イナズマイレブン 〜サッカーやりたくないのか?〜 作:S・G・E
続々と新参メンバーが加わる雷門。無名の強力DF葦川創良、音無の推しで急遽参加することとなった漫遊寺中の木暮夕弥。これからの試合展開がどうなるのか誰にも想像がつかない。
「試合再開だ。積極的に点をとっていくぞ」
追いつかれたとはいえ先に点を入れたのが雷門であり、まだ流れはこちら側にあった。
「木暮だったな?」
「ああ、さっきの……」
成り行きで参戦したことで戸惑いもある木暮に創良が声を掛ける。
『お兄ちゃん頑張って~!』
「日天、見てたのか」
余裕が生まれて深呼吸すると日天の声が聞こえた。
「アンタがあいつの兄さんなのか」
「ん、何だ?日天に気でもあるのか?はは、おませさんめ…………許さんぞ?」
「違うよ!嫌な性格だなお前ら!」
本人もイタズラ好きのわんぱく小僧な木暮だがこの兄妹にはどうやら通用しないようだ。
「気負わず行け。点を取らせなければそれでいいんだからな」
「あ、あの相手に気負うなって……」
無理だろうと言おうとした木暮だが、それまでの足の震えが消えていることに気付いた。
「ラスト1分だ、終わらせてやれ」
「「「ラジャー!」」」
またしてもガイアブレイクの陣形。もし点を入れられれば雷門側に留まっていた流れが一気に傾いてしまう。
「さあこの三人を突破出来るか?」
だが、二度もやられる雷門ではない。鬼道、風丸がそれぞれゼル、マキュアをマークして動きを止め、その隙に一之瀬、土門、創良がメトロンに集中する。
「悪いな、此方ももう一点もやれないんだ」
「はあっ!〈フレイムダンス〉!」
一之瀬の必殺技が炸裂しボールは雷門へ。時間の流れが遅く感じる程の攻防が繰り広げられる。
「監督、葦川君は一体どこの学校の生徒なんですか?」
木野が瞳子に尋ねる。奈良であった時からそうだったがあれだけの実力を持った選手が無名である理由が分からない。
「私も気になって調べてみたわ。ひとまず分かっていることは名門私立と言われる海隣学園の生徒で、彼はサッカー部には所属していないということ。中学で無名の理由はそれね」
「つまり、少なくとも試合にはかなりのブランクがあったと言うことですね。その上であの実力なんて……」
「彼はもしかすると何処かのクラブに所属しているのかもしれないけれど今はまだ不明よ。だからチームの一員として正式に加わってもらうわけにはいかないけれど、この試合では頼もしい助っ人になりそうね」
漫遊寺の生徒に申し訳が立たないが初めて戦うエイリア学園のチームということもあって瞳子は元々この試合、勝ちを取りに行くつもりはなかった。創良の参加でそれが覆ることはなかったがチームのレベルアップはより上方修正されている。
「喰らえ〈ワイバーンクラッシュ〉!」
ついに均衡を破り染岡のシュートがゴールに迫る。だがデザームはまたしても余裕の表情でキャッチして見せた。
「ぬるい。メトロン、もう一度だ」
「ラジャー!」
三度メトロンにボールが周り、正面に木暮が立つ。
「う、うわっ!来るなよぉ!」
「あとはあの漫遊寺の子ね」
相手のドリブルに恐れをなして木暮はあっさりと道を開けてしまう。身のこなしはともかく、エイリア学園と戦う上で常にこの体たらくでは話にならない。
「なんだよこいつら、本当に宇宙人と戦ってるのか?」
「木暮君!逃げてばかりじゃダメよ!」
音無がベンチから声援を送るが後の祭り。遂に2度目が放たれる。
「「「〈ガイアブレイク〉!」」」
あわや二点目が入るかと思われるシュートに立ち塞がるのは創良。
「〈イプシロンブレード〉!キャプテン!」
「〈マジン・ザ・ハンド〉!よし、止めたぞ!みんな上がれ!」
創良一人では相殺しきれなかったガイアブレイク、だが円堂がしっかりとキャッチした。
「お前達の必殺技は三人で撃つ分中盤の守りが薄くなる」
円堂からボールを受け取りさらにロングパス。落下点に一ノ瀬が構えているがその間にスオームがカットに入る。しかし、奈良で見せたカーブがかかったボールだった。そのまま左にいた風丸へと渡る。
「だからこうやって簡単にカウンターを食らうことになる」
創良の言葉通り、中央はスオーム一人になりガラ空き。あっさりとパスは繋がり、ディフェンスラインまで総勢で攻め込むことができる。
「もう一度だ吹雪!」
再度吹雪にボールが繋がった。さっきとは違う近距離からの必殺技。
「今度こそ決めてやる。〈エターナルブリザード〉うらぁぁぁ!」
「ぬぅ……はぁっ!」
吹雪が放った最適距離でのエターナルブリザードをデザームが受け止めようとしてゴール周辺に激しい砂埃が舞う。徐々に鮮明になっていく光景はデザームがボールを受け止めている姿だった。
「な、何だと?この距離からのエターナルブリザードが止められた!?」
今度こそ決まったと誰もが思った。しかし現実は違う。結局デザームに技を使わせることもなく
「お前たち雷門中は我らエイリア学園にとって大きな価値がある。残り30秒、楽しませてもらおう」
「何い!?ぐわぁ!」
デザームがそう言うとエイリアのスタイルの一つである選手潰しが始まった。染岡に対しての強烈なスローでダウンさせる。サッカーで使う言葉とも思えないが文字通りデザームが投げたボールが染岡を吹き飛ばしたのだ。
点を取りに行かずに執拗に雷門のプレーヤーを狙ってくる。風丸、一之瀬、鬼道と粘っているが遂にダウンしディフェンスラインまでクリアされてしまった。
「人の事言えないが、スポーツマンシップもあったもんじゃないな!」
遂に標的はDFへ、創良が指摘した攻撃偏重の欠陥も御構いなしと攻撃を仕掛けて来る。
「お兄ちゃん……え、あの人?」
「そうか……俺は」
間一髪で躱し続ける創良を見届けることしかできなかった日天だったが、一瞬逸らした目にレーゼの姿が入った。
イプシロンのプレーを見て息を切らせていたが今はまるで魂が抜けたように俯いている。
「宣言の3分は経過した。聞くがいい雷門よ!貴様達は我らイプシロンにとっての好敵手となりうる可能性を秘めたチームだ。よって……十日、今日から十日間の猶予をやろう。それまでにさらなるパワーアップを遂げ、我らに挑むがいい」
そう言い切り、デザームは全力投球でボールを真っ直ぐに投げた。直線上で息を切らしていた鬼道や一ノ瀬を容赦無く吹き飛ばし創良も咄嗟に反応してキックを当てるが力が足りず、弾かれてしまった。
「不味い、避けろ!」
「じょ、冗談じゃないって!」
木暮が後ろへと逃げていくがボールの方がスピードが上のためあわや大惨事……と思われたその時、倒れ伏していた壁山の足につまづいた木暮は転倒。その足にボールが引っかかり。そのまま木暮は引っ張られるように回転を始める。そして木暮を中心に竜巻が生まれ、ボールの勢いを飲み込んでいった。
「止めた?」
「あいてて」
木暮の体が止まった時、その足にボールがしっかりとキープされていた。
「あの、抹茶さん?」
一方で日天が側に付いていた彼は、
「触れるな人間」
日天が触れていた手を払いのける。
その様子に気づいた創良が駆け寄った。
「まさか記憶が?」
「そうだ、私はレーゼ。エイリア学園のレーゼだ!」
創良は言葉を失った。記憶が戻ったならそれでいい。だがそれでもなおエイリア学園に戻る道を選んだ事にショックを受けた。あの時の慟哭は何だったのか、あの時の言葉は本心ではなかったのか。
「レーゼ」
「はい。デザーム様」
デザームに言われるまま、突如現れた黒いボールと共に消えようとするレーゼ。
「よせ!」
「人間よ、お前に相応しい言葉をくれてやる。『画竜点睛を欠く』とな」
「何だと……画竜点睛?」
瞬きをした次にはレーゼとイプシロンの姿は消えていた。
こうして雷門中とイプシロンの戦いはどこか後味の悪い結末と一つの『暗号』を残して幕を下ろした。
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1-1で同点のまま中断された試合。最後は雷門側が圧倒されていたとはいえ引き分けだった。この事実が皆に与えた自信は大きい。皆が試合の内容を好意的に振り返っている。
「木暮!お前凄いな!あれを一人で止めたんだぜ!」
「凄い?……そうさ、俺は凄いんだ!」
雷門の面々が木暮の見せたウルトラCを同じように褒めるために駆け寄った漫遊寺の連中は落とし穴に落ちていったが。
「あとは俺たちが点取り屋の本領発揮しなきゃな!」
「染岡君……うん!」
ツートップのFWはより強力なストライカーとなることを誓う。
「俺もよりレベルの高い戦術を組み立てなければな」
「十日であいつらに勝てるレベルまで底上げしないとな!」
「あたし達はあいつらのシュートを止められるようにしなきゃな」
「葦川さんみたいな早くてかっこいいプレーを目指すでやんす!」
司令塔やMF、DFもまた同じく更なるレベルアップに向けて意識を高めている。
「ん、どうしたんだ葦川?」
「あ、ああ。何でもない」
その中で創良だけは試合外のことを思い返していた。
(画竜点睛を欠く?俺のプレースタイルの問題か、エイリアについて俺が何か見落としているのか、あるいは……)
レーゼの言葉はあまりにも脈絡がなかった。その諺がいったい何を示しているのか、いくら考えても今の創良には知る由もなかった。
「皆、あとでキャラバンに集合して頂戴。見てもらいたいものがあるわ」
それぞれに新たな意識を植え付けたイプシロンとの初戦。しかし、新たな影はすぐ近くまで迫っている。雷門にはつかの間の休息すら与えられなかった。
京都編は今度こそ終わりです。デザーム様は設定とか見ると明らかに二軍にとどまる能力じゃないと思う。
Q. アルファとかイプシロンとかのネーミングだと既存技と被るんじゃね?
A.タブンダイジョーブ
追記 17/11/02
前回と合わせてタイトルのミスを修正しました。