イナズマイレブン 〜サッカーやりたくないのか?〜   作:S・G・E

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 いままで書かなかったのですが角馬君を唐突に登場させます。
結果、試合描写が格段に楽になりました。やったあ


23話 VSイプシロン feat. グクリ①

「葦川なのか!?お前、何が…なんで!」

 

 真・帝国学園との戦い以来消息を絶っていた葦川創良が目の前に突然現れた上になぜか今まさに戦おうとしているエイリア学園ファーストランクチーム、イプシロンと同じ格好をしている。与えられた衝撃は計り知れないものだった。

 

「まさか、佐久間と源田の様に何かをされて……!」

「そ、そうか!」

「んむ。あー成る程そうなるわけか。安心しなよ。別に操られているわけではないから」

 

 鬼道の推理に合点が言ったと皆納得した表情を浮かべる。が、当の本人は呆気にとられていた。

 

「操られているかどうかはさておいて、葦川君、貴方はイプシロンのメンバーとして戦うつもり?」

「デザーム君。このお、お姉さんは何当たり前のことを言っているんでしょうかねぇ?」

「……そう、分かりました」

 

 例の手紙の宛先人だった瞳子は挑発に

 

「じゃあ試合で。ここで強くなった雷門、皆期待してますよ」

 

 それだけ言い残すと決して長くはない後ろ髪を両サイドをピンでまとめ、前は完全に下した奇怪な髪型へ変えながら自陣へ戻ろうとする。

 

「ちょっと待てえええぃ!」

 

 それを止めたのは昔馴染みのリカだった。

 

「おいこらキヤセ!お前いきなり出て来て何抜かしとんねんこのアホンダラ!」

「おやおや、浦部さんちのリカちゃんではありませんか。王子様探しは順調かな?かな?」

「そりゃもう運命の王子様がほらこの通り!ってそれは後でええわ!」

 

 グクリの挑発に逆に乗せられて一之瀬との仲をアピールしようとするがすぐに我に返り、結果見事なノリツッコミを披露する。

 

「まあなんだ、そんなに聞きたいことがあるならこの試合で勝ってみることだ」

 

 勝てば言うことを聞いてやると

 

「一体葦川に何があったんだ……!?」

「円堂、今は試合に集中するんだ」

「でも鬼道!」

「いいか聞け!もし葦川が何らかの方法で操られているとするならばどうすることもできない。だが、同時にチャンスでもある」

「チャンスだって?」

「奈良と京都、愛媛での試合を通して葦川の動きは大体把握している。データの少ないイプシロンの選手よりはある意味戦いやすい」

「……分かった!この戦い、絶対に勝つぞ!」

 

 鬼道が具体的な勝ち筋を説明し円堂が発破をかける。

だが、鬼道は発言とは裏腹に不穏な空気を敏感に感じ取っていた。イプシロンの完璧な統率力を崩してまで別の選手を加えたということはそれを補って余りある実力があるということ。

葦川創良改めグクリは最も警戒すべき相手だ。

 

「日天ちゃん……一緒にバスに戻ろう?」

 

 ベンチでは創良のあの姿を直視できるはずがないと春奈が日天をその場から離れるよう諭している。かつて実の兄を一方的に突き放していた自分と重ね合わせているのかもしれない。

 

「ここにいさせてください」

 

 だが日天は首を横に振った。以前読んだ手紙の内容、今、兄がどうなっているのか自分自身の目で確かめたいと考えていた。

 

「よし、行くぞ!」

「準備は出来たか雷門イレブンよ!」

「ああ、勝負だイプシロン!」

 

 

 

 ~~~

 

 

 

『さあー始まりました!雷門イレブン対エイリア学園イプシロンの世紀の一戦!実況は私、角馬桂太でお送りいたします!』

「あれ?角馬君何でここに?」

「雷門イレブンを追って苦節数週間……皆様を追って東奔西走なんのその!そしてここ大阪にて遂に追い付きました!」

「が、頑張ったね……」

 

 マネージャー陣は苦労をねぎらい、執着に引く。

 

『さあホイッスルが鳴りました!雷門のボールで試合が開始されます!』

「吹雪、リカとのツートップだが得点力はお前の方が上だ。頼んだぞ」

「うん、頑張るよ」

 

 リカからボールを渡された吹雪は一気にゴールへ向かう。しかし……

 

『おおーっとこれはどうしたことか!イプシロン、誰も吹雪からボールを奪おうとしません。ただ立っているだけです!』

「ヘッ、自信満々ってわけか」

 

 ケイソンの代わりにセンターを守っているグクリさえも微動だにしない。手を抜かれていることに苛立ちを感じつつもならば遠慮することは無いと吹雪は駆ける。

 

「吹き荒れろ〈エターナルブリザード〉!」

 

 経験を経てさらに洗練された吹雪の必殺技。京都では素手で受け止められたが今度はそうもいかない。

 

「〈ワームホール〉」

 

 初めて見せるデザームの必殺技、エターナルブリザードが空間に吸い込まれ、少ししてデザームの足元に勢いを失った。

 

「くっ、やはり一筋縄ではいかないか……!」

 

 デザームから正面にポジションを取っているグクリへボールが渡される。

 

「じゃあ、〈アルファドライブ〉」

 

 そして繰り出される神速のロングシュート。

 

「うおおおっ!」

 

 だが、アルファドライブは威力を度外視してスピードに特化した技。かつて自分で言った通り同じ相手に二度は通じない。ジェミニストームとの戦いで高速のボールに慣れた円堂はしっかりと全身で受け止めた。

 

「どうだ葦川!」

「へぇ、もうこれに対応したか。感心感心」

 

 乾いた拍手を送るグクリ。欠片も興味がないことが透けてみえていた。

 

「イプシロンの戦士たちよ歯向かう敵を蹴散らせ!」

 

 それからイプシロンは本格的に動き出した。少しでもパスコースや守備に隙が出来れば容赦なくカットされ、

 

『イプシロン、激しい攻撃!しかし我らが雷門も負けてはいません!』

「この試合、一点試合になりそうね」

 

 ボールがラインを出たタイミングで瞳子が鬼道に合図を出した。

 

「全員、前半は防御を重視しろ」

「え、でも先制点を奪えればかなり有利になるんじゃないか?」

「ジェミニの時と同じだ、奴らの動きに慣れた後に攻めに転じる。だが相手も甘くはない、吹雪とリカにはこのまま攻撃を頼みたい」

 

 雷門はフォーメーションを組み直し防御優先の陣形となる。

 

「グクリ、ゼル、ポジション交代だ」

「デザーム様!?いったい何故!?」

「俺に命令するなって、まあいいけど?」

『おおっと!ここでイプシロンがポジションチェンジだ!』

 

 それに対応するようにデザームが指示を出す。しかしそれは困惑として受け止められた。気にも留めないグクリを除き全員が反抗の意思こそないがデザームの真意を測りかねているようだった。

 

「葦川がFWに!?」

「何故だ?葦川の強みはディフェンスラインからの高速シュートでは……」

「色々と考えてくれるようで結構だ。イプシロンのキャプテンさんを楽しませてやってくれよ」

 

 スローイン、土門から塔子、一之瀬と息のあった連携でラインを上げていく。リカが一之瀬と並ぶように合わせ、二人三脚のような構図が生まれた。

 

「よっしゃダーリン、アレやるで!」

「アレ?まさかバタフライドリーム!?」

 

 突然の提案に面食らったが数日前に円堂からゴールを奪った技。背に腹は代えられないと必殺技を繰り出そうとする。

 

「遅い」

「いつの間に!?」

 

 だが、背後から一瞬で距離を詰めたグクリがスライディングでボールを奪い取った。

 

「おれはDFなんでね、いやらしい防御はお手の物さ」

『FWに変わったばかりのグクリがとてつもない早さで中央ラインまで戻ってきたあ!』

 

 面識がない故に純粋にグクリの実力を解説する実況。故に客観的に、そして無慈悲に強敵としての葦川創良の総評となっていた。

 

「葦川……」

 

 未だに心配している円堂もこれには気を引き締めた。この先の激戦を予感して___

 

(おかしい、以前のような細かな指示をデザームは出していない。一体どうなっている?)

 

 鬼道もまた気を引き締める。既に混沌としたこの状況をどうやって乗り切るか、頭脳をフル回転させていた。

 

 

 

 ~~~

 

 

 

(強い……!)

 

 地下の設備を利用してグクリを監視しているレアンはその動きに関心を寄せていた。

 ジェミニストームのようにスピードにものを言わせた動きがグクリの特徴だと勝手に決めつけていた。

確かにそうかもしれないがそれが全てではない。DFでありながら得点力を持ち合わせ、FWにありながら敵の攻撃を未然に防ぐ守備力を持つ。それに加えて、MFである自分のレベルアップを促してくれたという万能さ。

普通ならそんな押せ押せの草サッカーのような動きは敬遠されるが、グクリのそれは器用貧乏という言葉で表していいレベルではない。

 

(欠点も見ている分には全く気にならない。これでブランクありか……)

 

 サッカーをしばらく離れていたことでどうしても生まれる弱点としてグクリ本人はボールの扱いの雑さに言及していたがアルファドライブのようなロングシュート、背後からのボール奪取などを見れば純分通用するレベルなのは明らかだった。

 ナニワランドでのデート(ではない何か)の合間にふと聞いた情報を重ねてグクリの強さを分析する。

 レアンは自分より強い相手が好きであり、許せない存在だった。矛盾しているようだが彼女の向上心の現れで、『いずれ自分が最強になる』という信条のもと修練を重ねている。レアンに取ってオールラウンダーであるグクリは唐突に眼前に出現した超えるべき壁のようなものだった。

 

(これであの二人が茶々入れなければ、はぁ……)

 

 少し距離を縮めただけで色恋の話題に発展させようとする同僚を思い浮かべ嘆息する。

 

(まあ顔は悪くないし性格も遊園地の時みたいだったら嫌いじゃないけど何でそうなるかなぁ。まああいつにも協力してもらえば問題解決もすぐだろうし……いや待って、確か一昨日『デート』に誘われたんだっけ?それを私は下見の言い訳と思って最悪のデートプランも考えたけど昼食からホテル代まで奢ってもらってたしもしかして客観的に見てデートどころか大人のデートなのでは?)

 

 脳内でぐるぐると思考が回転する。その結果目的を見失うのがレアンの悪い癖だった。グクリの監視の使命はあっという間に脳から消え去り、午前までのナニワランドでのデート(なのかもしれない何か)を思い出すのに躍起になっている。

 

(デートなわけないでしょ……汚すための白い服を似合うとか言ったしアトラクションもそんなに楽しんでなさそうだったし……あ!でもピザ切ってくれたりパスタの巻き方嬉しそうに教えてくれたっけ。その後どんな話したか忘れたけど綿飴買ってくれたし夜まで時間潰してパレード見たっけ、その後ホテルのバイキング美味しかったなあ……うん。デートじゃないか!)

 

 杏は一気に顔と頭を茹で上がるように真っ赤にした。創良の意図がどうこうしたかは分からないが結果として朝帰りのデート(ほぼ確定)という形になっていることに気付いてしまった。

 

「葦川創良あああああああア!」

 

 それからしばらくしてほんの少し冷静さを取り戻した杏はとりあえず絶叫した。

 

「へーっくし!」

「いまだ!〈ザ・タワー〉」

「隙あり!〈ボルケイノカット〉!」

「うっ、しまった!」

『雷門ボールを奪った!しかし今のはグクリのミスかあ!?』

 

 なお噂の本人はドリブル中に盛大なくしゃみをして塔子と土門の必殺技を諸に喰らう醜態を晒していた。




 ここまで絶望感のないイプシロン戦も珍しいのではないだろうか…

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