バーテックスは敵である   作:日々はじめ

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第7話 賢明でやさしい愛情によって支えられた価値

 郡千景は勇者であった。

 西暦の時代、神様に見初められ大鎌を持ちほかの勇者と戦った。

 それは、紛れもない事実である。

 そして、その事実は大赦によって、その時の最大権力をもつ巫女によって消されてしまった。

 理由は簡単。

 精霊の憑依を繰返し、精神的に追い詰められた彼女は仲間と民草に刃を向けたから。

 その経緯はすごく残酷でーーーとても悲しいものだった。

 

 土居球子は勇者であった。

 旋刃盤を用いて、時には投げたり、時には守ったり。とても頼りになる勇者であった。

 そして、彼女はとても伊予島杏を愛している。

 よく小さい頃からやんちゃをして親を困らせていた、その時親の口から必ず出る言葉。

 『もっと女の子らしくありなさい』

 女の子らしくとは何だろうかと彼女は考えた。

 そして、バーテックスの襲来のときに出会った勇者、伊予島杏が震えて戦えず顔を真っ青にしていた様子を見て彼女はこう思った。

 ーーーあぁ、これが女の子らしさなんだ。なら、タマが守ってやらないとな!大丈夫だ、タマに任せタマえ!!

 

 伊予島杏は勇者であった。

 幼い頃から体が弱く、よく本を読み耽っていた。

 そして、出席日数が足りなく同じ学年をやり直すことになった。

 そんな折りに、絶望が空から降ってきた。

 バーテックス。【頂点】と冠する異形の化け物により人間は蹂躙された。

 震えず戦えない彼女の前に球子は王子のように颯爽と現れた。

 とても輝いて見えた。彼女に道を示してくれた。

 だから、伊予島杏は土居球子を愛している。

 

 高嶋友奈は勇者であった。

 誰とでも仲良くなり、誰とでも友達になる。そんな彼女は自分自身をーーー臆病者だと言った。

 言い争ってる姿なんて見たくない。喧嘩しているところを見たくない。だから、私が頑張るんだと二人の友人の前でそう言った。

 最後は酒呑童子を身に纏い3体のバーテックスを撃破した後神樹に取り込まれた。

 彼女はずっと皆を思っていた。

 

 乃木若葉は勇者であった。

 親友兼巫女の上里ひなたと共にバーテックスの襲撃を乗り越え、また勇者のリーダーとして皆を率いた。

 とても、強かった。ーーー故に、弱者を理解できなかった。

 幼い頃から居合いを習っており戦闘能力はずば抜けて高い。

 バーテックスを食ったという伝説まである。

 そんな乃木若葉を勇者は頼り、着いていった。

 彼女はずっと口にしていた言葉がある。

 何事にも報いを、それが乃木の教えだと。

 

 上里ひなたは巫女であった。

 神樹の天啓を受け、勇者に付き添い、行く先を一緒に眺めた。

 そして、乃木若葉を目で追い、隙有らば写真を撮ってコレクションするほど彼女のことを思っていた。

 一番辛い役柄の彼女は毎晩、枕を涙で濡らしていた。

 

 5人の勇者と1人の巫女は、よく笑い、よく遊び、よく喧嘩をした。

 仲が悪くなり、友情に亀裂が入った時もあったが最終的にいつも一緒にいた。

 

 彼女らは、かけがえのない友達と一緒に居続けたのだ。

 

 勇者御記 未検閲 

 

 ■■■

 

 郡千景が腹部を刀で刺されて友奈は叫んだ。

 

 「ぐんちゃああああああああんっ!」

 「……大丈夫よ、高嶋さん……。あれは……幻影だから」

 

 ふと、友奈の後ろから千景が現れた。

 友奈たちがそれを目に納めると刀に刺された千景は次第に薄くなり消えていった。

 

 「なるほど、七人御先は確か7人同時に殺さなければ死なない。そういう奴だったな。ところで、千景。なぜいきなり攻撃をやめたんだ?」

 「そうだ、タマはタマげたぞ!」

 「……何かあったんですか?」

 「貴方たち……あれが見えてなかったの……?……あの姿が……。黒い霧が晴れたと思ったらそこには高嶋さんと同じ姿をしていたバーテックスがいたじゃない……!」

 

 千景がそう言ってもほかの4人は首を傾けるだけだった。

 しかし、杏だけはすぐに合点がいった顔つきになる。

 

 「黒い霧というのがわかりませんがましかしたら一定の範囲内に入ると原初のバーテックスの何か特別な能力、それが発動するかもしれません」

 「アンちゃん、それってどういうこと?」

 「さっきの武器の模倣もタマっち先輩と千景さん、二人が一定の範囲内に入ったからだと思います。じゃなければ、最初から模倣して遠距離から攻撃もできたはずです」

 「なるほど、杏の言う通りだな」

 

 すると、球子が意味深の笑いを浮かべた。

 友奈が怪訝そうな顔になり、球子が得意気に答えた。

 

 「なら、相手の注意を引き付け、攻撃すればいいんだな!だったら、これだな!!」

 

 そういって懐から出したものはーーー。

 『打ち立て!超高級うどん玉!』と掛かれたうどんだった。

 その様子に過去の出来事がフラッシュバックして4人は顔をしかめる。

 

 「球子、今はふざけている場合じゃないぞ」

 「タマっち先輩、時と場合ってのも考える必要があるよ……」

 「タマちゃん、ヒナちゃんがいたら吊るされる案件だよ、それ」

 「………………」

 「まぁ、聞け!確かに昔、うどんでバーテックスの注意を引こうとして失敗した!!けど、アイツはどう考えても人間よりのバーテックスだ!!」

 「……そうか!なら、うどんで注意を引ける可能性も十分あるってことだな!!!」

 

 若葉は納得いったような顔になり、ほかの勇者も笑顔で頷いた。

 ーーーこれならいける。

 そう思うと原初のバーテックスがこちらに向かって走り出した。

 

 「タマっち先輩!」

 「おう!いっけええええええええ!!」

 

 さながらプロ野球選手のように振りかぶり放たれたうどんは一直線に原初のバーテックスへ向かっていった。

 すると、原初のバーテックスの動きが止まる。

 その光景に5人の勇者は攻撃体制にはいった。

 しかし、原初のバーテックスは一瞬動きを止めただけでそのうどんをーーー刀で切り裂いた。

 

 「「「「「!?」」」」」

 

 その時、勇者たち全員に戦慄が走る。

 

 「なっ!?あの讃岐最高級うどんを切り裂いた、だと!?」

 「ああ……!わかってはいた、わかってはいたさ!!バーテックスに人間性の欠片もない、化け物だと!!わかっていながら……うどん一つすら救えない自分が情けない……」

  

 わなわなと震える勇者4人を見て千景はただポツリと呟いた。 

 その発言は自分自身、また勇者全員に当てはまる言葉。

 

 「……バカみたい」

 

 そして、若葉が一歩前へ出た。

 決意の秘めた眼差し。ーーーそれは覚悟だ。

 小さく息を吐き出し走り出した、原初のバーテックスと刀を交え合わしながら声を上げた。

 もう形振りは構っていられない。『外』のことも気になる。ここで私たちがいることで精霊の主導権は此方側が握っているのだ。

 『外』は今、精霊が使えない。

 なら、やるしかない。

 

 「降りよーーー大天狗!!」

 

 若葉の姿が天狗を模したものになる。

 

 「遊びは終わりだ‥。ここがお前の終端と知れ」

 

 若葉の剣が原初のバーテックスの右目を貫いた。ーーーと皆は思った。

 しかし、黒い霧が原初のバーテックスを包み、晴れるとそこには。

 

 「ひな、た……?」

 

 親友の上里ひなたがいた。

 これが千景の言っていたものだと分かると腹部に衝撃が入った。

 

 「ぐはっ!」

 「なんだなんだ!?若葉まで!」

 

 若葉は苦しそうに腹を抑え敵を睨み付ける。

 

 「これは、長くなりそうだな」

 

 戦いはまだ始まったばかり。

 

 

 ■■■

 

 「うう……ぅ……」

 

 地面に付している友奈はうっすらと映る視界が赤く染まっていることに気がついた。それと同時に意識を失う直前のことを思い出す。

 

 「そう、だっ。東郷さんは……?」

 

 力を振り絞り友奈は立ち上がる。

 同じように寝ている風と樹は今は安定した寝息を立てていた。

 傷は塞がっている。これも勇者の力なのだろうと解釈した友奈は神樹を見渡せるところまで登った。

 そして、目に写ったのは3体のバーテックスが東郷を攻撃したところだった。

 それを見て友奈は拳を握りしめた。

 

 「よくも……よくも東郷さんをっ!!ーーーー牛鬼!!!!」

 

 友奈は自身の精霊の名を呼ぶ。

 しかし、実体化してこない。

 けれど、友奈は牛鬼を、精霊を求める。

 

 そして、自然とその言葉が口から出てきた。

 

 「来いーーー牛鬼!」

 

 友奈の勇者服に変化が現れた。

 イメージさせるは【鬼】

 獰猛な鬼を身に纏った友奈は怒りのまま駆け出した。

 

 「はああああああああああ!!!!」

 

 鬼の一撃がバーテックスの一体を襲った。

 絶大な威力の拳は一撃で蟹を模したですバーテックスを無に返した。

 着地をすると、そこにもう1人勇者がいるのに気がついた。

 

 「銀ちゃんなんでいるの!?」

 「うおっ!?誰かと思ったら友奈か!あぁー、説明は後でだな。今は目の前の敵を倒すことに専念だ!」

 「うん、わかった!!」

 

 友奈は銀と共に並び立った。

 矢が二人を襲う。

 けれど、銀は慌てることなく斧を楯にし友奈を守った。

 

 「今だ、友奈!」

 「うん!ーーーーうおおおおおおおおお!!!!」

 

 矢を放つバーテックスに向かって友奈は叫んだ。

 

 「勇者あああ、パーーーーーンチっ!!」

 

 一際大きい掛け声が矢を放つバーテックスを粉砕した。

 残りは蠍座のバーテックスのみ。

 友奈が立ち向かおうと一歩踏み出したときだった。ーーー口から大量の血が吐き出された。

 

 「がぼっ!……ぐっ……ぁ……」

 

 踞り苦しそうにする友奈に銀が駆け寄った。

 

 「おい、友奈大丈夫か!?って……なんだよ……これ……」

 「どう、したの……。銀ちゃん?」

 

 強張る銀を見て友奈はその視線の先を見た。

 友奈の右手側。先程バーテックスを殴った手は手甲が砕け、右手が内出血で黒ずんでいる。明らかに骨も折れていた。友奈の腕の中は血と肉塊のみ。

 激痛が友奈を襲った。

 

 「ぐっ‥あああああああああああっ!!!!い、たい。痛い、痛い、痛い!!!!!」

 「落ち着け、友奈!なんだよ、一体どうなってるんだ!?」

 

 銀が叫ぶが敵も待っていない。

 蠍の尾が二人を襲う。

 しかし、銀は斧でそれを受け流した。

 

 (なんで、なんで、なんで、私がこんな痛い目に会わなきゃいけないの‥!なんで私なの!!)

 友奈は痛がるなか心の中でそう思った。

 そう思えたからこそ友奈は立ち上がることができた。

 

 「私が、勇者だから!理由なんてそれで十分!!」

 「友奈!?」

 「ごめん、銀ちゃん!サポート宜しく!!」

 

 力を振り絞り、友奈は跳躍した。

 蠍の尾が友奈を襲うがそれは避けない。大丈夫だから、当たらないから。

 

 「はあああああああああっ!」

 

 銀がそれを切り裂いた。

 友奈はありったけの声で叫ぶ。

 

 「私は!勇者、結城友奈だああああああああああああ!!」

 

 不思議な光と共に最後のバーテックスは友奈に倒された。

 それが終わりを告げるように友奈は勇者服に戻り、気を失いながら東郷の横に並ぶように倒れた。

 

 (ーーー守ったよ、東郷さん、皆)

 友奈は一人で強大な敵に立ち向かった東郷を誇りに思いながら目を閉じた。 




これ最終回でいいんでない???

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