イナズマイレブン 〜サッカーやりたくないのか?〜 作:S・G・E
日が沈み月明かりが差す夜。海隣学園の食堂で皆集まっていたがどれも暗い顔で俯いている。
この場にいないのは葦川について海隣の理事と校長に伝えに行っている瞳子と木野、音無とその二人についてもらっている日天、そして佐久間、源田の重傷で精神的にまいっている鬼道だ。特に後者二人の顔の暗さはとても見ていられるものではなかった。
「葦川の奴、無事だといいけど」
「僕としては妹さんの方も心配ですね」
「アキ達が付いてるから大丈夫だと思うけど……」
影山の作ったチームに勝利し野望を打ち砕いた。しかし誰の心の中にも爽快感、達成感は存在しない。
「みんな集まってたのか、元気出そうぜ。葦川が大丈夫って言ったならきっと大丈夫さ!」
「円堂、目にクマができてるぞ」
「えっ!?あ、あはは……は」
染岡の指摘通り、円堂の目元には黒いクマができていた。無理矢理眠ろうとしてかえって疲れが増したのが容易に想像可能だ。
「響木監督が調査してくれると言ってはいたけど、葦川はエイリアの連中に誘拐されたかもしれないんだよな……」
共に戦う仲間が敵に攫われた可能性。その事実がメンバーに与えた衝撃と不安は大きかった。
「何をしているの、みんな早く眠りなさい」
その状態を咎めたのは他でもなく瞳子だった。
「でも監督、葦川がどうなったか気になって……」
「そうね、あなた達には包み隠さず伝えておきます。葦川君はエイリア学園に連れていかれた可能性が高いでしょう。はっきり言っておきます。今の私達ではどうすることもできないわ」
「でも監督!」
「あなた達は次のイプシロンとの試合に備える必要があります。あまり考えない様に」
そう言って瞳子は部屋に戻っていた。
「気にするなって方が無理だろ……」
「俺たちも気を抜いたらエイリアに攫われちゃうかもしれないッスか……?」
「壁山!縁起でもないこと言わないでほしいでやんす!」
瞳子の言葉が効果を発揮することはなく、またしても論議が始まりそうになる。
「よし、みんな今日はもう寝ろ!キャプテン命令だ!」
「きゃ、キャプテン?」
「監督の言う通り、ここで考えてもどうにもならない。俺たちには俺たちでやるべきことがあるはずだ!」
キャプテンとして自分が諌めるべきだと考えたのか円堂が結論をまとめる。そしてそれにと続けてこう言った。
「葦川がエイリア学園に連れていかれたなら今度のイプシロンとの試合で勝とうぜ!そうすればアイツを助けられるかも、だろ?」
「……うん、その通りだね」
「あたし達がヘコんでてもしょうがないよな」
円堂の言葉でみんなにの中で燻っていた不安感は何とか拭い去られた。目指すは打倒イプシロン。その想いを胸に各々が部屋へと戻っていく。
〜〜〜
『葦川創良が消息を絶った事実は一切他言しないこと』
海隣学園の校長、理事長に瞳子が事の詳細を語り最終的に行き着いた結論は大局的には正しい。エイリア学園と戦った少年が誘拐されたと知れ渡れば誰もが不安になり悪影響を与えかねない。
(でも残された家族には、残酷過ぎる)
部屋に辿り着くとノックをしてドアを開けた。部屋のベッドで日天は眠っていた。
「あ、監督」
「ご苦労様、あとは私に任せて。あなた達は明日に備えて休んで頂戴」
瞳子に言われる通りに交代し、木野と音無は自分の部屋へと戻っていく。そして扉の閉まる音がした瞬間、日天はベッドから飛び起きた。
「起きていたの?」
「……」
寝惚けているようには見えないが瞳子の言葉に反応せず、机に置かれて居た鍵付きの箱を開ける。その中にあった封筒を取り出すと瞳子に手渡した。
「これを見てもらえますか?」
「……これは」
その封筒には差出人も宛先もなくただこう書かれていた。
『もしも自分がいなくなることがあれば瞳子監督に渡してほしい』
まさか名指しで置き手紙を残していたとは瞳子にも予想外だった。つまり、創良はいずれこうなる可能性を考慮していたことになる。
「なぜ、私宛に……?」
瞳子は中の手紙に綴られた言葉を読んでいく。そして全てを読了すると手紙を日天へ返した。
「これは、貴方も読んでおくべき、そして貴方が持っておくべき物ね」
「え?」
それだけ言い残して瞳子も部屋を出て行く。
日天の見間違いでないならば、その顔は静かに笑みを浮かべていた。
日天から見て瞳子という女性は鉄面皮という印象しかなかった。その彼女に笑みを作らせた手紙の内容とは何なのか。絶対に読むなと言われていたわけでもなし、むしろ勧められれば尚更、日天は躊躇いなく手紙を開いた。
『これを瞳子監督が読んでいるということは私がどうなったのかは大方想像がついていることでしょう。自分で望んだか、それとも脅されて已む無くかは分からないがエイリア学園のチームへ所属し、雷門のメンバーと争うことになるかもしれません。ですがこちらでも出来る限りの抵抗、有り体に言えばスパイ活動のようなことをしてみるつもりです。子供が何を身勝手で危険なことをと思うかも知れませんがここまで来ればもはや他人事ではありません。ジェミニストームのキャプテンであったレーゼとは短い時間だったが確かに分かり合っていた。エイリア学園の選手は本当に宇宙人なのか、それとも全くの人間なのか。それに自分が確かめたいことを調べるためにも相手の誘いに乗るつもりです。もしも、私がエイリア学園の誘惑に負けてしまうことがあるならば敵として容赦無く打ち倒して下さい。ただ、最後に一つだけお願いがあります。』
『お兄ちゃんのバカ!』ここまで読んだ日天の感想はそれ一つだった。だが、そこから先は心から日天を心配する兄としての創良の言葉が書かれていた。
『日天を旅に同行させてやって下さい。もしも豪炎寺修也の妹と同じような目に遭うことがあれば悔やんでも悔やみきれません。自分を棚に上げて言いますがあの子はまだ子供です。両親を失って以来私達兄弟はお互いに依存するように生きてきました。今回のことはきっと独り立ちのいい機会になります』
この部分を読んだことで瞳子は自分にこの手紙を渡したのだろう。読み終えた日天の感想は一つだった。
「お兄ちゃんのバカ……」
〜〜〜
「みんな集まったわね」
早朝、海隣学園の校門の前に留まるイナズマキャラバンに雷門中サッカー部は集合していた。皆昨日のうちに心の整理は付けたらしく、強い決意が表情からも感じ取れる。
「監督、エイリア学園のアジトが見つかったって本当ですか!?」
「ええ、彼らが現れる時、特殊な電波が発生することは既に分かっていました。そしてその電波がある場所から放出され続けていることを発見しました。そこへ向かいます」
「じゃあ早速「その前に」あらっ?」
「今日から加わる新しいメンバーを紹介します。入っていいわよ」
瞳子の合図で彼女はイナズマキャラバンに合流する。頸まで伸ばしていた髪を兄と同じほどのショートウルフに切り揃え、快活な笑みを見せる日天がそこに居た。
「昨日はご迷惑お掛けしました。コンディショニングコーチ見習いの葦川日天です!どうぞよろしく!」