イナズマイレブン 〜サッカーやりたくないのか?〜 作:S・G・E
創良が目当てを付けた埠頭にやってきた雷門中イレブン。昨日から続いている天候の悪さもあってか廃れた倉庫と言った趣で非常に不気味だ。
「この辺りだ。真などと銘打っても一月もかからず誰にも知られずに学校が建てられるわけがない。何処かの倉庫を使っていると考えればいいだろう。」
その言葉で方針は固まった。広大な場所のため3グループに分かれて埠頭の倉庫を徹底的に調べて回る。
「影山のことだ、どこに罠があるかも分からない。皆気を付けてくれ」
『おおっ!』
(罠って……サッカーの試合がしたくて呼んでるのにそこまでやるか?)
創良の考えていることは本来なら正論だが相手が常識の通じない相手なので雷門に合わせるのが正解なのだろうと声には出さなかった。
〜〜〜
それから小一時間、周囲を探し回ったが学校は勿論生徒の一人さえ見当たらない。
「だぁめだ見つからない」
「葦川さんの推理もしかしてハズレでやんすかねぇ?」
円堂、栗松、葦川、そして瞳子と日天の五人組グループは歩き疲れ休息を取っていた。
その時、黒い服に奇妙な眼鏡を付けた男が数人で一人を囲い込む姿が目に映った。それを見過ごす円堂ではない。
いち早く助けに向かう。
「よせ!俺たちが相手になるぞ!」
「雷門中か。フン、手間が省けたな」
だが戦うそぶりを一切見せずに足早に退散して行く。
「大丈夫で……あーっ!響木監督!」
「懐かしい声だと思えばお前達か、よくここが分かったな」
響木正剛。創良は初対面だったが映像で何度か姿を見たことがある。
FF地区大会決勝。帝国学園との試合で雷門の監督となり、全国区まで導いた伝説のイナズマイレブンのキャプテンだ。
「俺は影山が護送車から逃げ出したという話を聞いて真っ先に調査を始めた。三週間前のことだ。そして不審な連中が出入りしているというこの埠頭に辿り着いたってわけだ」
「葦川さんと同じでやんす!」
栗松が関心の声を上げる。それに一番反応したのは響木だった。
「葦川ってのはひょっとして、葦川創良のことか?」
「響木監督、何か分かったのですか?」
他には悟られないように響木と瞳子は視線を合わせずに会話する。響木は懐から一つの封筒を手渡した。
「理事長から預かった。あまり気分の良い内容じゃないから見るのは後にしておけ」
「……分かりました」
「アキにブログを更新してもらった。皆そろそろ集まると思う!」
やがて響木の元にメンバー全員が集合する。
「響木監督が調べたなかではここの倉庫に影山や居なくなった生徒は見つからなかったらしい。でも怪しい奴らが襲ってくるのをこの目で俺ははっきり見た。影山は間違い無くここにいる!」
「しかし実際に見つからない。俺の見当違いの可能性も……」
全員収穫は無し、勿論響木もだ。
「ところで気になってたんだけどさ、噂に出てた海坊主って何なわけ?」
木暮が創良に質問する。山中の漫遊寺で暮らしていた身でそう言った話には人よりも疎いようだ。
「海坊主というのは言ってしまえば妖怪だ。夜に海から現れる巨大な怪物で……いや、待てよ、何故海坊主なんだ?」
だがその質問が創良の中で新たな疑念を生み出し、そして膨らんでいった。
「冗談混じりとはいえ噂話に海坊主が上がった理由は大波が立つ音だとしたら……!」
「お、おい何を「借りるぞ!」おい!何故ゴーグルを!?」
鬼道からトレードマークのゴーグルを引ったくり、勢いよく海へ飛び込んだ。
突然の奇行に反応が遅れた面々だが我を取り戻した円堂が水面を覗く。
「全員下がれ!ああ、とんでもないのが来るぞ!」
あまりの展開の早さに呆気にとられていたメンバーを創良は押して下がらせる。そのすぐ後だった。
海坊主がその真の姿を現わす。
「これは……!」
「馬鹿と何とかは紙一重というが、これは何とかの方なんだろうな」
鬼道にゴーグルを投げ返しながら創良は茶化すように言った。
突如として愛媛の海に『潜水艦が浮上した。』
それはただの潜水艦ではなく、上部が開き上空から見れば正しくサッカーコートが作られている。
「ようこそイナズマイレブンの諸君。待ちかねていたよ」
甲板に現れる人影。その一つが前に進み出る。全く嬉しくない再会だ。
「影山……!」
「あ、おい、罠があるんじゃないのか?」
雷門のメンバーは生涯忘れないだろう男、影山零児。
いの一番に鬼道が潜水艦に乗り込んでいく。創良はその行動に呆れるが誰が放置できるはずもなく、皆と後に続いていく。
「影山!お前の好きにはさせな……くっ!?」
先にコートへ辿り着いていた鬼道が影山に掴みかかろうとするがその間に強力なシュートが通り過ぎ、不意を突かれた鬼道が後ずさる。
そのシュートを打った張本人は影山の背後から現れた。逆立ての無いモヒカンヘアーの猟奇的な笑みを浮かべた男。
「これが我が真・帝国学園のキャプテン、不動明王だ。そして……こちらはサプライズゲストといったところかな?」
「何を!……なっ!?」
更にその後ろに現れた真・帝国学園イレブンのメンバー。その中の二人に鬼道は信じられないものを見たと激しく動揺する。
「佐久間、源田!何故お前達が!?」
「久しぶりだな鬼道」
「フッ」
かつての、鬼道にすれば今でも変わることのない帝国学園のチームメイト。佐久間次郎と源田幸次郎。間違い無くその二人だった。
「何故だ、どうしてお前達が!」
「フッククク、感動の再会ってやつだなァ!」
不動が神経を逆撫でするような笑い方で挑発するが鬼道には最早眼中にない。影山のサッカーを否定した仲間が何故ここで敵味方で向かい合っているのか、ただただ困惑していた。
「ククッ、旧友との会話を楽しむといい……さて」
影山が向き直る。だが、その視線は雷門イレブンには向けられていなかった。
「葦川創良、君と話がしたい。二人きりだな」
「…………何だと?」
言葉を向けられた相手、創良は戸惑った。あまりにも脈絡がないどころか自分と影山零児には僅かな接点も存在しない。
だが創良は頭の転換が早かった。どんな話題を切り出されようとエイリア学園と関わりがあると公言している相手と話す機会を活かさない手はない。そう判断してしまった。
「いいでしょう。日天、ここで待っていてくれ」
「葦川!大丈夫なのか!?」
「お兄ちゃん!いいの!?」
日天や円堂の心配を振り切り、創良は影山の後について行く。
かつての帝国メンバーとの対峙による鬼道の同様。葦川が離脱したことによる戦力低下。不穏な空気が流れる雷門だったがそこは熱血キャプテン円堂の面目躍如、この試合を通じて佐久間、源田の目を覚まさせることを誓いチームを奮い立たせる。
「佐久間、源田。お前達は間違っている。この試合で証明してみせる!」
「フッ、出来るかな?俺たちには秘策がある。楽しみにしていろ」
〜〜〜
潜水艦の艦橋部分はそっくり影山の個室になっていた。よくもここまでするものだと呆れ感心が半々の微妙な感想を抱く創良。
「正式ではないとはいえ雷門の協力者を個室に呼び出して、何を考えているんですか?」
「君はあの連中の中で最も客観的に物事を計れる選手だ。その君にここから真・帝国学園の力を見てもらおうと思っているのだよ」
「それはつまり引き抜きの誘いというわけですか……」
創良が導き出した答えに影山が含み笑いで答える。
事実、創良は円堂と鬼道から所業の数々を聞いてもなお影山零児という男を悪人と決めつけられないでいた。
確信が取れない情報などで先入観を持たないようにとしていたのが影山には筒抜けだったらしい。
「さて、始まるぞ。私の雷門への復讐が」
「復讐……」
コートでは遂に雷門対真・帝国の試合を告げるホイッスルが吹かれた。
雷門のボールで試合開始。染岡と吹雪の息の合ったコンビネーションでゴールへと切り込む。
だが、真・帝国のDFからは守備の意識が一切感じられずボールをキープした染岡に撃たせるつもりのような吹雪への徹底マーク。
「喰らえ!〈ワイバーンクラッシュ〉!」
染岡の最強シュートがゴールへと向かう。だが源田が両手を独特の構えに取り技を繰り出す。そのポーズに鬼道は思い当たるものがあった。
「あ、あれはまさか!?」
「〈ビーストファング〉!この程度……う、ぐおおっ!」
両手を獣の顎に見立ててボールを挟み込む技。染岡のボールを苦にもせず止めている。だがそれとは裏腹にその一度の技で源田は尋常ではないほどの消耗をしている。
「ビーストファング……!帝国で編み出され、その危険性から封印された必殺技……まさか二人の秘策とは!?」
「佐久間に回せ!」
不動から小鳥遊、佐久間とボールが繋がり雷門にピンチが訪れる。
「かつての借りを返してやる!〈皇帝ペンギン1号〉!」
それもまた帝国で生まれ、封印された必殺技。
「やめろ佐久間!それは禁断の技だ!」
「うおおおおっ!」
鬼道の制止も叶わず、佐久間は躊躇なくその必殺技を使った。
「〈ゴッドハンド〉うあああ!」
キーパーの円堂がゴッドハンドで迎え撃つがあまりにもあっさりとゴールは破られた。
「ぐああああ!」
皇帝ペンギン1号、ビーストファング。どちらも極限まで威力を高めた代償に使用する選手に大きな負担を掛ける諸刃の剣だ。
「まさか、これを真・帝国の力と言い張るつもりですか?」
試合を俯瞰して文字通り高みの見物をしている創良が影山に聞く。その顔には大きく出てはいないが怒りの感情は確かに感じられる。
「あれは間に合わせの捨て駒だ。君が見るべきは他にあるのではないかな?海隣の生徒として」
「……郷院、目座。あの二人は海隣のサッカー部員です。近くの中学で行方不明になる事件が多発、これで確定というわけだ」
創良の淡白な反応に影山は満足そうに笑みを浮かべる。
「やはり君は私と似ているな」
「似ている?俺と貴方が?何の冗談ですか?」
「かつて君はサッカーを愛し、将来を嘱望されたスタープレーヤーだった。あの試合まではな」
自分は全てを知っていると言わんばかりに影山が饒舌になっていく。
「君も感じているだろう。あの生徒達は確実にレベルアップしている。FF中堅クラスの実力しかない連中が優勝校であり、各地の強豪メンバーを集めている雷門に勝ち越している現状が何よりの証拠だ」
確かに今のスコアは0ー1で雷門が押されている。佐久間にシュートを任せることで残りが防御を固め、隙がない。
「このチームになら、君は『壊されない』。私が約束しよう。こちらに来たまえ」
影山が創良に手を差し伸べる。だが創良は一切の反応を返さなかった。
「まず一つ、貴方は勘違いをしている」
「ほう?」
「俺は『壊された』わけじゃあない。『勝手に壊れた』んだ。だから、その約束に意味はない」
創良が影山の認識を訂正する。それに対して影山は初めて顔を強張らせた。
「そして一つ、俺のことを随分調べたらしいが貴方は見落としている。リスクを伴う必殺技が俺の一番嫌いなものだ。そんな二流の技に頼るチームなど、俺が潰す!……そういうわけだ。貴方と俺は違う、残念ながらね」
交渉はここに決裂した。創良の信条は影山に交わることなく我を貫いた。
それだと心が定まったならば創良の取る行動はただ一つ。ただ一度、紳士の例として影山にお辞儀をすると、振り返ることなくコートへと向かって走り出した。
引き抜きは失敗。だが影山の顔にはそれでも笑みが浮かんでいた。
「いいや、やはりお前は私に似ている。サッカーに取り憑かれた哀れな子供だよ」