イナズマイレブン 〜サッカーやりたくないのか?〜 作:S・G・E
星の使徒研究所の訓練用エリア。その一角で激しい音が鳴り響いていた。
「全く、1時間ぶっ通しとは疲れる、なぁ!」
創良が研究所に連れられて最初に行われたことは身体能力の計測だった。スタミナ、運動神経やサッカーで必要なシュート、ドリブルなどの技量も測られている。
その内容は、少年サッカー協会規定の試合時間と同じ1時間をかけて1対11の変則試合を行うというものだった。しかも相手はあからさまに機械の体で出来た二足歩行のロボット、これには創良も驚いた。
あまりに不公平な条件故に勝敗は問われない。
「これで3つ目だ〈アルファドライブ〉!」
だが点差を見れば3ー1、圧倒しているのは創良だった。DFでありながら前線に上がることもあり、得点力も十二分にある超攻撃型のリベロ、小学生ながら四国最強と謳われたこともあるDF葦川創良の実力が遺憾なく発揮されている。
『彼が葦川創良くんですか』
『はい旦那様。あの力無しにこれほどの能力を見せるとは……』
その様子はモニタリングされていた。
『今度のイプシロンと雷門の戦いでの活躍次第では即戦力として認めても良いでしょうね』
『それでは……』
研崎と、彼が側に仕えている大仏のような穏やかな顔つきをした男、吉良星二郎。この二人からみても創良の
「ゲッホげほ……終わり、か?」
やがて規定の1時間が経過すると同時にロボットもその活動を停止した。ようやく一息つけると創良はその場に座り込んだ。
「よくやったね葦川くん。結果は後々伝えるとして、今は体を休めたまえ」
「そ、れは、どうも」
「嗚呼それと_____」
あくまでも不遜な言いようだが、試験の結果は上々。恐らく創良が目指す評価のラインは超えたようだ。とはいえ1時間フルに運動を続け体力も限界。
覚束ない足取りで経路図に示された更衣室へ向かう。
(やっぱりこの更衣室とかは普通だな)
創良がエイリア学園に付くきっかけこそ偶然の積み重ねで生まれたものだったがいざという時を考えていた創良からすれば良い機会だった。研崎に対して啖呵を切っていったことからもそれは明らかだ。
創良自身もある程度は上手くいっていると感じていた。
「へ?」
「……は?」
そんな油断があったからなのだろうか、更衣室に入ってくる一人の気配に気付かなかった。
扉を開ける音にとっさに振り向くとその先には一人の少女がいた。その事実に気付くと創良は慌ててインナーを着てなんとか上半身裸の状態から立て直す。
「えっと、どなた?」
「き、キャ「ストップゥ!」むぅぅ!」
悲鳴を上げられるとどんな惨事になるか分からず、咄嗟に少女の口を押さえて部屋に引き寄せる。絵面としては最悪の部類だが今の創良には自分を客観的に見つめられるだけの余裕がなかった。
「落ち着いて!ね!ゆっくり話をしよう!は・な・し・あ・い!分かる!?」
非常に早口かつ顔を真紅に染めてそう言う創良に対して相手も戸惑いを隠しきれず必死に首をぶんぶんと振っている。
「ぷはっ、ちょっと!殺す気!?」
「いや、ごめん。でもあのまま君がどこか行っていたら何か俺がとんでもないことになる気がして……というかそうだよ!ここ男子用だよ!何で入ってきてるわけ!?」
「何言ってんのよ!ここは女子更衣室よ!表札も読めないのこの変態!」
確かに扉の上に「WeMen,s」と表札がある。だが、頭のWeをよく見てみると……手書きのマジックテープだった。本当の女子更衣室はすぐ隣の扉であり、上にしっかりと「Wemen,s」と記されている。
「いや、もしかして……あの落書きに気付かなかったの?」
創良は勿論気付いていたが特に気にすることもなかったが、今回は裏目に出てしまった。
「ご、ごめんなさい……」
全面的に自分に非があると分かったのか少女は静かに謝った。
「いや、うん。分かってくれればそれでいい……いいのか?まぁ、うん。もういいや」
事が覗き覗かれであるため創良もまた対応に困る。
「えっと、そのさ。このことはお互い誰にも言わないってことで」
「あ、ありがとう。……ありがとうでいいのかな?ああもう落書きした奴ブッ潰す!それじゃあ!」
話し合いに一つの落とし所が見つかり、ようやく二人は別れた。少女はそそくさと退散し、創良は椅子にかけて胸をなで下ろす。もしも最初の段階で逃げられていたら最悪エイリア学園の女性(らしきなにか)メンバーにアッシー君扱いされる可能性すらあった。
「何なんだよエイリアって……」
意図しない事故とはいえまさか悪の組織の拠点で覗き被害に遭うことになろうとは流石に想像出来なかったらしくこれから先も妙な意味で前途多難なのではないだろうかと創良は頭を抱えた。
「でも可愛かったな……前髪が変だけど」
〜〜〜
「はぁ〜〜〜……」
創良と最悪のかたちで出会った少女はそのままシャワー浴びた後、自室へと戻っていた。
「ちょっと〜寿命が逃げていきそうなため息やめてよー」
「んー……」
何故かソファーにのって寛いでいるチームメイトに構う事なくベッドに顔を埋めた。
「ところで、今日は練習行かなかったわけ?宇宙一の選手になるんだーとか言ってたのに」
「き、今日はちょっと休憩……」
今日のことを忘れてさっさと眠りについてしまいたいが目を閉じてしまうと否が応でもあの光景がフラッシュバックしてしまい目を必死に開けている。
「えー?行きなさいよ、せっか……いやなんでも」
慌てて言葉を濁したが、それが聞き流されることはなかった。
「何?今『折角』って言おうとしたでしょ、何が折角?」
「あ、いやえっとそのー……男子更衣室の表札にですね「お前かあああああああ!」きゃああああ!?」
怒り狂った猫と追われる鼠の如く室内大乱闘が始まる。
「失礼しますよーっと「まてこらああああ!」「なんでえええ!?」うわああああ!?」
エイリア学園チームその最高位に存在するマスターランク三柱の一つ、プロミネンス。その女子メンバーによる激しい
「いや、悪かったわよ杏。でもそんな怒らなくてもいいでしょう?誰もいなかったんだから」
「誰か居たから起こっているんでしょうが!」
創良と出会った少女、杏は心の内を吐き出すように怒りをぶつけた。
「……へ?」
「あのー、確か誰かの能力テストをするとかで私達のフィールド使われていたような?」
「……マジで?」
油を注し忘れた機械のようにぎこちなく首を戻す。
「穂香、何か言い残すことは?」
「すいませんでしたレアンさーん!」
その次に穂香と呼ばれた少女がとった行動は見事なまでに姿勢の整った土下座だった。
「……はぁ、もういいや。ところで華は何しに来たの?」
華と呼ばれた特徴的な眼鏡をかけた少女に杏は気を向ける。一連の流れで完全に飲まれていたが話を振られて華も本来の目的を思い出したようだ。
「返してもらいに来たのです。ほら、あの少女マンガ」
「少女マンガ?ああ、穂香から押し付けられたアレなら机にあるけど。そう言えば一度も読んでなかった」
「なぁーにを勿体ないことしてるんです!幼稚園児の頃から目指すは世界一のテニスプレイヤーという体育会系の主人公が小学生の時に才能溢れるイケメン転校生と出逢い、ライバルから生涯のパートナーになるまでを描いたスポーツ大河(全70巻完結済)の記念すべき第1巻!読まないなんて人生8割損してる!さあ今からでも読むのです!」
漫画一冊で8割変わる人生を送っているつもりはないが言われるままに漫画を手に取り……
「ふんっ!」
「ああっ!私の初版!」
表紙の白髪のウルフカットが目に移った時点で漫画を壁に投げつけた。
※感想欄でもコメントしていますがエイリアの女子は一部除き公式の描写が少ないため半オリ化します。