イナズマイレブン 〜サッカーやりたくないのか?〜 作:S・G・E
タイトルはあくまでVSイプシロンです。雷門VSイプシロンではありません
誰もいなかったグラウンドに突如として現れたエイリア学園の刺客イプシロン。だが漫遊寺中のキャプテンである垣田は心を乱されることはなかった。
「どうした?早くメンバーを集めるがいい」
「我々は試合を行う気はありません」
「何だと?」
「元より我々漫遊寺サッカー部は対外試合を禁じています。我らにとってのサッカーは精神を鍛える為のもの。お引き取りを」
あくまでも戦う意思はないと伝える。だが悲しいかな、それはエイリア学園には高尚な精神とは映らない。
「軟弱者め、ならばよい。漫遊寺中の棄権とみなし」
自分達の登場と同時に現れたボールを手に取り校舎へと投げつける。
「漫遊寺中を完全に破壊する」
そのボールは軌道を描き、漫遊寺の校舎の一部を派手に砕いた。不幸中の幸いか、それともイプシロンのリーダーが故意にそうしたのか、ボールが破壊したのは屋根の瓦葺き部分だけだった。
その光景を見て垣田は決意する。
「いいでしょう。そこまでやるつもりならばこの勝負、お引き受けします」
こうして漫遊寺中対イプシロンの試合が始まった。
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「あんな奴ら、知るもんか……」
前の一件で無実の罪を着せられた木暮。自身の捻くれた性格もあって意地になりもう漫遊寺には戻らないと決めて街中へ出ていた。
「木暮君!」
「なんだお前かよ。何言われてももうサッカーはやらないからな」
そんな木暮を見つけたのは雷門のマネージャー音無春奈。
彼女は今回の騒動の原因が自分にあるものと考えていた。木暮の普段の行動から運動能力を見抜き、サッカーをするならDFが向いている。そう伝えた。
「ごめんなさい!許してほしいなんて言わない。でも知って欲しいの!皆が君に悪いことをしたと思ってる」
自分でそう伝えたはずなのに木暮がノートを盗んだと疑われた時、ただ借りただけという木暮の言葉を信じ切ることが出来なかった。
「本当に?どうせ皆、悪いことをしたのは俺だって思ってるんだろ」
「っ!……キャプテン?はいもしもし。…………ええ!?分かりました、すぐ行きます!」
返す言葉が出なかった時、携帯が鳴る。円堂からの連絡だ。
「木暮君!漫遊寺にエイリア学園が来たそうよ!」
「え……ふ、ふーん?でももう俺には関係ない「それで良いの!?」な、何だよ急に」
意固地になって捻くれた態度を取る木暮に音無はそれとこれとは別だと強く出る。
「今回のことはあたし達が悪かったわ。漫遊寺の人達もきっと謝りたいと思ってる。普段は厳しかったかもしれない、でも仲間でしょ!何とも思わないの!?」
グラウンドで待っていると最後に言い残し音無は漫遊寺へ戻っていった。
「ねえ」
「またかよ……あんた誰?」
「あたし?日が天に昇ると書いて日天。よろしくね」
「あっそ」
自分にはどうでも良いと会話を打ち切ろうとする。
「ねえーってば!漫遊寺の人でしょ?帰らないの?」
「うっさいなぁ。帰るわけ無いだろ」
だが日天も譲らない。話を聞いてもらうまで木暮にまとわりつく。
「何だよ、何で付きまとって来るんだよ?」
「助けて欲しいから」
普段から仏門を学ぶ校風が身に染み付いていたのか木暮は話だけでも聞くことにした。が、なぜと問いただすと日天は待ってましたと言わんばかりに理由を語り始める。要約すると非常に面倒なことに『疲れたから頂上まで運んで欲しい』ときた。
「はあ!?登りたくない?」
「だって日天まだ小学生だし、朝から歩きっぱなしで疲れたもん」
「知らねーよ!お前のお兄さんが雷門中の奴なら試合終わったら戻って来るだろ!」
「言ったな~!そんな態度取って漫遊寺も雷門も負けたら君のせいだからね?」
「いいっ!?なんでそうなるんだよ!」
「日天は可愛い、お兄ちゃんは日天が大好き、日天がいないと力が出ない。分かる?ここで日天を連れて行かなきゃ君は世界の歴史に残る大戦犯だよー!でも連れて行ったら勝利の立役者!どっちがいいかな~?」
木暮からすればお兄ちゃんとやらが誰なのか、意味不明な理屈だが結局は先に折れてしまった方の負けだ。
「……わかったよ連れてけばいいんだろ?」
「さっすが~。お姉ちゃんがなでなでしてあげる」
「おれは中学生だってーの!」
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「これがファーストランクの力か……!」
ジェミニストームを下した雷門でさえその圧倒的な実力差に驚いている。
試合開始からまだ3分しか経過していないはずなのに勝敗は明らかだ。漫遊寺は『影の優勝校』と称されるだけあってその実力は全国区最上位。それでも実力に差があり過ぎる。
「でぇい!」
「〈火炎放射〉!ぐ……ぬあああ!」
遂に通常のシュートでゴールを決められてしまった。
漫遊寺からのボールで再開だが、前半5分、既にレギュラーメンバーの大多数がまともに動ける状態ではない。
「確かに前の連中とは動きが違う……どうしたレーゼ?」
「わ、分からない。あいつらを見ると、体が勝手に震えて……」
冷静にイプシロンの動きを視ていた創良だが隣に座るレーゼの様子がおかしいことに気付く。
「何があったか知らないが落ち着け、もうお前は深く関わるべきじゃない」
「で、でも俺もあんなことをしていたんだろ……?」
レーゼの視線はグラウンドを見渡している。最早漫遊寺の選手は殆どが立ち上がることも出来ない。全滅だ。
試合開始前、デザームは周囲に『6分で決着を付ける』と宣言していた。そしてその6分が経ち、漫遊寺中学の試合続行不可能とみなされ。勝負はついた。
「我らの勝ちだ。宣言通りに、この学校を破壊する」
イプシロンのキャプテン、デザームが再び校舎に黒のボールを投げつけようとする。
「やめろ!次は俺たちが相手だ!」
「……雷門中か?お前たちとの対戦は予定に無いが、まぁよかろう。ただし条件がある」
デザームはベンチに座るレーゼの方を向くとそのまま指差した。
「勝敗に関わらず、そこにいる逃亡者を引き渡すことだ」
「……!」
やはりレーゼはエイリアから見ても異端の状態らしく、見逃されることはなかった。
「ふざけているな。そんな条件が飲めるわけが……おい、レーゼ?」
創良はその提案を一蹴しようとしたがレーゼが立ち上がったのを見て戸惑う。足取りこそ覚束ないがレーゼの顔にはついさっきまでの怯えは何処にもなかった。
「君たちが勝てば、この学校は守れるんだろう?ならばそれでいい」
「正気かお前!エイリア学園に戻って、どんな目に遭うか想像もつかないんだぞ!?」
珍しく創良が声を荒げてレーゼを諫めようとする。だがレーゼの決意は固く譲らない。
「いいんだ。雷門中が勝負できるならそれが一番いい。一宿一飯の恩義……とまではいかないけれど、ありがとう」
漫遊寺を救う可能性があるなら喜んでこの身を差し出すとレーゼは言った。
「……円堂守、勝つ気はあるか?」
「当たり前だ。戦うからには勝ちに行く!」
円堂達も気合は十分。初めて戦う相手でも物怖じすることなく向かい合っている。
「そうか、なら力を貸す。何処でも好きに使ってくれ」
創良は未だに迷っている。だが、日頃からの日天からの言葉、『サッカーやりたいんでしょ?』そしてレーゼからの一言、『ありがとう』それが創良に決意を抱かせた。
「本当の名前すら知らない奴だが分かり合えるだろう友人だ!あいつのために、全力で戦うことを誓う!」
「よーし!みんな行くぞ!」
ついに雷門中VSイプシロンの戦いの幕が開こうとしていた。
なんか日天が天然街道をまっしぐらな気が……
※地の文が少なくなってきたのでセリフ多めタグ追加しました。