悪魔の妖刀 作:背番号88
泥門、長門村正が前半からランニングバックの位置に……?
敵情視察にきた王城の頭脳・高見伊知郎が見たのはこれまでの三試合とは違う形のフォーメーション。
雪光学がワイドレシーバーに投入される後半からタイトエンドを瀧夏彦と代わるような形でランニングバックのポジションについている。
けど、今回の巨深戦では序盤から長門がランニングバックに入っていた。石丸とアイシールドを含めて3人のランナーをクォーターバック・ヒル魔の後方につかせている。
「なんやあの陣形? 後ろにボールもって走るランナーが3人もいるで?」
「アイシールドと長門のゴールデンコンビだ! 撮っとかなきゃ!」
「ちょ、ちょっとカメラ……」
席の後ろで虎吉……桜庭の知り合いの車椅子の少年らが、マネージャーの若菜からカメラを取り上げてオモチャのように遊んでいるが、遊ぶ余裕なんてない。
「若菜!」
「は、はい!」
恐ろしい何かが始まるという予感に思わず冷や汗をかいてしまった。気をいつも通りに落ち着けさせようと眼鏡を元の位置に上げてから、
「今から始まる泥門のプレー……一挙手一投足をズームで撮っていてくれないか」
進から高校最速の看板を奪い取ったエースランナーとその非力さを補う不倒のリードブロッカー、アイシールドと長門村正のコンビランは脅威だが、これから『妖刀』を振るうのはアイシールド21じゃない。
おそらくこのフォーメーションこそが、ヤツの真骨頂。
「これは、ヒル魔妖一の“妖刀定石”だ……!」
~~~
「タイカー! ヤイハー! ヨイツー! ポーセイドン!」
『ポーセイドン!!』
~~~
東京地区秋大会のダークホース・巨深ポセイドン。
毎年東京都下の中堅と評価されながら、いまいち波に乗り切れずにいた彼らを、優勝候補とマークしていたチームはおそらくほとんどいなかったに違いない。
だが今年の巨深のその強さの質が例年とは比べ物にならない。前衛の身長が全員180cm以上という、全国でも類を見ない“高さ”を誇る。背が高いというのはそれだけで有利だ。特に前衛の
また太陽スフィンクスの前衛『ピラミッドライン』とは違い、超重量級でもなく、スピードもあるため、まさに打ち寄せる“高波”の如く敵陣を一気に制圧してくる。
この比類なき“高さ”を武器にした『
――だが、泥門デビルバッツは、西部ワイルドガンマンズと1、2を争うほどの火力がある超攻撃的なチームだ。
「SET! HUT!」
泥門が取ったフォーメーションは、『
上から見ると鳥の骨のような、クォータバックの後方に1人、その更に左右斜め後ろに2人と計3人のランニングバックを要するフォーメーション。
この陣形はランプレイのオプション……相手守備の動きを見て、自分で走るか他者にボールを回すかを
息の合った司令塔とランナーたちができる連携。
また左右両側にパスターゲットを2枚配置しているので、
『ランプレーだ。陸上部石丸突っ込んだー!』
「違う。渡してない! ボールを持って走ってんのはヒル魔だ!!」
第一の切り替え。
クォーターバック・ヒル魔の背後についていたランナー・石丸を止めに来れば、ヒル魔はボールを持って走る。
『ボールを持って突っ込むと見せかけて石丸君は巨深選手をブローック!!』
「行くぞ、アイシールド21!」
「うん!!」
第二の切り替え。
そのヒル魔を止めに来れば、二人のランナー・長門とアイシールド21のコンビランが走る。
「泥門の『鳥の叉骨』は、こっちの守備体型を一瞬で見分けて、一番隙のあるところを走ってこれんのが強みです。だから、俺達である程度操作できる」
石丸、ヒル魔、コンビランの3パターンのランプレイ……相手がどこを守りに来てるのか、誰が走れば抜けられるのか、ヒル魔がプレーのたびに瞬時に見分けてボールを渡す。
これは逆に言えば、守備側が隙をどこにするかを決めておけば、思い通りにランをコントロールできるわけだが、
「ケケケケケ、これは単なる『鳥の叉骨』じゃねーぞ、糞ツリ目。今の泥門にやる気のねぇザコはいねぇ。一人二人の天才が引っ張るチームとは訳が違うってこった」
泥門はそこにさらにパスプレイも織り交ぜている。
「おう! 泥門はランだけじゃねぇぞ!」
第一の発射点。
ヒル魔が走らずに左右に配したモン太と瀧へパスを投げる。
「アハーハー! 僕の華麗なるキャッチング!」
第二の発射点。
ヒル魔からボールを回された長門がモン太と瀧へランナーがパスを投げる『ハーフバックパス』。
「これが泥門の攻撃の革命だ! 鳥になりゃ高波にも飲まれねぇ」
第三の発射点。
ヒル魔からボールを回された長門が、相手にブロックせずに下がった移動型クォーターバック・ヒル魔へボールをバックパスで戻してから、ヒル魔がモン太と瀧へパスを投げる『フリー・フリッカー』。
「がはは! あいつら、こりゃもう『鳥の叉骨』じゃねぇな。神龍寺の『ドラゴンフライ』と遜色ないぞ!」
とヒル魔と長門の連携のパスプレイもまた3パターン。
第二の切り替えポイントで長門に渡されてからも、パスプレイがある。背面投げと走り投げの振りかぶる腕のモーションが同じ、腰のツイストを利かす長門の
「くっそ……。止まらねぇ!!」
ボールキャリアーが
「すごい……こんな複雑な技を泥門なんて新進のチームが……!!」
トリプルオプションプレーがより複雑になった分だけ、主にボール回しをする二人の連携が一手誤れば攻撃失敗するリスクのある『村正の妖刀』のような『妖刀定石』だ。そんな綱渡りなオフェンスをヒル魔妖一と長門村正は恐れることなく、そしてミスなくこなす、なんと密な連携だ。
「ヒル魔妖一、長門村正、この2人の連携こそ、泥門デビルバッツの最恐コンビだ……!!」
~~~
巨深ポセイドンのエース・筧駿。
191cm、40ヤード走4秒9、ベンチプレス95kg。
190cmを超えし長身と、鍛え抜かれた
中学時代、日本人でありながら本場アメリカに留学した筧は、様々な修練を乗り越え、見事名門フェニックス中学のエースとして活躍。卓越した守備で全米を震撼させた。
そして彼はこの巨深で、アメリカ時代の経験を糧として、彼よりも高い二人の選手にそのテクニックを教え込んだ。
205cmの
日本社会人チームでもそういない2m超えの選手は、高校アメフト界でも1、2の身長であろう。
この筧、大平、大西の文字通り最高の
止まらない嵐の波に喩えられて、『
「舐めてもらっちゃ困るよ、日本最大の巨深ディフェンスを……!」
――泥門デビルバッツのコンビネーションランは今大会未だに止められたことがない。
人の眼には、視界に速く動くものと遅く動くものがあれば速い方を追ってしまう習性がある。
二人乗り自転車のように、直列で疾走するコンビラン。
先陣切る長門はリードブロックする際、一歩分だが超速で迫ってくる。それは後ろを走るアイシールド21よりも瞬間的に速く、本来はボールを目で追うべきはずなのに意識してしまう。
それに釣られたときに後ろのアイシールド21がチェンジ・オブ・ペースで一気に抜き去る。
「消え、た――!!?」
『高波』を切り抜けて、最も深めに守っていた巨深セーフティ・地中甲斐を、ノンストップの超人的な曲がりで躱す『デビルバットゴースト』で抜き去る。そして、独走するアイシールド21を純粋なスピードでもって追える選手は巨深にはいない。
『タッチダーゥン!!』
~~~
6-0。先制点を、泥門に取られた。
勢いづいた泥門の破壊力は確かに容易ならない。これまで相手してきたどのチームとも格が違う。筧でも対応し切れないなんて初めてだ。
だったら、こっちだって攻めて攻めて攻めまくって圧倒すればいい。
水町健悟。巨深ポセイドンのエースラインマン。
身長193cm、40ヤード走5秒0、ベンチプレス90kg。そして、進化の天才。
極限までバンプアップした屈強な肉体を武器として闘う戦士……というラインマンのイメージをガラリと変える、スマートな長身と後衛に引けを取らない俊敏な動きで敵を翻弄するタックル/ディフェンスタックルのラインマン。
超人的な努力による進化スピードは、最初カナヅチであったのに、わずか一年足らずで中学水泳界を震撼させた伝説のスイマーにまで成長したほど。アメフトを始めてまだ一年と経っていないがその成長は著しく筧駿に次ぐ巨深ポセイドンのキーマンになっている。
(さっすがアイシールド21……筧に負けないくらいのプレッシャーじゃんかよ)
泥門の後衛守備の中心として、筧と同じ
オフェンスの時は抜き身の刀のように相手を圧倒してくるけど、ディフェンスの時は、その逆、鞘に収まった、居合抜きの刀のよう。
ただ集中してるとか気迫が篭ってるとかではない。ヒリつくような威圧感なのに、寒気がするほど静かなのだ。
真ん中に陣取ってるだけでなんて迫力だ。
でも、泥門には致命的な穴がある。
(あのチビっぷりは身長差で潰してくれって言ってるようなモンだ)
さっきの守備では『鳥の叉骨』の大外からのランプレイを警戒して、
“高さ”でもって鉄砲水のように相手のラインを倒してきた水町にしてみれば、格好の獲物だ。――だから、巨深の前衛の中で最も余裕があるのが水町自身。なら、泥門で一番怖いヤツを押さえに行く。
(筧にはちょっと悪いけど――俺が、
集中力が極限にまで高まる独特の水町健悟の飛び込みのポーズ『水泳の構え』でセット。
そこから文字通りフィールドに飛び込み、長身選手の必殺技『
そんな、目の前の敵ではなく、その先を見ている水町に、視線を感じ取った長門は苦笑して――鋭い眼差しを突き付けて言った。
「俺ばかり意識しているようだがいいのか――大吉は自分よりもデカいヤツを平らげてきた
「SET――――HUT!」
開始して瞬時の刹那でロケットスタートを切る、低身長の重心の低さを武器にした小結大吉の突進。
しかし、スタートダッシュなら伝説のスイマーの
(腕……!!)
でも、小結は、知っていた。
長身を活かした『水泳』という技を。長門村正という最強の
だから、知っている。
『水泳』は腕を振り上げた一瞬だけ、胸が押せる的になることを。
このチャンスを逃さず、飛び出す――
「フゴーッ!!」
二段ロケットの、立ち合いのスピードとパワー。
それが水町の『水泳』を打ち破った――
その小結が空けた穴から、長門が巨深ポセイドンのクォーターバック・小判鮫オサムに迫る。
「ひ! 怖い怖い!」
しかし、それは逃げられた。
インターセプト率0%を誇る小判鮫の超早逃げ。タックルを食らうのを恐れ、すぐにボールを捨ててしまう。フットボーラーとしては、決して突出した運動能力を誇るわけではないが、この驚異の早逃げでもって、西部ワイルドガンマンズのクォーターバック・キッドに比肩するかもしれないくらいに潰しにくい。
「ヨイハー! 速い! 怖い! いっちばん怖い!」
指先が目前のところで静止していたのに、思わず腰を抜かしてしまう小判鮫に、倒れながら水町が謝る。
「すみません、抜かれちゃいました、小判鮫先輩!」
「だ、大丈夫……筧に超要注意だって言われてたし、でも、ヤバい。ヤバかった!」
思いの外、侮れない。
ビビりというのは言い換えれば、それだけ用心深い。つまり無茶な攻めは絶対にしない。安全にパスを通せる状況を見極めたら確実に決めてくる。
「悪い、大吉。折角お前が作ってくれたチャンスなのに、潰せなかった」
「きょ…強敵!」
「ああ、水町健悟は強いな。もう二度と大吉を侮らないだろうし、こんな風に抜かさせないだろう。向こうのクォーターバックはヒル魔先輩とは正反対な超保守的のようだし。けど、その厄介な相手を大吉が抑えてくれるんなら、こっちだってやりようはあるさ」
巨深二回目の攻撃以降……
「さっきよりもヨイハー! マッハッ!?」
泥門守備は、アイシールド21による『
このデビルバッツのギャンブルな思い切りのいいディフェンスに、小判鮫は投げる間も与えられずパスを投げ捨てる。
これに、ポセイドンは最後の四回目の攻撃にて、キッカーのパントキックを選択し、相手ゴールライン付近まで陣地を回復させて、泥門へ攻撃権を渡した。
~~~
「同じ筧先生の弟子なんだから今度は逆サイドを簡単に取られないでくれよ、太平!」
「大西こそさっきタッチダウン決められて何が筧先生の一番弟子だァ!!」
「……ケンカやーめろって二人とも。今から4人で組むってのによ」
「!!」
「もうアレ出すしかねー。巨深ポセイドンのホントの姿をよ!」
水町が進言したのは、トドメ専用のフォーメーションだ。
まだ前半で、泥門にリードを許している、時間をロスする作戦だから負けている今では逆効果……
(だが、泥門のパスとラン、オフェンスを止めるには『高波』だけでは追いつけない)
そして、問題が、ひとつある。
「全員で
長門村正のランは、手本になる……それほどにひとつひとつのステップの
基本に忠実な、洗練された超正統派にして原点。完璧だ。長身を活かしたその破壊的なラン……これを止めなければならない。
「筧もアイシールドを倒すために考えた秘密兵器があるだろ」
そう、自分の手で――
~~~
「あれ……水町君がいない。さっきまで最前列の
「!! 筧君の隣、ていうか、4人で並んで……!?」
『
「この夢の四天王フォーメーション『ポセイドン』を抜ける男などいなァい!」
「大平! 大西! 水町! 俺らの連携が全てだぞ!」
「ッハッ! ここからが本番だ覚悟しろよアイシールド!」
「この試合に負けたらおしまいなんだ。どっちが一番弟子とかは一時休戦にしてチームプレイで行こう!!」
それは、巨深の中でも高身長上位4人がラインバッカーにつくという陣形。
「えーい関係ねぇ! 今更どう小細工してこようがよ。泥門のパスとラン、両方止められるもんなら止めてみやがれ!」
「ああ。言われねーでも止めてやるって」
水町をラインから下げてラインバッカーに加え、パスとランを広範囲に阻止する。
並んだ4人が一斉にボールキャリアーへ突っ込むディフェンスの波。この平均身長が2m近い『高波』が大量に雪崩れ込んでくるプレッシャーに相手はブロックし切れない。
そして、さらに――
『おおおお水町君! その長身でパスカットー!! まさに高波の中から現れる海の巨神ポセイドンッ!!』
クォーターバック・ヒル魔がモン太へ投げたパスを、水町が跳び上がって腕を伸ばしカット。
後ろに並べた4人のエースが広く全部を防ぐ。ロングパスも、大外へ回るランも余さず。
「完璧なフォーメーションなんざねぇよ。当然穴がある」
「そうだよみんなー! 水町君が後ろに下がってくれた分の壁の穴! 中央突破の大チャンスだよ!!」
そうだ。
ラインが手薄になった分、中央突破への対処が難しくなった。
アイシールド21……あのチビシールドとは違って、長門村正はすし詰めの中央を強引に突破し得るだけの体格がある。
太陽スフィンクス、NASAエイリアンズの、パワーだけならば巨深の『高波』にも勝る屈強なラインでも強引に突破してきた長門の力あるラン。
――そう、これを筧は己の手で止めるのだ。
「来るなら、来い! 今度こそ止めてやる――!」
一回目のパスミスから泥門二回目の攻撃。
それは筧の思った通りに中央をぶち抜く長門の突貫。高波をものともせずに進撃する完璧なランを、筧はそのハンドテクニックで抑えに――
「なにっ!?」
中央、ラインバッカー・筧の前に突っ込んできた長門の腕の中にボールは、なかった。
(だが、リードブロッカーがいなければ小回りだけのチビシールドを止めることは……)
とこちらに引き付けられてきた筧へ、長門は不敵に笑い、
「そちらも弟子に仕込んだみたいだが、こっちも
大外から走り込んでくるアイシールド21。最も厄介な筧がいないとはいえ、その前には三つの高波。大西が走路を塞ぎながら、大平が筧の指導したハンドテクニックで相手が曲がり切る前に制圧を――と伸ばしてきた腕を横から払われた。
(長門君に教えてもらった『回し受け』の要領で――!)
腕と腕をぶつけて弾く、『デビルスタンガン』。
逸らせた軌道はほんのわずかで、稼いだ時間も1秒もない。しかし、0秒で曲がり切れるアイシールド21。大平を抜いて、大西を置き去りにする。
「行かせるかァー!!」
しかし、この2人を相手するに使った分の0.1秒で水町が、捕まえる。ユニフォームを掴んで引き止めた。
『泥門! 連続攻撃権獲得!』
だが、それでも10ヤード以上進められて、ファーストダウンを取られた。
「今度こそランを止める――!」
次の泥門デビルバッツのオフェンス。
今度は長門のラン。先のアイシールドの走路をなぞるように大外を行く。それに今度は、筧が先頭とした『高波』が押し迫る――
「今度は僕が長門君を護る!」
「っ、偽者!」
長門がバックカットで距離を取ったと同時に、筧のハンドテクニックを爆速ダッシュで割り込んだのは長門とコンビランで並走していたアイシールド21。腕を使って腕を弾く。しかし筧はすかさず反対の手を伸ばして、虚弱な壁を払った。
これであの時のように、邪魔なリードブロッカーを除けた。だが今度はあの時のようにあと一歩のところでとは――
「一つ忘れてるぞ」
それは、筧駿の“アイシールド21像”を撃ち砕く一発の強弾。
アイシールド21・セナが『デビルスタンガン』でブロック、だけではない。
水町が抜けて突破力が減った前衛、それにヒル魔がボールを渡したのをしかと視認するにも時間がかかった。
ひとつひとつの要因はわずかな時間だが、三つも重ねればそれは力を溜めるに、レシーバーが走るのに十分。
(これは、NASA戦で見た――まさか!!?)
長門村正は、ランだけじゃない。
アメフトのロングパスと言われる距離、40~50ヤードを超える、超ロングパス、NASAエイリアンズの発射台クォーターバック・ホーマーの『シャトルパス』――その模倣から成るパスプレイは、遥か
「海の飛沫は、どれほど跳ね上がろうとも空には届かない」
味方が守ってくれるのを疑わず、されど信じず。倒されようとも、右腕一本とボールに懸けた一投のみに一意専心。そう、正しく一球入魂。
「――これが俺の『60ヤードマグナム』!」
その右腕から放たれたのは、高波が化身となった海神を撃ち抜く超長距離弾。
筧、水町、大西、大平ら4人の手の届かない、ただただ見上げるしかない
「でけぇパスだ! だけどわかる――!」
モン太の憧れである本庄選手は、時にホームランボールさえもキャッチしてみせたのだから。
練習バカに生えたそのバックの目は、管制塔の如く、その落下点を誰よりも正確に把握して、
「ビックキャッチMA――Xッ!!」
巨深ポセイドンのコーナバック・内守貝を振り切ったモン太は、火のつくような勢いで飛来したボールを両手で挟み取るようにキャッチした。
『タッチダーゥン!!』
審判のコールが高らかに響いて、会場全体がワッと湧いた。
~~~
「広範囲に対応するのなら、こちらも手数を増やす」
後半に入り、泥門はオフェンスの陣形を変えた。
ラインと同列の最前線、両端にワイドレシーバーを2人、またラインの斜め後方に――タイトエンドの位置から後方に――セットしたフレックスバックが2人。クォータバックの後ろについたランニングバックは、1人。
「あっちが四天王で来るんなら、こっちだってパスキャッチMAX四天王フォーメーションで行ってやらァ!」
「モン太、瀧、雪光先輩、俺達も連携していきます。各自の役割をこなしていきましょう。特に瀧、俺達の仕事量が倍以上に増えるが死ぬ気でやるぞ」
「アハーハー! 任せてよ! 何でも柔軟に対応しちゃうよボク」
「ヒル魔さんの指揮する
フレックスバック……その“とても柔軟な後衛”と呼ばれる通り、ラン・キャッチ・ブロックと多様な役割をこなす。ランニングバックがボールを持って走るランプレイでは、タイトエンドとしてリードブロックに入る。パスプレイではワイドレシーバーと同じようにパスルートを疾走する。
前半でのランニングバック・長門村正とワイドレシーバー・瀧夏彦がこなしていた役割をひとりでするのが、フレックスバック。
そして、レシーバーにモン太と石丸と代わって投入された雪光、一人二役のフレックスバックに瀧と長門がついたこのフォーメーションは、『
(パスターゲットが4枚……! あの『ポセイドン』を突き抜けた一発タッチダウンの超ロングパスがある以上、後ろのカバーにもディフェンス意識を割かなきゃなんねぇ!)
かといって、水町を下げて前衛の突破力を減らした『ポセイドン』のフォーメーションでは、泥門のラインを破って投手がパス投げる前にサックして潰すことも難しい。そして、これは『鳥の叉骨』と同じランのオプションプレイもあるのだ。
「SET! HUT! ――HUT!!」
コールと同時、『鳥の叉骨』でのランニングバックよりも距離感が開いたがフレックスバック・長門は、プレイ開始前に後衛一人が始動できる『インモーション』を行使し、クォータバックとランニングバック、ヒル魔とアイシールド21・セナの下へ駆け込む。
そのときに、まずヒル魔が走者二人とすれ違う際にボールを渡したか、が見極めの第一関門。
そして、長門とアイシールドのどちらにボールが回されたのか、が見極めの第二関門。
(最も確実性が高いのは長門のはずだがよ! “だからこそ”行くのが泥門の
大平と大西はパス対策、ランに突っ込ませずに雷門太郎と雪光学に対応できるよう後ろで守備。そして、ヒル魔がボールを持っていないことを確認してから、そのコンビランを阻止しに筧と水町の『高波』が迫る。
「『
「ど、どっち渡した今? 長門か、アイシールドか……?」
「ふたりとも一気に加速して別れたぞ!?」
長門がアイシールド21に回してからのリードブロックで行くと思いきや、壁役に入ってる瀧の背中に隠れるよう
~~~
この攻撃をより効果的に発揮するためには、僕が単独でも、筧君を抜けるようにならなきゃダメなんだ。
さっきの
身長はどんなに頑張ったって伸ばせない。これが本物と違って、偽者の体格しか持たない僕の限界……――でも、抜くんだ!
「筧が潰しに来やがったー!!」
長門君に釣られて動いたのは、水町君。巨深の『高波』にも負けない体格を持つ長門君がブロックして水町君を押さえてくれた。モン太と雪光さんが、残り2人の守備を散らしてくれた。
そして、ステップを踏めるだけのスペースがあって、1対1。
『
けど、筧君の長いリーチで抑えにかかるタックルはそれを許さない。
「お前の得意な走りでは俺を抜けねぇ偽者!」
そう、それを撥ね退けてみせる本物の体格は、僕にはない。
けれど、スピードの一点突破、そして身軽さは体格無き者の走り。そう、それを武器にして、パワーとテクニックでは足下に及ばない長門君を相手にした『デス・クライム』を達成したんだ!
(ああ。それはお前の走りだ、セナ!)
曲がり切る前に潰さんと伸びる腕『モビィディック・アンカー』。――それにぶつかる気持ちで、アイシールド21・セナは疾走する。
「捉えた。終わりだ――」
腕ではなく身体全体で『回し受け』するように――
捉えても空を掴むように抜き去る竜巻の如き走り。
完璧に、抜かれた……――
『タッチダーゥン!!』
アイシールド21が相手のエースを抜き去り、タッチダウンを決める。
それは、泥門デビルバッツ対巨深ポセイドンの試合を決着づけたのだった。