大分期間が空いてしまいましたが、ようやく投稿できます。
今回の話は会話パートのみなので面白みに欠けますが、人物間の親密度的な問題で、入れないと彼との今後の絡みが入れ辛いので入れさせていただきました。
若干無理やり感がありますがよろしくお願いします。
加速世界から戻った僕たちは、黒雪姫が主導となり、最終確認を行う。
その際累計プレイ時間の話題が上り、自分はどうだったかを改めて考えてみた。最初期からいるブラック・ロータス以下だとは思うが、黒のレギオン解散事件の前後でまだ初心者同然であったと語っていた赤の王よりは長い気はする。
累計時間など考えても五十歩百歩なのだが、軽く考えても二けたに届く年数はいると考えて間違いないだろう。
精神年齢は既に成人しているのかと考えが至り、凄まじいと今更ながらに驚いた。
さらに話は進み、黒雪姫が≪プロミネンス≫と休戦協定を結ぶと言う出来事があった。これは赤のレギオンが黒のレギオンに協力要請をしている形なのだから妥当だと言える。その時舌打ちしていた由仁子だが、最初からこの展開を予想していたようで、スムーズに話が進んだ。
「それでソニック。君はどうする?出来ればここに集まった方がタイムラグなく済むのだが……」
そして最後、僕がいつ合流するかと言う問題で話が止まった。
これはどうするか、僕は非常に悩んでいる。ここで姿を見せて協力をするのも良いのだが、僕はまだ彼らを完全には信頼できていない。これは別に、彼らが信用置けない人物だと言っている訳ではない。
彼女らは切実に災禍の鎧の破壊を望んでいるのだろう。それは僕だって破壊したい。
だが、その後はどうだろうと考えた時、僕には踏ん切りがつかなかった。しつこい様だが僕には他の人間では珍しいであろう身体的不利がある。これを考えると、どうしても慎重にならざる負えない。
リアルが割れた時、誰よりも無防備を晒す事になるのだから。
『申し訳ないけど、当日も今日と同じように、別の場所からフィールドに入ってここに来させてもらうよ。あまりフェアとは言えないけど、勘弁してほしい』
「そうか。いや、気にする事は無い。今回のような事態は珍しいんだ、君の対応の方が本来は正しい」
『そう言ってもらえると助かるよ。……せめて連絡先だけは伝えておく』
そこから辿られると言う心配はもちろんあるが、辿られたら辿られたで顔を出す踏ん切りもつくだろうと、自分でも慎重なのか無防備なのか解らなくなってきた。
もっとも、これはただ無防備であるだけではなく、これから当たる事に向け信頼を築く目的も多分に含まれている。
「そうか、君の信頼に答えなければならないな」
リアルの連絡先を教えるだけでも相当なリスクだ。それを正しく理解している黒雪姫は、神妙な表情を浮かべてその連絡先を受け取り、お返しに連絡先を送ってきた。
何も言葉を発しないが、皆同じように連絡先を受け取ると、僕に連絡先を送信してくる。
「よし、それでは明日の放課後ここに集合、ソニックには決行の一分前にメールで連絡する。これで良いな?」
「ええ、それならソニックさんも時間を合わせやすいでしょう。連絡は僕の方からします」
『すまないね、パイル、ロータス。手間をかける』
全ての決め事を終えた僕は、先に通信を切らせてもらう事にした。
余り長い事マンションの玄関口で直結を続けているのも、外聞が悪い。同じタイミングでタッ君も席を立ったので、最後に別れの挨拶をしてから接続を切った。
「よし、帰るか」
繋いでいたケーブルを引っこ抜くと、それを鞄にしまい込み、背後にある車椅子の持ち手に掛ける。
そのままマンションの自動ドアを潜った所で、僕の首に付いているニューロ・リンカーにメール着信があった。
「これは……タッ君か?」
空中に手を伸ばし、自分にしか見えないウィンドウから、メールの着信画面を開いた。
その内容は丁寧な文面で、この後話しが出来ないかと尋ねる物だった。内容は解らないが、まだ連絡を切ってから数分と経っていないし、おそらくは内密な物だろう。
態々一度メールで連絡を入れてくる辺り、彼の生真面目さが滲み出ている。
僕は迷わず”了解”と返事を送り急いでその場から離れる。話しこんでしまったので時間は相当遅い。
帰りが遅くなる事は親に連絡は入れていたが、心配性の母は何度でも電話を鳴らしそうなのでそうなる前に着ければ良いと、出せるギリギリの速度で走らせる。
「それで話って言うのは何かな?」
あれから一時間後、丁度家に帰り着いたときにタッ君から連絡が入った。何故か彼の希望でアバターでの通信、僕が何時ものウサギの姿、そしてタッ君がブリキの人形で顔は彼そのままの姿だった。
彼は僕の姿を見ると、小さく唇を動かした。聞き取れなかったが、その表情はどこか辛そうに見える。
「あなたは……、あなたはチーちゃんをどうするつもりですか!」
「えと、話の内容が上手く解らないけど、僕の事、チユリちゃんから聞いたのかな?」
「っ、それは……」
「あぁ、いや聞いてるに決まってるか。ごめんよ、それでチユリちゃんの件だけど……」
突然の話題、だが僕のアバターに激しく反応していたので、チユリちゃんに僕の事を聞いていたのだと思う。あり得ない話ではない。彼女の彼氏だった彼ならば、彼女から僕のアバターの話を聞いていても不思議ではないだろう。別に聞かれて困るような会話はしていない。
いや、彼らの仲についての相談が主だったので、別の意味で聞かせられないような話ではあったか。
「たぶん僕自身の子にするか、って言う質問だと思うから、はっきり答えておくね。答えは『NO』だ」
「違うと言うんですか……?」
「うん、彼女と会ったのは本当にたまたまだし、僕はブレイン・バースト関連でリアルでは誰とも会うつもりがない」
そう、僕には子を作る気持ちが無い。
子を作ると言う事は、その人物と接して信頼を築き、上を目指して行く事だ。それが僕には途轍もなく恐ろしい。
僕は見ているから。親と子と言う関係が実の兄弟間であっても、ポイントの為ならば簡単に裏切り敵対する事があると言う事を。
「一応言っておくけど、彼女は僕がバースト・リンカーである事を知らない。でも、彼女は君たちと一緒にゲームがやりたいと言っていたよ。ゲームだから楽しまなくちゃおかしい、ってさ」
「チーちゃんが……。でも、このゲームは彼女が考えているほど簡単な物じゃないッ!止めてください、こんな危険なゲーム、チーちゃんには似合わない。それは、僕よりもあなたが一番よく理解しているはずです!」
危険、確かにこのゲームは危険だ。痛覚はあるし、無制限フィールドに潜れば痛覚は二倍。
ショック死などは聞いた事は無いが、対戦がトラウマになったと言うプレイヤーは確かに存在する。エネミーに腕を食いちぎられると言う経験をしている僕はその事が痛いほどわかる。
でも――――
「だからと言って、彼女の意思を無視できないと思う。それに彼女は変な所で頑固だからね」
「でも、あなたが言えばチーちゃんだってきっと!あんなに貴方の事を信頼して……ッ。僕は……」
「え、ちょっと?どうしたのタッ君?」
タッ君が話の途中いきなり両膝を折り涙む。突然の事で驚いてしまったが、少しずつ、彼は僕に聞かせてくれた。彼が何をしてしまったのかを。
バックドアプログラム、一種のウイルスプログラムだ。その効果は、通常パスワードなどが設けられた端末を無許可で所有者にも気が付かれずに、その端末の情報などを閲覧する事が出来る。
つまり、好きな時に常に直結状態と同じ状況を作る事が出来るのだ。
それをチユリちゃんに仕掛けたらしい。
「何で僕にその事を?」
「何で、でしょうね。最初はこんな話するつもりじゃなかったんですが……。でも、あなたはチーちゃんからとても信頼されている。そしてあなたが、僕なんかよりもずっとチーちゃんをしっかり見ている事を気付かされて……」
さらにタッ君は言葉を続ける。付き合い始めてから、いや、付き合い始める前から自分がチユリちゃんを真直ぐに見ていなかったと。ハル君に対しての暗い気持、そこから繋がるバックドアプログラムであり、あの日のシルバー・クロウとシアン・パイルの対戦へと進むわけだ。
どこか痛々しいまでに自虐を続ける彼を見て、僕は自分の姿に重なる物を感じてしまった。
「後悔してるの?」
「当たり前ですよ。チーちゃんとハルは優しいからこんな僕を許してくれましたけど、僕は僕自身が許せない」
当事者たちが許してくれたと言っても、彼が行った事は犯罪だ。さらには仕掛けた対象が彼女で、苛立ちを爆発させたのが親友では、自分を責めても仕方がないように思える。
だが、間違いだらけの事だが、一つだけ正しい事がある。
「君がやってしまった事全てが間違いとは僕には思えないよ。ウイルスプログラムなんかは確かに悪い事だと思う。でも、君がチユリちゃんを好きな事は正しい事だ」
した事の無い僕があれこれと言うのも可笑しいが、恋愛とはいい感情だけでは片付かない。
それこそ昼ドラのドロドロした事だって起きない訳ではないのだから。
「正しい筈が無いですよ。こんな、こんな事までやって、僕は自分の事ばかり……。だから僕はチーちゃんと距離を――――」
「バカか君は。好きなら誰だって考えるさ、自分だけ見て欲しいって。君の場合はそれがブレイン・バーストによって手に出来るだけの所にいたから暴走してしまっただけだ。自分の抱いた気持ちは否定しちゃいけない」
行った行動は間違いでも、それを思うに至った気持ちは間違いではないのだから。
「……何だか、チーちゃんが貴方を頼る意味が分かった気がします。羨ましい程に」
「僕は君よりも無駄に年数を過ごしてるだけだよ。僕こそ羨ましい。そこまで人を思える気持ちを持ち続けられるんだから」
どれほど前から人を純粋に思えなくなっただろうか。親友を一晩で失い、周りを警戒して過ごしてきた。
だからこそ、彼らのリアルで繋がる関係は好ましく、壊れて欲しくないと心から思っている。
「……長く話し込んでしまいましたね。そろそろ切ります」
「また何かあれば話位聞くからさ。連絡してね」
「えぇ、その時はお願いします」
少し時間をおき、落ち着いたタッ君は先程の取り乱した事を謝罪し今日の出来事に礼を述べて通話を切った。
きっとタッ君は今後もその事件の事を思い出し、苦しむ事だろう。トラウマとは、容易く拭えぬからトラウマ足り得るのだから。だから僕は、その時に少しでも力になれればと心の中で思う。
一人自宅サーバーで物思いに耽りながら、タッ君の周りの環境に僅かばかりの嫉妬の念を持ってしまった。
自分が彼よりも不幸などとは決して考えたりしないが、それでも、思いをぶつけられる親友がおり、全てを賭けても良いと思えるような女性もいる。そして、彼の努力次第で今後、もっと開けた未来が待っている。
「羨ましい、なぁ……」
口を付いて出たのは僕の本心。その独白は誰にも聞かれる事無く、電子の海に掻き消えて行った。
その翌日早朝。
さっそくタッ君からの連絡があった。通話で。
『助けてください。僕一人じゃヒートアップしたチーちゃんは止められないので……』
「いつでも連絡してって言ったけどさ、これはどうだろう?」
アバター通信で目の前に展開されているドタバタ劇を見やる。
『説明しなさいってばハルゥッ!!』
『倉嶋君、その辺でやめてくれないか?説明はさっきしただろう、私は昨日、彼の家に泊まっただけだ』
『ハルゥ――――ッ!!』
チユリちゃんがハル君に突っ掛り、黒雪姫がさらに油を注いでいる状況だった。
男としては羨ましい状況であるが、こちらに助けを求めるハル君の視線は僅かに痛い。
『如何止めたらいいと思いますか?』
「頭を使うのは君の分野だろう。僕に聞かれても……」
『僕もここまで抉れたのは如何した物かと……』
背の高い美男子と、画面に浮かぶウサギが二人して頭を捻っていると言う、かなりシュールな絵図等が出来上がった。僕に気づいたチユリちゃんが今度はタッ君に詰め寄り説明を要求していたが、若干嬉しそうなタッ君は苦笑いでブレイン・バースト関連である事を教えることになった。僕もその会話に参加したかったが、そろそろ出なければ学校に遅刻しそうだったので通話を切る。
「……後でチユリちゃんが怒りそうだな」
その間までに言い訳を考えておくようにする僕だった。
お疲れ様です。
タッ君の活躍を増やす為、主人公との信頼度を無理やり上げております。
アバターの中で、実は彼が一番好きな私としては、パイルバンカーが火を噴いてほしい所です。
この話とは関係は有りませんが、以前指摘していただきました色々な部分での説明不足を少し前に加筆させていただきました。詳しく書くと、ブレイン・バーストとは?シアンの姿は?レインの姿は?また、レインとロータスたちは何の話をしていたのか?と言う部分です。
また何か可笑しな所がありましたら、ご連絡していただきたいと思います。