イナズマイレブン 〜サッカーやりたくないのか?〜 作:S・G・E
雷門中に創良が加わると宣言し、それをイプシロンの登場で合流した瞳子監督が快諾したことに対してメンバーの反応は様々だ。
「俺は賛成だぜ。この前みたいなプレー出来る選手は」
「すごく頼りになりそうっス」
同じDFのポジションにつく土門や壁山は好意的に見ている。
「だがこの試合は負けられない。葦川の実力は本物だが、チームワークが乱れないか不安ではあるな」
「ちゃんと俺達に合わせられるなら文句はねえが大丈夫なのか?」
現実的にものを見る鬼道や少々排他的なところがある染岡は疑問を呈する。
「此方もいくつか聞きたいことはあるが、あのFWはどうした?」
『あのFW』その言葉で誰を指しているか分からない者はいない。豪炎寺だ。初めは別行動だと思っていたが事ここに至るまで現れないということが何を意味するのか、おおよそ見当はついているが創良は答えを求めた。
「チームから外れたよ……監督も戦力外だと言ってな!」
答えたのは染岡だった。雷門のストライカーとしての実力をいつも隣で見ていた彼だからこそ納得がいかなかった。そのことが原因で染岡はチームの中でも一際監督を務める瞳子に疑念を抱いている。
「そうか。もう一つだけ、あそこのマフラーは誰だ?」
創良が次に聞いたのは奈良で見なかったひとりの選手。軽い準備運動中で創良の方を見てはいないが見た印象ではマイペースな優男といったところだ。
「ああ、あいつは吹雪だ!漫遊寺との試合ではDFだったけどFWになって滅茶苦茶強いシュートも打てるんだぜ!ジェミニとの決着点はあいつのおかげだ!」
「へぇ、新しいエースというわけか」
一連の会話で雷門に勝とうという意思がそれだけで終わらないということを創良は理解した。
「それで、肝心の質問の答えはどうだ?」
「……誰に物を言っている鬼道有人?君達の動きは漫遊寺との試合で見せてもらった。あれで十分だ」
やはり創良は妙に鬼道にニヒルな対応を取る様だ。お互いが気にしてはいないようだからと周りは誰も追及しない。
「準備は出来たか雷門?」
「ああ、待たせたなイプシロン!」
全員がそれぞれがポジションにつく。創良の参加で目金がベンチへ、風丸がそのポジション、MFへ移動し空いたサイドに創良が入る。
「聞くが言い雷門!我々は漫遊時との試合を宣言通り6分で終わらせた。しかし、お前たちはジェミニストームを倒した。人間とは言え見事、その活躍を讃え……3分だ。3分で終わらせる。光栄に思うが良い」
「何だと……!?」
明らかに雷門を下に見たデザームの言葉に円堂が語気を荒げる。
「落ち着くんだキャプテン。あいつらはただ身の程を弁えているんだよ。3分で負けを認めることになるんだとな」
「あ、葦川、お前やっぱ凄いやつだな……!?」
「ん?褒めてるのかなそれ?」
「圧勝する気満々だなお前、そうこなくっちゃ!」
イプシロンの挑発で張りつめていた空気が和らぐ。本人が狙って言葉にした意趣返しかはともかく良い弛緩剤になったようだ。
「こちらからのキックオフだ。遠慮無く攻めるぞ」
ホイッスルが鳴りついに試合開始。染岡が吹雪に渡してキックオフとなった。
イプシロンの選手は開始からボールを持った吹雪を集中して狙ってくる。当然後ろの鬼道にボールが渡り雷門はラインを上げに行く。
「こいつら……!」
だがイプシロンはDF総がかりで徹底的にFWをマークすることで中盤にもプレッシャーをかけてきている。
「ジェミニがスピードで強引に押してくるチームならイプシロンはこちらの動きを封じるタイプの戦術ね。連携はもちろん、個々の技量が物を言う試合になるでしょう」
DF4人がFWに張り付いていても残る後衛で強烈にボールを奪いに来る。鬼道はさらに後ろの土門に回し、塔子、マークが抜けてフリーとなった鬼道に再びボールが回る。そして最後は一之瀬がこの試合初めての必殺シュートを放つ。
「〈スピニングシュート〉」
強い回転を加えた一之瀬のシュートに対しデザームは組んだ腕を解くことなく指示を出す。
「0.221秒でジャンプ、打ち返せ」
「「ラジャー」」
一之瀬が放った必殺技をそれまで吹雪、染岡に付いていたDFの内二人、ケイソンとモールが同時にカウンタキックで跳ね返し。その勢いのまま円堂が守るゴールへと一直線に向かっていくシュートとなっている。
「〈ザ・ウォール〉!」
「〈ザ・タワー〉!」
雷門もまた壁山と塔子がそのシュートを阻もうとする。結果は相討ち。ゴールこそさせなかったがボールは大きく宙へ浮き上がった。
「葦川!」
「はいはい見えてるよ」
ボールが落ちてくる予測点にはすでに創良が到着している。イプシロン側はメトロンとスオームがボールが地につく前に跳躍して奪おうとしている。だが間違いなくボールの落下の方が早い。創良から円堂にボールが渡れば左に集中したイプシロンの陣形の隙間を連続パスで掻い潜っていける。
(さあ来い。今なら前線のFWまでクリアだ!)
「もらったぜ!」
「は?」
創良がFWまでのコースを割り出し動き出そうとしたとき。それは起こった。マークされて動けないでいた吹雪だったが一人が一之瀬へのカウンターで離れた隙を突いてディフェンスラインまで下がってきていた。そのまま大きく跳躍しジェミニストームを打ち破った必殺技を披露する。
「喰らえ!〈エターナルブリザード〉!」
ディフェンスラインから発動した吹雪の必殺技、ふたたびケイソンとモールが蹴り返そうとするがかつてのジェミニとの再戦で決着点となったシュートの威力は伊達ではない。わずかな競り合いもさせずに二人を吹き飛ばす。
「ほう?ジェミニが破れたというのは単なるまぐれではないらしいな」
ようやくデザームが腕を前へ突き出す。しかし必殺技を使うことはなく正面からエターナルブリザードを受け止めた。そしてデザームはケイソンへ向かってボールを投げる。
「うおおおおお!」
しかしそのパスは染岡がヘディングでライン外へ弾いたことでスローインとなった。
「チッ、次は決めてやる」
「おい」
ポジションへ戻ろうとする吹雪を不機嫌な顔をした創良が止める。ついさっきの吹雪のプレーが創良の中のよくない何かを刺激してしまったらしい。
「吹雪とか言ったな。なぜここまで戻った?」
「あン?ボールを取るために決まってんじゃねえか。エースストライカーの俺じゃなきゃあいつらからゴールは奪えねえだろ?」
迷いなく吹雪は答えた。だが創良はそんなことを聞いているのではない。創良からすれば自分に渡るはずだったボールを吹雪が横取りした、ないしは吹雪が自分を完全に無視しているように受け取れてしまう。
「この試合、先制点を取った方が有利になることは見えているはずだ。点を取る気があるなら体力を温存しようとは考えないのか」
「あいにくだがなぁ、そこらの奴とは違ってグラウンド走り回ったくらいでへばる程、柔な鍛え方してねえんだよ」
「つまりお前は最高のコンディションかつ全力で打ったシュートを止められたわけか。口先だけだな」
「何だと!そもそもなぁ、テメェがさっさと取りに行ってりゃ俺だって元の位置に戻ってたんだよ。チームに貢献してねぇ奴が威張ってんじゃねぇよ!」
「お、おいよせよ吹雪、葦川も!」
ヒートアップする良い争いにたまらず円堂が諫めに入る。吹雪の行動はボールをもう一度相手の陣地まで押し戻したのだからファインプレーと考えてもいい。だが、創良の確かな実力を知っている円堂はその言い分にも理解出来る。
「ったく、たった一回活躍を奪われたぐらいで僻んでんじゃねーよ」
捨て台詞を吐いて帰っていく吹雪。点を取られたわけでもないのに雰囲気が悪くなってしまっている。お互いのプレースタイルを知らずに今のようなことが起きればいつかはこういうことが起きてしまう。
創良に協調性がないわけではない。初見であのプレーを批判しないのはむしろおかしいのかもしれない。
「……お前がDFをいないものとして扱うならそれでいいさ」
創良と吹雪、二人の言い争いを見てデザームは心の中で嘆息する。
(仲間割れとはおろかな)
「デザーム様?」
「残りあと2分、退屈な戦いになりそうだ」