俺の着任先の艦娘が何か違う件について   作:くりむぞー

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なんか続いた


俺の着任先の艦娘が何か違う件について その2

 

 不吉極まりない名をした泊地に着任して早々、何かがおかしい艦隊これくしょんと化した我がルルイエ泊地の状況をどう大本営に伝えたら良いものか悩まされる事になった俺は、一週間も経過しないうちに話しても筋が通る言い訳作りにただ一人奔走していた。

 

(海外艦だけ建造されているならまだしも、日本の艦が建造されてしまっているしなぁ……)

 

 基本的に同じ艦は建造・ドロップされないと知られている現在、姿は違えど同じ艦の名前を持つものが他の鎮守府に現れてしまえば要らぬ騒動を巻き起こすことになる。

 例えば、本来ぱんぱかぱーんな愛宕がこちらのケモミミ愛宕が『艦娘の愛宕』として認知されてしまった後に現れた場合、最悪どちらかが愛宕を騙る偽物だという論争が起こり得てしまうだろう。

 仮に丸く収まったとしても、全体から見れば印象は良いものではあるまい。指揮官の知らぬところで拗れが発生するという可能性も考えておかなければ立場が危ういというものだ。

 

(将来的な戦力のバランスの問題に、海外艦の所有権の主張、突然の異動によって預かり知らぬところになるなんてことにもなりかねん……)

 

 正直なところ、人生の難易度甲とも言うべき喜べない状況に頭を掻き毟りたくなる衝動に駆られる。

 しかし、そんな事をしたところで問題は消えるわけではないので、いずれは解決が必要なタスクとしてデータに残しておくことにする。

 ……で、話を元に戻すが、上にどう話せば胃に負担をかけずに済むようになるのか真面目に考えて答えを出そう。

 

(まずこの泊地の異常性を理解しているのが俺だけってのが一番危ういよな……これをどうにかすれば活路が開けそうなんだが)

 

 いっその事全てバラしてしまう手もあるが、それではお前何言ってんだと白い目で見られること間違いなしだ。よって、バラすにしても何段階かプロセスを重ねる必要があると言えるだろう。

 その肝心のプロセスだが……何か利用できる手立てはないだろうか。この泊地だけが抱え持つ問題を逆に手段として活用できるならいいんだが。

 

(待てよ……このメガフロートは一度深海棲艦に占拠されていたよな……?)

 

 泊地として再利用するにあたり、必要最低限の調査は行われていることは周知の事実だ。――が、それは泊地として利用し直せるかだけに限定した調査だけであり、今回のような事態が起こるなんてことは当然想定していない。

 であれば、再調査が必要だという事を伝えて上手いことこの泊地の異常性を理解してもらえれば良いのではないだろうか。査察官には……そうだ、俺が提督になる前から軍の情報部に所属していた件のオブザーバーな友人がお誂え向きだろう。

 思い立ったが吉日ということで俺は通信設備がある部屋に向かい、当たり障りのない内容の電文を本国に対して送った。流石に返答はすぐに来るわけがないので、それまでは指揮官らしく泊地の運営に勤しむとしよう。

 

「そういや、今日の建造がまだだったな」

 

 郷に入っては郷に従えといった感じで建造には変わらず秘書艦の存在が不可欠だ。

 現在の秘書艦である綾波の居場所を探り、寮舎にて休憩中であることを確認すると一言断ってから任務のために同行を求めた。

 

「はい、了解です。……綾波、お供します」

 

「いってらっしゃ~い」

 

 出撃すれば鬼神と称されるまでの戦闘力を見せる駆逐艦だとは思えない落ち着きように、やはりギャップは拭えない。

 いやまあ、艦これの方の綾波も似たようなものであるのはわかっているが、こちらの綾波に関しては感情の起伏があまり無い分ブチ切れたた時の威圧感が圧倒的に大きいように思えた。

 それに可愛らしい耳も付けているしね。初見で彼女をガチで強いヤツと見抜ける人はかなりと言っていいほど少ないのではないでしょうか。

 

「綾波のミミ……気になりますか?」

 

「割りとね。それって、結構自在に動かせるの、こう念じる感じで」

 

「はい、動かせます」

 

「そうか、それは凄いな」

 

「……」

 

 大人しすぎると会話を続けるのにも苦労する。早いところ友好的な雰囲気になりたいものだがそんな簡単に鰻登りで上昇しては俺としても受け入れ難い。何事も急がずコツコツ積み重ねるのが大切だ。

 

「資源の投入はどうしますか、指揮官」

 

「んー……今回はちょいと重めで行こうと思う。戦艦の一人や二人は居てほしいからな」

 

 狙い目としては知る限りでは安全圏であるフッドやクイーン・エリザベス、レナウンにネルソンとロドニーがいいだろう。勿論それ以外でも大歓迎で、あってないようなレア度に構わず戦線を是非とも支えていただきたい。

 いざ、運命のガチャの瞬間。口に出したらマズいけど費用は大本営持ちだからなぁ……実質無料で今は何連も回している気分である。いずれは自給自足せなあかんのは百も承知だが。

 

「さて、高速建造剤を投入してっと」

 

 建造にブーストが掛かり、けたたましい金属を打つような音が高速で鳴り響く。そうして蒸気がいつものように噴き出したかと思えば、ポッドからは確実に駆逐艦より背丈のある艦娘のシルエットが現れた。

 ……あれ、頭に耳がくっきり生えてるのがわかる上に後ろから何か幾重にも生えているような、いないような。

 

 

 

「――初めまして指揮官様、この赤城を呼んでいただけるとは嬉しいですわ」

 

「おうふ」

 

 

 

 ……えええええっ、赤城さんナンデ!?

 ちょっと待ってよ貴女、俺の記憶が確かなら建造から出てくるなんてことはなかったはずでしょうが。

 鬼のような3-4周回の果てにやっと出るのが貴女とその相方の加賀であるはずなのに、何さも平然と建造から現れ出ちゃっているの!? こちとらこの世界の3-4に該当する海域なんてまだ攻略してもないのに!!

 ……やはりこの泊地に何か原因があるのかと疑わしくなってくるが、それを判断するのは査察を終えてからである。

 

「そんな真剣な眼差しで見つめられてしまいますと、赤城恥ずかしいですわ」

 

「……さいですか」

 

 というかこの赤城って大食いな方と違ってかなりのヤンデレ気質なんだよな……既に横須賀鎮守府に赤城が居るという問題に加えてコミュニケーションの問題も浮上し、より一層この泊地の運営がキツくなった気がした。

 兎にも角にも、優位に立たれたら人生が終わりなので指揮官として俺が上に立つものであることを彼女には後々少しずつわからせていこうと思う。

 

「次、行きますです」

 

「あら、私以外の娘を呼ぶというの……? うふふふふ……」

 

 早速とばかりに怪しい笑みを浮かべる赤城に対し、セクハラだと言われるのを覚悟で九尾の狐らしくいっちょ前に生えている尻尾をモフる。モフモフモフ。

 

「あっ、指揮官様。そんな、突然っ……!!」

 

「――頼むから静かにしてような。面倒事起こされると胃だけじゃ済まなくなってハゲるからな俺」

 

「そのまま出家して、赤城と共に暮せばよいのではないでしょうか」

 

 そしたら出家とは言わねえよ、ただの隠居に近い何かだよ。

 ツッコミを余所に次の建造が完了し、新たな艦娘が煙から歩み出てきた。

 

「――そなたが指揮官か?拙者は高雄、微力ながら力を尽くす所存だ!」

 

「わあ、凄いサムライガール」

 

 って、これで高雄型が二人も揃っちまったじゃねえか。

なるべく日本艦は建造しないようにしようと思っているのに、どうしてこうピンポイントに来てしまいますかね。俺の幸運度ってもしかしてかなり低いのですか。

 

「高雄さんも来てくださったんですね。愛宕さんも既にいらっしゃいますよ」

 

「……むっ、そうか。後で探してみるとしよう」

 

「結構此処は広い施設だから案内は俺がさせてもらうよ」

 

「かたじけない」

 

 ザ・防人と言った感じの少女である高雄は忠犬ワンコといった印象を受ける。

 その証拠に、命令したわけでもないのにこちらの横へ移動すると一人正座となって待機の構えとなった。慌ててコンクリートの上でそれをやるのは痛いだろうと止めさせて立ち上がらせる。

 ついでに作業場の椅子やテーブルを拝借して座らせると、建造されたばかりの二人は自然と視線を交わす構図に至る。

 

「――ん?」

 

「ふふふ……」

 

 おい赤城よ、ニマニマしながら高雄のストッキングを足先で撫でようとするのは止めなさい。止めなさいったら。

 

「きゃっ!?」

 

「ふふっ、可愛い声で鳴くわね貴女」

 

 段々と際どいゾーンをなぞり始める赤城に背後からチョップを食らわせた俺は、彼女が痛みにのたうち回っている間に本日最後の建造と決めて賭けに出ることにした。

 と言ってもアレだ、今度こそ戦艦来いと祈り念じ呟くだけの願掛けである。――ソイヤッ!

 

 

「ロイヤルネイビーレナウン級、巡洋戦艦レナウンです。どうぞご命令を! 指揮官様の剣が示す方向が、わが主砲を向け先とならん!」

 

「最後の最後で来たか……」

 

 

 日本艦続きで次もまさか日本艦ではないかと肝を冷やしたが、杞憂に終わったようで何よりであった。

 しかし、ヤンデレに武士に騎士と個性の強い三拍子が一度に来るとはとことん俺に苦労をさせたいようだな世界ってやつは。

 

「あの……」

 

「ん、どうした?」

 

「アレは止めなくてよいのですか……?」

 

 来たばかりのレナウンが指で示した先には先程折檻したばかりの赤城が目をぐるぐるさせて高雄に電気あんまを仕掛けていた。――ああもう、乳繰り合うなら他所でやってくれないか貴様ら!

 引き剥がしてがら距離を取らせていると、別の誰かの気配が背後から接近する。

 

「――ご主人様」

 

「今度は何だ……と思ったら、ベルファストか」

 

 着るように強要したわけでもなく、最初からメイド服で鎖の付いた首輪という何も知らない人間が見たら勘違いをする格好をしている軽巡洋艦が突如として現れると、俺の横にいるレナウンに対してスカートを摘み会釈の姿勢を取った。

 

「あ、どうもベルファストさん」

 

「お久しぶりですレナウンさん」

 

 こちらは同じ陣営同士であっても普通にやり取りを交わしている。対し、彼女等と来たら……はあ、これ以上はとやかく言うまい。

 それで、何のようがあって自主的にメイドをやっているベルファストがわざわざ工廠まで来たのだろうか。

 

「情報部の方より返答の電文です。明後日に指令書を渡すのに伴い査察を行うとのことです」

 

「……早いな。査察に来る人間については?」

 

「ご指名通りとの事です」

 

 そこら辺はちゃんと融通してくれるわけか。まあ元々、軍に志願したわけでもない人間を叩き上げてことにあたらせてるんだからそれぐらいは通してくれないと困るってもんだ。

 

「……それと追伸があります、ご主人様」

 

「追伸?」

 

 報告書の催促だろうか。だとしたらすぐに出せる状況にないことを理解してもらわないとなぁ。1ミリも書いてないわけではないんだが。

 

「――はい、何でも『これから電文をそちらから行う際には【いあいあ】と頭に付けるように』とのことです」

 

「………」

 

 くたばれこの野郎と返してやりたいところであるが、戯れに送ってきた相手以外が見たら査察がこちらが希望するものとは異なる内容へと変わってしまう恐れがある。

 怒りをグッと堪えて重たい空気を吐き出した俺は、適当に流しておけと返してその場から逃げるように移動を開始した。ベルファストもまた、メイドらしかぬ忍者のような動きで飛んで行くと何処へと消えていく。

 

「……指揮官、そういえば寮舎の食糧少なくなっていたです」

 

「んじゃ、向かいながら保管庫から幾つか調達するか。すまんが3人も手伝ってくれ」

 

「わかりました」

 

 寛いでるだけだというのに練度が勝手に上がる謎仕様まで当泊地では実装されてしまっているため、こまめな物資の調達は必要不可欠である。

 ……この件についても報告すべきなのかもしれないが、したらしたで他の鎮守府からズルいだの不正だの言われそうで怖いな。別に俺が持ち込んだわけじゃないんです。信じてくださいよ~。

 

(何事もこの泊地の謎を解き明かしてからだな……でないと、落ち着いて彼女達の指揮も執れなくなるってもんだ)

 

 抱えられるだけダンボールを持った俺は、入室してすぐに休んでいた子達に群がられるとゲームだの談笑に誘われて、束の間の安息の時を楽しんだ。

 




多分続かない(サンディエゴが出ない確率で)

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