27話_Angerは突然に
ライザーとのレーティング・ゲームで勝利し、彼との婚約話を破談に持ち込んだリアスとその眷族達。
その折にリアス、朱乃、アーシア、そして白音が一誠に告白、彼もまたそれを受け入れた事で晴れて恋人同士となった。
こうして新たな関係が結ばれて始まった新しい日常が数日繰り広げられたある日のオカルト研究部の部室に、
「What’s?Guestかい?そしたらme達バグスターはcome backしようかな?」
「その様だな。済まないなモータス、チャーリー。折角の非番なのに、気を使わせて」
「良いって事よ、オトン。俺様達バグスターの存在が知れちまったらヤバイのは理解してるさ。ラヴリカはリアスオカンの家族辺りにしか知られていないし、アランブラはオトンの使い魔扱いだ、だがそれ以外の奴が知れたとなったらなぁ」
「Yes。それじゃあ、bye,daddy」
「お、オカン…
義理とは言え、現役の高校生なのに母親呼ばわりされるのは何だか複雑な気分ね…」
来客を告げるノック音が聞こえて来た。
それを受けて非番だった事から寛いでいたバグスター達、モータスと、一誠からチャーリーと呼ばれた、両肩からバネを生やした異形――シャカリキスポーツに登場するライバル選手を模したバグスターの2体の身体が粒子状になり、やがて消えていった。
尚、去り際にモータスがリアスの事をオカン、つまり母親であるかの様に呼んでいたが、これはバグスター達にとって父親である一誠とリアスが恋仲になった、と言う事は自分たちにとってリアスは義理の母親になる、という発想からバグスター達がそう呼ぶ様になったのだ。
当のリアスは、まだまだ高校3年生である自分がもう母親呼ばわりされる事に良い顔はしていなかったが、一誠と恋仲になった事も実感できる為かその心中は複雑だった。
それは兎も角、部室へやって来た客は、
「生徒会長、か…
もしやと思ってはいましたが、やはり悪魔でしたか」
「あら、知っていたの?流石はイッセーね」
「ええ」
この駒王学園において、様々な場面で顔出ししている立場という意味で最も知名度が高いであろう存在だった。
入って来たのは黒髪に眼鏡を掛けた端正な顔立ちのスレンダーな少女、この駒王学園の生徒会長を務めている
そしてその正体は、
「アーシアさんは初めまして、ですね。学園では支取蒼那と名乗っていますが、本名はソーナ・シトリーです。上級悪魔、シトリー家の次期当主です」
リアスの生家であるグレモリー家と同じく悪魔社会において由緒正しい家の跡取りである。
余談だが、リアスが本名のままこの駒王学園に在籍しているのに対して何故彼女は本名を日本人っぽい書き方にした名で籍を置いているのかという疑問を抱いた存在がいなくもなかったが、その訳は本人にしか分からない。
「ソーナ、今日はどんな用かしら?」
「はい。私もアーシアさん達の様に新たな眷属を迎え入れたので、紹介しようと思いまして。匙、自己紹介しなさい」
「そう。ならイッセー、アーシア、貴方達も」
それは兎も角、用件を聞いたリアスに、己の新しい眷属を紹介する為と答えたソーナ、それに応じる様に、背後から茶髪の男子生徒が入って来た。
「初めまして。ソーナ・シトリー様の兵士となりました、2年の匙元士郎です。よろしくお願いします」
「は、初めまして!リアス・グレモリー様の僧侶、アーシア・アルジェントです!よろしくお願いしますね!」
「同じく、兵士の兵藤一誠です。今後ともよろしくお願いします」
その元士郎と名乗った男子生徒の自己紹介に応じ、まずはアーシア、次に(元士郎の声が何処かガットンに似ていた事に多少なりともビックリした事で遅れた)一誠も自己紹介した。
が、
「はぁ、よりにもよってあのクソ野郎の兄貴がリアス先輩の眷族になるとはなぁ、一体どんな汚い手段を使ったnゴハァァァァ!?」
「さ、匙!?」
一誠の姿を見た元士郎が彼を罵倒し始めた次の瞬間、白音の拳が彼の腹に直撃した。
元々猫又として生を受けた上、戦車として転生した白音はその見た目に反して強大な腕力を持つ、そのパワーから繰り出されるストレートパンチは、ノックスへ変身する前であっても大の男を捩じ伏せる事など造作もないのだ。
そんな一撃が腹に直撃したとなれば相当なダメージ、その衝撃で悶絶するしかない元士郎を前に、
「失礼、足が滑って咄嗟に手が出ました」
ぶっ飛ばした犯人である白音はしれっと言ってのけた。
今の一撃は明らかに元士郎の腹を狙って放たれた物、なのに事故と言い張るという如何にもな言動を見せる白音の姿に、恋人である一誠を罵倒されたからという明らかな動機も相まって誰もが『絶対わざとだ!』と思った。
然しながらそれを指摘する存在は誰一人としていない、何故なら、
((白音(ちゃん)、グッジョブ(ですわ)!))
元士郎の、一誠の弟である兵藤誠次郎の存在を前提としての、恋人を罵倒する言動に同じく腹を立てていたリアスと朱乃は、白音に『イイね!』と言わんばかりの良い顔を向けながら心中で褒めているし、
(し、白音ちゃん!?イッセーさんを悪く言われて怒る気持ちは分かりますけど暴力は駄目ですって言いたいのに何か口が動かない…!?)
(イッセー君、な、何だか白音ちゃんの身体から覇気みたいなのが出ているんだけど…)
(その様だな、木場。此処でツッコんだら俺達も巻き添えを食いかねない)
(こ、怖いのにゃ白音、何時の間に暴力系ヒロインになっちゃったの…?)
アーシアと一誠、祐斗と黒歌は白音の身体から放たれる覇気みたいな威圧感に恐れをなして声を掛けられずじまいだし、
「だ、大丈夫ですか、匙!?」
「か、いちょ、う、お、れは、大丈、夫で…」
ソーナは吹っ飛ばされた元士郎を気遣っていたのだから。
「うちの眷族がごめんなさいね、ソーナ。
でも偏見に罵詈雑言、そんな見るに堪えない行いは慎む様、彼に言い聞かせた方が良いわね。でないとまた誰かが何処か滑らせるかも知れないわよ?」
「「!?」」
そんなソーナと、殴り飛ばされた衝撃で息も絶え絶えな元士郎の様子を知ってかしらずか、リアスが白音の暴挙に(表向きは)謝罪しつつも、今しがた白音が放った様な威圧感を出しつつ、そう警告と言うべきか脅しと言うべきか、そう凄んでいた。
そんな彼女の威圧には、ただでさえ腹パンの衝撃で気絶寸前だった元士郎の意識を刈り取るには十分な物、ソーナは気絶した元士郎を抱え、リアスに謝りながら帰って行った。
余談だが後日、リアスからの威圧に屈したのか、或いはその後にソーナからきつく言われたのかは兎も角、元士郎が一誠に対して土下座で謝罪する姿があったとか。