【凍結中】その一握の気の迷いが、邪なものを生んだ(旧版)   作:矢柄

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上空50セルジュ、雲海の上の世界、蒼い一面の空。一種の神聖さすら感じさせる世界において、音を置き去りにする2機の航空機が飛翔する。

 

しかし、二つの機体の距離は200セルジュという互いに点にしか見えない程の距離で、空を共に連れ立って飛んでいるという風には見えない。

 

後方の機体が突然、翼の下に懸下されていた長細い、後端に四つの小さな翼を持つ、先端が丸く尖った円筒形の物体を投下した。

 

投下されたそれはすぐさま後方から炎を噴き上げて加速し、まっすぐに前方の航空機に向かって飛翔する。その速度は音速の4倍に達し、音速程度で飛翔する前方の機体にあっという間に追いすがる。

 

そして…、それは前方の機体をそのまま追い抜いていった。

 

 

「撃墜失敗です」

 

「んん、中々当たりませんね」

 

「レーダーの精度だろうか?」

 

「いや、運動性能じゃないか? 第4超音速ではフィンによる軌道制御に難があるのだろう。偏向ノズルかカナードを付けた方がいいんじゃないか?」

 

「偏向ノズルをつけると価格が上がってしまうんですよね。カナードが妥当なのかな」

 

「やっぱりレーダーの精度の問題だと思うんですけどね」

 

 

現在開発中の空対空ミサイル《アルク》は、その命中精度の悪さゆえにいまだ実戦配備が遅れていた。

 

セミアクティブ・レーダー・ホーミング誘導方式を導入したこのミサイルは、音速の4倍で飛翔し、10kgのタンデム成形炸薬弾頭によって飛行する敵を撃破する。

 

その威力は軍用飛行艇を撃墜するのに十分な性能を持つはずだった。命中さえすればだが。

 

小型の航空機を撃墜するならば近接信管による爆発に伴う破片で十分なのだが、戦車並の装甲を持つ軍用の飛行船相手には成形炸薬や運動エネルギー弾頭を用いる必要がある。

 

すなわちミサイルを対象に直撃させる必要があり、ミサイルの運用難易度が一ランク上がってしまうのである。

 

 

「導力波ホーミング方式で十分なのでは?」

 

「《ヴィペール》はそれなりの性能ですけどね。でも、あれって対策が簡単なんですよね。実際、ラファールは無力化してますし」

 

「まあ、確かに」

 

 

導力器はその動作の際に固有の導力波を周囲に発する。大出力の飛行船や航空機用の導力エンジンともなれば顕著であり、これを検知するシーカーを組み合わせればミサイルの誘導システムを構築できた。

 

これにより開発されたのが空対空ミサイル《ヴィペール》である。

 

《ヴィペール》は非常に極めて優秀で、導力アクチュエーターにより稼働するカナード翼による高い運動性能と、信頼性の高い導力波探知シーカーにより満足のいく命中率を叩き出した。

 

射程も180セルジュとそれなりに長く、他国の軍用機との空戦においては十分に通用する水準にあると言っていい。

 

しかし、導力波に吸い寄せられるということは、チャフの類によって防ぐことが可能であることを意味しており、また導力器から副次的に発生する導力波を遮断することも可能だろう。

 

つまり対策自体は可能であり、実際に新型戦闘機《ラファール》にはこのタイプの誘導弾は通用しない。当たらないミサイルなんて無い方がマシである。

 

よって、より確実性を目指すならば赤外線ホーミングやレーダー・ホーミングとなるのだが、導力エンジンは排熱量が少なく、結果としてレーダー・ホーミング誘導方式一択となる。

 

しかし誘導装置の小型化は難しく、また高速で飛翔するミサイルの命中精度はそれほど高いものではなかった。

 

しかし、これでも3割の命中精度にまで引き上げる事に成功しているし、軍用飛行艇程度の速度と的の大きさを持つ相手ならば9割の命中率にまで上昇している。

 

また、フォコン程度のプロペラ機ならば命中精度は実用に耐えうるため、既に正式な装備として実戦配備されているのだが、正直、私的には落第点である。

 

 

「遷音速領域の相手を撃墜できないと話になりませんし」

 

「しかし、エレボニア帝国の航空機の速度は時速4000セルジュに満たないそうじゃないですか」

 

「今は、でしょう。エンジンの出力さえ上がれば時速7000セルジュ程度は達成できますよ。単葉機になれば運動性能も上がりますしね」

 

 

2年前まで3000CE/hの速度も出せない複葉機しか飛ばせていなかったラインフォルトも、今年になってようやく3600CE/hを試験的に達成することに成功している。

 

技術的には1930年相当の航空機であり、複葉機であるものの可変ピッチのプロペラを導入するなど技術発展が著しい。

 

エンジンに関しては戦車や航空機向けの750馬力級エンジンの開発に成功しつつあり、1202年にはこれを搭載した主力戦車を投入できる段階にあると情報部は掴んでいる。

 

まあ、リベール王国で去年から1500馬力級エンジンを搭載した主力戦車ウルスが配備されたことで、ラインフォルトも大混乱に陥っているようだが。

 

 

「それに、2年後までには《オートクレール》の配備を実現したいですし」

 

「AMRAAMですか。また我々に徹夜させる気ですか、そうですか。そして相変わらず博士は定時なんですよね」

 

「それに見合う給料は出ているでしょう。有給も残業手当も出てるんですから、ウチは優良企業ですよ」

 

「自分、独身でお金ばかり溜まるんですよね…」

 

「はやくお嫁さんを貰ったらどうです?」

 

「この職場は出会いが少なくて」

 

「女性の整備士もいるでしょう。マチルダさんなんてグラマーで魅力的ですよ」

 

「やですよ。あの人たちと結婚したら、絶対尻に敷かれます。腕っぷしなんて俺より強いんですよ? グスタフ整備長とガチで殴り合うヒトと結婚したくありません」

 

「貧弱ですねぇ」

 

 

《オートクレール》はアクティブ・レーダー・ホーミング誘導方式を採用した中距離空対空ミサイルだ。

 

慣性あるいは母機からの指令による中間誘導を経た後、自らレーダーを照射して追尾を行うタイプのミサイルであり、ファイア・アンド・フォーゲット能力と同時多目標攻撃能力を実現できる。

 

セミアクティブ・レーダー・ホーミングだと、ミサイルを発射した母機が目標に対してレーダー照射を継続する必要があり、機動を固定されるという欠点がある。

 

しかし、自らレーダーを照射できる《オートクレール》にはそのような短所は無く、これをファイア・アンド・フォーゲットと称する。

 

 

「まあ、頑張って清楚で可愛いお嫁さんを貰ってください。でも、女の人って出産を経験すると異様に強くなるそうですから、多分、貴方だとどちらにせよ…、いえ、これ以上は私の口からはとてもとても言えません」

 

「もう全部言っているのと同じですよねそれ!」

 

「まあ、アルクはいいとして、問題は《マルテ》の方ですか」

 

「ああ、難航しているみたいですね。同僚が話していましたよ。しかし、現状では《アルーエト》でも十分だと思うんですが」

 

 

対艦ミサイルの開発において、Xの世界のハープーンミサイルに相当する《アルーエト》は既に試作型が完成し、命中率も威力も所定の計画通りの数値を叩き出した。

 

新型戦闘機《ラファール》や飛行艦隊による運用を前提としたこのミサイルは、アクティブ・レーダー・ホーミング方式を採用した長距離攻撃を可能とし、既存の飛行船の全てを撃墜することができる。

 

とはいえ、戦艦クラスの水上艦を撃破するには威力不足であり、これから他国でも登場するだろう200アージュを超える大型飛行軍艦を撃破するには少しばかり心もとないのは事実だ。

 

それゆえに開発がなされているのが超音速対艦ミサイルである《マルテ》である。

 

超音速対艦ミサイル《マルテ》は固形ロケット・ラムジェット統合推進システムを採用し、450kgの弾頭を抱えて秒速1700アージュという音速の5倍の速度で敵艦に突入する。

 

計算上、このミサイルの運動エネルギーはXの世界のかの戦艦大和の主砲弾よりも大きく、劣化ウランの弾頭はあらゆる装甲を突き破り、対象に深刻な被害を与えるはずだ。

 

これだけ強力なミサイルだと攻撃目標が限られてしまうのだが、3000セルジュという長大な射程を用いて地上攻撃に使っても構わないし、アクティブ・レーダー・ホーミングとTV誘導方式を併用できることもこれを意識したものだ。

 

とはいえ、当面の目標は《結社》の巨大飛行戦艦なのだけれども。

 

 

「推進システム自体は問題じゃないんですよね。金属水素の燃焼エネルギーを殺さなければ十分にその速度は達成できるので」

 

 

固体ロケット燃料を燃焼させた後の空洞を、ラムジェットエンジンのノズルとして利用するこのタイプの推進システムは、構造自体は単純であるためにターボファンジェットエンジンよりも容易に生産できる。

 

なので、推進系については解決済みと言っていい。

 

まあ強力なミサイルである分、価格も跳ね上がり、よほどの攻撃目標でなければ赤字になりかねないという致命的な欠陥もあるが、有るのと無いのとでは戦術の柔軟性が大きく変わってしまう。

 

大容量の弾頭には多くのセンサーや演算器といった導力器を搭載できるため、切り札として十分に運用できる。

 

 

「問題はやはり誘導方式ですか」

 

「地上攻撃も前提にしていますので。アクティブ・レーダー・ホーミング自体もまだ未成熟な技術ですし」

 

 

ミサイルというのは案外命中率の高いものではない。止まっている的に当てるのも一苦労なのだから、動いているモノに当てるとなれば、さらに難易度は高くなる。

 

時速4,000セルジュで動く30アージュ程度の大きさを持つ物体に命中させることを目指しているが、中々に困難なオーダーといえる。

 

 

「まあ、焦って開発しても仕方がないですしね。精密導力機器の改良が先でしょう」

 

 

 

 

 

 

女王生誕祭も終わり1199年を迎えた。エリィは年末にクロスベルへと帰り、私の新しい文通相手になった。

 

年末年始を家族で過ごし、女王陛下とクローゼに挨拶を済ませ、ツァイスのラッセル家にも挨拶におもむく。ラッセル家には今、ちょっとした面白い玩具があって、それで遊ぼうという企画になったのだ。

 

 

「では質問です。お父さんは、シェラさんにれつじょーを抱いたことはありますか?」

 

「ない」

 

『BOOOOO!!』

 

「アウトです」

 

「カシウスおじさん…」

 

「ふふ、先生ったらエッチなんですから」

 

「いやっ、違う! これは誤解だ!! 機械の誤作動だ!!」

 

 

導線がたくさん繋がった変わった椅子に座り、指に導線が繋がった輪のようなセンサーを付けたお父さんが必至に弁解を始める。

 

その傍にはバッテンと脈拍などを表示したディスプレイが1アージュ四方の四角い箱の上に乗っかっていた。ラッセル家のマッドサイエンティスト二人はデータと睨めっこしながら、しきりに頷いている。

 

 

「機械は正常に動作しておるぞい。カシウス、お前さん、こんな小娘に欲情しとったのか」

 

「お父さんも長い間独り身ですから。家にグラマーな女の子がいれば仕方がないんでしょう」

 

「エステル、その冷たい視線を俺に向けないでくれ…。本当に違うんだ!」

 

「お姉ちゃん、れつじょーって何ですか?」

 

「エッチな気分になってしまうということですよ」

 

「はは、災難だね父さん」

 

 

エプスタイン財団とZCFの共同研究の結果として生み出された機械がこの嘘発見器だ。

 

脈拍の変化や汗腺の活動、体温その他の情報を感知して、嘘をついた時の不随意の反応を検知し、これをもって対象が嘘をついたかを判定する。そういう風に関係者以外には説明をしていた。

 

 

「ならば、テストです。お父さん、今、恋人はいますか?」

 

「いない!」

 

『PINPOON!!』

 

「どうやらいないようですね。ここ一カ月以内に風俗に行ったことは?」

 

「ない!」

 

『BOOOOO!!』

 

「……まあ、大人ですしね」

 

「違う! エステルっ、違う! というかティータちゃんがいる前でそういうネタを振るな!」

 

「ふははは、S級遊撃士の嘘を見抜けるかどうかでこの機械の信頼性が確認できるのです! さぁ、どんどん行きますよ」

 

「誤解だ! 行ってなどいない!!」

 

「残念ながらここ数か月のお父さんの動向は情報部によって追跡されています」

 

「まさかっ!? 連中そのためだけに!?」

 

「さすがお父さん、情報部の尾行には気づいていましたか。さあ、お前の秘密を丸裸にしてやるZO!!」

 

「止めてくれぇぇ!!」

 

 

シェラさんとかが若干引く表情で私とお父さんを見つめる。ラッセル博士とエリカさんの目は実験動物を前にしたそれだ。ダンさんは苦笑いしながらもエリカさんの助手を務める。

 

エリッサはわくわくの表情だ。馬鹿め、貴様もこの機械の餌食になる運命だと言うのに。まあ、せいぜい今は観客側で楽しんでおくんだNA。フハハハハ!

 

 

「剣聖の嘘すら見抜く機械か。すごいな」

 

「楽しそうね、あの三人」

 

「あはは、お母さんも楽しそうです」

 

「ティータちゃんも、いずれああなるのかしら?」

 

「ふぇ?」

 

「シェラさんもヨシュアも、そんなに楽しみならあとで体験させてあげましょう」

 

「え、遠慮しとくわ」

 

「ぼ、僕も」

 

「代われ! シェラザード! 代わってくれ!」

 

「すみません、先生。私にはこの案件、難しすぎて…」

 

「さあ、お父さん、隠し子が出来るような行為、してませんよね?」

 

「何も言わんぞ!」

 

『BOOOOO!!』

 

「ははっ、愚か! 何も答えずとも、この機械ならYES NOの判断は可能なのDEATH!!」

 

「エ、エステル、性格と口調が変わっとらんか?」

 

「フゥゥッハハハハ!! このエステル・ブライトの前に不可能は無し!! 渇かず餓えず無に還れ!!」

 

 

お父さんにも話してはいないが、この機械の正体は単純なポリグラフとは異なる。

 

通常のポリグラフは心拍・汗・血圧などを測定し、心理的圧迫を加える事によるプラセボ効果により精神状態を間接的に観測する手段であり、実のところそのデータの信用性は科学的には無いと言ってもいい。

 

だが、この機械は別なのだ。利用するのは所有者と共鳴状態を生み出すことで発動する戦術導力器、そして精神に作用する『幻』の属性の導力魔法。

 

これらを複合的に使用することで、より正確に対象の精神状態を観測できないかという研究がここ最近においてエプスタイン財団の協力のもと行なわれた。

 

これには自白を強要するための、生理化学的、物理的、精神的な非人道的な手段を省き、人道的かつより効率的で科学的に、正確性のある情報を対象者から聴取する手段の開発と称してエプスタイン財団との共同開発を提案したという経緯がある。

 

犯罪捜査や予防の観点からも効果的であると認められて共同開発が実現された。

 

 

「こんなものでしょう」

 

「……ぐふっ」

 

 

シェラさんにどういう場面で劣情を抱いたか、メイド達にエッチな視線を送らなかったかなど、いくつかの質問の前に真っ白になった父を横目に、データを見聞する。

 

身内を人体実験に供するというのは気持ちのいいものではないのだが、様々な人間のデータを収集することで機械の正確性は高まっていく。

 

この機械の精度を高めるために私も実験体をかってでたし、エリカさんやラッセル博士も体験した。最初は正確性もいまいちだったが、今ではかなりの確率で嘘を見抜けるようになった。

 

今回はメイユイさんやシニさんをけしかけて父を誘惑させ、そういう感情を誘引する卑怯なことをやったので、後で謝っておこう。

 

 

「さて、精度もそれなりですね。では、今度はヨシュアの番です。エリッサ、引き立てなさい!!」

 

「イエス、マム!!」

 

「えっ? ちょっと、いや、待って!」

 

「フフフフフ、ヨシュア、お前にもこの苦しみ、味わってもらうぞ」

 

「父さん!?」

 

 

逃げようとしたヨシュアはS級遊撃士の大人げない手段で捕獲され、椅子に座らされる。さあ、懺悔の時間DA!

 

 

「HAHAHAHAHA、では尋問を開始します。ヨシュア、今、好きな女の子はいますか?」

 

「クッ、い、いるよ!」

 

『PINPOON!!』

 

 

ディスプレイに○が表示された。

 

 

「ほう、正直なのは良い事です」

 

 

最終的には非接触型、多人数を対象とすることが出来る機械の開発を目指している。そして、統計データを元に行うのは機械による人格と精神状態の診断だった。

 

例えば数十人~数百人に特別に作成した映画を見せる。この映画には様々な倫理的感情を引き出す演出が各所に散りばめられているのだ。

 

そしてそれをこの機械の発展型を用いて計測する。そうすると、対象となる人間の人格的な傾向、行動規範を読み解くことが出来るようになる。

 

これを総合的に判断することで、その人物の信頼性、《犯罪指数》と呼ぶべきものを算出することができるのではないか? そんな思惑により研究開発が開始された装置がコレなのだ。

 

その最終的な目的は移民の選別、軍や政府機関・研究施設に侵入したスパイの摘発および侵入の防止、士官や機密情報を扱う分野に配属できる人材かどうかを判断する適性診断だ。

 

特に移民の選別に関しては急がれている。スラム街の解体と、そこに住む住民の選別は急がれていた。《犯罪指数》によるランク分けによって居住エリアを分け、紹介する仕事も分ける。

 

犯罪指数の高い人物は、実際に犯罪者かどうかをより精密な機械で判定し、刑務所か更生施設に送るかを判別する。

 

 

「初恋ですか?」

 

「そうだよ!」

 

『PINPOON!!』

 

「甘酸っぱいですね。誰でしょうね?」

 

「…誰だかわかった気がする。ねぇ、ヨシュア、ちょっと二人っきりで話そうか」

 

「いや、エリッサ、違う、いや、違わないけど。後生だからこれ以上は…」

 

「エステル、私、ヨシュアと話があるから、席外していい?」

 

「ん、まあいいですけど」

 

「じゃあヨシュア、逝こうか♪」

 

「ひっ!?」

 

「ん~、ヨシュアの初恋の相手ですか。気になりますねー」

 

 

ヨシュアがエリッサに襟首をつかまれて引きずられていく。シェラさんは何か同情するような表情でそれを見送り、お父さんは青春だなぁとしきりに満足そうに頷いていた。

 

ということで、次はティータがターゲットだ。ふふ、何を聞き出そうか。そんな風に思っていると、突然、父に羽交い絞めにされる。

 

 

「はぇ?」

 

「では、逝こうかエステル」

 

「いや、ちょっと待ってください」

 

「お姉さんも気になるわ、エステル」

 

「いやぁぁぁぁ!!」

 

 

人を呪わば穴二つ。切り傷だらけになって帰って来たヨシュアとエリッサが後に合流し、私への大尋問会が開始された。

 

精神的な凌辱である。私の隠された恥ずかしい性癖が今あばかれていく。

 

 

「エステルゥ、まだまだお子様なのね~」

 

「初恋もまだなんだ。でも男の子にも女の子にも興味ないなんて…」

 

「ははっ、エステルらしいといえばらしいかな」

 

「でも、お姫様をナンパしたことは認めるんだ」

 

「ふむ、クローディア殿下に粉をかけるとは、我が娘ながら豪胆なのかどうなのか、判断に苦しむな」

 

「でも、おっぱい好きなんだよね」

 

「べ、別に」

 

『BOOOOO!!』

 

「くっ」

 

「好きなんだ。おっぱい」

 

「そういえば、私の胸も良く見てるわね、この子。ねぇ、エステル、触ってみたい?」

 

 

シェラさんが胸を突き出すような姿勢で私の目の前にタニマを見せつける。大変すばらしいタニマです。けしからん、実にけしからん。顔を埋めたい乳…じゃなくて、私は顔をそらす。

 

 

「きょ、興味ありません!」

 

『BOOOOO!!』

 

「将来が不安になるな」

 

「私もおっきくなるかなぁ」

 

「あ、顔紅くしてる。ふふ、意外な弱点ね」

 

 

腕を組んで呆れた表情をする父、苦笑いを続けるヨシュアとダンさん、自分の胸に手を当てるエリッサとエリカさん。悪戯っぽい表情で目の前で胸を揺らすシェラさん。

 

そして、ティータが天使のような純真な瞳で私の瞳を覗き込んできた。

 

 

「エステルお姉ちゃんってエッチなんですか?」

 

「どうなの?」

 

「せ、性的な衝動を覚えたことはありませんよ」

 

『PINPOON!!』

 

「うーん、単純におっぱいが好きなんだ」

 

「女性の乳房は母性の象徴でもあるから、単純に母親という要素が恋しいのかもしれないわね」

 

「なるほど。意外に可愛い所があるな」

 

 

エリカさんが腕を組んで分析する。いや、そんな風に言われたら私がマザコンみたいで大変に遺憾なのですが。こうなればヤケである。

 

 

「ああっ、もういいですよ!! 悪いですか! そうですよ! 私はおっぱい大好きです! シェラさんのおっぱいを揉みしだきたいと思ってますし、クリスタさんの豊かなおっぱいに顔を埋めたいですよ! どうせ私はホモ・オッパイモミスト(おっぱいを揉むヒト)なんですよぉぉぉ!!」

 

『PINPOON!!』

 

 

 

 

「酷い目にあいました」

 

「自業自得だと思うよ?」

 

「ん、お餅美味しいね」

 

 

嘘発見器で遊んだあと、私たちはラッセル博士の幼馴染であるお婆さんから頂いた餅を食する。マオさんという老婆で、エルモ温泉で東方風の宿を開いている。

 

新年になるとラッセル家にお餅をお裾分けしてくれるので、毎年お相伴にあずかっている。この世界でも東方料理の一つだ。祝い事に供されるのは東方でも一部地域の風習らしい。

 

 

「でも、さっきの機械といい、ZCFの技術力はすごいね」

 

「ああ、新型戦闘機《ラファール》にヴァレリア級飛行空母。エステルは両方に関わっているんだったな」

 

「そうよ、エステルちゃんはすごいんだから。《ラファール》についてはレーダーシステムとソフトウェア開発に関わったぐらいだけれど、そのおかげで《ラファール》の性能は把握しているわ。あれは化物の類ね。軍が私たちを国外に出したがらない理由も分かるわ」

 

「確か、辺境地域への技術指導に行く予定を立てていたんですよね」

 

 

ダンさんとエリカさんの夫妻は今年から数年間、国外辺境地域での導力技術普及のための活動を行う予定をしていたが、技術流出を警戒する軍から差し止めの要求がなされた。

 

情報部と王立政治経済研究所が結託してZCFに勧告を行ったらしく、マードック工房長がすまなそうにエリカさんを説得していた。

 

 

「L.ハミルトン博士みたいな活動をするのがエリカさんの夢だったんだけれどね」

 

 

もともとシスターを目指していたというエリカさんは、実は信仰心が篤く、社会貢献への意識も強い。導力技術は人々を豊かにするためにあるという信念を持つ素敵な人なのである。

 

そういった希望を聞かされていたので、私は情報部にそういった機会があるのなら十分な護衛を用意してほしいと言う要望を出していたのだが、それが悪い方向に転んだのだろうか。

 

確かに国外で長期の護衛をするより、国内にいてもらった方が安全だろうが、彼女の夢を壊してしまったようで、なんだか申し訳ない。

 

 

「でも、ティータと離れ離れになるのは寂しかったし、受け入れましょう。こればかりは仕方がないわね」

 

「お母さん、苦しいです」

 

「んん~、ティータはやっぱり可愛いわ」

 

 

エリカさんがティータを抱きしめる。最近は前にもましてティータも可愛くなっている。7歳から思春期までが女の子の子供らしい可愛らしさが引き立つ年齢だ。私はそろそろ思春期に差しかかるぐらい。

 

今年で13歳だから、Xの世界では中学生になる年頃だ。初潮もすでに済ませていて、生理という女性特有の現象に悩まされるこの頃である。

 

 

「私もヴァレリア級飛行空母は見たけれど、とんでもないわねアレ。270アージュって、よくあんなもの浮かぶわね」

 

「反重力機関なので、出力さえ確保できれば浮かべるのは難しくないんですよ。11ギガワットの出力は伊達じゃないんです」

 

「11ギガワット級の導力エンジンなんて良く作れたね」

 

「ふふ、それは企業秘密という奴です」

 

 

実は導力エンジンの出力自体はそれほど大きいものではない。11メガワット級エンジンを20基ほど搭載しているだけだ。

 

実際には超伝導フライホイールから直接導力を取り出していて、導力エンジンはあくまでも導力を補給するための補助機関にすぎない。

 

超伝導フライホイールのコアは直径1アージュの円盤であり、強化結晶回路によって補強された厚さ5リジュのネオジム磁石だ。

 

これを最大光速の1%の速度で回転させることで、莫大なエネルギーを回転運動として保存し、導力として取り出す機構を備えている。

 

最大速度も公表したものより速く、3600CE/hであり、これはあの大きさの艦としてはもはや別次元の速度とも言える。

 

あくまで空母としての運用が本分ではあるが、対艦ミサイル《マルテ》の運用が可能であるのは、艦首などが自由に使える飛行船というスタイルならではといえた。

 

とはいえ、ヴァレリア級はあくまでも見せ札だ。本命は別にあって、1202年中ごろには完成し、女王生誕祭にはお披露目となり、1202年末には実戦配備されるだろう。

 

最新技術の粋を集めて生み出されるそれは、ある意味において兵器の世界に第二の革命を起こすだろうが、その実態を明かすことは当分先になるかもしれない。

 

 

「そうね、私はどちらかと言えばお宝に興味があるけど」

 

「ああ、あれからどうなってます? こっちはアクチュエーター系はほぼ終わりました」

 

「大部分の回路はOKなんだけど、中枢の回路がどういうものかいまいち分からないのよ」

 

「あー、あれですか」

 

「うむ、お主の仮説もあるいは…という話になっての」

 

「ねぇ、何の話?」

 

「ああ、すみません。ちょっとしたお宝のお話です」

 

 

湖底から引き揚げられた古代の導力人形の解析は佳境を迎えていた。これを受けてZCFでは既に産業ロボットへの応用が考案されている。

 

それは人工筋肉ともいえる導力伸縮繊維、非接触型ベアリング、その他さまざまな素材の解析結果により、導力人形工学、すなわちロボティクス分野が驚くほど進展したためである。

 

 

ちなみに、中枢回路となる部分については解析が遅れていた。劣化が激しいというのもあるが、作動原理が全く分からないのだ。

 

私はもしかしたら量子コンピューターの類ではないかと予想を立てて、基礎的な理論をラッセル博士に提示してみたのだが、あれ自体Xの世界では理論段階の代物であり、実用的なモノについては私も仮説ぐらいしか考案していない。

 

そもそも現在のノイマン型ですら発展の余地がまだまだ残されている以上、量子コンピューターについては後回しにしているというか、ある程度落ち着いたら研究してみようという程度のスタンスで、思考実験を暇なときに行うぐらいでしかない。

 

 

「ちょっと、機密に触れるので。エリカさんもそのあたりで」

 

「お堅いわね。まあ、仕方がないわね」

 

「まあ、しょうがないよ。そういえば、最近、変わった映画が流行っているみたいだね。学校でも話題になってるよ」

 

「変わった映画?」

 

「知ってる、アニメでしょっ」

 

 

ヨシュアが振った映画の話にエリッサが食いついてくる。アニメ映画。

 

エリカさんによるとZCFが試作して公開し、ツァイス工科大学の学生とグランセル芸術大学の学生が設立した映画製作会社が手掛けた物が話題になっているらしい。

 

ティータも見たことがあるようだ。

 

 

「ペンギンさんが可愛いんですよっ」

 

「可愛らしい動物の絵が動くらしいわ。コミカルで楽しいってティオが話してた」

 

「面白そうですね。見に行きましょうか?」

 

「賛成!」

 

「はは、じゃあ僕も行こうかな」

 

「映画か。そういえば、ルーアンの映画会社が面白いものを作ると聞いているな」

 

「先生も知ってるんですね。しっとりとしたラブストーリーが秀逸でしたよ。でも一番のおすすめはミステリーでしょうか」

 

「シェラさんは探偵モノが好みですか?」

 

「…ところで、原作者がアンタじゃないかって噂があるんだけど」

 

「なんのことやら、シェラさんは噂好きですね」

 

 

アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズやアガサ・クリスティーのエルキュール・ポアロの推理小説をこの世界風にアレンジして、映画用の脚本として映画製作の現場に放り込んでみた。

 

そうしたら、思いのほか名作が出来上がってしまい、ちょっと焦ったのはいい思い出である。流石に著作までパクって売り出すだけの勇気と言うか、図々しさは無いと言うか、バレたらどうしようと戦々恐々な感じである。

 

だけれども、この映画がヒットしたおかげでリベール王国やカルバード共和国に映画文化と言うべきものが普及したともいえる。

 

 

「でも『白き花のマドリガル』は定番ですけど、面白かったですね」

 

「ああ、あれねー」

 

 

そうして私たちは映画談議などに花を咲かせた。

 

 





おっぱいルートが解放されました。世界を変えるのは…おっぱいだ! おっぱいわっしょい! おっぱいわっしょい! おっぱいわっしょい!

<おっぱいルート>
エステルは憎しみの心から解放され、《おっぱいの理》に至ることで《おっぱいの剣聖》になる。
《結社》の《盟主》も《白面》も《鉄血宰相》もおっぱいの素晴らしさに共感し、そして世界は平和になった。

第25話でした。

『閃の軌跡』発売から一か月以上たちますね。そろそろネタバレしてもいいかなと思ってます。予定では次回にリィンがリベールを訪れるとか、そういう話を考案中。
プロットは出来てないんですけどね。と言う訳で、ちょっとしたネタバレを。


仲間たちの危機に際してリィンに語りかける声が脳内に響く。
『力が欲しいか? 力が欲しいのなら…くれてやるっ!』
そしてリィンは魔剣《ヴァリマール》の力により抜剣覚醒するのだった!

抜剣覚醒しすぎるとカルマ値が溜まってバッドエンドになるので未プレイの人は要注意。

《ヴァリマール》の正体はナノマシンの集合体。焔の至宝から生まれた分体の一つで、金属生命体であり、過去にナノマシンを統括するコアを埋め込まれることでリィンは特別な力を得た。
魔剣《ヴァリマール》には他の分体を殺す特別な能力が備わっているのだ。

敵キャラにも分体を埋め込まれた奴が出てきて、リィンたちの前に立ちはだかる。
終盤では魔剣《オルディーネ》を持ち抜剣覚醒すら行う謎の敵が登場する。新たなる魔剣の使い手を前にリィンの魔剣《ヴァリマール》が折られ、リィンの心まで折られてしまう。
リィンは立ち直り、再び剣を取ることができるのか?

学生寮における夜会話でヒロインとの好感度がアップ。ただし男の子と仲良くなりすぎると、アッーになるので注意が必要だぞ(腐女子大歓喜)。



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