バーテックスは敵である   作:日々はじめ

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第8話 失われた希望

 5人の勇者は息絶え絶えの中、武器を強く握りしめていた。

 特に、精霊を憑依している若葉と千景は次第に胸の奥底から涌き出る憎悪と戦いながら戦闘しているためほかの勇者と違い、大幅に疲弊していた。

 攻撃をするたびにその攻撃する人の大切な人に化ける原初のバーテックスに対し、5人は困惑の表情を浮かべる。

 

 「あまり考えたくありませんがもしかしたら……」

 

 杏が息を整えながら自身の考えを口にした。

 

 「なんだ?何かわかったのか?」

 「はい。原初のバーテックスは姿を変える。これは紛れもない事実です。しかし、それは対象となる人物によって変わります」

 「あぁ、そうだな。いきなり杏に変わったときはびっくりしたぞ!」

 「私もタマっち先輩になったときはびっくりしたよ。そこで、考えました。もし、大切な人を、偽物だとしても自分の手で殺してしまった場合、皆さんはどうなりますか?」

 「ーーー自分を悔やみ、自分を憎み、そうなるだろうな」

 

 若葉の答えに納得がいったように杏は頷いた。

 

 「そうです。精神的に追い詰められてしまいます。そして、ここからが本題です。精神に及ぼし、勇者に関係するもの……。それは千景さんが一番御存じのはずです」

 「……!アンちゃん、それって!?」

 

 友奈は驚きの声をあげる。

 千景は目を見開いてただ立っている原初のバーテックスを見る。

 

 「恐らくですが……。原初のバーテックスはバーテックスはではなく」

 「精、霊……?」

 

 千景は絞り出すように呟いた。

 

 「無論、確証はありません。けれど、友奈さんが言っていた造反神の存在や、今までの勇者の歴史を省みてその可能性は十分にあります」

 「タマが馬鹿だから理解できないのか?それとも難しい話なのか、よくわからん…」

 「大丈夫だよ、タマちゃん。私もだから」

 「お前らは本当に……。だが、杏の言う通りだ。バーテックスならこうやって話す余裕すら与えない。しかし、アイツは自身がバーテックスと理解しているはずだが……」

 「何か理由があるかもしれません。それは、理性が戻ってきてから聞いた方いいですね」

 「なら……。さっさとやってしまいましょう……。皆には悪いけど、そろそろ限界……」

 「あぁ、千景の言う通りだな。思った以上にキツい」

 

 若葉が困ったように言う。

 その手は微かに震えていた。

 そして、その言葉を合図かと言うように原初のバーテックスが動き出した。

 5人もまたそれぞれの陣形をとる。

 先頭は若葉と千景と友奈、杏と球子はサポートに撤する。

 

 「喰らえっーーー!!」

 

 若葉の剣が届く刹那、又もや姿が変わる。ーーーそれは、クラスで初めてできた友達だった。

 ひなたが然り気無くフォローしてくれたお陰で怖がられた若葉にとって初めて出来た友達。

 その姿を見て若葉は下唇を噛んで、叫んだ。

 

 「乃木を舐めるなあああああああああっ!!」

 

 一線。その友達を若葉は切り裂いた。だが、与えられたのはわずか数cmの切り傷だけ。

 しかし、若葉は攻撃をした。その事実だけは揺るがない。

 それに呼応するかのように7人の鎌を持った死神が襲う。

 原初のバーテックスは最早精神攻撃が聞かないと判断してか、刀で威力を殺しつつ、反撃をしようとし拳を握った。

 拳が届く直前千景の体が横にずれた。

 

 「高嶋さん!」

 「うん、任せてぐんちゃん!はあああああああああ!!」

 

 友奈の拳と原初のバーテックスの拳が重なった。

 派手な音ともに片方が吹っ飛ばされる。原初のバーテックスは吹っ飛ばされた自身の拳を見つめた。

 そして、それに追随する形で遠方から球子と杏が四方から攻撃する。

 原初のバーテックスは跳躍して回避する。しかし、それを読んでいたのか若葉が待ち構えていた。前とは違う太刀筋に原初のバーテックスは刮目し。

 

 「これで、終いだっ!!」

 

 若葉の雄叫びと共に今度こそはしっかりと切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ここは……。そうか、負けたか』

 

 それから数十分後、意識が戻った原初のバーテックスはゆっくりと起き上がる。

 

 「けどまぁ、強かった!タマはもう御免だな!!」

 「タマっち先輩の言う通りだよ~」

 「けど……。皆よく頑張ったわ……」

 「おぉ、ぐんちゃんが皆を誉めた!今日は御赤飯だね!!ねっ、若葉ちゃん!!!」

 「はぁ~……。私たちはこのあと、って今は言っている場合じゃないな。単刀直入に聞く、お前は一体何者だ?」

 

 若葉の真剣見溢れる雰囲気に場の空気が一気に重くなった。

 

 『……。そうだな、逆に聞くがお前らはどう思う?』

 「ん~、わからん!」

 「右に同じ!!」

 「精霊……?」

 

 上から順に球子と友奈と杏が喋る。

 そして、最後の答えに納得のいったように首を縦に降る。

 

 『杏と言ったか……。それが正しい、いや半分正解だ』

 

 その答えに杏は怪訝そうな顔つきになる。

 

 『我はバーテックス。それは変わらん。神に作られ、人間を蹂躙すべく動いていた。そして、それは我が生まれたときから』

 「生まれた……?」

 『我は元々は星屑、お前たちが勇敢にも立ち向かい滅ぼしてきたそれだった』

 

 原初のバーテックスのその発言で勇者たち全員に驚愕の表情を浮かべた。

 

 「なっ!どういうことだ!!……いや、星屑は進化する、それを考慮したら納得がいくのか……だが……」

 『我は生まれたとき、そうだな、大体3歳児ぐらいの知能を持っていた、別段珍しくもないのだがな。だが、そこで出会ったのだ』

 「出会ったってことは……。人間……?」

 

 千景の発言を原初のバーテックスは何かに耽るように反芻させた。

 

 『あぁ、その人間は二人だが、まぁそのうちの一人の言葉を真似るならばーーーイグザクトリー、我は人間と出会った、と言ったところか』

 

 言い慣れていない英語を使い話す原初のバーテックスに対し球子は少し吹き出したが、若葉だけ他とは違った行動をとっていた。

 震える声で静かに聞き出す。

 

 「もしかして、そのしゃべり方……」

 『では、話すとしようか。我が出会った二人の人間ーーー白鳥歌野と藤森水都についての話を』

 

 ■■■

 

 とある一室の病院。

 ピコンピコンと病院のよくある機械の音がとても不穏に感じれた。

 未だに眠っている友奈の回りに勇者部一同に加え三ノ輪銀がその様子を眺めていた。

 

 「つまり、私たちが今生きているのはここで寝ている友奈とアンタのお陰ってこと?」

 「まぁ、ほとんどは友奈がやってくれたんすけど、そうですね」

 「けど、銀。貴方は勇者ではないと……」

 「それには深い事情があるんだ。あるタイミングだけアタシは勇者になれる。けど、理由は今は教えられない、ごめん」

 

 頭を下げる銀。

 樹はベッドで横たわる先輩を見て悲しそうに呟いた。

 

 「友奈さん……」

 「けど、友奈がなんでこうなったか。なんで精霊が動かなかったか。それだけは教えてもらうわよ」

 「わかりました。大赦の方からもアタシの口から説明するように言われていますので場所を変えましょう」

 

 銀が東郷の車イスを動かしながら病室を出る。それに続いてほかの二人も病室をあとにした。

 歩いて少ししたところで皆が腰を下ろした。

 

 「今回精霊が働かなかったのは神樹様で異常が発生したから、と大赦は言っている」

 「異常?」

 「はい、何か神授様の中で暴れまわりそれを押さえるためそこに力を使っていたためと考えているらしいです。そして、友奈について」

 

 最愛の友の名が出てきたことで東郷が強く目をつぶる。

 自身に対する叱責、それだけが今の東郷の心を楽にする方法だった。

 

 「友奈は精霊を憑依させ、あんな風になりました」

 「なによそれっ……!聞いてないわよ!!」

 「これは西暦の時代の勇者たちの切り札、アタシたちのいう満開みたいなものです」

 

 満開。溜めた力を一気に放出する勇者の切り札。

 その言葉に風は黙る。

 

 「だけど、友奈は無理矢理精霊を憑依させました。そしてその強大な力の反動で体が耐えれなくなり」

 「あんな風になった……」

 

 樹の言葉に銀はただ頷いた。

 

 「ただ、なんで大赦がそれを教えなかったと言うのはアタシにも知らされていません」

 「大赦も黙りって訳ね……。けど、いいわ。まず皆が無事だったわけだし、友奈が目覚めるまで気長に待ちましょう」

 

 風はそういって、ほかの勇者は友奈が眠る病室の方向を眺めることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「結城友奈!只今戻りましたっ!!!」

 「友奈!」

 「友奈ちゃん!!!」

 「友奈さん!!」

 

 それから数週間後、友奈は右手にギプスを巻いて左手で高らかに宣言して勇者部の部室へと入ってきた。

 

 「もう退院してもよかったの?」

 「はいっ!なんか思った以上に治るのが早くてお医者さんも吃驚していました!!」

 「友奈さんらしいです……」

 「よかったわね、友奈ちゃん。あっ、ぼた餅食べる?」

 

 東郷はいつも通りの笑顔でそう言ってぼた餅を差し出してきた。

 友奈はそれを満面の笑みで眺めた。

 そして、それとは裏腹な冷たい声で言った。

 

 「いらない、見たくもない」

 

 その時部内の空気が一気に悪くなる。

 東郷は理解が追い付かない顔、風と樹は驚きの声をあげた。

 

 「友、奈ちゃん……?」

 「ーーーーなーんてっ!!冗談だよ、東郷さん、私がそう言うはずないよ~」

 「それにしては冗談が過ぎるよ、友奈」

 

 風が厳しめに注意する。

 友奈はしょんぼりした顔を浮かべた。

 

 「すみません……。暇なときに読んでいた漫画でこうやって冷たい言葉を放ったあと優しくすればもっと仲良くできるって描いてあって……」

 「違うから!それ絶対友奈の解釈が間違ってるから!!」

 「友奈さんってばすぐ影響されるんだから……」

 

 風の鋭い突っ込みのあと友奈は東郷の目の前まできて片手を縦に突きだした。

 

 「ごめんね、東郷さん!!」

 「ううん、大丈夫よ。ただ、そんなことしなくても、その……私たちはもっと仲良くなれるから」

 

 最後の方は頬に赤みを浮かべながらだったが友奈は笑顔で「うん!」と頷いた。

 すると、ガラガラと扉が開かれた。

 友奈が振り向くと煮干しを咬みながら不貞腐れているツインテールの女の子がいた。

 始めてみる顔に友奈は戸惑う。

 

 「えっと……」

 「アンタが結城友奈?私は、三好夏凜。大赦から派遣された完成型勇者よ!!」

 

 ふんっ!と無い胸を強調して威張る夏凜に友奈は笑顔で手を差し伸べた。

 

 「よろしくね!えっと……煮干し夏凜ちゃん!!」

 「アンタそれわざとよね!!ーーーまぁ、いいわ。宜しく」

 

 しっかりと握られた手を見て友奈は誰にも聞かれないような小声で呟いた。

 

 「勇者ならあのとき助けに来てくれてもよかったのに……」と。

 

 

 

 

 

 

 




わーい!!
最後の方は待ちに待った日常をかけたぞー!!

次話は原初のバーテックスの過去話ですね!うたのんのみーちゃんがでますよ、やったぜ。

あぁ^~、初代勇者組たまんねぇぜ。
初代勇者組は神、はっきりわかんだね。

そんなことより友奈がどうなるか考察して、どうぞ(迫真)

あと、評価や感想をください!!なんでもしますんで!!(何でもするとは言っていない)

追記
次話はとてもとてもとーっても重要な回なので自分が納得のいく出来になるまで試行錯誤していくつもりです。
できるだけ早く投稿できるようにしますので気長にお待ちください。
※現在、7837文字(完成率約35%)
長くなりそうです。

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