「さあ、着いたわ。まずはイッセーとアーシア、ゼノヴィアとイリナは、私について来て。朱乃は他の皆を宜しく頼むわ」
「了解ですわ、リアス」
ヴァーリが堕天使側の特使として駒王学園に派遣される事が報告されてから幾日が経ち、学園が夏休みに入った今日、リアス達は冥界のグレモリー領へ帰省する事となった。
一誠もまた眷属として、またリアスの彼氏として向かう事になっている、リアス達からのお迎えを受けてとある場所へと向かったのだが、
「駅の、エレベーター?」
「ええ。皆、先に乗ってちょうだい。私と下りるわよ」
「え、下りるって、どういう事ですか?」
其処はこの街の駅にあるエレベーター、其処から『下りる』と発言したリアスに、アーシア達が疑問符を浮かべた。
無理もない、この駅は地上階しかない筈であり、今一誠達がいるのは駅の一階、つまり『下りる』階など無い筈なのだから。
「成る程、この街の『裏』を悪魔勢力が管理している事を受けて、この駅のエレベーターに、関係者だけが入れる冥界への入り口を設けた、という訳か。魔法陣による転送とはまた違う、許可を貰いさえすれば誰でも入れる入り口を」
「流石イッセー、冴えているわね。そう、此処の地下から冥界へ繋がっているの。そしてイッセーが言っていた『許可』を出す権限を有しているのが、管理者である私って事よ。さ、行くわよ」
だが一誠は容易に想像が付いた。
恋人である一誠の聡明振りにリアスは惚れ直したと言わんばかりに微笑みながら補足しつつ、エレベーターへと入って行く。
それに続く様に一誠達もまたエレベーターへと入ったのを確認したリアスは、何時も通り着用している制服、そのスカートのポケットから何やらカードらしき物を取り出し、エレベーターのパネルにタッチする、と、
「さ、下がっている?」
「ほ、本当にこれ『下りる』んだ…」
「び、びっくりしました…」
電子音と共に、エレベーターが地下にあるという空間へと『下り』始めた。
まさかの感覚に、イリナ達が戸惑う間も下り続けるエレベーター、それから数十秒経て到着、扉が開くと其処には、地下鉄の駅を思わせる様な人工空間が広がっていた。
「皆揃ったわね、そしたら3番ホームへ行くわよ」
程なく朱乃達残りのメンバーも到着し、それを受けて3番ホームへと進み、待っていたであろう列車へと乗り込んだ。
------------
「それでは皆さん、一か所にお集まり下さい」
こうしてリアス達を乗せて冥界へと発車した列車、前の車両にリアスが、後ろの車両に彼女の眷属が乗り込んだ車内で、この列車(どうやらグレモリー家の専用車らしい)の車掌であるレイナルドが、持っていた機械で一誠達を認証する等の出来事はあったが、
「…イッセー君、どうしたんですか、さっきからずっとパソコンに向き合って?」
「ああ、何だか尋常じゃない様子だったが…」
一誠はそういった出来事に加わる必要がある場合以外はずっと、持って来ていたノートパソコンに向き合い、作業を続けていた。
まるで何かに憑りつかれたかの様に、作業に没頭する一誠、そんな一誠が気になったのか、朱乃達が声を掛けた。
「…済まないな、皆。
以前朱乃に、皆の事を少しずつでも知って行って、幸せにしたいと言って置きながら、その舌の根も乾かぬ内に、皆を放って置いてガシャット製作に精を出している。それに関しては本当に済まないと思う。
…正直に言おう、現状に対して不安で仕方が無いんだ、俺は」
流石に周囲の声が聞こえない程没頭していたという訳でも無かったのか、周りに集まって来た自らの恋人達の声に反応、皆を構ってやれなかった事を謝罪しつつ、己の心の内を話し始めた。
「…不安、ですか?」
「ああ、アーシア。この前の、三大勢力の首脳による会談の場に襲撃を仕掛けた禍の団、あの場は難なく退けはしたが相手はテロ組織、あのまま引き下がるとは思えない。一度抜き放った剣は納めないと言わんばかりに、次なる襲撃を仕掛けるに違いない。ましてあのオーフィスをトップとしている以上、それ相応とはいかずとも、それに続く実力者も配下に付いているかも、次はそういった存在が出て来るかも知れない。今使用しているガシャットでは力不足になる日は、いずれ来るだろう」
「それは、そんな事は…」
一誠が心に抱いていた不安、それは会談の場でその存在が明らかになったテロ組織、禍の団に関する物だった。
「俺はリアスや朱乃程の魔力も、木場やイリナ、ゼノヴィアの様な剣術も、アーシアやギャスパーの様な神器も、白音ちゃん程のパワーも、黒歌先生の様な術式も持ち合わせていない。俺に出来る事と言えば、頭を働かせて、新たなる
そうなってしまったら、俺は絶対に後悔する。だが後悔した所で、リアスも、朱乃も、アーシアも、イリナも、ゼノヴィアも、白音ちゃんも、そして他の皆も帰って来ない。現実はゲームじゃない、やり直したいからと初めからを選んだり、運命の選択を求められる場面まで戻ったりなど出来ない、まして攻略本や攻略サイトなど存在する訳がない。故に俺は、今以上の力を有したガシャットを、皆を守る為のガシャットを、これまで以上の強敵相手にも立ち向かえる
皆の為だとか、押し付けがましい事を言うつもりはない、俺自身が後悔したくないから作る!」
「イッセー先輩…」
これまで以上の敵が立ちはだかり、今までのガシャットが通じなくなるのではないか、そんな不安が一誠を新たなガシャット開発に向かわせていた。
「本当に御免、皆。俺の我儘の為に、皆を蔑ろにしてしまって…」
「そんな、そんな事ないよ、イッセー君!」
「イッセー君が我儘だとしたら、世界中の人皆が我儘になりますわ!」
「イッセーさんは私達の事を本当に、大事に想ってくれています、何処が蔑ろですか!」
「そうだぞ、イッセー!私達はそんなイッセーに惚れ、今こうして恋仲になれた事を本気で嬉しいと思っている!」
「そうです、イッセー先輩!だからイッセー先輩、不安な時は今みたいに言って下さい!私達も、精いっぱいの事をします、イッセー先輩みたいに!」
「皆…!」
それ故に恋人達への対応が疎かになっていた事を謝る一誠だったが、彼女達はそう感じていなかった。
(やっぱり、この想いを抑える事なんて出来ない。例え受け入れられないとしても、言えず仕舞いになったら絶対に後悔する!搭城黒歌、行くのにゃ!)
そして、そんなやり取りをずっと見ていた黒歌は、決意を固めた。