悪魔の妖刀   作:背番号88

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思ったよりも過去話が長引いています。
次話で終わる予定です。


閑話‐2

「……とまあ、中学最初の頃は、先輩たちの勧誘を断る毎日だった」

 

「あ、あれ!? アメフト部に入らなかったんですか、長門君?」

 

「ああ、アメフト部にはいる気なんてまったくなかった」

 

 話し始めた序盤は、学校を支配下に置き、武力行使も辞さない先輩の所業に戦々恐々としていたリコだが、なんだかんだで長門が勧誘を受けるものだと思ったのだろう。

 疑問符を浮かべるリアクションを取るリコを見ながら、長門は当時のことを思い出す。

 

 麻黄中学へ入った新入生の頃、アメフト部をなんとなしに覗いたことがきっかけで、先輩たちと出会った。

 だが、年功序列なんてものに気遣うつもりはない。自分よりも弱い相手を敬う気などなかった。

 

 ノートルダム大付属で、本場の連中とプレイのできる環境にいる幼馴染(たける)と、去年に部ができたばかりの無名の弱小校で燻ることになる自分。

 そこに焦りがなかったと言えばウソになる。アイツの背中が遠く離れていくのを何度夢見たことか。

 一日でも無駄にすれば、ライバルとの差が大きく離れていくと恐れていた長門は、ヒル魔たちを辛辣に見切りをつけた…………はずだったのだが。

 

「出会いは最悪。別れは残酷に済ませようとした。だが、あの先輩らは生憎と聞き分けの良い連中ではなかった。だから……」

 

「だから?」

 

「なるべく穏便に事を済ませようとしても決着がつかないんだったら、もう戦争するしかなくなったわけだ」

 

 

 ~~~

 

 

「……と、ここしばらくは大人しくしていたから、終わったもんだと思っていたんだが」

 

「ケケケ! なに勝手に決めつけてんだ糞カタナ、まだまだ終わっちゃいねーぞ!」

 

 実に儚い平和だった。

 近寄りがたい要因(ひるまよういち)の乱入がめっきりなくなり、おそるおそるであるが、クラスメイトに馴染みつつあった。入学式(スタート)で失敗してしまったけれども、ようやく普通の中学生活を送れるようになったと期待した。

 だが、それも教室にこの悪魔な先輩が顔を見せただけで蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまった。気分はせっせと積み上げた藁の家をオオカミ(ケルベロス)の一息で吹き飛ばされたコブタ(ブタブロス)である。

 どうやら、この麻黄中では平穏無事にいう言葉は縁遠いもののようだ。少なくともこの堂々と一年の教室にお邪魔してくるヒル魔妖一が在学中は。

 

「勝負しろ糞カタナ! そして、負けたらデビルバッツには入りやがれ!」

 

「はぁ……賢いと思っていたんだが、バカなのかヒル魔妖一。何度も同じことを言わせるな。アンタらとはアメフトはできない。身の程を弁えないアンタの道楽になんぞ付き合っても、得るものなんて何もない」

 

 そういって長門は、ヒル魔を無視して教室を出ようとする。

 しかし、教室の前後に(ふたつ)ある出入口に、それぞれ栗田良寛、武蔵厳が立ち塞がっている。どうやら、ヒル魔妖一の独断ではなく、アメフト部の総意でやってきているようだ。

 

 それでも、長門には関係ない。壊した練習器具は弁償した。もうアメフト部に配慮する理由もないのだから。

 

 

「身の程を弁えない、って言えば……アメリカでアメフトをやってる日本人がいたっけなあ~?」

 

 

 強引に押し通ろうとした長門の足が、止まる。

 

 

「しかも名門中の名門ノートルダム大でだっけか? 時代最強のランナーの称号『アイシールド21』で有名な話があったところだよなあ~」

 

 

 その反応を見たヒル魔が、ニタリと笑う。

 押し黙っているが、確かな手応え。

 今、垂らした話題(エサ)に長門村正は、食いつかざるを得ない。それを承知した上で、おちゃらけた調子で続ける。

 

 

「ま、どこのどいつか全然知らないが、ソイツのライバルとやらは吹っ掛けた勝負から逃げちまうようなヤツだし。どうせ、本場の連中にぶちのめされちまってんじゃねーのかあ、身の程を弁えないソイツは。今頃、ママー、日本に帰りたいよー! ってぴーぴー泣き喚いてるかもしれねェなあ?」

 

 

 ヒル、魔!?!?

 煽りに煽るヒル魔。これ以上エスカレートしてしまう前に、流石に止めに入ろうかとした栗田だったが、動けなかった。

 ぞくりとする寒気に、身体が固まった。

 

 

「……よくもまあ、他人(ひと)個人情報(プライバシー)をここまで調べ上げたな」

 

 

 ああ、なるほど。安い挑発だ。

 別に、自分自身を狙った発言であるのならば、所詮は戯言だと気にしなかった。

 しかし――

 

 

「受けてやる、その勝負」

 

 

 大和猛(ライバル)を侮辱する内容を含むのならば、話は別だ。

 個人名の明言は避けていてもあからさまで、無遠慮。やり過ぎだ。

 

 

「だが、覚悟はしろ。俺はフィールド上では、容赦しない。たとえそれでアンタらの夢がズタズタになろうが、ぶちのめす」

 

 

 ヒル魔妖一は、こちらの本気を引き出させたかったようだが、おかげで情けなどいっぺんもなくなった。

 

 それまで裡に押し込まれていた鬼気(オーラ)を解放させながらの宣告。

 ヒル魔、栗田、武蔵は、揃って息を呑む。酒奇溝六が『妖刀』と称したその斬れ味(さいのう)、それを目の当たりにした三人は圧されながらも、決して臆さなかった。

 

「ああ、かかってこいよ一年坊」

 

 どんな雄にも一度だけ与えられた権利がある。

 それは、相手がどれだけ強かろうが、たった一度だけ、戦いを挑むことが許される権利である。

 

 

 ~~~

 

 

 ヒル魔、栗田、武蔵のアメフト部3人と長門で試合。

 学校に部として認められる3人の部員はそろっていてもアメフトをするには人数が足りないので、当然、助っ人を募っている。

 今の少人数のデビルバッツがアメフトの試合をするにはこの強引な手段に頼るしかない。

 と、黒革の手帳を紋所のように見せつけて助っ人連中を集めるヒル魔を見て、ふと長門は訊く。

 

「アンタの噂が尾ひれ背ひれのついたデマカセじゃなさそうなのはよくわかったが、意外だな。脅迫手帳(そいつ)があるんなら、強制で2、30人は部員を集められていただろう」

 

「ケケケ、やる気のねえ奴をいくら集めたところで数合わせのコマにしかならねぇ。本気でアメフトをやる人間じゃなきゃ使いモンにならねぇからな」

 

「……確かにな」

 

 思うが儘に強権を振りかざす暴君かと思っていたが、最低限度の一線はあるようだ。

 

「それで、俺が負けたらアメフト部に入るが、勝ったら、どうしてくれるんだ?」

 

 勝負事のテーブルにつけさせるのならば、相手への見返りを用意してなければ自分勝手が過ぎるだろう。

 長門としては、特別見合う程のものを要求することはない。精々、金輪際かかわるな、というくらいだが。

 

「そしたら、テメーの“約束”に全面協力してやるよ」

 

 ついさっき侮辱するような言葉を吐きながら、ヒル魔はあっさりと言ってのける。

 その扱いは、まるで、自分の“約束”が、彼らにとって何より大事な“夢”と釣り合うものだと見なしているかのように。

 

「俺達のことはそこの助っ人連中のようにいいように扱えばいいし、もし、糞カタナがアメリカに行きたいんなら、向こうの特待生留学でもなんでも取り付けてやる」

 

 単なるデマカセ、という感じはしなかった。本当にそう望めば本気でそうするんだろう、と不思議と長門は納得できてしまった。

 舌の根の乾かぬ内にというが、この男の二枚舌には呆れる他ない。

 

「ま、俺達が勝ったら、クリスマスボウルの夢に付き合ってもらうケドな」

 

 最後は、不敵に笑って再度自分らの要求を突きつける。

 長門の口から文句など出なかった。むしろ、こちらのリターンが大きいとさえも思う。アメリカへ行ける、という話は今の長門には魅力的ではあったが、そこまでしてもらう必要はない。

 

「……ああ、それでいい」

 

 でも、長門は撤回せず、了承する。

 このハイリスクがアメフト部3人のこの試合にかける覚悟なのだとすれば、譲歩はそれを軽く見ていることにならないか。

 少し、別の言葉を吐こうと迷ったが、長門はそれを呑み込んだ。

 

 

「おい、一年生」

 

 ヒル魔が離れたのを見計らっていたかのようなタイミングで声をかけられた。

 声のした方を向けば、そこにいたのは、黒チーム――集めた運動部の連中を赤チーム(アメフト部)と黒チーム(長門)に戦力が均等になるよう分けた面子のひとり。

 相手が一時とはいえチームメイトであり、先輩であるので、とりあえず長門は丁寧に応対する。

 

「なんですか?」

 

「お前も災難だな。入学早々、あの悪魔……ヒル魔に目を付けられちまうなんてよ」

 

「はあ」

 

 長門が入学早々ヒル魔妖一に追い掛け回されていることは麻黄中では周知のことだ。この先輩も遠巻きに様子を伺っていた記憶がある。

 

「それで、いい話があるんだが、まあ聞けよ」

 

 その先輩は、やけに赤チーム……もっと言えば、ヒル魔妖一をチラチラと気にしていて、長門を肩組むように引き寄せてから、小声で耳打ちする。

 

「(もうわかってんだろうが、ヒル魔に逆らうのはヤベェ。アイツのバックには米軍が控えてるっつー噂もあるしな。何よりあの脅迫手帳だ! アレがある限り、俺達はヒル魔に絶対服従するしかない!)」

 

 と泣きつかれれば、その先輩の事情は把握できた。が、そんなの試合をする前に聞く話ではない。

 少し力を入れて、肩を組んできた先輩を押し離したが、それでもしつこく再び先輩に組み付かれた。

 

「いい加減に本題に入ってくれませんか。試合前の作戦時間(ハドル)は限られているんですから」

 

「(まあまあ聞けって一年生。これは俺達にとって得のある、winnwinな作戦なんだよ。ヒル魔に逆らうなんてマネをすればこの先の学校生活は一生灰色になっちまう。だけど、ヒル魔はアメフトの試合ではどんなにどつかれようがやり返したりはしねーんだよ)」

 

 そう、あれは先輩が参加させられた、とあるチームとの練習試合。

 あの力だけはある栗田を簡単に転がしちまう強い選手がいて、ソイツにヒル魔が何度も潰されちまった。

 痛い思いをしたはずだ。

 試合も負けちまったし、絶対、悪魔(ひるま)の機嫌は悪かったに違いない。こりゃあ、血を見ることになるかもしれねーと思った。試合後の挨拶で、銃弾ブチかますことだってやりかねない。

 だが、ソイツ――確か、鬼平とかいう名前だった――に、ヒル魔は何もしなかった。

 

 それからも散々練習試合に付き合わされてきたが、ヒル魔は相手選手に潰されても、試合で負けても、一度も報復することはなかった。

 

「(つまりは、ヒル魔はアメフトのプレイでならブッ潰しても噛みついたりはしねぇ。どんなにボコボコにしようがな!)」

 

 スタンガンやらマシンガンやら物騒なモンを持ち歩いてるが、試合中は使えない。そして、ヒル魔の運動能力が低い。単純なぶつかり合いならば、こっちの方が強い。

 

「(それで、だ。もし、もしだ。ヒル魔が、運悪く、再起不能になっちまうような怪我をしちまえばよお、もうアメフトなんてどうでもよくなんだろ。そんで、ヒル魔さえいなけりゃ、栗田なんてチョロい奴だし、簡単に廃部にできる。そしたら、お前ももう絡まれなくなるぜ一年生)」

 

 ……意図は、理解した。

 先輩らの“作戦”を聞いた長門は、深く、深く、気を静めるよう息を吸い、5秒くらい時間をかけてゆっくりと吐く。

 

 アメフト部ができて、グラウンドを使える時間が減った。

 それだけでなく、こうしてアメフトの試合のたびにいいように人数合わせの助っ人に駆り出される被害者なんだろう。

 で、自分のことも同じ“被害者”だと思ったんだろう。

 なるほどなるほど……――

 

 深呼吸を終えた長門は、低い声で、

 

 

「アメリカンフットボールを舐めるな」

 

 

 話を持ち掛けてきた先輩の胸元を掴み、右手一本で持ち上げる。

 

「ぐえっ!? 何すんだおまっ!?」

 

「アメフトは、勝利が全てだ。プレイで相手の選手を破壊することさえ戦術とみなされる。

 だが、勝利以外の理由で怪我をさせることは許されない。ましてや、人に怪我をさせるためにアメフトを利用しようなどと言語道断!

 もし! 貴様のふざけた思惑でヒル魔妖一の腕をへし折ろうものなら、俺が同じようにアンタの腕をへし折る!」

 

 頭突きしながら、至近距離で睨む眼力で、その意志を。軽々と絞め上げる暴力で、その実行力を示した長門は、先輩が震え上がったのを見て、離す。失せろ、と腰抜けた臆病者に言い捨てて。

 そして、くだらない話に弛緩した雰囲気を絞め直すよう、長門から一歩引いた他のチームメイトへ宣告する。

 

「作戦は、俺が立てる。

 言われずとも、この麻黄中のアメフト部デビルバッツを本気で叩きのめすつもりでこの勝負を受けた。それがどんなに恨みを買うことになろうが、俺は遊びでアメフトをやっているつもりはないからな」

 

 

 ~~~

 

 

「? どうしたのムサシ? 黒チーム(ながとくんたち)の方を見てるけど、何かあったの?」

 

「なに、面白い後輩だなと思ってな」

 

「! でしょー! 長門君とならきっともっと面白いアメフトができるよー!!」

 

「そうだな、栗田。俺も楽しみだ。……ますます、この試合、負けられなくなっちまったな」

 

「何くっちゃべってんだテメェら! とっとと試合始めんぞ、バカデケェキックをぶちかまして糞カタナの度肝を抜きやがれ、糞ジジイ!」

 

「ああ、今日は脚の調子もいい。注文通りに開幕からぶちかましてやる」

 

 

 ~~~

 

 

 ――ドカンッッッ!!!

 

 

 大砲の如き、豪快なキック。

 頭上の雲を突き破らんばかりに天高く伸びるボールに長門は目を剥いた。

 

 高い……!?

 これほど高々と蹴り上げられたキックオフは初めて見る。

 予測を誤った長門にはそのボールは届きようがなく、自陣の遥か後方へ飛んでいくのを見送るしかなく……

 

 

 ~~~

 

 

「――『タッチバック』!」

 

 審判役の溝六が、ゴールラインを超えたボールを見て、赤チームのペナルティを宣告した。

 キックオフは、ただぶっ飛ばせばいいというものではない。飛び過ぎて敵陣のゴールラインを超えてしまうと『タッチバック』というペナルティで、20ヤード(18m)地点まで戻されることになる。

 だから、キッカーはゴールライン手前ギリギリを狙うようにキックをコントロールしている。

 

「な・に・が! 調子がいいだ糞ジジイ! 初っ端からペナルティ出してんじゃねぇ!」

「ひ、ヒル魔!? 抑えて!?」

 

「あー……調子が良過ぎちまったみてぇだなこりゃ」

 

 小指で耳の穴をかきながら、ヒル魔らから顔をそむける武蔵。

 まあ、しょうがあるまい。

 アメフトを初めて一年足らずだが、キックの荒れ癖はどうにも治らない。()加減が難しいのだ。

 

「キック力はあっても荒れ球キックのコントロールは1mmも信用できねぇのがテメーでわかっちゃいねぇようだな。それともなんだ? 後輩にいい格好を見せようとして、我慢汁を先走らせちまったのか糞ジジイ」

 

「反省してる。だからもう言ってくれるなヒル魔」

 

「ケケケ、まあいい。――注文通り、度肝は抜いてくれたみてぇだからな」

 

 とヒル魔が横目でチラリと視線を走らせる。

 そこにいた長門は、呆れが半々に混じっているものの、確かに目の色が変わっていた。

 こちらの手札の一枚(キック)が、無視できないものだと認めたのだ。キックは失敗したが、強烈なインパクトは叩き込めた。

 

 

 ~~~

 

 

「SET! HUT!」

 

 長門は、クォーターバックのポジションについた。

 他のアメフト部でもない助っ人連中では、ボールをまともに投げられるかも怪しいレベルで、アメフトを知っていなければできない指揮官であるクォーターバックを任せられる人間が自分以外にいないのだ。

 それに、長門としてもクォータバックは不慣れではない。

 

 開始の号令を発して、ボールを受け取った長門は、スムーズに投球態勢に移行しながら、広い視野でフィールド全体を把握する。

 そして、こちらに迫るラインのプレッシャーにも動じることなく、ボールが投じられた。

 

「お、っとと!」

 

 そのパスの回転(スパイラル)は綺麗で、縫い目が見えるほどゆっくり。弧を描く軌道に()れなく、ラインの頭上を越えて、言われた通りのルートを走っていたレシーバーの手元へホールインワンで収まるコントロール。

 キャッチ成功率の低い助っ人だが、このボールはヒル魔が投げるのと比べてずっと捕り易い。一度弾いてお手玉したが、ボールをキャッチした。

 

 

「黒チーム、パス成功!」

 

 

 す、すごい長門君! パスもできるなんて!

 このプレイに栗田は驚き呆ける。

 素人相手にパスを成功(キャッチ)させる難易度は、ヒル魔を見てきた栗田にはよくわかる。キャッチもパスもできない自分とは違う、才能溢れる万能選手(オールマイティー)

 と、そこで、尻を蹴られた。

 

「試合中に大口開けて呆けてんじゃねぇ! 糞ジジイの次は、テメェだ糞デブ! 糞カタナが投げる前にブッ潰せ!」

「うん! 長門君は凄いけど、僕だって負けないよ!」

 

 ヒル魔の叱咤に栗田は気合を入れ直す。

 そうだ。長門君はパワー、スピード、テクニックの全部を兼ね備えている。でも、そんな彼が相手だろうと、パワーだけは負けられない!

 

 

「ふんぬらばァーー!!」

 

 

 瞳に炎。

 闘志に燃え盛る栗田の突貫。張り付いていた二枚の(ライン)を、両開きのドアのようにその剛腕はこじ開け、栗田は無防備の相手クォーターバックへ迫

 

 

「あ、れ――いない――!?」

「――遅い」

 

 

 未経験者でも、ラインに揃えたのは運動部の中でも力と体重のある面子。それを1対2の数的に不利でありながら、ゴリ押しで競り勝つそのパワーには目を瞠るものがある。単純な力勝負であれば、自身よりも上かもしれない。

 だが、その動きは鈍重。

 いくらパワーがあろうが、触れられもしないスピードの前では無意味だ。

 栗田がライン二人をブチ破った時、既に長門は大外から前衛を迂回して、抜き去っていた。

 

 

「行かせるかよ――おっ!?!」

「――温い」

 

 

 回り込む長門に迫るのは、武蔵。

 栗田のフォローに入っていたラインバッカーの武蔵は、長門にタックルを決めようとし――押さえられる。栗田程の馬鹿力はないが、それでも栗田に次ぐ腕っぷしがあった武蔵が、近づけない。

 長い腕をつっかえ棒のように使い、飛び掛かろうとする寸前の武蔵のチャージを阻む。

 間合いを制するハンドテクニック『スティフアーム』。

 ただ脚が速いだけでなく、腕でもって相手を攻撃して道を切り開く、破壊的なラン。

 

 捕まらねぇ!?

 近づけねぇ!?

 それでも、止めなくてはならない。

 致命的な個人情報を悪魔にばらまかれまいと助っ人たちは必死に追うが、次々と抜かされ、押し退けられる。

 

 (ちっ、助っ人連中じゃあ相手にならねぇ。だが、このくらいは想定内だ)

 

 セーフティとして立ちはだかるは、ヒル魔。

 脚も速いし、腕も強い。曲がりも鋭い――が、直前で一瞬止まる。スピードがあるからこそ急な切り返しにブレーキをかけてしまう。

 そこが、狙い所だ。

 アメフト部のコーチである糞アル中(どぶろく)より師事されたランナーの攻略法がひとつ、回避誘導。

 タネはごく単純であり、一流の選手であれば自然にこなせる芸当だ。

 わざと軸をわずかにずらし、避ける方向を誘導させる。そして、ブレーキがかかったところで、誘導先に飛びつき、タックルでブッ潰す!

 

 長門がカットをする間合い(タイミング)は、助っ人連中がやられたのを見て割り出した。

 そう――ここだ!

 

 ヒル魔が、ほんのわずかに、右へ体勢を傾ける。

 瞬間、長門が左へ――ヒル魔が誘導した方へ舵を切――

 

 

「まんまと引っかかりやがったな――」

「――甘い」

 

 

 たはずなのに、重心が右に流れた。

 確かに誘導した先(ひだり)へ踏み込んだはずなのに、進む方向は真逆。

 空間を捻じ曲げたかのような、異次元の切り返しで、ヒル魔は置き去りにされた。

 

 こいつ……! 後出しジャンケンみてぇにこっちの手を看破した上で逆を突きやがった!?

 

 酒奇溝六が教えた回避誘導は、確かに有効な作戦だ。

 それでも、大和猛と何度となく1対1をしてきた長門村正からすれば、その程度の小細工は浅はかだった。

 

 

「タッチダウン!」

 

 

 見当違いの方へ飛びついたヒル魔に長門は捕まえることは叶わず、そして、ヒル魔が赤チーム最後の防衛線だった。

 5分と経たずに点を決められた。

 これまでの試合でいきなり点を取られたことはあるが、それでもこちらと同条件で助っ人に頼る相手に、それもほぼ個人技でやられたのは3人の経験にない。

 ゴールゾーンへボールを置くようにタッチダウンを決めた長門は、膝に手をつきながら起き上がろうとするヒル魔へ言う。

 

「弱い者いじめは趣味ではないからな。致命傷(トラウマ)になる前に訊いておく。何点積まれれば、アンタらは折れるんだ?」

 

「……はっ! 試合が始まったばかりで寝ぼけたことほざいてんじゃねーぞ糞カタナ! アメフトは、99点取られようが、100点取れば勝ちなんだよ!

 

「だったら、完封すればその減らず口も少しは大人しくなるのか」

 

 

 ~~~

 

 

 ボーナスゲームで、長門自らゴールキックを入れて、0-7。

 初っ端から栗田、武蔵、ヒル魔らは格の違いを思い知らされた。

 それにどうやら、長門の奴は、勝敗以上に心を折りに来ているようだ。

 アメフトは、心の勝負。ビビらせた方の勝ちだ。

 

 しかし、才能では敵わなくても、あの3人の心は負けていない。

 

 教え子らがまだまだやる気な様子に、溝六はにやりと笑う。

 まだ勝負は始まったばかり。ここからだ。

 

(……それに、アメフトは、独りでやるモンじゃない)

 

 

 ~~~

 

 

 赤チーム・アメフト部の攻撃。

 それに対して敷かれた黒チームの守備陣形は、外側に広く多く助っ人たちを配置させている。その分、中央に空いたスペースが目立っている。

 

 どうぞ狙えるなら狙ってくださいとほざいているくらいにがら空きだ。

 しかし、そのど真ん中で一人陣取ってるヤツが、問題だ。

 

 長門。

 奴の身体性能(スペック)が常人のそれと比較にならないし、体格もいい。手も足も長いその間合いなら、中央をすべてテリトリーにし得るだろう。むしろ、足手纏いになる素人を傍に置いては、行動範囲が制限されてしまう。

 

(はっ! んなことは、とっくに()()してあんだよ)

 

 攻守陣地境界線(スクリメージライン)を挟んで向かいに立つ長門。ヒル魔の身に刺すように感じるほど圧のある視線は、こちらの一挙手一投足を逃しはしないだろう。

 

「SET! HUT!」

 

 栗田からスナッチされたボールを、ヒル魔は即座にパス発射体勢に移行。フェイントを入れず、最短最速でパスを投げる。黒チームの守備は、こっちのパスターゲットを確実にマークしているが、構わず。長門が仕掛ける前に、ショートパスを決める。

 ――そんな思考を読んでいたかのように、長門は動いていた。

 

 鏡合わせのように、ヒル魔が仕掛けるのとほぼ同時に。

 その腕を振る方向からパスコースまで予測して。

 

 ヒル魔の頭の中で思い描いたパスコースのイメージが断たれた瞬間、斬! と振るわれた右腕が、宙のボールを捉えた。

 

「どうせ、今のボールをカットしなくても、助っ人のレシーバーがキャッチできる可能性は低い」

 

 まともなレシーバーがいないのに、パスプレイを敢行するなど破綻している。

 こちらの裏をかこうと狙ったものだとしても、成功しないのでは無意味。

 それでもヒル魔妖一は、した。先日、“アンタが投げるボールはパスではない”と突き付けたパスプレイを。

 それを長門は潰した。

 

「だがそんな自滅でついた決着で納得などできない」

 

 だから、徹底的に潰す。

 パスも、ランも、どんなプレイも逃さず、完封して勝つと長門は絶対予告する。

 

「ケケケ、上等だ、糞カタナ。やれるもんならやってみやがれ!」

 

 

 ~~~

 

 

「……ったく、ヒル魔の奴意地になってやがる」

 

 三度目の攻撃が失敗したのを見て、武蔵はついぼやく。

 三連続で攻撃失敗。巨大な壁に向かって投げつければ跳ね返る。そんな理屈と同じように、ヒル魔のパスは宣言通りに弾き落されている。

 

「ヒル魔~~、ここで攻撃権渡しちゃったらまずいよ。四回目はパスじゃなく、武蔵にパント頼んで陣地を挽回した方が……」

「情けねぇ弱音ほざいてんじゃねーぞ糞デブ! 四回目も当然パスだ! だいたい糞ジジイのキックコンロトールじゃ、また『タッチバック』になんのがオチだろ!」

「まあ、否定はしないが。流石に三回やって1ヤードも進めないんじゃ作戦見直した方がいいんじゃねぇのか」

「いいからとっとと陣につきやがれテメーら! 俺のパスで糞カタナに風穴を開けてやんだよ!!」

 

 作戦なんてあったもんじゃなかった。

 四回目で連続攻撃権の獲得が期待できないのであれば、キッカーにパントキックをしてもらうのが無難な選択肢だ。が、攻撃のことしか頭にない。もっといえば、先日の一件で否定されたパスを通すことに意固地となっている。

 常に冷静であらねばならない指揮官としては落第だ。

 

「(まーたパスかよ。素人(おれ)たちでも無謀だってわかんぞ)」

「(頭のいい奴だと思ってたんだが、長門ってのがヒル魔の想定以上で計算が狂ったのか)」

 

 赤チームの運動部の連中が、愚痴っている。カッカしているヒル魔を避けて小声だが、長門には聞こえた。

 自棄になり、未経験者でもわかる失策を取る。

 

 ここまで物分かりの悪いヤツだとはな……

 落胆を色濃く滲ませた溜息を吐く長門。それでも、手を抜く気は微塵もない。

 

 

「赤チーム、攻撃(パス)失敗! 黒チームに攻撃権移動(ターンオーバー)!」

 

 

 ~~~

 

 

 前半終了。

 赤チーム対黒チーム、0-19。

 

(……ふぅ)

 

 深呼吸するよう長く息を吐く長門。

 あれから、2回タッチダウンを取り、ヒル魔のパスをすべてカットした。

 完封しながら、点差をつけた。この調子で行けば、圧勝できる。

 それでも、ままならない、と思う。

 2回タッチダウンを取ったが、その後のボーナスキックを2本外している。長門がキックしようとしたとき、ボールの縫い目をこちらに向けるように立てられ、上手く蹴ることができなかった。だが、それはいきなりやってくれと頼まれた助っ人だから仕方がないと長門も注文を付けたりはしなかった。

 それよりも、

 

(パスを一球も許さなかった。だが、こっちもパスができなかった)

 

 ラン一本で攻撃する。そのきっかけは、パスの失敗。

 長門が投じたボールを、助っ人が手を伸ばさず失速したことから始まる。

 

『あのまま全力で走り抜けていれば、ボールに手が届いたはずだ』

 

 練度不足によるミスは許せたが、試合の手抜きは見過ごせなかった。

 長門のパスは、優しい。小学生でも捕れるように投げている。

 ただし、“全力疾走で追わなければキャッチはできない”、という但し書きがつく。

 こちらの責める理由はわかっているのだろう、その選手は少しバツの悪そうな表情を浮かべたが、ちっ、と舌打ちして言い返す。

 

『知るかよ。だいたいな、この試合に勝ちに行ってる奴なんてお前だけだろ。こっちは適当にやってんだよ。俺らがやってる部活は違うんだ。大会前で無理なプレイで怪我なんてしたくない。熱血とか巻き込んでんじゃねーよ』

 

 見れば、他の連中も同じような不満がありありと顔に浮かんでいる。『どうせ、お前ひとりでも勝てるんだろうし、なら、俺達に頼る必要なんてないだろ』とその目が一様に語る。

 ヒル魔の命令でなければ、こんな道楽になんて付き合ってられない。ヒル魔ではない、こんな後輩にまでいいようにこき使われる理由なんてないはずだ。

 それが分かった長門は、短く『わかった』と答える他なかった。

 それから長門のラン一本で攻めたが、最初の構想としては、彼らにもアメフトができるようにパス中心でいくつもりだった。個人技で圧倒して勝ったところで、それは長門が求めるアメリカンフットボールではないからだ。

 

 あの日、大和と観戦した、本当のアメリカンフットボールの試合は、全員が全力を出し尽くしていた。一丸となって全てを爆発させた光景がそこにあった。

 それは今でも色褪せることのない、長門にとって原点になるもの。

 果たして、今の自分はアメフトができていると言えるのだろうか。

 

(……独り善がりなのは、俺も同じか)

 

 自問する前からそんなことは自覚している。

 それを理解しているからこそ、本気になれない連中とは関わらないようにしてきた。気を抜いて、周りに合わせれば、上手に生きられたかもしれないが、それは長門には無理だった。

 

(昨日のテレビで見た肺魚のようだな)

 

 肺魚。生きた化石などと呼ばれ、『肺魚』という名の通り、肺を持つ魚でたまに水面に出て息継ぎをする。

 つまり、魚でありながら水の中で溺れる。

 他の魚には普通の環境でも、肺魚にとっては息苦しいと感じてしまう。

 そんな溺れる魚が、今の自分。こんな本気になることもできない環境では、いずれは息もできずに溺れてしまう。

 

 これ以上自嘲げな溜息が洩れてしまう前に、ドリンクで押し流す。

 そこで、長門は声をかけられた。

 

「随分と息苦しそうだな」

 

「酒奇先生……」

 

 徳利片手にちょいとお邪魔するよと気楽にこちらのベンチへやってきた溝六は、長門の隣の席へ腰を下ろす。

 

「まあ、寄せ集めの助っ人らとお前さんとはレベルが違い過ぎる。上手に立ち回りたいんなら、もうちっと手を抜いて相手に合わせなきゃな」

 

「それは、できません。そんな真似は何より自分が許せない。それに……先輩方のように本気で向かってくる相手に手は抜けない」

 

「そうか。……けどなあ、一人でバカやったところで、無理が祟って潰れちまうぞ?」

 

 右膝を撫でながら、溝六が長門へ言う。長門は溝六から視線を外して返す。

 

「この程度無理でもなんでもありません。俺のことより、アメフト部の先輩らに助言しなくていいんですか。あなた、アメフト部の顧問なんでしょう」

 

「あいつらのことなら心配いらねぇよ。足りないところは多いが、それでも自分達で考えられんだろ」

 

 かっかと笑う溝六。

 勝ち目がなくて、諦めがついてる感じではない。

 

「にしても、お前さん、前はクォーターバックをやってたのか?」

 

「……固定したポジションはありませんでしたが、クォータバックをやるのが多かったです」

 

 キャッチもブロックも相手と競り合う。ランも、大和猛(アイツ)程スピードがなく、触れさせることなく躱せず、パワー勝負(しょうとつ)となることが多かった。

 だが、パスは、相手に怪我をさせることがない。だから、周囲に気兼ねする必要がなく、やり易かった。

 無論、ミニゲーム等でライバルと対決する場合は話が別だが。

 

「ほうほう。別にクォータバック一筋ってわけじゃねぇんだな。それならよ、デビルバッツに入ったら、タイトエンドやってみねぇか?」

 

「え?」

 

 溝六が誘うタイトエンドは、壁になったり、パスを捕ったり、作戦によって役目が変わる、トランプのジョーカーのようなポジションで、長門が危惧するパスやキャッチをすることが多い。

 

「俺の現役時代のポジションなんだが、タイトエンド次第でプレーに変化が出て、戦術の幅が広がるってもんよ。確かにお前さんはクォーターバックの適性も高いが、大成するのはタイトエンドだ。クォーターバックじゃあ、折角の才能を埋もれさせることになっちまう。お前なら俺の理想とする最強のタイトエンドになれる!」

 

 力強く太鼓判を押されるが、勝手に人を空論に巻き込まないでほしい。捕らぬ狸の皮算用という文句を知らないのだろうかという言は口にはしないものの、長門はつれなく応える。

 

「今の状況で、アメフト部に入ることになるとは思えませんが。仮に入部したところであんな調子じゃ、ヒル魔妖一に起点となるクォーターバックなど任せられない」

 

 長門の方が投手としての能力は上。長身を活かした高い弾道からの発射台、さらに自分で走って切り込める。

 対して、ヒル魔はこの試合、長門にパスカットされて、パス成功がない。まともなパスターゲットがいたところで、クォータバックがあれでは活かせない。

 

「それはどうかな」

 

 と溝六は、徳利を一口あおり、

 

「誰にでも捕れるパスを投げられるお前さんも中々のモンだ。だが、本当に強いクォーターバックってのは、ここぞという場面で、たったひとりにだけ届くことができる、他の誰にも捕れないパスを投げられる――そんな武器を持ってるヤツだ」

 

 ヒル魔は、自身のことをちゃんと把握している、と言う。

 

「そいつを活かすには、絶対の信頼ができる相棒が必要なのさ。俺にとっての庄司のようにな」

 

「意味が分かりません。一体全体酒奇先生は、ヒル魔妖一の何を評価してるんですか?」

 

「まだわからねぇのか、長門よ。ヒル魔はな、お前さんなら、あの距離のボールに届くと()()()()

 

 他の誰にも触れないその弾道に手を伸ばせるはずだと、つまりは、長門以外には捕れないパスを、ヒル魔妖一は投げ続けたのだ。

 そして、長門はヒル魔のパスを誰が触れるよりも早く、カットし続けた。ヒル魔妖一の期待に応えたのだ。

 その事実が何よりも溝六の中では根拠となっている。

 

 まさか、と。

 長門の中で一つの憶測が生まれる。

 

「だが、ヒル魔妖一の能力は、平均の域を出ない。この先、どれだけ鍛錬を積んだとしても、一流には届かない」

 

「おうよ。ヒル魔には一流の素質なんざありゃしねぇ。だが、世界で最もお前さんにパスを投げてきたクォーターバックになれる。お前さんの才能に、本気で付き合える根性がある奴だ」

 

 だから、試合の後、もう一度考えてやってほしい。

 そういって、溝六は席を立って、審判役の立ち位置についた。

 

 

 ~~~

 

 

 ちっ! あの糞アル中、余計なことを言いやがったな!

 

 入部勧誘を失敗してから、アメフト部はしばらく米軍基地へ通い詰めた。

 一般人の大半が近づかないその場所だが、ヒル魔には(秘密の抜け穴を通るが)顔パスで行けるくらいお得意様である。

 そして、アメフトを初めて自分でやって痛い目を見たところだったが、とにかく、走るレシーバーにパスをする感覚を掴むために、キャッチできる練習相手がいる。

 そんなアメフト部の頼みを、給料のほとんどをノリで賭けアメフトに注ぐ、人生投げてるナイスガイことノリエガを筆頭とする(アメリカ)軍人らは快く(ノリで)引き受けてくれた。

 

『練習だろうが、気の抜けた真似するようなら容赦しねえでブッ潰すぞ! 来い!』

 

 栗田は中学生じゃ相手にならないような大人の軍人相手に組み合い、武蔵も米軍式の基礎錬を積む。そして、ヒル魔は時間が許す限り只管にパスを投げた。

 

 そうして、ヒル魔がモノにしたのが、ターゲットの限界点を容赦なく突く、『デビルレーザー(バレット)』だ。

 

 さらに、特練をしながら、様々な角度から撮った長門村正の記録映像を研究して、その限界点を把握してある。

 

 パスができるようになってもそれを捕る味方がいないことは百も承知。だが、パスを出す相手は味方じゃない。

 これは大前提として、相手がヒル魔のパスに飛びつかなければ不発に終わる。仮に相手が糞ドレッドだったのなら100%スルーされる。だが、糞カタナの性格上、絶対に食いつく。

 まともにやり合えば、真っ向から叩きのめされるのは序盤のプレイで実証済み。だから、習得したクォータバックとしての必殺技で、糞カタナを限界ギリギリまで動かし、その体力を削る。

 それが、前半丸々費やして立てた作戦だった。

 

 だが、糞アル中に企みをネタバレされ、糞カタナにも勘付かれた。あのまま油断してくれた方がやり易かったというのに。

 

「お前の企みがバレちまったようだが、どうすんだ、ヒル魔?」

 

「こうなったら、しょうがねぇ。どうせこれ以上離されるわけにはいかねぇしな。――こっからが本番だ、気合いを入れてけよテメェら!」

 

 


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