イナズマイレブン 〜サッカーやりたくないのか?〜 作:S・G・E
A、超次元だから
雷門とイプシロンの試合が始まって丁度1分後、木暮と日天は漫遊寺のグラウンドに着いていた。
「あぁー疲れたね」
「お前は俺が背負ってやっただろ!何が疲れたんだよ……」
「あっ、木暮君!来てくれたのね!」
木暮の存在に気付いた音無がベンチに二人を連れて行く。
「……え?」
飄々とした態度を取り続けていた日天が初めて言葉を失った。
「ちょっと待って、どうして?」
「あ、日天ちゃん?今までどこに?」
「あの、なんでお兄ちゃんが試合に?」
唐突に視界に入った光景に戸惑う日天にマネージャー三人が経緯を説明する
「そう…なんですか……」
「勝った負けたで何も変わらないかもしれないけれど、友達のためにやれることをやるんだって彼は言っていたわよ」
しかし、そんな言葉とは裏腹に現状は吹雪と創良の衝突を引きずって空気は悪い。
ここの噛み合わせが悪ければ調整するのは司令塔の出番だ。鬼道が創良に駆け寄る。
「何だ?非は俺にあるとでも?」
「そうじゃない。だが吹雪はベストなプレーだと判断してここからエターナルブリザードを決めようとしたんだ。お前なら分かるだろう?」
鬼道は決して吹雪がDFを信頼しているわけではないと弁護する。
「分かったよ。監督さん、俺をセンターバックに変えてください」
「……いいでしょう」
創良が言いだした言葉に異議を唱えようとした鬼道だったが瞳子が即決したことですぐにフォーメーションが組み直された。ディフェンスラインに左から土門、塔子、創良、壁山、栗松の陣形。
「お前たちのプレーがそうだと言うなら、俺も自分らしい動き方をするだけだ」
雷門中はポジションや分業にこだわらない個性のぶつかり合い、ならば創良もそう理解した上でこれから動くまでのこと。
イプシロンはマキュアからのスローインで試合が開始される。
「ゼル、1.33秒でシュートだ」
「はっ!〈ガニメデプロトン〉でりゃあ!」
ボールを受けたゼルがシュートを放つ。ハンドを疑うような技だが触れてはいないらしい。
「「〈ザ・タワー(ウォール)〉!!うわっ!」」
威力こそ落ちたもののそれで止めるには至らずボールはゴールに真っ直ぐに向かう。
「何の因果か知らないが、この技を使わせてもらう。〈イプシロンブレード〉!」
センターに陣取ることで迎撃の態勢は整っていた創良がその場の全員に初めて見せる必殺技、演舞のような五連続のシャドーキックから発生した五つの斬撃がシュートボールに襲いかかる。シュートとディフェンス、それぞれが正面からぶつかり合い、ボールは創良の足下におさまった。
「いいぞ葦川ー!ナイスプレーだ!」
そのまま右サイドでフリーの栗松にパスをするかと思いきや、創良はボールをキープしたまま層の厚い中央を進んでいく。
「え?暴走!?」
「いや、でもこれは……」
センターラインよりやや後ろ。
「〈アルファドライブ〉」
「む、何?」
ボールが足に触れると同時に白い光に包まれ、超高速でゴールに突き刺さる。
「まずは先制だ。3分で決着をつけるんだったよな?」
雷門中に1点が入り、先制点となった。選手はもちろん漫遊時の生徒たちギャラリーも一気に盛り上がる。
「葦川!DFなのにこんなすごいシュート撃てるのか!なんでもっと早く言わないんだよ!」
言葉とは真逆に円堂やチームの表情は満面の笑みだ。
自信にあふれかえるイプシロンから先制点を取れたということは雷門に取って最高級のカタルシスを感じると同時にいい追い風になったようだ。
「フン、今度は俺が決めてやる」
若干一名、一悶着あったせいで態度に示せない者もいるが。
「全力を出すためにポジションに拘らないのが雷門のサッカー。それに倣っただけだ」
「成る程、ほんの少しは楽しませてくれそうだ」
一方のイプシロン、創良のシュートに警戒するどころか獲物を見るような目で睨みつけるデザーム、その口元は笑っていた。
「ゼル、奴にボールをくれてやれ」
イプシロンが躍起になって同点を奪いに来ると考えていたがゼルは一定のところまで攻めるとまるでパスするかのように創良に向けて明らかに弱いシュートを打った。当然創良はボールをカットする。
「仕方ないな。〈アルファドライブ〉」
もう一度放たれるディフェンスラインからのアルファドライブ。しかし今度は決まらない。あっさりとデザームにキャッチされる。
「フッ、見立て通りのスピード特化か」
「だから二発目の効かない『一撃きりの必殺』何だよなぁ…そう言うわけで、他のみんなよろしく。今度こそDFに専念するよ」
ゴールを決める可能性が一つ消えたことで落胆するメンバーだったが創良からみればあくまで予定調和だったという様子を見てそれでも余裕の表情を保っていることに皆改めて活気付く。
「行け、イプシロンの戦士達よ!」
だが、イプシロンもただでは終わるわけがなかった。デザームのスローで一気に中盤までボールが渡り、FWのメトロンに繋がってしまった。
「メトロン、2.82秒であれを撃て」
「ラジャー!」
デザームの合図でメトロンを軸にゼル、マキュアが横に並ぶ。間違いなくシュートの前兆だ。
「止めて見せる!」
創良のプレーに触発された塔子が強気にボールを取りに向かう。だが今回はそれが裏目、メトロン達はそのタイミングで必殺技を発動した。
「「「〈ガイアブレイク〉!」」」
「う、うわぁ!?」
反射的にボールを足でカットしようとした土門だったがそのシュートの威力に弾き飛ばされてしまう。
「イプシロ……間に合わないか!」
創良もまた蹴りで押さえようとするが力及ば無かった
「塔子!……くっ、〈ゴッドハンド〉!」
円堂の必殺技、ゴッドハンドもまた力不足。三段の防御も空しくゴールを破られてしまった。1-1の同点だ。
「くっそぉ!」
「同点か、得点力のある相手はやっぱり嫌いだ。……おい?」
塔子が足を庇ったままうずくまるのを見て創良を始めに皆が駆け寄る。確認すると足元が真っ赤にはれ上がっていた。あれだけ強力なシュートに当たりどころの悪さ。とてもフィールドに立てる状態ではない。
「塔子!大丈夫か!?」
「痛っ……!ゴメンみんな、ちょっと不味いかもしれない」
選手交代を促すが今の雷門にはDFが型の選手が不足している。
「キャプテン、交代できる選手は?」
「ああ、目金が居る。でもDFとしては……」
今の雷門の欠点、選手層の薄さが浮き彫りになってしまった。それでも背に腹は代えられない。監督が目金との交代を宣言しようとするが……
「あの監督、キャプテン!木暮君を出させてあげてくれませんか!?」
「何ですって?」
「木暮を!?」
「……へ、俺?」
ベンチで試合内容に度肝を抜かれたままの木暮にいきなりの招集がかかり当人は間抜けな声を出す。
「分かった。音無が言うんだ。信じるぜ!」
「私は構いません」
だが円堂を中心にその提案はトントン拍子に進んでいく。
「いやいやいや!なんで俺なんだよ!?」
たまらず木暮が反対する。得体も知れない自称宇宙人との試合との試合など御免被りたいと考えるのは無理もない。
「行ってみたら?だって、あたしを背負ってここまで来たのに全然疲れてないじゃない。きっと才能あるよ?」
今までの小悪魔的な態度とは全く違う日天の本心からの言葉。とても論破できる気がせず漫遊寺のメンバーに助け舟を求める。
「木暮、頑張って来い!」
「垣田まで!皆後で覚えてろよ~!」
しかし彼らもまた向こう側だった。
結局木暮は反対しきれず選手交代を受け入れ、雷門のユニフォームを纏うこととなった。
イプシロンの宣言まであと1分。
「うっ、何なんだ。あいつらのサッカー。怖いのに……覚えてる?」
そんな中で、人知れず苦しむレーゼ。混沌とした雰囲気の中で試合再開のホイッスルは吹かれる。
吹雪に対して当たりが悪いのは後々の展開を考えてです。真・帝国戦をどんな風に扱うにしてもあのキャラが助かる展開はほぼ確定事項なので。