「木場祐斗よ、事の良し悪しが分からぬ知らせがあるが、どうであろうか?」
「…良いか悪いか分からない知らせか、何だい?」
聖剣計画の首謀者であったバルパーへの、自分自身を含め仲間達を皆殺しにした彼への仇討ちを果たしたものの、何処か蟠りが残った様子の祐斗、そんな彼にカイデンは、バルパーの亡骸から零れた何かを拾い上げつつ、そう尋ねる。
何処か含みを持ったその知らせが気になったのか、祐斗は気分が晴れぬままながら、続きを促した。
それを受けて、カイデンは、その知らせの内容を少しずつ口にした。
失敗したと言われていた聖剣計画だが、実の所は成功していた事。
計画を進める中で、聖剣を操る為の因子を抜き出し纏める事で聖剣使いを誕生させられるのではないかという結論にバルパーは至り、結果として因子を『結晶化』させるのに成功した事。
その成果は今、教会において聖剣使いが受ける『祝福』という形で、実際の所は聖剣使いに不足している因子を補完する手段として実装化されている事。
つまり『不良品』では無かった祐斗達はしかし、極秘だった計画が漏れるのを防ぐ為だけに殺された事。
そして、
「バルパーの亡骸に、かような物があった。恐らくだが、彼奴めが最初期に結晶化させた、聖剣使いを生み出す件の因子であろう。つまり…
木場祐斗よ、これは貴様の仲間達の亡骸と言っても過言ではなかろうな…」
「こ、これが、皆の…!」
先程拾い上げていた物――祐斗の仲間達が有していた聖剣を操る為の因子の結晶を祐斗に差し出しながら伝え終えたカイデン、祐斗はその衝撃的な事実を目の当たりにしてもう堪える事が出来ず、滂沱の涙を流しながらそれを受け取った。
「皆、僕は、僕は!ずっと、ずっと思っていたんだ…
僕が、僕だけが、のうのうと逃げ延びて、生きて良いのかって…
僕よりも、夢を持った子がいた。僕よりも、生きようとしていた子がいた。皆、生きたかった筈だ…
なのに僕が、僕だけが、平和な生活をして良いのかって…」
そしてそれを抱きしめながら、少しずつ吐き出されていく祐斗が抱いていた『後悔』…
だが其処で、1つの『奇跡』は起こった。
「む?これは、聖歌であったか?成る程、被験者達はそもそも教会に属していた身、なればこそ、か」
結晶が淡い光を放ち、フィールドを包む様に広がったかと思うと、祐斗の周囲を囲う様に人の様なシルエットの光が次々と生まれ、その1つ1つが聖歌を歌い出した。
だがそれは悪魔である筈の祐斗にとって苦痛になる物ではない、寧ろ祐斗を癒すかの様な物だった。
『自分達の事はもう良い。君だけでも生きてくれ』
「皆…?」
『僕らは、1人では駄目だった』
『私達1人1人では、足りなかった。けど…』
『皆が集まれば、きっと大丈夫』
『聖剣を受け入れるんだ』
『何も怖い物なんてない』
『例え神が居なくても』
『神が見ていないとしても』
『僕達の心はいつでも』
「…ああ、1つだ!」
そして1人1人から発せられる言葉、それを聞き届けた祐斗は、長年積み重なった恨み辛みから全て解放されたかの様な表情で応え、彼らを受け入れた…!
「ありがとう、カイデン。それに、風魔も。僕は、皆を守る剣に、騎士に、仮面ライダーになるよ」
「礼には及ばぬ。己が役目を果たしたまでの事」
聖剣への憎悪から解放され、晴れやかな様子でカイデン達に礼を言う祐斗。
謙遜するカイデンに対し、何時の間にか夢幻の聖剣を回収していた風魔は、
『ガッチャーン!ガッシューン』
転送されていたフィールドから戻すと共に変身を解除した。
「き、君が、仮面ライダー風魔に変身していたのかい…!?」
「紫藤イリナ、か。成る程、さてはパラドらの独断の様だな。全く、父上に黙って何をしておるか…」
そして露わになった変身者、それはイリナだった。
「木場祐斗君。聖剣計画の存在を見過ごして来た事、首謀者であるバルパー・ガリレイを結果的に野放しにした事、計画を禁忌としながらその結果を取り入れた事、そして今回の出来事…
教会に属する身として、聖剣計画の恩恵を受けた身として、謝罪させて貰うわ。本当に、御免なさい」
「君が謝る必要は無いさ。それに、こうしてバルパーを討つ事も出来たし、皆が聖剣への復讐を望んでいた訳じゃなかった事も分かった。もう、良いよ」
先程謝罪出来てなかった事を気にしていたのか、変身を解除するや否や、驚きを隠せない2人の前で謝るイリナ、祐斗は既に恨み辛みから解放されたのもあってか、穏やかな様子でそれを受け止めた。
「それにしても、まさか君が仮面ライダー風魔だったとはね。適合術式は受けた様だけど、何でまた仮面ライダーに変身しようと考えたんだい?」
「左様。己らバグスターの生みの親にして、ライダーシステムを生み出せし父上は悪魔に転生した身。教会に属する身である貴殿がその力を手にすれば、如何様な事態になるか、分からぬ貴殿では無かろう?」
それはともかくとして、何故イリナが仮面ライダーになったのか、祐斗達は尋ねた。
「カイデン、だっけ?勿論それは分かっているよ。その上でパラド達からの提案を、適合術式を私は受け、仮面ライダー風魔になった。
この一件が終わったら、私は教会を抜けるつもりだよ」
「何と…!」
「教会を、抜ける!?いや確かに教会への不信感は持っていたみたいだけど、それにしても何で!?」
それを受けて、イリナは己の想いを語りだした。
まずは一誠に惚れ、神を信仰する切っ掛けとなった幼き日の出来事。
その一誠を守れる程の存在になるべく、また神への信仰を果たすべく教会のエクソシストとなった事。
教会への不信感こそ芽生えるも、初志を貫徹すべく耐えて来た事。
今回の一件でこの街に戻って来た事。
そして、
「その後聖剣計画の深すぎる闇を、私達エクソシストの強さの土壌を目の当たりにして、どうしたら良いのか分からなくなっちゃって、イッセー君に泣きついちゃってね。そしたらイッセー君に、まず自分がどうしたいのか向き合って見ろって言われて、ずっと考えたんだ。そして、改めて気づいたんだ。
私は、イッセー君の事が好き!イッセー君達とずっと一緒にいたい!ってね」
自分と向き合った末に至った、己の決意を、明かした。