我の朝は早い。
自分で作った家の時計の針が7時になるとジリジリと我の瞼を抉じ開けてくる。
そうやって目を覚ますとまずは朝の運動である電力発電である。
自転車に股がりひたすら漕ぐ。
ふぅと3時間ばかり漕ぐと汗を拭く動作をする。(無論汗など掻かないため気分だけを味わうのだが)
そして、家を出ると一面の畑。
そこには様々な果実が実を成している。二毛作採用というのをここに書いておこう。
鍬を持ちまたもやひたすら耕す。
土が生き生きしたらそれが植え時だと本に書いておった。
種を植え、実っている果実を収穫する。
うむ、なかなかのいい仕上がりではないか。
『ナかナカだナ』
口に含んだ食べ物を咀嚼しながら呟く。朝なのであまり重いものは食べたくないので野菜がほとんどだがとても瑞々しく、口の中で爽やかに広がる食間は心地よい。
『どウシタ?たベナいのか?』
テーブルの向かえに座る女の子に聞くが反応は帰ってこない。
ふむ、不満にでも思っているのか?
「~~~っ!もう我慢の限界だ!!答えてもらうぞ、助けた理由と此処が何処か、諸々全て!!!」
どうやら食事には不満がないのだが現状に不満があったらしい。こういうときは謝罪をすると教えてもらった。
『あァ、そレハスまなナイなーーー三ノ輪銀』
「がぁー!!ほんっとに意味わからん!!!!」
そう自分の髪をかき毟な、痛むぞ。
乙女の髪は命だとあいつらも言っていた。
まぁ、そろそろ頃合いだな。
■■■
「お前たちにはわからないだろうなぁッ!!」
視界が真っ赤になりながらも叫ぶ。
私は、勇者だ。
このバーテックスを倒す、勇者。
こいつらが進んでしまっては私の大事な家族、友人、全てが無くなる。
そんなのは嫌だ、だから剣を振るう。
「グッ……ぁ……はぁ……」
息絶え絶えの中、1体のバーテックスを撃退し、残りは2体。
遠距離から弓矢のようなものを放つ奴と蠍のような敵だけだ。
「……帰るんだ……守るんだ……!」
私は、帰る。
私は、守る。
だから、叫ぶ。こいつらを倒すために。
「うおぉぉぉおおぉ!!」
敵に向かって駆ける。
相手もただの木偶の坊ではない、弓矢を放ってくるが大剣でガードしながら進む。
なんとか目前まで迫る、そして渾身の一撃を放つ刹那、視界が霞む。
耐性を崩すがすぐに持ち直し、攻撃を繰り出そうとして気付く。
「しまっ……!」
蠍の尾が迫っていた。
衝撃を覚悟し目を強く瞑るーーーが、一向にその衝撃が来る気配がないとわかると誰かに抱えられているのに気付いた。
そこで浮かび上がったのが最愛の友のことで、若干の嬉しさが身を包んだ。
須美か、園子か。或いは二人ともか、どれかの可能性を考えながら目を開ける。
そして移るは白。所々赤い線が入っているが明らかに人が鎧を被ったようなものだった。
見覚えが、襲う。
「バーテックスッ!!」
明らかに以上だが、わかる。こいつはあっち側だと。そして、その敵に抱えられているのがわかった銀は振りほどこうと必死になる中、独特な声音が囁かれる。
『落ち着け、敵ではない……と言っても信じてはもらえないだろうが我は貴様を助けてやる。何、意味はあるさ。だが、今言うには場違い感が否めない。詰まるところ、共闘と行こうではないか、三ノ輪』
「ッ!!なんで私の名前を!!……銀さんのこの不幸体質もここまで来ると自慢できるレベルだな……」
『あぁ、この戦いが終わったら全て聞き、すべて答えてやる、ーーー!』
「あぁ、そうしてくれ、ーーー!!」
着地をし、二人は武器を構える。
銀は心の中で未だに最大の警戒心を隣に立ち白い刀を抜いてるバーテックスに払う。
この距離なら、殺れる。その力があるがこいつから感じる恐怖に挑もうとする勇気が灰となって消えていく。
こいつは敵だ。だが、安心してしまう。敵だとわかっているのに安心して気が緩んでしまうのだ。
それが恐怖となって伝染する。
敵に対しての緩みは、生きることの緩み。それがわかってしまうから額から流れ出る汗が気に食わない。
『来るぞ』
「!!」
バーテックスがそう言うと敵が動き出す。遠くから弓矢が雨のように降り注ぐ。
『我が、道を切り開く。三ノ輪はただ突っ込め。何も恐れず、ただ必死にな』
「おいおい、流石のアタシも死にに行くような真似なんか出来るわけないだろ……。まさかとは思うが、あの弓矢全て斬るとかじゃないよな?」
三ノ輪は呆れたように言う。
『鋭いじゃないか。では、行くぞ!』
「嘘だろ!根性とかでどうにかなるレベルじゃないぞ!!って、速っ!!」
速っ!!あぁ、もう意味わかんないな!!終わったら絶対、大赦に文句を言ってやる!!
『ハァ!』
バーテックスが横に一振りする。
そして、空気の揺らぎが三ノ輪を襲った。
なっ!一振りで弓矢のほとんどを落とした!?しかも、今肌に空気が通りすぎるような感覚……。
『ぼさっとするな!』
「……!あぁ!!」
今は他に意識を向けるな、三ノ輪銀!アタシは今最善を尽くすために、剣を振るえ!!
相手のバーテックスに肉薄し、跳躍。
「うおおおおお!!」
縦に思いっきり切り裂き、弓矢を放つバーテックスを戦闘不能にさせる。しかし、それで終わらない。次の標的を視界に入れる。
「よくも、須美と園子をやってくれたなァ!!お前が与えた苦しみ、特と味わえ!!!」
コイツが須美と園子をやったという事実は血を多く流し、今にでも倒れそうな三ノ輪に小さくも十分な力を与える。
地中から、蠍の尾がアタシを襲う。けれど、それを避けない。
大丈夫だ、と何故かわからないが思ってしまう。
そして、それは間違っていなかった。
『っ!!』
目にやっとのぐらいで納める早さできたバーテックスがそれを斬り捨てた。
『行け!』
「おらぁああああああ!!」
今一番の大声。
それを皮切りに終着点に辿り着いた。
撤退した3体のバーテックスに悪態をつき、剣を向ける。
「助けてくれたことに感謝はする。感謝はするけど、敵対しないとは言ってないよな。……教えてくれ、お前は一体なんなんだ」
『それは後でだな。それよりもそろそろか……』
「はぁ!一体、何を言って……ぁ……れ……?視界が……」
『勝ったとはいえお前は血を流しすぎた、幸い命に別状はないと思うが……と、もう聞いておらんか』
アタシは、そこからは何も覚えていない。
次に目にした光景は知らない天井と変な鼻唄まじりにお粥を作っているバーテックスの姿だった。
須美、園子。アタシの頭がオーバーヒート寸前だ、助けてくれ。
■■■
『意味ハ、たダノ興味本意だ。興味本意でお前を助ケた』
我がそう言うと三ノ輪は顔をしかめた。ふむ、何か可笑しいことがあったろうか?
アイツラも興味というものに敏感だったぞ。
「……わかった。興味本意ということで一応は納得しとく。けどさ、なんでこの家に連れてきたんだ?それと、この古い本たちはどうやって……」
『あア、コレか。コれハ初代勇者タチから貰った』
我がそう言うと次は驚いた表情になる。正に百面相。とても面白い。
「意味がわからん……。初代勇者が敵と内通してたなんて……。いや、でも……。あれ、じゃあなんでアタシの名前を?」
『初代勇者ハ3人。それゾれ、鷲尾、乃木、三ノ輪だッタナ。見て直グにワカッたぞ』
「なるほど、そういうことか」
そして、我はここがどういったところか教えた。
ここは、云わば神樹の結界の一部。無理やり、引き剥がし自らのものとしたのだ。
どうやったかというと、どうやったんだろうか。あのときはがむしゃらにやってたからな。
そして、初代勇者の邂逅はよく覚えている。
我に知能があるとわかるとなんと友好的に接してきたのだ。乃木だったな。そのあとは鷲尾と三ノ輪ともなんとか和解。けれど、我は敵だということでそういうことでしっかりと決心してから戦った。
あのとき、乃木が「じゃあ~、お茶会を今度やりましょう~」という意味不明理解不能発言がなければ今の我はいないだろう。
そして、本とかを色々貰い切り取った神樹を用いてこの家を作り、畑を耕したというわけだ。
「じゃあ、お前に敵意はないのか?」
『ナイな』
小さく答えると三ノ輪はすぅーと息を吐く。
どうやらここで殺されてしまうかもと思ってたらしい。
「わかった、ありがとう助けてくれて。それで、こっからどうやってアタシの世界に戻るんだ?」
『ーーー戻るノか?』
「あぁ、須美と園子が心配だ。それに家族もいるんだ」
『三ノ輪、単刀直入に聞く。我の元で研鑽を詰んでみないか?』
我がそう言うと三ノ輪は口を大きく開けて呆然とした。
それはしょうがないことである。いきなり弟子にならないかという申し出が敵からきたのだ。
「順応性が高い銀さんでもそれは、言葉に詰まるな……。弟子になれって?そうしてアタシに何のメリットがあるんだ」
『少なくとも今よりは断然強くなれる。そして、お前が守りたいものをまた守れる。どうだ、それがメリットだ』
「中々に魅力的なメリットだな……。ちなみにアタシがもし仮にアンタの元で修行すると今の何倍強くなる?」
『少なく見積もっても5,6倍は強くなれる』
三ノ輪にはムラが多い。だからそれを改善し自らの剣技を産み出せば爆発的に強くなるだろう。
「ははっ……。まったく世話の焼ける友人をもった須美と園子は可哀想だなぁ……。ごめん、駄目なお姉ちゃんで」
『決まったか?』
「あぁ、わかったよ。ちょっと釈然としないけどお前はアタシよりも断然強い。そして、須美と園子、家族を友人を、皆を守れるんだったらやってやろうじゃないか。ということだ、宜しく頼むぞーーー師匠」
『あぁ、手解きは任せてもらおう』
こいつがどこまで強くなるか楽しみだな。
そして、あの二人も。
バーテックス変異種といっても我が作ったバーテックスを三ノ輪に擬態させ殺人の実演。それで二人は我に憎しみを抱き強くなる。
まさに最高の展開だな。三ノ輪……これだと混ざるから初代を名字で、今の勇者を名前で呼ぶか。
あいつから貰ったこの大人気忍者漫画でも憎しみは人を強くすると書いてあるからな。
許せ、二人の勇者よ。
ちなみに、スマホという文明の力も擬態させ破壊しておきました。抜りはない。
「ちなみに、最初は何の訓練をするんだ?」
『無論、自転車漕ぎダな』
電気は大事だ。