56話_いざGremory's Territoryへ!
「三大勢力首脳による会談の際にも顔を合わせてはいるが、改めて。今日付けで此処駒王学園に、堕天使代表特使として派遣される事となった、ヴァーリ・ルシファーだ。宜しく頼む」
「ヴァーリは二学期に入ってから、高等部二学年の生徒として正式に転入する事になったわ。それと同日、此処オカルト研究部に入部する事にもなっているわ。ヴァーリ、ちょっと早いけど、私達オカルト研究部は貴方を歓迎するわ、悪魔としてね」
「心遣い感謝する、リアス・グレモリー。いや、リアス部長」
翌日の放課後、オカルト研究部の部室、其処には何時ものメンバーに加えて、ヴァーリの姿があった。
どうやら同盟を結ぶ際、堕天使側から特使が駒王学園に派遣される事になった様で、その特使として、旧ルシファー家の血筋を引くハーフ悪魔であるヴァーリに白羽の矢が立ったらしい。
余談ではあるがヴァーリの話によると、アザゼルもその特使に立候補しようとしたらしいが「総督であるお前が態々行ってどうする。これを口実にサボろうなど許さん」とバラキエルから例の如く鉄拳制裁を食らい、お流れになっただけならまだしも「とか言ってお前も朱乃の事が気になって行きてぇんじゃねぇの?」と余計な事を口にした所為でプロレス技である卍固めを決められ、暫く失神していたとか。
「さて、夏休みの予定だけど、私達は夏休み中、冥界のグレモリー領に帰省する事になっているわ」
「そうなのか、丁度良いタイミングだな。ジオティクスさ、義父さんにはこの前挨拶したとはいえ、他の家族の方達にも挨拶をしなければならないし。そう思うと、今から緊張するな…」
何はともあれ、特使として派遣されたヴァーリの駒王学園高等部への転入と、オカルト研究部への入部も同時に決まり、話題は夏休み中の予定についてとなった。
「うふふ、新作ゲームの発売を伝える為に、夏コミの舞台である東京ビッ○サ○トのステージで大々的な発表会を行ったイッセー君も、案外緊張するんですね」
「それとこれとは訳が違うぞ、朱乃。あの場はある意味でホーム、ほぼ自分の望み通りに、内容やシチュエーションを整えた上で臨めたから出来た事。一方で今回はアウェイ、どの様な事態が待っているか…」
「心配は要らないぞ、イッセー。私達が付いている」
「悪魔勢力は一夫多妻制、私達も部長と同じく、イッセー君と付き合っている事を伝えなきゃ、だし」
「わ、私もイッセーさん達と共に頑張ります!」
「私もイッセー先輩の側で、共に頑張ります!行きましょう皆さん、私達の幸せな未来の為に!」
「そ、そんなに気張らなくても大丈夫よ、皆。いつも通りなら上手く行く、私が上手く行かせて見せる」
今年に入ってから眷属となったが故に、冥界のグレモリー領で過ごす事を始めて知った一誠達、殊に一誠はリアスの家族に挨拶をしなければと既に意気込み、少なからず緊張もしていた。
そんな一誠が抱く『重し』を分かち合うと言わんばかりに、ゼノヴィア達もまた意気込むが、余りにも気張り過ぎている己の眷属達にリアスは苦笑いを浮かべながらも、何処か幸せそうだった。
「あ、あれ、何だか口が甘ったるい様な…!?
く、口から砂糖が!?」
「祐斗先輩、漫画やアニメじゃ無いんですかr、ぼ、ボクの口からも砂糖が!?」
「木場祐斗、ギャスパー・ヴラディ、一体何をあs、お、俺もだ…」
そしてそんな甘ったる過ぎる空気にやられたのか、祐斗もギャスパーも、そしてヴァーリも口から砂糖を吐いていた。
「良いにゃぁ、皆。イッセーを中心に、恋という名の強固で、濃密で、キラキラした絆で結ばれている」
そんな光景を黒歌は1人、羨ましそうな、寂しそうな目で見ていた。
「私も入りたいのにゃ、あの絆の中に。だけどアラサーに足を踏み入れ、皆に出遅れちゃった私なんか、イッセーが恋人として見てくれる筈もないわよね、つい最近までそんな素振りも見せなかったし…
何処で選択を間違えちゃったのかしら、白音がイッセーと昼食を共にしている事を話し始めたあの時?イッセーが悪魔に転生したあの時?それとも、パラガスに変身する為の力を授かったあの時?良いなと思ってアプローチを始めるチャンスは幾らでもあったのに、今思えば何度もふいにしちゃったのにゃ…」
何時の間にやら芽生えた一誠への恋心と、既に割り込む余地が無くなってしまった目前の光景という現実、その葛藤に黒歌は苦しんでいた。
それ故に黒歌は気づかなかった、今のままならない状況に苦しんでいるのが自分だけでは無い事に…
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さて、そんな甘ったる過ぎる空気が蔓延していた影響で連絡が遅れていたが、どうやら今回の帰省は単なる里帰りではなく、次世代の悪魔勢力を担うであろう若手悪魔の会合が開かれる事となったそうだ。
「そういえばZもLと同じく純血悪魔、しかもあの様な風貌からは想像も付かない程の、由緒ある家の生まれらしいな。もしかすればその会合の場で、会う事になるかも知れない。配信開始したばかりのマイティブラザーズXXの感想を聞きたい物だ。アイツの事だ、俺が冥界に到着した頃にはもう、オールクリアしているかも知れない」
それを聞いた一誠の脳裏には、顔なじみである天才ゲーマーの姿が浮かんでいた。
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「へっぷし!」
「どうかしましたか、○○○○○○様?風邪ですか?」
「さぁな、誰か俺の事を噂してんじゃねぇか?おい○○○、そのスイッチはホバリング用だぞ」
「あ、すいません○○○○○○様!」
「大丈夫だ○○○、此処のルートには救済措置がある、よし、ステージクリアだ!」
同時刻、とある部屋にて、如何にもヤンキーだと言いたげな風貌の男と、露出度の高い緑色のワンピースに身を包んだ少女が2人で、とあるゲームをプレイしていた。
その最中、突如くしゃみをした男を気遣った少女がどうやらミスをした様で、男の指摘で申し訳なさそうにするも、問題ないと言わんばかりに男は余裕で対処して見せた。
「流石です○○○○○○様!」
「応よ○○○、この天才ゲーマーZ様の手に掛かりゃあ、この位の難易度は朝飯前だ!」
少女のミスも何のそのと言わんばかりにステージクリアして見せた男と、そんな男を称える少女、2人がプレイしていたのは、今日配信が開始されたばかりのマイティブラザーズXX、その上から2番目の難易度『レベル・ルナティック』だった。