「そこは楽坊ちゃんの立ち位置でしょう!?」   作:おーり

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アベマでまとめ放送してたから


第1話

 私が半ロクデナシの我が父共々お世話になっている屋敷へ帰ると、待っていたのはいつもの如く『騒動』であった。

 

 

「ただいま帰りました…………桐崎さん? 何故此処に?」

 

「え゛っ!? さ、佐々木くん!? あなたこそなんで!?」

「た、タツキチ! お前からも言ってやってくれよ! こんなゴリラと恋人同士なんてありえねぇーからぁー!」

「なんですってぇぇええ!?」

 

 

 とりあえず我がクラスの金髪転校生、という常日頃と変わった姿を拝見してしまったので口に出てしまったのだが、はて、坊ちゃんの言い分ではいまひとつ要領を得ない。

 恋人同士? 誰と誰が?

 

 

「――なにしてくれてるんですか組長、並びにビーハイブの親分さん……」

 

 

 事情を検めていただいて恐縮だが、呆れた声を出すしかないことをわかってほしい。

 我が集英組とギャングとの抗争が激化していることは学業と坊ちゃんの護衛の傍ら知ってはいたが、それを収めるための苦肉の策としてリアルロミジュリを画策しようとは浅知恵にも程がある。

 ビーハイブとやらがどのような組織かは知らないが、そんな真似で騙せるほど単純な者ばかりがいるわけがないだろうに。うちはさておき。

 

 というか、それで恋愛を絡めることは手段としても悪手過ぎる。

 かつての『あの子』との約束が既にあるというのに……まさか、組長、忘れたわけではあるまいな?

 

 

「その手段はダメです御二方、騙し通すには現状が悪すぎますし、何よりもしバレれば今よりも悪化するのは間違いありません」

「そうかぁ? 案外上手くいきそうな気がするけどなぁ」

「そうだねぇ。僕も、相性が悪いとは思わないよ?」

「ダメです。確かに坊ちゃんは悪い相手ではありませんが、近年稀に見るちゃらんぽらんたんであることも事実です。環境の足固めは地道にやることが鉄則です、辛抱を忘れてはロクな結果にならないんですよ?」

「近年稀に見るちゃらんぽらんたん!?」

 

 

 後ろの方で坊ちゃんの驚きの声が響いた。

 伺うに、桐崎さんに私が何故いるのかを質問されていたらしい。

 誰のために説得していると思っているのですか。静かにしていなさい。

 

 

「ねえ、あれほんとにアンタの護衛なの? 普通は聞かない罵倒ワードが飛び出たんだけど……?」

「タツキチは天然(ナチュラル)に口が悪いんだよ……。親が親だからなぁ……」

 

 

 失礼な。

 私の口が悪いことは父親が佐々木竜之介であることと何の因果関係も持っていない。

 強いて言うならばヤクザの跡取り(とはいかずとも一人息子である自覚の足りない)坊ちゃんの教育係に成り得る立ち位置が原因に挙げられそうだが、こうして苦言を呈するのは個人の能力云々ではなく意識の問題だ。

 坊ちゃんにヤクザが向いていないことは百も承知だが、ひとは生まれを選べないこともこれまた現実。

 別の道を模索するのならそれでも宜しいが、しかしそれとこれとは別の話なわけである。

 命と倫理と尊厳と意志と財産とを、何物にも犯させない立ち位置など存在するわけもないのだが、その可能性と頻度が他人よりずっと高くて多い坊ちゃんの生まれを今更どうこうできる筈もないのだから、せめてその程度の覚悟だけでも抱えていただけないかと、老婆心ながら苦言を重ねる私の心持も多少は理解していただきたい。

 最も、そうして動くことの根底には、幼き頃に約束した彼女との決意が下地にあるのだが。

 ……坊ちゃんが覚えていないのは最早明白だが、そのレールを敷いてしまった組長だけでも忘れて欲しくないモノである。

 

 

「しかしなぁ、俺らが上から抑えつけるのも限界でよぉ。あいつらお互いにケツに火がついちまったレベルで睨み利かせ合ってんだ、口先だけで抑えられる程、男ってのは容易くはないんだぜ?」

「男を語る前に人間であることを誇れないんですか」

「ボーイ、人間はもとより戦争好きな生き物だよ。そして上下を決めることだけに腐心しつづけてきた僕たちが、此処で生き方を変えられるほどの冷水を浴びせられる手段は、もうこれしか思いつかないんだよ」

 

 

 何処か誇らしげに、組織の長ふたりは語る。

 誇る前にこんな事態になったことを恥じるべきではないのか。

 それに、まだやるべきことをすべてやったわけではない。

 

 

「手段ならありますよ」

「「マジで!?」」

 

 

 食いついたのは坊ちゃんと桐崎さんのふたりだった。

 うむ、此処で食いついて来てもらえるのだから、まだ挽回のチャンスはある。

 

 

 

 ♡

 

 

 

 大人だけでは止まらなくとも、子供で止まると長ふたりは初めから言っていた。

 ならば、止めるための説得を、初めからふたりに任せてしまえばいいのだ。

 

 やろうとしたことは変わらないと思われそうだが、そうではない。

 ロミジュリにまでは逝かずとも、お互いに組み合った状況下でお互いに出足を止める者が居ることをお互いが自覚し合う。

 それだけでも止まれる。

 元より、大人は子供に負い目を見せたくはない、と思うことが常識なのだ。

 男の意地とは即ち尊厳だが、かっこ悪いところを見せるんじゃねえよ、と叫ぶ坊ちゃんの一喝と、みんなが傷つくところなんて見たくない、と訴える桐崎さんの懇願と、そんな『子供の声』を踏み躙ってまで続けようとする尊厳ならば、それこそロミジュリですらも止められているはずがないのだ。

 互いに冷水を浴びせられたであろう。

 うちの父も筆頭に立ってスカーフェイス晒して恥じ入っているご様子。

 反対側で表立ってメガネくいくいと唸るのはあちら側のナンバー2か。

 クロードと呼ばれたやや知的イケメンの彼だが、桐崎さんの訴えを無視するような大人ではないことも伺うことが出来た。

 策と呼べるほどの策を弄したわけでもないが、この通りならもう安心だろう。

 

 

「……抗争は辞めです。お嬢がそこまで仰るのですから、無理を通したところでそこの坊ちゃんの言う『かっこ悪い大人』になるだけでしょうからね」

「クロード……、わかってくれたのね……!」

「……しかし、解せません。此処はお嬢が気に掛けるほどの街ですか?」

 

 

 ん? 風向きは変わっていないが、微妙に不穏が残るな……?

 

 

「お言葉ですが、この町を制圧できれば我が組織の拠点になります。我らにとっては重要とは言えずとも、この国への脚掛けとなる試金石としての一歩なのです。しかし裏を返せばその程度というだけで、血が流れることを由としないお嬢の訴えには、我らの稼業という観点からすると理由が足りていません。……何か、この町を穢したくない理由があるというのなら、どうかお聞かせくださいますか?」

 

 

 クロードさんとやらの言葉にはトゲがあるが、物事を穿って観る人物であるのだろう。

 しかしその辺りの理由を語るとなると、そこまでは私も用意していないしする気も無い。

 それを嫌がっているのは他でもない坊ちゃんと桐崎さんなのだから、あのふたりの本音を語ってもらう以外に道はないのだ。

 

 ……いや、ちょっと待て。

 桐崎さん、何を問われているのかわかっていなくないかあの顔は?

 

 

「おいおい兄ちゃん、野暮なことを聞くもんじゃねえよ」

「む、なんだ。貴様にはお嬢のことがわかるとでもいう気か?」

 

 

 言いよどんだその隙を突くかのように、口を挟んできたのはうちの幹部こと我が父の竜―佐々木竜之介―だった。

 ちょっと待ておっさん、何を言うつもりだ。

 

 

「若い二人が『いっしょに』俺らを止めに来たんだぜ? その理由と言えば、それ以外にあるめぇよ」

「貴様何を………………っ、ま、まさか!? お嬢!? そうなんですかお嬢!?」

 

「へっ!? え、ええああ、うんそう!」

 

 

 クロードさんの長い沈黙の後に気付いたような反応で、桐崎さんは咄嗟に頷いてしまっていた。

 いや、お互いに解かっていないよね?

 

 

「まさかお嬢とそこの小僧、いや坊ちゃんが、まさか……! つ、つつつつつつつつ、つきあって、いる、と……ッ!?」

 

「「へぇあ!?」」

 

 

 わー、やっぱりそういう勘違いに行ったー。むしろ逝ったー。

 

 いや、いやいや、待て待て。

 此処は否定しておかないとマッジで大変なことになる。

 テンパったあのふたりがあの集団に別の意味での制止を促すとなるとまた別の話だ。

 後ろの方から策士宜しく俯瞰していた私だが、慌てて坊ちゃんのところへと足を運び、

 

 

「ち、違う! 俺じゃない!」

 

 

 ――私が止める前に坊ちゃんが、割とアウトな言葉を高らかに上げた。

 そして、タイトルへ戻る。

 

 

 

 ♥

 

 

 

 夜、屋敷からわが家へ、父が妙に上機嫌で帰ってきた。

 普段は他の組員との足並みを揃える手前、一条の屋敷で世話になっているわけだが、私は佐々木家として木造平屋の小貧乏な賃貸に居を預かっている。

 其処へ上機嫌で珍しく登場した父に、とりあえず私は正座を促した。

 

 

「いやー、タツキチぃ、お前にあんな可愛い彼女ができるなんてなぁ! 父ちゃん嬉しいぞぉ!」

「黙れおっさん。私の性別を忘れたか……!?」

 

 

 ……今更ながら名乗らせていただく。

 佐々木竜姫(タツキ)、世間には隠しているし胸も無いが立派に女子だ。

 クラス内では宮本さんが察しが良すぎるために彼女にだけバラシているが、どうにも舞子にもバレている気がする。

 というか、坊ちゃんは知っているはずなのだが、自分ではなく私を人身御供に差し出した点から鑑みるに忘れている予感がひしひしと……!?

 

 幼友達であるマリーとの約束である、坊ちゃんの周囲の女性関係の忌避化という点は守れたから良かったものの、やはりこういう性質の悪いラブコメ染みた事態に立ち向かうべきなのは坊ちゃんなのではないかと私は思う。

 







とりあえず此処まで

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