかな?」

 

 

 洗面所を探してブラブラと歩き回る。

 

 

 この後、お手洗いでのんびり顔を洗っている中、突如入ってきたお医者さんとピグモンさんに非常に驚いた顔をされた後検査室へと連行された。

 

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 

 暗い暗い闇の中、そこにミカはいた。

 

 

 『ゴモたん・・・。』

 

 「・・・入ってこないで。」

 

 

 雨戸を締め切り、電気の灯っていない部屋の中、ベッドの上で体育座りをしたミカはいた。その眼には、生気が無かった。

 

 

 『辛いのはボクだってそうだよ、けどこんなところで閉じこもってたって。なんにもならないじゃない。』

 

 「アギちゃんになにがわかるのさ!!」

 

 

 「ボクだってわかんないよ・・・ボク目の前で、シンジさんは突然・・・。」

 

 『そんなはずないもん!シンちゃんは私を置いてどこにも行かないもん!』

 

 「現実を見てよ!ここから出てきてよ!」

 

 『やだー!!』

 

 

 「泣きたいのはボクだってそうだよ・・・。」

 

 「アギさん・・・。」

 

 「アタシも信じらんないな・・・シンジさんが死んじゃうなんて・・・。」

 

 「私もです・・・まだ、出会って間もないのに・・・。」

 

 

 出会って間もない、半年ぐらいしか経っていないというのに。やっと事態が好転してきた、仲良くなってこれたという時だった。

 

 

 「・・・これからどうなるんだろうね。」

 

 「いろんなこと、宙ぶらりんなままですからね・・・。」

 

 「まずゴモたんをどうにかしないと・・・ん?ピグモンさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 今は、誰の顔も見たくない。それどころか、動くことすらままならない。

 

 

 「ダメ・・・出てきちゃダメ・・・。」

 

 

 怪獣娘は、その心に孔が開いた時、カイジューソウルが暴走する。今まさに、それを抑え込んでいる状態なのだ。

 

 

 右手をぎゅっと握りしめる。その手には、昨日プレゼントされたペンダントが入っている。

 

 

 「こんな・・・こんな辛い思いをするなら・・・こんなもの・・・!」

 

 

 投げ捨てようとするが、それは出来ない。振りかざした手がプルプルと震え、きつく胸に抱きしめる。

 

 

 「シンちゃん・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 「生き返ったぁ!?」

 

 「しかも超元気ぃ!?」

 

 『そうなんですぅ!ピグモンもビックリなのですぅ!』

 

 

 バコォオオオオン!と衝撃音が響く。

 

 

 「ゴモたん?なに今の音?・・・ゴモたん?」

 

 

 多少強引に鍵を開け、部屋に入ると、その目に飛び込んできたのは、ゴモたんの形をした立派な穴だった。

 

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 

 「それで結果は・・・。」

 

 

 「まったくの正常値です。健康そのものと言っていいです。」

 

 「バランスのとれた食事が効いたね。」

 

 「ったく、一体何だったんだよ?」

 

 「僕が知りたいです。」

 

 

 検査が終わり、元の病室へと戻ってきたシンジと、付き添いのピグモンとレッドキング。昨晩、本部の屋上で突然倒れたシンジは、そのまま心停止、息を引き取った・・・かに思われたがこうして今は生きている。

 

 

 「みんな心配してたんだぜ、ゴモラも、エレキングも、アイツら3人も、あのゼットンすらついさっきまで来てたんだぜ?」

 

 「ゼットンさんも?」

 

 「特にゴモラなんか・・・。」

 

 

 突然、ズドドドドドドドという地響きが襲ってくる。地震ではない。

 

 

 「なんだなんだ?」

 

 「あー、こりゃ多分。」

 

 

 何かを悟っていたレッドキングに対して、慌てて窓を開けて外を見たシンジに、超特急の影が突っ込んできて押し倒した。

 

 

 「シンちゃん!シンちゃん生きてるの?!レッドちゃん!」

 

 「あー、3秒前までは生きてたんだけどな。」

 

 「死んでないです。」

 

 「!!!!!シンちゃーん!!!」

 

 「死ぬ。」

 

 

 首がペコちゃん人形のように揺らされまくり、ミシミシと背骨をベアハッグで折られる。

 

 

 「生きてた・・・シンちゃん生きてる・・・。」

 

 「ミカ・・・。」

 

 

 ミカは今涙を流してくれている。僕のために。生きていてよかったと心底思う。

 

 

 「ん・・・。」

 

 「なに、シンちゃん?」

 

 「いや・・・。」

 

 

 ゴモラのツノを撫でながら、ふと夢の事を思い出した。

 

 

 「シンちゃん・・・そこくすぐったいよ・・・。」

 

 (ちゃんとついてるよな・・・。)

 

 

 折れてるどころかキズ一つ入っていないツノを確かめて安堵する。続いて、ゴモラの腰の、尻尾へと手を伸ばす。

 

 

 「切れてない・・・なっ。」

 

 「もー!シンちゃんのえっちぃー!」

 

 

 あっ、飛んでる。今日も空が青いなぁ。

 

 

 「違う、落ちてる。」

 

 

 そう気づいたのも束の間、直後に地面と接触して目が覚める。

 

 

 「シンジさん?こんなところでなにやってるの?」

 

 「・・・穴に埋まっているんだ。」

 

 

 遅れてやってきた三人娘に助け起こされ、パンパンと土を払う。なんだ、よく見ればGIRLS本部のすぐそばの建物じゃないか。

 

 

 「わー!ホントに生き返ってる!」

 

 「むしろ死んでたって実感がないんだけど。」

 

 「だからって、怪獣娘の尻尾を触るなんてこのスケベ!」

 

 「え?尻尾ってそういう扱いなの?」

 

 「ボクも尻尾触られるのは恥ずかしいかな・・・。」

 

 「レッドキングさんが毎日尻尾のリボンを変えてるぐらい大切な部分ってのはわかったかな・・・・。」

 

 「急にオレにパス回すな!」

 

 

 「しかし、結局原因はなんだったんでしょうか?」

 

 「わからん。」

 

 「いやいや、どう考えてもあのス-ツが原因でしょ、電気ビリビリいってたし。」

 

 「ああ、アレは絶対体に悪いぞ、客観的に見ても。」

 

 「そうですか?痛気持ちいですけど。」

 

 「気持ち悪いからダメ!」

 

 「ちょっとショック。」

 

 

 「あっ、もうすぐ2時だ。」

 

 「2時がどうしたんだ?」

 

 「トレーニングに行かなきゃ。」

 

 「待てぃ、自分がどんな状態かわかってんのか?」

 

 「わかりません。」

 

 「なおさら悪いわ!しばらくは休め、先輩命令だ!」

 

 「はーい。そういえばバディライザーが無いんですが?」

 

 「ここにありますよ~、はいどーぞ。」

 

 「ありがとー・・・って画面割れてるじゃん!」

 

 「そうなんですー、シンシンが倒れた時、割れているのが見つかったんです。」

 

 「落としただけで壊れるものかなぁ?散々殴られたり落ちたりしたのに壊れてなかったのに。」

 

 

 一応電源は入るし、操作も受け付ける。が、ちゃんと動いてくれるかどうかは、動かしてみなければわからない。

 

 

 「じゃあちょっと試して・・・。」 

 

 「ダメ!」

 

 「だよね。わかった、大人しくしてる。」

 

 「まあ何はともあれ、無事でよかった。」

 

 「うん、心配してくれてありがとう。」

 

 「なにかあったら、すぐ呼んでくださいねー。」

 

 

 じゃーねー、と帰っていく一同を見送り、壊れたバディライザーの画面を見つめる。割れたガラスに自分の顔が映る。

 

 

 「ミカ、行かなくていいの?」

 

 「ううん、もうちょっといる。」

 

 

 バディライザーを持つ手に、ミカが手を重ねてくる。

 

 

 「うん・・・ちゃんと脈あるね。」

 

 「うん。」

 

 「ちょっと見せて。」

 

 「なに?痛い痛い首が折れる。」

 

 

 突然顔を掴まれ、瞳を覗き込まれる。目と目が合うシチュエーションって、もっとドキドキするものじゃなかったっけ。

 

 

 「瞳孔も開いてないね。」

 

 「今まさに開きかけたよ・・・。」

 

 「心臓も・・・動いてるね。」

 

 「ああ・・・。」

 

 

 シンジの胸にミカは耳を当て、シンジもそれを受け入れる。今気づいたけどドキドキするシチュエーションは、生きていることを確かめるのと似ている。

 

 

 「ねぇシンちゃん・・・死んでる間どうしてた?」

 

 「なにそれ?どうしてたって、死んでたら何も出来ないじゃん。夢は見てたかな。」

 

 「どんな夢だった?」

 

 「・・・哀しい夢かな。あまり思い出したくない。」

 

 「ボクは・・・ずっと辛かった。数時間しか経ってないはずなのに、もう何年も離れ離れだったような気がしてる。」

 

 

 「昨日も言ったけど、シンちゃんには危険から離れてて欲しいんだ・・・。」

 

 「・・・どのみち、しばらくは戦えないよ。」

 

 「今はね、でもこれからどうするのか、シンちゃんはどうしたい?」

 

 「僕は・・・。」

 

 「ごめんね、ボクのワガママだよね。決めるのはシンちゃんだから、気にしないで。」

 

 

 「ふわぁあ・・・安心したらなんだか眠くなってきちゃった。」

 

 「寝てないの?」

 

 「眠れなかった・・・昨日はね。」

 

 「なら休んだら?」

 

 「そうする、おやすみ。」

 

 「そこ僕のベッドじゃないのか。」

 

 「ぐーぐー。」

 

 

 わざとらしく寝息を立て始めた。ちょっと外へ出ていよう。

 

 

 「いっしょに寝てくれないのー?」

 

 「子供じゃあるまいし。」

 

 

 半端なセリフを吐き捨てて部屋を後にする。とりあえず屋上にでも行こうか。それにしても何かを忘れているような気がする・・・。

 

 

 「家に連絡入れてないや。チョーさんどうなってるだろ?」

 

 

 携帯を取り出しつつ屋上への階段を登って行った。

 

 

====☆====☆====☆====☆====☆====☆====

 

 

 「もしもし?」

 

 『シンジさま、おはようございます。昨晩はお楽しみでしたね?』

 

 「いや違う、あー・・・思いもがけず外泊してしまった。連絡を入れていなくてすまなかった。」

 

 『成程。』

 

 「で、しばらく検査のために家に帰れなくなった。だから夕飯はいらない。」

 

 『承知しました。』

 

 「あー、でも一回着替えを取りに帰るよ。」

 

 『用意しておきます。』

 

 「えーっとそれと・・・。あのさぁ、」

 

 『はい?』

 

 「もしも僕が二度と戻れなくなったとしたら、チョーさんどうするの?」

 

 『なにも。』

 

 「え?」

 

 『なにもしません。私は、シンジさまが『いってきます』とおっしゃられれば、お戻りになるまでに部屋を掃除し、夕飯の支度をし、いつお戻りになられてもいいよう、スープを温めておくだけです。』

 

 「そっか・・・ありがとう。」

 

 『どういたしまして。』

 

 

 通話を終え、柵の向こう見える景色を見て思いをはせる。

 

 

 「あの夢はなんだったのかな・・・。」

 

 

 妙に質感がリアルだった。感じた恐怖も、哀しさも。

 

 

 「・・・最近こんなんばっかりだな・・・。」

 

 

 空が青いなぁ・・・。

 

 

 「ここにいたの。」

 

 「ん?ゼットンさん・・・。」

 

 

 いつの間にか、すぐ後ろにゼットンさんがいた。

 

 

 「えっと、こんにちは。」

 

 「ええ、こんにちは。」

 

 

 あまり話したことが無い、というか掴みどころが無くてよくわからない。

 

 

 「お見舞いに来てくれたそうで、ありがとうございます。」

 

 「いい、その時あなたは・・・。」

 

 「今は、平気ですけど。」

 

 

 心配して来てくれたのだから、やっぱり優しい人なんだろうけど。

 

 

 「・・・。」

 

 「・・・。」

 

 

 何話せばいいんだろうか。

 

 

 「空が青いですね・・・。」

 

 「そうね・・・。」

 

 

 ゼットンさん、わかっていることは、すごく強いってこと。そんな強い人には、周りはどう見えているんだろうか。

 

 

 「あの、ゼットンさん。」

 

 「なに?」

 

 「ゼットンさんに怖い物とか、怖い体験とかってあるんですか?」

 

 「・・・。」

 

 

 黙り込んでしまった。怒らせてしまったか?

 

 

 「リゼ料理・・・。」

 

 「え?」

 

 「なんでもない。なにかを恐れることは、とても当たり前のことだと思う。」

 

 「はぁ・・・。」

 

 「もう行く。」

 

 「あっ、ありがとうございました。変なこと聞いてしまって・・・。」

 

 「いい。それじゃあ。」

 

 

 ピシュン、とテレポートでどこかへ行ってしまった。アギさん曰く、河原にいることが多いらしいけど。

 

 

 「着替え取りに行くか・・・。」

 

 

 行って、帰ってきて、まだミカは寝ていた。時間つぶしがてら、家の研究室から持ってきた怪獣の資料を眺める。

 

 

 「蘇り・・・再生怪獣。」

 

 

 死んだ怪獣が蘇ったり、蘇らされたりする例は何件かある。古代の眠りから覚めたミイラ怪獣ドドンゴ。バラバラにされた状態からゾンビのように蘇った海象怪獣デッパラス。海岸に流れ着いた死体が、落下のショックで蘇生したゾンビ怪獣シーリザー。

 

 

 逆に蘇らされるパターンとして、生物の魂を奪い、その死体を操る幽霊船怪獣ゾンバイユ。人間の脳にバイオチップを埋め込み、手駒として操った邪悪生命体ワロガ。一番有名なのは、怪獣たちを蘇生させ、怪獣軍団を率いて人類に攻めようとした怪獣酋長ジェロニモンだろうか。ウララー

 

 

 あるいは、ただの人間の死体を操っただけのシャドウマンというのもいる。今の僕も、ひょっとしたらシャドウマンなんだろうか?シャドウと同じ名前の・・・。

 

 

 「お邪魔します。」

 

 「邪魔するんやったら帰ってや・・・ふにゃ・・・。」

 

 「寝ながら反応するな!いらっしゃい、エレキングさん。」

 

 「おはようございます。」

 

 「おはようございます、もうお昼ですよ?」

 

 「ただの挨拶だから。」

 

 「アッハイ。」

 

 

 ゼットンさんの次は、エレキングさんが訪ねてきた。

 

 

 「ピグモンから聞いたけど、元気そうね。」

 

 「はい、おかげさまで。色んな人が心配してくれたそうで、とてもありがたいです。」

 

 「それはなによりだわ。」

 

 

 ゼットンさんと同じ、クールな人だけど、大分話しやすい。今度はちゃんと目を合わせていられる。

 

 

 「それで、今日はなにをしに?」

 

 「そこで寝ている甘えん坊を引き取りに、ね。今日も予定があったそうなの。」

 

 「成程、さっきからずっと寝てますけど。」

 

 「それだけ昨日は眠れなかったんでしょう。けどそれはそれ、これはこれだから。」

 

 

 今はとても安心して眠っている。

 

 

 「あら?それは・・・何を見ていたのかしら?」

 

 「これですか?これはちょっと、蘇る怪獣について調べてました。」

 

 

 画面は割れているが、以前問題は無し。サッサッと情報をめくって見せる。

 

 

 「自分が蘇ったことに、何か関係があるんじゃないかと思って。」

 

 「そう、それでなにかわかった?」

 

 「全然。こういうのとは関係ないのかも。そうそう、エレキングさんといえば、怪獣のエレキングの中にも、蘇った個体がいるみたいですね。」

 

 

 月光怪獣再生エレキング。初代の個体が、月光エネルギーで復活した姿だ。電気のかわりに火炎で攻撃する。

 

 

 「月を見て踊ったり、側転して得意げに笑ったり、なんかかわいいですね。」

 

 「かわいい・・・かしら?」

 

 「それからエレキングって一口に言っても、様々なバリエーションがあるみたいですよ。」

 

 

 二酸化炭素を発する個体や、鋭いツメを持った個体。昼寝が好き、なんてやつもいる。

 

 

 「中でもかわいいのがコレ、リムエレキング!手乗りサイズですっごいかわいいんですよ!」

 

 「かわいい・・・。」

 

 「エレキングそのものがかわいいですから。勿論エレキングさんもかわいいですけど。」

 

 「はぁ・・・ついでのように褒めないでちょうだい?」

 

 「うっ、ごめんなさい・・・。でも、エレキングさんをかわいいと思ったのは本心ですよ?」

 

 「はぁ・・・一言余計よ、あなたはまったく。今度は私をナンパしているのかしら?」

 

 「あっ、いえそんなことは・・・あだっ!」

 

 「うにゃうにゃ・・・。」

 

 「・・・ミカ、起きてる?」

 

 

 背中を尻尾で殴られたが、ミカはたしかに寝ている。

 

 

 「さて、そろそろその寝坊助を連れて帰りましょうか。」

 

 「だってさ、ミカ起きろー。」

 

 「あと5分・・・。」

 

 「少し、離れてくれるかしら?」

 

 「これぐらい?」

 

 「もう少し。そこ。」

 

 

 一体何をするんだろうかと首を傾げたのも束の間、エレキングさんは尻尾を取り外すと、それを寝ているミカに巻きつけた。

 

 

 「しびればびれぶー!」

 

 

 眠れる古代怪獣が痙攣して跳び起きた。

 

 

 「んもー、ちょっとシゲキ的すぎだよエレちゃんー!」

 

 「はやく起きないからそうなるのよ。」

 

 「大丈夫ミカ?」

 

 「へーきへーき!これぐらい電気風呂みたいでちょうどいい湯加減だよ!」

 

 「あら、なら毎朝やってあげようかしら?」

 

 「丁重にお断りするよ!」

 

 

 ふわぁっと欠伸をして、ポリポリと顔をかいたりしながらミカは歩きだした。

 

 

 「じゃあシンちゃん、またね。」

 

 「うん、エレキングさんも、また。」

 

 「ええ、またね。」

 

 

 二つの背中を見送り、今度はゴモラのバリエーションについて調べてみようかと思い立つ。

 

 

 ジョンスン島で平和に暮らしていたのを、万博に展示するために連れ去られ、空輸中に落下したショックで本能が目覚めた古代怪獣。

 

 

 見た目はゴモラそのものだが、腕からロケット弾や拘束光輪、ツノから破壊光線を発するゴモラⅡ。実は初代のようなゴモラザウルスではなく、微生物の変異体だという。

 

 

 アンデス山脈で見つかったミイラが、大雨を浴びて蘇ったパワードゴモラ。その生態はのっそりとした水牛のようで、蘇生してほどなくして自然死してしまった。

 

 

 元はとある国に生息する珍獣だったものが、テロリストの実験によって凶暴な怪獣にされたしまった、というのもいる。なんか聞いたことがあるというか、他人事のように思えない話だ。

 

 

 また、タイに現れ、超能力を用いて天変地異を引き起こしたり、怪獣軍団を率いたりした・・・という未確認情報があるという。あまり触れないほうが吉だろうか。

 

 

 総じて言えるのは大抵のケースで、ゴモラは人間の身勝手によって目覚めさせられたり、暴れたりしているということ。ゴモラだけじゃない、一部の怪獣も人間の身勝手な考えによって不当な扱いを受けたことがあるという。

 

 

 「これは・・・トップシークレット・・・。」

 

 

 ゴモラに関して、2つ3つ不明なデータが存在する。それらを纏めてもってきたが、中身はわからない。

 

 

 「バディライドしたとき、ゴモラの体が燃え上がるのと何か関係があるのかな?」

 

 

 間近で感じたが、あれは幻覚などではない。まるで太陽のような燃える熱気を感じた。

 

 

 萌えるじゃなくて燃える。その熱に当てられて、僕自身も何でも出来て島ような錯覚に陥るぐらいだ。

 

 

 「こんにちは、久しぶりだねシンジ君。」

 

 「あ、ベムラーさん、お久しぶりです。」

 

 

 次はベムラーさんが来た。最後に会ったのは、GIRLSへの所属が正式に決定したあの時だったろうか。

 

 

 「突然の訃報かと思えば、情報が二転三転して驚いた。」

 

 「その当事者の僕が一番驚いてますよ。」

 

 

 お土産に持ってきてくれたすもも漬けを食べながら話をする。食事制限なんかはされていないし、食べても問題ないだろう、多分。

 

 

 「この情報も無駄になってしまうかと思ったが、その心配もなさそうね。」

 

 「なにか進展があったんですか?」

 

 「ああ、まっさきに君に伝えるべきだと思って。独占スクープだ。」

 

 

 そう言って、鞄の中から取り出したるは大きな封筒。中には写真と、数枚の書類が入っている。

 

 

 「この写真は・・・?」

 

 「それは小笠原諸島にある大戸島という島で撮られたものだ。その写真の、右上の部分をよく見てくれ。」

 

 「右上?人が写ってるだけですが・・・この人がもしかして?」

 

 「そう、君の父だ。撮られたのは2か月ほど前のことだが、事前情報と99%一致している。」

 

 

 何気ない観光写真に見えるそれに、とても重大な情報が載っていた。

 

 

 「隣にいる・・・女性は?怪獣娘さんなのかな?」

 

 「以前言っていた、フリドニアで暴れた怪獣娘だと思われる。今は一緒に行動しているんだろう。」

 

 「いい年した息子がいる親が、妙齢の女性と一緒にいるって、なんか浮気調査みたいですね。」

 

 「言うな、私だって気づいたけど言いたか無かったのに。」

 

 

 女性の方の顔や表情はよくわからない。白いワンピースに、白い帽子という、絵に描いたような『少女』というべきその存在は、神秘のヴェールに包まれていた。様々な理由が重なったとはいえ、一国を滅ぼした、恐るべき『怪獣』だというのに、シンジもその美しさに魅せられようとしていた。

 

 

 「とにかく、父は生きている。そういうことですね。この二か月の間に不慮の事故にでもあってなければ。」

 

 「そういうことだ。そしてかなり日本の・・・いや、君の近くにいる。」

 

 「僕に会いに来たってわけではなさそうですけど。」

 

 

 写真は一旦置いておいて、次なる興味は数枚の書類の方に移った。なにかの研究レポートのようだ。

 

 

 「『怪獣と地球外鉱物の相乗関係』なにこれ?」

 

 「ソウジ氏が研究していたが、学会へは未発表だった論文だ。半分焼き捨てられていたものをある程度復元できたんだ。」

 

 「そんな技術があるのか。」

 

 「色々あるんだよ。」

 

 

 簡単にまとめるとこうだ。怪獣は、ある種の周波の波動を感知して現れることがあったという。その根幹を司る物質が地球外には存在し、それらが隕石となって地球へ降り注いでいるという可能性があるということ。

 

 

 「そして、ソウジ氏は実際にそれを発見し、精製することによってある機械のパーツとした。」

 

 「それが、バディライザー。」

 

 「そういうことだ。怪獣を操る研究というのは、あくまで全体からみた一部分だったのだろう。本来の目的は、別にありうる。」

 

 「それは?」 

 

 「現在調査中。大戸島で見かけられたことと、何か関係があるのかもしれないが。」

 

 

 情報をすべて封筒になおしてベムラーさんに返すと、窓の外を見た。あの空の向こうにいるかもしれない人を思って。

 

 

 「・・・父は何を考えているんでしょうか。」

 

 「それは調査中だ。」

 

 「そうじゃなくて・・・以前の話の続き。どんな人なんでしょうか。」

 

 「ああ・・・。」

 

 

 少し、ベムラーさんの表情が変わったようだった。

 

 

 「僕の事を、放置しているわけでもないし、構ってくれてるわけでもない。よくある、家族よりも仕事の方が大事ってやつなのか。」

 

 「・・・。」

 

 「お母さんも、あんまり父のことを話してくれなかったんですけど、父から手紙が来た時、すごく喜んでました。だから、お母さんは父のこと、愛してるんだと思います。」

 

 

 話題を切り出したはいいが、何を言えばいいのかわからない。頭の中でぐるぐるしていた考えをぶちまけていく。

 

 

 「父にとって、父の研究にとって、これが大事なものなんだってわかります。それを託されたって意味も、なんとなく理解してます。けど・・・その、父はこれを『うまく使え』とは言っても『どう使え』とは聞いてないんです。その、実際にそう言われたわけではないけど、そう言われたような気がするってだけなんですが・・・。」

 

 「そうか・・・。」

 

 「本当は、本当はね・・・仕事のことでも、家族のことでも、どっちでもよかったんです。ただ、父が僕のことを見てくれたってだけで。」

 

 

 「でも、じゃあ、父にとって僕は、都合のいい道具なのかなって?」

 

 

 「・・・そんなことは、ないさ。」

 

 

 少し間があって、ベムラーさんは応えた。はっきりと、強い言葉で。

 

 

 「君の事を本当に都合のいい道具だと思っているのなら、それこそ、『都合のいい道具』を使うさ。人間なんて腐るほどいるんだから。君は腐った人間なんかじゃない。」

 

 

 「何故なら、君の周りには『光』があふれている。目を開けて周りを見渡してみれば、いつでも見えるだろう。」

 

 

 思い出せるもの、多くの友達、仲間たち。

 

 

 「光あるところ影もあるが、君には影ができる隙間も無いほど、周りから照らされている。私も、私自信をその一つだと思っている。虚勢でもハッタリでもなんでもなく、君は一人じゃない。」

 

 

 そういうベムラーさんの目はとても暖かった。

 

 

 「それだけ。元気がでたかな?」

 

 「はい、ありがとうございます。」

 

 「ならよかった。また会おう、ではな。」

 

 

 小さく手を振ってベムラーさんは行ってっしまった。

 

 

 少し、目頭が熱くなってきてしまった。布団にくるまって目を閉じる。

 

 

 悩んで複雑な事を言ってしまったが、こんなにも簡単に言いくるめられてしまった。

 

 

 (ああ、こんなことに悩んでたんだな、僕。ちょっと疲れてるんだ。)

 

 

 眠りの世界へと落ちていく。先ほどまでミカが寝ていたベッドだ、心地よい夢が見れそうだ。安心につつまれながら。

 

 

 

 

 「焦げ臭っ、ひょっとして電気ショックのせい?」

 

 

 この後滅茶苦茶洗濯した。


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