ちょっと文章変更しました。
かつての生まれ故郷、地球。
この世界に生まれてから初めて訪れたが、僕の胸はその球体を目にして浮き足立った。
その上その故郷である場所で、妹に再会できるというのは至上のことである。思わず頬も緩んでしまったのはご愛敬だ。
さてさて可愛い弟妹達は僕よりも大食いであることで有名だ。胃の中が4次元と言っていいほどには大食いとも有名だ。世間ではなく僕の中でだけど。
何か手土産にお菓子などでも買っていってやればきっと喜ぶに違いない。そして目一杯甘えてもらいたいし甘やかしたい。
案を募らせながらも現地球の大地へと降り立った。思わず目を見開く。
前世の日本とはまったく異なるが、どこか雰囲気は似た景色。ほとんどと言っていいほど目に映す機会のなかった青い空。賑やかで活気のある人の声。
ああ、麗しきかつての平凡に目が潤みそうになってしまった。
しかし、それはあくまで潤みそうなだけの仮定の話。
残念だ。現在僕の目からはハイライトが消えている。
何故か。
「おらおら、ちゃっちゃっとそこに座んなぁ!」
カエルのような天人のきぃんと耳を穿つ甲高い声。
怯えを滲ませ地に伏せる人々。辺りを張り詰める緊迫した空気。
ああ、麗しき平凡よ……お前はどこに行ったのか。
待て、状況を整理しよう。
僕は愛しい神楽のためお菓子、もといケーキでも買っていこうとターミナルから近かったデパートに足を踏み入れた。
デパートに付属されたケーキ屋を見つけ、キラキラと光るホールケーキに神楽の嬉しそうな顔を想像しながらもノーマル、チョコ、チーズの計3つをお買い上げ。
そこまでは良かった。
さあ、万事屋を探すかと上機嫌で出口に向かおうとした時、何故か銃を向けられていた。
『わりィなガキここは立ち入り禁止だ。引き返してもらおうか?』
明らかにモブのセリフ。しかも最弱の方の。
臭い、モブ臭が臭い。そう思ったが実際そいつは臭かった。
なぜならカエルだったから。
カエルだったから。
2回も言った。だって生臭い。
それにガキという言葉に眉が額に寄ってしまった。
僕はかつての日本でいえば成人手前の年齢で、ガキという表現は中々癪に障る。
そりゃあ君達からしたら僕なんてまだまだひよっこかもしれないけどさ。
前世の頃の人格であったなら戦闘待ったナシの事態だ。あの頃は子供扱いを嫌っている節があったのだから。
内心くっせぇという本音と、カエルの子供扱いへの怒りが渦巻いていたが、口からは漏れなかった。偉いと思う。僕は僕自身を褒めたたえた。……少し、虚しい。
そして素直にカエルの言うことを聞いてデパートの中へと戻った。戻った場所にまた別のカエルに縄で身体を縛られる。僕の荷物やら神楽のためのケーキは取られ、荷物がまとめてあった場所に持っていかれた。
「何もしなかったらちゃんと返してやるよ。」
何も盗らないのはいい事だが、ケーキに何かあったら天に召してやろうかと思った。
恐らく人質かなにかだろうか。
僕を含めて20弱の客と数名の店員らしき人々が中央ホールに集められ、他は逃がされたようだった。
おい、どうせ逃がすなら出口付近にいた僕を逃がせよ、と毒を口の中で押しとどめるに至った。
まあこうして「おらおら、ちゃっちゃっとそこに座んなぁ!」の時間軸まで戻るといったわけだ。
犯人のカエルはどうやら単独犯でなかったらしい。
ここにいるカエルは5人……いや、5匹と言うべきか?
目を瞑り気配を辿れば店内には残り10……12匹はいるだろうか。ホールにいるカエルは一匹一匹金属と砂鉄、火薬の匂いがすることから銃を武装しているだろう。
他の奴もきっと武装はしている。
「……テロか?」
全く心底めんどくさいものに巻き込まれたものだ。
もちろんこいつなど片手の小指で倒せる。が、無駄に暴れてケーキを無残な姿に晒すことは御免だ。神楽は悲しむだろうしそんな姿は見たくない。
何故こんな戦う必要もないほど弱いやつの相手をしなくればならないのか、という思いも少しはあった。どうせなら強いやつと戦って楽しみたい。
第一僕が1人でこいつらをのして目立つのも嫌だ。僕は目立つのが嫌いなのだ。
それに前世の警察は几帳面だった。いや、どの世界も警察が仕事を疎かにしてしまったら治安なんて地に落ちてしまう。
この星にいる几帳面な警察が、カエルぐらいだったらお縄にかけてくれるだろう。
がやがやとデパートの外では野次馬の声がする。
が、噂をすればなんとやらで、懐かしいパトカーのサイレンが近づいてきた。また、ぞろぞろと何人か出口前まで歩き、立ち止まる気配がする。
するとスピーカーのノイズ混じりの声がこちらに向かってかけられた。
「あーあー、テステス。犯人諸君、こんなことやってもアンタら最後は捕まる運命なので速やかにお縄につきやがれコノヤロー。」
「ちょっ、隊長!一応人質いるんでもっと穏便に……。」
「黙ってなァ。俺は今日は働かねぇって予定を何日も前からたてたってのに、またこんなヤツらのせいで水の泡だ。全く昨日も一昨日も働き詰めだってのに……こんなん土方のクソやろーに押し付ければいんだよ。」
「隊長、昨日もその前も縁側でゴロゴロしてませんでしたっけ?」
……几帳面、どこに行った?
外から聞こえるパトカ――警察側から聞こえた声に「は?」と声を出してしまてしまった。
あれ、警察とは事件解決はもちろんだが市民の平和を守る健全なお仕事なのではないのか?
僕が間違ってきたのか?
今どきの警察はちょっと縁側でゴロゴロしてかったるそうな顔を全面に出すのが流儀なのか?
あれ?
僕が呆気に取られているのとは逆にほかの人質は助かる可能性にそわそわとし、カエルも何か知らんがそわそわしている。
するとリーダー格なのか、一匹のカエルが人質の中から1人を連れたってデパートの外へと向かった。
「おい新撰組よおおおく聞け!俺たちミドリガエルの要求を呑まなければこの中にいる人質は皆殺しだ!」
カエルの言葉にまたしても「は?」と声が出た。
ミドリガエル……、それ、僕が先日ひと狩りいこうぜの勢いで討伐した海賊団ではないだろうか。
はぁ、とため息がでる。
残党がいたか……。
「いいか!俺たちの目的はここら一体の土地である!この間、俺たちの拠点である星が侵略者からの攻撃を受けた……そのせいで俺たちの仲間はここにいる同士のみとなってしまった!よってこの星の豊富な土地、水、植物……俺たちにわけ与えろ!この土地を田んぼへと改築するのだ!!ゆくゆくはこの星が俺たちの拠点となり、そして俺たちは……俺たちはアイツらのために仇をとる!!」
……ごめん、その
君の後ろに人質としている僕です。
参った、ミドリガエルは僕が始末したやつで全部、と考えていたのにまさか他の星に避難していた奴もいたとは。
それに僕に復讐するために拠点を求めて来たのは分かったが、何故に田んぼなのだろう。そういえば夏場になると田んぼにカエルが沢山居たのは覚えている。水場のあるところにカエルはいるが、田んぼ……好きなのだろうか。
僕の目からまたハイライトが消えた。
「おい!!そこのお前何をやってる!!」
もういっそ
人質たちが「ひぃっ」と怯えたように体を縮める。
カエルは僕の隣の人質に向けて言葉を放ったようだ。
つられて隣へと視線を向ければ、手に仕込んだいたのか手のひらサイズのカッターで縄を半分程切っていたところだった。
やるなぁと感心していれば憤慨した様にカエルがずんずんとやってくる。しかしカエルは殺気を出してないないことからきっと殺されることはない。隣の人が青を通り越して白くなった顔を見て罪悪感が生まれるが、手は貸さなくても平気だろう。
「ゲロっ!?」
するとどうだろう。足を猛々しく踏み出していたせいかカエルは自分の足にもつれてつまづいた。
なんて間抜けだ。
呆気なくびたんっとカエルは床に叩きつけられ――なかった。
大勢の前で転ぶという失態を避けるためか、たたらを踏もうとしたらしい。しかし上手くはいかず、斜め横に逸れるようにしてダイブした。
床ではなく、荷物が纏められていた場所に。
もっとピンポイントで言えば、白い箱に。
もっともっとピンポイントで言えば、その箱は僕が買ったケーキの一つで。
もっともっともっとピンポイントに言えば、それは神楽のためのケーキであるからして――
「潰す。」
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said 新撰組
自分たちが到着してから10分も経たぬうちに人質がわらわらとデパートから出てきたため、隊士達は疑問符を浮かべた。まだここには一番隊の、それもほんの少しの人数しか到着していない。
しかし彼らが言った言葉にすぐに目の前のカエル型天人の1人を拘束する。もちろんその腕に捕らえられていた人質の安全も確保だ。
「犯人は残りそいつだけです!!」
実行犯はデパートの中にもある程度の数がいたのは確認済みだ。
しかも侵入できそうな地下、階段は全てにおいて敵の目が光っていることも山崎の調査で分かっていた。
だと言うのに人質になった市民達はこう言ったわけである。一般人の彼らが犯人たちの手を掻い潜るのは確率としては低い。
が、案外答えはすぐその市民である女性から出された。
「ま、まだ中に1人人質にされていた子がいるんです!私達の周りにいた犯人を殴ったあとに1人で他の犯人の相手をするって言って、デパートの奥に行ってしまって……。早く、早く助けてあげてください!」
なるほど、囮に自らなって他を助けるとは見上げた根性である。
沖田は早く自堕落に睡眠を貪るためデパートの奥へと足を進めた。事情聴取などはそこらの隊士に任せればいい。
「おー、んじゃ突入。囮になったやっこさん救出行くぞー。」
入口から少し歩いた所に占拠していたホールを見つけた。犯人たちが何人か伸びていて、しかも一発で気絶させたようだ。
どうやら囮になった市民は武術の使い手らしい。
他には人質にされていた市民の荷物もある。その中に潰れてしまった白い箱から生クリームが飛び出ているのものもある。
「これはもう食べられないですね……。」
隊士の1人が小さく呟く。確かこの隊士は万事屋の店主程ではないが甘党であったのを沖田は思い出した。
「隊長。上への階段、下への階段、両方に血痕が見られますがどうしますか?」
「ならお前らは上だ。俺は下に行く。」
沖田はそう言いつつ下への階段へ足を進めた。
少しホールから離れた場所に血の斑点が点々と続いているのに目がとまった。
中には銃痕も多数見かけられた。音が響かなかったため、サイレンサー付きの銃を天人は持っていたのだろう。
「おいおい、やっこさん死んでんじゃないんですかィ。」
仮にも人より力のある天人。武術を嗜んだ一般人だとしても、それら数匹を相手に生きてるとは言い難い。
もしそうなら提出書類が増える。
沖田は先ほどより足を速めることにした。別に死ぬべき運命だったのなら仕方のない事だが、生憎人を見殺しにするほど人は腐っていない……はずである。
断言出来ないのは、土方相手に即死する可能性もあるバズーカをぶち込んでいることがあるからだ。
沖田にとってはさっさとお陀仏になってその副長の座を自分に預けて欲しいという危ない計画もある。
「軽い感覚で人をころすんじゃねぇえ!」とどこかで怒鳴り声がしたかもしれない……。
パァン。パァン。
「!」
聞き間違えることもない、銃声の音がした。全ての銃がサイレンサー付きではないようだ。
音からして地下だ。
沖田は素早く階段を滑るようにして降りた。
さほど階が離れていなかったためすぐに到着した。
そして感じた。
薄ら寒い威圧感、はたまた静かな怒りがこの階全体を包んでいる気がした。
沖田はここにいるのは只の犯罪者ではないと察した。
もしかしたら地上にいたリーダー格は真のリーダーではなかったのかもしれない。
刀に手を掛けながらも辺りを歩く。
救出にきた対象は本当に死んでしまっているかもしれない。
そう嫌な考えをもち、突き当りの角を右に曲がろうとした。
「っ!!」
ぞわっと肌が泡立つ。
振り返りざま刀を抜き前にかざす。
ぎぃぃ、と嫌な音がし、沖田は斬りかかってきた相手と相対した。
少し薄汚れた白いフードマント。その白に赤色が滲んでいる。またその間から見える腕はこれまた白く、また細い。
腕にかかる重圧からも感じられるが、感じていた威圧感は目の前の人物から出ていることは明白である。
そしてその武器を見て、僅かに驚く。
「なんでィ、あんたの武器……、どっかで見たことあらァ。」
ギシギシと圧を掛けてくるのは刀でも銃でもましてや魔剣などでもない。
沖田にとっては記憶にかなり刻みつけられた形。
「あんた、なんであのチャイナと同じ傘をもってるんでぃ。」
「……。」
何を思ったのかふっと腕が軽くなった。相手は番傘を左右に振り、背中の飾り紐にそれ括った。
沖田は何故相手が攻撃の手を止めたのかが検討がつかず、訝しげに相手をみる。このまま自分が切り殺してもいいのか、とその目にありありと闘気が宿っている。
すると相手が苦笑するように言う。
「君、あの天人達の仲間ってわけじゃなさそうだね。ちょっと気が立ってて間違えちゃった、ほんとにごめん。」
あろうことか相手は両の手を顔の前に出して頭を下げてきた。
沖田の脳はますます疑問符が増える。話の感じからして実行犯のリーダーではないらしい。だとすると残りの可能性は一つしかない。
「いや、こっちも仕事でさァ。あんたが捕まってた中で囮になったってやつでええんですかィ?」
「あー、そうなるの……かな?あれは僕がただカッとなってぼこぼこにしちゃったからさ。あ、地下のカエルは2匹しかいなかったから向こうにまとめて置いといたよ。それ他の階にも何匹かいたから片付けよろしくね。」
中性的な心地よい声だが、沖田は警戒を解けきれていなかった。
フードで顔は見えないが穏やかに答えることに、本当に先程まで静かな敵意を纏っていた人物と同一なのかと疑ってしまう。
じと、とした目線を向ければ相手は「ああ!」と今気づいたようにフードをとった。
またしても沖田の記憶は刺激された。
沖田の脳内には最近自分と犬猿の仲と言っていいほど喧嘩して、何だかんだで気が合うところがある少女が再び浮かんだ。
あの少女の髪は夕日の様な紅、瞳は深い海の蒼。
そして目の前の相手もまた紅髪、蒼目。
顔はあの少女を並べても10人中8人は似ていると言うだろう。残り2人は少女は可愛らしい顔立ちだが、目の前の人物に対しては綺麗な顔立ちと言うだろう。
うっとおしそうに長く編んだ三つ編みを肩から背中へと流す。
その間沖田は目を見開くことしか出来ていなかった。
「僕は
そう言って手を差し伸べてくる人物――神薙の手を見て沖田は思わず言った。
「アイツ……兄貴なんかいたんかィ。」
ぼそりと呟いた一言は神薙の耳にも届いたらしい。
目をぱちぱちと瞬いたあと、嬉しそうに笑う。
「アイツって神楽のこと?わあ、感動だなぁ、あの子に友達ができたなんて。」
沖田が差し出された手を握れば、神薙は更に嬉しそうに顔を綻ばせた。
お粗末さまでした( ◜ω◝ )