イナズマイレブン 〜サッカーやりたくないのか?〜   作:S・G・E

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 原作キャラの説明は本文ではしないです。


3話 創良の実力

「残念だったね抹茶のレーゼ君」

「フ、ククククク、恐れをなしたか。だがあっという間に引きずり出してくれる」

 

 言葉だけなら不敵そうだが青筋を立てて殺意を剥き出しにする姿を見ればまずそのようにはとられない。

 

「前回はあいつらのスピードに面食らって何もできなかったけど、今日は二回目だ。今度こそ俺たちのサッカーで勝とうぜ皆!……ん?どうした鬼道?」

 

 葦川と合流して以来ずっと考え込み殆ど言葉を交わさなかった鬼道に円堂が声を掛ける。

 

「あ、ああ何でもない。奴らの武器はあの驚異的なスピードだ。ロングパスはカットされる可能性が高い。ショートパスでつないでいく」

 

 しっかりと指示は伝えたがそれと同時に葦川兄妹について考えていた。

はっきりと記憶してはいないがどこかで引っかかる。あの二人と何処かで会っているのではないか。

帝国学園、雷門中のゲームメーカー鬼道有人としてではなく、養子となった鬼道家の人間として呼ばれた。シカ公園でのあの言葉が忘れられないでいた。

 

(いいや、今は忘れろ。中途半端な気持ちで勝てる相手じゃない)

「よし、やろうぜ皆!」

『「おおっ!」』

 

 陣形はベーシックな2-4-4のバランス重視。チームメイトの連携でゴールを狙うと戦術を定めたならば理想形だ。といっても従来の雷門のポジションから一切変更はないのだが。

 

「気合十分といった感じだね。さすが熱血キャプテン」

「……」

 

 普段のクールな性格を変えて飄々とした態度を取り始める創良とミーハーなお転婆を抑えて落ち着き言葉を出さない日天。互いに緊張をほぐしているようだがそれまで真逆だった二人を見た周囲からは奇妙なものを見る目線が来ている。

 

「お兄ちゃんホントにサッカーやるの?」

「ああ、久し振り過ぎて役に立てるかわからないけどな」

「あんまり無理しないでね」

 

 相手はニュースで散々話題にされているエイリア学園。対戦した選手には怪我で入院を余儀なくされた人も多い。兄にその一人になって欲しくないというのは当然の心境だろう。

そんな日天の想いを他所に、フィールドではジェミニストームのFWによる容赦無い攻撃が始まっていた。

 

(あいつらのシュートにはマジン・ザ・ハンドじゃ間に合わない。なら、ゴッドハンドで!)

 

ジェミニストームの特徴は鬼道が説明した通り圧倒的なスピード。FWから放たれるシュートは視界から消えるほどの速度でゴールに突き刺さる。

 前半の折り返し地点ですでに雷門は6点を奪われていた。

 

「5…いや4歩」

「え……葦川君何か言った?」

 

 どうも創良には思ったことを漏らしてしまう癖があるらしい。

 

「いや、気にしないでくれ」

 

 雷門マネージャー、木野からの質問を軽く受け流し試合に向き直る。

 

「生で見る感想はどうかしら葦川君?」

 

 見に徹している創良に瞳子が声をかける。瞳子からすれば円堂がその場でスカウトした未知の存在。監督として、どんな思考をしてどんなプレーを主軸にしているのかを把握しなければならない。

 

「どうもこうも、ただ速い。それだけですよ」

「そう、ただ速い。的確な感想ね」

 

 それだけかと言いたげな瞳子に対し創良は続ける

 

「あとこれは確実ではないですが。ボールを奪ってからのパスコースに一定のパターンが出来ていますね」

「あら、よく気付いているわね。どうやって?」

「スピード重視でボールキープに若干の粗がある。そのためラインを押し上げながらタイミングを調整してるだろう。と言うところからの唯の推測ですよ」

 

 創良が言い終わった時フィールドの方でも鬼道が相手のパスをカットすることに成功していた。

 

「あなた、ポジションは?」

「しがないDF()()()()

「……そう、わかったわ」

 

 瞳子が話を打ち切ると同時に前半が終了。0-12の大量点差を許してしまっていた。

 

「後半は攻めに転じます。選手交代、目金に変わって葦川が入ります」

 

 交代の際に『では頑張ってくれたまえ新人君』などと目金から声をかけられたがだいぶ息が上がっている。

 

「よーし!後半から反撃開始だ!点取っていくぞ!」

「待ちなさい。いくら攻撃パターンが読めたと言っても相手のスピード自体には対応出来ていない。今のままでは点を取ることはできないでしょうね」

「じゃあどうするんですか監督?」

 

 現在の雷門とエイリアの身体能力の差を覆す策があるのかと皆が聞こうとする。

 

「此方のDFを一人残して残りのすべて攻撃に回すのよ」

 

 その作戦内容は悪い意味でチームの度肝を抜いた。

 

「そんなの…一度抜かれたら一気に挽回が難しくなります!」

「そもそも一人残るDFって誰ですか!?」

 

 あまりにも無理がある指示に瞳子に集中したチームの視線は瞳子が向けた一人に移動する。

 

「俺ですか?了解しました」

 

 実力が未知数のDF一人では不安になるのは当然。みな戸惑うがそんなときに口火を切るのはやはり円堂だった。

 

「よし!やってみよう。監督には何か考えがあるんだよ!SPとの試合だってそうだっただろ?」

 

 キャプテンでありGKの円堂が言うならと周囲も納得してポジションにつく。

 

「厳しいディフェンスだけど、頼むぜ葦川!」

「……円堂守、構えてくれ」

「え?こうか?」

「ああ、今から俺の蹴るボールを正面でキャッチしてくれ」

 

 そう言って創良は2回、左右にシュートを出す。それを円堂は余裕で受け止めた。

 

「えっと、これでいいのか?」

「ありがとう、これでやりやすくなる」

「お、おう…」

 

 それに何の意味があったのか円堂は分からないままボールを返した。

 

「みんな頼んだぞ!」

 

 エイリアからのボールで後半戦が開始される。

 

『フ、フククク。とうとう現れたか、叩き潰してくれる』

「うわぁまだ根に持ってる。藁苞の中の黄金はどうしたよ?」

 

 邪悪な笑顔を向けるレーゼに対して引き気味の創良。だがすぐに試合に集中しなおす。ホイッスルが鳴り、センターラインから一気にシュートが飛んでくる。止めなければと構えを強くする円堂だったがそれは無駄に終わった。

 

「そらっ!」

 

 ディフェンスラインの創良が飛んでくるボールを上に蹴りあげた。威力が大きく落ちたわけではないが直上に上がり、やがて創良の足にしっかりとキープされた。

 

「あのロングシュートをカットした!?」

「すげーぜ葦川!」

 

 そのまま持ち込もうとするが他のメンバーとの距離が遠すぎたため横からのスライディングで外に出される。

 

「すごいじゃんか!お前どこの学校なんだ!?」

「それはまた後で。それよりもキャプテン、『俺の指示通り動けばやつらのシュートが見える』と言ったらどうする?」

 

 スローインのわずかな合間に創良から提案を受ける円堂。

 

「そんなこと言われて、試さずにはいられない!頼む葦川!どうすれば良い!?」

「よし、要するにだな……」

 

 燃え尽きることのないチャレンジ精神の持ち主。全幅の信頼を寄せる円堂に創良は耳打ちをする。

 

「よし!お前を信じる!」

 

 壁山のスローインから塔子へ、しかしその次のパスがカットされてしまう。

 

「来るぞ円堂!」

「右、三歩!」

 

 シュートは止められないと鬼道が声を上げたと同時に創良が円堂に指示を出し、円堂はその通りに右へ三歩動く。

 

「よし見える!うっ、ぐぁっ!」

 

 円堂はそのまま態勢を整えボールを受け止めようとするがそれより先にボールが円堂の体をゴールに押し込んだ。エイリア学園に13点目が入る。

 

「左に二歩!」

「おおお!くっ!」

 

 次のシュートはすぐに来た。今度は左。胸にボールが当たり、少し遅れて腕で抑え込む。威力を殺し切ることは出来たが、全身がゴールラインを超えてしまっていた。ついに14点目。

 

「円堂、タイミング合ってきてるじゃないか!」

 

 だが点こそ取られてしまったものの徐々に円堂がシュートに対応してきていることに皆が笑みを浮かべている。

 

「ああ!葦川の作戦のおかげだ」

「作戦?」

「作戦と言えるほど大したものじゃないよ。やったことはシュートコース上にキャプテンを誘導しただけ」

 

 前髪をいじるキザな仕草をしながら事も無げにそう言った。

 

「前半の12失点、しっかりと見てたよ。特にキャプテン」

「う、面目無い」

 

 どうあれ。前半の大量失点は自分の非力さ故だと円堂は自責する。だが創良はそんな円堂にキョトンとした顔を向けていた。何故そんな顔をするのかと円堂が創良に問う。

 

「いや、本当に気付いてないんだなって」

「え?何が?」

「本当に一瞬だけど、シュートに反応していたんだよキャプテンさん。多分長年キーパーを続けてきたことで養われた第六感がそうさせているんだと思う」

「え、そうなの?」

 

 円堂は自分のグローブを見つめ、手を握り感覚を確かめる。

 

「さて、もう少しで感覚は掴めるだろう。頼むよ守護神さん」

「よっしゃ、任せてくれ!」

 

 創良含め全員がポジションに戻り円堂は一人手の感覚を確かめる。確かに掴んでいた。ボールは手に触れていた。なら今度はしっかりと受け止める。

 

「そのまま!真正面だ」

 

 ボールを奪われてからのロングシュート。奇しくも後半開始直後の創良のファインプレーの時と似ている。

 

「おおおお!」

 

 そして三度目の正直。円堂はしっかりとボールを見定めしっかりと腕で受け止めた。

 

「取った、取れた……取ったぞみんな!」

 

 ボールを掲げる円堂の姿にメンバーに歓喜が浮かぶ。円堂はそのまま創良にパスを回した。

 

「奴を潰す、囲い込め!」

 

 私情も交じってはいるかもしれないが創良は雷門惨敗の流れを変えたきっかけの選手だ。自身含めたFW、MF5人でスライディング、チャージと強引にボールを奪いに来る。かなり危険でレッドカード上等なものまである。

 

『お兄ちゃん!』

「ああまったく容赦のないことで」

 

 それをすんでのところで創良が躱し、その間に数人がパスをつなぐために戻ろうとするも残ったDFにマークされている。

 

「ならこれで!」

「何だと!」

 

 だから創良はロングパスを出した。鬼道が組み立てた戦術としてはご法度、ジェミニの猛スピードで追いつかれカットされそうになる。だがそのDFの直前で急速にカーブがかかり左にいた土門にボールが渡った。

 

「さぁ攻めろ攻めろ~」

「よし鬼道!……凄い奴だな」

「豪炎寺、風丸、決めろ!」

 

 土門から鬼道へ、鬼道からエースストライカー豪炎寺へと繋がり。遂に雷門側にシュートチャンスが訪れた。

 

「「〈炎の風見鶏〉!」ッ!」

 

 しかしそのシュートはゴールポストの上を通過してしまう。

 

「くっ、外してしまった!」

「……」

「ドンマイだ!切り替えていこうぜ」

 

 そしてその次のシュートチャンスは間もなく訪れた。

 

「豪炎寺!」

「〈ファイアトルネード〉……!」

 

 今度は単独での必殺技。しかし今回もゴールポストの上を掠るだけでゴールには至らない。

 

「豪炎寺が、ファイアトルネードを外すなんて……」

 

 雷門のエースストライカーがゴールを決められなかったことは周りにも良くない影響を与えてしまう。

 試合時間残り三分。最後の攻撃に出る雷門だったがレーゼにボールを奪われてしまう。

 

「我らの力の一端、思い知らせてやろう。〈アストロブレイク〉!」

 

 そのまま遠距離からのシュート。しかもエイリアはついに必殺技を出してきた。

 今回は創良も対応し切れず、必殺技がゴールに向かうのを許してしまう。

 

「いくぞ!〈マジン・ザ・ハンド〉!うあっ!」

 

 円堂が自身の最強技で迎え撃つも、競り合いに持ち込むことすらなくゴールネットごと打ち破られる。

 そして鳴り響く無情なホイッスル。雷門中0-15で完敗を喫した。




 大量点差で雷門の敗北。主人公の戦績は0勝1敗。なのに無双している不思議。

17/11/7 誤字訂正

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