イナズマイレブン 〜サッカーやりたくないのか?〜   作:S・G・E

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 無双と呼べる活躍はおそらくこの回で最後になります。


14話 失ったもの、手にしたもの

 創良が影山の提案を跳ね除けた頃、すでに前半が終わり後半の中盤、コートでは激しいボールの奪い合いが展開されていた。

 

「佐久間へのパスコースをカットしろ!絶対にアレを撃たせるな!」

「チッ、鬱陶しい奴らだ」

 

 皇帝ペンギン1号は封印される前ですら一度の試合で二回以上使用することを許されなかった。もしもう一度佐久間が使うことがあればどのような事態になるか、誰にも良いことになる予想はできなかった。

 

「やれ佐久間ァ!」

「させない、〈フレイムダンス〉!」

 

 不動が佐久間にパスを出そうとする前に一ノ瀬がボールを奪い取った。

 

「染岡!」

 

 FWまでボールが繋がった。だがその両サイドにDFが張り付いている。ドリブルで抜こうとするのを許さない態勢だ。

 

(クソッ!俺じゃ止められる。どうすれば……吹雪、よしっ)

「ワイバーン……!」

 

 染岡が必殺技出そうとするのを見て皆が動揺する。ワイバーンクラッシュでは源田に負担を強いるだけと分かっているはずなのに何故。その答えはすぐに明らかになった。

 

「クラァッシュ!」

 

 ワイバーンクラッシュが放たれる。だが、そのシュートコースは明らかにゴールポストから外れている。それもそのはず、染岡の狙いはそこではない。

 

「〈エターナルブリザード〉でりゃぁぁ!」

「くっ、ビースト……「もう遅ぇ!」あ、あぁ……」

 

 ワイバーンクラッシュは吹雪へのパスとして繋がり、その吹雪が隙を突いてエターナルブリザードを放つ。

 

「やったな染岡!吹雪!」

「ビーストファングを使わせずに、本当にゴールを決めちまいやがった!」

「染岡、吹雪……」

 

 同点に追いついたことで流れが戻った。

喜びを分かち合う雷門。その一方で追いつかれた側の真・帝国学園の面々は一転して険悪な雰囲気に陥っていた。

 

「あのFWは面倒だな」

 

 試合再開、 佐久間へのパスをカットし、再び染岡と吹雪のコンビが前に出る。

 

「そらよォ!」

「うっ、ぐわあっ!」

 

 だがそれを不動が阻止する。かなり無理矢理なスライディングで染岡を転倒させる。

危険行為で不動はファール判定とイエローカードのジャッジを受けた。

 

「トロいねェ、あんなのも避けられないなんて」

「ふざけんなテメェ!今のはわざとだろ!」

 

 イエローカードを貰いつつも意に介さず不動は染岡に小馬鹿にした態度を取る。

 その姿に吹雪が詰め寄る。

 

「おいおい、ジャッジには従うぜ?あと一回までなら許されたんだからなァ?」

「こいつ!「よせ!」」

 

 不動に対して殴りかかろうとする吹雪を染岡が制止した。

 

「吹雪、殴ったらお前が退場になる……!」

 

 このくらい何ともないと立ち上がろうとした染岡だが打ち所が悪かったようだ。

 

「目金!染岡と……」

「俺と交代だ、染岡竜吾」

 

 その男は間に合った。控えに目金のみで危険な状態だった雷門に助っ人として参加した愛媛の実力者、葦川創良が22番のユニフォームを纏い現れる。

 

「ああ、任せたぜ。葦川」

 

 創良ならば問題はないと染岡も快く交代を受け入れた。

 

「選手交代!染岡に変わり、葦川!」

「オイオイ、いいのかよそんな奴チームに入れて?」

 

 葦川の帰還に期待を膨らませる雷門に水を差したのはやはり不動だった。

 

「何が言いたいんだ」

「知らないか。そりゃそうだよな、言えるわけねえよなあ『厄病神』さんよォ!」

 

 厄病神とはどういう意味か。

 

「そいつは数年前、ここから大分離れた場所にあるサッカークラブに所属していた。弱小だったそのクラブはエースの活躍で一気に地区大会の決勝戦までこぎつけるダークホースになった」

 

 立て板に水を流すように流暢に話す不動。だがその内容のどこに厄病神の要素があるのか分からない。

 

「ダメ!それ以上言わせないで!」

 

 ベンチから日天が飛び出してくる。だがたかだか小学生の言葉が何になるか、不動は構わず続ける。

 

「決勝戦の相手は優勝候補の強豪チーム。勝つためにそいつはDFのくせに試合中に得点。ハットトリックをやった直後にぶっ倒れたんだよなぁ!」

「葦川……本当なのか?」

「大会優勝はしたもけど監督は少年選手のオーバーワークの責任を取らされ辞任。一人の力に頼ったチームはど素人の大人で監督を間に合わせたが次の全国大会初戦で大量点差で敗退。ああ惨めだなぁ、可哀想になぁ、誰のせいかなァ?」

「昔のことじゃないか!今の葦川はちゃんとサッカーをやっている!」

「じゃあ聞いてみろよ。『お前、サッカーやりたいのか?』ってなァ!」

 

 不動が暴露した創良の過去は事実だ。瞳子は受け取ったファイルの情報と照らし合わせてそう判断した。

 

「随分と舌が回るな。予め用意していたかのようだ」

 

 皆が不安そうに俯く創良を見る中、当人は目つきを強くして言い切った。

 

「確かにそれは事実だ。オーバーワークで倒れた俺はもうずっとあの連中とあってもいないしその資格もない」

 

 だが、その表情は雷門のメンバーはおろか日天ですら見たことのないものだった。

 

「だが、俺はサッカーをもう一度始めたわけじゃない。俺の目的にサッカーが必要だっただけだ」

「目的だと?」

 

 笑っている。心中穏やかでないはずなのに創良は笑っている。不動のそれとはまた違う。より恐ろしさを高めた狂気の笑み。出来る出来ないではなく、少年が作っていい表情ではない。

 

「だから雷門に協力すると決めた。それにここならそのことでも都合が良かった。()()()()()()()()()()()()()()()()

「な、なんだと?」

「お、おい葦川……?」

 

 纏う雰囲気も徐々に物騒になっていく。まるで自分を捨て駒として見ているような言葉に挑発した不動も威圧されていた。

 

「さぁ覚悟しろよ。真・帝国学園とやらで多少の力を得たところで、四国に俺を超えるプレーヤーはいないと知れ」

 

 足早にフィールドへ駆ける創良だが周囲は重苦しい雰囲気に呑まれている。

 

「お、おいお前」

「何だ?」

「……いや、後でいい」

 

 鬼道が思わず葦川に声を掛けるが何を言えばいいのか言葉に詰まる。

 

「吹雪士郎、ここからは実質君の1トップだ。分かるな?」

「……好きにしろよ」

 

 ホイッスルが鳴り試合が再開される。創良のフリーキックは後ろへのパスとなり、前衛で攻めていく。

 

「葦川!」

「学習しねぇな雷門さんよォ!」

 

 染岡の二の舞にしようと不動がもう一度スライディングをかけてくる。だが創良は読んでいた。受け取ったボールを直上に蹴り上げ、自身はあっさりとスライディングを避けて落ちてくるボールを足で受け取った。

 

「人を挑発するのもいいが、もう少し謙虚になったらどうだ?今ので格付けは済んだだろう?」

 

 かつてレーザに対して行ったような執拗な挑発。不動の性格もあって大きな効果を発揮した。

 

「な、舐めてんじゃねぇぞ!」

 

 不動の合図でDFはゾーンを離れて創良のボールを奪いに向かう。強引なチャージやスライディング。フェアプレーを無視して創良を潰しにかかっている。だが、それは失敗し続けた。

 

「あ、葦川のヤツ、不動とDF二人相手にボールをキープし続けてるぞ」

「急造のチームではチームワークの粗さも明らかだな。攻撃が単調過ぎる」

 

 創良の言葉通り、真・帝国のチームは連携がうまくいっていない。パスを繋げる程度ならまだしも同時のディフェンスでは途端に脆くなる。一人がスティールを掛け、創良がそれを躱す。だがその次のDFのスライディングのタイミングが合っていない。

 

「いけ、〈アルファドライブ〉!」

「うっ……な、何だと?」

 

 その隙をついて放つ自他共に認める初見殺しのシュート、故に一点試合では強力な必殺技となる。2ー1で雷門に勝ち越しの点が入った。

 

「ば、馬鹿な、何してやがる源田ァ!」

 

 反応できなかった源田を責める不動だが、それまでキーパーエリアから遠く離れた場所で三人の味方と奪い合う選手が直接ゴールを狙うなど想像出来るはずもない。

 

「あとはこのリードを守るだけだ。勝ちに行けるぞ」

 

 あの狂気の笑みを見せられた後では素直に喜べないとはいえ創良の言う通り、残り時間を守り切れば勝ちだ。

 

「こうなったら、佐久間!後ろに下がれ!」

 

 一度皇帝ペンギン1号を使った佐久間の身体は危険な状態だ。

 

「まさか、あんな距離から皇帝ペンギン1号を!?」

 

 ディフェンスラインからのシュートは最早雷門には慣れたものだが、捨て身の技を繰り出そうとする。

創良と吹雪が急いでボールを奪おうとするがそれぞれに三人のマークがつき身動きを取らせない。勝つためになりふり構わないという意地を見せつける。

 

「俺は勝つんだ……!〈皇帝ペンギン1号〉!が!う、ああああ!」

「佐久間ーッ!」

 

 2度目の禁断の技が使われてしまった。直後に倒れた佐久間に鬼道は慟哭するがディフェンス陣はキュートを止めることで精一杯だ。

 

「「〈ザ・タワー〉〈ザ・ウォール〉!」」

「このシュートは絶対に止めてみせる!〈マジン・ザ・ハンド〉!」

 

 三重の防御を固めて皇帝ペンギン1号を止めようとする。ザ・タワー、ザ・ウォールともに破られ、円堂が必死におしとどめる。

 

「やらせるかああああ!」

 

 その一念が通じたらしく、壮絶な攻防の果てにボールは円堂のグローブがしっかりと受け止めていた。

 

「そんな馬鹿な!?皇帝ペンギン1号が正面から止められただと!?」

 

 延長戦に希望を見出していた真・帝国学園に最早打つ手は存在しない。

 そしてホイッスルの音が響く。

 

「佐久間!」

「佐久間!しっかりするんだ!」

 

 試合が終わり、勝利を掴んでも雷門、真・帝国の誰にも喜びはない。

倒れ伏した佐久間に鬼道と源田が近寄る。

 

「鬼道、俺たちは負けたんだな」

「どうしてこんな馬鹿なことを……」

 

 かつての、いや今でも変わらない仲間の痛ましい姿に耐えられるほど鬼道は冷淡でも豪胆でもなかった。

 

「お前に憧れていた。いつも俺たちの一歩先を行くお前に追い付きたいと思っていた。たとえ影山に、魂を売ったとしても。そして負けた……。でも、後悔は無い。ほんの少しだけ、お前に見えている世界に、入れたんだから……」

「佐久間!佐久間ぁ!う……うおおおあああああ!影山アアアアァァ!」

 

 鬼道の悲痛な叫びが木霊する。だが返ってくるものは何も無い。

 

「急いで救急車を、お願いします」

 

 ここに影山の新たな野望は終わりを告げる。だがこの試合は雷門のメンバーには一生忘れられないほどの後味の悪さを残すことになった。

 

「うわっ!何だ!?」

 

 派手な爆発音とともにフィールド全体が揺れた。潜水艦が自爆を始めたのだ。

 

「お、おい。キャプテンが居ないぞ!?」

 

 小鳥遊が不動の消失に気付くが元々寄せ集めのチームだ。いざとなれば探しもせず一目散に潜水艦から去っていく。

 

「私たちも脱出します!」

 

 瞳子の言葉で我に返った雷門のメンバーも船から降りようとする。

 

「待って!お兄ちゃんは!?」

 

 沈もうとする潜水艦。愛媛での最後の転機が訪れる。




 角馬君の実況を入れれば地の文が楽になり文字数も稼げるということに今更気付きました。すごく後悔してる。

創良の過去については完全に後付けなので決定的な矛盾があれば指摘いただけると助かります。

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